事例報告
ハラスメントをなかったことにしない職場づくり

北海道ウイメンズ・ユニオンは、女性のための個人加盟のユニオンで、「やめない!負けない!あきらめない!」をスローガンに活動しています。発足は1993年で、「女のスペース・おん」という女性のための人権ネットワーク事務所としてスタートしましたが、実際には、開始直後から女性の労働問題に関する相談が多く寄せられ、「団体交渉権がなければ女性のための労働問題に取り組めない」ということで、発足してから6カ月後に個人加盟のユニオンを設立することになりました。

現在は、札幌のほかに北見、旭川、室蘭、函館と五つの支部があります。それまでは札幌しか拠点がなかったので「札幌ウイメンズ・ユニオン」という名前でしたが、全道の相談に対応するため、道内の女性の人権ネットワーク事務所5カ所に支部が広がり、2001年10月から北海道ウイメンズ・ユニオンと名前を変えて活動しています。

パワハラも職場の問題

女性のための個人加盟のユニオンなので、最初はやはりセクハラの相談が多かったのですが、リーマン・ショック以降、いじめ、嫌がらせ、パワハラ、退職強要といった相談が多くなってきています。現在、加入している組合員は75人程度で、年々組合員が増えている状況です。

相談に来るのは、弱い立場で働き、本当に切羽詰まっている人が多いです。ユニオンに相談に来るまでに職場でいろいろな人に相談をしていないかというとそうではなく、相談を受けた側から「あなたも悪いんじゃないの」「どっちもどっちだよね」などと言われ、一人で抱えている人も多いです。

実際に相談に来た人に、「誰か仲間はいないの?」「職場に同じように考えている人はいないの?」と聞くのですが、「自分も声を上げると、何か不利益を受けるのではないかということもあって、仲間が増えないんです」と答えます。

ハラスメントは職場という現場で起こっているので、私たちは当然、職場の問題だと思っているのですが、ハラスメントを個人と個人の間の問題だと捉える人が多く、こちらが「それは職場の問題ですよ」と言っても理解されず、ハラスメントをされた側は、報復感情が強い人もいます。

寄り添うことを心がける

組合に入ってくれた人にとって、安心できる場所になることを目指しています。どんなに小さいことでも、おかしいと思うことは連絡してほしいと思っています。

当事者は「悪いのはどっちもどっちだ」と言われると、より傷つきます。「相談しても変わらないんだな」と思ってしまうと、もっと職場で孤立し、声を上げづらくなります。私たちは当事者が何を考えているかということを大事にして、寄り添って話を聞くことを心がけています。

ハラスメント事案でも、「証拠を残しておいて」と当事者に言います。

ボイスレコーダーで音声をとっておくほか、LINEやメールに意外と隠された証拠が残っていることもあります。「今日こんなことを実は言われたんだよね」というメッセージを職場の同僚にLINEで送っていたり、「○○にご飯食べに行かない?」「今はまだ帰れないんだよね」「えっ、今どこにいるの?」「いや、まだまだ仕事が終わらない」などというやりとりを夜遅くしていることで、残業の証拠になることもあります。

ハラスメントが起こる職場は、いろいろな問題が重複している場合があり、相談を受けてみると、多くの時間外労働が出てくることもあります。そうなった場合には、残業の証拠が必要とされます。最近の傾向として、自筆のメモだけでは、すべて証拠として認められないケースもあるので、便利なスマホアプリの利用も薦めています。日付や時間が入るカメラアプリなどもあり、事務所の中で仕事している様子を、こうしたカメラアプリで撮影しておけば自衛になることも紹介しています。

たいがい証拠はないと言われる

私たちは労働組合なので、申入書を書いて使用者側に送り、団体交渉を行うことから始めます。私たちのユニオンが申入書を送るときには、当事者の言い分や、何月何日にこういうことを言われましたなど、詳細も盛り込みます。具体的な事例を書くのは、団体交渉が始まった途端、使用者側から、「そういう事実はありません」とシャットアウトされることも多いからです。

交渉が始まると、パワハラの場合、使用者側は大概、「証拠はない」と言ってきます。こちらが証拠を出すと、「単なる注意でした」「指導でした」などと言われます。指導書が出されているケースもありますが、指導書の中に「協調性がない」「仕事が遅い」などと書かれていることもあります。

セクハラでも、証拠がないと言われる点は同じです。こちらが証拠を出すと、会社の忘年会で起きたケースでは、「いや、それは職場で起こったことではないですよ」などと反論されます。

また、当事者同士の「合意でした」と言ってきたり、「恋愛でした」「向こう(被害者)から誘ってきました」などと言ってきたりする場合もあります。

メールや言葉でのセクハラだとこのような反論がありますが、おしりをさわったりとか、胸をもんだりといったケースも実際にはあり、こうしたケースでは「スキンシップの一部でした」など呆れた反論もされます。

交渉を始めると、私たちは必ず会社側に、被害当事者の訴えを受けて、組合に加入するまでの間に「双方から事実確認をきちんとしていますか」と聞きます。しかし、双方から確認がされていないことが多く、行為を行った側ばかりに聞き、回答を団体交渉に持ってくるので、「その内容を被害当事者に伝えましたか」と聞きますが、ほぼなされていないです。

たとえ双方の確認ができていたとしても、行為を行った人に対し、再度被害当事者側が言っていたことの確認を尋ねますが、できていないです。

当事者は、心身ともに、すでにくたくたの状態で、ほとんどの人が働き続けるということを考えられなくなります。そういう場合は、有給休暇が残っている人には、有給休暇の申請の提案や、夜眠れなくなってしまったり、会社の近くを通っただけで震えてしまったりする人には、病院受診や休職の手続き、傷病手当金の申請などを教えます。働き続けることが労働組合の意義ですから、復職を視野に入れ、申入書で、加害行為を行った人からの分離措置を求めます。

お菓子を持ってきて雇い止め

実際にあった事例を紹介します。

ある人は、職務能力が不十分だとする理由として、「かりんとうを持ってくる」と書かれていました。だから雇い止めだと言われました。

また、介護職場のある人は、「私は神様だと言った」ということを理由に解雇通告を受けました。事実を確認したところ、「私は神様だと言った」のではなく、その人は温和で冷静な方だったので、利用者から「あなたは神様みたいな人ね」と言われていたことが、意図的か、間違って使用者に伝わっていました。

これは社長からパワハラを受けた事案です。社長から「挨拶の声が小さい」ということを理由に始末書を書けと言われました。次の日から一生懸命、社長が職場に来たときに玄関のそばまで行って「おはようございます」と挨拶したら、今度は、「挨拶の仕方がわざとらしい」といって、また始末書を書かされたそうです。

ある人は、未払いの残業代について労基署に相談に行ったところ、残業の証拠となる出勤簿や日報をコピーして持ってきてくださいと言われたので、自身でコピーして持っていったところ、会社から「窃盗罪で訴えます」との内容証明が送られてきました。

この会社ではまた、「社長の弁当の一部を食べた」という理由で、社員に対して2,000万円を請求するとの内容証明が送られてきました。事情を聞くと、会社でとっている仕出し弁当にサービスでついてくる味噌汁の残りを、社員で分けて飲んだだけでした。

有期社員は時間切れで退職も

女性のための労働組合なので、相談者には非正規雇用の人も多いです。交渉が始まると、問題が解決するまで在職扱いにすることをお願いするのですが、休職期間がすぐに満了になってしまい、交渉中であっても、「休職期間満了だから、自然退職ですね」と言って雇い止めされることもあります。

また、非正規雇用では契約期間の問題があり、交渉中に契約期間満了を理由に、更新をしないで退職に追い込まれるケースも多いです。

団体交渉で使用者側弁護士から「(ハラスメントなら)労災申請したらいいではないか」と言われることがありますが、労災申請するにも決定が出るまでに時間がかかることや、決定までの間に自然退職扱いになったり、雇用契約の期間満了になったりすることもあり、労災申請や認定のハードルが高いなど難しい面がたくさんあります。

また、失業保険の申請では、離職票の退職理由欄に、会社側から一方的に自己都合退職扱いされる場合があり、私たちが異議ありの印をつけ、ハローワークに提出します。しかし、問題解決するまで失業保険が支給されないケースもあり、このようなことも私たちはこれからの課題と捉えています。

プロフィール

大野 朋子(おおの・ともこ)

北海道ウイメンズ・ユニオン委員長

北海道立伊達高等学校卒業後、市内企業に就職。結婚退職後、非正規労働として職場を転々とする。2009年契約社員として勤務時、自身の労働問題で北海道ウイメンズ・ユニオンに加入、2011年10月北海道ウイメンズ・ユニオン書記長を経て2014年10月より現職。現在は女性の人権や労働問題について相談にあたっている。