<事例報告1>人財育成への道しるべ─自立と自律の支援に向けて:
第56回労働政策フォーラム

ものづくり分野における中小企業の
人材育成・能力開発
(2011年11月15日)

勝山 勲(栗田アルミ工業社長付・人財育成チーフマネージャー)


勝山 勲(栗田アルミ工業社長付・人財育成チーフマネージャー)

人材育成というのは非常に難しい課題であり、どこの会社も悩んでいるものだと思います。私も67歳を過ぎましたが、能力というのは使えば使うほどよくなり、使わないと退化すると実感しています。

人の能力というのは無限にある。だから、会社としてみれば、育成をおぜん立てしてあげる。そのうえで、やるか、やらないかは本人次第だと思っています。報告のタイトルは「人財育成への道しるべ」としましたが、副題のとおり、「自立」と「自律」が本日の話のテーマです。

私どもの会社は、富士重工業の一次サプライヤーで、1951年に創業し、現在は二代目の栗田容和が社長をしています。

従業員数は195人で、短時間勤務の社員や期間社員も相当入ってきました。工場内は、ダイカスト鋳造、グラビティ鋳造、機械加工の3部門に分かれています。当社の年齢構成は、高齢者も多く、最高年齢は73歳。就業規則を改定し、社長の考えである「生涯現役」を実践しています。

会社のマークに元気、やる気など

図表1

図表1/

当社の企業理念は、「地球環境を守り、当社及び当社に携わる企業の繁栄とそこに働く社員家族の幸せを願い魅力ある企業をめざす」であり、地球環境を守るなど4つのキーワードが隠されています。図表1の右上にある「GENKI YARUKI KONKI」とあるマークですが、これが社のマークになっており、社員のユニフォームの右肩にはこれが付いています。

実際には7つの気が秘められており、「元気であればやる気も出て活気も出る。根気よく続けて勇気を持って本気になれば、自分の運気が強まる」というものです。その代表的なものをマークに表したわけです。

図表2に「社長の想い」とありますが、中小企業はほとんどオーナー企業なんですね。ですから、社長の想いを大切にしたいということで、その想いを社内プロジェクトチームで分析してみることにしました。

社長からはたくさん話が出ましたが、人材の「材」を財産の「財」にしたいという話がありました。また、人員整理は絶対にしないと。経営開示、シックスシグマの徹底や、黒字必達などもあがりました。

図表2 社長の想い

図表2 社長の想い/

当社では、社長は朝7時から門に立って、出勤してくる社員に「おはよう」と朝のあいさつをします。7時から8時まで門に立つ。今は寒いですが、今日も寒い中、7時から正門に立っておりました。これには、社員は非常に勇気づけられます。遅刻者がいなくなったということも良かった点かもしれませんが、もう1つ良いことは、社員一人ひとりの顔がよくわかることなのです。元気なのかどうか。ちょっと返事が弱いと、「何かあったかな」と思ったりするそうです。

キャリア開発方針は明確に

さて、ここから本題の「人財育成方針」についてお話しますが、実は私は、茨城県を代表する地方銀行の常陽銀行から1999年2月に栗田アルミ工業に入社しました。

金の回らない企業は何をやってもだめだという中で、入社していち早く、資金繰りや月次決算の関係業務でパソコンに向かいましたが、そういう中でも人材育成方針をきちんと持っておかなければいけないと思いました。顧客ニーズが常に変化し、競争環境が厳しく、絶対的な解決策がないなか、ビジネスの成功と当社の経営理念の達成に向け、変化に対応できる人材をスピード感をもって育てなければならない。

当社が求める人材像は簡単です。元気、やる気、根気を社是とし、明るく元気であること、自分の意見が言えること、向上心、そして積極性がある。自立と自律がキーワードです。

最近、キャリア開発体系を整備しました(図表3、4)。20代、30代、40代、50代と、各世代でのニーズに応じた教育訓練をどのように進めていくかがポイントになってくると思っています。

図表3 教育体系図 1/2

図表3 教育体系図 1/2/

図表4 教育体系図 2/2

図表4 教育体系図 2/2/

もう1つ、キャリア開発の基本方針を明確にしました。すべての社員の自立と自律を支援し、「経営理念」・「社長の想い」の達成のために資することを目的とするとしました。また、教育の機会はすべての社員に与えられたものであることも掲げました。

就業規則改定で自己啓発も支援

就業規則は、2008年の2月から10月まで、社員によるプロジェクトチームをつくり、そこで内容を考え、全面改定しました。教育関係や自己啓発に関わることも入れていこうと検討しました。

就業規則ができ上がったのは08年10月31日で、リーマン・ショックはもう勃発していました。「社員と共に企業理念達成のためにより良い規則に改善を続けます」ということをうたい、社員のつくった就業規則に社長も判子を押してくれました。

図表5 教育研修

図表5 教育研修/

定年部分の検討は難しかった。「定年到達者で、継続勤務を希望する者は全員、別途定める、『再雇用規定』を熟知、熟慮のうえ自己責任において定年を自ら決め、70歳まで再雇用契約を結ぶことができる」としました。70歳を超えた場合には、今度は会社が認めた場合に勤められるようにしましたが、現在73歳の社員が元気に働いています。

なぜこうした規程にしたかと言いますと、社員もプロと同じだといつも言っています。引退というものは、どこかでやって来る。いつ引退するかは自己責任だと。

当社では、教育研修についても就業規則に載せています(図表5)。研修の受講費用すべてを会社が負担すると書いてあります。自己啓発についても、積極的に努めなければならないとしており、費用は会社が費用を出しますよという形でやっております。

現場での社内勉強会も開催し、技術伝承という視点から若い人に教え込む機会もつくっています。

通信講座の答案を社長もチェック

通信教育では、介護の話や年金講座などもあります。60歳になっても積極的に受ける人はいます。読む力、書く力、考える力、これらの力をつけさせるためには、通信講座が手っ取り早いかもしれません。通信講座の答案用紙はすべて、私と社長で判子を押します。ですから、丸写しなどしたら、みんなわかってしまいます。そういう部分では、全部見て判子を押してあげるということになります。

職務評価シートについても、元気、やる気、根気の根拠とか気づきの視点から、評価に乗せてあげたいと思っています。図表6は、製造一課のシートで、ダイカスト鋳造関係のショットブラストや溶解の脱酸などが能力項目に入っています。

図表6 職務能力評価シート3

図表6 職務能力評価シート3/

次は職務能力を総合考課に落とし込んでいきますが、ここでは資格取得状況も記録しており、びっしり書き込まれていて欄内に書き切れない社員も出ています。昨年、社会保険労務士の資格をとった社員がいました。「独立するのか」と聞いたら、「なかなかそれはできませんので」と言うので、「じゃ、登録費用とかそういうものを全部出しますよ」と、現在は社内労務士として活躍してもらっています。

情報開示も徹底

人材育成にかかる費用も含めて、社員に対する経営開示を進めています。当社は、リーマン・ショックのときにもワークシェアで乗り切りました。自動車部品業界の中でも、人を切ったために業績回復への対応ができなくなった企業も多々あると聞いています。当社では、人の育成は永続的に進めていくという考えで、今後も進んでいきたいと思っています。

最後に、「為せばなる、為さねばならぬ、何事も、ならぬはひとのなさぬなりけり」という米沢の上杉鷹山の名文句を紹介させてください。当社の社長の栗田容和も米沢出身です。

文句のとおり、やればできる、できないのはその気になってやらないだけ。また、当社のある「健挑者」の社員(障がいをもつ社員)のお母さんからいただいた手紙の中でも、「専門的な知識などなくても何とかしなければならないと真剣に向き合うと必ず道は開ける」というフレーズがございました。私自身これらの言葉にずいぶん勇気づけられました。