事例報告①
イオンの多様な人材の活用について

講演者
石塚 幸男
イオンリテール株式会社取締役専務執行役員
フォーラム名
第77回労働政策フォーラム「多様な社員の活用を企業の成長力に」(2015年3月12日)

イオングループでは、イオン株式会社が純粋持株会社であり、この純粋持株会社のもとに、中核事業である総合スーパーなど複数の事業があります。

現在、利益ベースでみると、イオンカードなどの総合金融事業や、イオンモールという名称で東南アジアや中国でショッピングセンターを展開するディベロッパー事業などが伸びています。

2012年から、日本と中国、アセアンでの3本社体制をとっております。昨年2月期の決算で、連結営業収益は6兆3,951億円、連結企業が263社、グループ従業員数は約42万人です。

海外では、東南アジア、中国を中心に13カ国で事業を展開しています。もともと、1970年に関西を中心とした地方スーパー3社が合併してジャスコという会社が設立されました。当時、営業収益は563億円でしたから、この間、110倍の成長を遂げてきたことになります。

合併の歴史が多様性の土壌

現在、アジアシフト、大都市シフト、シニアシフト、デジタルシフトという4つの事業シフトを推進していくことを戦略の柱に置いており、総合小売業だけではなく、ディベロッパーや金融事業、あるいは専門、サービス事業についてもシフトを意識しながら戦略を進めています。実は、多様性ということを語るときに、そのルーツとなるのが、私どもイオンの合併の歴史だと考えています。

ジャスコ誕生以来、100社を超える企業といわゆるM&Aという提携・合併を繰り返してきました。異質なものを受け入れる土壌がうまく機能し、相手を等しく尊重するというポリシーのもとに、多様性を受け入れる価値観が醸成されてきたおかげで、100社以上と合併しながらも、派閥はございませんし、出身企業による差別もありません。

基本理念は、「お客さまを原点に平和を追求し、人間を尊重し、地域社会に貢献する」です。そして、その根幹にある人事の理念としては、「国籍・年齢・性別・従業員区分を廃し、能力と成果に貫かれた人事」「継続成長する人材が長期にわたり働き続けられる企業環境の創造」であり、合併企業であるがゆえに、基本的には多様性を受け入れ、従業員を区分しないとしています。

昨今、多様性を考えるときには、外国人人材と女性を抜きにして人事は語れないと考えています。1980年代からいかに女性を戦力化していくかということについて取り組みを進めるなか、一昨年の株主総会で弊社CEOが、株主に対して2020年には女性の管理職比率を50%にするというコミットメントをしました。「いろいろなことをやってきたけれども、できない理由ばかり並べて今一歩踏み込んでいないじゃないか。だから、株主に宣言することによって、背水の陣で本気でやろう」ということで、日本一女性が働きやすい会社をめざし取り組みをスタートさせています。

具体的には、グループ主要65社にダイバーシティ推進の組織を立ち上げて、とにかくこの1年間でどうするかについて、徹底的にトップマネジメントから現場の働く人たちの声まで集約し、グループとして推進していく体制を整えました。

その1つの形となったのが、NPO法人「J-Win」が主催するダイバーシティ・アワードの今年の「ベーシックアチーブメント部門大賞」の受賞です。このときの受賞スピーチで、イオンリテール社長の岡崎が、「海外で事業を展開していると、女性が管理職の半分以上を占めるなんて当たり前である。それを日本で30%だ、50%だと言っていることに驚きを感じている」とし、「今、イオンリテールという会社では、女性が1人も参加していない会議については即刻その場で中止をさせます」ということを宣言したところ(実際にはもうやっているのですが)会場は拍手喝采に包まれました。

パートタイマーに正社員と同等の教育と昇格機会

いわゆるパートタイマー社員の活用をどのように考え、これからどう考えていくのかに焦点を絞って話をします。

小売業の中核企業であるイオンリテールでは、パートタイマーの比率は、労働時間換算で約80%、働いている人の数でいうと88%です。

パートタイマーの制度については、当初は既婚女性の社会進出、あるいは就業ニーズの高まりに乗じて、良質で安価な労働力を確保するとして積極的な採用を行っていたのですが、このときはまだ、パートタイマーは社員の補助的役割という位置づけでした。そして、1980年代後半から、積極的な活躍をしてもらおうと職務拡大を徐々に行ってきましたが、まだ単一職務を任せるというレベルであり、マネジメントや経営の参画はありませんでした。

2000年以降、パートタイマーの人事制度を「コミュニティ社員制度」と名称を変更し、従業員区分にかかわらず、能力や成果、意欲で役割や仕事を決め、それに応じて待遇を決めるという制度を導入しました。あわせて、このときに教育の機会や資格登用の機会を平等化し、パートタイマーの方も正社員と同様の教育を受け、登用試験を受けることができるようにしています。パートタイマーから正社員への転換実績はすでに500人を超えており、現在、その予備軍といえる人たちも約5,000人います。

この制度は意欲のあるパートタイマーにとってはまさにガラスの天井を取り払うことであり、子育てが終わり、時間的にも余裕がとれ、もっともっといい仕事をしたいという方にとって非常にマッチした制度変更となりました。現在は、10億円を超すような売上の店のストアマネジャー、店長を任される社員も出てきています。

もっと意味があったのは、実はいわゆる正社員側で、これまでは昇格試験は正社員という資格を持っている人たちが受験をしてきたのですが、コミュニティ社員制度が導入されたことで、パートタイマーの方も同じ土俵で勝負するようになり、「これはうかうかしていられない」ということで、のほほんとしていた正社員の方も少し刺激を与えられ、自らのキャリアを見直す良い機会になりました。

資格制度を一本化

シート 資格・教育・訓練制度
(時間給制での入社~経営者まで)

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シートは当社の資格・教育・訓練制度について示したものです。資格は、時間給制のパートタイマーと、日給月給制のいわゆるフルタイマーの契約社員、そして社員とで、制度がつながっており、入社からマネジメント層、経営層まで一本化されています。資格に対応した教育の機会も同じように与える制度になっています。

パートタイマーで入社する場合は、C1資格に位置付けられます。定期採用で入社する大卒(学部卒)についてはJ1、中途入社はそれぞれのキャリアを考慮してグレードが決まります。

地域限定の社員でも、M3まで到達することができます。M3は、小規模店舗の店長を任される資格です。

時代の変化とともに経営環境も変わっていますので、人間尊重の経営という人事の理念のもとに、多様な人材が活躍できる制度や仕組みを今後も導入していきたいと考えています。

従来の少数のマネジメント層で、大多数のパートタイマーをマネジメントし、ローコストオペレーションで成長・発展を遂げるというビジネスモデルは、もうすでに日本国内では終焉しましたので、いかに付加価値型の経営へ転換していくかということが課題であり、人事制度そのものを現在抜本的に見直す時期にきています。

今、イオンリテールで働く約13万人の中で9万人はパートタイマーの方です。実はここが今後、宝の山になります。

ダイバーシティの推進とともに、ライフステージの転換の中で、企業側からもっと人材を発掘していけばよいと考えています。そのひとたちがさらに、弊社の中で活躍をしたいと思ってもらえるような制度をこれからもつくり、導入していきます。