報告「雇用多様化の今日的課題」
契約社員の職域と正社員化の実態

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本日は、「契約社員の職域と正社員化の実態」(ディスカッションペーパーNo.10-03)という、この4月に執筆いたしましたディスカッション・ペーパーの内容についてご報告させていただきます。このディスカッション・ペーパーというものは、先ほど来出ております白い表紙の冊子になっている報告書とは異なりまして、JILPTとしての見解ではなく、あくまで私、研究者、研究員個人の見解なり、議論なりを発表させていただくと、そういう媒体でございます。その点、ご留意いただければと思います。

まずこちらの「契約社員の職域と正社員化の実態」というタイトルの意味するところですが、それは契約社員、これはフルタイムの、直接雇用のフルタイムの有期契約労働者というふうに後で定義いたしますが、その人たちが企業内でどのような職務を担っているのか、どのような職域で活用されているかということと、それらの契約社員が企業内でどのような正社員化、正社員登用なり、正社員転換の可能性があるのか、あるいはないのか、その両者の関係について分析するというものでございます。お手元には文章が多いレジュメをお配りしてありますが、報告のほうは、それをもとにしたスライドで、こちらで進めさせていただきます。

まずはじめに用語の定義をいたします。ここで使う「契約社員」という言葉ですが、3ページの図にありますように、直接雇用と間接雇用というふうに分けますと、直接雇用の中、そしてフルタイムかパートタイムかというと、フルタイム。そして、その中でさらに期間の定めのない無期雇用か、期間の定めのある有期雇用かという意味では、有期雇用に属する人たち、この人たちを、この研究では契約社員と呼んでおります。そして、その点については、レジュメのほうに詳しく記載してありますので、今は詳しく申し上げませんが、このような言葉遣いが適当であると考えられるそれなりの根拠はあると考えております。

ただし、ここで注意しておきたいのは、この「契約社員」という名称、これは必ずしも法律的に定義を与えられた言葉ではないということです。その点はご了解ください。

さて、その契約社員、つまり、直接雇用のフルタイム有期契約労働者が増加しているということを示唆するデータが幾つかあります。一つは、レジュメのほうは紙幅の関係で載せておりませんが、4ページの労働力調査です。これを見ますと、2002年の段階で「契約社員」または「嘱託」と呼ばれる労働者が218万人程度であったものが、2009年の段階では318万人へと増加しています。総じて契約社員が増勢であることが読み取れます。ただし、そこでは、「契約社員・嘱託」となっていたわけですので、主として定年退職後の「嘱託」と呼ばれる人たちの増加分も含まれています。そこで、契約社員を、「嘱託」と呼ばれている人を除いて「契約社員」と呼ばれている人たちだけを取り出した数値を見てみましても、やはり契約社員の方々、人数、比率ともに増勢であることが読み取れます。その点は、就業形態の多様化に関する総合実態調査のほうから、5ページのの表から読み取れます。

なお、厳密に申し上げますと、これらの調査で用いられている「契約社員」という言葉の定義は、必ずしも直接雇用のフルタイム有期契約労働者そのものではございません。具体的には専門職の有期契約労働者というふうに定義されています。しかし、実態としてこれらの調査の集計表を細かく見ていきますと、実際には専門職以外の方も多数含まれています。また、その多くはフルタイム労働者です。ですので、実質的にちょっと、定義と実質がアンケートの回答者の方がどう答えるかという場面で、定義と実質とが異なっているのですが、実質ベースで直接雇用のフルタイム有期契約労働者のことを指していると考えて差し支えないと思いまして、これらのデータを用いて契約社員の人たちが増えているというふうに判断している次第でございます。

少し技術的な話が長くなりましたが、次に、就業構造基本調査を使いまして、契約社員の属性を大まかに確認しておきたいと思います。具体的には、6ページの非正規労働者の中の中心を占めるパートタイマーとの違いに注目してみたいのですが、そうしますと、総じてパートタイマーよりも契約社員のほうが男性が多く、年齢層が若く、高学歴者がやや多く、そして、職業が分散しており、特に専門技術職の方がかなり含まれています。また、産業も分散している。パートタイマーの場合は、卸・小売ですとか、サービス業が多いのですが、それ以外の業種にもかなり契約社員が活用されているということ。そして、パートタイマーに比べて比較的大企業に勤務する人が多いという特徴が見受けられます。

次に、所得の面を見てみたいのですが、7ページで就業構造基本調査を使いまして、就業形態、雇用形態別の賃金カーブを粗く、非常に粗い推計ではありますが、描いてみました。そうしますと、契約社員というのは、正社員とパートタイマーの賃金の面で見る、所得の面で見ると、中間的な性格を持っていると考えられます。

また、派遣社員の方もフルタイムで働いている方が多いわけですが、その方と比べますと、派遣社員の方が三角の印で、契約社員の方が黒の実線になりますが、派遣社員の方がやや中高年齢の方で賃金が下がる傾向にあるのに対し、契約社員の方はそれを維持している傾向が見受けられるという違いがあります。

このように、契約社員の属性と賃金について見てきたわけですが、最後に、契約社員の意識を見てみたいと思います。8ページです。これが、問題関心につながります。そうしますと、右側の契約社員の場合、左側のパートタイマーと比べまして、正社員として働ける会社がなかった、雇用の安定性に不満、またはやや不満、正社員に変わりたいという人の比率が2倍から3倍程度高いことが読み取れます。

他方で、賃金に不満またはやや不満と答える契約社員、これもやはりパートに比べれば多いのですが、その差は比較的小さいと、私は数字を読み取りました。ですので、契約社員の方にとっては、賃金の問題ももちろん問題なのですが、それ以上に正社員になりたいのになれなかった、正社員転換、雇用の安定、こういった点が課題になっているのではないかと考えます。

そこで、前置きが長くなりましたが、契約社員の正社員化の実態をめぐって議論をしたいという次第でございます。

まず先行研究ですが、契約社員、直接雇用のフルタイム有期契約の人に絞って、その正社員登用転換制度の実態を分析したという研究はほとんどありません。ですが、少し対象を広げまして、パートタイマーなども含めて非正社員の正社員登用転換制度のあり方について注目した研究は幾つかあります。私はそれを2つに分別いたします。10ページですが、一つは、人事戦略に注目するもの。企業の人事戦略のあり方と、その会社の非正社員の正社員登用転換制度のありようとがどのような関係にあるのかを分析したものです。そしてもう一つ、こちらが本研究において参照するものですが、職務構造に注目したものです。具体的には、その会社での非正社員の職務がどの程度基幹化しているか、どの程度高度な業務に携わっているかということが、正社員登用転換制度のあり方に影響を与えているといった、そのような先行研究がございます。

それを踏まえまして、本研究なりの分析枠組みを設定します。11ページですが、それは、縦横2つの軸を設定するという点に特徴があります。まず縦軸のほうですが、今申し上げました職務の基幹性を測定するものです。その会社で契約社員がどの程度管理的な業務、指導的な業務、判断を伴う業務、あるいは業務に伴う高い責任を負っているか、こういった縦軸の尺度を使いまして、その会社の契約社員がどの程度正社員と縦の方向で見て近い位置に位置づけられているかということを分析します。そして、もう一つが横軸、これは契約社員の場合、特に重要になる軸でして、職務の専門性を測定する必要があります。具体的には通常の従業員等のふだんの業務において、相互依存性がどの程度あるのかということを測定いたしまして、通常の従業員との相互依存性が小さい業務に依存している、つまり、非常に独自性の強い、専門的な業務に従事している人ほど、こちらの横軸でいう職務の専門性が高いと判断するわけです。そして、これら契約社員がどのような職域で活用されているかということをマッピングいたしまして、それと正社員登用転換のあり方との関係を見るという研究でございます。

さて、企業ヒアリング調査を本研究では実施いたします。その理由については、細かくは申し上げません。私は決してアンケート調査を否定するものではありませんし、ふだんアンケート調査の分析をいたしているのですが、今回に関しましては、ヒアリング調査の方法を採用するのが妥当ではないかと考えました。具体的には、13ページにありますように2009年7月から2010年1月、今年の1月にかけて、6企業にて計14回のヒアリングを実施しました。その結果に基づくご報告です。

では、15から20ページで実際の6つの企業での契約社員の活用事例を見ていきたいと思います。まず運輸A社でございます。この会社では、2001年に人件費削減のために乗務職において契約社員制度を導入いたしました。1年契約ですが、原則として契約は更新しています。また、仕事の内容とか、能力開発のあり方も正社員と同じです。しかし、仕事の内容が同じ2種類の従業員が混在する状況を是正すべきという労働組合の側からの要求もありまして、契約社員の一部を期間の定めのない雇用契約に移行するという措置がとられました。そしてさらに、2009年、つい最近でありますが、正社員の賃金制度、退職金制度を修正した上で、契約社員を全員正社員化するという措置がとられました。その際に当然労働条件が低下する正社員もいたわけですが、契約社員の全員正社員化を求める労働組合がそれら正社員の説得に当たるなどして、労使の緊密なコミュニケーションのもとで改革が達成されたという点に特徴があります。

そして、卸売B社、これも職種は違うのですが、よく似た事例です。低コスト経営を求められる中で、定型的補助的業務であり、マニュアル化が可能と考えられた営業事務職において契約社員制度が導入されました。そして、この事例では1年契約ですが、特段の問題がなければ更新と。また、仕事の内容、能力開発のあり方も正社員の場合と変わらずということでした。しかし、非常に離職率が高かったということ、それゆえ、社内の業務の引き継ぎや技能継承に問題が生じまして、また仕事に対するモチベーションも必ずしも高くなかったといった問題がありましたために、この会社の営業戦略と齟齬が出るようになってきた。そこで、同じく2009年に、正社員の人事制度、賃金制度を修正した上で、希望者全員を原則として正社員転換することとした、そのような事例です。

そして、ホテルC社、こちらでは、サービス職と専門職という2つの職種で契約社員を活用しています。サービス職のほうは、単純業務においてコストを削減することなどを目的として契約社員を活用しているものです。これらの賃金水準は、正社員より低いのですが、業務内容、採用基準、転勤義務の違いなどに見合った水準、妥当な水準であると、社内では認識されています。また、年2回の評価、職場推薦、面接に基づく正社員登用制度があり、契約社員として入社した人の1割程度が正社員登用されているという話でした。他方、専門職において、社内でも契約社員が活用されていますが、その理由が違います。それは社内で人材を育成するより、契約社員を外部から採用すべきとの判断から活用されているものです。そして、これら専門職の契約社員は、賃金水準が正社員よりも高い場合があると。しかし、それらは高度な専門知識、技術に見合ったものであるとして、正社員もそれに納得していると。さらに、正社員登用制度はあるが、サービス職の契約社員に比較して正社員登用を希望する者が少ないという特徴がある。

次に進みます。百貨店D社です。1998年に売り場運営に特化した人材を育成することを目的に、販売職を中心に契約社員を導入しました。その業務内容は接客販売、ストック場の商品整理などであり、同じ職場の正社員とも、また、同じ職場にパートタイム労働者もいるのですが、その両者とも異なっている。中間的な職域に位置づけられます。そして、賃金水準は正社員よりは低いが、業務内容、異動範囲の違いに対応した合理的な水準だと社内では認識されています。そして、これらの契約社員につきましても、2段階のステップによる登用制度がありまして、希望者は正社員への道を目指すことができると。そして、会社としては、このような正社員登用制度が存在することによって、組織の活性化、採用チャンネルの拡大といった効果、メリットを得ることができるというお話を聞くことができました。

そして、6つある事例の5つ目です。情報通信E社では、スタッフ部門の専門職において、まずプロジェクトの立ち上げなどに伴う即戦力確保を目的として契約社員を活用しています。賃金水準は正社員より高い場合もありますが、それらは高度な専門知識・技術に見合ったものであるとして、やはり正社員の人も納得している。そして、ここの事例の特徴は、正社員登用の仕組みがないことです。しかし、それについて契約社員の方が不満には思っておりませんで、また、そもそも契約社員となることを望んで入社してくる人もいるということでした。他方、この会社でも、営業職、開発職の契約社員は少し意味合いが違いまして、それは正社員としての中途採用基準に一歩及ばない人々などを試行的に雇用することを目的として活用している、そのようなものです。そして、これらの人々については、人事評価、面接により入社者の7から8割が正社員登用されているということでした。

最後に、6つ目の事例です。書店F社。この事例では、販売職においてまずコスト削減を目的に契約社員を活用しています。これらの人々は、正社員より賃金が低いです。なお、この事例は若年の問題を抱えておりまして、職場においては、正社員、契約社員、パートタイマーの担当業務が決められてはいるのですが、かなり重複があると。特に契約社員と正社員との間に職務の重複が大きい。しかし、賃金水準が違うということで、その処遇格差が問題になっているということでした。そのため目下、契約社員制度の位置づけの見直しを検討しているということです。他方で、営業職においては、正社員として雇用すべき人材かどうかを見きわめるために試行的に雇用することを目的として契約社員を活用しています。全く違った理由から契約社員を活用しています。そして、これらの人々については、面接により、やはり7から8割が正社員登用されているということでした。

それでは、これらの事例に基づいて考察をいたします。22から28ページで、契約社員の職域と、その会社での正社員化のありようとが、どのように対応しているかということについての考察です。まず事例にあらわれた契約社員の職域を、私が見た限り4つに分類いたします。第1は、職務の専門性、職務の基幹性、ともに正社員と完全に同じパターンで、これを(a)類型「一般的・同水準型」と呼びます。そして、2番目は、ごく一部正社員と比べて職務の基幹性が低い部分があるが、基本的には同じ職務に従事しているパターン、これを(b)類型「一般的・部分同水準型」と呼びたいと思います。3番目が、何らかの形で正社員と契約社員の職務の切り分けがなされており、職務の基幹性が、契約社員のほうが正社員よりも低いパターン、これを(c)類型「一般的・低水準型」と呼びたいと思います。そして、4番目が、これが若干毛色が異なりまして、職務の基幹性は同程度であるが、職務の専門性が正社員よりも高いパターンです。これを(d)類型「専門的・同水準型」と呼びたいと思います。

他方、正社員化の実態の方はどうかといいますと、これもやはり4つのパターンに分類できます。6企業9つの職種があったわけですが、4つのパターンに分類できます。1つは、ほぼ全員が正社員となることを希望している状況において、原則において希望者全員を正社員転換した事例、これを(a)「全員転換型」と呼びたいと思います。2番目が、ほぼ全員が正社員になることを希望している状況において、人事評価と面接に基づいて大半を正社員登用するパターンです。これを(b)「評価登用型」と呼びたいと思います。そして、3番目、これが正社員になることを希望する者が全部ではないが一部存在する、そのような状況において、人事評価、職場推薦、筆記試験、そして面接などによる選抜を施した上で正社員登用するというパターンです。これを(c)「希望者選抜型」と呼びたいと思います。そして、4番目が、正社員登用転換を希望する者自体が相対的に少ないパターン、これを(d)「契約社員一貫型」と呼びたいと思います。

それでは、この契約社員の職域と正社員化の実態とがどのように対応しているかという話ですが、(a)(b)(c)(d)という符合をつけていることからわかりますように、これらが対応しています。具体的には、一般的・同水準型の形態で契約社員を活用している場合は、全員転換型になりやすい。そして、一般的・部分同水準型の場合は、評価登用型になりやすい。そして、一般的低水準型の場合は、希望者選抜型になりやすい。そして、専門的・同水準型の職域で契約社員を活用している場合は、契約社員一貫型の対応をとりやすいということが、これらの事例から読み取ることができます。

さて、それでは、このように契約社員の職域の4類型と正社員化の実態の4類型とが対応しているというお話をいたしましたが、それが単なる相関関係に過ぎないのか、それとも、何らかの因果関係が、きちんとした説明のメカニズムがあるのかという点を考察してみたいと思います。なお、議論の都合上、(a)(b)(c)(d)ではなく、順番を変えて(a)(c)(d)(b)という順番で議論させていただきます。

まず(a)の一般的・同水準型の職域の場合ですが、これが全員転換型になりやすいという点についてです。これについては、次のように考えられます。まず労働組合が公正性の観点から労働条件の統一を求めるよう経営側に働きかけるというメカニズムが働くと。また、契約社員のモチベーションが上がらない、離職率が高いといった問題があるとして、会社側が主導して契約社員制度の廃止を決断するというメカニズムが働くということも想定できる。ただし、いずれのメカニズムによるにせよ、契約社員の導入理由が、そもそも人件費削減を目的としていた場合、そのような正社員転換は人件費増加を招来することになるため、同時に正社員の賃金制度の改革が求められる場合も多いです。ですので、自動的に全員転換が起こるというわけではなくて、そのような改革がうまくいくためには、労使の信頼関係なり、労使での共通認識の醸成が必要なのではないかと考えられます。

次に、(c)領域です。一般的・低水準型の場合、希望者選抜型の対応をとりやすいという話です。第1に、契約社員の一部は、社内で培ったスキルを生かしたキャリアアップを求めて正社員登用を希望するというメカニズムが働くと考えられます。そして、第2に、企業としても、正社員登用の道をつくることで契約社員のモチベーションを高める効果、正社員の人的多様性を高める効果などが期待できると。しかし、第3に、契約社員と正社員とでは採用基準が異なるため、希望者全員を正社員転換することはできず、何らかの選考を行う必要性が生じる。ここが、先ほどの(a)と異なるところですね。全員転換とはいかないところです。つまり、この職域が正社員の内部労働市場と完全に同じではないが、それと接続し得る、下の位置に存在するがゆえに、一般的・低水準型の場合は希望者選抜型の正社員転換の形をとるというメカニズムが働くのではないかと考えます。

そして、(d)領域、専門的同水準型の職域の場合ですが、この職域で働く契約社員の方々は、当該業務に専念することにより、専門的なスキルを生かすとともに、伸ばしていくことができ、そして、そのことが労働市場における自分の価値を高めることにつながります。つまり、それは必ずしも正社員になるというモチベーションが働くとは限らないというわけです。すなわち、この職域が外部労働市場と連続しているため、契約社員の人たちは必ずしも正社員になることを希望しない、契約社員一貫型の様相を呈すると言えるのではないか、そう考えます。

これに対しまして、類型(b)につきましては、少しその説明メカニズムが異なっています。具体的には、職務構造に基づく説明よりも、最初のほうに先行研究レビューのところで申し上げました、人事戦略に基づく説明のほうが、この領域については説明力が高いのではないかと考えます。すなわち、試行雇用を目的として契約社員を採用しているがゆえに、正社員と比べ一部基幹性が低い部分があるが、基本的に同じ職務に従事させると。また、ほぼ全員が正社員になることを希望する。そして、人事評価と面接に基づいて大半を正社員登用するといった、この類型の特徴が、すべてこの試行雇用という目的が原因となって導かれるのではないか、そのように考えられます。

それでは、最後に結論、望ましい人事管理に向けてと、若干の政策提言をさせていただきたいと思います。30から35ページです。

まず望ましい人事管理ということですが、(a)領域についてです。一般的・同水準型の職域での契約社員の活用は、労使双方にとって必ずしも好ましい結果をもたらさないのでないかということが、2つの事例から示唆されます。よって、現状を改革する必要性が相対的に高い。具体的には、希望者全員の正社員転換の検討が望ましいと、人事管理としてそうすることが望ましいと考えられます。ただし、当初の契約社員の導入理由が人件費削減にある場合、契約社員の正社員転換は人件費増加を招来するため、同時に正社員の賃金制度の改革が求められることもある。先ほどの繰り返しになります。このように、正社員と非正社員の利害調整という難しい問題を抱えているだけに、改革にはある程度の時間がかかることも理解しておく必要があると考えます。また、そのためにも、労使が日ごろから信頼関係を育むとともに、共通認識を形成していく必要もあるのではないか、そのような方策が導かれます。

次に、(c)一般的・低水準型での契約社員の活用です。このような形での契約社員の活用は、幾つかの条件を満たしているならば、労使双方にメリットをもたらすのではないか、そのように考えます。その第1の条件は、合理的な正社員登用制度が導入されており、適正に運営されていることです。この点については、既に述べたとおりです。そして、第2の条件は、正社員と契約社員の均衡待遇が実現していることです。この点については、先ほどちらっと触れました書店F社の事例を思い出して下さい。書店F社の販売職においては、契約社員から正社員への登用制度はあるにはあるのですが、そしてまた、その仕組み自体は、契約社員本人にとっても、会社にとっても一定のメリットをもたらしていると人事部は認識しているのですが、その処遇の違いの前提となる職務の違いが十分に明確にできていないことなどから、契約社員の制度そのものの見直しを検討しているという情報が得られました。このような事例から、均等待遇が実現していることが、契約社員制度が成り立つための一つの前提条件なのではないかというふうに推測されます。

第3に、(d)の専門的・同水準型の職域での契約社員活動についてです。このような職域での契約社員の活用は、労使双方に少なからぬメリットをもたらしていると考えられます。具体的には、まず労働者としましては、当該職務に専念することにより、専門的なスキルを生かすとともに伸ばしていくことができる。労働市場における自分の価値を高めていくことができるというメリットがあります。そして、企業としても即戦力となる人材を調達できるとともに、プロジェクトの終了に伴い、雇用契約を終了させることができるというメリットがあります。ですので、人事管理という観点から見るならば、この職域において契約社員の正社員登用制度を導入する必要性は、他の領域と比べれば相対的に低いのではないか、そのように考えます。

最後に、(b)領域、試行雇用を目的とした契約社員活用の場合です。これも、労使双方にとって少なからぬメリットをもたらしていると考えられます。具体的には、労働者としてはたとえ採用時点において当該企業の正社員としての採用基準を下回っていたとしても、後に正社員に登用されるチャンスを得られるというメリットがあります。企業としても、実際の働きぶりを評価した上で正社員登用の可否を判断することができるというメリットがあります。ただし、その際に留意すべきことは、試行雇用の仕組みを前もって本人に伝えることが重要なのではないかと考えます。そうすることで、正社員に登用できなかった際にトラブルが発生するのを防ぐことができるのではないかと考えられるからです。

さて、以上はあくまで企業としてこのような取り組みをすることが望ましいのではないかという提案だったわけですが、そのような人事管理を促進するために政策的にどのような対応が求められるかということについて、最後に触れたいと思います。

まず総論ですが、総論として、契約社員がどのような職域で活用されているかによって、労使が直面している課題も異なることを認識する必要があるのではないかと思います。その意味で、もし契約社員の活用に対して何らかの政策的対応を講じるならば、一律的な対応であるよりも、職域に応じた対応であるほうが労使当事者としても受け入れやすいのではないか、そのような総論的な考えのもとに、具体例を提示いたします。

まずちょっと字が多くて恐縮ですが、(a)一般的・同水準型、また(c)低水準型の職域などを例に出しますと、これらの職域で契約社員を活用している場合には、まず均衡を考慮して賃金を決定するよう努力すべきこと、また通常の労働者への転換を推進するための措置を講じなければならないことなどを、これらのことは現在、改正パートタイム労働指針という形で決まっているのですが、それよりも一層法的根拠の強い基準の形で規定することが必要ではないか、そのように考えます。

加えて、ここがまた職域ごとに対応が異なることですが、(a)領域、一般的・同水準型の職域での契約社員の活用の場合には、非常にこれは問題が多いパターンですので、希望者全員の正社員転換を検討することが望ましいと。しかし、その際には、先ほど来繰り返しておりますように、正社員の賃金制度の改革や、処遇を据え置いたままでの正社員化、勤務地や職種に限定のある正社員区分への転換といった大規模な人事・賃金制度改革が求められることがあります。ですので、これらの職域での契約社員活用のあり方を改革するためにも、先進事例などを集めて、そういったものを企業の間に広めていく、紹介して普及していくことなどが必要ではないかと考えます。

以上、契約社員の職域と正社員化の実態ということについて、事例と考察、そして、それに基づく提言をさせていただきました。ご清聴ありがとうございました。

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