研究報告 仕事特性・個人特性と労働時間:第52回労働政策フォーラム
「ホワイトカラーの労働時間を考える―効率的な働き方を求めて―(2011年3月2日)

小倉一哉(前JILPT主任研究員(早稲田大学商学部准教授))

<研究報告>仕事特性・個人特性と労働時間

小倉 一哉(前JILPT主任研究員(早稲田大学商学部准教授))

今日は平成22年2月に正社員の管理職(課長以上)と非管理職(課長未満)それぞれ5,000人を対象に行った調査結果をもとにご説明します。

月間労働時間の分布

表1の最上段は昨年1月の月間総労働時間の分布です。1月は正月休みの分勤務日数が短くなるため、本来調査時期としては望ましくないのですが、諸般の事情でこの時期に行わざるを得ませんでした。

平均(時間)をみると、非管理職より管理職のほうがやや長くなっています。また、月間総労働時間が「161時間未満」はほぼ残業がありませんが、非管理職の約3割が該当しています。

2段目はいわゆるサービス残業も含む月間残業時間の分布です。こちらも管理職のほうが非管理職よりも若干長いことがおわかりいただけると思います。とくに「60時間以上」残業している管理職は16%もいます。

表1 月間総労働時間の分布

3段目は月間サービス残業時間の分布です。管理職の場合、平均(時間)は30時間近い結果となりました。「ゼロ時間」という人は非管理職では約59%が該当しますが、管理職では約2割と低い数値が出ています。

管理職にサービス残業という概念がどこまで通用するかという議論がでてくるのですが、これを調査データで明らかにすることは非常に困難です。ですから、あくまで参考数値としてお考えください。

サービス残業の定義は非管理職の場合、「月間残業時間」から「残業手当等が支給された時間」を控除した時間です。管理職の場合、残業手当が支給されない方がほとんどです。しかし、管理職手当がそれほど高額ではなく、かつ残業時間が著しく長かったり、あるいは本来管理職であっても支給されるはずの深夜労働手当が支払われているかどうかを考えた場合、サービス残業という概念は適用されてもよいと考えます。

残業する理由

表2 残業する理由(3つまでの多重回答)

表2は残業する理由を3つまでの多重回答で聞いたものです。14項目のうち、1番比率が高いのが「仕事量が多いから」で、管理職、非管理職とも6割強を占めています。「予定外の仕事が突発的に飛び込んでくるから」もそれぞれ3割を超えています。

管理職に特有の理由としては「部下・後輩などを指導しているから」が2割強を示しています。

一方、「残業手当や休日手当を増やしたいから」「周囲が残業しているので、先に帰りづらいから」は一般的に言われているほど、高くありません。

仕事特性・個人特性の影響

表3は仕事特性と個人特性が月間総労働時間にどう影響するか調べたものです。「仕事の性質」にはa~hの8つの項目が入っています。中段の「上司の性質」からは、分析の都合上、b、d、eを除外した6項目が入っています。「仕事に対する意識」ではa~jの10項目が入っています。各項目について、肯定度、否定度を5段階で聞いた結果を点数化し、それが月間総労働時間にどう影響しているかを見ています。管理職、非管理職それぞれ4回、推計を行い、労働時間を長くする影響はプラス、労働時間を短くする影響はマイナスで整理しています。

表3 仕事特性・個人特性の月間総労働時間への影響

(注)1.+は労働時間を長くする影響、−は労働時間を短くする影響を意味する。

2.{ }内は各ダミー変数のリファランスグループ。

仕事の性質では「b 自分の仕事のペースや手順を変えられる」が管理職、非管理職でも労働時間を短くする影響が見られました。「c 1人でこなせる仕事が多い」は管理職の労働時間を長くするようです。非管理職に関しては「d 取引先や顧客の対応が多い」と答えている場合に労働時間を長くする影響が見られます。「f 企画・判断を求められる仕事が多い」「g 会議や打ち合わせが多い」は管理職、非管理職とも労働時間を長くします。

「上司の性質」は、管理職、非管理職に直属の上司のことを聞いています。非常にネガティブなことばかり聞いてしまったなと反省しているのですが、その中で労働時間を長くしているのは「f 残業することを前提に仕事の指示をする」「g 社員間の仕事の平準化を図っていない」です。

「仕事に対する意識」では管理職で「c 仕事を頼まれると断れない」の肯定度合いが高いほど労働時間が長くなるようです。これも管理職のみですが、「f 協調性がある」の肯定度合いが高い場合、逆に労働時間は短くなります。この解釈には非常に悩んだのですが、もしかすると課長同士で仲が良いことから飲みにいく機会が増えて、労働時間が短いというようなことかもしれません。ただ、分析には常に解釈が不可能な部分もありますので、曖昧な部分はとりあえず無視しましょう。

「g 仕事がないと不安がある」は肯定度合いの高さが労働時間にマイナスの影響を与えています。この場合、因果関係が逆で、すでに労働時間が、例えば前年より短くなっている人が、このままだと自分の会社が危ないのではないかと不安になっているものと思われます。

非管理職では「i 上司が退社するまで帰宅しない」と答えているほど労働時間が長くなります。それから管理職、非管理職共に「j これまで受けてきた人事評価は高いほうだ」の肯定度合いが高い人は労働時間が長い。「長く働いているから自分は評価されているのだ」と考えているのかもしれません。

100点をめざす人は長くなる

その下の「取っている点数」「目指している点数」についても若干説明が必要かと思います。この調査を実施する前、某企業にインタビューをお願いしました。「あなたの仕事の役割を全体的に見て、完全な出来を100点としたとき、平均的に何点くらいをとっていると思いますか。また平均的に何点くらいをめざして仕事をしていますか」と聞いたところ、点数の分布は比較的上に出ました。「100点」と答える方はそれほど多くはないのですが、ホワイトカラーの中で私が真面目な方と認識する多くの方は「100点をめざしているけれども80点くらい」と答える場合が非常に多い。平均点をみると、めざしている点数は80点程度、取っている点数は70点くらいでした。

これはあくまで主観的な尺度ですが、この点数を調べたとき、非管理職では取っている点数は100点と答えている人は労働時間が長くなります。めざしている点数が100点という人も労働時間が長い。70点から79点と答えている人は逆に短いという結果が出ています。それほど高い点数をめざしていない人は心にゆとりがあるのか、会社に対して距離を置いているのかわかりませんが、労働時間を短くする影響があることは確かなようです。管理職にも同じ質問をしましたが、こちらはとくに一定の傾向はみられませんでした。

管理職特性の影響

表4は管理職特性と月間総労働時間の関係を調べたものです。出退勤時間を自由に決められるかどうかを聞き、「決められる」場合に出退勤時間は「日々ほぼ同じ」「都合によって変わる」かを聞きました。しかしそれらは、管理職の労働時間の長さに影響しないことがわかりました。つまり、出退勤時間を自由に決めることができ、かつそれがたとえば、都合によって変わる人でも労働時間は、出退勤時間が自由に決められない人と比べてそれほど違いは見られないということです。

表4 管理職特性の月間総労働時間への影響

(注)1.+は労働時間を長くする影響、−は労働時間を短くする影響を意味する。

2.{ }内は各ダミー変数のリファランスグループ。

表の「プレー度」は、管理職の方に自分の業務(=プレー)と、管理業務(=マネジメント)の比率を合計100とした場合のプレーの比率を示します。プレー度が高くなるほど、労働時間が長くなるようです。

「統括正社員数」は部下となる正社員の数です。これは20人以上と明らかに多い場合は、労働時間を長くします。5人~9人ではプラスとなって、10人~19人のところでは影響がみられないという解釈に悩む部分もありますが、あくまで基準を4人以下にしていますから、一言でいえば、部下が多いほど労働時間は長くなるとみていいでしょう。

「統括非正社員数」の場合も統括する非正社員がいない人に比べて、いる場合、あるいは多い場合は労働時間が長くなります。

「指導が必要な部下(正社員)の比率」は、現在統括している正社員全員を100とした場合、「指導が必要なレベル」「単独でできるレベル」「人を指導できるレベル」のうち、「指導が必要なレベル」の比率を示したものです。ここでは指導が必要な正社員比率が高いほど、月間総労働時間が長くなります。

残業が長い部下への評価状況

表5は業種別・規模別に見た残業の長い部下への評価状況を示したものですが「どちらにも評価しない」が圧倒的多数を占めており、全体では62.6%の管理職がそう答えています。「ややマイナスに評価している」「マイナスに評価している」は合わせて17%程度。「プラスに評価している」「ある程度プラスに評価している」は合わせて20%程度です。両端の「プラスに評価している」「マイナスに評価している」をみると業種によって、それなりに違いがあると思います。規模別でも同様の分布が示されています。

表5 業種別・規模別に見た残業の長い部下への評価状況

対策の実施別にみた労働時間

表6は長時間労働対策の実施別にみた月間総労働時間の平均です。 (1)から (6)までの対策を「やっている」または「やっていない」かで聞きました。結果的に「やっている」ほうが労働時間が短くなります。ただ、これは単純なクロス集計結果ですので、その下の表ではさまざまな属性の影響を一定にした上で、長時間労働対策が労働時間に影響するかどうかを多変量解析により検証しました。非管理職については、「ノー残業デー」「退勤時刻の際の終業の呼びかけ・強制消灯」「長時間労働の者やその上司への注意・助言」の3つに関して労働時間を短くしていることがわかりました。

表6 長時間労働対策の実施別に見た月間総労働時間の平均

注1 +は労働時間を長くする影響、−は労働時間を短くする影響を意味する。

その他の「IDカード等による労働時間の管理・把握」「自分の労働時間が簡単にわかる仕組み」「定期検診以外での長時間労働やストレスに関するカウンセリング」といった間接的な対策に比べて、直接的な労働時間対策のほうがより有効だと解釈できます。

最後に労働時間を短縮するための対策として考えられることをあげます。1点目は業務目標・役割を明確化すること。2点目は会議や打ち合わせの簡素化と裁量度の強化。3点目は管理職の本来業務であるマネジメント業務の重視。4点目は有効な長時間労働対策の実施ということで、この後ご紹介いただく企業事例が参考になると思います。