事例報告③ VRTカードを活用したキャリアガイダンス

本日は、大学における自己特性の理解と職業適性を知るためのガイダンスツール、「VRTカード」の実施について紹介したいと思います。

大学のキャリア講座で使うプログラム開発を

本学にもキャリアの授業があり、キャリアデザインA、Bと呼ばれています。主としてAで自己理解と職業理解を深め、Bでは演習形式という形になっています。本学では、警察官や消防官、教員の志望が多いため、作業性格検査としてクレペリン検査を実施しています。どういう検査なのかを実際に授業で受けて、評価結果の解釈・判定ができるようにします。

厚生労働省編一般職業適性検査(GATB)や職業レディネス・テストも授業に取り入れています。授業は1クラス100人から180人ぐらいで、昨年度は162人でした。

大学におけるキャリア教育プログラムを開発するための検討会が持たれました。その中で、大学におけるキャリア講座で使うプログラムを開発しようということになりました。たとえば、90分1コマの授業で、自己理解、職業理解やワークルール等の大きく3つの領域の34講座を企画しました。これは、厚生労働省のキャリア形成支援室の企画なので、これまで同省が開発したツールも、できる限り組み込むように提案しました。職業レディネス・テストやVRTカードも、授業プログラムに組み込みました。

ホランド理論のアプローチ

「キャリア・インサイト」を使用した授業では、学生がそれぞれコンピューターで試して、その結果をプリントアウトして持ち寄り、それぞれの結果をもとに話し合いをしながら、自己理解を進めるような授業を設計しました。VRTカードについては、バックボーンになっているホランドの職業選択理論を説明する講義を組み込んでいます。

ホランドは理論として、職業もパーソナリティも現実的、研究的、芸術的、社会的、企業的、慣習的の6領域に分類できると言っています。人は自分の持っている技能や能力が生かされ、また自分の価値観や態度を表現でき、かつ自分の納得できる役割や課題を引き受けてくれるような環境を探し求めている。自分にぴったり感のあるような環境を常に求めている。ですから、ぴったりしないと、どうしても離転職につながってしまうということです。

ペアを組んでVRTカードを実施

VRTカードは2人のペアを組んで実施します。これが基本です。1人占いのような形で、1人でやることも当然できますが、対人関係能力を高めたり、人との関係構築といったセッションを通して、単に自分の中で考えるのではなく、互いに考えたり、意見を述べ合うことによって気づきも多くなり、刺激的な効果が期待できるので、このようなペア学習を進めています。

ペアになった学生が交代でVRTカードの分類ワークを行います。「やりたい」「どちらとも言えない」「やりたくない」のカードに読み上げた職業のカードを置いていく作業です。ホランドの6領域それぞれに、「やりたい」と分類した職業カードを置いていくと、どの領域に興味があるのか傾向がわかるという仕組みです。

VRTカードは、あくまでもガイダンスのツールで、検査ではありません。正確にその人の6領域の傾向を調べるものではありません。大体の傾向をみるためのものです。

実施して、やり方を身につけると、カードの分類作業は速くなっていきます。ペアで、話し合いや相談しながら実施しているとき、選んだ職業をみていると、何となくアウトドアが多かったとか、会社員の仕事を嫌っているという、6領域の分類だけではわからない選択の傾向がみえてくることがあります。本人がそこから自分がどういう選択の基準を持っているのかということに気づいていくことがあります。

仕事への興味と自信のマトリックスをつくる

仕事に対する興味と自信のマトリックスをつくるのも自己理解に効果的です(図表1)。「やりたい」に分類した職業カードを、今度は「自信があるかどうか」で分類すると、「やりたい」けれども、自信がないというのはどういう職業なのかがわかります。逆に、「やりたくない」仕事を同じように分類すると、「やりたくない」けれど自信がある職業はどういうものなのかもわかります。

図表1 興味と自信のマトリックス
マトリックス表

ぼーっとみていても、何となく気づくこともあります。転職したある人は、やりたくないけれども自信があるという職業の山に、辞めた前の職業に類する仕事がたくさん入っていました。「これは、前にやっていた仕事です」と。やればできるけれども、やりたくない。つまり、嫌で辞めたということです。あらためて、これが職業を選択する自分の基準のひとつだと理解できたわけです。

たとえば、計算を伴う仕事を全部嫌っている人の場合、昔から計算が嫌いで苦手だったから、計算にかかわる仕事を嫌っているというように、自分が無意識のうちにバイアスをかけて選択しているのです。

複数の学習で社会性が身につく

授業で使うキャリア教育のプログラムは、社会的・職業的自立、学校から社会・職業への円滑な移行に必要な力ということで、基礎的・汎用的な能力も含めて、能力要件を中教審が示しています(図表2)。文部科学省は、この必要な力を育てるものがキャリア教育のプログラムだとしています。今回の授業プログラムでは、求める能力を学習方法によっては高めることができるということで、授業の中身や流れを細かく作り込んでいて、ここから話し合い活動、ここは発表と、その都度、それによってどういう能力が高まっていくか、身についていくかということを明確にしています。

図表2 「社会的・職業的自立、学校から社会・職業への円滑な移行に必要な力」の要素
専門的な知識・技能、基礎的・基本的な知識・技能を図示

資料出所:中教審「今後の学校におけるキャリア教育・職業教育の在り方について」(答申)2011年1月

学習内容で求められる能力を高めることは難しいが、学習方法によって高めることができる。

これは、学習方法としてアクティブラーニングを取り入れることがなぜ必要なのかにつながります。「VRTカード」も「職業レディネス・カード」も、ペアで学習する意味があると思います。ペア学習によって自己開示ができ、コミュニケーションがとれます。相手の意見によって、触発されて、自分が気づかなかったことを気づけるようになる。ですから、個人の学習ではなく、複数での学習で、結果をみんなで共有し合ったり、基礎的・汎用的能力も含めて、社会性が身についていくと考えています。

アイディアで使い方を開発していくことも

「VRTカード」は、非常に高いガイダンス機能を持っているので、使い方も非常に多様です。もっと小さい子であれば、職業の解説面を出しておいて、神経衰弱をやります。最初の1枚をひっくり返してホランドの6分類の1つが出たら、同じ分類の仕事をみつけて、当たったらとる。最後に、カードがなくなるまでやります。このように、ゲームとして工夫次第でいろいろなことができる可能性があるツールだと思います。検査のように固定化されていないし、正確に調べるものではありませんが、さまざまなところで活用できるような、また、いろいろと工夫の余地のあるツールとして、これからも多くの方々に使って欲しいと思います。決められたやり方だけではなく、アイディアで、使い方を開発していくことも今後の課題ではないかと思います。