研究報告 女性の活躍促進について

講演者
永田 有
労働政策研究・研修機構統括研究員
フォーラム名
第82回労働政策フォーラム「女性活躍新法と企業の対応:働き方改革と管理職の役割」(2015年12月15日)

初めに、女性活躍の現状から見ていきます。民間企業の管理職に占める女性比率を見ると、課長以上は1988年に1.4%でしたが、それから26年間かけて、8.3%まで上昇しました(厚生労働省・賃金構造基本統計調査)。順調に上昇してはいますが、国際比較すると、フィリピン(47.1%)、アメリカ(43.4%)、フランス(36.1%)とはかなり差があり、2013年データでは韓国(11.4%)をも下回っています(労働力調査、JILPT『データブック国際労働比較』)。

次に政府の目標について見ます。10年前、第2次男女共同参画基本計画ができ、その中で2020年に指導的地位に女性が占める割合として少なくとも30%を目指すという目標が掲げられました。5年前には第3次計画ができ、民間企業の課長相当職に占める女性の割合を、2015年の統計で10%程度とすることが中間目標になりました。2014年には、日本再興戦略改訂2014が策定され、そこで女性の活躍推進法を制定するということが打ち出されたわけです。2015年12月には、政府の男女共同参画会議が基本的な考え方についての答申を出し、新たな基本計画をつくるよう総理に要請しました。同月、同会議の計画策定専門調査会が第4次計画の案を出しており、30%目標を引き続き目指すとしたうえで、民間企業について課長相当職15%、係長25%といった具体的な目標を加えました。

どうして女性の活躍が進まないのか

どうして女性の活躍が進まないのかについて、次の六つに分けて考えてみました。

  1. 企業が女性を十分な割合で採用してないから?
  2. 女性の相当数が昇進する前に結婚、出産を機会に辞めてしまうから?
  3. 企業が女性を育てようとしないから?
  4. 企業が女性を積極的に活躍させようとしていないから?
  5. 女性が昇進を希望しない(しなくなる)から?
  6. 女性が多い産業で管理職が少ないから?

まず、役職者の女性割合が低い理由を企業に尋ねた結果を見ると(JILPT調査シリーズNo.132『採用・配置・昇進とポジティブ・アクションに関する調査結果』(2014)から)、今、管理職適齢期になっている女性を採用したときの状況において、女性を30%採用していなかったなどの回答割合が高くなっています(シート1)。そもそも人材の数がないという状況です。

今後5年や10年で管理職適齢期になってくることが期待される係長世代の状況について尋ねてみましたが、やはり採用が一番問題であったという結果が出ています。

シート1 役職者の女性割合が低い理由

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参考:配布資料5ページ(PDF:961KB)

2014年4月の学卒採用者の女性比率を尋ねると、大卒、総合職など、どの採用区分でも40%前後という結果が出ており、将来管理職になる芽のある採用区分においては、30%を超える女性採用が行われていることがうかがえました。

では、こうした女性社員を何年、継続就業して育成すれば管理職となるのでしょうか。最近5年間の課長昇進勤続年数を聞いたところ、「学卒採用の女性」では100人以上規模で19.74年という結果が出ました。つまり、約20年かからないと、今年採用した社員が課長に平均的になってこないということになります。

そこで注目するのは、「中途採用女性」です。これについて見ると、ほぼ10年でした。ということから、中途採用の層で課長を補うことができれば、2020年での30%という目標達成の支えになるのではないかと思います。

ポジティブ・アクションに取り組む企業の状況

次に、ポジティブ・アクションの状況です(シート2)。企業が女性を登用しようとして積極的な動きをしているかどうかということですが、JILPTの別の調査(JILPT調査シリーズNo.119『男女正社員のキャリアと両立支援に関する調査結果(2)―分析編―』(2014))では、ポジティブ・アクションに取り組むと、さらには、両立支援策とあわせて取り組むと、女性の勤続年数が長くなったり、役職者への登用が進むということが確認されています。

また、ポジティブ・アクションに取り組む企業の割合を、同業他社と比べた経営の状況別に見てみましたが(左側の帯グラフ)、ほぼ経営状況の認識にかかわらず、ポジティブ・アクションへの取り組みが行われていることが確認できました。では、なぜ取り組んでいるのかですが(右側の帯グラフ)、積極的企業で最も多いのが「経営トップの方針だから」でした。

今度は、女性の側の昇進意欲を見ていきます(シート3)。女性は、全体でも大卒でも、50%以上は、役づきでなくてもよいと回答しています。一方、男性では、40歳以上で7割以上は課長以上と答えています。男女では昇進意欲に対する大きな差があります。

シート2 ポジティブ・アクション実施企業の特徴

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参考:配布資料9ページ(PDF:961KB)


シート3 女性の昇進意欲

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参考:配布資料10ページ(PDF:961KB)

昇進を希望しない理由を見ると、女性では「仕事と家庭の両立が困難になる」が最も多く、男性では「メリットがないまたは低い」が多いといった違いがあります。

特に男性にとって、管理職に魅力が無い理由に、賃金があるのでしょうか。しかし、厚生労働省の賃金構造基本統計調査を見ると、係長が課長になったとき賃金は約18%増え、メリットは男女でほとんど差がありません。

女性のほうは、両立が困難になるとの理由が多かったので、管理職の労働時間の男女差を見ると、その差は0.8時間(週当たり)、48分であり、管理職になってしまうと男女であまり忙しさに差はありませんでした。しかし、家事分担の割合の差を見ると、管理職では、労働時間で男女差がないのにもかかわらず、女性は相変わらず家庭内の半分以上の家事を引き受けている結果が出ており、男性がもっと家事をしなければいけない状況が見て取れます。

産業別に見た女性・管理職比率

最後に、厚労省の賃構調査から、産業別女性の比率と管理職適齢期の女性比率の関係を見ると、医療・福祉業で、両方の比率が非常に高くなっており、建設業が逆に一番低い(シート4)。また、両者は比例の関係にあります。要するに、女性も男性と同じように、継続就業して、適齢期まで残っていくことができれば、男性ほどではないにしても比例的に管理職比率は上がっていくことになります。

また、管理職比率と女性比率の関係を見ると、管理職比率が低い産業に女性が多いことがわかります。例えば、医療・福祉です。

シート4 産業別女性比率と管理職の女性比率

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参考:配布資料14ページ(PDF:961KB)

一方、管理職比率が非常に高くて女性比率が低いのは建設業、学術研究,専門・技術サービス業などです。こういうことから、女性をもっと建設業などで増やすことができれば、マクロでは管理職比率は高まるはずです。

管理職比率の高い産業で女性の活用支援を

話をまとめます。女性の登用が進まない大きな理由である採用の少なさは、2014年学卒段階では修正されてきています。ただし、管理職昇進には時間がかかりますので、中途採用等で補うことができるのではないかと考えます。

女性の昇進意欲を高めるために、両立支援はもちろん、男女の家事分担の見直しも重要です。あわせて、管理職を魅力的な仕事にしておくことです。

三つ目として、管理職比率の高い産業において女性の活用を支援する必要性を挙げたいと思います。重点的に建設といった業種で女性活躍を支援できれば、マクロ全体として女性の管理職比率を効率的に高められる可能性があるのではないかと考えます。

プロフィール

永田 有(ながた・たもつ)

労働政策研究・研修機構統括研究員

1983年労働省入省。職業安定局、政策調査部、経済企画庁、(財)連合総合生活開発研究所、厚生労働省政策評価官室、政策統括官付労働政策担当参事官室等に勤務し、経済白書、労働経済白書等の作成や統計調査の実施等に携わる。2014年1月から現職。『採用・配置・昇進とポジティブ・アクションに関する調査結果』(JILPT調査シリーズNo.132)を実施、公表。

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