事例報告1 ダスキン労組における有期契約社員の雇用安定に向けた取り組み
24年改正労働契約法への対応を考える
第72回労働政策フォーラム(2014年3月10日)

事例報告1 ダスキン労組における有期契約社員の雇用安定に向けた取り組み

下 二朗  ダスキン労働組合中央執行委員長

写真:下氏

ダスキンは、従業員のことを「働きさん」、給与のことを「お下り」、賞与のことを「ご供養」と呼ぶ少し変わった会社です。

ダスキン労働組合の設立は1999年6月です。現在、組合員数はダスキン単体で約2,000人、グループ企業も合わせると約3,000人です。そのうち、非正規労働者の組合員は、1,180人となっています。設立から3年間は、経営側から不当労働行為を受けるなど厳しい状況が続きました。

状況が変わったのは、2002年5月に当社の事業部門のひとつであるミスタードーナツで扱っていた中国産肉まんの原材料に国内で認可されていない食品添加物が使われていることを知りながら、それを隠蔽して販売を続けていたことが発覚し、社会的な問題となった時です。

「協力」路線の労使関係を

図 社員区分について

図[画像のクリックで拡大表示]

組合としては、このままでは会社の存続自体が危ぶまれると判断し、社内改革を進めるため、経営側と交渉の末、ダスキン再生委員会の設置を決めました。委員長には、ダスキン労組の上部団体であるゼンセン同盟の高木剛会長(当時)からの紹介で、元日弁連会長の中坊公平氏に就任していただきました。

改革を推進する中で、中坊先生から教えられたことは、今後の労使は「協調」路線ではなく、「協力」路線を取らなければならないということでした。われわれは中坊先生が座右の銘とした「現場に神宿る」を教訓に、常に組合員の声を聞きながら、職場訪問などに力を入れています。ダスキンには全国に400カ所を超える事業所があり、すべてを訪問することは難しい状況ですが、支部役員、代議員、職場委員などから意見を吸い上げるよう努めています。

は、ダスキンの社員区分を示したものですが、現在、「正働きさん」「限定働きさん」「定時働きさんA」「定時働きさんC」「定時働きさんD」「アルバイト」の6つの区分があります。うち、まだ組織化できていない「定時働きさんD」「アルバイト」に対しても、組織化に向けて準備を進めているところです。

有期雇用社員の正社員登用制度を導入

さて、ここからは、これまでの有期雇用社員の雇用安定に向けた取り組みについてご紹介します。2009年春闘では、団体交渉の結果、正社員への登用制度を導入することが決まりました。この制度のもとで、有期雇用社員が希望すれば、正社員採用試験を受験できるようになりました。受験資格は、勤続3年以上、40歳以下の社員に限られており、全非正規雇用者が対象となっていませんが、制度導入により毎年多数の有期雇用社員が正社員に登用されています。

また、2010年春闘では、組合員範囲の拡大に取り組み、先ほどご紹介した図の「限定働きさん」「定時働きさんA」「定時働きさんC」もパートタイム労働者の組合員として組織化することに成功しました。現在は、関係会社の組織化にも取り組んでいます。また、新たに夏期・冬期の一時金制度を創設し、正社員との所得格差を一部是正しました。

2011年春闘では、有期契約社員の一時金の増額を要求し、契約社員(「限定働きさん」)は5万円を7万円に、パートタイム社員(「定時働きさんC」)は3万円を5万円にそれぞれ引き上げることで妥結しました。11年春闘では、ボランティア休暇の導入も勝ち取っています。

今日のメインテーマである有期雇用から無期雇用への転換に向けた取り組みについてご報告します。過去の判例をみると、反復更新を3回以上繰り返すと、事実上無期の雇用契約を締結したとみなされるとした例が散見されたことから、組合では「1年契約をいつまでも繰り返してよいものだろうか」との問題意識を抱えるようになり、労使間で協議を重ねてきました。

改正法を上回る内容で労使協議を締結

労使協議の結果、2010年からは、労使協定は結んでいないものの、3年目を迎える契約更新時には無期契約に切り換えることとし、それ以降は慣例的に行ってきました。したがって、有期労働契約が5年を超えて反復更新された場合に初めて無期労働契約への転換申込権が発生するとされる改正労働契約法は、私どもからすると内容的に後退したものといえます。

そこで、2013年春闘における団体交渉では、「同一の有期労働契約が3年を超える場合は、契約更新の際に本人からの申し込みいかんにかかわらず、期間の定めのない労働契約に転換させる」との改正法を上回る内容で労使協定を締結し、就業規則も改正しました。しかし、18ある関係会社では依然、改正法と同水準で運用されており、これらにも法を上回る内容での運用を拡大していくことが今後の課題となっています。また、ダスキン労組では、明確な理由がない限り、3年未満の雇い止めを認めない方向でチェックする必要があると考えており、2014年春闘でも経営者側と協議する予定です(※)。

※2014年春闘における非正規雇用組合員の処遇改善交渉では、ベア0.7%の獲得、期末ご供養(決算一時金)の原資配分の見直しによる、支給額の増額に向けて継続協議を実施することの合意、正社員登用制度の適用対象の拡大(定時働きさんCを新たに適用)を獲得した。