報告「女性の就業継続」
女性の働き方と出産・育児期の就業継続─就業継続プロセスの支援と就業継続意欲を高める職場づくりの課題─

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本日お話しする内容は、平成21年度の研究成果でして、既に報告書として取りまとめて公表しておりますのでかなりかいつまんだお話になるかと思います。もし詳しい内容をもっと読みたいという方がいらっしゃいましたら、労働政策研究報告書No.122(『女性の働き方と出産・育児期の就業継続』)として出ておりますので、そちらの方をごらんいただきたいと思います。

本日お話しします内容は、タイトルにありますとおり「女性の働き方と出産・育児期の就業継続」ということで、女性の就業継続支援ということが当機構の一つの大きな研究のテーマとなっておりまして、平成19年度から23年度の5年間JILPTの第2期中期計画全体をかけて、女性の就業継続についての研究をするということで、今日は、その平成21年度にやりました研究の報告ということでお話をさせていただきます。そういう意味でまだ継続中の研究でして、私自身も試行錯誤しながら今年度も研究を続けているような状況ですので、何かこうバシッと結論が出て、こうだというお話は、また来年度の報告書を見ていただくということで、今日は、そういう意味では続き物の中間ということでお話を聞いていただければと思います。

タイトルに、研究のテーマ名に「就業継続の政策効果に関する研究」とありますが、女性の就業継続支援、出産育児期に日本では多くの女性が退職するということで、仕事を続けられるためにいろんな支援が、これまでも既にたくさんいろいろ行われてきています。例えば1985年に均等法が施行されてから、女性差別的な雇用管理には規制が加えられております。かつては結婚退職制度みたいなこともありましたけれども、今ではそういうことは法律で禁止されている。また、何といっても大きいのが1991年に制定されました育児休業法、1992年に施行されていますが、これによって育児休業が事業主の義務となって、育児休業というのを柱にして、女性の就業継続支援というのがこれまで行われてきました。この後お見せしますが、女性の育児休業取得者というのはこの間着実に増えておりました。今年のデータでは、女性の育児休業取得率が久しぶりに下がったということもありましたけれども、趨勢としては、女性の育児休業取得者は増えてきたと。にもかかわらず、第1子出産前後に就業を継続する女性というのが、実はこの育児休業法が施行される前とほとんど変わっていないんですね。育児休業取得者は増えている、つまり、両立支援の制度の利用者は増えているのに、その目的である継続就業は増えていないという非常に逆説的、悩ましい状況が、今の女性の就業継続をめぐる問題としてあります。その悩ましい問題に5年間取り組んでいるわけで、なぜ出産育児期に退職するのかと、いろんな両立支援制度がある、職場の両立支援だけでなくて、保育所も依然として入りにくいという問題はありますけれども、着実に利用者数は増えていますし、そういう意味でいろんな制度が整ってきているのに女性が仕事を続けるのは難しい状況が存在するという、その課題を明らかにする、そういったことで5年間の計画で取り組んでいます。

ざっとその背景となるデータを先にお示ししておきますと、先ほど女性の育児休業取得者は増えているという話をしましたが、3ページの図1は育児休業法が施行された直後の1993年から2005年までの間の育児休業制度の規定率、就業規則等に規定がある事業所の割合と、当該事業所で出産した女性に占める育児休業取得者の割合が、この赤い線です。こうして見ますと、規定率、それから育児休業取得率ともに伸びてきたことがわかります。これをもって女性の継続就業が増えているというふうに、関係者の人は最初思っていたんですね。しかし、見てみると、実際には就業継続が増えていないという状況にあります。4ページの図2は2005年に我々がやりました調査で、1950年生まれ、団塊世代のちょっと下ぐらいの世代から1971年−75年ですから、いわゆる団塊ジュニア世代までの間の女性の職業経歴を比較検討した結果において、出産1年前から出産時点、出産1年後、出産2年後というところで雇用就業している女性の割合がどうなっているかを見たものです。これを見ますと、上の赤、緑、青の線、この世代というのは、均等法施行後に就職、労働市場に入って、1人目の子供が生まれたときにはもう育児休業法も施行されていたという世代です。その前の1950年−55年、黒と紫の帯、この線は、その前に育児休業法もまだなかった時代に1人目の子供を産んだ女性に当たるわけですけれども、こう見てみるとわかりますとおり、ちょうどこの○で囲ってある出産時点の雇用就業率を見ますと、若い、青い線及び緑の線を見ていただくと、ほとんど前の世代と変わっていないんですね。その前、出産1年前までの間には就業率上がっているんですね。子供が生まれて、これから妊娠するというその前までは働き続ける女性が増えているわけですけれども、いざ妊娠・出産というステージになったときに、多くの女性がやめているという状況です。

じゃあ、何でやめているのかということで、今年度は当事者である女性、それから、両立支援に取り組む企業にヒアリング調査を行いました。今日は、そのヒアリング調査の調査結果をお話しいたします。ちょっとこのスライドでは簡略して書いてありますので、別添とありますワードの表裏の一枚紙を見ていただきたいと思います。企業調査は、いわゆる次世代法の行動計画が義務づけられている300人超の企業が4社、それから、これから次世代法が義務になる100人~300人の会社が2社、それから、いわゆる中小に当たります100人以下の企業4社ということで、合計10社をヒアリングしました。個人調査は、一つが、その企業調査で実際に子供を産んで仕事を続けている女性、これは企業から紹介していただいた女性従業員4名、それから、現在子育て期にありまして、出産前に雇用就業経験がある女性、こちらは企業調査のほうはどうしても正社員で仕事を続けている女性ということがメーンというか、そういう対象者でしたので、ほかにも例えば最近非正規で出産・育児期を迎える女性も増えていますし、また、仕事をやめたという女性からも話を聞くということで、そうした女性15名に調査をお願いしてお話を聞きました。そのほかに、少し関係諸団体ということで、個人調査と企業調査の知見を少し補強する意味で、労働組合とか、経営者団体とか、行政機関にお話を聞きました。労働組合は、企業調査のD社の労働組合、これはこの後少し労使関係という視点からお話をしたいと思います。経営者団体と行政機関につきましては、ちょっと話が長くなりますので、話を割愛して、今日は企業調査と個人調査の結果を中心にお話ししたいと思います。

調査結果からどういうことが課題として見えてきたかをあらかじめお話ししますと、まず現在いろんな両立支援の制度があります。例えば妊娠期ですと通院のために休みが取れたりとか、あるいは通勤の混雑を緩和するために時差出勤ができたりとか、そういう母性健康管理措置という制度が、出産のときは産休、育休、それから、育児から復職した後には子の看護休暇制度があったりとか、あるいは今度短時間勤務制度が単独で義務化されますけれども、そういった制度があるのですが、そういった制度が個々バラバラで、そのときになってみないと使えるかどうかわからないということで就業継続を見通すことがなかなか難しい。やはり妊娠、出産、育児と一つの連続したプロセスですから、それぞれ制度があるというだけでなくて、それを要するにトータルに見通せるような支援をこれから考えていくことが大事じゃないかと思います。

もう一つが短時間勤務制度、今度単独義務化されますけれども、何といっても日本の職場においては長時間労働というのが非常に慢性化していますから、ひとり、子育て期の女性だけが短時間勤務で、例えば8時間を7時間にしていっても、なかなかそれは運用が難しいんですね。周りがかなり残業が当たり前になっているような職場ですと、短時間勤務制度の人だけが早く帰るということは難しい。そういう意味では、職場全体として長時間労働を是正していくということが今度の短時間勤務制度が定着するための重要な課題であると。

それから、3番目として、両立支援の制度があった上で、やはりこの会社で働き続けたいと、そういうふうに思えるような職場をつくっていく。そのために均等法が施行されて既にもう20年以上たちましたけれども、女性の職域拡大、やりがいのある仕事にどんどん女性が進出していく、そういう機会、チャンスをどんどん与えるということはもちろん大事なのですが、いつもいつも、言うなれば男性と同じような働き方では仕事を続けていくのが難しいということがどうしてもあります。もともとそういう働き方を望まないという女性もいます。女性が働くときには、就業意識というのは非常にそういう意味で多様で、一つの企業側としてはどんどんどんどん活躍してほしいと思っていても、やはり当の女性がそういうふうに思えるような、そういう職場をつくっていくこと、そのためには、この後の一つの大きなポイントになりますけれども、企業が長期的に女性を活用していくためにどういう課題があるのかを、企業として今、非常に経営戦略とか、経営の観点から女性の活躍を推進していくことが一つの課題になっていますけれども、労働者サイドとしてもどんどんそういう声を出していく、また、外部からもこのようにすれば女性が定着しますよということで、企業の取り組みをいろんな側面からサポートしていくことが非常に今重要になっているということが、ヒアリングの結果から見えてきました。

7ページの報告書の目次に沿ってこれからお話をしていきますが、まず最初に、第1章で出産・育児期の就業継続支援の課題ということで、個人の側から見て、今どういう状況で仕事を続けるのが難しくなっているのかということをお話しします。2番目に、企業が両立支援においてどういう課題を認識しているのか、特に今般の状況からいいますと、次世代法がもう施行されていますので、次世代法というのが大きな背景になります。3番目としまして、これから短時間勤務制度が単独義務化されることを受けて、労働時間の観点から見てどういった課題があるのかを。4番目として、先ほど働き続けたいと思えるような職場をつくるという話をしましたが、企業の女性活用と就業継続について、伝統的には均等と両立支援というのが女性活用の車の両輪と言われていましたけれども、その均等をめぐる問題意識が今現在どういうところにあるのかというお話をします。5番目として、先ほど言いましたが、こういった取り組みの一つの大きなポイントとして、やっぱり職場のコミュニケーションを活性化していくことが大事ではないかということが調査の結果から見えてきましたので、第5章でそのお話をします。きょうのお話、一つ一つの事例を詳しくお話ししたいところなのですが、なかなかそういうわけにもいきませんので、ポイントだけをかいつまんで説明し、その後主だった事例を少しお話しするという流れで進めていきたいと思います。

まず第1章の出産・育児期の就業継続支援の課題ということでいいますと、8ページですが、先ほども最初に言いましたけれど、まず何といっても多くの女性が、実際自分が仕事を続けられるのかどうかということの見通しが非常に不透明な状況で出産・育児期を迎えているという現状があります。その中身というのはいろいろあるのですが、もう一つ、2番目として、何といっても今般短時間勤務が単独義務化されるということとの関係でいえば、育児休業はとれる、でも復職後に両立できるのか。特に問題になるのが、自分の勤務時間が保育時間に対応しているかどうか、そういったところがポイントとして指摘されていました。3番目と4番目は、そういう制度が外から見て客観的にある制度の問題だけではなくて、非常に妊娠期の体調とか、あるいは4番にある女性が望む両立のあり方といった意識の部分とか、そういう外から見たらなかなかわからない、上司や同僚がぱっと見ただけではなかなかわからないようなところで非常に両立をめぐる悩みを抱えていたり、そのことが理解されなくて仕事をやめているというケースがありました。こういった1、2、3、4の課題において共通しているのが、やっぱり企業が一つ一つ制度があって、それを利用してくださいというだけじゃなくて、何といっても女性が働き続けるという長期的な女性の活用方針をしっかり持って、育児休業制度があって、それが取れたらいいでしょうって、それだけじゃないよね。取って復職して働き続けるというところまで考えた雇用管理をしているかどうかが非常に重要であるということが指摘されていました。

まず就業継続の見通しが不透明だということでいいますと、最近若年雇用の非正規化ということが、例えばフリーターのこととか、いろいろなことで指摘されていますけれども、これまで両立支援というと、主に若いときには女性でも正社員で働いている人が多かったですから、正社員を念頭に置いて雇用管理の問題というのは考えられてきたわけですけれども、就業継続という局面で、非正規雇用で出産・育児期を迎える女性も増えてきています。ここで問題なのが、非正規雇用の女性の多くが、今日は9ページにrさんという方の事例を出していますけれども、産休もないんですっていうことを言うんですね。実は2005年の改正育児介護休業法から、有期契約で働く非正規の女性にも育児休業が一部対象になっています。そういう意味で非正規雇用の両立支援ということも徐々に拡大されてきているわけですけれども、もうそれ以前に基本的な制度である産前休業、産後休業もないと思っている人が少なくない。特にそのことを、企業の方もちゃんと伝えていないということが、多くの事例で指摘されています。この派遣社員のrさんは、派遣社員だから自分は産休がないと、だからやめるのが当たり前だと当初思っていたんですね。派遣会社の営業担当者に自分が妊娠しましたということを伝えたときも、産休や育児休業については説明がなかったと。後日、出産手当金とか健康保険のことで派遣会社の厚生係に連絡をとったときに、初めて育児休業のことを知ったと。そこで要するに、じゃあ続けられるんだっていうことで続けるようになった。基本的に制度があるということを実は知らされていないがために継続を断念しているという人が、非正規の女性では少なからずいるというのが1つ目の事例です。

一方、正社員でも、実は中小企業では両立支援制度がまだ制度としてはないというところが珍しくないんですね。このことについてよく、中小というのは顔の見える関係だから、制度とか何だとか四角四面のことを言わなくても柔軟に対応しているんだということも一面としては言われるわけですけれども、10ページの、実際に従業員数60人の規模の会社で初めての育児休業取得者となったcさんは、やはり妊娠当時に産休・育児休業制度がなかったことを非常に不安だと言っていました。この会社は文字どおり求めがあったら応じるという形で、非常に柔軟な支援をしていたわけですけれども、従業員自らがこういうふうにやってくれと言えばやってくれるかもしれないけれども、言わなければそのまま。つまり、頼まれればやるけれど、頼まれなければやらないということは、先ほどの非正規の方、産休もないと思い込んでいたということと同じで、制度の情報が労働者側になければ、結局企業としては何もやってくれないということで、やはり非常に不安が大きかったと。つまり、きちんとした制度がある、ない、それがちゃんと周知されているということが今でもなおきちんと行われていないがために継続の見通しが非常に不透明だと、そういう報告でした。

一方、大企業の正社員については、育児休業制度がないということは調査の中ではなかったわけですけれども、実は育児休業があってもやめちゃいましたという人がいるんですね。それも少なからずいます。特にここで注目したいのが、11ページの、法定を上回る育児休業制度があるfさんの会社は、子供が3歳まで取得できる育児休業制度があって、実際に育児休業を取得しにくいということはなかった。つまり、育児休業という観点でいえば非常に恵まれた会社。でも、実際には結婚退職や出産退職する女性が多くて、子供がいる女性が少ないという、女性の離職率が高いという職場でした。その最たる要因が、このfさんの会社は空港で業務する会社でして、飛行機の始発から終便まで仕事をしますから、早番が朝6時から、遅番は夜10時半までという勤務体制と。この勤務時間が保育時間に対応していなかったということが、多くの女性が問題として感じていたこと。fさん自身もそのことがずっと気がかりで、実際に育児休業をとってみたけれどもやっぱり復職するのは難しいだろうということで、偶然別の会社に転職できるチャンスがあったので別の会社に今は勤めているという状況です。

先ほど、一個一個の制度があっても、それが要するにちゃんとプロセスとしてつながっていなかったらだめだという話をしましたけれども、まさに今まで育児休業制度については、我が社はこれだけ立派ですと言うと、まあ、一見すると非常にファミリー・フレンドリーで恵まれた会社のように見えますけれども、やっぱり別の部分で、個別の制度があってそれがちゃんと利用できるのももちろん大事なのですが、それ自体がいわば自己目的化して、育児休業制度の拡充に終始していたところで、別のところから女性がやめていくという事例です。

もう一方、先ほど言いましたけれども、妊娠期の体調とか意識の問題として、妊娠期の体調に対する周囲の無理解ということで、12ページのqさんはつわりの重さから退職したのですが、出産経験がなければ妊娠期の苦労はわからないと言います。その職場では計画を立てて仕事をしているため、体調が悪くて仕事ができないなら早く言ってほしいと通常は思うわけですが、本人はなるべく仕事をしたいと思うから連絡がぎりぎりになると。そういう意識のすれ違いの中から、自分自身いるのがつらくなってやめたという事例です。

一方、就業意識の問題としては、13ページにhさんの事例を載せていますが、hさんは非常に会社から期待されていた営業職でした。しかし、実際に妊娠・出産ということになったら残業や出張の多い仕事はできないと。会社としては、hさんにかつてのように活躍してほしいという思いから、営業に戻してまた頑張ってほしいという気持ちがあったわけですけれども、やはり子供ができたらそういう働き方はできないというhさんの、いわばかつては楽しかった仕事がそれを負担に感じてしまうという意識の変化がなかなか理解できずに、やめてしまったという事例です。

そういった意識のすれ違いが起きたり、あるいはなかなか、制度があっても別の部分で難しいというところの、何でそういうすれ違いが起きるのかというと、やはり企業として働き続けるという、その続けるところになかなか力点がなく、「育児休業をとりたいです、ああいいですよ」と、そういう個別の制度の利用に終始しているところが問題としてあります。14ページのgさんの会社もやはりそういう会社の一例でして、実際gさんの会社でも法定を上回る育児休業制度があったけれども女性の離職率は高い。従業員の声や要望を聞くような会議があって、そこで両立支援に関する要望も出ていたけれどもなかなか会社がそれを実現しないということで、継続が難しいという要因が温存されて、依然として多くの女性がやめるということで、会社としては、これだけ我が社は育児休業制度が充実しているんだからこれ以上何を望むんだという思いもあったのかもしれませんが、それが実際に継続するという女性の働き方に合っていなかったということで、やはり個別の制度の利用だけでなくて、働き続けるということに力点を置いた支援が大事であるということが第1章の知見からうかがえます。

第2章として、15ページですが、今度は企業が、じゃあこういった状況に対してどういう問題を感じているのかということでお話しします。まず企業調査の対象企業は、こちらも別添資料の1ページに企業調査対象一覧というのがありますけれども、結論からいいますと非常に両立支援に対して積極的な企業です。近年優秀な女性が退職するのはデメリットだと言われていますが、そういったことに非常にしっかりと認識を持って両立支援に取り組んでいる企業で、大企業では、いわゆる「くるみん」も取っています。そうした、いわば目的意識としてはしっかり持っているような企業が、じゃあ実際に現場でどういう問題意識を持っているのかというお話をこれからしていきます。

2番目として、出産・育児と勤務の実態に即した支援ということで、先ほど言いましたが、実際にその両立の実態に合っていなければ、個別の制度がいくら充実してもだめだということをやはり企業調査、これはD社が指摘してきたことなのですが、そういうことが報告されています。

一方、中小企業においては、先ほど中小企業でも制度がないと見通しが立てづらいというお話ししましたけれども、企業サイドから見ても、労務管理の負担軽減のために制度はちゃんとつくっておいたほうがいいと。個別にいろいろ言われたときに、その都度その都度というのは場当たり的になって管理するほうも困るという話がありました。

4番目として、そういった両立支援のノウハウというのが、中小企業においてはなかなか自社で開発して蓄積することは難しいというところで、外部の支援を積極的に利用しているような事例を少しお話ししたいと思います。

まず、先ほど言いましたが、個別の制度がいくら整っていても、それがちゃんと両立の実態に即していないとだめだということを先ほどから何回か言っていますけれども、そのことをまさに自社の経験から指摘していたのが16、17ページのD社です。D社は、両立支援の制度自体は法津に沿って整備し、法律を上回る取り組みをしてきたと。短時間勤務制度を小学校就学低学年までにするとか、制度の形としては非常に立派な制度をつくってきたんですね。その上で次世代法が施行されて、さらにその制度の上乗せということを考えていたわけですけれども、そういう意味で、当初は企業内託児所でもつくろうかと人事担当者は思っていたんですね。しかし、実際にどういう取り組みをするかを目的に開いた専門委員会で、今ある制度が利用しにくいということを女性従業員から聞いて、両立支援の発想を全部一から、大きな発想の転換があったと言っています。今ある制度がどうやったら利用できる、しやすくなるかという観点から聞いた話で、やはり管理職の理解がないとか、あるいはそういった制度がいろいろ個々バラバラにあって、手続だとか、何だか煩雑だということでガイドブックを作成したりということで、制度を利用しやすい職場づくりに取り組んだということです。

その具体例として、じゃあ、実際どういう問題が起きているのかを従業員から聞き取りして、出産・育児と勤務の実態に即した支援ということで、例えば当初は小学校に入る前までの短時間勤務があり、これ自体法律を上回っていたわけですけれども、小学校に入ったからこそ短時間勤務が必要だという意見を聞いて、子供が中学校に入るまでに拡大したと。あるいは夕方お店を閉めるのに、子供を背負って事業所の金庫を閉めていたという話、夕方の子供の預け先がないという声を聞いて、育児期は18時以降の就業を禁止するとか、これ自体、例えば子供が中学校に入るまでに拡大するとか、あるいは18時以降の就業禁止というのは法律に照らせば法を上回るような取り組みなんですけれど、ここで大事なのは法律を上回ることじゃないですね。現場で働いている人が実際どういう困難に直面しているかということにダイレクトに対応していくと、そういう方針でこういう制度改定を行いました。また、上司が妊娠期の女性の体調を理解していないという問題もありましたので、我が社にはこういう制度がありますよというガイドブックに、母体の状態やそのときの注意点、それから、職場で配慮できることということで、周囲の人がどのようにサポートしたらいいかということも記載して、それを一冊のガイドブックにまとめることで、妊娠・出産・育児のプロセスに沿って、これ一冊読めば、私実際一冊いただいて読んでみましたけれども、妊娠してから復職するまでどういう制度があって、何が使えるかというのが全部わかるようになっていると。そういうプロセスに沿ってガイドブックを作成して配布したところ、出産退職者が減って、両立支援、育児休業をとる人も増えた、短時間勤務を利用する人も増えているという状況です。そういう意味で、大企業ではもう既に制度自体は整っている。それが現場に合っているかどうかということが、今非常に大きな課題として指摘されています。

一方、中小企業では、これまでいわば要望があったら対応するという形で柔軟に対応してきたところをどうやって制度化するかに問題の力点があります。18ページのF社、これは従業員数120人ということで、今度の次世代法で行動計画策定が義務づけられるところですが、もう既にこの会社は次世代法の行動計画を策定しています。実際策定していろいろ取り組んでいく中で、やっぱり制度をつくっていないと管理する方も困るということを、人事担当者の方はおっしゃっていました。徐々に、徐々に、最初1人2人だったらいいですけれど、この会社、年間に数名程度育児休業をとる女性が出るような状況になってきますと、いろんな要望が従業員から来ると。それに一々個別に対応していたらもうきりがないということで、やはりみんなが不満を持たないように基準としての制度はつくっておくことが大事だとおっしゃっていました。

同じように、もう少し規模が小さい50人未満、48人ぐらいの従業員のH社でも、やはり急に女性が育児休業をとりたいと言われたら、何も予備知識がないと困ってしまうと。いわば女性の方が自分で調べてきて、何歳までとれるからこうだこうだと、これお願いしますと言われると、もう相手の言いなりになっちゃうと。そうじゃなくて、企業としてはちゃんとルールのもとで雇用管理をしていくということから、まずちゃんと制度をつくって、我が社にはこういう制度がありますよということをちゃんと用意していないとだめだという指摘がありました。

ただ、実際に育児休業制度をつくるとか、あるいは今度短時間勤務制度をつくると、そういうのは法律で規定されている範囲のことですから、社会保険労務士とか、そういう人たちのアドバイスを受けて、調査対象企業は就業規則の整備ということを進めているわけですけれども、やはり法を上回る部分でいろんな取り組みを推進していこうというところで、なかなか自社の中だけでそれを試行錯誤してやっていくのは難しいというところで、19ページですが、先ほど言いましたF社は、21世紀職業財団の職場風土改革コースというのを導入した。この21世紀職業財団がどうとかそういうことではなくて、外部の人に積極的に相談に行って、人事担当者が一人で進めるのでは難しいような部分でも、そういう外の担当者と定期的に相談しながらやったので非常に取り組みがスムーズにいったと。この会社では、ほかにも管理職研修の講師を県から派遣してもらったりということで、外部からの助言や情報提供というのを非常に積極的に活用しています。

そうした状況で、各社両立支援制度が実効性のある形で職場に定着するためにいろんな取り組みをやっているわけですけれども、やはり一つ大きな問題として挙がっているのが労働時間ですね。特にこれから短時間勤務制度が単独で義務化されて、短時間勤務制度を利用する人が本格的に増えてくることになったときに、どのようにその制度を運用するかは、各社の人事担当者の人が一つ大きな問題意識として持っていたことでした。

そのポイントは、20ページですが、何といっても短時間勤務制度利用者が早く退勤できる雰囲気をまずどうやってつくっていくかと。そのためには、まず長く働いた人が、長く働いていないとだめだと、そういう長時間労働を容認するような職場の規範をどのように変えていくかというのが一つ目のポイントとして挙げられていました。

もう一つ、短時間勤務でずうっと働き続けるということは、女性にとっても、自分のキャリア形成という部分でいえば、もうちょっと長く働きたいとか、そういうニーズというのは現にあるわけで、そういうときに、企業としても機械的にもうとにかく1日7時間粛々と働いていくということじゃなくて、柔軟に両立を図るために、きょうは少し長く働くとか、そのようなことができるためには、やはりそのベースとなる労働時間を短くするための残業削減に取り組んでいくことが大事だと指摘されていました。

まず1つ目、長時間労働を是正する職場の規範改革ということで、まずその雰囲気をどうするかについては、一番典型的な事例として、21ページでD社の話を取り上げます。D社では、7時間、6時間、5時間という3つの選択肢から勤務時間を選べる短時間勤務があるのですが、短時間勤務でも、仕事内容とか、評価基準はフルタイムの人と全く同じというふうな雇用管理をしています。非常にそういう意味では大ざっぱなのですが、そもそもあまり労働時間が長くなるような部署というのは本来であればないと。業務の性質上、例えば外回りの営業があって、それでどうしても遅くなるとかそういうことがないと。それでもかつては、短時間勤務なのにフルタイムの人よりも下手すれば長時間働いているというようなことが現にあって、長時間労働ということが問題としてありましたと。しかし、次世代法の行動計画を期に残業削減に取り組むようになった。そこで一つポイントとして上がったのが、先ほど言いましたけれども、管理職の意識改革ですね。管理職に、長く働いたから偉いというわけじゃないと言うことが一つあるんですけれども、言うだけじゃだめで、それを評価に反映すると。この会社では、勤務評価の中で目標管理制度を導入しているのですが、目標を達成できたかどうかということだけじゃなくて、仕事の進め方にムダがなかったかどうかも見ている。さらに、それを全社員に公開しているということなんですね。そこで、要するに長い時間働いたから高い評価を受けているわけじゃない、短い時間でもきちんと成果が挙がっていればちゃんと評価されるということを全社的に見せることで、長時間働いたかからたくさん残業して、たくさん成果を上げたという人はいわばあまり評価されないと。そういうような取り組みをすることで、なるべく早く仕事を切り上げて帰るという風土づくりに取り組んでいます。

そういうふうに雰囲気を変えていくということは、ほかの会社も指摘していたことなのですが、それでもやはりどうしても業務の性質上残業しなきゃいけないということが必然的に起きるという状況について、具体的にどこが残業を生み出しているのかを明らかにして、長時間労働、残業削減に取り組んでいた事例として、22ページで、簡単ですがJ社、B社、H社のお話をちょっと紹介します。J社はソフトウェア開発のIT企業です。一般的に非常に長時間労働、徹夜は当たり前みたいな風土があるようで、周囲の会社ではもう納期の間際になると3日でも4日でも徹夜をすると。実はほかの同様の業種で別の企業に勤務している女性にもお話を聞いたのですが、そこでもやはり、もうとにかく終電当たり前、徹夜も当たり前というような職場だったというふうなお話をしています。しかし、このJ社ではそういうことはほとんどないと言っています。それは何かというと、作業のスケジュール管理をもう徹底して、前倒し、前倒しで作業を進めていくということを、ここの会社のJ社の方はもう徹底していて、今やらなきゃいけないことを後々に先延ばしするから後で徹夜することになるんだということで、とにかくスケジュール管理を徹底するということをおっしゃっていました。

B社では、やらなくていい仕事が会社の中に結構あると。特に会議とか打ち合わせとかで資料をつくると。B社では、こういう会議のための資料をつくらない、全部口頭で説明するということで、資料作成とか打ち合わせ、これについても、例えば事前にどういう発表するのかちょっと聞かせろと上司に呼ばれて話す、そういうことが事前打ち合わせとか何とか打ち合わせとか称していろいろあるのを全部やめ、一発勝負で口頭だけでやるということで不要な業務を洗い出して、残業を実質的に削減しています。

もう一つは、H社が言っていたことで、非常に象徴的なのですが、ほかの会社でもそうですが、長時間労働というのはくせになるんですよね。一日12時間働くのが当たり前だと12時間のペースで働くようになって、そうすると、昼間でも何かにつけてお茶飲んで、何かにつけて立ち話して、どうせきょうも8時9時までいるんだからいいやみたいな、そういう感じになっていくということで、それはだめだということで、これを「ダラダラ残業」というふうに書いていますけれども、長時間労働の癖をつけないということで、一人一人呼び出して、働き方、所定労働時間でしっかりと働くようにしたということです。

こういった個々別々、これが要するに一般化できてどうこうということではなくて、ただ早く帰りましょう、我が社はきょうはノー残業デーだから早く帰ってくださいねということも大事ですけれども、具体的に労働時間がどこで長くなっているのかを、現場の働き方をよく見て、その要因を取り除いていくことに、各社取り組んでいました。

第4章で、そういったことで、女性がまず働きやすい職場づくりについて、各社いろいろ問題意識を持って取り組んでいるわけですが、一方で、働きやすいだけじゃだめなんですね。働きがいがないと、やはり女性は働き続けたいと思えないということで、女性の活用と就業継続ということで、企業が今度女性の長期的活用の面でどういうことを考えているのかを、第4章ではまとめています。

23ページですが、ポイントとしましては、企業にとっては、今企業の競争力強化という観点から女性の活用が非常に大事になると。これは女性だということを言っている企業もありますけれど、もっと言えば、雇用した人をなるべくやめずに長く働いてもらわないと困ると。採用コストとか、いろんな人件費管理をいろいろタイトに考えれば考えるほど、雇用した人は、男女かかわらず、途中で何かあったからやめてしまうということではなくて、なるべく長く続けてもらうというふうな問題意識を持っています。今回就業継続支援という話をしていますけれども、企業の人事担当者の方は、継続支援とかってあまり言わないんですね、退職防止という言い方をしています。つまり、やめられたら困るということから、女性についても積極的に活用していくというスタンスでした。

その中で、何といっても女性の職域拡大に取り組むことでやりがいのある職場をつくっていこうということがあるのですが、一方で、先ほど言いましたとおり、例えば、常に均等を推進しても男性と同じように働くことはきついという女性も中にはいます。そういう女性にも長く働いてもらう、戦力として活用していくというところから、またもう一歩踏み込んだ取り組みをしていました。それが何かというと、女性の従業員の意見や要望を踏まえた雇用管理ということが、いろんな企業が指摘していた一つの大きなポイントです。

その典型的な事例として、ここでは24から26ページにB社、従業員5,000人程度の銀行ですが、銀行の事例が非常に典型的だったのでご紹介したいと思います。実は、B社というのは今でこそ非常に両立支援に積極的ですが、もともとはそんなに積極的ではない企業でした。2005年ごろまで両立支援は法律どおり、法律以上のことも以下のこともしない、とりたてて女性がやめるということに対してもそんなに問題意識がなかった。続けたい人は続けてください、やめたい人は、まあそれなりにと、そういうスタンスだったそうです。ですけれども、2006年に初めて職員意識調査を、従業員が何を考えているのかという意識調査を行った結果、女性のモチベーションが相対的に低いと。特に正社員の女性の就業意欲が非正規のパートタイマーよりも低い。つまり、女性が非常にモラルダウンしているということが明らかになりました。ちょっと見ていただきたいのですが、2005年から2006年ということは、もう次世代法が施行されています。次世代法も、当初は厚生労働省が言うとおりのことだけやって終わらせようという感じだったようですが、この職員意識調査をきっかけに経営陣が非常に強い危機感を持つようになりました。銀行というのはちょっと一般消費材を販売する企業とは違うのですが、やはり来店する顧客に女性が多いということで、女性をもっと活用しないと企業として経営上非常に大変なことになるという経営判断があって、女性の就業意欲をいかにして高めるかということで、頭取の諮問機関として女性の活躍を推進するための協議会を設置して、人事部門と、実際に現場で働いている女性とでどういう取り組みをするかということを話し合いました。そこで、どうせ働き続けても男性よりも下に見られるとか、子供が生まれたらどうせやめるんだからそんなに頑張ってもしようがないとか、そういう意見が実際に出て、両立支援と女性の活躍の推進ということを二本柱に取り組みを始めた。もう既に均等法が施行されて20年ぐらいたっているような状況で、初めて経営上の判断として、そういう問題意識を持ったということです。

このB社の事例でも非常に興味深いのが、現場の女性の声をしっかりと聞いているということなんですね。例えば両立支援については、退職した人が再雇用で戻ってくるということも選択肢としてはあるのではということで議論になったそうなのですが、原則としてはやめさせたら意味がないという声が女性から上がったので、やめても戻って来れるではなくて、やめないということを原則にして両立支援の拡充を図ったということです。

また、女性のやりがいを高めるために均等法の推進にも取り組んで、実際にいろんな均等の取り組みをする中で、基本となるのはやはり女性の職域拡大、男性がやっていたような仕事に女性を配置するということと、管理職登用を積極的に推進するということで、いわゆる均等の基本的な施策を行ってきた。しかし、管理職を目指している女性はそれでやる気が出たのですが、そうじゃない女性には、「それは自分たちには関係ないでしょう」と言われて、それから、女性のキャリアというものをいわば単線的に、男性と同じように考えるのではなくて、もっと柔軟に働けるようなキャリアの仕組みを考えて、むしろ男性でも、例えば転居・転勤がない働き方を一時的に選べるとか、多様なキャリアをつくっていくということを、女性の問題からもう一歩掘り下げて男性にも拡大していく。男性に合わせていくというよりも、女性のニーズをしっかり酌み取って、そこに応えてていくという取り組みをしてきました。

そういう意味で、非常に女性を活用していくということで、各社いろんな事例からうかがえることは、企業としてこういうことを、こういうふうに女性を活用したいという期待があっても、それが一方的に思いを寄せるだけではなかなかうまくいかない。実際に対話をしながら、実際に女性がどう思っているのか、また、企業としては女性にどのように働いてほしいのか、そのやりとりの中でその取り組みを進めていくことが、どうも実効性を高めるために重要ではないかということが見えてきました。

そういうことで、第5章では、職場のコミュニケーションを通じた就業継続支援の課題ということで、コミュニケーションの問題を取り上げています。27ページですが、そのポイントとしては、女性がどういう働き方を望んでいるかというニーズを把握するために意見聴取や相談受け付けの仕組みをつくるということと、もう一つが、どうしてもそういうふうに企業サイドから女性に働きかけてもなかなか見えてこない部分というのがあるんですね。そこを強化するために、従業員の横のつながりということを多くの企業がこれからの課題として、重要なポイントとして挙げています。そのためには、一つとして、労働組合がもっと活躍できる余地があるだろうとか、あるいは職場の先輩とか同僚の関係ですね、ロールモデルやメンターといった相談相手をつくって、何でもかんでも企業が、まあ、企業がというよりも経営側が対応するというよりも、その横の関係をつくっていくことがこれからは大事だろうと指摘されていました。

例えば意見聴取や相談受け付けとしては、大企業では、先ほど言いましたアンケート調査をやったりとか、あるいは人事の面接が定期的に行われているということがありましたが、中小でも、例えば両立支援を拡充したい、あるいは残業を削減したいと、個別に課題が明確にあるときには、そのテーマを絞ってきちんとコミュニケーションをとることが大事だということを、28ページのH社の事例から、H社は報告していました。ふだん何げなく話をしているから何となくお互いわかっているように見えるけれども、実際にこの点についてあなたはどう思っているんだというような話の機会というのはしっかりと持たなきゃいけないと。このH社も次世代法の行動計画を策定していますけれども、男性の育児休業取得以外は、ほぼ「くるみん」の基準を満たす実績を出しています。その背景として、両立支援とか労働時間について、ふだん話しているからわかっているとなあなあにしないで、ちゃんとコミュニケーションをとったということがあったようです。

そういう労使のコミュニケーションをしっかりとっていくという中で、労働組合の活動というのが非常に重要なアクターになるということを指摘したのが29から30ページにあるD社です。D社は、もともとそんなに女性の活躍に積極的だったほうではなかったんですね。ただ、今に至るような、先ほど報告しましたような取り組みは、実は労働組合のほうから要求して経営側に働きかけたという経緯があります。その労働組合も、もともとは男性中心的な組合で、かつての育児休業法改正とか均等法改正のときには実は何もしていなかった。ただ、2004年に執行部がかわって、実は女性が副委員長になってから雰囲気ががらっと変わった。委員長も割と女性の活躍に積極的な男性で、そこから組合が女性従業員のニーズを掘り起こして経営側に要求していくということで両立支援の拡充を進めていったという経緯があります。

このD社の取り組みでおもしろいのは、春闘で毎年どういうことを中心に置くかというテーマを決めているという点です。どうしても組合の要求事項というのは、総論的で、みんなが要求すること、そうすると大体賃金とか、そういうことになるわけですけれども、例えばワーク・ライフ・バランスのトピックって、このD社では、その後にメンタルヘルスとか健康問題ということもテーマに挙げていましたけれども、望んでいる人が多くはないけれども、一部の人にとって切実な問題をどう拾い上げるかということを非常に重視していまして、そういう要求がどんどんどんどん組合から上がってくるので、経営側としても非常に組合を信頼していると、そういう労使関係をつくっている事例です。その組合活動の基本的な方針として、先ほど言いましたように、やっぱり従業員同士のつながりをどうつくるかですね。組合の執行部として、従業員がどういうことで悩んでいるかをしっかりと把握していく、そういうことをお互いケアし合う、そういうつながりをつくっていくことを組合活動の基本方針として重視しているということでした。

そういうことで、やはり従業員の横のつながりが大事だということを、いろんな人が調査の中で指摘していまして、例えば31ページのaさんという、これはC社の銀行に勤めている人ですけれども、いろんな制度があるけれども、やはり子育てと仕事の両立に悩む社員の相談相手を会社としては紹介してあげたらいいということを、会社に対するニーズとして言っていたんですね。本当はやめたくないのに悩みを口に出さずに心にしまったままやめちゃうという人が現にいると。つまり、何か言える人はまだいいんですね。自分の中で何かを抱えて、それを会社の人事の相談窓口とか、そういうところだとちょっと大げさで言いにくいというときに、何か先輩が相談に乗れるような仕組みがあったらいいんじゃないかとか、あるいはF社の人事担当者は、企業からこういうふうにしましょうと、要するに上から言うということも大事だけれど、横からこういうふうに制度を利用して、こういうふうに両立していきましょうという、まあ、お手本となるような女性をつくっていくことが、円滑に両立支援を運用するためには大事だというようなことを指摘していました。

ということで、個別の事例の話、非常に散漫なお話になってしまった部分がありますけれども、平成21年度に明らかになったヒアリング調査の結果として、今後の課題として見えてきたことは、32ページにありますが、先ほど最初に言いました個別の制度の利用に終始するのではなくて、妊娠、出産、育児というプロセスの中で働き続けるという、そのプロセスをトータルに支援するという制度の整備。それを一個一個そのときになったら利用できるとか、そういうことではなくて、情報としてきちんと体系化して労働者に提供するということ。

2番目として、何といっても今大きな課題は、復職後の両立ということでいえば、長時間労働の是正と、あるいは保育時間への対応と、この二本の原則で短時間勤務制度の定着を図るということが目下の課題であると。

3番目としては、そういった制度を利用して働き続けたいと思えるような職場をつくるために、女性の意見やニーズを踏まえた雇用管理をすることで働き続けたいと思う職場をつくるということ。そういうことの重要性を、多くの企業が最初から認識していたわけじゃない。ただ、アンケート調査をしてみたらわかった、組合から要求が来てみてわかった、そこで初めて気づいて、この問題の重要性を認識して取り組むようになっていると。そういうきっかけをいろんなところからつくっていくということで、今非常に企業経営にとって両立支援はメリットだという、そのメリットを認識して積極的にやっている企業もありますけれども、まだまだそこの、大事だろうけれど、ちょっとまだぴんとこないという企業さんもまだ少なくないようですので、そのぴんとこないところを、ぴんとくるようなきっかけをつくっていくということで取り組みを深めていくことが今後の課題ではないかと思います。

少し長くなりましたが、以上です。

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