<事例(3)武陽ガス株式会社> 第52回労働政策フォーラム
「ホワイトカラーの労働時間を考える―効率的な働き方を求めて―」(2011年3月2日)

事例(3):サービス向上と残業時間削減の両立<武陽ガス株式会社>

小澤 修(武陽ガス株式会社総務部総務課長)

<武陽ガス株式会社>小澤 修・総務部総務課長

私からは中小企業の事例として、当社での取り組みをご報告します。当社の場合、技術職や現場で働く者が多いので、それを踏まえてお聞きください。

最初に当社のプロフィールを紹介させていただきます。当社は都市ガス事業を行っている会社です。都市ガスは供給区域が決められており、当社の場合、福生市を中心とする東京の西部、4市2町に供給しています。供給戸数は2011年1月末現在、300,870戸になります。従業員数は87人です。関連会社として、都市ガスの導管が通ってない地域の約8,100戸にLPGを供給する武陽液化ガスという会社があり、従業員数は14人です。

当社の業務内容を簡単にご説明します。1つ目が当然都市ガスの供給です。そのために必要な導管の敷設や、ガス整圧器の設置のほか、供給設備の安全管理も行っています。都市ガスは夜中に使われることもありますので、供給圧力の監視は24時間体制になっています。火災、ガス漏れといった緊急時の保安対応も24時間体制です。

2つ目が新たなお客様を獲得するための新規需要の開発です。新築、既設を問わず、都市ガスをご使用いただくお客さまを獲得するため、営業活動を行っています。ご契約いただいたお客さまにはガス設備の設計・施工を行っています。

3つ目は営業部門によるお客様サービスに関する業務です。すでにガスをお使いいただいているお客様の受付窓口・ショールームのご案内や料理教室の開催などです。ガス料金の検針から請求、領収までの調定も業務の1つです。さらにガス機器の販売・修理・メンテナンス、リフォームのご提案も行っています。これらの業務を行う部門以外に技術開発部門や総務関連部門があります。

少ない社員数の割に業務範囲が広い都市ガスの業務

都市ガス会社の業務の特徴は、ガスの供給からガス機器のメンテナンスまですべて1社で対応するため、社員が少ない割に業務範囲が広いということではないでしょうか。24時間、365日、年中無休の業務体制を取っているということも特徴としてあげられると思います。社員1人で兼任する業務が多いことも特徴の1つです。限られた社員数のため、夜間の緊急対応や日曜・休日のお客様サービス業務は事務職も含む全部署の社員が当番制で対応する体制になっています。

それでは当社の取組事例の報告に入らせていただきます。当社が業務効率化を行う目的は生産性を向上し、ひいてはお客様満足度を向上させることにあります。いくら業務が効率化されてもお客様満足度が低下しては意味がありません。

もう1つの目的はワーク・ライフ・バランスの観点から従業員満足度を向上させることです。当社も昨年2月に「東京ワークライフバランス認定企業」に認定されています。

お客さまサービス向上と残業時間削減の両立

それでは1つ目の取組事例をご紹介します。業務効率化のため、営業部門では交代制シフト勤務を導入しています。従来、受付窓口やショールームの営業時間、電話対応の受付対応時間、お客様宅への訪問時間を17時30分までとしていたのですが、お客様サービス向上のため、これを19時まで延長しました。営業時間が1時間半延びたことに対応するため、勤務体制を8時30分から17時30分まで勤務するA班、10時から19時まで勤務するB班の2班編成にしました。1日の中で忙しい時間帯は10時から17時までですから、その時間帯はA班、B班全員が揃っている状況です。A班の業務が終業時間までに終わらない場合は、その部分をB班に引き継ぐことになっています。これにより、お客様サービスが向上し、残業時間も約2割削減されました。

2つ目の事例は変形労働時間制の導入です。これも営業部門を対象に行われたものです。秋口にセールがある関係で、当社では10月、11月が繁忙期ですが、これらの月の休日の一部をその前後の月(8~9月または12月~翌年1月)でも取得できるようにしました。これにより、繁忙期間の土日、祝日でもお客様へのサービスに柔軟に対応できるようになりました。制度導入前は、休みを取れる社員でも部署全体が忙しいと休みづらいし、振替休日も取りづらいという雰囲気があったのですが、導入後は休暇が取れる体制になりました。

3つ目は「iモードを利用した作業管理システム」の開発です。当社ではNTTドコモと協力して、当社独自のシステムを開発しました。現在、サービス担当者が22人おり、お客様のご自宅を1日平均15件程度訪問しています。これまでは業務の進捗状況を紙の伝票で管理していたのですが、いったん会社を出てしまうと、進捗状況を把握することができませんでした。そこでリアルタイムで進捗状況を一元管理できるシステムを導入しました。これにより、訪問時間が短縮され、手が比較的空いている担当者を別の業務に応援に行かせることができるようになり、お客様からの突発的な依頼にも柔軟に対応できるようになりました。電話対応を行うオペレーターの受付業務や入金管理などサービス担当者の事務処理作業の負荷も軽減されました。

残業の削減目標を明確化

4つ目は目標の明確化です。全社員を対象に「残業は月20時間以内」という目標を設定しました。各課の労務管理責任者、当社の場合は課長ですが、残業時間が20時間以上の社員を毎月総務課で集計し、各課長へ報告しました。残業が常態化しないよう確認するのが目的です。

さらに勤怠を管理している総務課で、全社員の残業時間、その理由、休暇の取得状況といった労務データを各課長にメールで配信することで、情報を共有化しています。これは各課間の労務管理に差異が生じないようにするためです。よその部署でどのくらいの残業が行われているかが一目瞭然になっているため、お互い気を遣いながら労務管理を行っています。

事例の5つ目も全社員が対象です。毎日の終礼時に残業の内容・時間を報告させています。これは特定の社員に仕事が集中しないよう、課長が部下の業務を調整することを促すとともに、残業をしている本人だけでなく、他の課員が協力して残業を減らしていくための意識付けをする意味があります。

半年に1回、個人面談を行い、その中で残業の実施状況や職場環境について聞いています。これ以外でも、残業が多い社員には課長が随時面談を実施しています。本人から話を聞きながら、原因や改善方法を一緒に考え、サポートしています。

6つ目は定期社員教育の実施です。外部研修を実施するほか、労務関連の広報資料などから最新の情報をピックアップし、毎月「労働安全衛生ニュース」という社内報で全社員に流しています。さらに年に1回、労働安全衛生に関する社員教育を総務主催で実施しています。この中では、長時間労働やメンタルヘルスの問題、都市ガス業界の労働災害事例の紹介、安全運転講習などを行っています。

以上ご報告してきたことをまとめます。重要なことの1点目は勤務体制や管理システムなど制度面の改善です。改善により、お客様サービスを向上し、社員自らの努力でワーク・ライフ・バランスを実現できる労働環境をつくることが目標です。

人的サポートが最重要

2点目は面談や教育を通じた人的なサポートの実施で、これがもっとも重要なことではないかと考えています。会社の方針や必要な情報を定期的に社員に伝えるとともに、問題があった場合は担当の課長や本人から直接話を聞くことで、原因を明確にし、改善につなげています。社員から常に話を聞く体制がとれているかどうかが大事なのではないでしょうか。