基調報告 場面に応じたツールの活用

本日は、若者に対する就職支援やキャリアガイダンスを有効に行っていくための具体的な方法のうち、とくにガイダンスツールの活用に焦点をあてて、皆様と一緒に検討したいと思います。

若者のキャリア選択への支援課題

図表1 学校種別にみた就職課・キャリアセンターが現在あるいは中長期的に取組んでいる重点課題
(キャリアセンターへのアンケート調査結果より)

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私は、ガイダンスツールを開発する立場で若者のキャリア選択への支援という課題にこれまで関わってきましたが、開発者としての立場ですと、実際に現場でツールがどのように使われているのかを把握する機会はなかなかありません。そこで2013年秋に、大学や短大、高等専門学校、専門学校の就職課やキャリアセンターを対象にツールの活用を含めた就職支援の方法に関する調査を行いました。その結果のうち、各学校の就職課やキャリアセンターが、現在または中長期的に取り組んでいる重点課題をみると「低学年からのキャリアに対する意識づけ」「就活意欲の低い学生や就職困難な学生への呼びかけやアプローチ」「就職率のアップ」「個別相談体制の充実」といったテーマの選択率が比較的高くなっていることがわかります(図表1)。

選択率の高かった項目の内容を整理すると、就職課・キャリアセンターが考えている重点課題やニーズは、次の3つにまとめることができるように思われます。1つ目は、早い時期から学生のキャリアへの意識を高めたい(項目:低学年からのキャリアに対する意識づけ)、2つ目は、就活への意欲を喚起したい(項目:就職課・キャリアセンター利用の促進、就活意欲の低い学生や就職困難な学生への呼びかけやアプローチ)、3つ目は、個別相談体制を充実させたい(項目:個別相談体制の充実)ということです。

そこで、若者への就職支援の課題にみられる担当者のニーズに対して、ガイダンスツールが貢献できる可能性があるのか、あるとすれば、どのような形で貢献できるのかを考えたいと思います。

検査やガイダンスツールの利用状況

図表2 適性理解、就職支援のための検査やツールの実施の有無(学校別の各回答校に占める割合%)

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検査やツールの活用可能性を考えるにあたって、まずは、学校における検査やツールの利用の現状をみてみましょう。前述の調査の結果から、就職支援のための検査やガイダンスツールの利用状況(図表2)をみると、大学での実施割合がもっとも高く7割弱(66.2%)で、短大や高専、専門学校は、4割前後か5割程度です。

図表3 活用している検査やツールの実施形態と実施者

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図表3は、通常、活用している検査やガイダンスツールを4つまで書いてもらい、それぞれの実施形態と実施者を記入してもらった結果です。学校種にかかわらず集団実施の割合が8~9割と非常に高く、学生を集めて行う集団セミナーで一斉に実施する形態が多いことがわかります。検査やツールの実施者をみると、大学では教職員が行うというのが36.1%で、約6割(59.9%)が委託業者です。

このことから、多くの大学等で行われている検査やガイダンスツールの一般的な利用方法は、紙筆検査タイプの適性検査や職業興味検査などを業者委託によりセミナーなどで一斉に実施し、その結果を学生に返却するというスタイルであることがわかります。

学校での就職支援における検査・ツールの利用のねらい

図表4 検査やツールを実施している理由

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次に、学校はどのような意図や目的で検査やガイダンスツールを使っているのかをみてみたいと思います。図表4は就職支援における検査やツールの実施理由についての回答です。検査やツールを実施している理由のうち、選択率がもっとも高かったのは、「学生が、自分自身の適性を理解するために役立てることができるから」(各学校種で8~9割程度)でした。これは、学生の自己理解に役立てるという目的で検査やツールが使われていることを示します。「教職員が、学生の指導や支援をする上で役立てることができるから」(同5~7割)も高い割合を示しており、学生の能力や興味との関連で進路指導や支援をするためにも検査等が使われているようです。「職業理解に役立てることができるから」「職業選択に対する意識を高めることができるから」といった職業に関する項目を選択している学校も半数程度(同4~7割)あります。こうしたことから、学校が検査やツールを実施している理由は、自己理解、職業理解、指導・支援が主な理由だということがわかります。

就職支援機関でのツールの活用と有効性

ここで話は変わりますが、昨年、「キャリア・インサイト」というパソコンによるガイダンスシステムの就職支援機関での試行運用を実施し、システムを運用するハローワークの職員や相談員の方々を対象として、ツールの有効性などに関するヒアリング調査を行いました。その結果を少し紹介します。

若者がシステムを使う理由としてもっとも多くあげられていた意見は、「自分に合った仕事や就職活動の仕方がわからないから」というものでした。そこで、就職支援の担当者は、キャリア・インサイトをそういった若者に使ってもらうことで、彼らが自らの適性を把握し、新たな職種への興味を持てるように支援することができたと述べています。これは大学のキャリアセンター調査と同様に、検査やツールが、自己理解を深めたり仕事への興味を深めるために有効だったという意見です。

次いであげられていたのは、「やりたい仕事が決まらない」「何に向いているかわからない」「企業へアピールする材料がない」といった状態で相談にくる若者に対し、ツールを実施した「結果」に基づいて職業相談を行うことのメリットです。若者に対して、顕在化していなかった自分の特徴に気づかせ、エントリーシートの円滑な作成につなげているという使い方もありました。エントリーシートに書く具体的な材料がわからないというときに、ガイダンスツールを使って、その結果から素材を発見するという使い方もあるようでした。

3つ目は、若者の中には、職業知識が乏しく、自分の興味と職業を結びつけて考えることが難しい者も少なくないため、自らの興味・自信などの特徴を通して、職業に対する考え方・不得手をカバーするPR要素などを見い出す手段として有効だったという意見です。未就職のまま卒業した学生は、どのような仕事があるのか、どのように応募先を選べばいいのかわからない者も多く、そういった場合には、ツールの利用によって職業への理解を広げたり、深めたりすることで、自分の興味に合った職業がどのようなものかに目を向けさせることができたということです。

このほか、大人が多いハローワークで緊張している若者にとって、職業相談の入り口、コミュニケーションの入り口として信頼関係構築にツールの活用が役立ったという記述もみられました。

機能が多様化している検査やツール

若者への職業相談や就職支援の場面での検査やツールの役割をまとめると、まず、基本的にテストが持っている役割として、職業意識を高めたり自己理解を深めてもらうということがあります。つまり、職種を選べない若者に、自分の個性の理解と、それを生かせる仕事としてどのようなものがあるかに目を向けてもらうという役割です。さらに、再就職先に迷ったときの判断材料としての役割や、相談場面で気おくれしたり、うまく話せない若者が話しやすくなるようにする役割もあります。

一般に考えられている検査やガイダンスツールのイメージは、「求職者と職業とのマッチングのための道具」ということだと思います。しかし、実際のところ、現在の検査やツールにはいろいろなタイプのものが開発されていて、使い方や機能が非常に多様化しています。職業に対する適性を正確に評価するだけでなく、相談場面でのさまざまな役割が期待できます。

さまざまなタイプの検査・ツールの特徴と活用場面

私たちの研究所では1950年代から、ハローワークや学校で広く使われている紙筆検査タイプの心理検査として、厚生労働省編一般職業適性検査(GATB)〔注1〕、職業レディネス・テスト、VPI職業興味検査を開発し、改訂や研究を続けてきました。2000年以降は、パソコンで利用できるガイダンスツールとして、欧米で開発されたCACGsの日本版である若者向けのキャリア・インサイトやキャリア・インサイトのミッドキャリア版を開発しています。昨年は若者とミッドキャリア層の両方を対象とした統合版のキャリア・インサイトが公表されました。そのほか、OHBYカードやVRTカードなどのカードソートタイプのガイダンスツールも作られています。

図表5 各タイプの検査やツールの特徴と活用場面

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各タイプの検査やツールの特徴と活用場面をまとめたものが図表5になります。従来型の紙筆検査は、尺度としての信頼性が高く、集団での実施に向いています。他方で、実施や採点に手間がかかるといった面があります。一方、パソコンを使ったキャリア・インサイトのようなガイダンスツールは、個別に利用者が自分で操作するため、自分でいろいろな観点から適性を評価でき、採点や実施が自動的にできるというメリットとともに、利用者が能動的に取り組めるという利点があります。カードタイプは、実施が簡単で使い勝手が良いことが大きなメリットです。グループワークでも個別でも活用できます。適性を詳細に調べるというよりは、大まかな傾向の把握ができることが特徴で、なおかつ、相談担当者と相談を受ける側とのコミュニケーションが非常に円滑になるといったメリットもあります。ただ、相談で使う場合、解釈の際に担当者のスキルが必要になります。

このように、各種の検査やガイダンスツールには、それぞれ良い点と難しい点があり、場面や目的に応じて使い分けることが、キャリアガイダンスとしての支援の中身を幅広く、バラエティを持たせて深めるために有効です。

場面や目的に応じた活用の広がり

検査やツールのタイプの多様化とともに、今は、場面と目的に応じた検査やツールの選択と活用が広がっており、セミナーなどの集団場面で使われるほかにも、授業や講義の場でグループワークの教材として使われたり、1対1の個別相談や面接の中でも利用されています。実施目的としても、適性を評価するだけでなく、教育や意識啓発にも使われますし、コミュニケーションや相談の円滑化に役立てることもできます。

このようなことから、今や「適性検査=職業を選ぶためのマッチングツール」といった固定的な見方を捨て、さまざまなタイプの検査やツールをもっと幅広く、自由に活用していくことが、若者の就職意識や意欲を引き出すきっかけとなり、広い意味での就職支援につながっていくのではないかと考えています。


〔注1〕GATBは11種類の紙筆検査を中心に利用されることが多いが、器具を使う検査も4種類用意されている。