研究報告
地方自治体における外国人の定住・就労支援への取り組みについて:
第50回労働政策フォーラム

今後の外国人労働者問題を考える
―経済危機が日系人労働者に与えた影響等を踏まえて―
(2010年12月4日)

JILPT副統括研究員 渡邊 博顕/研究報告/労働政策フォーラム(2010年12月4日開催:JILPT)

JILPT副統括研究員渡邊 博顕

JILPTの自治体に対する調査から

今日、報告しますのは、地方自治体における外国人の定住・就労支援への取り組みについてです。JILPTが今年の夏から秋にかけて実施したアンケート調査の結果をもとに報告します。

日本に定住、あるいは就労する外国人が増加すると、社会的統合のための費用がかかります。調査では外国人が日本で働いたり生活したりする基盤である地方自治体が受け入れるに当たって、どういう施策を行い、その費用はどれぐらいかかっているのかを調べてみました。

内容としては、第一に自治体で外国人居住者をめぐって最近どういうことが起こっているのか、それに対して、自治体はどういう認識をしているのかということです。第二に、自治体では、外国人を受け入れるに当たって、どういった施策、事業を実施しているのか、それにどれだけの予算を組んでいるのかについてです。第三に、今後、自治体として取り組みの方向をどう考えているのか。こういった流れで話を進めていきたいと思います。

実施したアンケート調査ですが、同じような内容の調査は、平成3年と平成13年の過去2回実施されています。過去の調査では、日系人が多く就労・生活している自治体を対象に限定した調査でしたが、近年は随分状況が変わってきましたので、今回はすべての都道府県、市区町村を対象に、質問紙による通信調査を実施しました。

当然ながら、外国人居住者が多い自治体と少ない自治体があり、取り組みの状況にも差があります。ですから、このアンケート調査でも温度差や関心の深さがそれぞれの自治体で異なるのではないかということで、どれだけ回収できるか心配したのですが、幸い、都道府県調査、市区町村調査とも50%以上の自治体からご回答いただきました。

集計結果にあたり都道府県、市区町村とは別に外国人が多い自治体ということで外国人集住都市の3つの属性別に集計しました。

外国人は都道府県で増加、集住都市では減少

図表1 自治体の外国人の居住状況

図表1 自治体の外国人の居住状況:研究報告(渡邊 博顕)/労働政策フォーラム(2010年12月4日開催:JILPT)

外国人居住者数の推移は増加地域と減少地域に分かれるが、外国人集住都市の8割では減少。

まず、自治体ごとの外国人の数がどのように変化しているかについて尋ねた結果です(図表1)。

都道府県は、増加しているところと横ばいのところ、それから減少しているところがあり、おおまかにいうと、増加しているところと減少しているところに分かれており、横ばいは少ないです。

市区町村全体に関しましては、横ばいのところが少し多いのですが、市区町村のうち外国人集住都市に関しては、減少しているところが8割近くに達しています。市町村全体と外国人集住都市では、状況が違うことが分かります。

図表2 外国人の生活・就労に関する出来事

図表2 外国人の生活・就労に関する出来事:研究報告(渡邊 博顕)/労働政策フォーラム(2010年12月4日開催:JILPT)

都道府県、市区町村全体ともに「雇止め、解雇」が増加。その他都道府県は「就労相談」、「生活相談」などが増加。市区町村全体は「外国人を雇用している事業所が増加」が3割以上。外国人集住都市では「帰国する外国人が増加」、「外国人の失業者が増えた。」などの回答が多い。

人数の変化にも関係していると思いますが、自治体において、外国人の居住者に関することでどういったことが起きているのかということを整理したのが図表2です。

都道府県、市区町村全体ともに外国人の雇止め、解雇、就労相談、生活相談といったことが増加しています。外国人集住都市に関しては、雇用環境が悪化するに伴って、出身国に帰国する外国人が増加しているという結果が出ています。

一方、日本にとどまっている外国人からの生活相談、生活保護の申請が増加しているといった回答も多くなっています。

図表3 外国人の生活・就労支援への対応の緊急度

図表3 外国人の生活・就労支援への対応の緊急度:研究報告(渡邊 博顕)/労働政策フォーラム(2010年12月4日開催:JILPT)

都道府県では「緊急度が高い」と「緊急度が低い」が半数ずつ。市区町村全体の8割以上で「緊急度が低い」、外国人集住都市では8割が「緊急度が高い」。

興味深いのは、一番左端にある「外国人を雇用している事業所が増加している」という回答で、市区町村で高い比率になっています。一方では、外国人の失業問題、雇用環境の悪化が深刻な状況になっているけれども、他方、外国人を雇っている事業所が増えるという2つの側面が読み取れます。増えているのは、例えば高度外国人材を雇用している事業所が増えている、あるいは技能実習生を受け入れている事業所が増えているというようなことが関係しているのではないかと考えられます。

次は、外国人に対する生活・就労支援への対応の緊急度です(図表3)。100年に1度と言われる今回の景気停滞のなか、外国人に対する影響を、自治体がどう受け取り、どう対応しようとしているか、その意識について聞いてみました。

その結果、緊急度が「高い」「どちらかと言えば高い」という2つをあわせ、外国人の生活・就労支援の緊急度が「高い」と回答している自治体は、都道府県では5割弱です。市町村全体ではその比率はずっと少なく約1割にとどまっていますが、外国人集住都市では状況がまったく異なり、8割で緊急度が非常に高いと考えています。

図表4 外国人の生活・就労支援の課題

図表4 外国人の生活・就労支援の課題:研究報告(渡邊 博顕)/労働政策フォーラム(2010年12月4日開催:JILPT)

自治体が実施する外国人の生活・就労支援で問題となっていることとして、 都道府県、市区町村全体、外国人集住都市いずれも「地域住民との共生が進んでいない」 ことをあげている。

では、自治体が生活・就労支援を進めていくうえで、どういったことが課題になっているのかについて見たのが図表4です。大体3分の2の都道府県、外国人集住都市が、地域住民との共生が進んでいないとの回答を寄せています。

過去2回行われた調査でも同じ項目がありますので調査結果をご紹介します。前回も大体、都道府県、市区町村全体とも5割弱の回答が、地域住民との共生が進んでいないという結果でした。

このほか、外国人集住都市に関してみると、失業した外国人に対する生活保護費が増えているとの回答が非常に多くなっています。また、社会保険等への未加入が多いなど、より具体的な生活、就労に関連する課題を抱えていることがわかります。

「その他」に都道府県の回答が5割以上あるので、この内容としては、医療費の不払いや税金の滞納のほか、災害時の対応といった課題があげられています。

目立つ翻訳などのサービス

では、自治体が具体的に外国人に対してどういった施策を実施しているのかについて、2つの分野に分けてご紹介します。

1つは、外国人の方が生活していく上で、日本人と同じような生活を行えるように、一般住民向けのサービスを外国人に対しても使いやすくする様々な施策です。もう1つは、外国人だけを対象にしたサービスや施策です。

日本人と同じサービスを外国人にも使いやすくするための施策ですが、ホームページの翻訳、外国語で対応できる職員の配置、ごみの分別や収集案内板の設置、ガイドブックやパンフレットの翻訳・印刷といった項目の実施比率が高いです(図表5)。外国人集住都市について見ると、どの施策についても市区町村全体の集計結果よりも実施比率が高いです。

図表5 外国人の生活・就労支援策 (一般住民向施策を外国人に使いやすくする施策)

図表5 外国人の生活・就労支援策(一般住民向施策を外国人に使いやすくする施策):研究報告(渡邊 博顕)/労働政策フォーラム(2010年12月4日開催:JILPT)

都道府県、市区町村全体どちらも「外国語によるホームページ運営」が多い。その他都道府県では「外国語で対応できる職員の配置」、市区町村全体では「生活ルールの周知」などを実施。外国人集住都市ではほぼすべての項目の実施率が高い。

次に、外国人だけを対象にした生活・就労支援については、都道府県、市区町村全体では、外国人専門の窓口や日本語講座の設置などが多く実施されています(図表6)。それ以外では、外国人向けのホームページの作成も目立ちます。外国人集住都市については、通訳の配置、児童・生徒の対策、住宅情報の提供といったことも実施されているようです。集住都市に特徴的なのは、緊急雇用対策事業を利用した雇用機会創出の実施比率が非常に高いということです。

図表6 外国人の生活・就労支援(外国人だけを対象とした生活・就労支援)

図表6 外国人の生活・就労支援(外国人だけを対象とした生活・就労支援):研究報告(渡邊 博顕)/労働政策フォーラム(2010年12月4日開催:JILPT)

都道府県、市区町村全体ともに「外国人専門の窓口設置」、「日本語講座開設」が多い。外国人集住 都市では、市区町村全体より「通訳の配置」が多い。

生活・就労支援では窓口の設置など

図表7 今後の外国人の生活・就労支援を充実させる必要性

図表7 今後の外国人の生活・就労支援を充実させる必要性:研究報告(渡邊 博顕)/労働政策フォーラム(2010年12月4日開催:JILPT)

都道府県と外国人集住都市の約9割が「充実が必要」と回答、市区町村全体では2割。

次に、自治体では今後の外国人の生活・就労支援としてどのような方向を考えているのかについてです(図表7)。「充実させる必要がある」という回答が都道府県で8割にのぼっています。市区町村全体ではこの割合が低いのですが、外国人集住都市では9割近い自治体が外国人の生活・就労支援を「充実させる必要がある」と回答しています。

支援策の予算は都道府県の合計で8.4億円

では、自治体では外国人の生活・就労支援策のためにどのぐらいの予算を使っているのでしょうか。先ほど触れた一般住民向けのサービスを外国人にも利用しやすくする施策、外国人だけを対象とする施策、さらに外国人だけを対象とする施策のうち、就労支援つまり緊急雇用対策事業を活用した雇用機会の創出を取り出して集計しました(図表8)。平成22年度の予算額をみますと、一般住民向けサービスを外国人にも利用しやすくする施策の予算額の合計については、都道府県で8.4億円、市区町村全体で20.3憶円、外国人集住都市では4億円となっています。

図表8 外国人の生活・就労支援施策の予算額

図表8 外国人の生活・就労支援施策の予算額:研究報告(渡邊 博顕)/労働政策フォーラム(2010年12月4日開催:JILPT)

また、外国人だけを対象とした施策については、都道府県で3億円弱、市区町村全体では26億円、外国人集住都市では6.2憶円という結果になっています。このうち、就労支援に関しては、都道府県は0.7億円、市区町村全体は5.8億円ですが、外国人集住都市は3.5億円という予算額になっています。

社会的統合の費用をどう定義するのか、どのような予算・事業を含めるのかという問題はありますが、この調査でとりあげた項目の費用は以上のようになっています。

いままでの話を少し整理したいと思います。世界同時不況によって、すでに日本に入国、定住し就労している外国人に深刻な影響が及んでいる。このため、都道府県、市区町村では、外国人に対する就労相談や生活相談が増加している。とくに集住都市に目を向けると、生活保護の申請も増加している状況があります。

そのため、外国人の失業者への対応、また健康保険、年金への加入や、外国人の子弟への就学といった問題に対して、自治体でも生活・就労支援の充実が必要であるとの認識を持っているということです。

こうした問題を解決して、日本で外国人が安定して就労、あるいは就学でき、自立した生活を送るためには、利害関係者が連携して、日本語の習得を含めて一定の社会統合施策に取り組む必要があるのではないかと思われます。ただその際には、一定の費用がかかるというを念頭に置いておく必要があると思います。

(この調査はJILPT渡辺博顕・中村良二が担当しました。また、本日紹介した調査の詳しい内容はJILPTのホームページに掲載してありますので、興味のある方はご参照ください。  「地方自治体における外国人の定住・就労支援への取組みに関する調査結果(速報)について」(PDF:856KB)

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