調査報告:有期契約社員の法改正後の活用状況に関する調査結果
24年改正労働契約法への対応を考える 
第72回労働政策フォーラム(2014年3月10日)

調査報告 有期契約社員の法改正後の活用状況に関する調査結果

渡辺 木綿子  労働政策研究・研修機構主任調査員補佐

私からは、改正労働契約法に企業がどのように対応しようとしているかについて、2013年にJILPTが実施した「高年齢社員や有期契約社員の法改正後の活用状況に関する調査」結果を通じ、ご報告したいと思います。

本調査は、改正労働契約法が全面的に施行された2013年4月から、3カ月を経過した時点における企業の対応状況や、それが有期契約労働者の雇用管理に与える影響などを把握するため、同年7月下旬から8月にかけ実施したものです。対象は、常用労働者を50人以上雇用している全国の企業2万社であり、7,179社の有効回答を得ました。

企業の属性をみると、主たる業種については「製造業」が27.8%、「サービス業」が23.6%、「卸売業、小売業」が19.4%などとなっています。雇用者規模については、「300人未満」の合計が78.2%を占めています。労働組合については過半数代表かどうかにかかわらず、「あり」が23.8%です。

図1 有効回答企業の属性 改正労働契約法の認知度

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労働契約法が改正されたことについての認知度を聞いたところ、「改正内容まで知っている」が6割を超えました。また、「改正されたことは知っているが内容はよく分からない」が約3割でした(図1)。

無期転換に前向き フルタイムが約42% パートタイムで約36%

こうした前提を踏まえ、企業にいわゆる「無期転換ルール」への対応方針を聞きました。有期契約労働者と一口にいってもさまざまなタイプがありますが、本調査では雇用している有期契約労働者が、定年再雇用者か臨時労働者のいずれかのみという企業を除いたうえで、フルタイム契約労働者、パートタイム契約労働者のそれぞれについて、調査時点でもっともあてはまる対応方針を1つ答えてもらいました。

その結果、フルタイム、パートタイムを問わず、もっとも回答割合が高かったのは「対応方針は未定・分からない」で、それぞれ38.6%、35.3%となりました。次いで高かったのは「通算5年を超える有期契約労働者から、申込みがなされた段階で無期契約に切り換えていく」であり、フルタイムで28.4%、パートタイムで27.4%となっています。これに「有期契約が更新を含めて通算5年を超えないよう運用していく」が、それぞれ14.7%、12.9%で続きました。

図2 改正労働契約法の無期転換ルールへの対応方針

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図3 無期契約への転換方法

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図4 無期契約に転換するメリットと課題

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なお、何らかの形で無期契約にする意向がある企業を合計すると、フルタイムでは42.2%、パートタイムでは35.5%となっています(図2)。また、無期契約にする意向がある企業の中では、同法の規定を上回る対応にも前向きな割合が半数超にのぼっていました。

4社に1社が正社員以外の無期契約区分を活用

それでは、何らかの形で無期契約にする意向の企業は、具体的にはどのような形態を考えているのでしょうか。フルタイム、パートタイムにかかわらず、もっとも回答割合が高かったのは「(新たな区分は設けず)各人の有期契約当時の業務・責任、労働条件のまま、契約だけ無期へ移行させる」で、それぞれ33.0%、42.0%となりました。次いで高かったのは、フルタイムでは「既存の正社員区分に転換する」の25.9%、パートタイムでは、「正社員以外の既存の無期契約区分に転換する」の16.2%でした。

なお、正社員以外の無期契約区分を活用する企業は、既存・新設を合わせてフルタイム、パートタイムそれぞれ4社に1社程度となっています(図3)。

何らかの形で無期契約にする意向の企業では、そのメリットや課題をどう考えているのでしょうか。メリット(複数回答)については、約9割の企業が何らかの回答をあげました。具体的には「長期勤続・定着が期待できる」が61.2%でもっとも高く、これに「有期契約労働者の雇用に対する不安感を払拭し、働く意欲を増大できる」(56.5%)、「要員を安定的に確保できるようになる」(37.0%)などが続きました。

一方、雇用管理上の課題(複数回答)についても、約9割が何らかの回答をあげています。上位から「雇用調整が必要になった場合の対処方法」(55.6%)、「正社員と有期契約労働者の間の仕事や労働条件のバランスの図り方」(41.4%)、「業務量の変動に伴う、労働条件の調整方法」(33.8%)、「正社員の新規採用に対する影響」(30.1%)などとなっています(図4)。

無期転換後の処遇・労働条件はどうなるのか

転換先となる無期契約区分の処遇・労働条件を、どのように設定しようとしているかについても聞きました。本調査では、無期転換ルールが法律上、処遇・労働条件の引き上げまでを求めるものでないことを注記したうえで、現時点の考え方を尋ねています。その結果、職務については「限定しない」とする回答(52.2%)、配置転換については「することがある」という割合(63.2%)が、有期契約労働者の現状(同順に44.7%、56.3%)よりともに増加しました。

また、現状で役職者がいる企業は19.1%ですが、転換先で役職に登用する考えの企業は28.7%と大幅に増加しています。

転換先で教育訓練を行う割合(68.7%)は、現状(65.1%)からやや微増にとどまるものの、その内容については「より高度な職務に就くためや自己啓発支援を含む」とする割合が、35.9%と現状(25.2%)に対して大きく増えています。

基本賃金については、転換先では月給制とする割合が4割を超えました。また、基本賃金の水準についても「正社員と同じかそれ以上」とする割合が、現状の19.7%から転換先では29.6%と大幅に増加しています。その他の処遇をみても、賞与、退職金のほか、家族手当や住宅手当などを支給・適用する企業の増加がみられます。

ここまで改正労働契約法の第18条をめぐる対応について、何らかの形で無期契約にする意向があると回答した企業の結果を掘り下げてきました。しかし、先ほどご紹介したとおり、一方では無期転換ルールに対し「有期契約が更新を含めて通算5年を超えないよう運用していく」とする企業も、フルタイムで14.7%、パートタイムで12.9%みられました。

図5 通算5年未満への抑制方法

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こうした企業では、具体的にはどのような方法をとろうとしているのでしょうか。有期契約を通算5年未満に抑制するための方法を複数回答で聞いたところ、もっとも回答割合が高かったのは「更新回数上限や通算勤続年数等で制限する」の67.0%で、これに「契約更新時の判断(人物や働きぶり等の選別)を厳格化する」(43.4%)などが続きました(図5)。

契約更新の上限設定におよぼしている影響は限定的

このほか、本調査では改正労働契約法が有期契約労働者の雇用管理に及ぼす影響についても検証しました。

まず、フルタイム、パートタイムの各雇用企業に、契約更新の回数上限や通算勤続年数上限の設定状況を聞きました。その結果、何らかの上限を設けている割合はフルタイムで10.1%、パートタイムで6.5%となりました。これらの上限がいつからあるか尋ねると、「改正労働法の全面施行に伴い、新設した」とする割合はフルタイムで3.3%、パートタイムで3.0%と、調査時点ではまだ限定的であることが分かりました。

次に、改正労働契約法の施行に伴い、正社員に転換する制度・慣行について、何らかの見直しを行う予定があるか聞きました。結果として、もっとも回答割合が高かったのは「見直し方針は未定」で半数を超え(52.1%)、これに「見直し予定はない」が22.3%で続きました。

「今後の見直しを検討中」(18.6%)と「既に見直しを行った」(3.6%)は、合わせても2割超でした。見直し内容を具体的に聞いたところ(複数回答)、「正社員への転換制度・慣行の新設」が半数弱でもっとも高く、改正労働契約法の副次的な効果がうかがえました。他方、「必ず無期契約区分を経由」や「正社員への転換要件を厳格化」といった影響も、それぞれ3割程度みられています。

20条関係では3社に1社が「見直し予定なし」

本調査では、改正労働契約法の第20条として新たに盛り込まれた、有期契約労働者と無期契約労働者の間で期間の定めがあることによる、不合理な労働条件の相違を禁止するルールについても、雇用管理上どのように対応したか確認しています。

図6 有期・無期契約労働者間における労働条件の不合理な相違を禁止するルールへの対応方針

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結果をみると、「見直しを行うかどうかを含めて方針未定」とする企業が約半数でした。次いで高かったのは「見直し予定はない(現状どおりで問題ない)」で、3社に1社となっています。「既に見直しを行った」あるいは「今後の見直しを検討している」は1割弱にとどまりましたが、その内容(複数回答)は「賃金関係」が5割を超え、「通勤手当の支給関係」や「退職金の支給関係」「有給休暇の付与関係」もそれぞれ2割程度みられました(図6)。

このように、今回の調査では労働契約法の改正ポイントをめぐる企業の対応状況を明らかにしましたが、あくまで全面的な施行より3カ月を経過した時点での把握に過ぎません。また、調査結果でも「対応方針は未定・分からない」とする企業が多くみられたことから、今後も時宜を捉えて同様の調査を行い、引き続き動向を注視する必要があることを強調しておきたいと思います。

そのうえで、今回の調査結果で無期転換に前向きな企業が多くみられたことは意外であり、本日ご来場いただいた皆さまも、恐らくは同様に感じられたのではないでしょうか。そこで最後に、無期転換に前向きな企業も多いという事実は本当なのか、だとすればそれはなぜかといった点に触れ、報告を締めくくりたいと思います。

改正労働契約法への関心の高さから、当機構以外にもさまざまな機関、団体が無期転換ルールへの対応に関する調査を実施しています。調査対象や回答方法が異なるため、一概に比較することはできませんが、総じて当機構の調査結果と同様、無期転換に前向きな企業も決して少なくないという結果がみて取れると思います。

企業はなぜ無期転換に前向きなのか

それでは、企業はなぜ無期転換に前向きなのでしょうか。今回の調査では、アンケート結果を掘り下げるため、企業の人事担当者に対するインタビュー調査も実施しました(改正労働契約法に企業はどう対応しようとしているのか―インタビュー調査結果から(PDF:593KB))。そこから得られた知見を少しだけご紹介したいと思います。

まず、無期転換に前向きな企業の中にはそもそも契約更新の回数上限を定めておらず、反復更新を繰り返してきた企業も少なくありませんでした。そうした企業にとっては、無期転換ルールはすでに実質無期状態にあると認識してきた対象者を、契約面で適正化する機会になると捉えられているようでした。

また、改正労働契約法が求める無期転換自体は、処遇・労働条件の改善までを求めるものではありません。それならばむしろ、これを人材の定着促進や生産性の向上などにつなげた方が、合理的・効率的であるとも考えられているようでした。

さらに、無期転換後の契約主体は、本社だけでなく地域支社や各業態・事業、事業所単位など、さまざま可能性が模索されていました。これをどうするかによって雇用保障の強さを変えることができると考えられている点も、無期転換に前向きな要因の1つとして関係しているようでした。

また、先ほど無期転換ルールへの対応方針で、正社員以外の無期契約区分を活用する企業が一定程度、見られることを指摘しました。インタビュー調査においても、労働力人口の減少や少子高齢化の進展等が見込まれるなか、無期転換ルールを契機に多様な正社員区分を新設し、優秀な人材の囲い込みや採用力の強化、雇用ポートフォリオの見直しなどにつなげていこうとする動きもあるようでした。

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