週刊労働ニュース関連記事:第13回旧・JIL労働政策フォーラム
地域における起業と雇用を考える
~「地域貢献事業」を中心とした起業と地域雇用開発~
(2003年5月19日) 


  厳しい経済情勢、激しい国際競争の下で、製造業などの既存の産業を取り巻く環境は厳しく、これらの分野では雇用創出が望めない状況にある。その一方で、サービス業等では引き続き雇用がのびており、最近では、いわゆるコミュニティ・ビジネスなど地域に根ざした事業が伸展してきており、新しい雇用の場として大きな期待がもたれている。政策的にも、このような動きを進めるため、地域に貢献する事業分野(地域貢献型事業)における創業を支援する「地域雇用受皿事業特別奨励金」が創設されたところである。

 このような状況を踏まえて、地域貢献型事業を中心として、どのような分野で起業が行われているのか、起業しようとする場合に何かネックになっていることはないか、このような起業を進めるためにはどのような支援が求められているのかなどについて討議し、今後の地域貢献型事業を中心とした起業の伸展と雇用開発の方向を探る。  

 

 「地域貢献型事業」とは、「地域雇用受皿事業特別奨励金」の支給対象となる事業分野で、雇用の 創出が期待されるとともに、地域住民の生活に密着した分野であり、人々の次のウォンツ(真の願望)に応える多様なサービス部門を指し、次の各事業及び地方公共団体からの受託事業が指定され (1)個人・家庭向けサービス(2)社会人向け教育サービス(3)企業・団体向けサービス(4)住宅関連 サービス(5)子育てサービス(6)高齢者ケアサービス(7)医療サービス(8)リーガルサービス(9)環境サービス
 
 
 日時: 平成15年5月19日(月) 14:00-17:00
 場所: 日本労働研究機構JILホール



講師プロフィール

竹内 英二

 国民生活金融公庫上席主任研究員
 

藤沢 久美

 シンクタンク・ソフィアバンク・ディレクター
 

増田 雅彦

 エンタープライズ岐阜

山岸 秀雄

 NPOサポートセンター理事長

三沢 孝

 厚生労働省職業安定局次長

小野 旭

 日本労働研究機構研究所長
 

 日本労働研究機構(JIL)は19日、「地域における起業と雇用を考える」をテーマに、JIL労働政策フォーラムを開催した。フォーラムでは、起業後、事業を継続するためには、信用面・販路面などでの自治体の支援が欠かせないことや、経営上の不安を解消するため、ワンストップで相談を受け付ける仕組みに対する要望が相次いだ。パネリストは、竹内英二・国民生活金融公庫総合研究所上席主任研究員、藤沢久美・ソフィアバンクディレクター、増田雅彦・エンタープライズ岐阜・事務局課長補佐、山岸秀雄・NPOサポートセンター理事長、三沢孝・厚生労働省職業安定局次長の各氏。司会は小野旭・JIL研究所長。




地域密着型の助成に転換

 厚生労働省の三沢職業安定局次長は、行政が地域に貢献する事業分野の創業を支援するために、2月から開始した「地域雇用受皿事業特別奨励金」を紹介した。同奨励金は、3人以上の非自発的失業者を常用雇用した場合に、創業経費の一部と労働者の雇入れの奨励金を支給する制度。事業予算は、約1000億円を計上している。
 地域に貢献する事業分野としては、個人・企業向けサービスから、住宅、高齢者、子育て、医療、環境、さらに自治体からの受注事業など、サービス関係の起業であれば、あらゆるものが助成対象となっている。形態は法人であればよく、NPOでもかまわない。
 ただし、不正を防止するため、要件として、法人設立1年以内に3人以上の非自発的失業者を常用雇用することと、そのうち1人は、30歳以上の「雇用調整方針対象者」(不良債権処理に伴う離職者)か、雇用対策法にある「再就職援助計画対象者」である必要がある。対象者を求人する場合は、ハローワークに申し込めば紹介が受けられる(奨励金の申請は産業雇用安定センター)。
 支給額は、1年以内に3人または4人採用の場合、創業後6カ月以内に支払った創業経費の3分の1(上限300万円)と、雇入れた30歳以上の非自発的失業者1人当たり30万円が支給される。同様に、5人以上の場合は、創業経費の3分の1(上限500万円)と、1人当たり30万円の奨励金が支給されることになる。
 三沢次長は、同省の雇用対策が、再就職援助から創業支援による雇用創出へと幅を広げていることを強調。同奨励金の提供により、従来の全国一律的な雇用対策から、地域の独自性を重視した雇用対策に転換する方向性を示した。

地域雇用受皿事業特別奨励金


行政の買取制度を

 国民生活金融公庫で起業実態の調査をしている竹内氏は、起業時だけでなく、起業後の問題解決で、自治体が果たす役割などを報告した。その一方で、起業する際のビジネスモデルが適切であれば、ヒト、カネの制約はネックにならないと強調。経営者が実現したい「理念」があれば、仕事に惹かれてヒトは集まるなどと語った。
 竹内氏の調査によれば、起業家が求める公的支援には、資金援助や税制上の優遇措置が多くみられるが、コンサルティングに対する要望も多いという。「開業資金の見積の誤りや、見込んでいた買い手が見つからないなど、開業後には思わぬ問題にぶつかることがよくある」などと、ソフト面の支援が重要だと強調した。
 また、ハード面でも、家賃が安く、交通アクセスが良いなど、立地に優れたインキュベーターであれば、ニーズはあるという。この場合、ハコモノは自治体が提供し、運営はNPO(非政府組織)が実施するなど、地域に応じた支援が有効としている。
 また、起業後は、製品需要が見込めないことから、公的機関が優先的に購入する仕組みが有効だが、現在の入札制度は資格が厳しく、大企業に有利に働いている。このため、起業直後のベンチャーにもアクセスできるよう門戸を開く必要があるとした。
 その他、現在、開業している経営者の8割が男性で、女性は2割にとどまる現状について、企業内で、企画・管理・営業系の職種に女性が就くルートを確保することが重要だと指摘した。これらの職種の技能は、事業経営に不可欠だが、学校教育では入手しにくく、女性が、企業内で技能の習得機会に恵まれていないことが、女性の開業率に結びついていない現実を示唆した。


信用供与に行政の役割

 藤沢氏は自ら、1996年に投資信託評価会社を設立し(99年、売却)、現在もシンクタンク業を営んでいる経験から、起業し、事業を継続するうえでの問題点を紹介した。同氏によれば、事業運営の不安は、起業時にあるのではなく、開業後(事業の継続性)にあるという。
 一番の問題は信用(実績)がないことだ。しかし、いざ営業で企業(取引先)を回れば、その実績が問われる。そのため、行政などからの信用付けは欠かせない支援だと語った。自治体による支援企業であることや、賞を授与することなどは、信用を高めるうえで有益だ。
 自治体のサービスも、申請を待っているだけではなく、どんなサービスを要望しているのかを「足を使って聞きにいく」ことが必要だと語る。「そもそも経営者とは足で稼ぐことをいとわない人。そういう人と接するには、足を使って聞きにいくと、必ず相通ずるものがある」と、手間をかけることの大切さを強調した。


ワンストップで支援を

 電電公社(現NTT)からスピンアウト、出版社などの起業経験もあり、1993年から日本最初のNPOサポート組織を設立した山岸氏は、社会問題を解決し社会を変革するNPO(非営利組織)の可能性について語った。
 NPOは、地域の社会的資源(寄付とボランティア)を活用して、公共的サービスを提供する事業体で、現在、増加傾向にあるコミュニティ・ビジネスがその代表例だ。企業との違いは利益を配当しない点だが(非配当の原則)、市民の社会貢献や自己実現などの意欲を事業化することで、ビジネスと雇用を生み出している。
 同センターは、2000年に、NPOと大学が連携し、地域の企業・商店街と協力する「地域プラットホーム構想」を立ち上げた。例えば、大学はNPO・社会人に専門教育・生涯学習の機会をつくり、NPOは学生のインターンシップやボランティアを受け入れ、体験学習を促進するなど、共同で地域の就業・雇用機会をつくることをめざしている。
 プラットホームの事務所では、ワンストップサービスのコミュニティ・ビジネスの支援活動も考えている。「起業支援で一番大事なことは総合的な相談。具体的には、人材育成、資源・資金の調達、コンサルティングの支援」と、新産業の育成に意欲を示した。


販路の開拓がカギ

 岐阜県がベンチャーを支援するために設立した「エンタープライズ岐阜」は、商工会議所連合会など各種団体と連携してワンストップの起業支援を実施している。増田氏は、岐阜県での成功例を「岐阜モデル」として全国に発信する構想を紹介した。
 岐阜県では従来、インキュベーターや販路開拓、人材育成など専門化された支援機能をもつ16の機関があったが、2000年4月から、これらをすべて結ぶ「エンタープライズ岐阜」を設立。ワンストップサービスの起業支援を開始した。
 これにより、経営から技術、販路開拓にいたるまで、あらゆる相談が1カ所でできる。また、構想・準備段階からスタートアップ段階、株式公開段階まで、成長段階に応じた支援プログラムも完備した。
 ベンチャー経営者の経営課題(技術、資金、販路開拓など)に対しては、支援チームをつくり、チームが企業などに出向くことで、問題解決を図る。成長性が高い企業に対しては、資金面で集中的な資本投下を支援。行政が従来あまりやらなかった営業支援にまで力をいれている。商品の市場性をシンクタンクに依頼して調査してもらうことや、具体的な買い手とのマッチングまで行っている。また、信用供与面でも、積極的に、県産品に認定するなども試行している。




(週刊労働ニュース 2003/05/26)