事例報告2:社員と共に“一流の中小企業”を目指す
経営資源としての労使コミュニケーション福岡開催
第70回労働政策フォーラム(2013年11月6日)

事例報告2 社員と共に“一流の中小企業”を目指す

藤河 次宏  拓新産業株式会社代表取締役

会社概要

社名
拓新産業株式会社
代表取締役
藤河次宏
所在地
福岡県福岡市早良区早良2-10-6
事業内容
建設用機材・事務用備品・電気製品・OA機器のレンタル及びリース
創業
昭和52年4月
資本金
4500万円
社員数
80人(パート6人)

今日は、「社員とともに一流の中小企業をめざす」というテーマでお話します。当社は、完全週休二日制や、残業時間ゼロなど、いろいろ取り組んできています。どうしてそういう考えを持つようになったか、そのきっかけから始めます。

魅力ある職場づくりを考えるきっかけ

25年前、中小企業家同友会に入会しました。そのなかに、共同求人委員会があります。中小企業1社だけではなかなか大学生を採用しにくいので、共同で求人活動する委員会です。

当社はそれまで、中途採用しかしていませんでした。新卒採用ができるのであれば、ぜひ大学生を採用したいという希望がありました。共同求人委員会に入り、当時は、50社ほどが共同で採用活動をやっていました。福岡の大きなホテルのホールに50社も集まると、さすがに大学生が400人から500人近く訪れました。

ところが私のブースには、一人も学生が座りませんでした。大変なショックを受けました。屈辱感も味わいました。ほかの企業にはある程度の数の学生が座っているのに、何で私のブースには誰も座らないのか、このことがひとつのきっかけになりました。学生から求められるような魅力ある企業づくりを真剣に考えるきっかけになりました。

社員の基本的な権利を尊重する

もうひとつは、中小企業家同友会でいろいろ経営の勉強をしているなか、労使見解というものがあります。その中に、社員の基本的な権利を尊重することが書いてあります。社員の基本的な権利を尊重することは、イコール就業規則をきちんと守ることだということがわかりました。

そういう中小企業家同友会のなかで学んだ労使見解、社員の権利を尊重することと、きちんと職場改善をやらないと大学生は来てくれないことを実感しました。それらがきっかけとなり、25年前に職場改善を進めていこうと決心しました。

正直、当時はあまり就業規則にそれほど関心を持っていませんでした。とりあえず自社の就業規則を見たり、書店で就業規則の本や労働六法などを買い込み、それを辞書代わりにして、分からないところは調べながら、就業規則を改正して、改めて労働基準監督署に提出しました。これがスタートです。

完全週休二日制と有給休暇の完全消化を

就業規則のなかで、社員の一番の関心事は休みの問題です。当時も今も、中小企業では完全週休二日制の実現は、なかなか難しいものです。しかし、とにかく完全週休二日制に移行しようということで、一気にはできませんけれども、段階的に3年ぐらいかけて移行しました。

それと並行して、有給休暇を完全に消化しようということも合わせて、25年位前から、3、4年かけて移行していきました。

有給休暇については、それまで私もそれほど関心がなくて、いきなり社員に言っても、疑心暗鬼になり、「本当だろうか」とかいろいろ考えました。

そういう社員の反応を見て、私の本気度を社員にきちんと伝えなければいけないと思い、朝礼で3カ月に1回、年に4回、「有給休暇を完全消化してください」と社内に呼びかけました。

2年目からは、総務に有給消化の悪い人の名前をあげてもらって、3カ月おきに朝礼で名前を読み上げて、消化してくださいという呼びかけを3年間続けました。

さすがに3年も続けると、社内にある程度浸透してきました。総務の方でも、「社長、もう結構ですから、あとは私たちがやります」ということになりました。今でも、総務でこの取り組みを継続し、4カ月に1回、有給消化の悪い人の名前を読み上げて、呼びかけを続けています。人間は安心するとついつい忘れたりして、最後にまとめてとってしまうこともあります。業務に支障がないように定期的に有給を取得してもらうようにしています。

このような地道な取り組みを通じて、有給休暇も、完全週休二日制も、ある程度浸透してきました。もちろん、その間、営業部門では、「お客様がいなくなるんじゃないのか」とか、あるいは幹部になると「しわ寄せが自分たちに来るんじゃないか」とか、社内的にはいろいろな声があがりました。とはいえ、最終的には自分たちも休暇を取れるわけですから、社内的にはそんなに反発が続くことはありませんでした。

一番の問題はお客様でした。これはなかなか難しい問題で、基本的には繰り返し粘り強く説明し、お願いしていくしかありません。根本的には何か変えていかないとなかなか進まないということで、基本的な考え方を私からハッキリと伝えました。顧客満足から社員満足へシフトすることを、明確に私の口から社員に説明しました。それを忘れると困るし、営業は日常的にお客様からいろいろ言われますから、機会あるごとに繰り返し今でも言っています。

売上の小口分散化でカバー

顧客満足から社員満足へと基本的な会社の考え方を変えた以上、当然、営業戦略も変えました。当時、少数のお客様で売上の6割ぐらいを占めていました。それを、とにかく小口分散することにしました。どうしても理解いただけないお客様がいたとしても、1社当たりの売上をとにかくできるだけ少なくして、全体でカバーできればいいと考えたのです。当時10社近くで売上の6割ぐらいを占めていたのが、今では50社から100社で7割ぐらいを構成しています。

もちろん、お客様からは、嫌味や皮肉を言われたりしました。今でも、第一線の営業ではいろいろ言われています。とにかく当社独自の方針は社員にとっても良いわけですから、これはできるだけ守っていこうということで、今もやっています。

複数業務をこなせる体制づくりを

こうしたことで、完全週休二日制や有給消化がある程度社内に浸透していったわけですが、それと並行して、普段から複数の業務をこなせるように社員全員に訓練させています。今で言うなら、よく言われる星野リゾートのマルチタスクのようなことです。たくさんの業務、複数の業務をこなせるようにしておかないといけません。休暇取得者があちこちに出ることで、業務に支障をきたしては困るわけです。全社員である程度カバーしていくという体制をとらないと難しいのです。そういう意味で、当時から複数の業務を各自が経験していくようにしています。そういうことは大体浸透してきたと思っています。

休日出勤ゼロ、残業もゼロ

完全週休二日と有給消化がある程度浸透してきたので、15年位前から、休日出勤も残業もゼロにしようとする取り組みを進めてきました。それまでも、いろいろな取り組みを進めてきたこともあり、今は残業も休日出勤もなしです。お客様はまだいろいろ言われますけれども、それは当社の考え方なので、それを理解いただけないお客様が離れていっても仕方がないと思っています。そのかわり、営業には「新規の顧客をどんどん探してきて、離れていった分をカバーしなさい」、事務担当者には、「できるだけ他社よりも対応をよくしなさい」と言っています。

自主的な改善と工夫が広がる

写真:社員の様子
社員が自主的に改善や工夫に取り組んでいる(拓新産業提供)

一方、社内では、時間内で仕事を終わらせるにはどうしたらいいのかを自主的に考えています。会社が本気で取り組んできているわけですから、当然社員も理解しています。そうすると、社員の方も時間内にどうやって仕事を終了させるか、言わなくても自主的にいろいろな改善工夫をします。割増賃金が発生しないので、コストの抑制もできます。そういう意味でのプラス要因がたくさん出てきます。

10年位前に育児介護休業法が施行されましたけれども、当社にとってはまったく課題も問題もなく取得できています。それまでいろいろな取り組みをやってきているなか、当社の社員では毎年2人から3人が育児休業を取得しています。4人産んで育児休業を4回とった社員もいます。当然100%取得です。

社員が学生にアピール

こうした取り組みがある程度浸透してくると、社員が合同説明会やホームページなどで学生に自主的にアピールするようになります。その結果、たくさんの学生が説明会に来るようになり、見る見るうちに学生が増えました。

23年前から、毎年、新卒採用しています。新卒採用といっても中小企業ですから、毎年3人程しか採用しませんが、13年位前には、会社説明会に延べ400人近くが訪れました。今は町名変更で消えてなくなりましたが、会社所在地に大字がつくようなところにある会社に400人近くの学生が訪れ、説明会を20回近く開催しました。とにかくたくさんの学生が来ました。地元放送局のカメラが入り、テレビでもその盛況ぶりは放映されました。今でも毎年、150人から200人近くの学生が説明会に訪れています。「うちの会社は魅力がある会社なんだ」ということを肌で感じることができます。学生が毎年、「入りたい、入りたい」と言ってたくさん訪れる。それは採用活動だけではなくて、社員にとっても大変な刺激になりますし、モチベーションを上げるためにも、非常にプラスになります。

サークル活動でコミュニケーションを深める

毎年新卒が入ってくれば、新しい問題も出てきます。新聞などでも報道されていますが、新卒者は人間関係が一番不安ということが指摘されます。では、どうやったら人間関係が良くなり、風通しの良い、コミュニケーションのある職場になるのでしょうか。

大学などでは友達づくりのためのサークル活動が非常に盛んです。これを利用して、当社でも18年位前に、サークル委員会を立ち上げました。若い12、3人ぐらいの社員が中心になり、年に14、5回、いろいろな形でサークル活動を企画運営して、社内に声をかけてやっています。

そうすることにより、同じ職場ではない、普段は顔を会わせないような社員同士でも、サークル活動を通してコミュニケーションが深まれば、普段の業務の中でもその人間関係がうまく活かされてきます。

もう1つ、当社は、新卒を毎年採用しているので、大体1年おきに先輩がいて、人間関係を含め、いろいろな面でもコミュニケーションがとりやすい職場になっています。

社員研修でも、当社では、外部講師は呼ばずに自社内だけで実施しています。中小企業家同友会の取り組みを参考に、グループ討議が中心となります。新人研修は、ロールプレイングをやったり、いろいろ社内で企画提案をして、皆とコミュニケーションをとりながら研修を進めていくスタイルで行っています。自社内ですから、当然、社内の課題や問題点をテーマにいろいろ話し合うことになります。

そういう意味では非常に実務的にも役立ちますし、社内のコミュニケーションを深めることにも役立っています。

売上減でも利益は確保する

当社は建設機材のレンタルという業種ですから、ずっと長い間、デフレの中で苦しんできました。当社も底が2度あり、10年間ぐらいでピーク時より35%ほど、売上が落ちました。それから少し上がってきて、6年ぐらい前がまた底で、このときはピーク時から30%ぐらい下がりました。そしてやっと少し上がってきて、今年はアベノミクスのおかげかどうかわかりませんけれども、ある程度よくなってきました。とはいえ、今はまだピーク時より20%ぐらいは下がっています。それでも一度も赤字になっていません。なおかつ今年も含めて、9年間、決算賞与も支給し続けています。そういう意味では、夏冬の賞与と決算賞与の3回を、9年間ずっと続けてきています。

そういうことで、処遇面でもバランスのとれる企業になっているのかと思っています。

朝礼で社員の質問に答える

労使コミュニケーションということで言いますと、当社でやっているのが社長質問会です。これはうちの社員が10数年前から始めていることです。会社に対しての不満や批判など、意見があったらとにかく出してくれというものです。無記名で、総務の方が取りまとめます。今はパソコン、当時はワープロで全部打ちかえて社長の私の元に持ってきます。

無記名にすると、たくさんの意見が出ます。100件以上のいろいろな意見や批判が出てきます。似たような意見も多いのですが、それは総務で整理して、朝礼で1カ月ぐらいかけて社員に答えていきます。これも1つの労使コミュニケーションだと思っています。無記名なので、誰が言ったのか、あるいはちょっと意味がわからないところを聞きにくいというマイナス面はありますが、そういうことを通して労使のコミュニケーションを図ることを進めています。

そのほか、社長報告会があります。当社では財務あるいは、開示といって会社の決算書を見せてもわからない社員がたくさんいます。できるだけ模造紙に大きく簡単に書いて、若い社員でも多少理解できるように工夫をしています。家計をイメージして、収入と支出という言葉に置きかえ説明したりして、コミュニケーションを交わしています。

障がい者も積極的に採用

当社の場合は、ひとつは地域とのかかわりということで、1996年から毎年、地域の商工会に寄付しています。経常利益の大体1%前後ぐらいです。これで地域社会福祉活動振興基金というのをつくり、商工会のほうで、老人ホーム等いろいろなところで地域の福祉事業を行っています。その基金を当社が毎年拠出しています。当社では地域社会との共生ということを経営理念に掲げています。具体的な形で何らかのことをやっていきたいということもあります。

もう1つは、中小企業家同友会のバリアフリー委員会にもずっと携わってきました。養護学校から実習生の受け入れ要請があれば必ず受けています。今、知的障がい者が4人、発達障がい者が1人、計5人を雇用しています。当社では、障がい者雇用にも考慮しています。これらの取り組みが、企業の社会的責任にあたるのではないかと思っています。

最後に社員の声をご紹介します。

6年前に、5人の社員から、会社をぜひ後継したいという意思表示がありました。私の意見だけというわけにはいきませんので、全社員にアンケートをとりましたところ、ほとんどの社員が今の社風をぜひ引き継ぎたい、そのためにぜひ社内での後継をお願いしますということを回答してきました。社員とともに一流の中小企業をめざすという当社の考えが社内に浸透してきたことを肌で感じました。