講演2 女性労働の家族依存モデルの限界
アンダークラス化する若年女性:労働と家庭からの排除
第68回労働政策フォーラム(2013年7月13日)

山田 昌弘
中央大学 文学部教授/日本学術会議連携会員

写真:山田氏

私は家族の状況も含めて、お話ししていきたいと思います。まず、図表1で「若年女性をめぐるパラドックス」をみていきます。1950年代終盤ぐらいから、生活満足度をはかる調査が内閣府でほぼ毎年行われていまして、1990年頃から20歳代女性の満足度があらゆる世代、性別の中でもっとも高くなっています。

図表1 生活に満足している人の割合(%) → 生活満足度の高い若年女性

  20代 30代 40代 50代 60代 70代以上
女性 75.2 70.5 60.4 58.9 67.2 69.5
男性 65.9 59.2 55.5 51.1 64.7 70.7

(内閣府国民生活に関する世論調査 2012年10月)


図表2 未婚20代の就労状況 → 若年女性(男性も)、正社員率が低く、失業率も高い

図表2グラフ「未婚者の正社員率・無職率(女性)」

国立社会保障・人口問題研究所 出生動向調査(2010)より作成

図表2 拡大表示

しかし、客観的現実では、今、もっとも不利益を被っている層は20歳代女性なわけです。仕事は低収入で不安定。非正規雇用者率は高いし、結婚したくても、相手がなかなか見つからない。なおかつ、アンダークラス化の兆候がいろいろなところでみえています。とくに、ここ10年ぐらいの間で20代女性の自殺率が1.5倍になりました。

図表2は出生動向調査を再集計したものですが、1992年ごろは、未婚者に限りますが、正社員率は20代から30代までほぼ9割となっていました。このころ、宮本先生と私と岩上真珠聖心女子大学教授の3人で、親同居未婚者の調査をして、その後、私が「パラサイトシングル」と名づけたのですが、このころの女性未婚者は、親と同居し一般職であってもほとんどが正社員でした。ボーナスももらえて、有給休暇もとれて、給料も高かった。

しかし、そうやってパラサイトシングルと名づけている間に、若年未婚女性の正社員率がどんどん落ちていって、非正規社員率や無職率が増えていきます。2010年では未婚女性の正社員率は5割ぐらいになってしまっているわけです。

さらに、やはりここ2年ぐらいの間で、アンダークラスになっている若年を調査したルポルタージュが相次いで出版されるようになりました。仁藤夢乃さんは、とにかく自分の高校時代の仲間で行方不明になった人が多いことを書いています。鈴木大介さんは、いわゆる出会い系で稼がざるを得ないようなシングルマザーたちをルポしている。中塚久美子さんは、貧困の中で法律違反すれすれのことをしなければ生活できない若年女性たちを描いていますし、荻上チキさんは100人ぐらいの売春(ワリキリ)をせざるを得ない女性の実態を調査しています。

どうも社会の中でまともな仕事からも、さらに親や夫という家族からも、そしてさらに社会保障からも排除される若年女性が存在しているということが、立て続けにルポルタージュで出版されました。やはりこれは、統計的にはなかなか出てこない問題だけれども、増えているのだろうと考えざるを得ないということです。

願望と希望も乖離

そして、若年女性の願望と現実を見てみますと、やはりこれも乖離が始まっています。願望としては、私が創った言葉ですが、「婚活」への関心、さらに結婚願望がここ5年の間に強まっているというデータが出ています。しかし、願望は結婚して、安定したいけれども、現実は、未婚率は上昇していますし、さらにここ5年の間で若年者の交際率が明らかに低下しています。これは国立社会保障・人口問題研究所の調査でも明確ですし、さらに日本性教育協会の学生生徒を対象とした調査でも、若年層、学生生徒の間での交際率や性体験率が低下しているというデータがあります。

また、性別役割分業をめぐっての願望と現実が乖離していることがデータからみてとれます。いろいろなところで報道されましたが、やはり2000年ぐらいから、どうも若い人たちの間で専業主婦志向が強まってきた。しかし現実は、既婚20歳代女性のパートでの共働き率は高まっています。

つまり、主観的願望では保守とか伝統回帰、従来の性別役割分業家族に包摂されることを期待しながら、現実では格差が拡大しており、共働きしなければ生活できない。包摂してくれる収入が安定した結婚相手の男性が見つからない。さらにはルポルタージュなどをみると、今まで頼れた親自体が壊れているケースも増えている。結婚相手、同棲相手も壊れている。さらに、まともな仕事にもつけないといった若年女性が出現しているという現実があります。

家族に包摂が前提の社会だった

戦後日本社会というのは、女性労働の家族依存モデルと言えるのではないかと思っています。戦後日本社会において、近代的な性別役割分業社会が成立したのですが、女性は家族によって経済的に包摂されていることが前提でした。未婚女性だったら父親に主に扶養される。既婚女性であったら、夫。さらに、高齢女性だったら、遺族年金か家業の跡継ぎ息子に包摂されるというモデルがつくられました。だから女性は、家族に経済的に包摂されていることが前提として社会保障というものがつくられていたのです。

でもその場合は、ライフコースが予測可能、つまり、大部分の女性が結婚して、離婚しないという前提がありました。また、女性を包摂する家族が、未婚時代は父親、結婚以降は夫であり、彼らが女性を扶養できる収入を得られるということを前提としてライフコースが組み立てられていました。そして1990年ごろまでは、男性の大部分は正規雇用者か保護された自営業者であったので、それが可能だったわけです。

女性が自分の労働によって経済的に自立するということは想定されてこなかった。とくに若年の未婚女性は、住居や収入がある親によって基礎的生活条件が用意され、かつ離別女性も実家に戻る確率が結構高かった。既婚女性は正社員か自営業者の夫の収入によって生活が維持されるということを前提にしており、女性自身の労働は経済的には補助的なものでした。

だから当時は、自立していた女性というのは、正社員で同居か自宅かを選択可能だった人か、自立しなければならない女性であり、自立しなければならない女性は、女性差別が少なかった男性と同じような正規労働者となるか、女性性を売りにした仕事、例えば接客系や零細自営業系、福祉系などに就かざるを得なかったのだと思います。

経済の変化で包摂に揺らぎ

しかし、1990年ごろから世界でグローバル化とか情報化とか、いわゆるニューエコノミーが浸透してくると、仕事が二極化してきます。つまり安定した雇用が全世界的に減少し、収入が不安定化してきます。そのときには労働による包摂が揺らいでくるわけです。

一方で、家族のほうも揺らいできて、自立しなければならない人の数は逆にどんどん増えてくる。依存できる家族がいない、いても依存できないケースが増えてくる。つまり、90年代から、日本社会では、労働による包摂と家族による包摂両方が弱まってくるという状態になってきたわけです。

それは特に若い人へのしわ寄せとしてあらわれるわけで、日本では不安定な低収入の仕事を主に若者が担うことになりました。新卒一括採用、終身雇用、労働調整は採用抑制によって行うといったような慣行によって、新卒で正社員になれない、何かの理由でドロップアウトする人は定職に就きにくいまま放置されるわけです。

たぶん女性解放運動のタイミングが欧米と日本では随分違ったということが私は大きいと思っています。つまり欧米では女性労働の家族依存モデルからの脱却が先行した後で、経済の構造転換が起きて、労働での包摂というものが難しくなる。欧米でフェミニズムがさかんになったのが1960年代後半ぐらいからですから、女性が労働によって自立して生活できる、つまり自分の労働による包摂をめざすということが60年代に行われました。

つまり労働による包摂がまだ可能だった時期に、女性の労働による自立がめざされたために、欧米では家族依存モデルが捨てられて、男性も女性も労働依存モデルへ転換していった。そしてその後、1990年前後に経済の構造転換が起き、労働の包摂力が低下したために、新しい経済に対してはジェンダーの区別なく社会政策的に対応するということが行われてきたのだと思います。

しかし日本は、労働での包摂が難しくなる時期に労働での包摂をめざすというすごく矛盾したことが90年代に起こったのだと思います。男女雇用機会均等法ができたのが1985年ですから、正社員をめざして、女性も一生自立して働けるとなってきたのが90年ごろだとするならば、その90年代ごろに自立しようとするけれども、逆に現実の労働状況は悪化してくる。

女性の自立した仕事も減少

このタイミング、女性が自立をめざそうとした時期に、自立できる仕事が減っていったということがたぶん、日本のこの矛盾した意識状況を解読する鍵だと私は思っています。

つまり、労働状況が悪化しますので、家族依存モデルを残さざるを得なくなるわけですね。若年男性の経済力は低下します。平均すれば非正規化が進み、平均収入が落ちているのですが、結局は、正社員は守られるために、正社員になれた若者はとりあえず経済的に安定できる。若年男性が経済力を低下させる中で、当然女性自身も経済力が低下し、先ほど言ったように正社員女性の数が90年代を通じて減ることから、結婚や家族形成によって経済的に包摂されることを望む女性が残りますし、多くなってくると思います。

図表3 未婚女性の結婚相手に望む年収と現実の未婚男性の年収の比較(2010年)

図表3グラフ

出所:明治安田生活福祉研究所・「生活福祉研究」74号。データは2010年の「結婚に関する調査」(全国ネット20~39歳、4120名の未婚者が回答)

図表3 拡大表示

未婚女性の結婚相手に望む年収と、現実の未婚男性の年収を比較すると、多くの女性は年収400万円とか600万円、800万円以上じゃないと結婚したくないと言うわけですが、現実には未婚男性(20~39歳)の4割近くは年収200万円未満です(図表3)。年収400万円以上稼ぐ未婚男性は4人に1人しかいない状況ですから、全員が結婚すると仮定すると、年収400万円以上の男性と結婚する確率も4分の1しかありません。

一方、未婚男性の正社員率はどんどん落ちていって、2010年では未婚男性は6割前後の正社員率になっています。

では正社員はどういう働き方をしているかというと、50時間以上働く長時間労働者が男性では4割以上います。でも、ここでみてもらいたいのは、実は日本人の女性の長時間労働者も多い点です。パートタイマーも多いので、平均すれば、それに薄められて世界的には低いほうだと言われるかもしれませんが、実は女性で50時間以上働く人も10数%おり、ドイツ、スウェーデン、アメリカの男性の長時間労働者よりも比率が高いわけです。男女で、ともに正社員で長時間労働をしてしまったら、家族は壊れるわけです。

親と同居で問題が隠される

未婚率はここ15年ぐらいの間に、急上昇しています。未婚化が進展する背景には、未婚男性の経済力低下があります。また、離婚女性の場合は、若ければ若いほど親元に戻っている割合が高いことから、親と同居しているがゆえに問題が隠される側面もあります。

30歳代はどういう家族で暮らしているのかというのを、私と東京学芸大の苫米地伸先生の2人で、「全国消費実態調査」を使って調べたものが図表4です。これは世帯抽出で、個人抽出ではありませんが、大体の状況は把握できます。

図表4 家族類型別 30代の雇用状況

  家族類型 正規雇用 非正規 自営 無職
1 夫婦家族 男性世帯主 90.7 2.0 6.3 0.9
2 ひとり親 男性 66.7     33.3
3 両親同居 未婚男性 59.0 11.5 9.2 21.4
4 片親同居 未婚男性 58.3 9.7 8.4 23.5
5 男性単身者 79.7 8.9 5.9 5.5
6 夫婦家族 女性配偶者 15.8 26.3 3.7 53.6
7 ひとり親 女性 34.3 48.8 1.2 15.8
8 両親同居 未婚女性 50.2 23.7 2.7 22.2
9 片親同居 未婚女性 30.9 23.7 5.1 39.9
10 女性単身者 72.4 19.9 2.9 4.8

(正規雇用には役員含む。非正規にはパート派遣その他の計、自営には家族従業者、内職も含む。無職には求職中も含む。)

(2009年、全国消費実態調査より 出所:山田、苫米地/総務省統計研修所報告会資料)

まず就労状況をみていきましょう。男性は30歳代の場合、世帯主ではほとんどが正社員か自営業です。逆に言えば、男性は正社員か自営業者でないと、結婚相手として選ばれにくい。男性で一番非正規率が高いのは30歳代です。両親同居や片親同居の未婚男性は、無職率が2割に達していますし、正社員率は非常に低い。

しかし女性をみると、30歳代で結婚している女性の正社員率は15.8%、非正規社員率26.3%、無職が53.6%となっており、大多数が収入がある男性世帯主に包摂されている。

男性以上に、30歳代女性で親と同居している未婚女性の雇用状況はすごく悪いです。片親同居の未婚女性の正社員率はわずか約30%で、非正規が23.7%、無職率が約4割です。

家計調査は、世帯主とその配偶者以外の個々人の年収や収入を出すのがすごく難しいのですが、30歳代の家計状況(図表5)をみていくと、男性は結婚している人がもっとも稼いでおり、勤務先の平均年収が505万円で、単身者でも429万円です。ただ、親と同居している未婚男性の収入は低くなります。

図表5 家族類型別 30代の家計状況

  家族類型 本人勤務先年収(万円) 世帯年収(万円) 本人月収(円) 世帯月収(円)
1 夫婦家族 男性世帯主 505 591 326,463 396,140
2 ひとり親 男性     216,974 275,138
3 両親同居 未婚男性 305 670    
4 片親同居 未婚男性 278 438    
5 男性単身者 429.5   267,674  
6 夫婦家族 女性配偶者 174 623 49,246 402,120
7 ひとり親 女性 197 241 130,580 169,269
8 両親同居 未婚女性 269 689    
9 片親同居 未婚女性 215 421    
10 女性単身者 346.5   245,497  

勤務先年収(万円)は勤務先がある人のみ、世帯月収は自営業は0として計算。

(2009年、全国消費実態調査より 出所:山田、苫米地/総務省統計研修所報告会資料)

一方、女性で一番稼いでいるのは単身者です。両親同居の未婚女性、片親同居の未婚女性、ひとり親の女性が就業率のわりに勤務先年収が少ない。

たぶん男性は、労働による包摂のみを問題化すればよい。ただ実質的には、いまみたように、男性でさえも、親依存、とくに非正規や無職の男性は親に依存している割合が高い。女性の場合は、(1)労働による自立、(2)収入のある夫と結婚することによる自立、(3)親による自立――という3つの選択肢があるようにみえる。しかし、どの選択肢をとっても、困難が待ち構えています。

つまり仕事に希望を見出そうとしても、いわゆる正規雇用自体が減少しているし、長時間労働で両立しにくい。非正規雇用者は、それだけでは自立できない。さらに近年は、いわゆる女性性を売りにした労働、接客業等が低収入化を被っているとの報道もあります。

そして結婚に希望を見出そうとしても、安定収入の未婚男性がどんどん減少していますし、夫の収入も不安定化している。このまま親同居を続けても、親が亡くなった後の見通しがないし、今後、親の経済力がもつとも限りません。

希望と対策がつけ回しに

図表6 中年パラサイトシングルの増大

図表6グラフ「親と同居の壮年未婚者(35~44歳)数の推移─全国(1980,1985,1990,1995-2010年)」

注)各年とも9月の数値である。

2012年には、305万人(統計研修所・西文彦研究官の分析)

図表6 拡大表示

図表6は、統計研修所の西文彦研究官が、毎年丹念に親同居未婚者の数と失業率を計算しているのですが、最近、いわゆる壮年親同居未婚者、中年パラサイトシングルの数も計算しておりまして、グラフは2010年で切れていますが2012年には305万人にまで増加しています。

「労働」と「家族1(夫)」と「家族2(親)」がどうも独立していないようです。つまり労働にも家族にも夫にも親にも恵まれている女性もいれば、そのすべてから排除されている女性も出てきています。

同志社大学の橘木俊詔先生が『夫婦格差社会』とか、『女女格差』という本を次々と出していますが、女性の場合は、たぶん格差にレバレッジがかかるんですね。女性は労働による格差に加えて、親による格差、夫による格差という3つの格差があって、この3つの格差は相関するのだと思います。そこで、「労働」、「家族1(夫)」、「家族2(親)」のすべてから排除される若年女性が出現してくる。

たぶん希望と対策がつけ回されているんです。私が2000年頃に非正規雇用の若年未婚女性を調査したときに、「将来は?」と聞くと、90%以上の女性は、「将来は収入が安定している男性と結婚したい」というふうに答えますし、さらに先ほど紹介したルポルタージュで、シングルマザーとか、未婚の人で、いわゆる性風俗産業に就く人に将来を聞くと「いや、こういうことをやっていても、誰かが私のことを好きになって、この状況から連れ出してくれるに違いない」とか、そこにしか希望が持てなくなっている状況があります。

「非正規なら、結婚したらいいだろう」、「親がいるからいいだろう」と言われ、さらに非正規雇用に対しては、「努力して正社員になればいいだろう」と、対策がつけ回されてしまう。つまり労働も家族、親や配偶者候補の男性の経済状況も悪化しているのに、すべての対策が中途半端のまま、放置されているのではないでしょうか。