パネル報告
パワハラのない職場をつくる

講演者
淺野 高宏
ユナイテッド・コモンズ法律事務所代表弁護士
北海学園大学法学部准教授
フォーラム名
第80回労働政策フォーラム「職場のコミュニケーション パワハラのない快適な職場作りのために」(2015年9月28日)札幌開催

労働紛争の背景にパワハラあり

私が弁護士として相談を受けたり、事件対応する中では、パワーハラスメント単独でというよりは、解雇や雇い止め、時間外手当請求の問題など、他の労働紛争の類型との合わせ技のような形で問題になっている例が多いというのが実感です。

コミュニケーション不足と労働法への無関心に原因も

なぜパワハラ事案が増加しているのか。個々の職員同士や職場全体のコミュニケーションがやはり不足していて、部下が何を考えているのか、どこに不満があるのか、また上司のほうも、どういうところが問題だと思っているのかということが十分に伝わっていないし、労働者のほうからも伝える場がない。それを酌み取ってくれるような先輩もいないということが、お互いの認識の大きな溝を生んで、紛争化させているという面があると思います。

また、実際に事件を担当する中では、残念ながら、労働法を全く無視するような人事権行使や解雇権行使をしてしまう役員や管理職が存在するのも事実です。ワークルールに対する無知や無関心、自分なりの解釈や誤解に基づいて本来、法的には許されない人事権行使を思い切って行ってしまい、それがパワーハラスメントと評価されるということもあるわけです。

組合組織率の低下の影響も大きい

組織の視点では、やはり労働組合の組織率低下が少なからず影響しているのではないでしょうか。おかしなことがあっても、そのおかしいということに対して、ものを申したり、歯止めをかける存在が欠如していることも大きいと言えます。

ワークルール教育の浸透も重要

一方、労働者自身もワークルールの知識を持っていない。したがって、おかしな対応をされても、「社会ってそんなものなのかな」と受け止めてしまう。そうすると、周りの人も「こんなことは、うちの会社では当たり前だ」と考えてしまい、おかしな人事対応や業務命令をされても、そのおかしさにそもそも気づかない。

したがって、かなり深刻化して、ひどい状態になって初めて声を上げることになるので、途中で、うまい形で調整したり、紛争が顕在化する前に収束させることが難しい。本当に我慢できないという状態になって初めて、労働者から声が上がるということが問題の解決を難しくしている部分もあるでしょう。

労働者側にもっと早めの気づきがあれば、やりようもあったのかもしれませんが、労働者側が労働法をしっかり理解することに対する支援や紛争に遭遇した場合の相談機関へのアクセス周知や、その後の具体的な支援体制の整備も十分とは言えません。また、職場自体は、ノルマが厳しかったり、仕事が忙しかったりして、余裕がなくなっており、同僚などの職場の仲間が自分のことで精いっぱいになっていることも影響しているのではないかと思っています。

早期の気づきと対処が重要

やはり、もっと早く紛争の芽であるハラスメントについて「気づき」を持って適切に対処し、調整をするというような視点を持てるのかということが重要だと思います。また、労働者の側も、大変とは思いますが、ハラスメントがあったときに早めに声を上げることによって、調整が可能になっていく。

手遅れになると、解決の選択肢が限られてきます。ですので、そうなる前の予防をどう図るかが重要です。ただ、労働者も一人では何もできないので、労働者に対する支援のあり方について議論していく必要があります。

パワハラのない職場をつくるという観点でいうと、裁判みたいな土俵に上がってしまうと、どうしても最後はお別れするような結論になりやすい。そうならないところで、どうやって職場環境を調整して働きやすい職場づくりをしていくか。そのための知恵と支援のあり方が重要だろうと思います。

裁判になれば、時間や労力、費用、生活をどうしていくかという深刻な問題が伴います。そこに至る前にどのような対応ができるのか、そういったことについて議論していくことが必要です。

プロフィール

淺野 高宏(あさの・たかひろ)

ユナイテッド・コモンズ法律事務所代表弁護士
北海学園大学法学部准教授

1998年早稲田大学法学部卒業、2001年北海道大学大学院法学研究科修士課程専修コース修了。2002年第一東京弁護士会弁護士登録、同年 安西・外井法律事務所(現、安西法律事務所)入所。2011年北海学園大学法学部准教授就任。2014年ユナイテッド・コモンズ法律事務所開設 代表弁護士。北海道労働局 紛争調整委員、NPO法人職場の権利教育ネットワーク理事等。