事例報告(2):連結経営下、労組もグループ化へ~個別最適から全体最適へ~
経営資源としての労使コミュニケーション
第57回労働政策フォーラム(2012年1月24日)

<事例報告(2)>連結経営下、労組もグループ化へ~個別最適から全体最適へ~

恩田 茂 ケンウッドグループユニオン中央執行委員長 

ケンウッドグループユニオン 中央執行委員長 恩田茂

当労組の特徴は、企業グループの労連ではなく、単一労組であるということだと思います。すなわち、企業グループの各企業に結成されている労働組合の連合体ではなく、1つの単組であります。

労働組合の組織ですが、本部のケンウッドグループユニオンの下に、総支部という名前がついています。2004年、単一労組化の前は、1つの単組でありましたが、今は、支部となりました。当労組は、単一の労働組合でありますが、この単一という意味は、組合規約も一本、組合費も活動も一本、労働協約もグループ労働協約となっているので、一般的な単組とまったく同じ組織です(図表)。

労連ではなく、単一労組化を

1990年代に入り、会社が分社化政策を推進しました。例えば、カーオーディオの製造部門を独立させて長野ケンウッド、ホームオーディオの生産部門は駒ヶ根ケンウッド、計測器事業部はケンウッドティー・エム・アイ(後にニッケに事業譲渡)、物流部門はケンウッド・ロジスティック、サービス部門はケンウッド・サービスを設立するなどといった分社化を進めてきました。

その都度、労使でそもそもなぜ分社化するのか、本体にあっておかしくない機能をなぜ別会社にするのかについて議論を積み重ねました。それに伴う、雇用対策面でも相当議論し、専門性を高める点で、労使で理解あるいは合意してきました。

そのうえで、組合として分社化の必要性は認めてきたけれど、組合まで別々にしなくてもいいのではないかとなり、2004年に労働組合の企業グループ協議体であったケンウッド関連労協を発展的に解消し、単一労組化しました。

なぜ労連ではなく、単一労組化したか。私としては、とにかく壁をつくりたくなかったからに尽きます。連結経営のなかで1つの組合活動をやっていこうということで、単一労組化にこだわりました。経営側には、なかなか理解を得られにくい部分もありました。今から思えば、半ば強引に、ケンウッドグループユニオンを設立してきたわけです。ただ、こういう問題は、変える時にもの凄いエネルギーが必要ですし、強い抵抗も出てきます。やはり、勢いのようなものが必要だったのではないかと今、振り返っても思います。

全体がウィン・ウィンの関係に

2002年、ケンウッドグループは経営危機に直面しました。そのときわれわれの脳裏をよぎったのは、経営に口を出さないで黙っていれば毎月25日に給料をもらえて雇用も守られるということ。これがはかない願望だったのかも知れないし、そもそも組合がそんなことでは駄目だと思いました。世の中で起きていることはそんなことではない。組合自身がしたたかに生き残るために、何が変われるのかを徹底的に議論しました。

まず私にできることは、組合役員が下を向かないということでした。組合員からすれば、ただでさえ不安なのです。執行委員が「この先、大丈夫だろうか?」という思いでやっていたら組合員に不安が助長されます。そのとき、執行委員に言っていたのが、「潰れる会社の労組役員なんて、経験したくてもできないよ」ということでした。同時に、「いいじゃないか、潰れても」ぐらいの気持ちで鼓舞したのを覚えています。

そして、「労働組合以外のステークホルダーの気持ちを考えてみよう」というテーマで、執行委員向けの研修を開きました。労働組合以外のステークホルダー、経営者や会社を支援している銀行、投資家などが何を考え、どういう行動をするのかを知る必要があると思ったからです。

先ほどの基調講演と研究報告のなかで、「経営者と従業員のウィン・ウィン」とか「非正規も含めたオール・ウィン」という指摘がありましたが、私たちが研修を踏まえて気付いたのは、融資をしてくれる銀行も投資家も含めた全体がウィン・ウィンの関係にならないと会社が回っていかないということでした。

図表 ケンウッドと日本ビクター(JVC)の経営統合⇒JVCケンウッドへ

そこで当時の新経営陣と徹底的に議論しました。経営者の向こう側には投資家や銀行がいます。よく、労働組合法などで守られているから、労使はフィフティー・フィフティーだと言われますが、当時の状況は私たちが50だとしたら経営者は20、銀行が30というような関係でした。

そんななかでの徹底議論です。ときには向こう側にいる銀行なども含めてフィフティー・フィフティーの関係にならなければいけません。そこで弁護士に相談に行き、すべての社員の労働債権を委任してもらい、労働組合として会社更生法を申請できることを知りました。そこまでやって、初めて対等の議論ができたと思っています。

会社や銀行も大変です。とくに銀行は、会社更生法が申請されると貸したお金が返ってきません。労組が真剣だったことが、そこでわかってもらえたのではないかと思います。向こうも、力でねじ伏せようではなく、真剣に議論してきました。最終的に、まず再建のスタートラインに着こう、力を合わせてコア事業に力を結集しようということで労使合意できました。

人員削減や賃金カットの中でも前進へ

とはいえ、その内容は大変厳しいものでした。われわれも、この内容に基本合意をしたわけですが、まず3分の1の人員削減です。ともかく損益分岐点を改善させないと銀行も安心してお金を貸してくれません。支援のスタートラインに着くにはこれに応じないといけないということでしたし、先ほど言ったオール・ウィンの関係にならなくてはならないと思いました。賃金カットも異例ですが15%カットを受け入れ、一時金は年2カ月になりました。

そのとき労使で合意したのは、厳しくとも可能な限り最短で後ろ向きな仕事を終えてしまおうというものでした。取り巻く環境が凄い勢いで変化していたので、すぐに終えないと変化に追いつかなくなると思ったからです。

第2幕は、再建のスタートラインに着いた後、どうするか。これは、コア事業に集中することになりました。連結経営に舵を切り、連結管理、連結マネジメントが強化されました。その一方で、関係会社の社長は管理規定により権限が極度に制限されました。例えば事業規模別にA、B、Cの関係会社に分けられ、A関係会社の社長はケンウッド本体の部長と同じ資格というようにヒエラルキーをはっきりさせました。要は「子会社に勝手なことはさせない」ということです。すると、子会社労使では何も結論が出せない状況に陥りました。春闘の回答にしても労働協約を変えるにしても、本社トップの意思確認が必要になるからです。

こうしたことから、個別企業のことを重視する部分最適からグループ全体の経営を重視する全体最適への流れが必然的になりました。ケンウッドの連結経営強化への対応として、労組もグループ化していかなければならないとの自然な発想になりました。グループ内の8つの労組を統合した結果、子会社労組の委員長は総支部長となって中央労使協議会メンバーとなりました。ここでケンウッドグループユニオンは、労連ではなく単一労組化、組合規約は1つということを実施しました。

連結経営の時代にあって労働者の意見集約体である労働組合が企業グループ内で別々にわかれていては、力が発揮されるはずがありません。やはり、力はひとつに集中させるべきです。難しいテーマかもしれませんが、やり遂げてしまえばたいしたことはなかった、というのが私の正直な感想です。

非正規組合員も同じ権利・義務を

グループで働くすべての人のチカラを結集しようということで、契約社員やパート社員の組合員化も図りました。非正規の組合員化については、特別組合員として組合費を軽減する労組もあると思いますが、われわれの場合は、権利と義務が等しい「正式メンバー」として迎え入れました。もちろん義務である組合費も正社員と同率で徴収しています。

パートの組織化についても、今では同じ組合のオルグの中で堂々と意見を言ってもらい、処遇改善にも取り組んでいるところです。われわれは音楽に関する製品をつくっている会社なので、子会社1つひとつを楽器に例え、いろいろな楽器の音色が集まるからシンフォニーは美しい、「さあ、シンフォニーを奏でよう」というのが労組グループ化当時のキャッチフレーズです。

組織化をして、なぜ労働組合が存在しているのかという原点に立ち返ることができました。パートを組合員化するときは、なぜ組合費を払わなければならないのか、というところからスタートします。これは組合活動の原点を思い出させるので、非常に良かったと思います。ユニオン・ショップ協定のもと、月末に組合費が自動的に入ってくると、労組としてもだんだん甘えが出てきます。原点に立ち返ることで、説明やコミュニケーションが足りなかったりすることがなくなってきます。

あとは、労使の信頼関係がすべての原点です。コミュニケーションに「とり過ぎ」はありません。子会社の経営陣と本体の経営陣のコミュニケーションほどとれないものはありませんが、労組のグループ化で補えます。また、コンプライアンスのチェック機能が不十分なのも補えると思っています。

日本ビクターと経営統合

昨年10月、ケンウッドと日本ビクターが経営統合しました。ビクター側にはビクター労組を中心としたビクター労連があります。一方、ケンウッド側にもケンウッドグループユニオンがあり、今、経営統合にあわせて労働組合も統合しようという段階です。連日、組織の在り方、組織風土はどのようにしていくのかなどについて、話し合いをしているところです。今年の10月を目標に、労働組合の統合に向けて頑張っています。

※[編集部注]

ケンウッドグループユニオンの分社化と組織化の歴史や全体最適化に向けた取り組みなどの詳細につきましては、本誌2011年11号「企業グループ労使関係の望ましい姿―ケンウッド労組の企業グループ単一労組化の事例―」(PDF:521KB)をご参照ください。

GET Adobe Acrobat Reader新しいウィンドウ PDF形式のファイルをご覧になるためにはAdobe Acrobat Readerが必要です。バナーのリンク先から最新版をダウンロードしてご利用ください(無償)。