事例報告2:三越伊勢丹「メイト社員」人事処遇制度の概要
24年改正労働契約法への対応を考える 
第72回労働政策フォーラム(2014年3月10日)

事例報告2 三越伊勢丹「メイト社員」人事処遇制度の概要

西久保 剛志  株式会社三越伊勢丹ホールディングス経営戦略本部人事部人事企画担当マネージャー

写真:西久保氏

本日は、三越伊勢丹の事例をお話しします。従業員の雇用形態は、大きくは社員、メイト社員、フェロー社員、エルダースタッフ、スペシャリティスタッフ、アルバイトの6つに分かれます。

図表1 従業員体系〈雇用形態全体〉

図表1[画像のクリックで拡大表示]

社員は無期雇用の月給制フルタイムで約5,600人です。メイト社員は月給制のフルタイムで約2,000人、入社して3年目までは有期雇用が継続しますが、4年目から全員自動的に無期雇用に転換します。フェロー社員は、時給制の契約社員で3,300人程います。こちらはまだ有期雇用となっています。この3つの雇用形態が、中心的に働いている従業員です(図表1)。

一方、エルダースタッフは定年後の再雇用で、60歳から65歳の人達が時給制で働いています。スペシャリティスタッフは、個別契約で特別な業務を担う人達です。アルバイトは、お中元、お歳暮のときなどに、2カ月以内の短期業務に携わる方です。臨時のアルバイトを除くと、全体で約1万2,000人が働いています。アルバイト以外は、すべて組合員化しています。

メイト社員の無期雇用化の背景

図表2 従業員体系〈主要雇用形態制度比較(契約内容・給与体系)〉

図表2[画像のクリックで拡大表示]

メイト社員の無期雇用化は、リーマン・ショック前にその導入を決めて、2010年度からスタートしました。

その当時、入社したメイト社員が、数年で他社に引き抜かれ、社員になるケースがありましたので、それに歯止めを掛けるためにも、無期雇用化していくこととしました。

メイト社員は、4月と10月の2回にわけて定期採用しています。4月は新卒で、短大卒、専門学校卒、高校卒の方が中心となりますが、最近では大学卒の方も採用しています(図表2)。

異動については、社員は出向を含めた大きな異動がありますが、メイト社員は、異動の範囲が異なり、他エリア・他コースへの異動はありません。他エリアについては、たとえば、新宿店のメイト社員であれば、新宿店から異動することはありません。他コースについては、社員の場合は、たとえば、販売部門から外商の営業部門や後方部門に異動することがありますが、メイト社員にはそれがありません。

メイト社員の処遇

処遇については、社員は評価と昇格に応じて昇給しますが、メイト社員は、評価に応じて昇給します。昇格はありません。

賞与については、基本賞与と業績連動賞与の2本立てで、社員もメイト社員も同じ仕組みとなります。

職務による処遇の差は、本給・賞与のどちらにも反映されますが、社員は職務別テーブルで、メイト社員は職務別手当で反映しています。

退職給付は、社員は退職一時金と確定拠出年金を導入しています。一方、メイト社員には、確定拠出年金を導入しています。確定拠出年金は、無期雇用化した2010年度にすべてに導入しています。

雇用形態で異なる期待役割

メイト社員とフェロー社員は、キャリアアップする制度があります。

フェロー社員からメイト社員へのキャリアアップは、年1回募集、審査の上、毎年数十人単位でメイト社員になっています。同様に、メイト社員から社員にも転換制度を設けており、毎年、数十人単位で社員になっています。

図表3 従業員体系〈雇用形態ごとの担う役割の範囲=期待役割〉

図表3[画像のクリックで拡大表示]

フェロー社員とメイト社員と社員では、期待される役割が違います。フェロー社員は、リーダー・サブリーダーには携わりません。メイト社員は、担当のリーダー、サブリーダーを、社員はアシスタントセールスマネージャー、セールスマネージャーを担う期待役割を持っています。

婦人靴売場で例えると、年齢がすこし高いお客様向け、あるいは若いお客様向けなどの担当におけるリーダー格までは、メイト社員に担ってもらう整理をしています。一方で社員は売場全体のマネジメント業務を担う期待役割を持つことになります(図表3)。

雇用形態で期待役割が異なることから、フェロー社員からメイト社員に転換するには、担当のリーダー、サブリーダーを担う要件、期待役割を持っていることが審査基準になります。

同じように、メイト社員から社員への転換も、セールスマネージャー、あるいはアシスタントセールスマネージャーを担える期待役割を持っていることをベースに審査します。そのため、面接だけでなく、グループディスカッションなども審査項目に入れています。

社員との整合性が制度設計のポイント

制度設計をするにあたって、一番気にしていたのは、社員の制度設計、位置づけです。たとえば、新卒で入社した社員が、いきなりアシスタントセールスマネージャーになることはありません。最初は販売員からスタートして、1、2年でサブリーダー、リーダーになり、その後、アシスタントセールスマネージャーになり、昇格試験を受けてセールスマネージャーになります。

社員のなかには、リーダーもいれば、販売員もいます。同じくメイト社員にもリーダーと販売員がいます。たとえば、社員とメイト社員がリーダーとして同じ仕事をしていたと想定します。「社員の場合はここまでの範囲を、メイト社員はここまで」と分けることはできません。つまり、それによって処遇をあまり変えるべきではないと考えています。

社員とメイト社員は、月例給テーブル上限は基本的には同じです。社員とメイト社員のリーダーになった方の月例給上の上限の位置づけは、同じにしてあります。ただ、異動の範囲が違うので、この分は、賞与、退職給付水準で差を設けています。なお現在は、メイト社員を無期化して、そこからリーダーが生まれている段階なので、社員に順次近づけていることも行っています。

このように制度設計では、社員との整合性が常に求められるので、実は社員の制度設計が肝となります。

長期に安心して働けるメイト社員

図表4 メイト社員制度の内容〈キャリア形成支援に向けた取組み〉

図表4[画像のクリックで拡大表示]

メイト社員は、1年目、2年目、3年目は1年刻みで契約しています。なお高校卒は3年契約としています。3年目の契約が終了し、4年目になると無期雇用となります(図表4)。

エリア間異動、コース間異動は、原則無しとなっています。これにより、メイト社員は転居の心配がなく、幅広い職種・領域で、長期に安心して勤務することが可能となります。

メイト社員のキャリアパスについて、社員転換に際しては、所属長および本人のやりたい意思を確認したうえで、受験者を決定し、会社が説明会を開催して、採用審査、内定、4月の入社の運びとなります。

求める人材像は、アシスタントマネージャーを近い将来担える人材、応募要件は、無期雇用のメイト社員で職務ポストを担い、成果を発揮していることと本人の希望です。そのため、既にリーダーをやっている、あるいはサブリーダーをやっていることが、事前要件となります。それ以外はとくに要件はなく、無期のメイト社員は誰でも応募できます。年齢制限も設けていません。

キャリア形成支援に向けた取り組みも

メイト社員のキャリア形成支援に向けた取り組みでは、教育研修制度があります。教育研修制度は、社員もメイト社員もフェロー社員も基本的には同じメニューです。

社員で入っても、メイト社員で入っても、時期の違いはありますが、入社1年以内にすべて同じ基礎教育を実施しています。基礎教育では、販売サービスを中心とした基礎知識を学びます。基礎教育以外では、職務別教育、領域・資格別教育も実施しています。

一方、福利厚生についても、育児休職、育児勤務制度は、社員とメイト社員はまったく同一です。有給休暇が失効した場合に、会社でストックして、緊急時に使える制度、そのほか出産で退職して、もう一度採用するときのルールもすべて同じにしています。以上のように、メイト社員については、いろいろな制度を整えてきています。