報告者によるディスカッション「雇用多様化の今日的課題」

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浅尾 それでは、パネルディスカッションを始めたいと思います。パネリストの小野は雇用戦略部門、高橋が就業環境・ワークライフ部門、原が人材育成部門です。違う部門で働いている3人が、部門を超えて、ちょっときょうは研究会をやってみたいなと思いまして、公開で研究会をやってみようということで、こういう場を設定いたしました。

それで、ディスカッションの論点ですが、僕の独断で4つほど挙げてみたいと思います。資料2ページです。1つは、製造業務派遣等派遣労働をめぐる動向ということでございます。2つ目が、非正規雇用の正社員転換、3つ目が、正規・非正規間の格差問題、4つ目が、非正規研究の課題ということでございます。

時間も限られてございますので、それぞれの説明は割愛いたしまして、早速論点1に入ってまいりたいと思います。製造業務派遣等派遣労働をめぐる動向でございます。これは僕の担当ということでございまして、先ほどは2007年、平成19年までの動向をご報告したわけでございますが、その後、平成20年、2008年9月にリーマンショックが起こりまして、非常に経済情勢が激変いたしまして、派遣労働を中心に非正規雇用が非常に厳しい局面を迎えております。その中で、今度は要するに派遣労働者の問題、この間の動きが縮図のような様相を呈したと考えております。一つは、経済変動への対応もありまして、バッファーとしての役割をいかんなく発揮されたということでございまして、派遣労働契約には契約期間があるのですが、途中でもう何も言わずに中途解約するというようなことも起こりましたし、それで、解約されましたが、僕の推計だと、派遣労働者の半数ぐらいしか雇用保険に入っていなかったと。解雇されると、生活の糧を失うとともに、住居問題なども発生したというような状況になっております。こういった状況につきましては、のど元過ぎれば熱さ忘れるということで、最近あまり言われなくなっておりますが、2009年のいわゆる派遣村等を背景として、非常に大きな社会的な問題になったと考えております。その後、いろんな経緯があるわけでございますが、僕といたしましては、基本的にやはりこの時期において、労働者派遣をどう性格づけるかという原点にかえって考える必要があるのではないかと考えております。といいますのは、派遣労働につきましては、2つの方向からの接近方法がございます。一つは、出向、業務派遣からの接近ということでございまして、これが常用型派遣ということになるわけでございますが、昭和60年に派遣法ができまして、大体昭和55年あたりから労働者派遣の制度化が検討され始めたところでございますが、そのときは、業務請負というのが結構広まってきまして、業務請負形態で、本来使用関係がない派遣先と使用関係のような状況が蔓延していると。そこで、雇用契約の関係と使用関係と2つに分けまして、常用型派遣制度というものをつくろうと、そういう検討でずっと来ていたわけでありますが、それから、いわゆる常用型派遣、派遣会社と労働者との間は常用契約ですよと。その人とニーズが合う派遣先に、ニーズが来たときに行ってもらうと、ニーズがなくなれば帰ってきて、また別のところに派遣されると、こういう派遣労働というのが理想型として考えられたわけでございますが、もう一つ、実は派遣労働には有料職業紹介からの接近、アプローチというのがございまして、それで、いわゆる職業紹介で、本来紹介者と労働者の間には雇用関係がないわけで、紹介者と紹介される人という関係があって、紹介されて雇用主と雇用関係を結ぶという関係の中で、いわゆる労働力需給システムの一つとして、そういう有料職業紹介からの類推としての労働者派遣という性格のものが、もう一方で現実に存在すると。その中で、昭和60年に制度化されたときに、特定と一般という形で制度化されたわけでありますが、そのときの制度設計が、もともとの検討が出向とか、業務請負からの接近アプローチで制度化されたものだと思うのですが、その有料職業紹介からの接近のほうの制度化というのは、どうも不備があるのではないかと考えております。どういうことかといいますと、常用型派遣の場合は、派遣元、派遣会社にかなりの責任をとってもらうというのがいいわけでございますが、有料職業紹介からの接近の場合は、派遣元というよりは、派遣先のほうにもう少し雇用責任をとってもらうということが必要ではないかと考えています。

ということで、僕の個人的な提案に過ぎませんが、今後労働者派遣制度というのは、もう一つの、これまでのような出向や業務請負からの接近による制度化だけじゃなくて、元に戻りまして、有料職業紹介からのアプローチのほうの制度化とかもうちょっと派遣先の企業に雇用責任を負担していただくと、こういった方向での制度化、制度設計というのが必要じゃないかと考えているところでございます。こういった提言を、きょうはしておきたいなと思っております。この点について各研究員からご意見を伺いたいと思うのですが、派遣をこの間よくやっている小野さん、いかがでしょうか。

小野 いろいろ派遣会社を調査で回っておりまして、現況派遣は非常に厳しい状況であるということは、一様に皆さんおっしゃるわけです。その中で、今後どのように活路を見出していくかというところで、やはり請負にシフトするというのがまず1点、そしてもう一つ、職業紹介にシフトするというのが2つ目ですね。 どちらかにシフトしていくということが見えるわけです。特に製造業については、法改正ということも前提にございますので、派遣会社のほうも請負化をするという傾向にありますし、派遣先のほうも、このまま派遣労働者をずっと使っていっても先が見えないということで、早々に請負化をするか、もしくは直用にしてしまうということで、かなり派遣離れが進んでいるという状況にはあります。これは製造業派遣の状況なのですが、もう1点、事務系でもありまして、専門26業務というのが今現在あるんですけれども、その専門26業務というのをかなり適正化で厳しく精査しようということがありまして、26業務以外の自由化業務というものをかなり洗い出しして、自由化業務ということになると、派遣の3年間の期間制限というのがかかってくるわけです。ですから、3年たったら派遣を引き上げなきゃいけないということになるわけですけれども、そうなる前に直用しようというような、特にこれは金融であったり、大手ですね、リスクを事前に回避するというような傾向にある派遣先では、自社の中に契約社員、いろいろ雇用区分が会社の中にはあるんですけれども、契約社員ではなくて、新たな雇用区分をつくって、そこに派遣社員を直用化で入れて、例えばスタッフ社員というような言い方の雇用区分をつくって、そこの雇用管理をアウトソーシングで派遣会社にさせるというようなことを行っているという流れが昨今できていたりもします。ですので、派遣というのはこの先どうなるかもわからないのですが、確かに浅尾所長がおっしゃったように、登録型派遣の場合は、派遣先の責任というものをかなり重視していかなきゃいけない状況には来ているんだとは思うんですけれども、業界団体では、そこの部分を厳しくすると、ますます派遣離れが進むのではないかという懸念もあったりします。そして、常用型派遣についてなのですが、ビジネスモデルとして、この不況下ではかなり苦しんでいらっしゃるというのがあります。常用型の技術者派遣の場合、大体社員の8割の人間が稼働している場合に、ちょうど損益分岐点でプラスマイナスゼロのところにあるらしいんですね。それが、7割であったりとか、6割であったりというのが待機社員として社内に残っちゃう。そういう人たちのために教育訓練をしたりと助成金を得ながら自転車操業的に頑張って経済が上がってくるのを待っている状態なんだというような状況で、常用型のビジネスモデルというのは、非常に不況に弱くて厳しいというのはおっしゃっていました。事務派遣の常用型をやっていらっしゃるところも一斉にみんな、常用型派遣というビジネスモデルは、この不況期には合わないから、今はもう採用をとめていると。待機している者は、契約が切れている者はもう契約解除という形も行っているというような状況です。ですので、どちらにしても派遣の問題というのは、不況の影響もあったりして非常に厳しい状況だというのを、今現在感じています。

浅尾 どうもありがとうございました。

高橋さん、原さん、何かございますか。

では、時間の関係もございますので、次の論点に行きたいと思います。非正規雇用の正社員転換についてでございます。これにつきましては、先ほど原さんからもご報告がありましたように、かなり能力開発というのが正社員転換にきくとか、そういうご報告もございますが、これについては、原さんのほうから、ちょっとどういう対応をやっているのかということを少しお願いします。

 今日の報告ではちょっとご紹介できなかったのですが、今日の正社員転換については、前職が同じ職種とは限定しない形での報告をさせていただきましたが、やはり前職と正社員転換後の職種ですね、次の仕事の職種が同じ場合、同一職種内での正社員転換というのがやはりやりやすいというか、確率的には起こりやすいということがわかっています。企業内訓練の効果というのも、やはり同一職種間での正社員転換のほうがより効いているということが明らかになっています。なので、やはり同じ職種間での移動がしやすいというのは、経歴などからも、その職業能力の評価がしやすいということが前提としてあるからだと考えます。なので、小野さんの報告の中でも繰り返し報告されていましたけれども、やはり職業能力評価基準とか、ジョブカード制度といったように、個人の職業能力をより客観的に評価する仕組みというのが非正社員の中でも普及されることによって、正社員への移行の障壁は低くなるのではないかと考えています。繰り返しになりますけれども、直前職でのOff−JT、OJT導入、こうしたことが有効であったということを考えますと、ジョブカード制度、先ほども最後に申し上げましたけれども、職業能力開発プログラムですね、OJTとOff−JT両方が組み合わさった形で、非正規社員の人たちを正社員転換に導くような制度が現在施行されているということもございます。ただ、この制度、2年前に導入されたばかりで、まだ正直なところ途上にあると思うんですね。今後社会的なインフラストラクチャーとして定着するためには、継続的な取り組みが必要なのかなと思います。

浅尾所長と原研究員:<パネルディスカッション>:「雇用多様化の今日的課題」/2010/7/28労働政策フォーラム

ちょっとまとめさせていただきますと、やはり職業能力評価というのがきちんとなされて、基準に基づいた評価が非正社員でもなされるということがまず第一の前提になってくるかと考えております。

あと、私の報告では、特になかったのですが、年齢のところなんですけれども、私が今日報告させていただいた内容というのは、「労働政策研究報告書」のNo.117(『非正規社員のキャリア形成―能力開発と正社員転換の実態―』)の一部なんですけれども、その1章の中で、私の部門の小杉という統括研究員がいるのですが、彼女の研究から、また、他の人の研究からもかなり明らかになってきているのですが、20代の正社員転換というのはかなりしやすいものがある。30代になると、かなりガクッと落ちるんですね。20代のときは、男性ですと、10%~20%のぐらいの人が正社員転換できるということがあるのですが、女性の場合では1%代の後半という感じですが、ともに30代になると2~3%まで低下してしまうということです。正社員への移行に年齢が大きな制約になっているということを考えますと、今20歳代というのはかなり最後のチャンスになっているような感じがしますので、そうすると、20歳代のキャリア探索を助けるような政策というのが有効に機能していくかと考えます。とりあえず、以上2点です。

浅尾 どうもありがとうございました。では、契約社員の場合を高橋さんのほうから。

高橋 非正規雇用の正社員転換ということで、ちょっと私の先ほどの報告を少し補足させていただく形なのですが、先ほど来出ていますように、正社員化には、企業内での内部登用と、労働市場を通じた外部転換とでも言うべき2つのパターンがあるのですが、私の報告では、当然のことながら、企業内での内部登用であることを前提としています。ちょっとその内部登用というのが、正社員転換という全体の中でどういった特徴を持っているのか、また、それでどういう固有の論点を持っているのかということについて少ししゃべらせていただきたいと思います。

まず契約社員の方で、就業形態の多様化に関する総合実態調査を見ますと、他の就業形態にかわりたいと考える契約社員を分母としたとき、同じ企業で、同一の企業で正社員になりたいという人が7割以上います。非常に高い数字ではないかと思います。その理由なのですが、なぜ他の会社に転職して正社員になるのではなく、今の会社で正社員に登用されたいと思うのか、これはアンケート調査や、先ほど報告した企業ヒアリング調査ではわからないのですが、今実は私、契約社員の方の個人インタビュー調査を行っています。そこでお聞きした話などを少し整理しますと、まず一つに、広い意味での企業特殊的な熟練というものをやはり蓄積していること。広い意味というのは、単にその会社の仕事のやり方ということだけではなく、人間関係も、今の職場はすごく人間関係がいいとか、雰囲気がいいから、このままここで正社員になりたいと思うといったようなことも含んでいます。その従業員自身、契約社員自身が、ある種の、その企業に対して特殊な資産を形成していると、それをむだにしたくないと考えているということが一つ考えられます。そしてもう一つが、転職するには非常にコストがかかるということです。ここで言うコストというのは、転職すると賃金が下落するとか、そういう意味ではありませんで、転職活動には非常にエネルギーがいるという、非常にごくごく当たり前の事実です。フルタイムで働いている契約社員の方ですので、一日朝から夕方まで働いて帰って、夜にインターネットで正社員の募集サイトを見て、履歴書を書いて、応募書類をつくってというのは非常にエネルギーがいると。それであるならば、今働いている会社で正社員になれるに越したことはないと考える。他方、会社の側も、やはり内部登用するメリットというものを感じています。一つは、特に就職氷河期に若年者を契約社員として採用した場合などは、その人たちに頑張れば正社員になれるよとハッパをかけることで非常にその人たちのモチベーションを高めることができるというメリットがあるということ。また、新卒一括採用だけではとれないような、さまざまなバックグラウンドを持った人材を採用できるといったことが、会社側にとっての正社員登用をするメリットではないかと思います。

ちょっと話が長くなって恐縮なのですが、そこで一つ問題を論点提起したいのが、今後の研究課題として、じゃ、具体的に企業内での登用というときに、どういう選考を行っているのか、どういう基準で選んでいるのかということです。これは、ヒアリングの結果、2つの基準があることがわかっています。一つは、まずその会社での働きぶりを評価するということ、ごく当然のことです。せっかく会社で働いてもらっているので、働きぶりを見なければ意味がありません。しかし、じゃあ、要領がよく、のみ込みの早い人であればだれでも正社員登用されるのかというと、必ずしもそうではありませんで、もう一つが、新卒の正社員採用と同じ手続を踏むというような会社が多く見受けられます。具体的には筆記試験とか、面接、適性テストなどを新卒採用の場合と同じようにやるということです。ここから先は推測ですが、若年者の正社員登用というものを念頭に置きますと、就職氷河期に厳しい採用選考を通じて正社員になった人と、どちらかというと比較的簡単な面接だけで契約社員として採用された人が、同じ職場で正社員として働くわけですので、円滑な統合を図るためにも、その新卒採用者の人と同じ手続を踏んでもらう必要があると、そういう配慮を会社の側がしているのではないかということを、ちょっと推測しています。まあ、いずれにせよ、選抜や選考による正社員登用という場合の、その登用基準って何なのかが、次の研究課題になるのかなどと考えているところです。

浅尾 どうもありがとうございます。小野さん、派遣の場合はどうですか?

小野 派遣の場合は、正社員転換になるのは大体2つのパターンがありまして、これ、先ほど述べましたけれども、まず紹介予定派遣という形を経る場合です。もう一つが、引き抜きという形で、通常どおり派遣をしていて、派遣先から声をかけられて正社員転換になるという、このパターンなんですね。紹介予定派遣の場合と引き抜きの場合では、若干その傾向に差があります。紹介予定派遣の場合は、若いです。大体20代前半、新卒派遣とかなりかぶってくるというのが、傾向としてあります。引き抜きの場合は、年齢がもうちょっと上がってくるわけですね。それはなぜかというと、やはりその人の仕事ぶりを見て、専門性があるなとか、働いてもらって、この人をうちの社員にしたいなっていうような、ある程度長いスパンを見て引き抜くという傾向がありますので、比較的年齢が高いという傾向が、引き抜きの場合は見られるというのがあります。紹介予定派遣の場合も、2004年から統計をとり始めているのですが、そのときは大体1万人ぐらいだったわけです。それが、今2008年の段階で3万7,000人ぐらいまで上がってきていて、おそらく派遣労働という形が、労働市場に正社員転換になるフィールドになるよという、使いなれてきたというような印象もあるのだと思うのですが、そういうことに従って、正社員転換であったりとか、直接雇用になる人数というのがだんだん増えていっているのではないかと思ったりしています。

ただ、紹介予定派遣の場合というのは、実は法的な枠組みで半年間という制約があるんですね。私は、この半年間というのは、労働者のほうも、派遣先のほうも、じゃあ、正社員にしようと決断するにはちょっと時間が短いんじゃないかと思ったりします。大体会社というのは1年スパンで仕事をするものですから、例えば4月に新卒で入ったときに、ある計画が動き出して、年度をまたいで、年度を一巡してプロジェクトが終わるというようなところにその人がつけた場合に、年度の途中でその人を派遣社員から正社員にするかを決断しなきゃいけない。じゃ、その人のパフォーマンスを、その半年ではかれるかどうかというのは、かなりなぞの部分があって、もしかしたら派遣労働者の場合も、年度末になるに従ってものすごくこの職場はむちゃくちゃなことになって、あ、こんなところだったら、私は働くの嫌だったわということになるかもしれない。だから、今一応紹介予定派遣の場合は半年という区切りがあるんですけれども、それよりもやっぱり同じ程度、もしくはそれ以上に引き抜きが多いというその背景には、やはりスクリーニングする期間が、普通の引き抜きのほうが2年、3年、もしくは10年ぐらい派遣で働いていて、ようやく、じゃあ、正社員でうちへ来てもらえない?というケースもあるので、ある程度の長いスパンを切った正社員転換のシステムというのは、あったほうがいいのではないかと思ったりもします。

浅尾 どうもありがとうございました。

正社員転換につきましては、これも独断になりますが、次のようなことをちょっと提案したいなと思っております。1つは、僕の報告でも申し上げたとおり、企業内の登用制度の普及促進をと思っております。そのためには、高橋研究員が申し上げたとおり、今後どういう登用制度、転換制度というのが実際あるのかをもう少し分析と、その調査研究をしていくことが必要ではないかと思っています。それから、企業内の転換制度ですね。それと同時に、やっぱり派遣さんの場合などは、違う会社で正社員になりたい人が結構いらっしゃいますので、外部市場経由の形態転換環境の整備というのも、ぜひとも必要ではないかと思っています。これは、資料7ページに「能力開発の連鎖」と書いていますが、能力評価制度のような制度も含めて、能力開発の連鎖が起こるような形の外部市場経由の形態転換環境というものをぜひとも整備していく必要があるのではないかと思っております。そういうときに、特に、先ほど申し上げたとおり、大卒は何とかなりそうなのですが、高卒が非常に厳しいということでございまして、特に高卒の形態転換、転換訓練のようなものをもっともっと充実させていく必要があるのではないかと考えているところでございます。議論はいろいろあると思いますが、この論点につきましてはこのくらいにいたしまして、次の論点に移りたいと思います。

次の論点は、正規・非正規間の格差問題でございます。先ほどご報告したとおり、賃金格差から見ていきますと、若年期は小さいようでございまして、30代以降拡大すると。これはとりもなおさず、外部労働市場の労働条件設定という点で乖離しているというのが現在の状況ではないかと考えております。そういうことであるわけでございますが、これについてどのような政策方向が考えられるかにつきまして、ご意見を伺いたいと思います。派遣の場合の条件ということで、小野さんからいいでしょうか。

小野 格差についてですか。

浅尾 はい。

小野 原さんの報告とかにもありましたけれども、やはりその能力というものが賃金に反映されないというのが、正規・非正規の格差を非常に広げている一つの原因にもなっていると思います。やはりある程度能力が上がったことを評価して、賃金をある程度くっつけていけば、例えば正規と同じような働き方をやっている人が、そこの賃金レベルにまで達するということはあるかと思うのですが、今はなかなかそういうことができないというのがあるんですね。派遣会社によっては、非常に小さな取り組みで、専門的な派遣会社ですけれども、例えば医療事務か何かで、未経験で派遣社員をある病院に入れると。未経験ですので、このぐらいの低い賃金で結構です。そのかわり、働いている間にその能力を高めて、いろいろトレーニングして、能力が上がって、1年後にはこのぐらいのレベルになったときには、このぐらいまで賃金を上げてもらえますかというような、事前申し込みといいますか、そういうことに地道に取り組んでいるような派遣会社もあるわけですね。だから、そのように、このぐらいのレベルまで行ったら、このぐらい賃金を上げてというような申し合わせをしておけば、ある程度賃金の上昇というものがかなえられるのかと思ったりはします。

ただ、これは派遣労働者のほうのヒアリングの中で聞いた話ですけれども、派遣社員の賃金というものは、パートとか、契約社員とか、正社員じゃなくて、そのほかの非正社員の賃金に引きずられるんだと、その派遣労働者の方はおっしゃっていました。ですので、例えば一つの企業の中でたくさんの雇用区分を扱っているような企業であった場合、派遣社員もいて、契約社員もいて、パート社員もいると。まあ、同じような、何となく似たような仕事をしている場合、この派遣社員の賃金を正社員に見合わせて上げるわけではなくて、パートさんに合わせて引きずりおろすというような、この辺の非正規の中での賃金ランクというか、賃金レベルというものがあって、こことは違うんだよというような意識づけというか、そういうものがあると。ただ、本人としては、やっている仕事は正社員と似ているんだから、何で正社員とこんなに格差があるんだろうっていう、これは労働者側の論理ですよね。だから、そこら辺で何か雇用のシステム的に齟齬があるというか、能力と賃金でうまくリンクできていない部分が、やはり格差の一因になっているのかと思ったりします。

浅尾 では、高橋さんから、契約社員の場合について。

高橋 契約社員の場合、企業側の論理と9ページに書かれていますが、私なりに解釈して、結果として正社員と契約社員とで賃金に差が生じる、その企業側の事情について、事例研究からわかったことをちょっとお話ししたいと思います。

まずその事情の中には、確かにそういう事情なら、それぐらいの賃金の差があっても仕方ないなと思える事情と、いや、そんな事情はちょっと斟酌するに値しないなというような事情とがあります。まず後者のほう、あまり考慮するに値しないなという事情のほうですが、私の報告を思い起こしていただきたいのですが、一般的・同水準型、つまり正社員と全く同じ業務での契約社員の活用事例というのがありました。これらは、有期雇用にしたいからという理由ではなく、もうはっきり言ってしまって、人件費の安い従業員を活用したいからという理由で契約社員という従業員区分を新設しているという事例です。ですので、この場合、契約社員制度を導入し始める前に正社員として入社した人と、契約社員制度導入後に契約社員として入社した人が、同じ仕事をしていながら賃金が大きく違うという状況が生まれるわけです。このように、職務構造を変えないで賃金構造だけを変えることによって差が生じたパターン、このようなパターンというのは、我々が、それは合理的じゃないのではないかと申すまでもなく、会社の側でもやはり問題を察知して、労働組合が問題を察知したり、あるいは人事部が離職率の高まりや技能継承不全などを察知して改善に取り組んで、再改革といいますか、元に戻す形に取り組んでいるというようなことが見受けられました。

もう一つが、合理性があるのではないか、会社側の事情を斟酌する必要があるのではないかという差についてです。これは私の話で言うと、一般的・低水準型の職域と呼んだところで生じていることです。ホテルC社とか百貨店D社としてご報告したところでは、正社員と契約社員では、やはり仕事内容にはっきりとした明確な違いがあるんですね。もう一つが、これは、私は職域という点に着目した研究ですので申し上げませんでしたが、転勤義務があるかないかという点が、正社員と契約社員の大きな違いになっています。これら2つの違いを主たる理由として、社内では、正社員と契約社員とで、大体契約社員が7割、8割ぐらいの水準だという表現を共通して聞くのですが、そのぐらいの差は合理的なものだとみなされているという話を聞くことができました。

しかし、他方で、書店F社の販売職の事例などでは、ここでは正社員と契約社員とで一応職域の区分はされているのですが、非常に重なりが大きいということ、あともう一つは、エリアが限定された書店・本屋さんなので、そもそも正社員についても、契約社員についても、転居・転勤の義務がないというような事例でした。このような事例においては、やはりほとんど同じであるにもかかわらず、これほどまでに賃金の格差があるのは合理的ではないのではないのかと、やはり社内で改革の機運が高まって、今契約社員制度の見直しを検討しているというようなことが聞かれました。

ですので、まとめますと、企業の側でもそれなりの差を設ける事情というものがある。その事情には、やはり合理的な事情とそうでない事情とがあり、そうでない事情の場合には、必ずとは言えませんけれども、ある程度自浄作用といいますか、労使関係の中で、あるいは企業の人的資源管理のメカニズムの中で、それを改正する、改善する力が働く場合もあるのではないかということを、事例を通じて考えました。

浅尾 どうもありがとうございます。では原さんお願いします。

 正規と非正規間の格差という点から申し上げますと、やはり先ほどもご報告いたしましたが、能力開発の機会、企業内訓練の機会については、正社員と非正規社員の間ではかなり大きな違いがあるということです。これはどういう問題があるかというと、ミクロ・個人レベルの問題で考えると、現在の賃金格差があるだけではなくて、能力開発の機会に恵まれないことで、将来的にキャリアの形成も阻害されてしまって、将来的な賃金格差が発生する。現在よりもさらに大きな賃金格差が発生してしまうのではないかというおそれがあるというのが、まず第1点の問題だと思っています。

もう1点、2点目ですけれども、やはり社会全体・マクロレベルで考えたときの人的資本の蓄積ということになります。皆さんよくご存じかと思いますが、非正規社員の人たちの割合が労働市場全体で3割を超える状況になっている。現時点での非正規労働者の割合が高いだけではなくて、例えば離学後ですね、学校卒業後の5年間のキャリアパスを見てみると、これまではずっと正社員だった人の割合がかなり高かったわけですが、2003年以降、正社員をずっと続けている人の割合がかなり減っていて、キャリアの中で非正規という働き方を経験する人の割合が増えてきたという事実があります。そうした中で、日本経済というのは天然資源の少ない経済なので、かなり人的資本、人的資源に支えられて経済成長を果たしてきたと言われておりますが、社会全体で人的資本の蓄積が阻害される、つまり、非正規という働き方の人が増えて、彼らがたまたま企業内訓練、職業能力開発の機会が恵まれないことで人的資本の蓄積が行われないということで、社会全体での資本の蓄積がうまくいかないということで、マクロレベルでの経済成長にも悪影響が予想されるということで、これは重要な問題だと思っています。先ほどの報告での繰り返しになりますが、やはり、今、企業自身の利潤最大化行動の中で、企業が訓練の実施を決定していると考えると、なかなか現状では、非正規社員の人たちの企業内訓練の機会を拡大することは難しい。じゃ、取り組みとして何が考えられるかというと、やはり正社員という働き方の人たちが訓練からの投資の回収の高い回収利益、リターンの高い人たちなんだという働き方にしていかないと難しいのではないかと考えています。一応今考えられるところとしては、1年といった雇用契約期間ではなくて、2年、3年とだんだん長くしていくような取り組みというのが、まずは考えられるのかというのが一つになります。

あと、能力開発成果の反映というところになりますが、先ほども申し上げましたように、仕事能力とか生産性は、おそらく企業内訓練によって高まっている。それにもかかわらず、賃金アップには結びついていないということです。やはり職業能力評価基準などがきちんと導入されて、その人の職業能力に見合った処遇、賃金が支払われるべきだと考えておりまして、やはり短期的に実現するには、今現在、企業がかなり連動をとっていると思われますので、社会全体で、市場にゆがみが生じていると考えられます。そうしますと、政策的に介入する余地が理論的にも発生してきますので、やはり企業に補助金を出すといったことが考えられるかと思います。一方で、企業に対して補助金とか助成金を出すのではなくて、労使協調というやり方でこうした点を実現していくこと、職業能力評価基準の導入というのを実現していくべきだという考え方も一部で聞かれますが、パートの組織化が今5%をちょっと超えるぐらいかと思うのですが、なかなか会話の場すら持てないような状況にあると思います。まず、実態としてそういったものを導入してしまって、そこから議論の場を設けるといったことも一つの方策ではないかと考えまして、こうしたご提案をしました。以上です。

浅尾 どうもありがとうございました。他に何かございますか?

小野 言うかどうかちょっと迷ったことがあるのですが。実は派遣会社のヒアリングをずっとやっている間で、賃金が非常に下落しているということを皆さんおっしゃるわけなんですね。これを言うか言うまいか迷ったというのはどういうことかといいますと、その一因が入札だということがありまして、我々は独立行政法人ですので、公的な部門ですので、我々も入札をやっているわけなのですが、日本の公的部門で働いている非正規社員というのは今増えているんですね。その背景には、やはり税金を使っていることもありまして、なるべくコストダウンをして事業を進めていこうということがあるのですが、例えば官公庁で、派遣であったり請負であったりという職種を入札制度にした場合に、恐ろしく低い金額で落札してくる業者がいるということです。例えば今、一般事務の賃金というのは大体1,300円とか1,400円ぐらいが相場なのですが、そのような一般事務の賃金というのが、派遣料金が大体そのぐらいで落札されるということです。派遣料金ということは、そこから派遣会社がマージンを引きますので、大体800円とか、そのぐらいに一般事務でなってくると。ひどい、最近もっと下落してきて、もう1,000円を割って、900円台に派遣料金が突入してきているというような話もしているんですね。ですので、例えば専門的な職種であっても、このような競争入札の憂き目に遭っている労働者というのは非常に多いのです。例えば医療事務ですけれども、医療事務というのは、レセプトコンピューターというコンピューターを使って、お医者さんが書いたカルテの中に、どんな治療をしたか、どんな薬を投与したかということが書かれていますが、そういうものをコンピューターに入力して診療報酬の計算をする、点数計算をするということをやるのですけれども、これはある程度資格を持って、ある程度業務経験がないとできない仕事になっているんですね。けれども、この医療事務に関しては、実はやっている派遣会社、請負会社といいますか、そこが日本で大手2社、大体2社でおさまっています。ここが過当競争をして、どんどん入札で下げるということになってくるわけですね。そこで、医療事務というのは、私から見て、これは非常に専門性の高い仕事だと思うのですが、労働者のヒアリングをしたときに、私の時給は1,000円なんですと、1,000円といったら、普通の一般企業で働いている、普通の、何の技能もない――そう言ったら語弊がありますけれども――一般事務の人が1,400円で働いているよりも安いと。1,000円なんです。ひどいんです、地方では800円ぐらいの場合もあるとおっしゃるんですね。これはもう派遣会社のせいかなと思いきや、派遣会社に話に行くと、いや、派遣会社でも、一生懸命働いている人には賃金を出してあげたいと思っている。みんなそう思っているし、いい賃金で働いてほしいと思っているのに、競争入札でこうなっちゃうと言うんですね。一体だれが悪いのかと私は思うんのですが、やはり入札のときには、これだけの能力がある人、例えば医療事務でもいろんなレベルがありますから、こういうレベルの人を何人つけます、こういうレベルの人を何人つけます、こういう人にはこのぐらいの賃金を払ってくださいという入札条件というものがあって、それに見合った賃金を支払うような入札でなければいけないと思う。ただ安い、安いで賃金を切り下げていくような入札であっては、ますます非正規労働の方の賃金レベルというのは下がっていくのではないかと思って、入札の功罪というものを最近ひしひしと感じている次第です。

浅尾 どうもありがとうございました。そういうのはぜひはっきり言ったほうがいいと思いますので、今後ともよろしくお願いします。

それでは、これまでの皆さんのご意見を踏まえながら、僕の独断になりますが、こういうことを申し上げたいと思います。一つは、やっぱり何といっても非正規雇用の賃金水準というのはちょっと低過ぎるのではないでしょうかと考えております。賃金底上げということを言っているわけでありますが、具体的には最低賃金なのですが、実は私、地域最賃もそうですが、ちょっと今、派遣最賃というもの、専門職だということであるならば、地域最賃ですべていいかどうかというのは問題じゃないかと思っていまして、例えば派遣最賃のような制度、僕は派遣最賃というよりは派遣最低料金、派遣の最低料金のほうを決めるべきだと考えていまして、そういう形で、先ほど登録型派遣の場合は、派遣先にもうちょっと責任を伴っていいのはそういうことでございまして、今、派遣元と派遣先との競争力といいますか、交渉力に非常に差があり過ぎるということでございますので、最低料金制度、派遣のようなものも、地域最賃のこともいいですが、そういったことも考えたほうがいいのではないかと考えています。

あと、手前みそになりますが、最近日本的な同一価値労働同一賃金というのを考えられないかどうかと考えておりまして、大体雑文でありますが、機構の「ビジネス・レーバー・トレンド」7月号にちょっと雑文を書かせていただいております。といいますのは、同一価値労働同一賃金の議論を、職務が同一だということでやっている限りは、日本が、僕はらちが明かないと思っていまして、日本で本当に賃金を決めているのは何かを考えて、それが同一なら同一賃金にしましょうと、このように考えるべきだと思っていまして、それが何かというのは、実は途中です。そこも、何が職務なのか、あるいは職務で決まっている部分もあるし、そうでない部分もあるのかどうか、まだ今後の研究課題でありますが、日本的な同一価値労働同一賃金というのを考えてはどうかと、このミッションを今後僕自身の課題として、研究をやっていきたいなと考えているところでございます。

最後の論点、それぞれの皆さんから、それぞれの研究員から、今後の「非正規研究の課題」といいますか、決意表明を最後にしたいと思います。

原さんからお願いします。

 今日の報告では、非正規から正社員への転換というところにかなり重点が当てられた報告になっていたかもしれませんが、正社員という受け皿が必ずしも今は多くないし、今後もさほど増えていくと思えない中で、やはり非正規社員の人が非正規のままで外部労働市場を通じてキャリア形成を行うことを可能にするような環境をつくれるような研究を今後していかなければいけないなと思っています。私のほうでは今、先ほどから繰り返し申し上げていますけれども、ジョブカード制度というのが、厚労省が2年前に行った施策としてありまして、私の説明では、OJTとOff−JTを相互補完してやるような教育訓練の部分ばかりちょっと強調するような説明になってしまいましたが、制度としては、キャリアコンサルティング、教育訓練、あと評価、これが三位一体となった制度になっていまして、非正規社員たちの正社員転換を可能にするだけではなくて、おそらくそうした職業能力の評価というものを自分で持っていくことによって外部労働市場でもそれぞれ通じるような、キャリア形成を可能にするような制度だと思うんですね。まだ2年前に導入されたばかりで、これが現状として一体どうなっているのか。おそらく制度は実際にやってみないとわからないことがありますので、課題として抱えていることも数多くあると思います。今そういうことを洗い出すための研究を行っているところでして、そうした現状と課題を明らかにしながら、今厚労省のほうで日本版NVQであったり、キャリア段位制度であったり、職業能力評価基準、外部労働市場で通じるような共通の指標の導入についていろいろ検討もされていますので、そうした中で資料として役立っていくような研究をして、繰り返しになりますが、今後非正規社員の人たちが非正規労働のままで外部労働市場を通じてキャリア形成を可能とするような環境を検討できるような研究をしていきたいと考えております。決意表明です。

浅尾 どうもありがとうございます。では小野さん、よろしくお願いします。

小野 今日報告したのは、派遣会社のヒアリングというのが中心で、その中で派遣労働というものが、ある意味正社員になるためのステッピング・ストーンになり得るかもしれないということを、派遣会社側からのヒアリング調査で、ある程度提示はしているのですが、果たして派遣労働者側から見たときに同じことが言えるのかどうかということは、まずこれは検証してみなければわからないことですので、それは今後、今ヒアリングを終えて、88人ぐらいヒアリングして、今年度中には出す予定ですので、そちらのほうも読んでいただきたいなというのと、あとは、アンケート調査で、今現在正社員をやっていると、前歴の中に派遣社員というものがあって、その派遣社員であったときの経験というものが、今現在の正社員というキャリアに資するものであったのかというアンケート調査ですよね。非常にそのサンプルをとるのは難しいかとは思うのですが、そこをやってみたら、本当に派遣労働というものが、ある程度ステッピング・ストーンになっていたんだということがわかるかなと思っております。ですので、そこの部分を研究として今後やっていきたいなと思っております。

高橋 決意表明ということで振られてしまいましたが、私の今研究しております契約社員というのは、さまざまな雇用就業形態がある中で、一番研究が遅れている形態だと思うんですね。ですので、ちょっとまだ私の研究では具体的な政策提言というところまではいかないのですが、そのことを正直に告白した上で、ちょっと私なりの研究計画を開陳したいと思います。

今私が取り組んでおりますのは、昨年度企業ヒアリングをやりまして、かなり契約社員には正社員登用の道が開かれているのではないかということを聞かれたのですが、やはり今の小野さんのお話とも同様に、じゃ、個人の側で契約社員として働いている人にインタビューをしてみたり、アンケートをしてみたときに、どのような見通しが持てているのかという点を明らかにすることが必要だと思っています。その際に大事なのが、私としては累計論的考察というのがまず取っ掛かりになるのではないかと考えておりまして、どのような人が、どのようにして契約社員になったのかという分析が、まず出発点として欠かせないと考えています。今私が少し個人ヒアリングをやっておりまして、これは問題を抱えているなと思われる契約社員のタイプが3つあります。1つは、就職氷河期に若年フリーターとして労働市場に参入して、今契約社員となった人。若年フリーター型とでも呼ぶことができると思います。2番目が、出産や子育ての後の労働市場への再参入の過程で、最初はパートタイマーとして、子供が小さいうちはパートタイマーで働いていて、だんだん子供の手が離れてきたのでフルタイムになってきている形で契約社員になった方、これ、M字カーブ型とでも呼べると思います。そしてもう一つが、壮年の働き盛りの男女が突如として職を失ったときに、もうある程度の年齢になっているので、正社員として再就職は難しくて、やむを得ず契約社員となっている。リストラ遭遇型とでも呼ぶことができると思うのですが、これら三者で、その必要な解決策が、企業内登用なのか、外部経由の転職なのか、それとも能力開発が必要なのか、必要じゃないのかとか、処遇格差がどの程度クリティカルな問題となっているのかといったことが、それぞれ三者三様に違うわけですね。そのように、問題の起こり方、対策の方向性が当然類型によって異なるはずですので、あまり細かく類型化すると問題の本質というものを見失ってしまうというのは十分戒めないといけないのですが、特に契約社員のような新しい研究対象の場合には、その概念の中にどのようなタイプの人が含まれているのかをまず把握するという作業が必要ではないかと考えて、今取り組んでいるところです。

浅尾 どうもありがとうございます。

最後に、僕もちょっと決意表明したいと思いますが、ここのJILPTは労働政策研究所で、労働行政の研究機関になるのですが、この非正規の問題というのは、当然その背後のことも言わないといけないのですが、ちょっとその範囲を超えた視点も必要じゃないかと考えております。というのは、非正規雇用や非正規社員がこれだけ広がっているのは、経済の変動ということが背景にあるわけでございまして、この経済の変動をどう考えるか、それにどう対応するかという次元のことをだれかが考えないといけないんじゃないかと。どうも事業所管官庁などへ行きますと、経済が変動するから、非正規は必要じゃないかと、そういう論調だと思うのですが、我々労働行政で禄をはむものといたしましては、どうもそれだけでは困るんじゃないかと思います。やっぱり経済変動に対応してどう雇用を守っていくかということを考えないといけないのではないかと思っています。そこで、資本主義経済というのは経済変動が当然あるので、それは当然なのですが、ただ、最近の経済変動というのは、ちょっと普通の資本主義の変動を超えて変動しているのではないかと考えられると思っています。それが昨今僕が考えていることですが、金融資本主義という、まあ、カジノ資本主義と言う人も結構いるのですが、そういう経済構造になってきているのではないか。それから、そういう経済構造自体をちょっと変えないと、この非正規問題というのは根本的に解決できないのではないかと考えていまして、労働問題に限った調査研究をこれからもやっていくつもりでありますが、時間があれば、そういう面もちょっと考えていきたいなと考えているところでございます。これは僕の決意表明でございます。

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