事例報告① LIXILの女性活躍推進
─経営戦略としてのダイバーシティ

講演者
成田 雅与
株式会社LIXIL Human Resources Diversity & Engagementダイバーシティ推進室長
フォーラム名
第82回労働政策フォーラム「女性活躍新法と企業の対応:働き方改革と管理職の役割」(2015年12月15日)

本日は、私どもがダイバーシティを経営戦略として進める理由と、それをどのように進めているか、そして、どういう結果が出ているかという点を中心にお話します。

当社は2011年4月、国内住宅設備・建材メーカーのトステム、INAX、TOEX、サンウエーブ、新日軽の5社が合併してできた会社です。その後、海外150の国と地域で商品を展開するグローバルカンパニーになりました。従業員は現在、グループ全体で約5万2,000人。国内が55.6%と多数ですが、海外に占める社員数も44.4%と増えてきています。

ダイバーシティ推進の経緯

当社は、住生活産業のグローバルリーダーになるという経営目標「LIXIL VISION」を掲げており、それを達成するためにはエネルギーと創造性が絶対に欠かせないと考えています。そのようなことからそれらを生み出せるダイバーシティは必須であり、持続的な企業の成長力とするためにも企業の文化とすることを目指しています。

5社が統合した翌2012年、藤森社長のリーダーシップのもとでダイバーシティ推進室を設立し、日本での推進活動をスタートさせました。経営戦略としてのダイバーシティを実践することを目的に、「バックグラウンドに関わらず、最高の人材を最高の機会で活用する」「多様性を入れまぜることでエネルギーと創造性を創出させる」との考え方で進めています。

その次に行ったのが、会社の方針や取り組みを明確に示すことでした。2013年1月、「LIXIL Diversity宣言」を策定して社内外に公表。当時23%を占める「女性」の活躍にフォーカスして活動を進めました。さらに2014年には、私どもの社長が輝く女性の活躍を加速する男性リーダーの会の「行動宣言」の策定メンバーになったことを受け、先ほどの宣言に加え、女性のアクションプランに特化した、「We Doアクション」を策定しました。ここで、①管理職登用者の30%以上②新卒採用者の30%以上③リーダー育成プログラムの20%以上─を女性にするとの数値をコミットメントしております。

推進室が事務局となり4本柱に取り組む

こうして決めてきた目標に向けて、どう取り組むのか─。ダイバーシティ推進室は、採用や登用、人材開発に直接的な決定権を持ちません。それでもやらなければ進まないということで、ダイバーシティ推進室が「人事部会」という事務局になり、人事施策、人材育成、風土醸成、環境整備の4本の柱に取り組むワーキンググループを作り、それぞれが責任を持って進める体制を整えました。また、当社は各ビジネスごとに人事組織を持っていますので、各事業部ビジネスの人事部からもワーキングメンバーを選出して、ここで決めたことを各ビジネス事業部で確実に実施していく体制で取り組みました。この3年間で実施した主な取り組みはシート1のとおりです。

進む女性の積極登用・採用

人事施策についていくつか詳しく説明したいと思います。まずPOD(People & Organization Development)についてですが、これはCEOと各部門のトップが人と組織について議論する場のことです。優秀な女性を発掘してくるように各部門に指示が出され、リストアップされた人たちにどのような機会を付与していくのかを社長と部門長がこの場で話し合い、その中で機会を与えて育成して登用につなげています。その結果、この活動を始める前は22人(0.9%)だった女性管理職は、2015年10月には162人(6.2%)にまで増えました。部長職も1人から13人、執行役員も1人から9人(外国人2人を含む)になっています。

シート2 <実績>人事施策-活躍の場の創出-

この画像を別ウィンドウで拡大表示

参考:配布資料16ページ(PDF:1.52MB)

同様に新卒採用比率も、LIXIL発足時は12.5%でしたが、ここ2年間は30%超に上昇。特に少ないと言われている理系女子も、2014年(32.7%)、2015年(31.6%)と、2年続けて30%を超える比率で採用できています。

そして、女性の活躍推進の最も特徴的な取り組みとして、トップダウンで進めているシックスシグマ活動という改善活動があります。導入時には「改善=男性」のイメージがあり女性は誰もリーダーにアサインされませんでした。それについても社長から、「どうして女性ができないのか。できないわけがない。すぐに女性も加えるように」との指示があり、2013年度は29%、14、15の両年度は31%の女性リーダーが誕生しています(シート2)。

リーダーシップの育成にも女性の参加を

人材育成について、当社はオリジナルの「リーダーシップ育成プログラム」を持っており、若手層~部長クラスまでの全年代・職責階層別に約6~8カ月間、リーダーシップトレーニングを実施しています。こちらも各階層20%以上、女性を参加させる目標があるのですが、上位層になるとどうしても女性比率が少なくなってしまいます。とはいえ、20%をコミットメントしているため、Executiveには40歳代ぐらいの課長クラスでも参加させるよう工夫しています。また、HRのトップの言葉を借りると、「長期に渡るトレーニングの中で、最初は男女に差が出ていても終了する頃には男女の差はなくなり、むしろ女性がその中で自分のパフォーマンスをどう発揮しようか考えリーダーシップを発揮していることもある」という事実があります。

ワーク・ライフ・フレキシビリティ

女性の活用を進めるには、環境も整えなければなりません。当社は「ワーク・ライフ・フレキシビリティ(WLF)」という考えに基づき、変化するライフステージのなかで、高いパフォーマンスを発揮し続けられるよう、制度を検討するための労使一体となった「WLF委員会」を発足。働き方や休暇に関する諸制度の導入・改定等、柔軟な働き方を提案しています。

風土醸成

また、当初はダイバーシティという言葉、意味を知らない人もいたため、Diversityサイトを立ち上げて浸透・啓発にも努めてきました。中でも効果が大きいコンテンツは、サポーターズメッセージという、毎月1人、役員からのダイバーシティについてのメッセージです。

また、ダイバーシティを進めるには、会社がしなくてはいけないことに加え、女性も自分たちのキャリアを考えて行動しなくてはいけません。そこで、自主的な活動として「LIXIL Women’s Network」というものを立ち上げています。女性たちが様々な活動を自主的に行っていますが年1回、「COMPASSサミット」という300人規模でダイバーシティについて学ぶ大きなフォーラムもメンバーたちで企画して実行しています。

女性の活躍で大きな成果が

最後に女性活躍の成果事例を三つ紹介します。まず、大学時代からトイレに関心があり、特にインフラの整っていないエリアに住む女性に貢献したいという女性社員の希望に応える形で、当社では拠点のなかったケニアに初めて派遣しました。今、この女性はケニアで、いろいろな人を巻き込みながらトイレの普及に取り組んでいます。これは社会貢献に加えて、実は25億人の新しい市場への第一歩でもあります。

二つ目は、「カーテンレールがついた窓枠って今までなかったね」と言った女性の一言でその女性がリーダーとなり、業界初の「カーテンレール付窓枠」を開発して2014年度のグッドデザイン賞をいただきました。

最後は、先述のシックスシグマ活動です。2013年度、2014年度の2年間に女性がリーダーとなって取り組んだプロジェクトだけで、約3億6,200万円の利益貢献額が創出されました。

私どもがこの短期間で成果を出せたのは、やはり経営トップとHRトップの強いリーダーシップがあること。目標数値をコミットメントし、HR部門がその目標を達成しようと実行力を発揮していること。女性の活躍を進めるために幹部を始めとした男性リーダーが積極的に関わっていること。そして、何より女性たち自身が自発的に考え、行動し始めたことがポイントになっていると考えています。

プロフィール

成田 雅与(なりた・まさよ)

(株)LIXIL HR Diversity & Engagement ダイバーシティ推進室長

大学卒業後1987年4月、日本軽金属グループの新日軽株式会社入社。人事部門に配属され労政、福利厚生、採用、人事企画を担当。1998年6月、秘書課に異動し会長、社長の秘書として経営者視点での物事の判断の仕方を学ぶ機会に恵まれる。2011年4月の5社(トステム・INAX・新日軽・サンウエーブ・TOEX)統合により株式会社LIXIL秘書室へ配属。翌2012年4月、ダイバーシティ推進活動の開始に伴い人事CSR推進室ダイバーシティ推進グループへ異動し現在に至る。(組織の改編に伴い部署名はDiversity & Engagement ダイバーシティ推進室に変更)

GET Adobe Acrobat Reader新しいウィンドウ PDF形式のファイルをご覧になるためにはAdobe Acrobat Readerが必要です。バナーのリンク先から最新版をダウンロードしてご利用ください(無償)。