基調報告 わが国における外国人労働者を巡る状況について:
第50回労働政策フォーラム

今後の外国人労働者問題を考える
―経済危機が日系人労働者に与えた影響等を踏まえて―
(2010年12月4日)

厚生労働省職業安定局派遣・有期労働対策部外国人雇用対策課長 野口 尚

厚生労働省職業安定局派遣・有期労働対策部外国人雇用対策課長 野口 尚

外国人労働者受入れの基本的考え方

外国人労働者をめぐっては、さまざまな考え方や意見があります。対立する考え方もあると思いますが、いずれにしても、議論が必要です。そこで、議論のための材料を最初にご提示させていただくという考え方で話を進めさせていただきます。

内容を4つに分けております。第一は、外国人労働者受入れの基本的考え方、第二は、経済危機後の日系人求職者の状況と対策、第三は諸外国における外国人労働者受入れの状況、そして最後に、今後の外国人労働者施策を進める上での留意点で、この4つの柱で進めていきたいと思います。

第一の柱ですが、外国人の受け入れに関しての基本的考え方(図表1)としては、出入国管理及び難民認定法いわゆる入管法という法律があります。この法律の中に、どのように受け入れるのかが書かれています。受け入れの範囲は「我が国の産業及び国民生活等に与える影響」を総合的に勘案して決定するとしています。要するに日本の産業、国民生活にとってどういう影響があるかを考えて、主体的に選ぶという意味だろうと思います。

図表1 外国人労働者の受入れについて我が国の基本的考え方

図表1 外国人労働者の受入れについて我が国の基本的考え方/基調報告(野口 尚)/労働政策フォーラム(2010年12月4日開催:JILPT)

では、具体的に受け入れ範囲をどのように考えているかというと、高度の専門家、あるいは技術者といった外国人の就業を積極的に促進しようということです。他方、いわゆる単純労働者の受け入れ、あるいは現在の受け入れ範囲の拡大は慎重に考えた方がいいのではないかということになります。なぜならば、こうした単純労働の外国人は低賃金になりがちなわけで、これによって、いわば遅れた産業構造を引きずってしまい、結果的に、求人充足や人材確保を阻害するという問題が起こるのではないかということです。

さらに、今年6月に今後10年間を展望した新成長戦略がつくられ、労働力人口減少への対応としては、現在、国内雇用情勢は非常に厳しいですけれども、まずは国内の若者、女性、高齢者の労働市場への参加を促進することを打ち出しました。これらの方々の就業率向上のための政策を総動員して、労働力人口の減少をはね返すのが基本で、労働力人口の減少に対応して外国人を入れたらどうかという発想は、この成長戦略の中にはないわけです。

次に将来的な対応です。少子高齢化、労働力人口の減少にどう対処するのかということで、繰り返しになりますが、まずは国内の若者、女性、高齢者に働いていただく必要があるということです。それから労働というと、単に経済や産業上の問題だけではなく、人の受け入れということは、医療、社会保障、教育、治安など、生活全般に影響するわけです。この部分での国民的コンセンサス、理解と納得がないと、きなくさい話になってくるのではないかということです。その国民的コンセンサスに関して、今年6月に朝日新聞が行った世論調査があります。少子化が続いて人口が減り、経済規模が維持できなくなった場合、海外からの移民を幅広く受け入れることに関して賛否を聞きました。結果は、賛成が26%で、反対が65%となっております。

図表2 我が国で就労する外国人のカテゴリー

図表2 我が国で就労する外国人のカテゴリー/基調報告(野口 尚)/労働政策フォーラム(2010年12月4日開催:JILPT)

次に、わが国で実際に就労している外国人のカテゴリーをみます(図表2)。2009年10月末現在の数字ですが、56万人が働いています。4つのグループがありまして、まず就労目的の滞在が認められている人が10万人います。ここは基本的に専門的・技術的分野とされる方です。2つ目が、身分に基づいて在留している人。たとえば、定住者、永住者など、日系人の方々、あるいは日本人と結婚された方々で、いわゆる身分系といわれる資格の方々です。こういう方々は就労に関する制限がなく、就労者数が約25万人です。3つ目が特定活動という、とくに認められて就労している方々で、多くが技能実習だったり、あるいはEPAといった二国間の協定で受け入れている看護師や介護福祉士候補者の方々で、約11万人います。4つめの資格外活動は、よくコンビニで見かけるような若い外国人の方で、留学生の資格で在留し、例外的に1週間28時間の限度でアルバイトをしている人などです。こうした人が10万人弱おります。

経済危機後の日系人求職者の状況

図表3 国籍別・在留資格別外国人労働者の
現状(2009年10 月現在)

図表3 国籍別・在留資格別外国人労働者の現状(2009年10月現在)/基調報告(野口 尚)/労働政策フォーラム(2010年12月4日開催:JILPT)

現状を国籍別に見ますと(図表3)、就労者の総数では中国人が一番多く、次にブラジル人、日系人でいうとペルー系の方も多い。身分系ではフィリピン人も4万人と多くなっています。こうしたなか、日系人を中心に、リーマンショックとその後の経済危機で大変困難な状況に直面したということです。

日系ブラジル人が多い地域、たとえばハローワーク掛川などでは、リーマンショックの影響で職を失った日系人の方々が開庁前に長い列を作っていました。ハローワークも深夜まで開けて相談に当たるという状況にあったわけです。

その経済危機後の状況ですが、多くの日系人がブラジルなどの母国に帰国しました。例えばブラジル人で2008年末と09年末で比べると、主に帰国によって約4万5,000人減っています。この帰国に関して国は、帰国支援事業を実施しました。帰国したいけれど飛行機のチケット代がない方にはその料金を補助したわけです。それで約2万人が帰国しました。もちろんこれは強制的に行ったということではなく、帰りたくて困っている方のニーズに応じて実施した事業です。

経済危機後の失業率ですが、直近の10月で5.1%ということで、失業率は高止まりしています。失業者数も300万人を超える水準で高止まっています。それでも諸外国に比べるとまだ低く見えますが、雇用調整助成金によって雇用を維持するための補助金を受給している人が100万人を超えており、もっと多くの潜在的失業者がいると考えた方がいいのではないかと思います。

それから、日系人が多いいわゆる外国人集住地区の9つのハローワークで、相談件数がうなぎ上りとなっています(図表4)。それから新規の求職件数も増えていきました。現在は、新規求職はかなり落ちており、相談件数もかつてほど多くありません。しかし、そのレベルはリーマンショック前と比べるとまだ3~5倍に高止まっている。求職者が何度来所しても仕事が見つからない状況が現在も続いているわけです。

図表4 外国人集住地区9ハローワークにおける外国人求職者職業相談の状況

図表4 外国人集住地区9ハローワークにおける外国人求職者職業相談の状況/基調報告(野口 尚)/労働政策フォーラム(2010年12月4日開催:JILPT)

太田(群馬)、松本(長野)、大垣、美濃加茂(岐阜)、浜松(静岡)、豊橋、豊田、
刈谷(愛知)及び四日市(三重)の9ハローワークの合計

図表5 外国人求職者の現在の状況

図表5 外国人求職者の現在の状況/基調報告(野口 尚)/労働政策フォーラム(2010年12月4日開催:JILPT)

外国人求職者についてのアンケート調査結果(図表5)によると、10カ月以上の長期失業者が全体の4割、4カ月以上に広げると7割になります。それから、日本語があまりできずに不安だという意見も多い。今後の見通しでも、一番多かったのは、経済状況がよくなっても日本語が使えないと仕事につけないと思っている人がもっとも多くなっています。ただ、日本語が使えなくても、良い仕事ができるという方も2割弱います。これは甘いのではないかと心配しています。

日本語の問題では、事業所の約8割で外国人を労働者として雇う場合に、日本語を話せる、指示したことを理解できることが必要だと思っているわけです(図表6)。企業がそういう形で日本語能力を求めているのですが、話すのは何とか対応できても、読み書きは事業所の期待にはこたえられていない状況です(図表7)。

図表6 約8割の事業所が、外国人労働者を採用する場合には、
「仕事上必要な日本語能力を求める」

図表6 約8割の事業所が、外国人労働者を採用する場合には、「仕事上必要な日本語能力を求める」
/基調報告(野口 尚)/労働政策フォーラム(2010年12月4日開催:JILPT)

ですから現在、苦戦を強いられているのが、日系人求職者ということになります。第一に、製造現場の仕事がかつてのような派遣で就職できる状況が減ってきているからです。一部仕事が戻ってきていますが、例えば1カ月、3カ月といった非常に短期の雇用契約になっている。第二は、先ほどの日本語能力が不足していることも影響しています。3つ目は、日本人と日系人との間で、職の奪い合いのような状況が見られることです。事業主は当然、日本語ができる方を採りたいので、日系人は苦戦を強いられています。こうした状況の中で、集住地域を中心としたハローワークで通訳の配置をしたり、相談員を置いたりと、相当な体制をとっています(図表8)。

図表7 企業が求める日本語能力と日系人労働者の日本語能力にギャップ

図表7 企業が求める日本語能力と日系人労働者の日本語能力にギャップ/基調報告(野口 尚)/労働政策フォーラム(2010年12月4日開催:JILPT)

図表8 ハローワークを中心とした
日系人向け相談・支援機能の強化

図表8 ハローワークを中心とした日系人向け相談・支援機能の強化
/基調報告(野口 尚)/労働政策フォーラム(2010年12月4日開催:JILPT)

こうした状況を踏まえて、日系人就労準備研修に着手したわけです。就労にはやはり日本語が必要になるということで、仕事につなげる日本語を身につけてもらうために始めた研修です。3カ月程度の研修で、目標は、仕事につなげるということです。平仮名、片仮名で履歴書が書け、ハローワークで求人票が読める、それから就職の面接で基本的な受け答えができる、これらを到達目標にして、この研修を昨年度から行っています。

その実績ですが、09年度は5,000人を目標にし、6,000人を超える方に参加いただきました。最後まで研修を終え、仕事についた方が35%、途中で仕事が見つかったので研修を辞めた人も含めると、約6割が仕事につながっています。今年度は現在、実施中で、5,000人には研修を受けていただきたいと思っています(図表9)。

図表9 日系人就労準備研修実施実績

図表9 日系人就労準備研修実施実績
/基調報告(野口 尚)/労働政策フォーラム(2010年12月4日開催:JILPT)

諸外国における外国人労働者受入れの状況

次に諸外国における受け入れ状況です。ヨーロッパの大陸諸国については、第二次世界大戦が終わって、戦後復興によって急激な経済拡大を遂げていたときに、労働力需要が急増します。ヨーロッパ諸国については旧植民地ということもあり、あるいは二国間協定を結んだりして、いわば意識的に外国から労働力を受け入れる政策をとったわけです(図表10)。それが曲がり角を迎えたのがオイルショックです。そこで受け入れから抑制にかじを切ったわけですが、うまくかじを切れたわけではなかった。外国人の定住化が進みます。というのは、物ではなく人ですので、家族の呼び寄せという問題も出てくる。そして、さまざまな摩擦が生じ、外国人の新規受け入れは厳格にしていく一方、すでに定住した外国人は、統合政策をとる方向になります。こうしたなかで、リーマンショックが起こり、現在、各国とも一般的に受け入れについては、さらなる厳格化が図られている状況です。

図表10 諸外国における外国人労働者受入れ政策(イギリス、ドイツ、フランス)の経緯

図表10 諸外国における外国人労働者受入れ政策(イギリス、ドイツ、フランス)の経緯
/基調報告(野口 尚)/労働政策フォーラム(2010年12月4日開催:JILPT)

それから、次はシンガポールの受入れ政策です。アジア諸国の中では非常に特徴的な受入れ政策と言われており、厳しい在留管理が行われています。まず外国人を雇う人は、外国人雇用税という税金を払うことになっており、妊娠している場合は国外退去、結婚を認めないなど、相当厳格に管理して、数年働いたら帰国してもらうという形をとっています。それでも単純労働者の受け入れは経済構造の発展に問題なのではないかということで、最近さらに安い外国人労働者、単純労働者の受け入れは抑制の方向に政策転換している状況です。

図表11 欧州におけるEU域外外国人
に対する統合政策

図表11 欧州におけるEU域外外国人に対する統合政策
/基調報告(野口 尚)/労働政策フォーラム(2010年12月4日開催:JILPT)

資料出所:井口泰「欧州における域外外国人に対する統合政策の転換 と我が国の言語政策の課題」(2010年9月)

(独)労働政策研究・研修機構「諸外国の外国人労働者受入れ制度と実態2008」

韓国ですが、雇用許可制度を導入しました。毎年受入れ業種や、その上限数を決定して受け入れる。送り出し国と二国間協定を結ぶ形で雇用許可として外国人を受け入れています。最近の動向ですが、もともとあらかじめ受入れ期間を決めていても一たん受け入れると、やはり延びる傾向があります。なお、リーマンショックで韓国でも失業者が増えたこともあり、受入れ枠の縮小という方向になっています。

それから統合政策ですが、たとえばドイツでは移民に対する統合政策としてドイツ語やドイツ文化に関しての統合コースとして、一人当たり645回、時間にして480時間の研修を義務づけています(図表11)。概略だけの説明になりましたが、やはり外国人受入れは人の問題ですので、円滑に受け入れて自立していただくためには、日本語、日本文化などの理解も必要になります。そうしたことを進めるための社会統合コストが必要になってきます。

今後の外国人労働者施策を進める上での留意点

日系の定住外国人は30万人という相当大きな数になってきています。そういう方々について、きっちりと受け入れをするためのパッケージをつくらなければならないということで、今年8月に内閣府を中心にまとめた指針があります。その中で、日本語能力が不十分な方が多い日系定住外国人を日本の社会の一員としてしっかりと受け入れ、社会から排除されないようにするために5つの柱をあげています。第一に日本語で生活ができるように、大人だけでなく、子供を含めて、日本語の習得を進めなければならないということです。2つ目は、子供の教育をどうするのか。3番目は社会で自立するために職業、仕事を得ることが大事であるということ。4番目が社会保障もきちんと提供する必要があるということ、5番目には、お互いの文化を尊重して共生していこうということです。これを柱に今後、行動計画をつくっていくことになっています。ということで、やはり社会統合に当たっては、そのコストは私どもが覚悟する必要があるのではないかということです。

それから統合コストだけではなくて、生活者として外国人労働者を受け入れていくわけですから、受け入れた外国人が失業することもある、さらに年齢を重ねるということにもなるので、当然、社会保障や福祉制度において負担が増加することも考えていかなければいけないわけです。生活保護が典型的で、日本人もそうですが、外国人の受給者も増えている状況にあります(図表12)。

図表12 外国人労働者の失業や高齢化により、社会保障や福祉制度においても負担が増加する可能性がある

図表12 外国人労働者の失業や高齢化により、社会保障や福祉制度においても負担が増加する可能性がある。
/基調報告(野口 尚)/労働政策フォーラム(2010年12月4日開催:JILPT)

資料出所:

【図1】被保護者全国一斉調査(基礎調査)

(注)*1.各年7月1日現在、*2.世帯主が日本国籍を有しない世帯数、*3.21年については速報値

【図2】福祉行政報告例※外国人被保護世帯数については、被保護者全国一斉調査(基礎調査)

一方で、少子化は避けられず、出生率向上は夢のまた夢だから、それを前提にしなければならないという人もいます。しかし、先ほど触れた新成長戦略では少子化対策を講じて、出生率の向上を図るべきだというのが基本的な考え方になっています。やはり諦めてはいけないと考えておりまして、ワーク・ライフ・バランスや女性が働きやすい環境づくりといった構造を変えていくのが先で、それを変えないで、ほかに頼るのはどうかということだろうと思います。

それからもう1つ、どこから外国人が来るのかということです。人口の高齢化はどうも日本だけの問題ではなく、中国は膨大な人口を抱えていますが、実は2020年には中国も労働力人口が減少に転じるという試算もあります(図表13)。すでにもう中国でも介護労働力をどうするかといった議論が出ていると聞いていますけれども、無尽蔵に外国人が供給できるのかといった議論はあり得ると思います。

図表13 アジア諸国における労働力人口の減少

図表13 アジア諸国における労働力人口の減少
/基調報告(野口 尚)/労働政策フォーラム(2010年12月4日開催:JILPT)

それから、労働力不足を外国人で補う場合、どのくらい数で補うのかという話もあります。生産年齢人口、人口動態によって人口のピラミッドから見ると2050年までに3,200万人減少する。したがって、それを維持しようとすると、単純化していえば毎年80万人程度移民としての受け入れが必要になる。そうすると現在、働いている外国人労働者と同等以上の数を毎年恒常的に受け入れる政策をとるということになります。当然、景気はよくなったり、悪くなったりしますので、そもそも毎年安定的に受け入れることが政治的にも可能なのかということもあります。加えて、親族の呼び寄せも発生してきます。これは人権問題でもありますので避けられないとは思いますが、人数の厳格なコントロールは厳しいといえます。それから受け入れた方々に対するさまざまな社会保障負担も当然覚悟しなければなりません。なお、技能実習についても増え続けていたのですが、やはり景気の変動によって技能実習も減る状況が見受けられるようになりました。

また、外国人材を活用するために、中国やベトナムなどの学生に、日本をはじめ外国で働いてみたいですかということを聞いた調査があり、結果としては意外に関心が高くないということになっています。日本で2、3年働かせてもらうけれど、そのうち帰りたいという回答が多かったわけです。これをどう受けとめて、こうした人材をどう受け入れていくかということもあります。

もう1つよく言われるのは、外国人材の受け入れは貴重な人材であればあるほど引っ張り合いになりますので、母国の経済発展を阻害するのではないかということです。途上国の人材流出、頭脳流出といった問題です。とくに深刻なのが、医師、看護師といった養成にコストがかかる人で、社会の安定、基盤を支えるような人材を他国が引っこ抜いていいのかという議論があるわけです。

加えて、現在、一部上場企業に対して外国人の活用を聞いたところ、必ずしも活用がうまくなされているわけでもない。それから年収が意外に低く、これは年齢が若いということもあると思います。

それから留学生ですが、卒業後に日本で就職を希望する方々が6割弱いる。しかし、実際に就職できているかというと、希望者の半分程度しかかなえられていない。留学生は高度人材の卵ですので、その就業をどう進めるかというのも1つの議論かなと思います。

以上、いろいろ申し上げましたけれども、国内労働力をどうするのか、それから受け入れのコストはどうするのかといったいろいろな問題がありますので、議論を積み重ねていく必要があるのではないかなということです。