議事録:第14回 旧・JIL労働政策フォーラム
不良債権処理と雇用
~不良債権処理に伴う雇用再生の課題にどう取り組むか~
(2003年5月28日) 


(所属はフォーラム開催当時)

講師

齋藤 誠 一橋大学教授

古賀茂明 (株)産業再生機構執行役員・企画調整室長

須賀恭孝 連合経済政策局長

姉崎 猛 厚生労働省職業安定局雇用政策課長

伊藤 実 日本労働研究機構副統括研究員


問題提起(伊藤実・日本労働研究機構副統括研究員)

産業再生と雇用

私どもはふだん雇用がどうなっているのかという問題を扱っているわけですが、本日のフォーラムは、私どものフォーラムとしては、今までとは少しトーンが違いますが、産業再生と雇用というテーマです。雇用に産業再生が絡んでくるというスキームはおそらく日本でもこれまであまり経験がないわけですが、本日は、特に新設された産業再生機構から、古賀室長をお招きしこのテーマを取り上げたいと思います。企業倒産に伴って一番残念なのは、技術と人材が散逸してしまうということです。せっかく、ある一つのパッケージで、人材と技術が一緒になって経済活動していたのが、全部崩壊して散り散りになってしまうと、人的資源がほとんど有効活用されないという結果が生じます。この時思いますのが、全部が生き延びられないまでも、少しは何とかならないものかということです。とりわけバブル景気の80年代の日本の企業社会というのは大変な水膨れをし、経営の多角化と称して本業に関係のない負の財産を背負ってしまいました。企業経営の危機の元凶というのは、ほとんどが多角化に伴って本業とあまり関係ないところに手を出したことによるものです。ところが他方で、意外と本業は競争力がまだ残っているというケースが多いのも事実で、従来のような延命をはかるというのとは全く違うスキームで、ぜひ何とかそれを日本全体で維持していくというような枠組みを創ることはできないだろうか。こういった問題を念頭に議論を展開していただければ思います。


コメント

不良債権が雇用に与える影響 齋藤 誠 一橋大学教授

私は不良債権という、一義的には財務的、金融的なプロセスの中でどういうことが起きていて、これが雇用、離職ということにどのように影響を与えているかということについて述べていきたいと思います。

この問題は、伊藤さんからもご指摘がありましたように、通常の不景気の中で生じる失業の問題とはかなり違う性格を持っております。労働市場に対して政策的な展開があるとすれば、そうした性格の違いをきっちり押さえた上で考えなくてはならないのではと思います。

(1)財務リストラ

それでは「不良債権処理と雇用」ということをご説明させて頂きます。不良債権処理というのは、基本的には3つの側面があります。まず財務リストラについてです。株主は企業に対して出資という形で参加しており、銀行や社債保有者というのは債権者として資金提供に当たっています。その企業への負債サイドにさまざまな資金提供者がいて、資産サイドの価値が大幅に減価したときに、財務リストラというのは、その負債に対して債務が不足している部分のロスを、どのように既存の債権者や出資者の間でシェアリングしていくのかという側面があります。

(2)事業リストラ

その次のステージは事業リストラです。資産サイドで、残った事業についてできるだけ採算性の高い事業を選び出していって、もしくはその企業で新たに新規事業ができるものについて、プロジェクトを選択、発掘していきます。財務リストラの結果として財務体質はシェイプアップしますから、そのもとで新たな出資者や新たな債権者が、ニューマネーを新しいプロジェクトに提供していくということになります。ですから事業リストラをやっていくためには、同時に大前提として財務リストラをやっておかなくてはいけないということが言えるわけです。企業金融論でいうデッドオーバーハングが生じてしまうと、いくら企業の中にいいプロジェクトがあったとしても、なかなかニューマネーが外から入ってこれないという状況になります。というのは、新規の資金提供者が資金を出しても、そこから上がってくる上がりについては、既存の債権者や出資者が取ってしまうということになると、新規の人たちに入ってくる分け前がなくなり、そうすると、そもそもそんなものには手を出さないということになりますから、財務リストラで既存の債権者や出資者の方に、きっちりロスの確定をしておかないと、新たな出資者や債権者が現れないということになるわけです。新たなマネーが入ってくることを契機に、採算事業の拡張、もしくは新規事業への投下という資源の投入が行われます。

(3)労務リストラ

三番目が労務リストラです。企業の主要な資本は、物的資本と同時に人的資本であるわけですが、その中で既存の事業を整理・縮小していくと、そこと結びついていた雇用規模の再調整ということが行われなくてはいけません。採算事業と不採算事業の切り分けということを考えていくと、その結果として、人材の再配置ということが起きてきます。それで不幸にして規模の縮小の中で、その企業から離職者が出てくるということも、これは当然ながら起きてきます。

(4)清算と雇用

財務リストラ、事業リストラ、労務リストラということが、その3面として存在するのですが、その場合、不良債権処理、事業再生といった場合にも、非常に異なった局面での不良債権処理があり得ます。一つは清算という形ですが、その場合は、企業の主たる業務の収益が、その企業を存続させるための減価償却をとても賄うことができないタイプの企業です。これはもう完全にその市場で競争力を失っているわけですから、こういう場合は清算型の処理ということで、既存の保有資産の清算を行い、それで出資者や債権者の方に残余資産の配分という処理を行います。もう一つ重要なことは、これは先ほど伊藤さんが指摘されたように、企業全部がだめになっているというケースは実はあまり多くはないのです。余分な事業を抱え込んでしまったために、その企業がどうも立ち行かなくなったというケースがほとんどで、この場合、採算事業と不採算事業をうまく切り分けて、不採算事業については事業のリストラをし、かつ採算事業の育成や新規事業の発掘をしていけば、その企業から出てくる減価償却を上回る収益が発生する場合には、この部分に関してわざわざ清算をする必要はなく、そこについては継続を前提に再生を図っていけばいいわけです。そのとき同時に、実際のロスが出ていますから、その部分については基本的に出資者、債権者の間でロスを負担する枠組みを、さまざま金融技術を駆使して行っていくということになります。

(5)再生後の企業

往々にしてこうした再生プロセスを経ていくと、その再生プロセスを経た企業というのは財務上、非常に身軽になります。債務が圧縮され、新たな出資者が出てきますから身軽になるわけです。そしてしばしば、身軽になった企業がマーケットに入ってくると、マーケットで過剰競争が起きてしまうのではないかと言われるのですが、実際に企業再生のダイナミズムを見てみると、身軽になった企業というのは、その業界のリーダーとなる企業にとっては、非常に重要な買収対象先になっていくようです。つまり、買いやすいということです。買いやすく、かつその企業の中に収益プロジェクトがあるのであれば、それを買い取っていけば、その企業の前の株主にとってもいいことですし、新たなリーダーとしてさらにマーケットを充実していくことができます。ですから、企業の再生ということは、往々にして産業の再編成につながることが多くあります。こうして見てくると、不良債権処理の本質というのは、企業単位でものを見ていくのではなくて、企業はある種、事業の集合体として考えて、その中でいい事業を選択していく、悪い事業を処理していくものではないかと思うわけです。同時に、もとの企業が存続するということはあまり重要なことではなくて、生かされた事業がうまく活用できるような企業環境を新たに模索していくということです。

(6)金融側面の不良債権処理

こうした見方が、基本的には金融サイドから不良債権処理を見ていくということです。ここは非常に大きな視点の移動があって、今まで企業金融というとまさに企業に対する金融ということだったのですが、不良債権処理というと、企業の位置づけのウエィトが非常に低くなって、企業の構成している事業というものに対してどういう融資をつけるかということと、企業を乗り越えてしまって、産業の中でどう再編をしていくかということが、金融マーケットから見ても非常に重要になってきます。私は、労働経済学者から見ると門外漢なので、お叱りを受けるかもしれませんが、ここで私が申し上げたいことは、労働市場の労務リストラの方で出てくる調整についても、企業の位置付けをやや相対化していくということが重要ではないか。つまり、今まで雇用対策というと、企業を通してさまざまな政策的な支援をしていくということが非常に重要な契機だったわけですが、そうではなくて、離職せざるを得なかった人の、人的資本の有効な活用ということでは、離職者個人に帰属する形での政策の援護みたいなことが必要ではないかということを、少しお話ししたいと思っています。

先ほど言ったように、事業再生というのは非常にダイナミックな側面を持っています。確かにダークサイドを見てしまうと、雇用リストラ、財務リストラで、銀行は債権放棄をせざるを得なくなって、多額の償却をしなくてはいけなくなる、或いは労働者は、労務リストラで離職せざるを得なくなるということがあります。一方で、こうしたプロセスをできるだけ円滑にしていくためのさまざまな技術や仕組みを活用していくことにより、債務過剰、雇用過剰の中でどうしても生かすことができなかったプロジェクトを、整理整頓していく中で活性化していく、そしてそういう生きた人の使い方、生きた資本の使い方に関してはニューマネーを投入していくという側面があります。もちろんそのためには、もしかすると不良債権に陥るための大きな理由として、経営者が適切な判断をしていなかったということもありますから、その再生のプロセスの中では経営陣の入れ替えとかということで、コーポレートガバナンスの組替えみたいなことも起きてくるわけです。

同時に、さらに大きなダイナミックな動きとしては、先ほど申し上げたように、企業というものが相対化されて、産業の中で企業自体の再編成が起きてしまうということです。ここで、生産型の雇用調整については、少し後から共通する課題として申し上げたいのですが、先ほど言ったように、不良債権処理には再生型の処理というものがあります。そういった点で、事業が再生していく、産業が再編成されていくといったときに、雇用のマーケットでどういうことを考えておけば良いかということを、離職者全般に対する政策の前にコメントをしたいと思います。

まず、財務リストラと労務リストラを加えた場合、財務リストラについては、これはその企業にお金を出すということに関しては、何らかの形でその企業の信用リスクを引き受けているわけですし、そのために、投資の失敗という形で不良債権の顕在化が起きるということに関して言及すると、財務側はかなり、資金を出している側の責任とかロスの確定ということは、ある程度明確な形になっているわけです。倒産という処理はまさにそのことを体現したものなのですが、そういう性格上、経営者とか債権者とか出資者というのは、そうした財務上の責任で、その裏側に損失を引き受けざるを得ないという側面があります。ただ従業員の方は、なかなかそういう責任を引き受けろと言われても、本来そういうもので企業に貢献していたわけではないですから、その面では財務リストラと労務リストラというのは本質的に異なっています。

例えば、こうした中でかつ労務リストラを進めなくてはいけない、ただ、労務リストラを進めていけば、企業の特定のプロジェクトが再生されて、実は企業の再生が可能であるという枠組みがあったときに、労務リストラの中で、離職者に対しての損失をすべてしわ寄せとして押し付けていくというやり方が、今のところ大勢だと思うのです。そうではない方法として、例えば、リストラ後の再生の果実に対して、離職者も含めて再生果実の配分といったようなことを考えていくような仕組みも入れておけば、単に従業員に対して経営責任のしわ寄せをこうむらすというよりも、辞めていく人にとっても、辞めていくという結果において生まれてくる企業再生の価値への請求権のようなものを付与していくということを、特に再生型の処理については考えてもいいのではないかと思います。例えば、特に大手の企業で起きることだと思いますが、辞めていったら、その後その企業に対しての株式の購入権みたいなものを与えておいて、その企業が再生してくれば、割安な値段でその株を買うことができるということになると、再生果実の配分を旧従業員の方にも配分することができる。それと、もう少し直接的なことは、再雇用権を優先的に離職者、その企業から辞めてきた人たちに与えとくということも、再生型の処理にとっては重要ではないかと思います。再生型の処理の場合、労務リストラで、従業員に対して経営失敗のしわ寄せを一方的に押しつけるのではなくて、どちらかというと、その部分を、再生果実の配分ということで和らげるようなことを考えていってもいいのではないかと思うのです。

(7)産業再編型の処理と雇用

産業再編型の処理と雇用ということに関して言うと、企業体というのは労働者とさまざまな契約を、賃金だけではなく、福利厚生についても結んでいるわけですが、企業が再編される、或いは合体するということは、そうした雇用契約も再交渉するということですので、制度的な整備として賃金や福利厚生、処遇、企業年金等について、企業の再編成があったときにも円滑な移行ができるような仕組みをつくっておいた方がいいと思います。もし、ここの部分にあまりにコストがかかるとなると、既存の企業の従業員を引き受けて再編していくよりも、新たに新規の従業員を雇ったほうがいいということにもなりかねませんので、こうした形で制度的な整備が必要になってくるのだと思います。さらに一般的に、不良債権に伴う離職者に対しての政策としては、いわゆる積極的雇用政策という範疇で、転職支援とか職業訓練とか、もしくは一時的に公的サービス部門で雇用を創出してやるというようなことが重要になってくると思います。転職支援とか職業訓練は、多分この後もいろいろと議論が出てくると思いますが、公的部門の雇用創出が、実は不良債権の進行とともに比較的重要だと思われるのは、不良債権処理が進行している産業分野というのは、政策的な規制監督の必要性が非常に高い分野なので、ここの部分でうまく調整をしていくと、公的部門、サービス部門の人材を、そうした不良債権処理の当該産業の労働者が移転しやすい状況をつくります。一つ可能性があるのは、例えば金融行政というのはそういう側面があって、銀行は色々とリストラを行っていますが、一方で、金融庁をはじめとして、もしくは地方の財務局等で監督業務の仕事が膨大になっています。そこでは、金融業で知り得たノウハウとかというのは、積極的に活用していくことができるわけです。そういうようなところでの雇用創出みたいなことを考えてもいいのかなという気がします。

雇用対策に関する論点として、企業に対する補助金と離職者個人に対する補助金という2つの側面があるのですが、企業に対しては、これは多分、今日のシンポジウムでもとりあげられております政策的枠組みとしての、不良債権処理就業支援特別補助金とか地域雇用受け皿事業特別奨励金という形です。これは議論を割愛させていただき、離職者個人の方に少し力点を置いてお話します。実は、労働経済学の実証論文を、読んでみますと、比較的、人的資本への貢献度の高い雇用対策として、職業訓練とか、もしくは職業紹介サービスの充実という点が非常にうまくマッチングをもたらしますから、非常に良いということがわかるわけです。ですから、転職に対する情報の提供とか、職業訓練の奨励金等の補助、これは個人に帰属するものです。

それと、特に大きな企業の中での不良債権処理ということを考えると、40代後半から50代の方々の雇用対策という面では、彼らが抱えている教育費負担とか、住宅ローン負担とかということも、これも思い切って考えたほうがいいと思います。例えば、何か不良債権の処理のあった事業所が指定されている先の、従業員の子弟に対しての奨学金の充実だとか、もしくは住宅ローンというのは、これまで住宅新規建設の促進策としての面が強かったのですが、そうした離職者が抱えている住宅ローンに対する利子補給等の優遇とかということを考えていくのと同時に、今まで家計の資産形成システムが、どちらかというと企業の福利厚生の中に位置づけられていたのを、もう少し柔軟に企業年金制度だとか個人年金制度の方に移行させていって、家計や個人が資産形成の部分でも自立していくようなことというのは、実は離職に強い、頑健な社会をつくっていく上では重要ではないかと思います。

まとめをさせていただくと、企業の役割はある程度ウエートを下げて、従業員個人に立脚したような形での政策の援助というのはどうしても必要になってくると同時に、再生型や再編型のものについては、再生、再編して出てくる便益に関して、離職していく人にとっても何か利益の請求権みたいなものを付与していくということが、円滑な合意形成にとっては望ましいのではないかということです。以上です。


事業再生はスピード重視 古賀茂明 (株)産業再生機構執行役員・企画調整室長

私の方は、産業再生機構は何をやっているのかということをお話しすることを中心にして、その中で、今、齊藤先生からも色々ヒントをいただきましたので、その部分で少し雇用という問題にも触れられればという感じです。

産業再生機構のパンフレットには「産業再生機構は事業再生への取り組みを積極的にバックアップすることによって」というところがあるのですが、まさに、私どもの視点は、企業というよりも事業という視点で考えておりまして、先ほど齊藤先生がおっしゃられたところと軌を一にしているのかなというふうに思っております。これは去年の秋からずっと議論を重ねてきた結論として、企業再生ということよりも事業再生という単位で考えて、もちろん法律的には企業というのは無視できない存在ですし、社会的な存在としても企業というのはある種生き物のようなものとして扱っていかなければならないわけですけれども、ただやはり基本に据えるのは事業単位ではないかというふうに、私どもは考えているわけです。

先ほどからお話が出ていますとおり、債務者企業、事業者の中には、本業の部分では、(何が本業かというのはまた議論があるわけですけれども、とりあえず本業と言っておきますが)、ある程度いいものがある、競争力を維持していけるような事業を持っている。しかしながら何らかの原因で過剰な債務というのを負っていて、それが足かせになって、このままほうっておくと多分本業のところもだめになってしまうだろうなというような企業があって、そういう企業というのは、もちろん本来は、マーケットで普通にいろんな形で改革が行われて、また健全な企業に戻っていくというのが最も望ましい姿なのですけれども、今、日本でそういうふうになっているかというと、なかなかそういうメカニズムがうまく働いていないという状況があります。

その中でも特に、いろいろ関係者から聞いてみますと、この会社を何とかしなくてはいけないというのはみんな思っている。では、やはり多少それぞれみんなが負担して、ロスシェアという言葉がありましたけれども、そういうことをしてやらなくてはいけないと、そういう総論では皆判っているわけですが、債権者の数が比較的多くて、その間で色々な利害関係、あるいは過去のしがらみとか、あるいはその会社の経営陣の中のいろいろな思惑とかいろいろなものがあって、動かすべきだけれども動かないという案件が、非常にたくさんあるということです。

非常にたくさんあるというのは、我々がそう思っているというのではなくて、世界中のマーケットから見てそういうふうに思われているわけです。これだけ不良債権があって、そういう案件がないはずがないということで、数年前から外資も日本にたくさん入ってきて、企業再生ファンドというのをたくさんつくりました。兆円単位で枠をつくったのですが、いざやってみたら、最初は幾つか出たのですが、最近ほとんど動かないという状況になっています。去年の春ぐらいには、お金だけ用意したけど何も動かないからこれは商売にならない、もうやめようかというぐらいの感じに、実はなっていたという状況でした。それで、そこを何とか、本来動くべきものを動かそうということで、機構は何をやるかというと、一番大きいのは関係者の間を調整するということです。調整するというのは、単に債権を幾らで売るか買うかとかそういう話だけではなく、まさに事業をどうやって再生していくのかということについての調整を行うというのが本旨であります。

したがって、ややこれは不良債権処理と結びつけて語られるものですから、何となく債権を幾らカットするかという調整をやるのだというふうに思われがちです。そのときにその債権を幾らで買ってやるのかというところがポイントなのだというふうにとらえられて、高値買いをするのかしないのかとか、実質薄価で買うのか買わないのかとか、そういうことばかりクローズアップされる帰来があります。しかし本来、一番重要なことは、採算部門と不採算部門をよく見きわめていくというのが、第一の作業だろうというふうに考えております。

つまり、産業側あるいは事業側からまず、その会社を見てみる。借金が幾らあって、幾らずつ返さなくてはならないのだが、今、利益がこれしか出ていないから、では幾ら借金を棒引きにすればいいんだろうという、そこから入るというのではなくて、まず、事業をよく見るということから入ります。その中で、これはコアのビジネスとしてやっていけそうだと見極めるとともに、逆にこの部門はやっていてもしようがない、あるいはもう完全に腐りきっているという部分は切り捨てます。特に不動産を保有しているような場合、これはもうとにかく損切りするしかないというような部分とか、色々なものが入っていますので、それを整理するということです。

それで、その採算部門を中心にしたコアの部門で、今後どれだけキャッシュフローが生まれるのかということを把握する。これは当然のことながら、単にコストをカットして不採算部門を切り捨てて、設備投資等もあまりしないで、償却負担を小さくし、縮小均衡にとりあえず持っていって春が来るのを待つというやり方もあるわけですが、そういうことではなく、やはりその事業として発展性のある形での絵をかいてみるということです。その中からどれだけキャッシュフローが出てくるのか、逆にそれを実現するためには、どれだけ新しいことが必要なのかということを見てみて、全体のキャッシュフローの計画を立ててみることが必要です。

それを現在価値に割り引いていくというようなことが行われるわけですが、その結果として、資産サイドのほうを事業レベルで見てどういうふうに評価できるのかというのをやって、それを前提にそういう計画をつくったとして、事業を前提として負担できるぎりぎりの債務というのはどれぐらいなのかなという試算を行う。これは、新しい資金を調達しなければいけませんから、基本的には債務超過であってはもちろんいけませんし、ある程度、この会社なら新しく投資しようとかあるいは融資をしようというふうに見てもらえるようなところまで持っていくというのが理想です。もちろん、そこはぎりぎりのところで判断をするわけですが。

どれだけ債務を負っていてもいいのかというところで、多くの場合はそれを超える負債を現在抱えているということになりますので、そこの部分は、何とかしてカットしてもらいましょうということです。これは、銀行にそれぞれ負担をしてもらうということを考えるわけです。そういう全体の計画と、それに伴う債務免除のロスシェアのあり方、それから、そのうち特に非メイン行は、もうそんなところとはつき合いたくないという話が出てきますので、そういう場合には産業再生機構がその債権を買い取るというようなことまで含めて、全体を一つのパッケージとして調整を行う。これが最大の機能です。

そこで、なかなかふだん動かないのに、何で産業再生機構がやるとできるのかというご疑問もあると思いますけれど、最大のポイントは、公的性格を持った中立的な第三者というところでしょうか。例えばメインバンクに対して、非メインバンクは「金利が高い時代にはさんざん金利収入を得ていたのではないか」、あるいは「経営陣に役員を派遣して、責任があるのではないか。そんなものを非メインに押しつけるのか」というような主張をすることがあります。逆に、メインから見ると、「これまでしっかり面倒を見てきたのに」というような主張もあるわけで、こういうところを、産業再生機構という中立的な第三者が出てくることによって、そこの調整のコストを下げようというのが一つのポイントです。

それからもう一つは、今、非常に多く起きている、非メインバンクがメインに肩がわりして欲しいというとメイン寄せをしてきた場合に、メインはこれ以上リスクアセットを増やせないので、そこはちょっと勘弁して欲しいというところで、なかなかまとまらない場合に、それは産業再生機構が買い取りましょうということであります。買い取る資金には、これはマーケットから調達しますが政府保証がつく、一応枠としては10兆円つくということになっていますので、そういうことで円滑化しようということになっています。

それ以外にも、今、金融庁とか厚生労働省とかいろいろなところから、産業再生機構で扱う案件について、さまざまなメリットを付与しようというご協力をいただいています。例えば、税務上の処理については、産業再生機構で支援決定された計画に基づいて債権放棄を行ったときの、例えば債務免除益に課税されないとか、あるいは銀行の側からいえば、そこの部分は損金算入できる等、従来は国税庁との各々のやりとりが必要だったわけです。しかし、これは基本的に産業再生機構でやったものですということになれば、そういう税務上の処理もうまくいくわけです。あるいは銀行の、企業ごとの債務者区分で見た場合に、仕組みとしては途中で金融担当大臣にも意見を聞くことになっていますので、そこで了解されていますから、多くの場合は債務者区分で、条件緩和債権というところの要注意か要管理先か等、区分のところで一段階上に上がるというようなことも想定されています。そういういろんなメリットがついているということも、なぜそういうことが認められるかと言うと、半分公的な性格を持った中立公正な機関が行うことなので、安心して認めてもいいだろうということになっています。様々なメリットも用意しながら、調整等をして、事業再生をしていこうというわけです。

あと、こんなことをやると塩漬けになってしまうのではないかという議論がありまして、そこが、私どもの非常に悩んだところです。それは塩漬けにしようと、もちろん主観的に思っている人はいないわけですけれども、仕組みとしてどうやって塩漬けになるのを防ぐのかというところで、一番ポイントになりますのは、最後に計画をまとめて、非メインから債権を買い取りますと、買い取った後、3年以内に機構はその企業との関係を断ちましょうということで、買った債権を何らかの形で処分する、処分するというのはだれか新しい人が融資してくれてもいいし、あるいはエクイティでスポンサーが入って産業再生機構に返してもらってもいいわけですけれども、機構として、3年以内にエグジットまでもっていくということを法律上、これは努力義務ですけれど、基本的に3年でそれをやってくださいということを決めました。これは何を意味するかというと、3年後に、ほかの人がこの企業ならお金を出してもいいと思うところまで持っていけるような計画になっていないといけないということです。相当先の話にしておけば、思い切って少し無理して買おうかという判断もできるわけですけれど、3年でやるということになると相当しっかりした計画にしておかないといけないし、やっているうちにすぐ結論が出るということになりますので、責任が非常に明確になります。また、スピードを重視するということで、3年ということでやっています。

雇用の関係は、今、時間もありませんので、あまり触れられなかったんですけれども、国会の審議の過程でも、雇用の問題というのをちゃんと考えるべきじゃないかというようなご議論もいただきました。法律上も雇用の安定等に配慮しつつ進めるという、大目的が書いてある第1条という条文があるのですけれど、そこの中にそういうことが盛り込まれたのと、あと、この企業を支援するかどうかという決定をするときに、対象となる事業者のところで、再生計画について労働者とどういう協議をしているのか、していないのか、どんな状況にあるのかということについて、ちゃんと配慮しなければいけないというような規定を盛り込みました。

いろいろな考え方がありますが、これは必ず痛みを伴うものでありますので、そこで雇用者の意見を聞いていたのでは、なかなか思い切ったことができないじゃないかというようなご意見もいろいろいただきましたけれども、私どもとしては、これは一つ一つの案件で見ると、絶対成功してもらわないと、結果的にその計画が失敗すれば、最後3年後に、その債権をだれかに肩がわりしてくださいと言ってもだれもいなくて、結局二束三文でだれかに買ってもらうと、ものすごく大きな損失を出すということになりますので、計画が成功するかどうかというのは非常に重要なかぎになるわけです。そのとき、一つの重要な要素として、経営者が立派な人かどうか、これももちろん重要なのですが、やはりそこで働いている人が、この事業を再生しようということで思い切り頑張ろうという状況になっているかどうかというのは、これはある意味では一番重要なポイントでありまして、仮に組合、あるいは労働者の人たちと経営者が全然意思疎通ができないと、これで頑張りましょうと言っても、ふざけるなという話になっているということでは、およそその事業の再生はうまくいかないだろうというふうにも考えられるわけです。そういう意味からいっても、そこの企業全体として、思い切って再生に取り組もうという、その中におられる経営者と従業員の皆さん一人一人の気持ちとしてそこに取り組むという、そういう強い覚悟のような物が必要だろうと考えています。バランスシートの数字とは違い、これはなかなか数字にはなりませんが、当然その計画を評価するときには最も重要な要素になると考えておりまして、そういう意味でも、法律に書かれていることというのはいわば当然のことで、十分に状況を見ながら判断をしていくということを考えております。


労使協議で納得性向上を 須賀恭孝 連合経済政策局長

ご承知のように、連合総研という研究機関を連合が持っておりまして、ここで毎年、年次報告を出しております。これは春季生活闘争を意識しているものでありまして、春季生活闘争でベースアップがこういうふうに動けば、日本の経済はこういうふうになるだろうというシミュレーションを計量モデルでやっているわけです。

それでいきますと、この不良債権処理がやられますと、2003年度の経済として、下押し圧力がマイナス0%からマイナス0.11%です。大した数じゃないというような印象を受けるかもしれませんが、これは所得面に限ってのファクターしか入れていませんので、当然、不良債権の処理が経済全体に与える影響、あるいは先ほどからも幾つかご指摘がありますが、雇用に与える影響を、さらに波及効果というふうなことで定数として与えなければならないんでしょうが、そうしたものが折り込まれていませんので、これをどう見るかというのは、それぞれ皆さん方の判断に任せればいいのかというふうに思いますが、決して小さい数字ではないというふうに私どもとしては考えております。

参考までに、雇用への影響ということで、いろいろな研究機関が出しております数値を少し紹介させていただきますと、これは私どもの試算も半分入っているんですが、経産省が2001年の6月段階で、要処理額が12.7兆円ほどあるということです。私どもが試算しました昨年末段階の要処理額が26.7兆円ぐらいだというのを前提に置きまして、この経産省の試算をベースに要処理額をはじき直しますと、ここでおおむね120万人ぐらいという試算が立ちます。それから研究機関が発表しております内容は、UFJ総研が3年間の累計で、しかも2年間で処理する額が31.9兆円ということで、165万人という数字を出しています。それから日興ソロモンが、同じように2年間で処理する金額が40兆円、年当たりの離職者の発生率というのが121万人という試算をいたしておりますし、ニッセイ基礎研究所では、私どもと同じように26.7兆円というのをベースに置きまして、113万人という数字を出しております。既に、今でも350万人を前後するような完全失業者が出ている中に、100万人を超えるような失業者が出てくるというのは、これは雇用にとっては非常に大きな影響だというふうに、私どもとしては見なければならないと考えております。

そこで、この問題に連合としてどう対処していくのかという際に、いろいろと影響の出方は、経済的な見方をするのか、あるいはマクロで見るのか、ミクロで見るのかによってもいろいろと違うでしょうけれども、労働組合ということもありますので、非常にわかりやすい目で見ていきますと、実際に不良債権の処理をする金融機関にどういう影響が出てくるのか、あるいはその周辺にどういう影響が出てくるのかというのが1つ挙げられます。当然、債務を抱えている企業があるわけでありますので、その債務企業がどういう影響を受けるのか、またもう一方で、債務企業と取引関係にある企業はどういう影響を受けるのか、この大きく3つのファクターを考えて、それが経済に与える影響、国全体にどういう影響を与えるのか、あるいは地方、地域にどういう影響を与えるのかという、大きくこの4つの部分で影響を見ていけばいいのだろうというふうに思います。

そこで、労働組合という立場で物を考えていくときに、その影響はないほうがいいわけですが、そうした不良債権の処理を行えば、必ず影響が出てまいります。その影響を労働者の立場でいかに減らしていくのかということが、私どもにとって一番重要な課題になってくるだろうというふうに考えられるわけです。

実は私どもの笹森連合会長が、約8カ月間をかけまして47都道府県すべてを回って、地域の経営者団体の皆さん、もちろん私ども労働組合のメンバーシップも入っていますし、パートの皆さんだとかいろいろな人の話を伺ってきました。ここでやはり出てきましたのが、不良債権処理に伴いまして、中小企業が非常に痛んでいるということです。

産業再生機構は中小の話は扱わないだろうなんていう話が出ておりますが、多分これは、後ほどそういうことはないというお話になるんだと思うんですけれども、地方にもそういう処理についていろいろと助言する機関も、再生機構と連携するような形で再生協議会というのができておりますが、そこで聞いてきた話というのは、やはり貸し渋り、貸しはがしというのか非常に多くなっているということでした。中小の名門企業だとか老舗企業というのが、わずか一月分、二月分のお金が回らないがためにばたばた倒れていくと。地域の商店街はシャッターを閉めて閑散としていると。そういう状況の中で、何とかしてくれという声がたくさん聞かれます。

実際に起こっていること、これは後ほど、私どものアンケートの中を見てもらえばわかるのですが、ちょっと紹介しておきましょう。金融機関からの関与・圧力というのが、つまりリストラをしなさいという圧力がありましたかということを聞いてみたところ、1割強の方々が、少なからずそういうことがあったと、あるいはあったと聞いていると答えています。つまり、リストラをしないとお金を貸しませんよとか、場合によっては、リストラをしないんだったらもっと担保を差し出してくださいとかというようなことはここからは伺えませんけれども、確実にあるということは事実だということがこの中からうかがい知ることができるということです。

それから、ハローワーク前で約7,000名を超える人に直接面談をして話を聞いています。そこで集めてきた内容です。ショッキングなことも含めていろいろありますけれども、やはり解雇だとか倒産というのが非常に多くなっていること、それから雇用のミスマッチが起こっているというようなこと、あるいは雇用創出に対する支援が欲しいだとか、あるいは先ほどちょっと齊藤先生のほうからも提起がありましたけれども、ローンを抱えていて大変だというようなことも指摘されてきております。いろいろな課題がありますので、これは実際に聞き取り調査をしてきた内容から把握をしてきたものですから、後ほど、皆さん方、ご興味がありましたら、ぜひこれは見ておいていただきたいと思います。

ちょっと話は飛びましたけれども、こういうことで、連合としてどう対処するのかということを少しまとめさせていただきます。いずれにしても不良債権の処理は、当該の労働組合なり労働者にとって、必ずリストラを伴います。先ほど、先生のほうからも3つの視点でお話がありましたけれども、事業の再編のところでどういうふうな動きが進んでいくのかということで、3つの視点で財務と事業と労務というふうに言われましたが、私ども労働組合にとりまして、労務のリストラというのが一番影響は大きいわけであります。そのときに、労働組合ですので、決して抵抗手段であるわけでありませんし、事業部門を含めて、まず経営全体のことをよく知るというようなことも必要でしょうが、問題は、そういう情報をきちんと労働組合なり、あるいは労働組合がない場合には従業員の代表にちゃんと説明できているかどうか、これが一番重要になってくると思います。

その上で、これは私ども労働組合側の対応ということになりますが、そのリストラを受け入れるのか否かということを全員に聞かなければなりません。どういう方法で聞くかは別ですけれども、全員にそれを受け入れるか受け入れないかということを聞かなければならないということです。そのためには、どういう条件であれば受け入れられるのか、受け入れられないのかという条件整備がその次に必要になってきます。当然のこととして、その条件整備は、コストを削減するということをベースに置いた対応ということになってきますので、賃金、労働条件の引き下げということになってくるでしょう。場合によっては人員削減、場合によっては希望退職、もっときつく言えば全員解雇なんていうこともあり得るはずです。それをいかに回避できるかということの交渉がやはり必要になってきます。

究極の必要な条件というのは、経営としての責任がどういう形で問われるのか、その責任を従業員が認め得るものなのかどうか、これはもちろん企業ですから、株主の関係もあるでしょうし、資本家の関係もあるでしょうが、企業は人でもっています。いくらいい事業があるとか、あるいはここの事業が悪いとはいっても、それぞれの部門には人がいて、人が企業なり事業を支えているわけです。その事業を支えている人がどう納得できるかということが非常に問われておりますので、そういう意味で、経営の責任をきちんと明らかにするということは、ちょっとこれも話が外れて申しわけないのですが、生命保険会社の予定利率の引き下げなんていうのがあって、経営者の責任ということをはっきりさせるというようなことは非常に重要なことだろうというふうに考えております。

そういうことが、条件面がはっきりしてきて、経営の責任はこんな形でとりますということがはっきりしてくれば、あとは従業員としてどういう判断をするかということを問うていくということになりますし、その結果、必ず従業員の協力は得られるんじゃないかというふうに考えております。もちろん協力を得られない人もいるでしょうし、その場合にどうするかということは当然必要になってきます。仮に人員削減の対象になった人には、再就職のあっせんをどうするのか、あるいは、場合によってはお金による決着ということも必要になってくるかもしれません。そんなことを十分に話し合う。そして従業員の協力を得て、人が企業を、あるいは事業を再生していくということが重要になってくるだろうというふうに私どもは考えています。

そこでもう一つ、やはり行政の支援ということが重要になってきます。企業だけではやれない話はたくさんあります。したがって、そのときにどういうことを準備すればいいのか、後ほどまた議論の対象になるでしょうけれども、少し私どもが今問題意識を持っていることを指摘しておきたいと思います。

今、中小企業の支援、あるいは労働者の支援、教育訓練であったり、失業給付は給付期間が短くなったりして問題があるとは思っているのですが、いろいろな手だてが打ってあって、メニューが準備しています。ところが、意外と痛いところに手が届いていないというのが実情ではないでしょうか。雇用のミスマッチが起こっています。企業が望んでいるのは、即戦力に近い人を求めているわけで、即戦力になるような訓練をしなければならないという点で、痛いところに手が届かないという意味です。

それから、予算がどういうふうに執行されて、どれだけの雇用がつくれたのかということが必ずしも検証されていません。これも重要な話だろうと思います。一番の根本療法というのは、やはりこのデフレをどう解決させていくのかということでありますし、そのために、個人消費あるいは個人というものをもっと大事にする、そういった施策が必要ではないかというふうに考えています。ちょっと長くなりましたが、連合としての考え方を紹介しておきます。


危機の早期発見がカギ 姉崎 猛 厚生労働省職業安定局雇用政策課長

今、職業訓練の関係で、即戦力になるような人材を育成する訓練が大事だというお話しがありました。企業が求める人材のニーズというか、能力要件というか、そうしたものをきちんと把握して、それを広くいろいろなところに情報提供するとともに、職業訓練の場でもそれを生かして、ほんとうに実戦的な能力が身につくような訓練をやっていこうと考えておりまして、できるだけ企業の具体的な人材に対する能力要件というか、それを明らかにした上で、それを踏まえた訓練コースの設定等に、これまでも努めてきているつもりではあるわけです。

それから、基金を積んで、雇用対策の結果としてどれだけ雇用が増えたのかということを検証することが大事だというのもおっしゃるとおりでして、今、政策評価ということがとても大事になっておりますので、効果につきましても、きちんと検証をしながらやっていくことはまさに大事だというふうに思っております。


不良債権処理の3側面から見た日本におけるリストラの難しさ 齋藤 誠 一橋大学教授

財務にしても、事業にしても、労務にしても、多分日本の企業に、極めて特有かどうかは別として、その色彩が強いケースとして、どの面でも長期契約的な側面が、この不良債権処理をやるときに、時には大きな障害になっています。例えば財務リストラの面で、今、古賀室長の方から詳しい説明があったように、産業再生機構の一つの大きな役割というのは、メインと非メインの銀行間の利害対立をうまく取り除くための仕組みとして、非常に大きな期待が寄せられているのですが、そうすると、非メインの銀行からすれば、信用リスクなんていうのはメインが取っているもので、我々が何でロスを負担しなくちゃいけないのかというのが、実は事業再生の着手を非常におくらせていた側面があるんですけれども、そういった側面で、こうした債権者間の利害対立が長期のいろいろなメインバンク制とかの関係で阻害をされて、事業も、日本にM&Aの事業風土がなかなかなくて、どちらかというと、企業グループにそれぞれ1つ産業の代表とするものを抱えているので、企業グループを超えてさまざまな再編成をして、できるだけ産業の中でのダイナミックな再編成が起きるということがなかなかできないのも、いわゆる系列的な関係がやはり尾を引いていて、それぞれ同業他社との関係について、なかなか建設的な関係ができてこないということもあると思います。労務のほうも、日本の労働市場の特色として、終身雇用等の、これもインプリシットなコントラクトですけれども、そうしたことで守られている期待権と、不良債権処理上、必要になってくる雇用調整の間でのコンフリクトというのはやはり出てくると思います。ですから、長期契約というのは、書面上、法律的にベリファイアブルな形で書面の契約をしているというわけではないのですが、今まで戦後の日本経済が培ってきた目に見えない形でのいろいろな長期関係がこの3つの側面のリストラを、非常に障害になっていて、特にアメリカと比較した場合に、こうした部分の障害が大きいんじゃないかと思っています。


雇用調整の仕方 須賀恭孝 連合経済政策局長

多分、雇用調整の仕方のことをおっしゃっていると思うのですが、雇用というのは、やはり私どもは依然として長期雇用型がベターだというふうに考えているんですけれども、雇用の流動化だとか、あるいはそれが加速しているというふうにおっしゃいますけれども、そんなにほんとうに加速しているのか、流動化しているのかというのが、私どもなりの見方です。そういう潮流をあえて否定はしませんけれども、それがメインじゃないだろうというふうに思っていますので、先ほど言ったような、ある程度、長期安定期的な雇用が必要だというふうに言っているわけです。

日産のお話が出てきましたので、物はついでで、私も日産の伺ったお話をしますと、2万人とも3万人ともいう雇用調整をすると。新聞だけじゃなくて、マスコミを含めていろいろな報道機関は、あたかもそれがすべて首切りだというようなニュアンスで報道されてしまいます。ところが日産労組の役員の方に言わせると、要するに自然退職を待つ、あるいは新規採用を抑制する、そして少し時間をかけてゆっくりそれをやっていく。配置転換をやりながら、あるいはもう一方で再教育をしながら、従業員に対する急激な影響が出ないようにやっていったんだと。だから大きな問題は起きなかったでしょうと。もっと突き詰めていけば、日産の下請は、孫請は、三次は、四次はというふうになってくると、また少し形は変わってくるかもしれませんけれども、できるだけそういうところまで含めて全体で日産グループという形で、どうやって雇用を吸収、吐き出さないようにしていくのかということで苦労しましたということをよく聞きます。

何が言いたいかといいますと、やはりある程度時間はかけなきゃいけないでしょうし、ヨーロッパ型でよかったなというのは、そういう部分だと思うんですね。アメリカ型のように、スパンと切って、パッとやるという方法もあります。でもそれは、社会全体のコストとして世の中にばらまいているだけであって、日本全体で考えたときに、コスト負担という意味で見たときに、果たして正しいやり方なのかどうかということを私どもはきちんと見る必要があるだろうというふうに思いますし、当然そこには、個人ということで直接影響を受ける人の立場に立って、どういう施策をすればいいのかということも考えなければならないというふうに思っています。


不良債権処理に伴う雇用対策 姉崎 猛 厚生労働省職業安定局雇用政策課長

不良債権処理に伴う雇用対策についてご説明します。今、雇用対策全体として、一番重点にしておりますのは、早期再就職の促進、いかに早く再就職にもっていけるかということで、例えば今、ハローワークでは、就職支援ナビゲーターというような人を配置し、求職者の方に対して担当者制で、1人の職員の人が10人なら10人という同じ求職者の人を抱えて、マン・ツー・マン的に早く再就職をしていただけるような支援をしていくということで、いかに早く再就職に導いていくかという施策を行っています。

それからもう一つは、再就職といってもなかなか求人が少ない中で、現実問題として再就職が難しいので、創業支援と申しますか、起業支援と申しますか、自分で会社をつくるための支援も広い意味での再就職というふうにとらえて、起業だとか創業の支援をしていく、今はそういう政策も進めているところです。

不良債権処理の関係につきましては、お手元に資料が配られていますけれども、雇用再生集中支援事業ということです。雇用対策につきましては、一般的な対策と特別対策ということで考えた場合に、これは不良債権処理の加速化に伴う特別対策ということで創設をした対策ということでございまして、基本的に昨年の平成14年度の補正予算を編成いたしまして、今年の2月10日から実施をしている事業です。

不良債権処理の影響で雇用調整をせざるを得なくなった事業主の方に、雇用調整方針というものを出していただきまして、そして雇用調整方針を出した事業主、それからそこから出てくる離職者の方を特定して、その人に対して特別に支援をすると、こういう対策スキームになっております。

雇用調整方針を作成する事業主ということで、まず今回の不良債権処理の加速化が、主要行の不良債権の比率を平成16年度までに半分にするというのが政府の目標でございますので、まず要件として、主要行からの融資割合が20%以上の事業主、あるいは主要行がメインバンクである事業主の方です。そういう事業主で、①から⑤のような類型がありますけれども、銀行から破産、清算、会社整理、会社更正、民事再生等の法的整理の対象になっている方、あるいはRCCへの債権譲渡の対象、あるいは経営合理化計画の作成を前提として債権放棄とか、債権放棄等と書いてあり、最近はデッド・エクイティ・スワップ とかいろんな手法がありますけれども、そうしたことを受ける事業主といったような方々で、事業規模の縮小等に伴って離職者を出さざるを得ないという場合に雇用調整方針を提出していただくとその場合に各種の支援があります。

それから、そうした雇用調整方針を作成する事業主と取引があって、そこの影響を受けて困ってしまう事業主の方についても救おうということで、事業主の方が、負債総額が30億円以上の法的整理の対象になっていて、そこの会社が50以上の取引事業者が存在している。こういうようなところと、そういうところの事業主との取引割合が20%以上ある事業主につきましては、関連事業主ということで、同じく雇用調整方針を出す主体になれるということです。

事業主から影響を受けてしまう関連事業主の方も、売り上げ等々の減少が見込まれる事業主ですけれども、ここも売り上げの減少に伴って離職者を出さざるを得ないという場合には、そこも雇用調整方針を提出できる事業主になり得るということです。

2月10日からやっているのですが、4月末現在で、全国で雇用調整方針を出していただいている事業所が55でございまして、55事業所で離職対象者が全体で約3,000人というふうになっています。多いのか少ないのかと評価はあるのですけれども、どんどん不良債権処理が進んでいる状況を見ると、どうでしょうか、なかなかその評価は難しいところです。

ブロック別に見ますと、主要行に限定をしているので、全体の7割が関東と近畿ブロックからの届け出です。

それから、原因別ということで見ると、民事再生などの法的整理の対象になっている事業主というところです。多くは民事再生です。それからもう一つは、経営合理化計画の策定を前提として、債権放棄等の金融支援を受けている事業主です。

こうして出てきた事業主、それから離職をせざるを得ない離職者の方々に対する支援ということで、最初の「雇用再生集中支援事業について」ですが、一つは助成金です。これは不良債権処理の影響で離職せざるを得なかった方が、再就職等をしたときに、再就職先の事業主の方に出る助成金というものです。その支援の内容は、雇入れの奨励金ということで、離職者の方を採用された事業主の方に、採用一人当たり60万円の雇入れ助成をいたします。相手の事業主の方が、いわゆる新規・成長分野の事業主に該当する場合には10万円を加算いたします。

それから、類型が3つぐらいあるのですが、トライアル雇用の場合、とりあえず3カ月間、試しに雇ってみて、よければ常用雇用に移行する。試しの3カ月間につきましては、1カ月あたり5万円ということで、3カ月ですと15万円事業主の方に払い、3カ月たって、正式に常用雇用として採用しましょうという場合には、30万円の雇入れ助成をつけるということで、15万円プラス30万円、合計で45万円が、その事業主に支給をされるというものです。また新規・成長分野の事業を行う事業主の場合には10万円が加算されるというものもあります。

それから、3つ目の類型で、離職者の方が再就職しないで自分で会社を起こす、自分で起業する、こういう場合に、自分でその会社を起こし、人を雇い入れたときに、その人に対して一人当たり60万円、起業したとき3人までいいですよということですと180万円、新規・成長分野の場合には10万円を加算するということです。新規・成長分野というのは、15分野でして、これ以外にも各都道府県毎に、15分野プラスアルファというのを認めており、東京都の場合は特に設定をしていないんですけれども、例えば北海道だったら食料品業を指定して、そこで就職すれば10万円加算の対象になる。あるいは長野県だったら林業を指定していて、林業で就職したらそこは10万円加算、離職者の方を雇った事業主に対する助成というのが1点目です。それから、その次の職業訓練の関係です。これは離職者の方々に2つの職業訓練を用意しようということです。1つは職場体験講習というものでして、これはまず、とりあえず再就職に当たって、職種転換等々をするような場合に、とりあえずすぐに就職はできないけど、ちょっとどんな職場かというのを体験したいというような方々を対象に、1カ月程度職場体験をしていただくというような機会を用意しようということで、受け入れ先の事業主に対して奨励金を支給する。

それからもう一つは、座学や企業での実習によるオーダーメードの職業訓練ということでして、こちらのほうは、民間教育訓練機関での座学の、知識の勉強と、それから企業で実際に受け入れてもらって、企業で仕事をやりながら職業訓練を受けるという、座学と実習の組み合わせの訓練というのを、ご本人の希望を聞きながら1個ずつコース設定をして、それでその訓練を受けていただくというようなものです。

それから、これは特に中小企業から離職をされた方の中で、管理職の方とか技術職の方で、職業紹介事業者のほうで、アウトプレースメント会社も含めてそうしたところで再就職支援をしたほうが、より早期の再就職に結びつきやすいというような方につきましては、民間事業者にその人の再就職を委託してしまう、一括してその会社に委託してしまって、離職者の方はそちらの民間事業者のほうで再就職支援サービスを受けながら就職をしていくと、こういう新しいスキームの政策です。特に中小企業が、離職した後に、いろんな面倒も見てくれないだろうということもありますし、また人材の散逸をなるべく防いで、早く再就職していただくということで、ハローワーク以外にも民間を活用した再就職支援策ということで、新しい仕組みとして設けたものです。

それから、その下の個別求人開拓員、これは離職した人の個別のニーズに応じて開拓員の人が求人開拓にどんどん動いていくということです。

それから、その下の労働移動支援助成金とか、いろんな助成金がありますが、こちらのほうは離職者を出す事業主に対する支援ということでして、例えば労働移動支援助成金というのがありますが、この労働移動支援助成金の中に、離職者を出す事業主が、自分の従業員の再就職について、委託をして再就職あっせんを会社が行うというような場合に、その要した経費の4分の1、上限30万円ですけれども、それを助成するという助成金です。離職者を出す事業主の再就職あっせん努力を支援するというものですけれども、こうした助成金の要件を、不良債権処理の影響を受ける事業主については緩和いたしまして、より使いやすいものにして、できるだけ早く再就職に結びつけていくというような制度です。

その他、雇用調整助成金の特例措置等々、いろんな施策を講じているスキームです。ほかにも一般対策として、いろいろな支援のメニューがあります。こうした支援制度があるということを、とにかく日本中の多くの企業の方々に知ってもらわないといけないわけでして、とにかく周知に努めていくことが大切かと考えております。

それから、事前には情報はなかなか難しいかも知れませんが、なるべく早く情報が私どものほうに伝わってくるような連携体制というのを、地域の中できちんとつくり、情報が把握できた場合には、いち早く飛んでいく。そしてこうした制度があるということを説明をし、ご利用できるようにしてもらう。こういうことをきちんと進めていかなければならないと思っています。

それから、先ほど産業再生機構のことがございましたけれども、金融庁が5月16日に事務ガイドラインを改正いたしまして、産業再生機構が買い取りを決定した債権に係る債務者についての事業再生計画につきましては、原則として実現可能性の高い抜本的な経営再建計画だというふうに判断して差し支えないということになりまして、事業再生計画が成立をし、計画に基づいて金融支援が開始された場合には、対象債務者というのは原則として不良債権ではなくなるというようなことで、金融機関はこれから不良債権の健全再建化していくという取り組みの中で、どんどん産業再生機構の活用というのを進めていくんじゃないかと思います。産業再生機構によって、事業再生を行っていく事業主の方々についても、事業再生の中で離職者が出てくるようなことが当然予想されるわけですから、そうした部分についても施策の対象になるようなことで検討をしていかなければいけないと思っています。

いずれにしても、こうした支援制度があるということを、とにかく隅々にまで周知を徹底をし、困っている人が、そんな制度あったのか、私は知らなかったということにならないようにやっていきたいと思っております。

それから、教育費とか住宅ローンの話がありましたが、教育費との関係については、保護者の方が失業してしまったりとかというようなことで、緊急に奨学金の貸与が必要になったというような場合には、緊急採用奨学金制度というのを設けて、そうした形で政府としてはその活用を進めていく。あるいは住宅ローンにつきましても、失業等によりまして住宅金融公庫のローンの返済が困難になってしまったというような方に対しまして、返済条件の変更を行う制度というものを設けておりまして、そうしたものを活用しながら、生活費の問題についても対応していこうということです。

それから、自営をやっていた方で廃業してしまった、あるいは雇用保険の給付期間が終了してしまったという失業者の方々に対して、生活資金を貸し付ける制度というのを創設しておりまして、離職者支援基金と言いますが、これにつきましても、要件緩和等々を行い、その活用を進めていくというような対策を実施しているところです。いろいろな施策を展開することで、ポイントはとにかく、できるだけ早期に発見をして、再就職をしていただくということで取り組んでいるところです。

伊藤 ありがとうございました。