<事例(1)キヤノン株式会社> 第52回労働政策フォーラム
「ホワイトカラーの労働時間を考える―効率的な働き方を求めて―」(2011年3月2日)
事例(1):労働時間削減への取り組み<キヤノン株式会社>

今日は、キヤノンの労働時間削減の取り組みについてお話させていただきます。
キヤノンの従業員数(2010年末日時点)は単独で約2万6,000人で、男女比は男性が8割、女性が2割です。また、職種別では、生産部門も含め、技術職が全体の約7割を占める、まさに技術系の会社です。
キヤノンでは、2008年7月以降、長時間労働削減に向けた取り組みを積極的に行っています。
当社では、効率よく仕事をすることによって、ホワイトカラーの生産性をいかに向上させるかが重点だと考えています。それ抜きで永続的な成長はありません。生産性向上によって、過度な長時間労働がなくなることで、社員の人生も豊かで充実したものになっていくのではないかと考えています。
短時間で効率よく働く風土の定着
当社は古くから労働時間削減の取り組みを行ってきました。今から半世紀以上前の1959年には、勤務時間中は効率的に働き、終業時間になったらすぐ帰宅するよう奨励した「GHQ(Go Home Quickly) 運動」をすでに行っていました。それが今でも「短時間で効率よく働く風土」として受け継がれてきています。
その後も、1967年の完全週休2日制の導入、リフレッシュ休暇制度(1988年)、フリーバカンス制度(2000年)など休日・休暇制度を充実させています。同時に時短の推進にも取り組んでおり、1996年には年間所定労働時間1,800時間となりました。時間外労働の削減もあり、2010年の総実労働時間は1,798.7時間となっています。
時短の促進とともに重視してきたのが、有給休暇の取得促進です。先ほど出てきたフリーバカンス制度は年末年始や夏期の長期連休とは別に、連続した5日間の年次慰労休暇を取得できる制度です。中には「とりづらい」と言う声もあるため、人事本部が主導となり、しっかり取得するよう指導しています。
社員の意識改革が重要
制度を充実させるとともに大切なのが、「働き方を見直すことで、できる限り効率的に働き、期待される成果を出しながら、長時間労働をなくしていく」という意識をどうやって社員に持ってもらうかということです。2008年の7月には厚生労働省が実施する「仕事と生活の調和推進モデル事業」に参画しており、社員に意識づけを行ういい機会になったと考えています。
「ノー残業デー」の徹底も行っています。実はこの制度は90年代から存在していましたが、徹底されていない状況でした。「水曜日は完全実施するノー残業デーで、金曜日はできれば実施するノー残業デー」という運用がされていた程です。
そこで「まずは、決められたノー残業デーを徹底しましょう」ということで、2008年から取り組みを開始しました。ポスターを会社のあらゆる所、職場だけでなく、お客様が見えるところにまで掲示しました。さらに社内広報誌による啓発活動や、ノー残業デー実施日の定時後の消灯と空調停止の徹底も行いました。こうした取り組みの結果、ノー残業デーは、かなり徹底されています。
ノー残業デーの一律実施に対して、否定的な社員もいましたが、一方で若い社員を中心に肯定的な意見も聞いています。
こうした取り組みと同時に労働組合とも協議し、ワーク・ライフ・バランス推進委員会を設置しました。労働組合とも連携して取り組みを進めていることにより、徐々にではありますが、取り組みが定着してきている気がします。
管理職への教育を重視
全社員の意識改革同様に大事なのが、管理職に対する教育です。新任管理職研修に対して、職場の労務管理というテーマの研修を1日かけて行っていますが、労働時間管理の重要性については、「法令順守」「業務進捗管理」「安全・健康」「報酬・コスト」「ワーク・ライフ・バランス」の5つの視点からグループディスカッションなども交えて研修しています。中でも、「安全・健康」は最重要項目としています。
また、現場の管理職の中には労働基準法は人事部門や総務部門が知っていればいいと認識している人が多いようです。よって、この研修では労働基準法は部下をマネジメントする現場の管理職にとっても重要な法律であることから、重要条文の読み合わせも行うとともに、職場管理の基本である就業規則についても再確認しています。
取り組みの一環として、部門に対する労働時間実績レポートも配布しています。部門における労働時間を「見える化」することで、各職場で主体的な時間管理を推進することが目的です。
昨年4月の労働基準法改正の際には、全ラインの管理職を集め、労働基準法改正の趣旨を説明するとともに、キヤノンの対応方針やこれに基づく適正な労働時間管理の方法について説明会を実施しました。適正な労働時間管理を行った上で、こうした教育を地道に積み重ねることが重要だと思います。
また、部門独自の取り組みとしては、キヤノンではCKI(Canon Knowledge Intensive Staff Innovation Plan)という活動を続けています。この活動は、管理職が中心となり、チーム内で、各テーマ別、担当別の進捗状況、負荷状況を「見える化」することで、情報を共有し、問題解決につなげていくことが目的です。
当社の職種別の人員比率をみると研究開発やこれに関連する仕事をする社員が多数を占めます。彼らの残業時間をいかに減らしていくかが今後の課題です。
最後に、ホワイトカラーの働き方を考える上では、制度の整備、意識改革、風土醸成など、まだまだ課題がたくさんあります。また、より短時間で高い成果を出した人が正しく評価されるための人事評価や処遇の仕組みつくりも悩ましい課題です。なぜなら、一般的に仕事のできる人に仕事が集まる傾向にあるからです。
これまで行ってきた活動とともに、これらの解決に向けたあらたな取り組みや検討を、今後も進めていきます。