事例報告②
クレディセゾンの多様な社員活用の取り組み

講演者
武田 雅子
株式会社クレディセゾン取締役(戦略人事部・CS 推進室管掌)
フォーラム名
第77回労働政策フォーラム「多様な社員の活用を企業の成長力に」(2015年3月12日)

クレディセゾンの人事制度の概要とその考え方についてお話します。クレディセゾンは意外と設立が古く、もともとは緑屋という社名で月賦販売の百貨店をしていた会社です。70年代前半ぐらいまではそちらをメーンの事業にしていましたが、その後、80年代に入って、いわゆる信販、クレジット業を中心に事業を進めてきた結果が現在のクレディセゾンです。

現在は、カードもクレジットカードだけでなく、プリペイドカードなど多様化しています。最近では、大手の携帯キャリアなど他の法人に、決済システムや、ポイントの仕組みそのものを提供するビジネスも行っています。また、カード会社の中では一番大きなウェブのショッピングモールを持っています。現在は、こんなことを事業の中に取り入れて、小売からカード、そして第三の新しいステージにちょうど会社全体を切りかえていこうという局面にあります。

「創造的確信の社風創り」で新しい仕事やサービスを生む

私どもの経営理念は「サービス先端企業」で、そのポイントは「顧客満足主義の実践」「取引先との相互利益の尊重」「創造的革新の社風創り」の3つです。人事制度や社風をどのようにつくるかなど、今回のテーマにかかわるのが、3つ目の「創造的革新の社風創り」です。

創造的革新の社風創りという中で、今、事業のカテゴリーとしては金融業にいるわけですが、きちんと堅実に、正確に仕事をしていくだけではなく、会社の中に常に新しい、何か面白くわくわくするものがある、そういった価値観、そういった仕事を常にみんながつくり出す、そういった仕事の仕方をしようとする風土が脈々とあります。たとえばその中から、今でこそあまり珍しくありませんが、カードの年会費を無料にしてみようとか、ポイントの期限を永久に取り払って「永久不滅ポイント」をつくろうとかです。または、これも最近はかなり業界のスタンダードになってきましたが、「一部の売場ではサインが要らないサインレスでお買い物をしていただこうじゃないか」、といったお客様のより利便性ですとか、ニーズの先をさらに応えて行こうというときに、新しい仕事、新しいサービスが生まれてきた歴史があるのです。

現在は、第三の新しいステージに行こうというところで、社内では、よりイノベーションが叫ばれるようになっています。社長からは直接、小さくていいから、スティーブ・ジョブズをいっぱい育てなさいと、そんな無理難題がミッションとして与えられています。

多様化を大事にすることも重視

シート1 ヒューマニズムの風土創り

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このような価値観に基づいた行動指針が「ヒューマニズムの風土創り」(シート1)です。どこの事業所に行ってもB全の大きなポスターにして必ず貼ってあるものです。

弊社は女性が非常に多い会社なので、「女性活躍度No.1をめざす」ですとか、これも多分クレディセゾンらしいのではないかなというのが「『私はこう考えます』いつでも答えられる習慣」です。入社したときから、あなたはどういうふうに考えるか、おまえどうしたいんだということを常に問われて育つ、そんな風土があります。「自分とは違う『異見』尊重していますか?」と問い、違うという多様性を大事にすることも重視しています。結論がひとつに予定調和でまとまるようなミーティングではなく、議論が活発に、時には口論もありで、いろいろな意見をぶつけ合うところからまた新しい、A案でもB案でもないC案が生まれたりするわけです。職業キャリアについては、「やりたい仕事への情熱が可能性を広げる」ということで、常に自分からこんな仕事をしたいと手をあげるように求めています。これは、実際の制度に組み込んでありますので、後でご紹介します。

全社員の8割近くが女性

シート2 雇用形態別社員数

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社員の男女別では女性が全社員の78.6%と大変多いのが特徴です。雇用形態(シート2)でみると、総合職社員と専門職社員が期間の定めのない正社員(合計2,747人)で、専門職社員は全国112カ所のお客様対応窓口(セゾンカウンターなど)に従事しています。時間給で働く有期雇用の「メイト」社員(936人)は、クレジットカード会社の特徴でもあるコールセンターで働いている方がほとんどです。ここもほとんどが女性です。

メイト社員について、事務でなくコールセンターのように成果がわかりやすいところでは、評価を年3回、夏、冬と年次と行って賞与を出しています。

総合職でも、中には地域限定でお仕事をしている方もいますが、半分以上は転居を伴う異動の可能性のある社員です。お客様窓口の専門職社員は、地域に根差しているので、転居を伴う異動はありません。

全正社員の8%が時短社員

労務構造上の特徴は、やはり女性が非常に多いということと、フルタイムで仕事をしていただいているメイト社員の割合が、同業で比較をしても非常に多くなっています。また、拠点が全国に点在しており、もともとの母数が非常に多いこともあって、女性の役職者比率が11.7%と日本企業の中では若干高いと思います。あとは、今、短時間勤務の社員が非常に多く、全正社員の8%なので12人にひとりぐらいは短時間勤務の女性です。事業所によって、かなり工夫をしてもらいながら何とか回している状態で、ローテーションで体制を組みなおすなど、いくつかの施策を打ち始めているところです。

弊社は合併やセゾングループの中での分割・統合などの経緯があるため、中途入社の社員が非常に多いのも特徴で、総合職の38.7%が中途採用です。先日も新任のマネジャーの研修をのぞいたところ、半分がちょうど中途で入った方、半分が定時入社の方で、プロパーの4月入社の方たちが優先というわけではなく、いろいろなキャリアの方たちに活躍の場を公平に提供しようと考えています。

年間約30人が正社員に転換

社員のキャリア支援施策の代表的なものは、「ルートチェンジ」「キャリアマネジメント制度」「ジョブコンペティション」の3つです。

「ルートチェンジ」は、いろいろな雇用形態の方たちが自分が今いる雇用形態以外のところに移る仕組みです。総合職至上主義ではなくて、正社員が自分のライフイベント、また、キャリアの考え方によって契約社員になる場合もありますし、もちろん契約社員や専門職社員で入った方が総合職をめざして試験にチャレンジできる制度でもあります。いろいろな選択肢を用意しながら、「どこを選択するかはそれぞれの責任で決めてください。選ぶのはあなたですよ」という考え方に基づいた仕組みです。この転換制度は実際、新卒の採用と同じぐらい総合職の社員を確保する大きなチャネルになっていて、年間30人ぐらいがこの仕組みを使って正社員(総合職、専門職社員)に転換しています。

「キャリアマネジメント制度」は、全総合職社員を対象にキャリアに関するヒアリングを行うもので、過去に何をやってきたかの振り返りをしてもらいつつ、今後について自己申告をする制度です。ここで、介護や育児など、配慮してもらいたい事項の吸い上げも同時に行っています。実は、社員との面談が弊社は全然できていなかったので、今後は、昇格試験のタイミング以外にも、社員と向かい合って面談をする機会をつくっていこうと考えています。

3つ目の「ジョブコンペティション」は、クレディセゾンらしい制度で、これは全課長職以上が、来年度は何をやりたいのかを、人事部長と社長に申告する仕組みです。新設のポジションを提案するのもオーケーですし、逆にもう役職から降りたいということでもオーケーということにしています。幹部の大きな人事異動等があるときには、まずこれをみて誰が何をやりたいのかが一番優先され、かなり重要視される仕組みになっています。

そのほか、まだ役職についていない一般職層を対象に、先輩たちがどんな働き方をして、どんなキャリアだったのかということを知るためのラーニングカフェという、ちょっとカジュアルな感じで先輩の仕事の内容と過去のキャリアや、どんな仕事をしてきたのかなどの話を聞いたりディスカッションする機会を夕方から設けています。多様性を保つ意味でも、いろいろな先輩たちのそれぞれのキャリアについて、とくに採用活動のタイミングなどでは、社員もみますので、社内報などいろいろなチャネルで、うまく紹介していくことを心がけています。

活躍するには「夢中力」を持つしかない

シート3 多様性をよしとする仕組み「夢中力シリーズ」

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キャリアについて基本になる考え方は自律型社員の育成です。一言で言うと「あなたが選んだのですよね」ということを人事部が言えるようにしています。

「活躍するには、目の前の仕事に夢中になるか、夢中になれることを仕事にするしかない」。これは社長の言葉ですが、この2種類しか仕事の仕方ってないですよと。自分がおもしろいと思ってきたことを仕事に引っ張ってくるのか、いま目の前にあることに没頭する能力を持つのか。これを「夢中力」という言葉で表しています。採用の適性検査を「夢中力診断」と名づけ、自己申告制度を「夢中力チャレンジ」と呼び、自分の「夢中力」がどの程度なのかを360度評価する「夢中力アセスメントプログラム」を導入しています(シート3)。

360度評価で伸ばすべき夢中力を導く

この360度サーベイは、役職者だけでなく、一般職の方たちも含めて全正社員に実施しています。一般職社員は部下がいないので、実際には180度サーベイになります。本人が回答して欲しい人をマックス6人、もちろん上司だけでなく、同僚とか部下のいる人はそういった人たちも含めて依頼します。高業績社員のコンピテンシーから抽出した28項目結果について評価をもらい、社内のハイパフォーマーの行動パターンから分類した7つのキャラクターに当てはめて、それぞれの「夢中力タイプ」を導き出します。たとえば、いざというときに矢面に出る「兄貴・姉御キャラ」、ひそかに闘志を燃やす「インテリガテン系」、気配りで活躍する「メンバー思いキャラ」、どんな苦境にあっても結果を出す「何とかしますキャラ」などです。これは、自分自身の認識と周りから見たキャラクターが同じ人もいますし、違う方もいます。

この「夢中力アセスメントプログラム」は、人事考課にはまったく反映させません。アセスメントによって、自分で伸ばすべき点がみつかれば、それをそれぞれの目標管理の項目に組み込んでいくということです。私はこの360度アセスメントについて、「社員に自分を見る手鏡を渡すようなもの」だと言っています。自分がどのようにみえるか理解し、必要があれば自分自身で目標を決める、成長の糧にして欲しい、そんなきっかけとなるツールだと考えています。

また、アセスメントの結果については、自分と周りの評価者、評価の高低の4象限でも表示して、自身の評価が客観的に理解できるようにしています。これには結果に応じた応援のコメントを付します。どのキャラクターだからベストというわけではありません。いろいろなキャラクターがチームの中にいて、結果、いいパフォーマンスが出てくるよねという考え方をもとにつくられているものです。キャラクターをつけることによって社員同士も「何キャラだった?」というのを口にするようになります。違っていいよねという考え方を浸透させるにも、ちょっと手前みそにはなりますが、かなり効果的なツールだと考えています。