報告「中小企業の人材育成」
中小サービス業における人材育成・能力開発

配付資料(PDF:234KB)

私、「中小サービス業における人材育成・能力開発」というのも一環として含まれております「中小企業における人材育成・能力開発」というプロジェクトを2007年度から今年度まで4年間担当しております。中小企業における人材育成・能力開発って、皆さん、お聞きになったら、多分、どうやってやるのだろうというふうに思われるのが、さっと聞くと何ともないように聞こえるのですが、皆様ご存じのとおり、日本の99%の企業は中小企業ですので、中小企業における人材育成・能力開発っていったら、じゃ、日本中の企業の人材育成・能力開発をやるんかいというふうに、私は聞いた途端に思いました。

ただ、4年間でそんなことをやっている時間はないので、絞ろうと。それで絞ったのが、今日、今からお話をする中小サービス業、サービス業の人材育成・能力開発。ただ、サービス業といいましても、この後、お話ししますが、それでも絞らざるを得ない。さらに絞っていかざるを得ない。それと、昨年と今年やっております製造業、特に物づくりです。機械、金属関連の中小企業における人材育成・能力開発というのに絞ってやりましょうということにして、まずターゲットをそういうふうに設定しました。

それから、サービス業、企業における人材育成・能力開発というものにアプローチしていくときの視点というものも、もちろん、ある程度、絞らざるを得ません。その絞らざるを得なかった視点に沿って、昨年度、一昨年度とやってまいりました調査研究の成果を、何とか40分でおさまるように取りまとめてまいりましたので、皆様のお役に立てば幸いかなと思います。

やむを得ず絞っていったアプローチなのですが、まず1つは、当たり前のことながら、中小企業における人材育成ですので、企業というものが当然主体として出てくるわけですけれども、そのときの「企業内における取り組みへの着目」ということなんですけれども、特に、企業が自社に必要な人材の要件、どんな人が要るかということを、どういうふうに明確化、我々の言葉では「見える化」ということで、「見える化」って、わりかし最近はやりの言葉になっていますけれども、「見える化」という言葉であらわしているのですが、その明確化をしたということが、これは、当然、明確化をすることによって人の確保――確保は、大きくは2つ方法がありまして、1つは採用、もう1つが、今からお話しをする人材育成とか能力開発なんですけれども、育成や採用の前提となるであろう人材要件の明確化ということが、実際、中小企業の人材育成・能力開発の取り組みだとか、取り組みの効果と、どういうふうに結びついているんだろうか、この点をまず着目して、実態把握して分析していこうと考えました。これが1点。

もう1点は、中小企業ですので、大企業のように、企業内のいわゆる内部労働市場が高度に発達しているわけではない。当然、外部の、企業の外に広がっている労働市場との関係というのを、中小企業の人に絡むことを取り扱うときはいつでもそうですけれども、それを意識せざるを得ないと。我々の研究プロジェクトでも、そういうふうなことを意識して、実態把握をしていこうと。

くだいて言いますと、要は中小企業の世界で、皆様もよくお聞きになるでしょうけれども、渡り歩いてキャリアを積んでいくだとか、あるいは、サービス業、特にサービスの世界だと、資格、渡り歩きだとか、キャリアを積んでいくときに、資格というものが何がしかの意味なり、効果なりを発揮しているようによく言われるんですけれども、その渡り歩いている人が、人材育成とか能力開発に、どんなニーズだとか、どんな課題を持っているのかだとか、あるいは、資格というものが、企業や、働く人にとってどんな意味合いを持っているのかという、企業の内から外へと広がっていくような現象を、少しなりとも明確な形でとらえてみたいと思いまして、それを調査のもう1つの観点としています。特に自社の外、つまり、企業の外を人材の調達先だとか、能力開発の場として重視しているという企業や従業員のニーズというのに着目していきたいと考えております。

それで、本日の報告の構成ですが、まずは最初に申し上げました能力の見える化ということと、人材育成について、中小サービス業の企業内で行われている人材育成について、お話をしたいと思います。

続きまして、その能力の見える化とも重なる部分があるのですが、それともう1つは、先ほど申し上げましたように、企業の外の世界とも重なる部分がありますけれども、人材育成における職業能力資格というのが、企業の人材育成において、どういうふうな機能を持ち得るのかという話を2番目にしたいと思います。

それから、3番目は、2番目のアプローチの点ということでお話を申し上げました、企業の外に対するまなざしというか、企業及び従業員の外に対するニーズというか、そういうことに対する志向と、そこの中で出てくる課題について、分析の結果をお話しして、問題提起をしていきたい。

最後、この3つの項目の報告を踏まえて、今後の取り組みの方向性について、少し考えていきたいと思います。

今日のお話の内容は、ホームページでもダウンロードできますけれども、『中小サービス業における人材育成・能力開発』(労働政策研究報告書のNo.118)という報告書を、この3月に出したのですが、全部で9章立てですけれども、そのうちの幾つかの章の、さらにかいつまんで話をするのですが、この中に詳細はおさめてあります。もしご関心のある方は、まだほかの章もありますが、これは今日、ここでお話しする以外の章ですね、例えば学歴とかの効果であるとか、あるいは労働時間と職業能力開発とのかかわりということの分析もしておりますので、もしご関心のある方は、ホームページで探していただいて、お読みいただければと思います。

報告に入る前に、報告で用いるデータについて、少しお話ししたいと思います。

今回、これからお話しする話というのは、基本、アンケート調査のデータに基づいてございます。そのアンケート調査のデータですけれども、2009年に私どもで実施した調査、「中小サービス業の人材育成・能力開発に関する調査」という調査です。それで、企業調査と従業員調査からなっておりまして、まず企業調査のほうですが、業種と地域をかなり限定しております。業種は、資料5ページに8つ書いてございますけれども、建物サービス、ビルメンですね。それから、学習塾、美容、情報サービス、葬祭、自動車整備、老人福祉サービス、土木建築サービス。

どういう基準でこの8つを選んだかといいますと、まずは大きく2つ、選ぶときの基準がございまして、1つは、この数年の間に就業者数が伸びているところ。この中でいいますと、学習塾、情報サービス、葬祭、老人福祉、この4つは伸びの大きい、しかも、相対的に就業者数も多いというところをとっております。

それから、もう1つの基準は、従業員数は伸びてはいないけれども、サービス業として取り扱うときに無視できないぐらいの就業者数が多いところです。この中でいいますと、美容、自動車整備、建物サービス、土木建築サービス。ある意味、典型的なサービス業といえなくもないかと思いますけれども、その2つの基準でまず選んでいって、あともう1つは、6ページに書いておりますけれども、これは、各種の厚生労働省の調査であるとか、私どもが、前身の日本労働研究機構のときにやってきた調査で、キャリアと能力開発のやり方というので、4類型というのをつくってみまして、それぞれに当てはまるような業種を選んだというのがあります。

4つのセルのつくり方ですけれども、縦が離職率で、下のほうがフルタイムの離職率が低い、上のほうが高いと。何を意味したものとしてとらえたかというと、離職率が高い側は、わりかし企業を転々と移ることが一般的な業種。低い側がそうではない業種、長期勤続ということで特徴づけられるのではないかと思われる業種で、縦で分けて、今度、横は何かというと、左側が、Off−JTとか自己啓発の活用、つまり、職場を離れて、OJT以外の能力開発の機会があまり活用されていない業種。逆に、右側は活用されている業種で、そういうふうにして分けてみました。右側が活用、Off−JTとか、自己啓発の機会にわりかし恵まれている。左側は、あんまりそういうふうな機会がなくて、言いかえると、OJT中心という言い方もできるのかもしれませんけれども、そういうふうにして分けてみたと。

ということは、OJTで企業があまり動かない、長期勤続でというところが多いのが典型的には自動車整備で、意外と、情報サービスなんかも、転職率がそんな高いわけではないと。あと、建物サービスも、そんなに移動が多くない。

逆に、これとは対照的に横断的で、Off−JT等の機会が多い、外部でやっているというのが、学習塾とか、老人福祉介護とか、美容なんていうのが、そういうふうな形で特徴づけられるのではないか。

つまり、キャリアの形成の仕方と、能力開発のあり方ができるだけ違う業種を、しかも、さっきの就業者が伸びている、伸びていないというのと、就業者数という基準も入れて選んでみましたという形になっています。

あと、地域を関東に絞っているのですが、これは単純に調査実施上の理由でして、非常に大部の調査票を用いましたので、留め置き調査という訪問員の方に行っていただいて回収するやり方でないと、なかなかうまく調査票が集まらない。こうなると、郵送調査というのはなかなか難しいとなりまして、関東に絞っています。

企業調査と、もう1つ、従業員調査というのをやっています。従業員調査は、企業に配布するときに、サービスの提供を中心的に担っていて、その会社で最も人数が多い職種を「基幹的職種」と呼びますと。その方に配ってくださいと。総務などの事務の仕事は除きますという形で指定をして、そういう従業員の方2名です。

例えば、美容業でいいますと、美容師の方。それから、学習塾でいうと講師の方。情報サービスなんかでいうと、プログラマーとかシステムエンジニアの方、そういうふうな方に配ってくれと頼んでいます。8ページ一番下が回収数で、大体、企業が900、従業員が1,300名ぐらいの回収を得ました。

それで、今日のお話は、先ほど、いろいろな業種、特徴のある業種をとりましたと申し上げましたけれども、それぞれ特徴があって、人材育成・能力開発に関して違いが大きなところというのも、当然あるのですが、今日、お話しすることは、どちらかというと、その違いは違いとして当然踏まえた上で、今選んで挙げました8業種に、ある程度、共通するような出来事というか、現象を取り上げていき、それを中小サービス業の人材育成における特徴的な事項であるだとか、課題なんかとしてとらえていきたいと思っております。

ようやく1ということで、9ページの「能力の『見える化』と人材育成」という話をしていくわけですけれども、求められる仕事上の能力を明確化している程度というのを、私どものアンケートでは聞いています。「非常に明確にしている」、「やや明確にしている」というのが、明確にしているというふうにとらえていいのだろうと思いますけれども、一番下に回答企業の合計というのがありますが、大体7割です。業種ごとに、そんながくんと落ちるとかというところはないのですが、美容は非常に高いです。高いのは、そもそも美容というのが、美容師という業務独占的な資格の人々によって商売をやっている業種だからというのもあるかもしれませんけれども、美容が非常に高い。あとはいずれの業種につきましても、大体7割前後です。

10ページは、今申し上げました、求められる能力の明確化というのが、人材育成にとってどういうふうな影響を与えているかということですが、上から「非常に明確化している」「やや明確化している」「どちらとも言えない」という形で示しているんですけれども、まず、育成・能力開発の方針。方針と、あと、インプットというのは、OJTをやるにあたって、どういうふうなことをやっているかということをまとめたものです。まず、育成・能力開発の方針でいきますと、求められる能力を明確化しているというほうが、やっぱり「数年先の事業展開を考慮して」だとか、あるいは、「今の人材を前提に」というところが、明確化しているほど高くなっていると。特に、数年先の事業展開を考えながらという回答は、明確化しているところのほうがぐんと高まっている。

それから、インプットの状況ですけれども、この辺は、あんまり差がないのですが、一番回答の多い「教材・研修などに関する情報を収集している」というのは、やはり明確化しているところのほうが割合が高い。つまり、求められる能力を明確化しているところほど、まず先を読んで育成・能力開発の方針を立てているということがあるのと、もう1つは、方針に沿ってということもあると思いますけれども、インプットを熱心にやっているということが言える。

ちなみに、基幹的職種の従業員に求められる能力を明確化しているというふうにいいますが、どうやっているかということですけれども、やっぱり小さい企業が多いからというのもありますが、3分の2ぐらいの企業が、日常の業務の中で、従業員に求められる能力を伝えているというふうに答えています。

その次に多いのが、会議とか小集団の活動の中でということとか、あとは朝礼や職場のOJTとかというのが多いのですが、業種別で言うと、老人福祉などは、会議とか小集団でや朝礼でという回答が、ほかの業種に比べると多くなったりしています。

それで、話をもとに戻しますが、まず、求められる能力の明確化というのと、方針とインプット、つまり求められる能力が明確化されているほど、先行きを読んだ能力開発、育成というのをやる傾向が強いのと、あと、従業員の人材育成、能力開発に対するインプット、お金であったり、情報であったり、教材の用意だったりということを積極的にやっていると言うことができる。

もう1つ、さっきは教育訓練に対する投資という面を見ていったのですが、もう1つ、職場での取り組みというのもあります。その点について整理したのが、11ページの表でして、職場での取り組みを見ていきますと、いずれの取り組みについて見ても、「指導者を決め、計画に沿って育成・能力開発をしている」だとか、あるいは、「作業標準書やマニュアルを使って育成・能力開発をしている」、全部で5つあるわけですけれども、特にこの辺は、「やさしい仕事から難しい仕事へ」というのは、あまり違いが目立たないんですけれども、違いが目立つのは、「計画に沿って育成・能力開発をやっている」だとか、あるいは、「作業標準書やマニュアルを使って育成・能力開発をやっている」だとか、あと、「社員による勉強会や提案発表会」なんていうのも、結構、差が出ています。

こういうふうに職場での取り組みというのも、基幹的従業員に求められる能力を明確化しているという企業ほど盛んに行われる傾向がありますと。明確化が進むと、取り組みが盛んに進むということがあるのですが、12ページはその取り組みの効果はどうかということですけれども、これも明確化している程度によって、上のこういうふうな項目、「職場の生産性の向上」だとか、「採用活動がやりやすくなった」だとか、「定着率が」ということで、どういうふうな影響があったか、効果があったか、「非常に効果がある」と「ある程度効果がある」というものの合計ですけれども、どういうふうな効果があるかというのを整理してみました。

それを見ていきますと、違いがあまり目立たない項目というのもあるのですが、特に、「職場の生産性の向上」であるとか、「モチベーションの向上」であるとか、それから、「顧客満足度の向上」というのは、非常に差があると。

それから、「職場の人間関係がよくなる」ことなども、明確化が進んでいるところほど効果があったという回答が多くなっている。つまり、求められる能力を明確化する取り組みが進む、ある意味、当たり前のリンクがちゃんとつながっているということではあるのですが、求められる能力が明確化される。明確化されると、それに沿って先行きを見た方針なり、能力開発・育成の方針が立てられる。今度はそれに沿って、職場でのOJTを通じた取り組みであるとか、教育訓練、人材育成に関する投資が行われやすくなる。結局、効果が出るというふうな、非常に当たり前と言えば当たり前ですけれども、そのリンクがきちんと出ているような形になっています。

それじゃ、求められる能力の明確化というのをやろうとしている企業、やっている企業、一生懸命、より高度にやろうとしている企業、これが上になる企業というのはどんな企業なのかということですけれども、多分、明確化の動機というのは、企業がやる動機というのは2つぐらい考えられて、1つは、できるだけ従業員のことを把握した上で人事管理を進めようと、その一環としてやっているというのが1つと、もう1つは、社会的な従業員の能力ということで、従業員の能力というのを考えていくときに、社会的な評価なり、何なりということを意識していて、それとの照らし合わせということを常に意識してやっているようなところを進めて、それとの照らし合わせの中で、従業員の能力を把握して、適切に活用していきたいというふうに考えているという、2つぐらい考えられるのではないかと思います。

それを、ちょっと今までの表の分析とは異なるんですけれども、統計解析の手法で分析したのが、13ページです。

この*は、*がついていると、非常に確実らしいということを意味しまして、あと、こちら「係数値」と書いてありますけれども、これがマイナスとプラスになっているのですが、プラスの項目、つまり、どういうふうに読んでいくかといいますと、例えば、これは従業員の個々人の情報把握というので、入社前の経歴というのは、プラス0.108となっていますけれども、これが入社前の履歴を把握していると、明確化をする度合いが上がる可能性があると。上がる可能性もあるんだけれども、それは確からしさの点で言うと、あまり確からしくないので、これはそうじゃない。その下は、例えば従業員のこれまで経験した部署、職場を把握しているという企業では、明確化を進めている度合いが上がる可能性が高くて、さらに、**がついていますので、非常に確からしいということで、これはどうもそうだと言えるのではないかということで読んでいくわけです。

さっき言った2つの動機、実は今、先に言っちゃいましたけれども、1つは、従業員のことを把握していってという動機というのは、どうもほかのいろんなことを調整して見ても効いているらしい、そう言えるらしいということがこの結果からわかりました。つまり、これまでに経験した部署や職場について、情報を把握しているところというのは、明確化を進めようとしている企業である、進める度合いが強いと。

それと、さっき申し上げましたもう1つの動機、社会的な評価とか、通用性とか、従業員の能力が、どのぐらい社会的に通用するのかということを意識しているかどうかというのは、この下のほうの分析結果でして、例えば、業務独占的資格というのは、その資格を持っていないと仕事ができないという、美容師なんかが典型的な業務独占資格ですけれども、そういうのが基幹的職種の従業員に必要かどうかと、必要だというふうに答えているところは、非常に明確化を進める度合いが高い。つまり、業務独占的資格というのがあるから、それに沿って従業員の能力を見ていこうという傾向が強いんだろうと。

それから、もう1つは、この下のほう、一人前になった従業員のレベル、一人前になった基幹的従業員のレベルというのが他社に通用するかどうかというので、通用するというふうに答えているところほど明確化を進めている度合いが高い。つまり、通用するというふうに答えているということは、社会的にうちの従業員の能力、資質ってどうなんだろうということを、常に注意していて、その上で、自分のところの社会的な通用度というのを、ある程度、踏まえながら、それと照らし合わせる意味で明確化を進めているのではないかというふうに考えることができます。

その明確化を進めるほど、そういうふうに能力開発・人材育成の取り組みが盛んになって、結果も出ているということですけれども、今、業務独占的資格というふうな話をしましたけれども、企業の中で明確化を進めるときに、1つの目安になるものとして、職業能力資格というものを考えることができるだろうと思います。そこで、職業能力資格だけを取り上げて、能力開発・育成に関する効果みたいなものを見ていきたいと思います。

我々の調査では、今も業務独占的資格という話をしましたけれども、2つ資格ということで、2つの意味づけの資格について、実態を把握し、その効果がどうなのかというのを分析しています。

14ページですが、1つは、今申し上げました業務独占的資格。美容師だとか、あとは自動車整備士も、各人、みんなが取っている必要はないのですが、自動車整備士がいないと整備工場という資格がもらえないということですね。そういうふうなものが1つと、もう1つは、業務独占資格以外に、その資格を持っていないと、例えば老人福祉サービスの仕事ができないとか、そういうことではないのですが、でも、取得を奨励し、義務づけているものというのがあります。

その中身を、さらに我々の調査では2つに分けているのですが、1つはその資格を取っている人を採用するというふうに位置づけている資格。それから、もう1つは、能力開発とかキャリア形成の目安、つまり、節目で取ってくれとか、自己啓発のためとして取ってくれとか、業務命令で取らせているとかという資格の2つに分けて②のほうをとらえています。

15ページは、それぞれ8業種について見ていったときに、例えばどんな資格が該当するのかということですが、有資格者を採用する資格というのは、こんな資格です。こんな感じです。美容はもう業務独占資格として美容師というのがあるので、それは除いて考えるので空白になっていますけれども、学習塾だとか、情報サービスだとか、葬祭だとか、美容だとかというのは、こういう資格っていうのが、業務独占的資格以外にあんまり見当たらない。

一方で、建物サービスとか、自動車整備とか、あと建築サービスとかは、結構、有資格者を採用する資格として、こういうふうな資格がたくさん上がってくると。これが有資格者を採用する資格ですけれども、もう1つ、16ページは能力形成やキャリア開発の目安として位置づけている資格というので、先ほど申し上げました、業務命令で取得させているとか、一定の職に達するまでに取得するように奨励している資格であるとか、自己啓発のためにということで、3つに分けていますが、見ていただくとおわかりのように、結構、重なっています。例えば、建物サービスで言うと、さっきの電気工事士とか、電気主任技術者とかというのもあるのですが、それ以外で言うと、ビルクリーニング技能士だとか、建築物環境衛生管理技術者というのが、このキャリア形成、能力開発の目安のために取る資格にあたります。

自動車整備の場合だと、自動車整備士というのが、これは業務独占的資格でもあるのですが、ただ、みんながみんな取ってなくてもいいので、入社してから取るように勧められるということがあってこれが挙がっているのと、あと自動車検査員というのが多く挙がっています。

それから、情報サービスで言うと、基本情報処理技術者であるとか、ソフトウエア開発なんていうのが、一定の職に到達するまでに取得するように言われていて、さらに自己啓発のためにということで、マイクロソフト社の認定資格だとか、オラクル、これはどっちも皆さんご存じのとおり、民間の大ソフト会社ですけれども、そういうふうなところの認定資格を取るようにと言っている企業が、情報サービスだと多いと。

それから、葬祭は全部同じです。これぐらいしか資格がないのですが、葬祭ディレクターという、葬祭業協同組合がつくっている資格。

それから、土木建築サービスだと、これは有資格者が取る資格とかなり重なるのですけれども、建築士、建設士、あと、技術士、それから、RCCMという建設コンサルタントの方なんかがよく取っている資格があります。

美容師はなくて、自己啓発のためにというので管理美容師が出てくるぐらい。

老人福祉は、ホームヘルパーがまず必須みたいなところがあって、あとは、一定の職位までとか、自己啓発のためにということで、介護福祉士だとか、ケアマネージャーなんていうのが挙がってきます。

17ページは資格の活用と人材育成に向けた企業の取り組みということですが、まず、左側のOJTの取り組みですが、やっぱり資格があると言っているところのほうが、全部、平均値が高いんです。右側はOff−JTの取り組みのほうなんですけれども、しかも、その差は非常に確かな差であるというふうに言うことができる。つまり、有資格者を採用するであるとか、業務独占的資格があるだとか、そういうふうなことを設定している企業ほど、人材育成・能力開発の取り組みが進みやすいと言うことができる。

企業がそういうふうに言っても、従業員が踊ってくれなければ、笛吹けど踊らずなんですが、18ページは、そういうふうな奨励したりする資格があるというところと、ないというところを比べてみると、資格があるというところの従業員のほうが、資格に対して積極的な評価をしている。例えば、専門性に対する意欲を高めるのに効果的であるとか、対外的に能力をアピールできるだとかという評価をしている。

最後、3番目の話ですが、「『職業別労働市場』への志向と課題」ということで、これは、基幹的職種の人が、一人前に仕事ができるようになるのに有効なキャリアってどんなキャリアだということから、まず見ていきたいと思います。19から20ページです。

一番目、「一つの勤め先で長期」というのは、これは要は内部労働市場型の長期勤続型です。「会社・法人は変わっても同じ仕事を続ける」だとか、「一人前になるまでは同じ勤務先で働き続け、その後は会社・法人を変わって」というのが、これがいわゆる横断型、あるいは職種は同じにして動き続ける、動いていくということが有効だという見方だと思うのですが、大体こっちが6割で、こっちが3割と、企業の見方はそういうふうな見方になっている。

業種別で言うと、学習塾なんかは、内部労働市場型という見方がわりかし高い。従業員になると、もっと職能型に対する志向というのが高まって、長期勤続志向というのが5割で、職能別志向というのが4割という格好になっています。

こういうふうな志向の従業員なり、企業なりというのが、果たして、人材育成とか能力開発にかかわることで、どういうふうな考え方の違いを示しているのかというのを、ごく一部について、お話しをしていきますと、今の長期勤続志向型、内部型、あともう一つは、基幹的従業員の確保の仕方というので、企業の中から確保するというのを組み合わせて、これを内部型と。逆に、一人前になるのに外へ行ったりするのがいいというふうに志向している、プラス、外部から即戦力を入れるということを考えているのを職能型というふうにしていきたいと思いますけれども、いろいろあるんですけれども、まず、22ページの社会的能力評価制度に対する見方ということで、一番上が内部型で、2番目が中間型で、3番目が職能型なんですけれども、ものすごい大きな差というわけではないのですけれども、やっぱり内部型に比べると、職能型のほうが、企業を超えて通用するような社会的能力評価制度に対して、どんなところが主導していけばいいですかという質問の結果なんですけれども、「特に制度をつくる必要がない」というのが、職能型のほうが少なくなっていると。つまり、そういう制度はつくってほしいというふうに考える志向というのが、内部型に比べると強いと。

それから、そういう制度ができたときの効果というか、メリットというか、どんな意味があるかということですけれども、大きな違いがない項目もあるんですけれども、すみません、これは資料のほうにはない追加した表なんですが、中途採用の能力を判断する指標になるだとか、再就職をする際に有利に働くということで、職能型のほうが積極的な評価をしてる。

それから、23ページの従業員のほうを見ていきますと、まず従業員のほうで内部型、つまり長期勤続を志向するタイプと、一人前になるのに会社を移っていったほうがいいと考えるほうを比較していきますと、まず問題点でいきますと、例えば能力開発していく上でどんな問題点がありますかといいますと、従業員の間で切磋琢磨してというのに乏しい、会社の中で乏しいというのが、職能型のほうが高い。あるいは、教育訓練機関に通うのに費用がかかるというのが高いということで、総じて、職能型のほうが問題点を指摘する傾向が高い。つまり、この辺なんか見てもそうですけれども、企業の中で、そういうふうな職能型の従業員の能力開発ニーズというのに、うまくこたえ切れていない側面があるのではないかということが伺える。

じゃ、例えばそういうふうな職能型の人というのが、社会的能力評価制度というのができたときに、どういうふうな利用価値があると感じているかといいますと、25ページですが、例えば、ここなんかが顕著に違うのですが、仕事に従事する人のプロフェッショナル意識が高まるというのは職能型で62.4%。内部型では45.7%で差がついている。

それから、中途採用の際に有利に働く、これは企業のほうでも、職能型、内部型を見たときに、職能型のほうが比率が高かったですが、これも倍ぐらい、職能型のほうが高くなっている。総じて、そういうふうなものができると、使い手があると傾向があるのは、やっぱり内部型よりも職能型の人々で、何かこの辺の人材開発とか能力開発の問題点の指摘なり、社会的能力評価制度の利用価値に対する考え方なりというところに示されたものを、どういうふうにすくい上げていくのかというのが、今後の課題になっていくのだろうなと思われます。

ということで、26から27ページのまとめですが、1つは、今、内部型、職能型というので見ていきましたとおり、企業横断的なキャリアというものを志向している企業とか従業員というのも、少ないどころか、そこそこ、3割とか4割ぐらいの割合でサービス業の中に入る。そうすると、特に従業員の問題点にも出てきましたけれども、企業の中での人材育成・能力開発、企業の中だけでやっていくということに対しては、問題点というものを指摘する傾向も、企業横断的なキャリアを志向している従業員は強い。そうなると、例えば企業の枠を超えた社会的な能力開発体制の整備だとか、それをサポートする形になろうかと思いますけれども、職業資格などをはじめとして、企業を超えて活用される社会的な評価基準というのを確立していくことというのが、まずは必要だろうと。これは、いわば能力開発インフラ、今、いろいろと日本版資格制度とかというのをつくる、キャリア評価制度みたいなのをつくるとかということを言っていますけれども、それに近いような話になるだろうと思います。

ただ、確立していくことが求められるとはいいますが、これをやっていく具体的な手段というのは、結構大変だろうなと思いまして、私は、このアンケート調査と並行して、いろいろ事例調査とか、業界団体に対する調査とかというのをやっているのですが、多分、やり方としては2つぐらいあって、1つは、全くそういう資格とか評価基準がないところに、何かそれなりの職務分析とかをやった上で、業界団体が新たな資格制度みたいなものを試行的にやっていくやり方が1つあるだろうと。ただ、それは、今、葬祭業とか、職業紹介の業界とかはやっているのですが、なかなか普及するのに時間がかかるだろうと。

もう一つは、既にある資格を整理して、業界団体なり、国なり、地方なり、どこがやってもいいと思いますけれども、一番有力なのは業界団体かなと思いますが、例えば老人福祉介護の世界というのは、非常にたくさん資格があるわけですけれども、あれを企業内だとか、あるいは業界の中の一般的なキャリアに沿って整理をしていくという作業というのも、この能力開発インフラの整備というところにつながっていくんじゃないかと思います。

私が知っているところで言うと、全国老人保健施設協会という団体は、そういうことをやりかけていますが、まだ、なかなか広まってはいっていないですけれども、そういうふうなことをやっていくという手があろうかと思います。

それから、もう一つは、この能力開発インフラというのは、能力開発インフラを整備するだけじゃなくて、これが先ほどの「見える化」の話にもありましたとおり、企業の人材育成への波及効果というのがあります。資格の効果、あるいは「見える化」の効果というところでもお話をしましたとおり、積極的な教育訓練の取り組みにつながり得る可能性があります。なので、単に能力評価、能力開発インフラというもの、もちろん、企業横断的にキャリアを積んでいく人、あるいはそういう人を採用、確保しようという企業にとっても意味があるんですが、そうではない企業にとっても、それなりの意味なり、重要性なりがあるのではないかと思われます。

あとは、いろいろとアンケートとか事例調査をやって、ここには書いていませんが、もう一つ思うことは、資格、設けたはいいけれども、意味のない資格というのも結構ありまして、皆さんも薄々勘づいていらっしゃるかと思いますけれども、例えば自動車整備って、自動車整備士1級まで資格がありますけれども、1級を取る人ってほとんどいないんですね。取ったって何の利益にもならないから、2級取っていれば、商売はできるわけで、1級取ったからって、それで何か積極的にそれがアピールをするとか、そういうことにはなかなかなっていないという現状があります。あるいは、ビルメンの世界だと、資格取得者をそろえて、何か県の認定とかを取っても、それで入札のときに有利になるかといったら、全然有利にならないとかということもあります。

なので、能力開発のインフラを整備する、それはおそらく企業内の人材育成への波及効果というのもあると思います。それは重要ですけれども、能力開発のインフラが機能していくような、中小企業だと、やっぱり、とりわけそうなんですけれども、経営環境なり、経営状況なりというのを、取引慣行なりというのをつくっていくということも、あわせて重要なのではないかと思います。

非常に茫漠とした範囲の、非常に限られた知見を、しかも、非常にはしょって駆け足でしゃべってまいりましたので、皆様にどのくらいアピールできたかどうかというのは、甚だ不安ではありますけれども、私の話は以上で終わりにしたいと思います。ご清聴、どうもありがとうございました。

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