<事例報告3>米沢における地域人材育成の取り組み:
第56回労働政策フォーラム

ものづくり分野における中小企業の
人材育成・能力開発
(2011年11月15日)

横山繁美(米沢ビジネスネットワークオフィス地域情報プロデューサー)


横山繁美(米沢ビジネスネットワークオフィス地域情報プロデューサー)

私の方からは、米沢での地域における人材育成、能力開発の取り組みについて話したいと思います。私の現職は銀行員です。なぜ銀行がこのような仕事をするのか、皆さんの頭にその理由が浮かばないかもしれません。

実は、私は2001年から10年間、この仕事をしています。きっかけは、当時、米沢のある企業がITバブルが弾けて撤退しました。そのとき、従業員400人以上が全員解雇になったのです。その時、銀行には、住宅ローンや学資ローンが返せないという人が、「支店長、何とかしてください」と殺到しました。

そんななか、地域やその地域の企業があり、そこで生活している人がいて銀行がある。では企業が常時雇用してくれる場は、どうやってつくればいいのだろうか、と改めて考えさせられました。その中で、「米沢ビジネスネットワークオフィス」(BNO)を、金融機関や行政、産業界に呼びかけてつくらせていただいたわけです。

金融、労組、医師会もメンバー

皆さん驚くかもしれませんが、米沢市は120年前に日本の市制が発祥したとき、東京、大阪市、京都市と同じように隆盛を誇っていました。このときの人口は、県庁所在地の山形市よりも多かったのです。

米沢は産学連携がかなり盛んで、古くから、大学や工業高校と、産業界、行政による連携が行われています。オイルショック、プラザ合意、円高不況、バブル崩壊、ITバブル崩壊、中国ショックと、新たな課題が生まれるたびに組織を立ち上げながら、共通認識をもって解決に向けた取り組みを実施してきました。

米沢の産官学ネットワークを図式化しますと、図表1のとおりになります。中心にあるのは「米沢電機工業会」という約40社が加盟している企業グループです。八幡原企業協議会は、工業再配置法に基づき日本で一番最初につくられた工業団地に入っている企業でつくっています。また、電子機器の地元企業だけでつくる協議会もあります。こういうメンバーのほか、行政や大学、金融機関、労働組合、医師会・歯科医師会といった方々もすべて集まって地域の課題を解決しています。

図表1 米沢産官学重層ネットワーク

図表1 米沢産官学重層ネットワーク/

産業転換を果たした米沢

米沢の産業は、最初は繊維から始まっています。米沢は繊維のうちほとんど広幅物を扱っていましたが、沖縄返還のとき、国の政策で繊維の輸出が制限され、米沢も繊維から他の産業へ移らざるを得なくなりました。それで思いついたのが糸をコイルに変えるということで、ワイヤーハーネスや電話機、交換機、電機部品など、コイル系に産業が転換していったわけです。

米沢の工業出荷額は、ピーク時はいわき市と同じぐらいで8,000億円ぐらいあったんですが、リーマン・ショックと海外移転が進み、今は6,513億円と、全国で92番目です。

米沢市の産業の分類をみていくと、「情報」が約65%と偏っています。ですから、他の産業の競争力をどうするかということや、グローバル化の中で、人材をどうレベルアップさせていくかが大きな課題になっています。

豊かな地域づくりの取り組み

先ほど話したとおり、BNOを10年前に立ち上げましたが、当初は、「でん縁都市構想」ということで、情報化を戦略的に活用した地域社会のデザインを考えていこうとスタートしました。地域のものづくりの変革を生かしていくには、何をどうすればいいのか、技術振興やボランタリーな重層ネットワーク、コミュニティサービスをどう位置づけていくかなどを議論しました(図表2)。

図表2 サスティナブル(持続可能)な地域社会の構築を目指して

図表2 サスティナブル(持続可能)な地域社会の構築を目指して/

最初にやりたいと思ったのが地域活性化と、IT社会に向けた教育をどうするかという問題、また、地域経営の立体複合のトライアルなどでした。そしてだんだんと、産業の構造変化に向けたグローバルに対応した人材育成に取り組んでいくようになりました。

BNOでは、いろいろな団体が集まり、さまざまなフィールド実験をしながら、新たなビジネスモデルを立ち上げていく運営方式を採っています(図表3)。

運営会議の方法は、産業界や行政、大学などの方々が2週間に1回集まって会議しています。これまで、2001年から231回開催しました。議事録は、会員企業にすべて電子ファイルで配信しています。

図表3 産学官金労医連携によるビジネスモデルの創出

図表4、5は、BNOが2001年から取り組んできた地域ソリューションの一覧です。

図表4 BNOが取り組んできた地域ソリューション Ⅰ

図表4 BNOが取り組んできた地域ソリューション Ⅰ/

図表5 BNOが取り組んできた地域ソリューション Ⅱ

図表5 BNOが取り組んできた地域ソリューション Ⅱ/

工業高校に専攻科を設置

次は、BNOのものづくり人材育成事業について紹介します。米沢には、米沢工業高等学校がありますが、年々進学率が高くなって、専門性を生かさないで短大や専門学校、大学に進学し、なかなか地元に残ってくれない、という状況がありました。

この状況を何とかしなければならないということで、工業高校にさらに2年間の「専攻科」を立ち上げることを構想し、あわせて、産業界における人材育成をするためのスクールもつくりました(図表6)。これら「米沢情報技術コミュニティスクール」構想は、2002年に実現しました。県や市、大学、行政、すべての機関に提案書を持っていき、最終的に県から工業高等学校の専攻科の認可をもらいました。

図表6 米沢情報技術コミュニティスクール(仮称)構想(案) 概要

図表6 米沢情報技術コミュニティスクール(仮称)構想(案) 概要/

専攻科で具体的に何をしているのかですが、情報技術コース(6人)と生産技術コース(6人)とがあります。

ここではすべて高校の先生が教えるわけではなく、大学の先生や、一般企業の方が教えたり、現場研修を受け入れます。

現場で欲しい人材を、学校外の教師が高校生にそのニーズを伝えると同時に、社会での仕事のやり方や実習の仕方、ある時はあいさつの仕方も含めて教育をする場としています。

専攻科でどんなことをしているかの具体的な事例ですが、例えばJavaの資格を取らせたり、NECソフトさんで1カ月間研修をさせてもらい、自分でソフトを開発するなどのインターンシップを行いました。手づくりの電気自動車のプロジェクトなどもありました。

電気自動車のプロジェクトでは、子供たちがじかに企業の方々と触れ合い、自分たちができることとできないことをきっちりと認識し、新たなチャレンジ意欲を持ってもらうということがもっとも良かった点だと考えています。

米沢地域で共通の資格を創設

米沢では、次世代産業集積の促進などを目的として、米沢産業育成事業運営委員会をつくっています(図表7)。この事業のポイントは、地域が事業運営にすべてかかわろうということです。委員長は東北パイオニアさんですし、電機工業会の会長さんから山形大学、県立女子短期大学、米沢市までメンバーになっています。

図表7 米沢産業育成事業運営委員会

図表7 米沢産業育成事業運営委員会/

通常、こういうことを行政がやると、事務局は商工会議所がやったり市がやる。ところが、われわれは民間ベースでやろうということで、事務局も産官学が入るような形で運営しています。

育成事業では、米沢らしいことをやろうと、電子機器という部分での情報通信機器の製造工程と対応講座を考え、2005年の経済産業省の「製造中核人材育成事業」に申請したところ、この提案が通りました。この事業フレームのなかで、いまは戦略的生産革新コースをつくっています。

また、米沢地域共通の鉛フリーはんだ付けの技術認定を行っています。通常、技術認定は日本溶接協会で行っています。なぜ米沢でやるのかといいますと、技術認定をうけるために米沢から東京に来ると3日間ぐらい日数がかかり、出張旅費もかかる。受講料が仮に10万円だとすれば、一人1回行くと30万円かかってしまう。

それならば、溶接協会さんに試験問題をつくっている方を紹介してもらって、試験問題をつくり、同等の認定を米沢でやってしまおうということになりました。米沢では、受講料は1万円で実施しています。

これで何が起きたかといいますと、企業同士が、お互いのはんだ付けの技術力がわかるようになりました。それによって、お互い、「今こういうはんだ付けの仕事を抱えているのだが、うちのほうで注文が重なってしまったので、おたくのほうでこの仕事を引き受けてくれない?」とか、地域内での受発注の調整ができるようになりました。

また、これは米沢地域共通ですから、あの会社には1級さんがいる、あそこには2級の人が何人いるということが全部わかるようになり、ホームページでも公開していることから、企業間の共同の受発注もできるようになったということがあります。

最後に、図表8は、製造中核人材育成事業における2005年から現在までの累計の受講者数です。約785人、約142団体に達しています。

図表8 講座受講者推移(~平成22 年度)

図表8 講座受講者推移(~平成22 年度)/

今後について、産業の転換とともに、実施すべき教育の中身も違ってくるのかなと思っています。ただ、品質や生産技術については、普遍的な教育として継続していかなくてはならないと思っています。