報告「キャリア発達」
成人キャリア発達に関する調査研究―50代就業者が振り返るキャリア形成―

配付資料(PDF:1,077KB)

労働政策研究・研修機構の下村英雄と申します。

本日、ここにあります「成人キャリア発達に関する調査研究―50代就業者が振り返るキャリア形成―」ということで皆様にご報告申し上げたいと思っております。よろしくお願い申し上げます。

本日の報告の概要でございますが、資料2ページに書いてありますように、ライフライン法というものを用いまして、50代就業者にみずからのキャリアを振り返ってもらい、そのデータを分析した、そうした報告書をもとに、今回はお話しさせていただきたいと思っております。

こうした分析を通じまして、成人キャリア発達に関する新たな知見を得ようじゃないかと、さらに政策的な示唆を得ようじゃないかといったことを目的としております。

もう一つ、ライフライン法というものを用いて、従来から知られている手法ではありますけれども、もう少しきちんと基礎的なデータを収集することによって、キャリアガイダンスの手法としてもう少し基本的な情報の整理をしよう、あと、どのように解釈したらいいのかを考えようじゃないかということももう一つの目的として持っております。

「ライフライン法、ライフライン法」と何回か繰り返しましたけれども、このライフライン法というのは何なのかということですが、3ページにあります「学校を出てから現在に至るまでの職業生活の浮き沈みを線で書き表すとしたらどのようになりますか。最も山になっている部分、最も谷になっている部分にはどんな出来事があったのか、差し支えのない範囲で吹き出しをつけてお答え下さい」、こうしたような教示文を提示しまして、何をするかということですけれども、4ページにあるような用紙を配って、10代から50代にかけて、よく線で自分のキャリアを表現して下さい、書き表して下さいというのを、皆さんどこかできっと見たことがあるなとお感じになる方が多いのではないでしょうか。50代の方にずっと若いころからのキャリアを振り返っていただいて、これを分析して、何か新たな知見を得ようじゃないかと。

さらに、こうした手法はおそらく皆さんのほうで何度も目にされたことがあるかと思いますけれども、これまでにもキャリアカウンセリング、キャリアガイダンスの手法としてよく知られてきていましたけれども、もう少しデータを整備して、知見を蓄えようじゃないか、今回、こういったことが目的になっているということになります。

なので、もしよろしければ、皆さんのほうで実際に10代から現在のご自分の年齢のところまでの職業生活の浮き沈みについて線を書いていただいて、それをもとに、何か私が今からこういう結果でしたであるとか、こんなふうに解釈するようでしたといったことを申し上げるので、話が合っているじゃないかとか、全然話が合っていないじゃないかとか、そうしたことを考えながらもし聞いていただけるといいのかなと思っております。なので、ちょっとこの用紙をもとに、上に行くとプラス、下に行くとマイナスなので、線を書いて、皆さんのほうで自分の線をまず書いて、お聞きいただければと思っております。

さて、いろんな形で線が得られているわけですけれども、5ページも2,000名の方に書いていただいた線のうちの1つで、10代から50代にかけて、普通に何となく大過なく上り調子で30代まで進んで、あと普通に行ったんですといったような線になっている、こういったような回答もありましたし、6ページのようにいろんな回答もあって、中には40代まではずっと上り調子で行ったけれども、40代に何かがあって、がくんと落ち込んでしまいましたというふうに報告する方もいれば、こちらの方のように波乱万丈でくねくねたくさん曲がった、山あり谷ありの人生だったんですよというふうに書いて下さる方もいれば、案外、周期的に、いい、悪い、いい、悪いというのを繰り返す方もいれば、ほんとうに全然、ずっと自分のキャリア、20代で落ち込んで、そこから多少復活しましたけれども、プラスの方向には全然行かなかったんですよといったような線を書いて下さった方もいれば、たくさんいろんな形の線を書いて下さった方がいたということになります。

この線を、どういう意味づけを持って、この研究ではどんな問題意識で、こんな線を2,000名の50代の方に書いていただいて、それを分析したのか、こうした問題意識について、繰り返しになりますけれども、もう少し詳しくお話し申し上げたいと思います。

1つには、7から9ページですが、成人キャリア発達においては、外的・客観的なキャリアが多様化する。要するに、新入社員として入って、最初の10年ぐらいはそんなに差がつかないけれども、20年、30年とたつにつれて、どんどん外的なキャリア、昇進であったりとか収入であったりとか、そういったものは多様化する。人によってさまざまになっていくといったことが知られている。ただ、それに伴って、どうしても内的・主観的なキャリアの再構成を行わなければならないだろうといったような問題意識を基本的な考え方としてこの研究では持っています。

要するに、どんどん年齢がたつにつれてキャリアが多様化するので、それに対して自分なりに意味づけを行って、自分なりに自分のキャリアをどう考えるのか、これを考え直さなければいけない、そうした時期があるだろう。

よくこうしたキャリア心理学の言葉では、mid−careercrisis、中年キャリアの危機といったような言葉もありますけれども、40代ぐらいで一度自分のキャリアを見直す、そういった危機的な状況が訪れるんだというのは、よくキャリア心理学の教科書などにも載っている、そうした知見かと思われます。なので、成人キャリア発達においては、一般に考えられている以上に内的・主観的なキャリアが重要となるだろうというのが本研究の問題意識だということになります。

さらに、成人キャリア発達を考える際には、いわゆる昇進であったり、それに伴う収入であったり、そうした外的・客観的なキャリアとともに、内的・主観的なキャリアを考える必要がありますけれども、それぞれ別個に考えるのではなくて、両者の関連性といったものを検討する必要があるだろうというのが、本研究の問題意識ということになります。

普通に内的・主観的キャリアを測定する方法としては、アンケート調査のようなことをして、質問調査をやって、価値観であったりとか、その人の考え方であったりとか、そうしたことを測定するのが一般的ですけれども、それでは残念ながら一時点の、調査に回答した時点の内的・主観的なキャリアしか測定できない。これでは、キャリア、その人の職業生活のつながりといったものを測定したことにはならないだろうと。

なので、先ほど冒頭、ごらんいただいたようなライフライン法を用いて、本人のキャリアの描像、どんなふうに今までの自分のキャリアの浮き沈みを書くのか、そのキャリアの描像全体を分析対象とすることによって、これまでの人生の全体を分析し、把握できるのではないかと考えた、こうしたような目的があるということになります。

まとめますと、ライフライン法を用いて、本人のキャリアの描像全体を外的・客観的なキャリアと関連づけて分析対象とする。こうすることで、従来にない成人キャリア発達に関する新たな知見が得られるのではないか。こうしたような考え方、ねらいがこの研究にはあったということになります。

ただ、もう一つのねらいといたしまして、10、11ページですが、先ほどのライフライン法というのは、現在、キャリアカウンセリング、キャリアガイダンスの研究の領域でよく用いられている方法でもありますし、実は海外の文献などでも、90年代以降、最近になるにつれてどんどん注目を集めている質的アセスメント技法の代表的な技法としても知られているものでもあります。

ほかに、文章完成法であるとか自由記述法、カードソート技法、いろいろあるわけですけれども、こうしたいわゆるテスト形式の質問項目に答えて回答を求める方式ではないアセスメントの代表例として、ライフライン法というのは知られている。なので、これについてもちょっと実践が先行している面があるので、基礎研究的な側面から知見を蓄えようじゃないかというのも1つのねらいとして持っております。

何でここに質的アセスメント技法を追求するのかということですけれども、いわゆる検査によって、数字で、あなたは何点なので何とかタイプですといったような技法ではなくて、実はこのライフライン法というのは、クライアントとのやりとりを重視して、クライアント自身の物の考え方を引き出そうとする技法というふうにして紹介されることが多い。さらに、若年ではなくて、成人キャリアガイダンスにおいて特に有効だというふうな手法だと言われています。なので、今回、成人キャリア発達を検討するに当たって、ライフライン法を測定の道具として用いるのみならず、実際のキャリアカウンセリング手法の基礎的なデータ収集も同時にあわせて行おうじゃないかと。これによって、さまざまな場面でキャリアカウンセリング、キャリアコンサルティング、1つの技法を確立することができるのではないかと思って、これももう一つのねらいとしております。

なので、きょうの発表も、前半部分では客観的なキャリアと主観的なキャリアを合わせて分析しましたというのをご報告申し上げます。後半では、実際にこのライフライン法を解釈するに当たって、こんな指標が有効そうでした、ここを見るとライフラインの解釈ができそうでしたといったことをお話し申し上げたいと思っております。

本報告の発表データについて概要を申し上げます。12ページです。2009年の1月に調査を実施いたしております。調査会社のモニターを使っておりますが、50代の常勤労働者2,043名の方にお願いしております。

調査会社のモニターを使っておりますので、これが50代の常勤の労働者のサンプルとどのくらい合っていて、どのくらいかけ離れているのかを少しチェックしておこうと思いまして、国勢調査であるとか就業構造基本調査、こうしたものと比較した結果、若干、都市部の回答者が多く、製造業で働く回答者が多く、管理的職業で働く男性が多かったという傾向はあったのですが、それ以外はおおむね全国を代表する分布となっておりましたので、全国サンプルとして考えていいのではないかと考えて、分析しております。

さて、先ほど冒頭、皆さんのほうにもぜひ書いてみていただきたいのですがと言ったライフラインですけれども、どんなふうに分析をしたかということですが、13ページにありますここを0点、1点、2点、3点、4点、5点というふうにすると、上にプラス10、下にマイナス10というふうになりまして、それぞれの交点のところを全部データをパソコンに入力していった、そうすると、10代、20代、30代、40代、50代と点数がそれぞれ入力していき、その人のライフラインを数値で置きかえることができるわけですけれども、これを全部、平均点をとって、大体普通の人は20代前半には大体何点ぐらいのところに線を書くのか、20代後半では何点ぐらいのところに線を書くのかといったことを、全部、平均値を求めていって、このグラフを書いております。

このグラフで何を言いたいかといいますと、全回答者が書いた曲線を数値化してデータとして入力し、各年代ごとに平均点を求めてそれをつないで作成したということになっておりまして、何を申し上げたいかといいますと、先ほどご紹介申し上げたライフライン、いろいろ人によってさまざまな形はありますけれども、平均値に直すと、大抵は30代にピーク、40代が谷のS字のカーブが平均点レベルの線になるのだというのが1つの本研究の最も基礎的で大きな知見がここに得られているということになります。

なので、さらにいろいろな解釈ができますけれども、人が、50代の特に就労者の方が自分のキャリアを振り返って思い出す際に、20代から30代にかけて上り調子で、そこから40代にかけて下り調子になり、さらに50代にかけて復活していった、こういったように思い返すのだというのが、今回の研究から得られた最も基本的な知見ということになります。

ちなみに、もう一つ着目していただきたいのは、この小さい文字で書かれてある部分ですけれども、人というのは、先ほどのライフラインのようなことを皆さんにやっていただくと、基本的にはプラス方向に線を書くものなんだというのも、今回得られた知見の1つの大きなものだと考えております。

普通に考えれば、平均点なので、ゼロを中心にどっちにも分布していいわけですけれども、普通にかいてもらうと、大体は皆さん、自分のことをプラス方向で思い返すものなんだというのも1つの知見だと考えています。

あと、このひげの部分は分散を表しますけれども、これが20代から50代にかけて微妙に幅が広がっているのが皆さんのほうでおわかりになるのではないでしょうか。先ほど来、外的キャリアが、年齢がたつにつれてどんどん多様化していくんだというお話を申し上げましたけれども、このライフライン法で内的・主観的なキャリアを皆さんに書いていただいた結果においても、20代から50代にかけて分散が広がってくる、多様化していくといったような傾向が得られております。

さて、14ページはこれを性別に見た結果ですけれども、性別に見ますと、男性では、先ほど申し上げたS字型が顕著なのに対して、さらにもっと極端になるのに対して、女性においてはS字型があまり見られないというのも第2の本研究の知見になっております。要するに、男性では30代がピークで40代が谷になるというS字がはっきり観察できるわけですけれども、女性では20代が高く、40代に向けて徐々に下がっていって、40代後半からもう一度大きく復活する。これが平均点になっておりまして、男女でかなり大きな差が見られたというのが第2の知見になっています。

これは30代で求職期間を含む女性も入っていますので、こうなるのかなと思いましたので、求職期間がない女性、ずっと働き続けた女性も同じように分析してみたのですが、男性のように若干S字があらわれますけれども、基本的には女性のこの平たんなグラフになっておりまして、ピークが男性より早く、20代後半の若干緩やかなS字が見られますけれども、男性ほど顕著なS字ではないというのも性別による違いの大きな結果になっております。

いろんな解釈が可能だと思いますけれども、女性においては、女性と男性でキャリアの様相がさまざま異なりますので、30代までの一本調子の上り調子なキャリア、そこから40代に向けて下っていくといったものが女性においては観察されないというのは、いろんな解釈ができますけれども、考え得る結果の1つだったと考えております。

さらに、これをいろんなもので見比べています。細かな結果については、グラフをごらんいただきたいと思いますけれども、例えば代表的な結果として、15ページの職業別に見ますと、管理的職業が一番40代の落ち込みが少なくなっておりまして、30代でピークを迎えた後、あまり落ち込まずに40代、50代を迎える。点線のところですけれども、これが管理的職業になっております。

さらに、専門的・技術的職業も落ち込みが少ないというのがわかっております。

また、勤務先の企業の従業員数で見比べてみましても、1,000人以上の大企業にお勤めの50代の方というのは、40代の落ち込みが少ないという結果も得られております。

16ページの初職に対する満足感の違いも、20代のこの広がりの違いに大きくあらわれておりまして、一番最初についた職業、20代のころについた職業に満足がいっているかどうかで、20代のグラフのばらつきが見られている。初職の満足感がこの20代のライフラインに如実にあらわれているといった結果になっております。

さらに、17ページの転職経験の有無、失業期間の有無別にも検討しておりますけれども、やはり転職期間がない方というのは、20代、30代に満足している、プラス方向に点数が伸びているのがおわかりいただけるかと思います。逆に申し上げますと、転職経験がある方というのは、20代後半から30代前半に若干点数が下がっておりますので、それだけ満足していない、うまくいっていないなと思っていたので転職したんだといったような解釈ができるかと思います。全般的に、失業・休職期間がある方というのは点数が下がっているのもおわかりいただけるかと思います。

さらに、18ページのキャリア観による違いなども比較しております。いろんな質問項目を重ね合わせてみますと、特定の分野で1つの仕事を経験してきた、こういったような思いがある方というのは30代のピークが高く、自分の職業能力は他社でも通用すると思う回答者の方は40代の落ち込みが少ない、この黒丸の部分ですけれども、そうしたような結果が見られております。

また、19ページでは自分の人生は何によって決まってきたと思うかといったようなことも尋ねておりますけれども、自分の人生は周囲の環境によって決まると思うかどうかですけれども、自分の周囲の環境によって決まるのではないと思う方というのは、30代のピークがとても高い。なので、全部、自分の責任で決まるんだと思う方というのは、30代後半のピークが高いというのがおわかりいただけるかと思います。

逆に、努力によって決まるんだと思えなかったというふうに振り返る方というのは、20代後半においては自分のキャリアの評価が高いわけですけれども、年齢がいくにしたがってどんどん落ち込んでくる。逆に、それゆえ、自分の人生は努力によって決まるというふうに帰属できないという結果になるのかもしれませんけれども、キャリア観とライフラインにも関連が見られたということになります。

ただ、一番、象徴的な結果として、最も強調したい結果というのは20ページのグラフになっておりますので、ここだけ少し詳しくお話し申し上げたいと思います。一番はっきり見られている2大グラフがこの結果ということになります。何が要因で、一番はっきりライフラインの違いが見られたかということですけれども、収入と満足感ということになります。

これをどんなふうに意味づけているかということですけれども、やはり収入を、冒頭から申し上げている外的・客観的なキャリアの象徴的な、代表的な1つと解釈しております。満足感のほうが、やはり主観的・内的なキャリアの代表的な指標として考えております。この収入と満足感によって、一番ライフラインの形状は異なる。

収入のほうに着目しますと、30代まではそれほど大きな差がないわけですけれども、収入が高い人のほうが40代、50代の落ち込みが少なく、ずっと上に高どまりしたまま行く。収入が低い方のほうが40代、50代の沈み方が激しいというのがおわかりいただけるかと思います。

これは、満足感に関しましてはもっと顕著なことが言えまして、現在、自分のキャリアにとても満足していると思える方というのは、40代、50代の落ち込みがほとんどないのがおわかりいただけるかと思います。それに対して、現在、自分のキャリアに全く満足していないという方は、40代でマイナスのほうにまで落ち込んでいるのがおわかりいただけるかと思います。収入と満足感が一番大きな違いが見られたわけですけれども、客観的キャリアと主観的キャリアを象徴する両者がライフラインに明らかな違いを生んでいたということになります。

収入と満足感、どっちが大事なんだということがキャリア心理学で永遠のテーマとしてありますので、少しそれについても検討しております。21ページのライフライン、収入が高くて満足がいっている人が一番上になっていて、40代、50代の落ち込みが少ないのはもちろんそうなのですが、次に高いのはどれなんだということを焦点にしております。

次に高いのは、高満足で低収入の群。要するに収入面では平均値よりも低いけれども、満足感は平均値より高いという群のほうが、40代の落ち込みが少ないというのがおわかりいただけるかと思います。

なので、いろんな解釈ができますけれども、最も素朴に解釈すれば、満足感のほうがキャリアの感じ方には重要であって、両方兼ね備えているのが望ましいことはもちろんそうなのですが、満足感のほうが本人のライフライン、後に振り返られたキャリアの描像にとっては需要な要因であったというのがこのグラフから言えるかと考えております。

さて、実は今、S字型がどんな形状になるかといったことを中心にお話し申し上げておりますけれども、キャリアの描像を多変量解析、少し複雑な統計解析にかけますと、8つのパターンが見られるというのが、今回の分析の結果、わかっております。22ページに書いているのが8つのパターンなんですけれども、これを少しわかりやすく分割してお示ししたのが23ページの3つのグラフということになります。なので、話の上では、ライフラインで線をかいた方のグラフはこの3つのパターンのどれかに当てはまるはずだというのが、今回のこの8つのパターンということになります。

1つには、一番上の丸は、ずっと一貫して高い類型ですね。次の三角が、20代のころは低いけれど、年齢に従って一直線で上がっていく類型、もう一つは、20代のころは普通だけれど、年齢が行くに従って下がっていく類型、この3つのパターンがある。

さらに、ほかの3つのパターンとして、S字を顕著に描く例があるわけですけれども、そのピークが20代後半に来るか30代前半に来るか30代後半に来るかという3つのパターンがあるというのもわかっています。

また、残念ながら50代のほうでマイナスになっている場合は、二次曲線のような形状を描くわけですけれども、30代前半にピークを描いて下降してしまったパターン、40代前半にピークがあって下降してしまったパターン、この話の上ではこの8つのどれかに当てはまるはずだということになっております。

今回は、データの分析に当たりまして、ライフライン法の入力を人に任せてもよかったのですが、2,000件、全部、私自身で打ち込んでいますので、ちょっと雰囲気も探りたいという面もあって、2,000件のライフラインを全部目を通していますが、確かにこの8つのパターンのどれかにはまる類型というのが多かったような印象でもあります。

さて、前半部分の発表はここで終わりになりますが、ここから何を申し上げたいかということを少し整理しておきますと、1つには、20代から30代にかけての分散というのは、つまり線のばらつきというのは、50代の就業者の方から振り返られた場合にはそんな大きくはないというのが1つの示唆と私のほうではとらえています。

どういうことかといいますと、ここ10年、20年、若年者の問題というのがクローズアップされてきて、20代、30代の支援といったことにかなり世の中の関心が向かっておりますけれども、50代から振り返られた場合の20代、30代というのは、基本的に上り調子で、人によってあまり違わない。なので、20代、30代でご苦労されている若い方、また支援を求める方、支援を要する方というのもいますけれども、しかし、より一層問題なのは、40代から後ろ、人によってばらつきが大きくなって、人によってはがくんと落ち込んでしまう、そういったような方もいる、こういった成人キャリアの問題であろうということが改めて観察されたというのが1つ大きなインプリケーションだと私のほうでは考えております。

さらに、ここでも如実にあらわれておりますけれども、外的キャリアと内的キャリアと密接に関連しているキャリアの描像、50代の方が自分の過去を振り返ったキャリアというのは、外的なキャリアと内的なキャリアと密接に関連している。しかも、外的なキャリアというよりは内的キャリアのほうが、自分が振り返った際のキャリアの思い、こうだったな、ああだったなというキャリアの思いと密接に関連しているということから、この段階で収入を維持するような何らかの支援といったものももちろん当然必要ではありますけれども、さらに内的キャリアを再構成するような内的・心理的・主観的な支援といったものの必要性が改めて40代の中にあるんだろうということが、2つ目のインプリケーションとして私のほうで考えているところであります。

さらに、その介入の時期というのは、この谷の時期ではなくて、実は30代の後半のころにもはや下降局面になっている。このときにポイントがあるのだろうとも考えているところでございます。ここの谷の部分になったときに支援を要するというのはもちろんそうであるし、また、そのための体制、仕組みといったものも整備していく必要があると思いますけれども、実は既に30代の前半にピークを迎えて、30代後半から40代にかけて緩やかに下降局面に入っている、この段階で何らかの手を打っていく必要がある。プロアクティブに、予防的な支援といったものがこの段階で考えられる必要があるのだということもインプリケーションの3つ目として私のほうで考えているところでございます。

さて、今から残りの時間では、ライフライン法を、例えば今、支援であったり、その人の内的キャリアの再構成をする取り組み、工夫が必要だと申し上げましたけれども、このためのツールとして、キャリアガイダンス、キャリアカウンセリングの手法として、どんなふうに活用できるかということを検討した研究をお話し申し上げたいと思います。なので、今からはライフラインのここに注目するとこんな結果だと解釈できそうですよといったようなご報告が中心になっていきます。

その前に、24ページはアセスメントの重要性を指摘する有名研究ばかりを挙げてきているものですけれども、代表的な研究ばかりを挙げてきているわけですけれども、これだけ多くの海外の研究が、このライフライン法を含む質的アセスメント技法に着目しているのだといったことをご報告申し上げたくて、並べてきた外国文献ということになっております。

何でこんなに注目が集まるのかといったことですけれども、いろいろ理由はありますが、質的アセスメント技法は、いわゆるテスト形式の、検査形式のものと違って、ちょっとした紙と鉛筆があれば線を書いてもらうだけでいろんなことがわかるということがありますので、実施が容易だということを挙げられることが多くなっています。さらに、実施が容易だということは、コストもかからないということなので、相対的にコストの低い手法だとも言われています。

そのほか、客観的な数値として出るのではなくて、いろいろ線であったり絵のような形で表れるので、また違った解釈が可能であるということも重要性の1つとして指摘される。このコンピューターの時代だからこそ、なおさらこういった紙に鉛筆で線を書くとか、トランプ形式のカードをやるとか、そういったような支援の重要性といったものが着目されているという実態があるということです。我々の研究部署はキャリアガイダンス部門ですので、そうした手法についても関心を持つ研究の部署になっておりますので、ちょっと見てみようということになっております。

その際、従来あるライフライン法というのは、全体としての線の印象を見て、どう解釈するか、ここはこう解釈できるのかといったことを議論するだけでしたが、もう少し分析的に見てみようというのが今回の問題関心です。どういうことか。例えば皆さん、もし線をお書きになっていただいた方は、自分が書いた線が何回曲がっているかといったことを数えていただきたいと思うんですけれども、大体、ライフライン法で線を書いていただくと、50代の方2,000人の回答では、平均して3.8個曲がり角がつくられるというのがわかっています。どういうことかというと、50代から振り返って線を書いたときに、3.8回、曲がり角があったんだ、キャリアの屈曲点、キャリアの転換期というのが3.8個あったんだといったような解釈ができる数値になっています。

26ページがそのグラフになっておりまして、ない方は0個でずっと上り調子、一本調子で、1回も曲がり角がないんですけどという線もありますが、最大では18個もくねくね曲がる線の方もいて、分散は大きいのですけれども、平均すれば3.8個曲がるのが普通だということになっております。

さらに、最高点の年齢と最低点の年齢がどこに来たかというのも27ページで指標にしております。もし皆さんのほうでライフラインの線を書いていただいた方がいるとすれば、自分が一番、点数が高いところが何歳だったかといったところを着目していただきたいと思います。また、自分の線が一番低いところが何歳だったかというところに着目していただきたいと思います。

平均値レベルで見ますと、最低点の年齢は20代だったという方がたくさんいらっしゃったということになります。その次に多い山が、先ほど来、申し上げているように、S字カーブの谷になっている40代ぐらい。なので、大抵の方にライフライン法で線を書いていただくと、20代が一番最低点だったなと思い返す方もいれば、40代が最低点だったなと思い返す方もいる。2山になっているということになります。概して言えば、20代が一番低かった方というのは、そこから自分のキャリアが上り調子になっていったんだと振り返る方が多く、40代が谷だったなと思い返す方というのは、30代のピークがあって、40代でがんと落ち込んだなという思いがある方が多いということになっています。

最高点の年齢の平均値については、30代の、ここですね、30代を上げる方が多く、先ほどから申し上げているS字カーブのピークになっています。

今回、ここも1つポイントと私のほうで考えておりますけれども、最高点と最低点がそれぞれ何点だったかというのも指標になると考えています。28ページです。興味深いのは、最高点というのは、大抵の人で10点なり8点なり、目いっぱい、一番上のところまで最高点が行くわけですけれども、自分のピークは10点とか8点とか、かなり上のほうがピークだったなというふうに大抵の人はなるわけですけれども、最低点のばらつきがすごくなだらかになっているのでおわかりいただけるように、最低点の分散というのは極めて大きい。要するに、最高点というのはだれでも大体8点から10点のところまで行くわけですけれども、最低点が、0点の人もいれば、ぐっとマイナスのほうまで落ち込む方もいるといったように、人によってばらつきが大きいというのが今回の知見の1つでもあります。

つまり、ここから何が言えるかと申しますと、最高点のピークというのは、人によって振り返り方、思い出し方が異ならないわけですけれども、最低点がどれだけ最低だったかというのが人によって大きく異なる。逆に言うと、最低点がどれだけ最低だったか、どれだけ点数が低かったかによって、その人のキャリアの描像というのは大きく異なるんだというのが今回の知見の1つでもあります。

全般的な線の位置や最終的な線の位置も指標になると思って、29ページに記載してあります。全般的な線の位置、最終的な線の位置、ほとんどの人がプラスで終るのが、全般的な線の位置は0よりも上のほうにあり、最後の線の位置もプラスで終るのがほとんどの人のパターンなのですが、中にはそうでない方もいる。そうでない方の場合は、特に調査票をこうやってめくってみますと、確かにいろんな出来事に遭われて、いろいろご苦労された方が多いというのがわかっていますので、全般的な線や最終的な線の位置もかなり1つの解釈の要素になると考えているところでございます。

さて、これもいろんなことで見てみますと、30ページでは、例えば男性に比べて女性のほうが屈曲点の数が多いといったこともわかっています。女性のほうが職場の出入りであるとか、1回休職したりであるとか、いろいろとキャリアが分断されたり曲がったりすることが多いので、女性のほうが屈曲点が多いということになっています。

また、年収でも、年収の高い人のほうが屈曲点が少ない、より平板なキャリアの描像を持っていて、年収の低い方のほうが屈曲点が多い。いろいろ自分のキャリアが波乱万丈だったなというふうに振り返る方が多いというのもわかっています。

最高点の年齢と最低点の年齢も1つポイントだと思っているところでもあります。31ページですが、ちょっとわかりにくいかと思いますが、年収が低い方というのは、最高点よりも最低点のほうが後に来る方、年収が高い方というのは、最低点と最高点だと、最高点のほうが年齢的に後に来るというのが今回わかった結果だというふうにもなっています。

どういうことかといいますと、現在、年収が高い方というのは、若いころのほうが最低で、今のほうが最高だと思い返すことが多く、現在、年収が低い方というのは、若いころのほうが最高で、今のほうが最低だと思い返す方が多いという結果になっています。これも説明すれば、ああ、そういうことがあるかもしれないなというふうな知見になっています。

32ページの線の位置というのは満足感に密接に関連していましたけれども、グラフをごらんいただいたとおりですので、少し割愛させていただきます。

さて、ここから5分間、本研究のまとめを申し上げたいと思っております。本研究のまとめで、いろんな知見が得られていますけれども、特に私のほうで強調した知見は33ページになっています。

ライフラインの全体的な特徴は、男性ではくっきりとS字型が見られたのに対して、女性では平板な線だったというのに象徴されるように、また屈曲点の数でも大きな違いがあったのに象徴されるように、性別によって大きな違いがあるというのが1つの特徴でもあります。

さらに、30代までのライフラインと関連の深い要因と、40代からのライフラインと関連の深い要因も明らかになっておりまして、ここに挙げられているような要因が、極めてその人のキャリアの振り返りに関連しているというのがわかっています。

ここから何を申し上げたいかということですけれども、34ページにあるものを、本研究の示唆として私のほうで考えているということになります。先ほどの繰り返しになりますけれども、20代から30代にかけての若年者の就労問題というのに注目が集まった過去10年といふうに認識しておりますが、しかし今回、ライフラインをとってみて改めて感じますのは、30代のピークから40代の落ち込み、これが極めて重要な問題になっている。なおさら問題だと思われるのは、40代の落ち込みというのが、30代のピークのときにもう既に、ピークアウトした段階からもう始まっているにもかかわらず、その問題というのがあまり認識されていない、気づかれていないというのが極めて問題であろうと考えております。

なので、キャリアガイダンスの問題というのは、学校から職業への移行、もしくは若年の就労問題に着目しがちでありましたけれども、30代の後半から40代、あまり問題が目立たないがゆえに、ここに対する何らかの取り組み、もしくはさらに考慮すべき問題事項といったものがあるのだろう、これが1つのインプリケーションということになっております。

その際、やはり職業訓練、生涯学習といったことが昔から言われている概念ではありますけれども、その重要性にまた新たに着目する必要がある。なぜ新たに着目する必要があるのかということですけれども、1つには、40代でがくんと谷になってしまう1つの理由として、30代、漫然と何となくピークに、上にあるので、ここから下降しているということに気づきにくく、再訓練が必要なんだ、もう一度学習し直すことが必要なんだということになかなか気づきにくい面があるので、ここにもっと問題の焦点を持ってくることによって重要性を強調する必要があるということがここで言いたいことでもあります。

世界的な動向としても、キャリアガイダンスの文献なんかをひも解きますと、グローバル化・情報化を背景として、職業訓練、生涯学習というのは何となく手あかのついた概念のように思われますけれども、世の中の状況が速くなってきて、どんどん動きが速くなってきて、スキルや技術、知識が陳腐化しやすい世の中において、職業訓練、生涯学習はやりたい人だけやればいいというのではなくて、もう不可欠なんだと、なので、それに向けたキャリアガイダンスというのが常に必要なんだということが繰り返し、繰り返し、海外の文献では強調されておりますので、日本においても同様の認識を持つ必要があるだろうというのが本研究の示唆だということになります。

もう一つ、その際、本研究の結果のまとめの1つとして、35ページにあります、例えば特定の分野で1つの仕事をしてきたであるとか、自分の職業能力は他社でも通用するであるとか、人生は努力によって決まるといったキャリア観といったものが、本人のキャリアの描像、自分が過去を振り返ったときの描像ととても関連が見られていたと。特にどういう方向で関連が見られていたかというと、40代の落ち込みを軽減させる方向で関連が見られていたということがあります。

なので、こうした考え方というのは、基本的に40代の落ち込みを軽減する考え方だというのが素朴な解釈として成り立つということになります。これも、言われればそうだというふうな形なのですが、基本的に良好なパターンというのは、最高値が後に来る、晩年に向けて上昇するキャリアパターンであるというのが、繰り返し、今日ご報告した中でも表れてきたかと思われます。なので、30代、40代、50代に向かうにつれて、できるだけ自分のキャリアが、主観的にですけれども、最高値になるような形で再構成していくのが重要なんだということが改めて強調される結果だと認識しております。

ここから得られる示唆といたしまして、36ページにあります、男性の落ち込みを特に問題としたいと思うのですが、みずからの職業能力を何度か更新する必要性というのが、特に男性のS字を見ると、あるわけなんですけれども、男性というのが、ずっと職業生活を継続してきてしまうために、なかなか気づきにくい側面があるのだろうと考えております。女性のほうが、残念ながら職場を出入りしたりであるとか、一旦休職したりであるとか、キャリアが分断されることが多いので、自分の職業能力を何度か更新する必要性といったものに気がつきやすいゆえに、50代以降の伸びというのが、ぐっと伸びてくる。職業能力を更新して、50代以降、復活していくということがあるのですが、男性のほうはうかうか、ちょっと気がつかない場合には、そのままどんと40代の落ち込みから復活できないまま沈んでしまうといったことがあるようだと。なので、この点については何度も繰り返し強調する必要があるだろうと思っております。

さらに、先ほどのキャリア観を見ますと、やはりベースとして、基本的な自助努力といったものが求められる、みずからの成人キャリア発達においては特に求められるし、とは言え、こういった自助努力が無駄になるような世の中では、全然、努力する気にもなりませんので、そうした努力を支援し、報われるような仕組み、制度といったものも、キャリアガイダンスの側面からのアプローチということになりますけれども、必要だろうということが、本研究の示唆として言えると思っています。

そのための具体的な技法として、本研究の後半で申し上げましたように、ライフライン法、いろんな解釈の仕方によって、本人の気づきであるとか、自分のキャリアの振り返りといったことを促す、そういったような要素、ポイントがたくさん散りばめられているものでもありましたので、これをもう少し精緻化することによって、具体的なキャリアガイダンス技法としてもっと整備していくことができるのではないか、そういった可能性が開かれたと思っているところでございます。

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