<基調報告>中小製造業の人材育成支援策の現状と今後について:
第56回労働政策フォーラム

ものづくり分野における中小企業の
人材育成・能力開発
(2011年11月15日)

志村幸久(厚生労働省職業能力開発局能力開発課長)


志村幸久(厚生労働省職業能力開発局能力開発課長)

本日は中小企業の人材育成支援対策がテーマですが、中小、大企業を問わず、人材育成の支援対策は基本的に共通であり、個別の企業、あるいは求職者なり在職者が必要としている支援は何か、そこにどうやって行政は選択肢を有効に提示していくかが課題なのではないかと考えています。

2011年度の職業能力開発施策の概要(図表1)ですが、公共職業訓練や、求職者支援制度による職業訓練など、一口に職業能力開発といってもかなり多様化しており、ここ5、6年でだいぶ変わってきております。

公共職業安定所を訪れる雇用保険を有する典型的な求職者への支援もあれば、例えばニートの若者の自立支援もある。本人の能力の見える化という視点も含めて、ジョブ・カード制度も提唱されていますし、職業能力開発施策ではいろいろオプションが増えてきています。

図表1 職業能力開発施策の概要(平成23年度)

図表1 職業能力開発施策の概要(平成23年度)/

セーフティネットの視点も

私が今、能力開発施策が抱えていると思う課題は2つぐらいあると思っています。1つは、行政改革等への対応に関わるもので、訓練の主体が、独立行政法人が設置する訓練校と県の訓練校との間で区分けされているなか、どのように訓練リソースを変革していくか。

もう1つは、離職者訓練に絞って言うと、かつて離職者の訓練は多くても20万人ぐらいだったのですが、現在は雇用保険のない方々に対してもしっかりした施策形成をしないと、こうした人たちが生活保護のほうに移行してしまうというようなこともあり、セーフティネットとしてこうした人々を対象とした訓練を増やさなければならない面があります。

2012年度は東日本大震災対策もあります。対象者が量的に拡大しているなか、いかに本人の希望している職場や能力にマッチした職場に就職してもらえるかが課題だと考えています。

第9次能力開発基本計画(図表2)には、大きく分けて2つ課題が書かれています。1つは、これから伸びゆく成長分野のほうにどうやって有効な訓練を施していくか。もう1つは、雇用のセーフティネットということで、どうやったら生活的な保障も含めて訓練につなげていけるかという点です。

図表2 第9次職業能力開発基本計画の全体像
−成長が見込まれる分野の人材育成と雇用のセーフティネットの強化−

図表2 第9次職業能力開発基本計画の全体像/―成長が見込まれる分野の人材育成と雇用のセーフティネットの強化―

人材ニーズに対応した訓練強化

離職者訓練だけについて述べると、中小企業の人材育成というと、技能の振興や在職者の対策もしっかり進めていかなければいけないのですが、人材ニーズに対応した職業訓練を充実強化していかなければならないということがあります(図表3)。

図表3 人材ニーズに対応した職業訓練の充実強化について

特に2011年10月から、雇用セーフティネットとしての求職者支援制度がスタートしています。先ほど申し上げましたとおり、この制度自体はどちらかというと、雇用保険のない方々を対象としており、訓練内容のイメージとして、情報や介護が中心であり、ものづくりは前面に出てこない。

そうなってくると、従来の施設の訓練というよりは、民間の機関が担うことも多いわけですが、いずれにしても、地域における訓練では、地域分野ごとに適切な訓練要素を描き出して、訓練科目の設定・実行に結びつけていかなくてはいけない状況になっています。

公共職業訓練の概要をみていきますが、離職者訓練、在職者訓練、学卒者訓練を実施しております。

公共職業能力開発施設ですが(図表4)、都道府県が主にやっているものと、独立行政法人が実施しているものがあり、行政改革の中で、独立行政法人は先端的なものづくりを担うというような意識づけで展開しています。一方、都道府県や市町村では、みずからの地域の産業施策の一環としてしっかり訓練施策が実施されています。

図表4 公共職業能力開発施設の種類

図表4 公共職業能力開発施設の種類/

就職への結びつきもアピール

離職者訓練(施設内訓練)の概要(図表5)ですが、図表6のような事例を活用し、具体的に対象者がどのような訓練を受け、最終的にどういう就職に結びつけたかということを発信、アピールしていかなければならないと考えています。

図表5 離職者訓練(施設内訓練)の概要

図表5 離職者訓練(施設内訓練)の概要/

図表6 公共職業訓練活用事例

図表6 公共職業訓練活用事例/

図表7は在職者訓練の概要です。在職者訓練も、地域の事業主からのさまざまな申し出等に基づき、2日~5日間ぐらいの短期間で実施しています。

図表7 在職者訓練の概要

図表7 在職者訓練の概要/

学卒者訓練(図表8)では、同じ学ぶにしても、技能のプロセスなどを学ぶ時間数を多くとっており、企業で実雇用された場合にも、その能力を応用的に発揮できるようなことを考えて実施しています。

図表8 学卒者訓練の概要

図表8 学卒者訓練の概要/

環境エネルギー分野を充実

最後に、東日本大震災への対応について紹介したいと思います。図表9のとおり、被災地においては特別な訓練コースを実施しています。

図表9 東日本大震災へのこれまでの対応(職業能力開発関係)

図表9 東日本大震災へのこれまでの対応(職業能力開発関係)/

当然、ものづくりの訓練も実施していますが、被災地では、瓦れきの処理や建設業的な仕事の需要が多いということをかんがみ、資格を持っていない離職者に対して重機等の訓練資格を持ってもらうような訓練を行っています。

現状ですが、訓練を受けている人のうち、現地では3割程度が雇用に結びついているという状況です。ハローワークでは、経験を問わない求人の配慮もお願いしています。

2012年度以降、どう能力開発施策を進めていくかですが、補正予算から12年度予算にかけて、環境エネルギー分野の訓練をしっかりやっていければいいと思っています。実際には都道府県に委託して実施する訓練が多いですが、環境エネルギーの範囲を狭く解さず、省エネなど、地域でいろいろ意欲的に取り組まれていて実雇用につながりそうな分野であれば、そこは訓練科目として積極的に設定していってほしいと都道府県にお願いしています。