議事録:第13回旧・JIL労働政策フォーラム
地域における起業と雇用を考える
(2003年5月19日) 


(所属はフォーラム開催当時)

【講師】

国民生活金融公庫上席主任研究員・竹内英二氏

シンクタンク・ソフィアバンク・ディレクター・藤沢久美氏

NPOサポートセンター理事長・山岸秀雄氏

エンタープライズ岐阜・増田雅彦氏

厚生労働省職業安定局次長・三沢孝氏

日本労働研究機構研究所長・小野旭

 



小野旭・日本労働研究機構研究所長

 本日のフォーラムは、先ほど紹介もありましたように、「地域における起業と雇用を考える」というタイトルであります。厳しい雇用情勢の中で、地域の雇用開発の重要な柱として、起業、つまり、業を起こすという起業でありますが、その動向や課題、求められる政策的対応につきまして、論議を深めてまいりたいと考えております。

 今般の厳しい経済情勢にあって、事業の廃業が増加する。事業の開業率が低迷している。こういうことが観察されております。そのために、雇用情勢が一層厳しいものになっております。ちなみに、雇用統計を見ましても、このところ、非農林業の自営業主や家族従業者が大きく減少しておりますが、特に東京圏以外の地域において減少が大きくなっております。地域において起業を促進することは、雇用政策にとっても重要で、緊急の課題でありますし、厚生労働省も今般、新たに、「地域貢献型事業」の起業支援に向けた政策を打ち出したところです。

 さて、起業をめぐる論点には、多様なものがあると思われますが、お手元に、事務局が作成した「論点メモ」が入っていると思います。これを見ますと、きょうのテーマをめぐって、さまざまな問題、考慮しなければならない論点があることがわかります。本日は、議論を大きく2つに分けましてフォーラムを進行したいと思っております。

 論点1は、起業の現状や、起業が進まない原因、あるいは背景はどんなものだろうかということです。第2の論点は、政策論に関係するところでありまして、起業促進に向けた雇用政策、特に今般提出されました「地域貢献型事業」の起業を通じた地域雇用創出のねらいなども含めて議論を進めてまいります。

 まず、第1の論点、起業の現状と課題について、国民生活金融公庫の竹内さんから、先般おまとめになりました「新規開業実態調査」の結果なども含めて、全体的なイメージについてお話をいただければと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

 



竹内英二・国民生活金融公庫上席主任研究員

 私どもは、新規開業に対してご融資を差し上げるということで、設立以来50年以上にわたって行ってきております。その中で、新規開業を対象にした調査を昭和40年代ぐらいから行っています。今は法政大学の総長をされている清成先生がおりましたころ、「ベンチャービジネス」という言葉を世に送り出しましたが、それ以来しばしば、この「新規開業調査」をやってきました。平成3年からは毎年度、貸付先を対象にした新規開業の調査をやっておりまして、きょうは、その調査結果をもとに、新規開業の現状ということでお話しさせていただきたいと思います。

 

新規開業融資の動向     

 まず、私どもにおける新規開業融資の動向について、簡単にお話ししておきます。多少の変動はありますが、この3年ぐらいは、毎年1 ,000件ぐらいずつのペースで増加して来ております。その背景としましては、幾つか考えられますが、中高年、女性向けに少し優遇した金利でご融資をする制度を設けたり、一昨年でしたでしょうか、無担保、無保証人で新規開業の資金をご融資する制度というのをつくったりしたことがあると思います。それらは、『日経アントレ』のような雑誌でご紹介いただいた結果として、融資の申し込みが増え、融資のほうも増えてきているというのが現状です。

 融資の件数、実績につきまして、地域別に見てみますと、どうしても人口や事業所数が集中する大都市圏に新規開業も集中している状況です。昨年の場合、3万件ほどご融資を差し上げていますが、そのうちの4分の1を東京都と大阪府が占めているという状況です。そのほかにしましても、多いのは、例えば北海道ですと札幌、九州ですと博多と北九州がある福岡、愛知県でしたら名古屋という形で、どうしても大都市中心になってしまっています。逆に地方都市ですと、年間どころか月に平均して3件か4件ぐらいしか新規開業のご融資がないような支店もございます。地方に比べますと事業機会が多いので、どうしても大都市に集中してしまうということなのかなと考えております。

 業種別に見ますと、サービス業が4割を占めます。サービス業というのは、いわゆる理美容業のような個人サービス業ですとか、ソフトウェア、あるいは広告のような対事業所サービス業のことです。その次に飲食店、小売業という形で続いております。これは全国的に見ましても、ほぼ同様の傾向が見られますけれども、サービス業の比率につきましては、都市部と地方圏では少し開きがあります。それから、同じサービス業の中身でも、東京や大阪では比較的、対事業所サービス業が多く、地方都市では個人サービス業のほうがやや多いという傾向が毎年見られます。やはり事業所相手になりますと、どうしても地方にいますと、なかなか取引先がないということで、必然的に都市部に発生してくるということかと思います。

 サービス業とか飲食店といった大きな分類では、なかなかイメージがつかみにくいと思います。もっと小分類までおりて見てみますと、融資先で最も多いのは飲食店、美容業、医療関係、この3つが大体どこの地域でも上位を占めています。ただし、最近の傾向として、絶対数では少ないですが、デイケアサービスとか介護といった福祉関連の事業、それから医療関連のサービス業、教育関連のいろいろなビジネス、例えば、新しい資格取得を支援するようなビジネスですとか、経営コンサルタント、経営以外の専門のコンサルタントの増加が目立つということが言えるかと思います。そういう新しい面も出てきている。特にデイケアサービスや福祉サービスなどに関しては、特に東京が多いということではなく、むしろ地方のほうが少し目立ちます。

 

開業者のプロフィール

 開業者のプロフィールを見ますと、性別では男性が圧倒的多数を占めております。8割以上です。これは調査を始めて以来ずっと変わらない傾向です。年齢を見ますと、平均で40歳ぐらい。開業年齢というのは、昔調査したときと比べて10歳ぐらい上昇してきていますが、これは人口構造の影響が大きいと思います。いわゆる団塊の世代が、中高年の域に差しかかってきていますので、これが今のところ引っ張っている。

 開業年齢の上昇はよくいわれることですし、私どももそれをアピールしてきましたが、その一方で、30歳前後の若い層も常に一定の割合を占めています。これが毎年3割ぐらいを占めていることにも一応注目していただきたい。よく「若年層は起業家志向がない」、特に今年の生産性本部の調査では非常に安定志向が強いという傾向が出ましたけれども、私どもの融資先に限って言えば、必ずしも若年層による開業が少ない、すごく減ったというふうには受け止めておりません。むしろ中高年の開業が増えただけというように思っております。

 学歴につきましては、高卒と大卒がほぼ同じぐらいです。年齢構成の関係から、高卒が若干多いという程度ですけれども、大卒も相当な程度を占めております。特に中高年層でも、やはり高卒の割合が多いことは多いのですが、急速に大卒の割合が増えております。彼らが18歳だった当時の大学の進学率を考えますと、相当高い大卒者の割合と見なすことができます。背景としましては、中高年層の失業が増えているとか、「リストラされるぐらいなら、いっそ開業してしまおう」と考える方々が増えていらっしゃるのかなと受けとめております。

 開業前のキャリア、職業ですけれども、男性の場合ですと正社員、正規の労働力であったというのがほとんどを占めています。女性の場合ですと、正社員が一番多いものの、一方で、いわゆる臨時雇用、あるいは派遣社員、家庭の主婦など多様なところから新規開業が生まれてきています。

 

開業の費用

 それから、皆さんご関心あります開業の費用について、幾らかかるかということですが、これにつきましても、平均値としては1 ,000万を超えますけれども、分布を見ますと、1,000万円未満が半数を占めています。もっと少なく、500万円未満で済ませている層も4分の1ほどございます。これも毎年変わらない傾向です。平均値だけ見ますと、かなり高額な費用が必要かなと思われがちですが、実際には比較的少額で開業されている方も常にいらっしゃる。ただ、余りにも少額で、例えば、いわゆるSOHOと言われるような方々の場合は、開業費用が極めて少ないものですから、公庫から借りない、金融機関から借りないで開業してしまうケースがかなり多いと思われます。その分、開業費用につきましては、実際よりも高目に出ているとお考えいただいたほうがよろしいかなと思います。

 最後に、起業の形態からいきますと、個人で創業する方と、法人を設立して創業する方が半々ぐらいいらっしゃいます。やや個人が多いかなという程度です。以上が新規開業する人の簡単なプロフィールですが、問題は開業した後の経営状況です。

 

開業後の経営状況

 開業した後の経営状況には、非常に大きなばらつきがございます。何年か前ですけれども、開業後1年以上経過した企業について、計画した月商が調査時点でどの程度達成されているか、要するに「現在の月商」と「計画したときの予想の月商」を割り算しまして、その比率を見たのですが、中央値というか、あるいは平均値にしても、ほぼ毎年1になるんですね。要するに「計画どおり」というところの周辺に集まってくるわけです。実際には平均値を頂点にした正規分布という形をとっておらず、山はむしろ平均よりやや下にあります。0 .8ぐらいのところに1つの山があり、その山を頂点とした正規分布があって、2倍以上、予想をはるかに上回る月商を上げる企業が必ず5?10%ぐらいの間に存在しているというパターンです。

 それから、企業全体についてもそうですが、業種別でも同様の傾向が見られます。ただ、卸売業ですとか建設業、それから対事業所サービス業のような、どちらかというと事業所相手にご商売されている場合のほうが、ばらつきの度合いが大きいと思われます。その理由については、よくわからないところがあるんですけれども。

 経営状況のばらつきにつきましては、「雇用の創出と喪失」ということに関しても、よくあらわれております。こちらにつきましては、月商の予想達成度以上にばらつきの大きな結果となっております。開業後1年以上経過した企業につきまして、開業した時点での従業者数を平均しますと4 .1人ぐらいですが、それと調査時点での従業者数との差を見ますと、調査企業全体では、雇用は増加しています。

 例えば合計で、ある年は1 ,400人、ある年は1,500人という形で増加している。しかし、大ざっぱに言いますと、その雇用の8割以上、例えば1,500人だったら1,500人の8割以上を、上位10%の企業が創出している状況です。むしろ雇用を減らしている企業も、1割から2割は必ず存在している。ですから、新規開業によって、雇用創出は確実にされますが、その後さらに上積みされるかどうかは、上位10%の企業にかかっている、という言い方ができるかもしれません。

 この傾向は、業種別に見ても変わらないですね。換言しますと、いわゆるベンチャーと呼ばれる企業に限らず、どんなビジネスでも、雇用を大きく伸ばす可能性がある。ただし、その数は限られてしまうということです。ですから、政策的には、後から触れられるのかもしれませんけれども、「数を打つ」といったような政策が必要になってくるのかなというふうに思います。

 

開業の動機

 あとは、「開業動機」をご説明しておきたいと思います。今回の資料では収入ということに着目をしています。いつもですと開業動機では、「能力を発揮したい」、「自分の裁量で仕事をしたい」という項目が上位に挙がります。そもそも、「高い所得をねらう」というような形で開業を意識される方は、ほとんどいらっしゃらないです。その結果どうなるかといいますと、月商とか、雇用の創出状況でわかりますように、一部の企業は非常に経営成績がよいわけですので、そういう企業の経営者に関しては、開業動機になったものも充足されていますし、経済的な面でも充足されているということが言えるわけです。

 その反面、思いどおりにいってない方もたくさんいらっしゃるわけですが、そういう方であっても一応、やりがいのようなものは感じていらっしゃるし、少なくとも、人に言われてやったことではなく、自分で決めたことなので、そのことの結果である以上、素直に受けとめられる。そういう点では、「仕事のやりがい」ですとか、あるいは「自分らしい生き方」ということに対しては、満足度について高い評価をしていらっしゃる。ただ、そういう方も、さすがに経済的な面になりますと、非常に不満が募るということです。

 やはり、1つの問題点としましては、開業したのはいいけれども、開業後、果たしてどこまで、経済的に自立できるところまで育つことができるかどうか。開業動機は「生きがい」とか「やりがい」を求めてなのですが、それも経済的にある程度成功してはじめて実現できるものですので、その辺が課題になるのかなと思います。

 



【小野】 それでは、次に、シンクタンク・ソフィアバンクの藤沢さんからお話をいただきたいと思います。藤沢さんにつきましては、NHKや民法のビジネス番組などにご出演されておりますので、ご存じの方もいらっしゃるかと思います。日本初の投資信託評価会社を設立、起業された経験をお持ちであります。本日は、その経験を踏まえて、我が国において、起業にはどのようなネックがあり、改善されるべき課題を持っているかを中心にお話しいただきたいと思います。

それとともに、高齢者が増大する中で、個人の財産運用をサポートする事業へのニーズも高まっているものと考えられます。それとの関連で、いわゆるコミュニティービジネスとしての将来性などについても触れていただければ大変ありがたいと思います。よろしくお願いいたします。

 

藤沢久美・シンクタンク・ソフィアバンク・ディレクター

 今、2つ課題をいただきました。一つは、私の起業経験から見て、起業に対するネックというところ。そしてもう一つは、個人の財産サポート、いわゆるファイナンシャル・アドバイスとかファイナンシャル・プランと言われるビジネスのことではないかと考えていますが、これがコミュニティービジネスとして成り立つかどうか。この2つをお話ししたいと思います。

 

最大のネックは「継続性」

 まず、私の起業経験から申し上げますと、7年前に会社をつくりまして、4年後、その会社は、S&P、 Standard&Powersという会社に売ってしまいましたので、今はシンクタンクに勤めているわけです。起業というのを実際やってみると、一くくりでは全く言えないものだなと感じました。

 そもそも、何のビジネスをやるのか、どんな規模の会社をつくるのか、これによって全く違います。ただし、すべてに共通のネックというのは、あるといえばある。3つの課題とネック、やはり創業資金、事業の継続性、人材の確保だと思うんですけれども、「この中で一番ネックになっているのは何ですか」と聞かれたら、私は経験から言って、事業の継続性だと思います。

 資金というのは、やろうと思えば意外に集められます。今、竹内さんからもお話がありましたように、意外に1 ,000万未満で開業されている方も多いですし、国民金融公庫も、行政のほうからも補助金が出ています。資金を何とか手当てして始めてみようと思えばできるんですね。ただ、それでもやろうと思えない。それは、多くの人は「お金がないから」とおっしゃるんですけれども、それは、もしかしたら言いわけなんじゃないかと思うんです。それよりも心配なのは、今のアンケートのお話にもあったように、「始めてみて、ちゃんと継続できるんだろうか」、「生活は安全になるんだろうか」、「安心して生活できるんだろうか」、その部分が一番不安なのではないかと思うんです。

 私自身もそうでした。実際、始めてみたらなかなか難しい。サラリーマンやっていれば、すぐお金、お給料が入ってきます。約束どおり会社に出ていれば給料は入ってきますけれども、自分で事業をやってみたら、1円稼ぐのも大変です。「とんでもない、アルバイトしたほうが楽じゃないか」と思うぐらい大変。お客様をつかんでくるというのは非常に大変なわけです。

 

顧客はブランド、信用性を重視

 その継続性という意味で、今どんな時代かということを考えたとき、「いい商品、いいサービスをつくっていれば、お客さんがやって来てくれる、お客さんは確保できる」という時代ではないと思うんですね。それはもう皆様も日ごろ肌で感じていらっしゃると思うんですけれども、今、顧客と言われる人たちが重視するものというのは、付加価値的な部分が非常に高いと思うんです。いわゆるブランドであったり、信用性みたいな部分ですね。

 お客さんたちは、何か言いわけを求めて、ものを買っていると思うんです。「自分でものをちゃんと選別する力」って、あるようでなくて、「みんなが持っているから」とか、「あそこは有名だから」といったところで判断する方が多い。ですから、実際に会社を起こしてみて、お客さんに対しても、そういう信頼だとか信用、ブランドというネックがある。

 それは取引先でもそうなんですね。大体、取引先は企業です。企業の論理というのは、各論賛成、総論反対。担当者レベルでは、「いいね、いいビジネスだね、うちと取引できたらいいね」とおっしゃるんですけれども、それを上に上げていく、企業として、組織として受け入れていくときには、やはり、新しい会社に対しては非常にリスクがあるわけです。そのリスクをとろうという方がなかなかいらっしゃらない。担当者レベルでも、やはり、なかなか上を説得することができない。結局、企業にとっても、ブランドといったものというのは、組織の責任転嫁の材料であって、それがないベンチャーに対して取引を始めてみよう、もしくは顧客になろうというのは、なかなか敷居が高いことだと思うんです。

 ですから、実際にビジネスを始めてみようかなと思って、いろんなところに打診をしたところで、なかなかこれは動かないなと感じられる方も多いのだと思います。自分自身を振り返ってみていただいてもわかると思うんですけれども、「この会社と取引しよう」と思ったときに、やはり実績がない会社というのは、かなり懸念されると思います。私はその部分が大きいと思うんです。

 「若い人だからそうなんじゃないか」という疑問が上がってくるかもしれないんですけれども、実は、長いキャリアを企業の中で蓄積されてきた方でも、やはり信用だとかブランドというのはネックになると思います。一度、名刺なしで、どこか飛び込みの営業をしていただければわかると思うんですけれども、意外に名刺がなくなった瞬間に、信用というのはなくなるというのが、私の起業したときの一番大きな体験です。それまで外資系におりましたし、どこに行っても名刺を出し、電話をすれば、大体会ってくれました。ところが、名刺がなくなったら全然だめです。これは、50、60の方々とお話ししていても、同じような経験をされるというのはよく伺います。こういった起業したときのベンチャー企業に対して、どのような信用づけをしてあげるかというのは非常に大事だと思います。

 私たちが起業したときにやったこと。それは、最初からブランド力のある企業と組むことでした。私たちは金融の業界の中で起業しましたので、会社をつくるに当たって、金融ベンダーと言われるところを幾つか訪問しました。「一緒にビジネスやってくれないか」、「お金は別に出してくれなくてもいいから、名前を貸してくれないか」ということで、いろいろ参りました。そして、ロイター通信社と一緒にビジネスを始めたところ、金融機関の方も会ってくださるんですね。「どこの馬の骨かわからないけど、とりあえずロイターとやっているなら会おう」ということになる。これだけで門戸は一つ開くわけです。

 こういった大企業や、地域でビジネスをするのであれば、地域の中でブランド力のある企業に、資金まで出していただかなくても結構です、名前を貸していただく。もしくはパートナー、顧客になっていただく。それによって、企業を起こそうと思う方に一歩、勇気が与えられるのではないでしょうか。

 そしてもう一つ、信用、ブランドを与えていただく方法としては、やはり自治体が大きいと思います。今、NHKのテレビで中小企業回りをしています。毎週1社、2社ご紹介をする。ロケでお邪魔して、お話を聞いている中で、皆さん口をそろえておっしゃるのは、やはり、「自治体が賞をくれた」とか、「自治体から支援を受けている」とか、自治体がお客さんだということだけで随分信用力が上がるということです。お金も大切ですけれども、そういう「信用づけ」をいかにしていくかということは非常に大切です。信用というものがあることによって、実は、ビジネスの継続性に対して自信が少しつきます。保証はされませんけれども、「あそことやるんだから少し頑張れるかもしれない」、「あそこがあるんだから」という心の支えが一つできることによって、一歩、起業に踏み出そうということができるのではないかと考えています。

 

ファイナンシャルプランナーはビジネスとして成り立つか

 「個人財務サポート事業がビジネスとして可能性があるか」ということですけれども、いわゆるファイナンシャルプランナーによる個人の方の財産管理業務だと思うんですね。これはコミュニティービジネスとしては非常にいいビジネスだと思いますし、これから広がるべきだと思います。実際にアメリカもイギリスも、両方見ていると、フランスもそうですけれども、やはり、地域に根差したファイナンシャルプランナーというのが、地域の個人の方々の資産アドバイスをやっているんですね。

 日本はまだないんです。間違いなく成熟経済化した今の日本、成熟経済というよりか、停滞した経済なのかもしれませんけれども、こういう時代こそ、リスク管理が非常に必要です。今までは、財産を守るという感覚が、あるようでなかった。収入が増えていきますから、それほど心配しなくてよかったんですけれども、これからは収入が安定的であるという保証がありませんから、リスク管理をしなきゃいけない。そのリスク管理をプロにゆだねよう、相談しようということが非常に重要なわけなんです。これは実は大事ではあるんですけれども、なかなか難しい。

 その難しいというところを3つ、ポイントとして挙げたいと思います。1つは、こういうビジネスというのは、医療に例えれば予防医療なんです。病気になってから、「先生、大変です、診てください」というときは、みんなたくさんお金を払います。もう何でもいいから治療してくださいと。お金のときもそうなんです。「相続でもめています、何とかしてください」というときは、お金を払ってくれます。けれども、「将来、相続が起きたときに問題が起きないように、今から予防しておきましょう」、「健康管理をしておきましょう」というようなサービスに関しては、なかなかお金を払っていただけないわけです。普通に健康診断とか定期健診というと、皆さん、お金をお支払いになるんですけれども、財産健診とか財産診断ということになると、まだまだお金を払おうというふうな文化が根づいていないというのが1つです。

 もう一つは、そのお金を払う先であるファイナンシャルプランナーの信用性というのが、まだまだ低いと思います。お金の相談をするということは、生活、個人の情報をほとんど開示しないといけないわけです。皆さん、いかがですか。自分の家族のことであったり、今どこに幾らお金があって、どんな株を買っていて、どんな土地があって、全部公開するというのは、非常に、勇気が要るというよりも、なかなかできないことだと思うんです。親子の関係でもお金の話はしないのに、他人に、なかなかできないですよね。それほど信用ができるファイナンシャルプランナーというのが見当たらない。これも先ほどのベンチャーの話と同じで、やはり、ファイナンシャルプランナーに何らかの信用をつけてあげないといけないと思うんです。海外はどうかというと、顧客の口コミというのが一番大きいですね。まず、ある程度、口コミ力のある、もしくは財産のある、ブランド力のある個人がお客さんになられて、その方の紹介という形で広がっていく。

 おそらく、今、保険の営業を受けたりしていらっしゃる方はそうだと思いますけれども、保険というのは結構、地方に根づいた代理店がたくさんあります。大企業の保険営業マンよりも、地域に拠点を置いている乗合代理店という保険業者さんたちがいらっしゃいます。複数の保険会社の保険を取り扱って商売をしている方々ですけれども、そういったところの広がり方というのも、実は口コミがほとんどです。やはり、口コミ、顧客同士の「信用づけ」のし合いというのも一つ大切なことなのかなというふうに思います。もう一つは、もちろん、自治体が何らかの動きをしてくださるというのもあるかもしれません。

 そして、3つ目の問題は、この個人財務サポート事業というもののビジネスモデルが見えないということです。最初に申し上げましたとおり、お金を払おうと思う人がまずいない。ファイナンシャルプランナー(FP)自体の信用度というのもなかなか高まらない。どんなビジネスかということもよく見えていない。

 海外の例を見ていれば明らかでして、ファイナンシャルプランナーが何をすべきかといいますと、お客様のポータル窓口、ポータルサイトというんですかね、窓口になるということです。お客様の抱えている問題を解決するために、専門家をコーディネートするというのが、私はこの個人財務サポートの表に立つ方の仕事だと思います。ですから、地域の中にいらっしゃるはずの税理士、弁護士、司法書士、行政書士、不動産鑑定士、保険アドバイザー、有価証券投資アドバイザー、こういった方々を束ね、お客様のニーズに合った形で、そういった方々をご紹介していくということが必要になるんです。まず、どうしてもこの方々全員に、ラウンドテーブルについていただかなくてはいけない場面が出てくるわけです。お客様の今抱えていらっしゃる問題は何かということを、みんなで議論しなきゃいけない。そのときに、この方々というのは、皆さんもご存じのとおり、高い時給で働いていらっしゃいます。相談に行くと、1時間ウン万円と取られるわけです。それをやると、なかなか、お客さんにとっても負担です。とてもビジネスとしてスタートするのは難しいですから、やはり、この部分というのは、ある程度、地方として、地域として個人財務サポート事業を高めていきたいと考えるのであれば、こういったサポートをする士(サムライ)業の方々に対しては、何らかの補助を与えるとか、何らかの名誉を与えるとか、そういった工夫も必要なのではないかというふうに考えます。

 ビジネスも見えず、顧客がいない。顧客がいない状況というのは、結局、FPの経験を全然積ませてあげないという状態が起きているわけですね。経験を積んでいないFPは信用できない、だから顧客にならない。そうするとまたFPも経験が積めないという悪循環が起きているわけです。では、少しでもFPに相談してみようかなと思うきっかけが必要だとすると、よく地方で「健康診断を無料でやりますよ」とか、「健康相談会を無料でやりますよ」というのがあるのと同じように、財産相談会、財産診断会といったものを開催するのも、一つ考えられると思います。

 

子どもに「金銭教育」を

 そしてもう一つ、ぜひやっていただきたいのは、金銭教育です。教育でお金の話をすることには、非常に否定的な状況があります。私はボランティアで、いろんな学校に直接、「子どもに金銭教育をさせてください」と電話するのですが、大体、校長先生がノーとおっしゃる。校長先生がイエスとおっしゃったら、PTAがノーとおっしゃる。子供にお金の話はとんでもないと。でも、これは逆にとんでもない話です。ほんとうにベンチャーを育成したいなら、地域で企業を増やしていきたいなら、地域に貢献する企業を応援したいなら、やはり、お金の使い方というのをきちんと教えなくてはいけない。会社を育てたい、そうすると私たちも豊かになる、お金はめぐってくるということを、子供のうちからきちんと伝える教育が必要だと思うんです。こういう教育をすると、自分の財産ということに関しても、もっときちんと管理しようという感覚が生まれ、ファイナンシャルプランナーにも相談しようという気持ちも生まれてくるかもしれない。そして、はたまた、結果的に、このファイナンシャルプランナーという方々が窓口になって、地域の企業にお金を投資する窓口になるかもしれない。私は、金銭教育という小さな動きも、実は、地域に産業を生み出す一つのキーワードになるのではないかなと考えております。

 



【小野】 今度は、NPOサポートセンターの山岸理事長にお願いをいたしたいと思います。今般の厚生労働省の施策では、地域貢献型事業をターゲットとしております。地域貢献型事業という場合に、一般の事業活動と同時に、NPOの果たす役割も非常に大きいと考えられます。そこで、NPOの設立や運営促進の活動を長年続けられております山岸さんに、起業というのは適切かどうかわかりませんが、NPOの立ち上げ、設立の現状や課題についてお話を伺いたいと思います。よろしくお願いをいたします。

 

山岸秀雄・NPOサポートセンター理事長

NPOの役割

 これから厚生労働省の新しい雇用政策が聞けるというので、大変楽しみにしております。というのも、私は、あと3つぐらい職業があるんですが、第一総合研究所というシンクタンクの代表をしております。そこで、7年ぐらい前、旧労働省の時代から、NPOと雇用の政策の問題について、ずっとレポートを書かせてもらっています。

 NPOの運動は15年前からしております。1988年からこの運動を始めておりますが、そのとき、NPOというのは、「いろいろな社会問題を解決する」ということと、それを通じて「社会システムを変革していく」という2つの役割を持っているわけです。ですから、ありとあらゆる社会問題のところへ進出していく。そして、市民の社会参加によって、さまざまな事業を起こしていく。まさに起業をしていくという性格のものだと思います。このNPOという道具は、高齢化社会を乗り切るというところにまず使える。もう一つは、雇用の拡大、新しい働き方に使える。この2つが、私が運動を始めたときの願いでした。

 今、約1万1 ,000を超えるNPO法人が生まれております。1カ月400団体ぐらいですから、1年間に5,000団体ぐらい増えています。財団法人、社団法人が今、2万6,000ですから、あと二、三年ぐらいで、数だけは超えることになります。

 起業という話をする前に、私の経験をお話しします。大学を出てすぐ電電公社、今のNTTに入社しまして、5年ほどおりました。当時は日本最大の企業である、役人だか会社だかわからない、役人に近いほうだと思いますが、その後、銀座に出まして、第一書林という出版社を起こしました。その後、第一総合研究所をつくり、今はNPOサポートセンターという、スタッフ7人ぐらいでやっております。日本最大の企業の社員の経験と、2つの中小企業の社長の経験と、NPOというサポートセンターの経営をやってきたことになります。6 ,000万ぐらい稼いでは、それをやりながら、さまざまな日本中の運動を担っていくという仕掛けになっております。現在一番新しい職業は、明治大学の教員です。

 電電公社にいたころは、相当生意気なことを言っていて、「自分も能力あるかな」とうぬぼれておりました。けれども、一たん、会社をつくるということになると、ほとほと、あきれるほど大変な思いをいたしました。だれも応援してくれないということはないんですが、この社会というのは、起業する者を支援するシステムが全くないと言っていいぐらいです。どこで経営学、経営者としての学を学べばいいかというと、そういうのはほとんどなくて、「起業する人はいない、ほとんど失敗する」と思いました。今でもそうだと思います。事業を起こした我々の仲間とか中小企業の主にいろいろ聞くと、「会社を起こしたってほとんどは失敗なんだよ」、「失敗するんだよ絶対に」と言います。たまたま生き残っている人間も、失敗した人間も異口同音に大体そういうふうに言う傾向が日本にはあります。私もそれにいつも同感するんですが、何とか起業をして、社会が元気になっていくようにしていこうというときに、私は、今はNPOが最大の力を持っていると確信しております。

 

NPOの定義

 NPOについては、さまざまな理解があろうかと思うんですが、定義らしきものをごく簡略に申し上げます。NPOというのは、地域の社会的資源を活用して公共的サービスを提供する事業体です。地域の社会的資源とは一体何かと申し上げますと、ただで手に入る労働力と資金のことですね。寄附とボランティアと考えていただければいいと思いますが、そういうものを獲得して、公共的サービス、社会貢献的なサービスを提供する。今までは役所しかそういう判断をしなかったのを、公共というものを市民も参加してつくっていく。そういう時代に入ってきたということを、NPO法で認めたのが1998年です。それを提供する事業体であると。まさにコミュニティービジネスとして存在するのがNPOであるというふうに考えております。

 NPOはボランティア団体だと考える方がいらっしゃいます。少しは当たっていますが、ほとんど間違いだと思います。NPOのもとに参加していくのがボランティアです。アメリカでも、ボランティアはNPOの旗のもとに参加する。逆の言い方をすると、ボランティア活動の活性化は、NPOなしにあり得ない。そう断言してもいいかと思います。

そういう関係で、あくまでもNPOというのは事業を行っていく、原則としてサービス料をいただく。企業との違いは、もうかったものを配当しない、非配当の原則と言いますが、山分けしちゃいけないといったことです。賃金を多く払ったり、サービスの質を向上したりすることは一向に構いませんし、まさにコミュニティービジネスの一番底にあるというふうに思っております。

 日本は欧米に30年ぐらいおくれています。社会的な判断を誤ったところで、NPO、NGOの存在がごくわずかになってしまいました。ちなみに、アメリカではNPOで雇用されている、働いている労働者は、全労働者の7 .8%、1,040万人になります。世界各国22カ国の平均で言うと、たしか4.9%、5%近くはNPOで働く労働者です。日本の失業率のことを考えれば、NPOがほんとうに発展した場合には、相当カバーできる、ほとんどカバーできるんじゃないかという、幻想さえ持てるところにあろうかと思います。

 先進国で最も後にNPO法を決めたのが日本です。それだけ社会の構造が企業と行政の影響力のもとにありました。その社会システムのゆがみにあると私たちは考えました。NPOをつくり、これによって市民セクターという領域、縄張りを大きくして、行政と企業、市民セクターという3つのバランスある社会をつくる。それによって、社会の運営をするし、経済力の発展も促していく。こういうことについては、EUはもう十何年も前に、そういう方針で、非営利セクターの位置づけを相当大きな柱にしてきていたと思います。

 

NPOの特徴

 NPOの特徴というのは、さまざまあるわけですが、法律で言えば、今は17項目がNPOであると言っております。最近5項目増えたんですが、それまでの12項目には、福祉活動、環境、まちづくり、高齢化社会、社会教育、外国、海外の支援などがありました。今年度になって増えた5つの項目というのは、ITを支援するとか、ほぼ直接経済活動を支援するというもので、経済産業省寄りの5項目が増えたなんて私は思っています。そういう経済活動そのものを指すものがこのNPOの中にかなり増えた。よくも悪くも増えたと思います。

 どんな人間でも社会に貢献したいと思わない人はいない。これがNPOの原則でありますし、大きなところだと思うんですね。こういう今まで埋もれていた社会的な力、「何とか社会の役に立ちたい」とか、「自己実現したい」、「困っている人を助けたい」といったいろんな思いを形にして、事業化して実現していく。そこにはビジネスも生まれますし、雇用も生まれる。こういう仕掛けなんだと思うんです。その中で、多様な生き方や思いを実現して形にすることができる。最初はボランティアということで出てくるんだと思います。ボランティアがだんだんボランティアグループ化して、もっと継続的に社会に影響力を与え、だれか専従者を置き、部屋を持つ。そこで1 ,000万や2,000万、3,000万ぐらいの予算を動かしていこうというと、そこでNPOが生まれてくる。

 自己実現を目指した、新しい働き方をするということですので、原則的には行政や企業の領域とバッティングしないところに、新しい産業、新しい雇用が生まれるわけですね。企業で首になった人がもとへ戻っても、プラス・マイナス・ゼロになるだけですが、NPOの場合で雇用が増えるということは、完全にプラス1増えるということです。

特に行政の方に申し上げたいのは、こういう歴史的な背景があってNPOというのは出てきていて、社会を変革していく歴史的な役割を担っているんだということです。これがわかっていないと、見ていて弱々しい感じになる。

 アメリカですと、きょうぐらいの人が集まり、「あなたはどういうボランティアしていますか」とか、「NPOにどうかかわっていますか」と聞いてみると、大体、理事の1つや2つはしている。ある程度の地位がある局長や課長クラスは、NPOの理事の1つや2つをしていないと、自分の社会的位置が保てないというか、みっともなくてしようがない。高官であればあるほど、社長であればあるほどNPOの運営者であるということは、アメリカでは当たり前のことなんです。

 それが、(日本では)どうも皆、傍観して見ている。それは好き者がやっているんだとか、暇なやつだとか、レールからちょっと外れたやつ、変人がやっているんだという感じがあるのは否めません。それをみずからもやっていくというところになると、成熟した市民社会の基盤が出てくると思いますが、そこまで日本がいかないと難しい。

 アメリカではNPOのことを、大体、CBOという言い方をいたします。コミュニティー・ベースド・オーガニゼーション、ほぼコミュニティービジネスですね。イギリスでは、コミュニティービジネスとか、ソーシャルエンタープライズ、社会企業、社会的意義のある企業ということで、こういう言い方をしております。

 

NPO経済規模

 今、日本ではどれぐらいの規模がNPOとしてあるかというのは、非常にまだ情けないような数字ですが、経済産業省が1年前、「NPOの経済的貢献力」というのを出しておりますけれども、生産額は約7 ,000億円と言っております。随分多いなと私は思っているんですが、パルプ産業、オートバイ産業のちょっと上ぐらいが、今既にNPOの生産力だと言っております。

 雇用されている人数は17万6 ,000人になったとも言っております。NPOの経済力というのは、もちろん、法律ができて5年ぐらいで、まだまだわずかですが、この二、三年、急激に経済力も持ち始めております。企業と比べたらまだまだ情けないところですが、収入1,000万以上というのが半分近くになっております。あと二、三年すると、2,000万や3,000万の収入があるNPOが半分以上、6割ぐらいを占めるのは簡単なことだろうと私は確信しております。アメリカでは、GDPの約6.8%、7%近くがNPOの生産貢献度となっております。

 今年、日本のNPO予算は数百億円になったと言われておりますが、その予算が組まれた後、執行される段階になり、だんだん現場におりてくると、「何だ、そのNPOは」ということになっていきます。例えば、失業者の訓練ですが、ここ1年半ぐらい、我々も委託で請け負う形で、NPOことばかり朝から晩まで、220時間から320時間ぐらい徹底して訓練しました。やるほうもやられるほうも大変だと思うんですが、とにかく、そういうことを各地でやっているんですね。

 長野県では二十数人そういう受講者がいた中で、6つのNPO法人が生まれ、9人がそこへ就職しました。単なる就職で言うと、あと4人ぐらい就職しましたから、半分以上、NPOで雇用が生まれたことになります。ただ、そのときに現場の人たちはどうおっしゃるかというと、成果を見てNPOはまだ低いというのです。上から言われるから、そういう尺度でごらんになるのだと思いますが、そこの壁があって、「NPOは効果がない」というのが一つは出てきますね。中小企業庁などで、助成金出します、委託事業出しますと言っているので応募すると、「中小企業政策の中にはそれは入らないから」と言われ、切られてしまうというのが、この五、六年続いているんですね。そんなことがあって、企業の尺度からもNPOがどういう存在なのかは、まだ理解されていない。NPOに対する期待というのが、なかなか形になりにくいというのが、非常に残念なところです。

 

「地域プラットホーム」の可能性

 では、我々はどういうことをやっているかといいますと、1つの例を申し上げますと、地域プラットホームというのをつくっております。これは、NPOと大学が連携して、それを軸にしながら、企業、商店街と行政が連携して、やっております。私が責任者、事務局長などやっているのでは、関東だけで言うと、北関東プラットホームというのがあります。これは、白鷗大学が軸になって、厚生労働省の職業訓練大学校と小山高等専門学校あたりでまずプラットホーム、軸をつくる。そこで教育、人材育成を軸にして、もう一つ、コミュニティービジネス、産業を新しく起こしていくという仕掛けをしております。

 同じようなものでは、千葉の柏駅近くに、30坪ばかりの小さな事務所ですが、江戸川大学、麗澤大学、千葉工業大学と組んで、あと生協のエルコープが組んで運営しております。都内ですと、明治大学と我々と地域が組んで新しいプラットホームをつくっています。行政の側で頑張っているところでは、町田市と相模原市が、13の大学と連携しながら、新しいビジネスをつくっていくというのを、我々NPOと組んで始めている。

 これはもちろん人材育成ということが下部にあるわけなんですが、大きく何を目指しているかというと、コミュニティービジネスですね。事務所を設けて何をやるかといいますと、ワンストップサービスのコミュニティービジネスの支援活動をしていくのです。ワンドアシステムとも和製英語で言っておりますけれども、どういうことかといいますと、起業するということで一番大事なのは、実は、コンサルティングをしていく、総合的な相談活動をしていくことです。

 まず、その部屋の中では人材育成、いろんな技術的なことを教える。それに資源、主に資金ですね、金をどうするかということ。そして最後はコンサルティングです。それを1つのセンターというか部屋の中に、資源をいっしょくたに入れて順次やっていく。総合的に、起業しようとする人を支援することによって、私は、コミュニティービジネスが実を結んでいく、形になるんじゃないかと思っています。

 私が電電公社を出た後、いろんな役所に行くと、年金はここ、税金はここというように縦型で、さっぱり全体像がつかめませんでした。そういうことで、ワンストップサービスですべて提供していくということを、各地に、何百カ所もつくっていく。我々がつくっているのはほんの数カ所、十何カ所しかありませんけれども、こういうところなんじゃないかと思います。

 去年、イギリス政府の招きで、向こうを見させていただきました。イギリスはもちろん日本と基盤が違うわけですが、大胆な協働をやろう、とにかく一緒に行政とNPOが組んでやろうというときには、日本でいうと経済産業省の中に局ができて、一気に協働というのを展開していきます。日本はまだ、協働しましょうといっても、いいところだけお互いにかじりながら逃げるという構造なわけです。しかし、それをもう一気にやる。そのかわり、そこで癒着が生まれたり、おかしなことになったりしては困るので、イギリスでは、コンパクトとかローカルコンパクトとかという協定書を結ぶんですね。かなり長い協定書を結び、その精神にのっとって契約関係を結んで、一緒に社会づくりをしていく、社会変革をしていくということになっています。それによって、どういう事業を営むか、どういう原則でやるか、どういう評価を受けるかということを情報公開しながらしていく。こういうすっきりした関係でやっていくので、日本もそれに一歩でも二歩でも早く近づきたいというふうに、私たちも思っています。

 



【小野】 最後になりますが、エンタープライズ岐阜の増田さんからお話をいただきたいと思います。エンタープライズ岐阜は、岐阜県の関係機関でありまして、地域の企業などを、いろいろな角度からサポートするための活動をなさっていると伺っております。エンタープライズ岐阜の活動を紹介していただきながら、地域における起業の状況と問題点などについてお話をいただきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

 

増田雅彦氏(エンタープライズ岐阜)

 地域から起業をサポートする支援機関の立場から、いろいろお話をさせていただきたいと思います。

 

エンタープライズ岐阜とは

 最初に、エンタープライズ岐阜の仕組みについて、少しご紹介をさせていただきたいと思います。「岐阜県のベンチャー支援制度 新時代の岐阜県の産業の飛躍的発展を目指して」というパンフレットをごらんいただけますでしょうか。このパンフレットの裏面を見ていただきますと、エンタープライズ岐阜の体制図が書いてございます。

 現在、岐阜県には新しい起業とかベンチャーを支援する機関が、全部で16機関ございます。それぞれが支援機能を有しておりまして、例えば、資金供給機能とか、販路開拓とか、それから人材育成と、それぞれかなり細分化されて、専門的なのが岐阜県の特徴でございます。

 非常に専門的でいいのですが、例えば、岐阜県でベンチャーを新しく起こそうという場合、この16機関のどこへ相談に行ったらいいかというのが、非常にわからないということがございましたので、平成12年4月に、この16機関をすべて統括して一元化する組織として、エンタープライズ岐阜体制ができました。その中の中核機関としまして、岐阜県研究開発財団の中にエンタープライズ岐阜事務局を設置しました。他県で言いますところのベンチャーサポートセンター、いわゆる県のレベルのベンチャーサポートセンターという位置づけでございます。ですから、岐阜県で新しい事業を起こそうという方は、まず、エンタープライズ岐阜事務局へ来ていただければ、経営から技術、販路開拓、あらゆる相談についてお答えをする、そういった体制をとっております。

 こちらに、現在の岐阜県のベンチャーの支援プログラムが書いてございます。エンタープライズ岐阜では、構想・準備段階から、創業からスタートアップ・アーリーステージの段階、さらには成長段階、そして最終的には株式公開まで、フルターンキーでサポートする体制をとっております。それぞれの成長段階ごとに、いろんな支援メニューを用意しておりますので、ベンチャー企業の方の成長段階に応じて、最適な支援メニューを、我々がコーディネートさせていただいて、サポートをしていく仕組みでございます。

 現在、エンタープライズ岐阜は、いろんなサポートの実験をしております。既成概念にとらわれずに、いろいろやっておこうということで、2つほどご紹介させていただきたいと思います。

 

総合的起業支援システムの整備

 1つは、総合的起業支援システムの整備ということで、これは具体的に言いますと、ベンチャー企業の方というのは、通常は、最初、立ち上げられたとき、いろんな経営課題にぶちあたるんですね。技術的な面もありますでしょうし、資金開拓もありますし、販路開拓等々、いろんな経営課題があった場合に、従来は、そのベンチャー企業の経営者の方が、この16機関を自分で回って解決しなくてはいけないということがございました。

 ベンチャー企業の経営者というのは非常に忙しいですので、今回、エンタープライズ岐阜ができたことによって、我々のほうで、そういった課題に対して、支援チームをつくりまして、例えば販路、技術、それから資金供給でありますとか、そういった関係機関の担当者を集めて支援チームをつくり、ベンチャー企業のほうへ出向き、ワンストップで、そういった経営課題に対して解決する手法をとっております。

 この手法によりまして、特に成長性の高いベンチャー企業は、同一年度でさまざまな支援を受けることができるようになりました。例えば、研究開発の補助金をもらいながら、マーケティングサポートをしてもらいながら、販路開拓をして、さらに資金供給ということも可能になっております。

 そういったベンチャー企業の方の中からは、通常五、六年かかるような成長スキームを、一、二年ぐらいで達成した企業がございます。1年間で売り上げが5倍になったような企業も出ております。雇用の面からも、8人だった従業員が一気に15人になったということで、非常に効果を上げております。

 つまり、例えば1億円の予算があったとします。従来の公的支援の考えは、1億円の予算について、100万円の補助金を100社に配る。このように、悪い言い方をしますと、ばらまき的な発想でやっていたのを、発想をがらっと変えまして、非常に成長性の高いベンチャー企業に対しては、例えば2 ,000万、3,000万の支援を3社ぐらいにやる。そうすると、雇用創出の効果も非常に高いということです。いわゆる1人しかいないベンチャー企業の方に対して、100社支援するより、やはり、200人、300人になるような企業に対して集中的に経営資金を投じたほうが、費用対効果が非常に高いということで、集中的な支援をやっております。

 

販路の開拓も支援

 2つ目の実験的なサポートとしまして、従来、行政があまりやらなかった販路開拓とか、営業支援の範疇に目を向けましてやっております。岐阜県の場合、よく言われるのが、「つくり上手の売り下手」ということで、いい製品は結構つくるんですが、なかなかそれを売らないというか、販路開拓ができないということで、伸び悩んでいる企業が非常に多いというのが実態でした。そういったことを解決するために、エンタープライズ岐阜では、ベンチャー企業事業可能性調査事業というのをやっております。

 この事業、具体的にどういったものかといいますと、ベンチャー企業がつくられた製品を、そもそもそれが市場性があるのか、ないのか。例えば、その価格が適正であるかどうか、さらには、どういったターゲットに売っていったらいいかということを、大手のシンクタンクに調査を依頼しまして、販路開拓につなげていくということです。

もう少し具体的に言いますと、例えば、岐阜県のベンチャー企業で、階段を上るような車いすを開発するベンチャーがあったとします。階段を上るような車いすというのは、そもそも市場性があるのかどうかというのが、ちょっとわからないんですね。そういったのを調べてもらって、価格がどれだけであったらそういった車いすを買ってもらえるかとか、さらに、そういった車いすの流通経路が、ベンチャー企業の方はわかりませんもので、例えば病院に売ったらいいのか、老人施設に売ったらいいのか、はたまた医療関係の商社に売ったらいいかというところを、いろいろ調べていただきまして、具体的にマッチングまでしていただく。そういった事業をやっております。

 これによって、ベンチャー企業の中には、かなり売り上げに貢献したところもありますし、従来でしたら自分が営業をかけながら売り先を見つけていかなければいけないところ、かなりピンポイントで営業活動ができるようになったということで、非常に好評を博しております。さらに、事業可能性調査事業でございますので、市場性の調査をやって、非常に事業の可能性があるというベンチャー企業に対して、ベンチャーキャピタル6社から実際に投資を受けた、そういった事例もあります。この事業は、実験的にやっているんですが、非常に好評な事業でございます。

 

「ホリスティック・サポート・システム」を岐阜モデルとして発信

 現在、エンタープライズ岐阜では、こういったベンチャーサポートの実験をやっておりまして、私は、このベンチャーサポートの実験を勝手に、ホリスティック・サポート・システムというふうに名づけおります。

 ホリスティックというのは、ちょっと耳なれない言葉ですが、これは医療用語でございまして、直読みしますと、全体的とか、総合的とか、包括的という意味があります。これにはもう少し奥深い意味がありまして、例えば、がんになった場合、通常、手術でがん細胞を取ったり、放射線なんかでがん細胞を取り除いたりする医療行為をするわけですが、ホリスティックという医療からいきますと、もちろん、そういった外科的手術はやるんですが、それ以外にも、音楽療法とか温泉療法、そういった精神的、心理的な面からもがんを克服していこうという考え方があります。

 ベンチャー支援も同じであって、単に資金提供するだけでは、ベンチャーというのはなかなか育ちません。もちろん、資金提供というハード面プラス、もう少しアドバイザー的なものとか、あとマッチングといったソフト面の支援も絡め合わせながら支援をしていこうという考えです。ホリスティック・サポート・システムは、現在、いろいろ試行錯誤しながら実験をやっております。近い将来、岐阜モデルとして全国に発信していきたいと思っているところです。以上が現在、エンタープライズ岐阜が取り組んでいるベンチャーサポートの仕組みです。

 

岐阜県の開業の実態

 続いて、岐阜県の開業の実態について、少しだけお話をさせていただきます。岐阜県の開業率は現在3 .39%で、全国平均の4.16%と比較しますと、全国順位は35位でございます。一方、廃業率も、岐阜県は4.78%で、全国平均の5.92%と比較しますと相当低い状況で、順位は42位です。ですから、岐阜県の場合、非常に開業率も低いですし、廃業率も低いということで、経済的な状況は、非常に停滞しているというか、活性化していないという状況でございます。

 では創業意欲はないのかということを調べてみますと、これも国の調査ですが、就業構造基本調査というのがございます。この調査は、働いている方にアンケートをとりまして、そのうち将来起業をしたいという希望が何パーセントあるかというのを調べたものですが、それが岐阜県の場合、1 .9%ございます。全国平均がちょうど1.9%ですので、ほぼ全国平均並みだということがわかります。ですから、開業率は低いんですが、起業意欲という観点から見ますと、岐阜県は全国水準にあるといえまして、結構、起業意欲のある方はいらっしゃるんだなというのがわかります。私どもはベンチャースクールというのをやっておるんですが、かなり定員をオーバーして応募があることからも、岐阜県の起業意欲は結構高いんだなというのがわかります。

 一方、起業意欲があって、どうして起業まで結びつかないかということについて、岐阜県の地銀が調査した結果があります。起業を阻む阻害要因として、3つ挙げております。1つは、資金調達ができない。2つ目が、人材の確保ができない。3つ目が、販路開拓ができないという、この3点が創業を阻む阻害要因として挙がっております。3つ挙がっておりますが、資金調達につきましては、国民生活金融公庫さんの新規開業貸付が非常に充実してきておりますし、今回、厚生労働省関連の開業時の助成金も非常に充実しているということで、かなり施策的には、資金調達については充実しているのではないかと思います。むしろ今後は人材確保と販路開拓について、創業支援について、スポットを当てていくべきだと思っております。

 



討論1

【小野】  ありがとうございました。以上で、4人のパネリストの方々から一通りお話を伺ったわけでありますが、厚生労働省の三沢さん、行政の立場から、感想や確認したい点などございましたらどうぞ。

 

ブランド力をつけるためには

【三沢】 竹内さんは実際、国民生活金融公庫で融資を担当されているということです。先ほどのお話ですと、要するに起業といいますか、業を起こすということによって、雇用の機会を拡大することは明らかであり、起業が今置かれている我が国の雇用問題を解決する上で非常に大きな役割を果たのではないかと思っています。

 そこで、実際に起業を経験された藤沢さんのほうからお話がありました。起業をやって、資金なり、継続性なり、人という問題がありますが、継続性といいますか、ブランドとか信用、信頼が一番難しいというお話でした。

 山岸さんのNPOのお話ですけれども、NPOというのは、ある程度国が一定の認定をしてつくった法人で、そういう意味では信用力があると思います。山岸さんのほうで、ワンストップサービスで起業のコンサルティングをやられるということですが、その際、起業のコンサルティングということの中に、「ブランド力をつける」といいますか、信頼を深めていく、あるいはコネとか人脈といったものの提供はあるのかどうか。

 これは増田さんの岐阜の話も同じで、販路開拓という話があったんですけれども、消費者のニーズというだけではなく、相手と話をつけるというようなものも、販路開拓には入っているんだろうと思います。これらが非常に、起業を進めていく上で難しいということを、実際経験された藤沢さんもおっしゃっていますから、そういう意味で、ブランド力について、NPO内、岐阜内で、どうやったらいいのかというのをお聞きしたいと思いました。

 

【藤沢】 ブランド力といっても、エルメスだ、ディオールだと、そういうブランド力ではなくて、やはり、「ここと会ってみようかな」と思ってもらえるきっかけの部分ですね。要するに、「この人と会って時間を費やしても、うちにとって損はないかもしれない」と思わせる何かが必要だと思うんです。

 そして、これから考えなきゃいけないコミュニティービジネス、NPOもそうですけれども、先ほどおっしゃったとおり、地域にある社会的な資本とおっしゃいましたっけ。人であったり、資金であったり、そういうもののほかに、私は、社会に眠っているたくさんの知恵があると思うんですね。その知恵というのも、実は使わなきゃいけないんですけれども、知恵ってどうやったら使えるかというと、これは人が属人的に持っているものなので、コミュニケーションをしないと生まれてこないと思うんですよ。コミュニケーションを生み出すということは、やっぱり、話すということですから、「この人と会ってみようかな」と思ってもらわないと始まらないわけです。ですから、ブランドって、ちょっと大げさな言葉を使いましたけれども、「話してみよう」、「コミュニケーションをとってみよう」というきっかけを、いかにつくって差し上げるかということのように私は考えています。

 

【増田】 現在、岐阜県では、ベンチャー企業のつくっている製品が県産品であれば、岐阜県県産品としての認定をします。支援機関の中に、岐阜県名産販売株式会社というのがあるかと思います。ここは県100%出資の三セクの会社ですので、ここを通して全国に発信している。岐阜県名産販売の、「岐阜ベスト」と言うんですが、岐阜ベストブランドということで全国発信をして、信用力をつけるという支援をしております。

 

NPOと企業の中間項はあるのか

【藤沢】 山岸さんにNPOのことを少し伺いたいんですけれども、私の起業の経験からいくと、会社をつくった理由というのは、世の中に金融情報が余りにもない、そして、金融の情報がないばかりに損をしたという方がたくさんいらっしゃるので、そういう情報をお出しして、判断材料をご提供したい、これは非常に社会的意義がある仕事だと思ったからです。我々は、金融機関の商品を比較するわけですから、これは公開してはいけないと思ったわけです。パブリックではあるけれども、公開してしまって、大企業の資本が入った瞬間に、ゆがんでしまうかもしれない。けれども、企業なわけです。NPOではない。

 コミュニティービジネスというのも微妙だと思います。NPOと企業というふうに2つに分けてしまうことによって、実は、もう少し中間項があってもいいんじゃないかという気がするんですね。

 投資家の立場からいっても、この企業、地域のためになるから応援したい、出資をしたい、もちろん、配当を欲しいと思う人もいると思うんですよ。例えば、グリーンシートという市場が今ありまして、グリーンシートというのは未公開企業の株を取引するんですけれども、地方銘柄というのがあります。福井のバス会社とかが登録されていまして、地域の人が買うんです。別に株価がそんな上がらなくてもいいと。この会社を応援したいんだと。ただ、配当ちょうだいねとかね。あと、配当をもらっても、「この企業、もっと伸びてほしいから返すよ」というふうな仕組みをつくる。そういうNPOでもなく、企業だけれども、中間項みたいな考え方というのはないんでしょうか。

 

【山岸】 我々が、社会が元気になって、その前に個人がもちろん元気になるということであれば、その手段、道具は、NPOでもいいし、企業でもいいと思います。そのときに一番ふさわしい形態をとればいいと私は思うんですね。

 ただ、もう今は、企業の中でもうかる仕事なんて普通あるのかなと思うぐらい冷えきった社会です。1 ,500万とか2,000万を目指すのではなく、NPOだって年収の800万や600万軽く取れる時代ですから、そこそこでいいと。できれば1,000万円ちょっと超えたぐらいであれば、NPOという形もあると思うんですね。

 競合しているところで言えば、風力発電なんかそうです。今随分盛んになっていますけれども、北海道や青森では、NPO法人で3億8 ,000万ぐらいの風力発電をつくっています。国から半分ぐらいもらい、あと3分の1ぐらい、1億何千万は募金をして、まさに投資してもらうわけです。後でちゃんとお金を返していく。同じ風力発電でもそういうことをしている。

 福祉をやる人は大体、起業でやる人もNPOでやる人も、「地域をよくしていきたい」と思うんですね。ただ、NPOのほうがふさわしいと思うかどうかということだろうと思います。買うほうは、1 ,000円払って、サービスのいいほうから買えばいい。NPOであろうと何であろうと。ただ、社会的な仕組みとして、これから地域の再生力をつけていくときには、私は起業よりもNPOのほうが、ボランティアもあるし、寄附もあるから、サービスも多分よくなるでしょうし、企業と違って、だめになったからといって撤退することもないわけです。

 そうしたら地域でもつように、行政は補助金を出す、ボランティアを出す、寄附を出して、何とか地域で保っていけるようにする。そちらのほうが非常に健全なんじゃないか。コムスンなんか一度展開した支店を、たしか3分の1に縮小して、自分たちのコストに合わないところはまた小さくしていく。もちろん、コムスンが悪いわけじゃなくて、これは資本主義経済の鉄則です。そういうところで選んでいくところがあるのではないかと私は思います。

 NPOの場合、対象が不特定多数の人たちに対して開かれています。公共という意味が、不特定多数なんです。出資した人たちの利益を守るんじゃなくて、どんな人に対してもという、ここがNPOの決め手のところなんですね。いずれにしても、いろんな形で公共というものを創出していく。役所だけではなく、みんなでつくっていく。この社会はみんな自分たちのものだという意識でつくっていくんだと思います。

 それから、NPOによって信用力を担保できるという組織はあまりないと思っております。一番大事なのは企画力だと思います。アメリカで、そういう起業する人たちを応援する、リタイアした経営者のNPOがあるんですね。もう70、80ぐらいになった、大成功した人たちばかり集まって、ベンチャーをやりたい人たちの企画を受けるんですね。それで、見込みがあると判定するのはどのぐらいですかと聞いたら、5%だと言っていましたね。あと95%はとてもやめたほうがいいとか、企画力がないとか、気迫がないとか、決意がないとか、いろいろあって、5%だと。これはなかなか厳しいんですけどね。

 ですから、企画力を鍛えていくということの応援を私たちもしております。人材サポートするということで、今、団塊世代、その前後を軸にして、東京でそういうグループを今形成しつつあるところです。大体私の友人でも50ちょっと超えると、相当成功して、時代の最先端にいた人間は、「もう金もうけはいいよ」と大体言います。「もういいよ、これ以上別にない」と。あとは社会貢献して、いいことをしながら何とか死ぬまでのシナリオを描きたいというのが続々と出てきています。こういうのが今まで持ったものを支えていく。そういうマッチングを含めて、場をつくっていく。

 もう一つは、地域プラットホームに合わせて、情報プラットホームをつくるということです。情報の舞台ですね。情報プラットホームをつくる。そして、地域のプラットホームをつくる。その上で我々市民が何を演ずるか。ここで歌舞伎を演ずるのか、映画をやるのかという、このプラットホームの基盤を非常に強固なものにしていく。今、情報プラットホームは大分できてきましたけれども、そういう中でやっていきます。

 それで、コミュニケーションをどうとるかというのは、日本人は非常に下手で、組織の枠の中でならできますが、それを超えてやっていくというのは、やはり、もっと民主的な社会になって、個人個人が自立して、平等、対等の関係の中でやっていかないと、なかなか難しいと思います。

 私のサポートセンターのところに、優秀な会社の部長さんとか取締役の方が来て、企画を話していただく機会がよくあります。大学出てまだ二、三年ぐらいのうちのスタッフに、黙って聞かせておくと、帰った後でいつも「あれで取締役なんですか」と言われます。あれでよく部長が務まるんですねという感じです。「いや、それはもう会社の中では立派な人で、すごい偉いんだよ」「年収だって2 ,000万ぐらい超しているんだぜ」なんて言うと、びっくりします。会社の中ではいいのでしょうが、外に出て、企画力があるかどうかというと、とても疑わしいというのは、つくづく思います。やはり、そこがお互いに鍛えていくところではないかと思います。

 

従業員の年収は?

【小野】 山岸さんが、「金はもういいよ」というお話がありましたが、雇われるほう、つまり、コミュニティービジネスに雇われるほうからすると、一体どのぐらいお金がもらえるかというようなことは、ちょっと心配です。竹内さん、調査をなさった中で、そういう従業員の収入のことはお調べになっておりますでしょうか。

 

【竹内】 ちょっと話そらせてしまって申しわけないですけれども、従業員の収入、給料を調べたことはほとんどありません。むしろヒアリングをしていますと、さっきも出ましたが、起業の阻害要因として、資金、人材、販路開拓という3つが挙げられます。成長する企業を見ていますと、資金や人材がネックになっているというのは見たことがありません。なぜネックにならないかといいますと、今、山岸さんがおっしゃっていましたけれども、やはり、いいビジネスモデルをつくっている企業のところには、資金が集まりますし、そのビジネスモデルに対して、従業員も集まってくるということなんですね。

 例えば、ある一例を紹介します。今成長中のネットベンチャーがありますが、そこには結構高い学歴の方が幹部社員として集まっています。どうしてそれが集まっているのかというと、ホームページ上に、社長さんが、自分は一体どういうビジネスをやりたいのか、世の中に対してどのような貢献をしたいのか、それを具体的にどういうビジネスモデルでもって実現したいのかというのを切々と書いてあるわけですね。それを見た人たちが応募してくるわけです。そういう人たちにとっては、仕事ができるということ自体が最大の報酬であって、賃金自体にはそれほど関心がないんですね。もちろん、暮らしに困るような賃金ではさすがに働いてくれないとは思うんですけれども、極端に言えば、最低賃金であっても別に構わないよというぐらい、仕事に引かれて集まってくるというんですね。

 多分、僕は幾つかしか知りませんが、NPOで働く人たちも、NPOの理念とか、実現しようとすることに対して集まってくるのであって、決して報酬に対して集まってきているわけではないと思います。そういう意味では、阻害要因として挙げられている資金と人材に関しては、むしろビジネスモデルとか、本人が何をやりたいのかとか、そこさえはっきりとしていて、それがみんなの共感を呼ぶものであれば、自然と解決できるはずのものだと思います。それができないとしたら、それは自分志向すぎるビジネスモデルなんだろうと思います。

 

【小野】 エンタープライズ岐阜では、収入のことは、どんなぐあいですか。

 

【増田】 具体的に収入がどれだけかとか、そういった調査をしたことはありません。売上高の傾向といった調査はしていますけれども、ここのところまでなかなか踏み込めない部分もありまして、そういった調査はやっていないですね。

 

【山岸】 NPOの場合、これも経済産業省の調査ですが、平均135万ぐらいと言っておりますね。ただ、4割以上のNPOでは、年収240万円以上になってきましたから、これが6割、7割ぐらい増え、240万から500、800万となってくれば、もう少しすると、語るに足るというところにはなると思いますね。

 

【小野】 現状では平均135万ぐらいですか。

 

【山岸】 4割ぐらいが、何とか250万くらい。ちなみに、私のところを言いますと、大卒で330万の年収保証です。普通並みには払っています。食えるようにやるというのが事務局長なり理事長の役割だと思っています。仕事があってやるのではなく、やるぞというふうにやり、責任を持って、断固として宣言してやるようでないと、経営者には向かないですね。

 



【小野】 起業促進に向けた雇用政策ということで、第2番目の論点に移りたいと思います。起業促進に向けた雇用政策、特に今般提出されました「地域貢献型事業」の起業を通じた地域雇用創出の狙いなども含めて、お話をいただければ大変ありがたいと思います。厚生労働省の三沢次長さんから口火を切っていただきたしたいと思います。今般の新しい施策のご紹介も交えながら、行政としての狙いや基本的な考え方などについて、お話しいただきたいと思います。

 

三沢孝・厚生労働省職業安定局次長「起業促進に向けた雇用対策の現状」

「再就職援助」から「創業支援」へ

 それでは私のほうから、厚生労働省で考えております起業促進に向けた雇用対策の現状について、お話し申し上げたいと思います。お手元に資料として、現在支給しております起業促進関係の助成金、奨励金のパンフレットを配付してございますので、参照していただければと思っております。

 私どもでは、いろいろなメニューで今、雇用対策を実施しております。従来の雇用対策という考え方からいきますと、失業された方に対して、ハローワークで職業をあっせんするということが第一義的といいますか、それを基本に従来から行政を進めてきております。この再就職支援の枠組みを広げた形で、雇用保険法が昭和50年代にできました。そのとき雇用保険法の考え方として、再就職の支援とともに、失業の予防を図るということが、新たな雇用対策のメニューとして導入されました。

 具体的には、雇用保険の事業の中に、不況などで会社が一時的に休業するとか、社員を出向させるという場合に助成する雇用調整助成金制度などをその手段として設けました。そういう意味では、ハローワークによる再就職支援から始まって、失業の予防という形で今まで雇用対策を進めてきたわけでございますけれども、現下のこういう状況を見ると、こういう対策だけで果たして十分かという議論があります。そこから一歩踏み出しまして、産業、雇用の場をつくるというのは、起業活動を支援するということですから、産業政策の分野に入りますけれども、私ども労働行政の中でも、そういう起業といいますか、雇用の場をつくるような手段、メニューを導入する必要があるのではないかという考え方が生まれてきました。そういう意味では、「再就職援助から創業支援による雇用創出へ」という政策の手法が、新たにつけ加わってきているということでございます。

 そのために、どういう政策メニューがあるかということですけれども、高年齢者の助成金、雇用保険の受給資格者に対する創業支援助成金、あるいは今回対象としています地域の受け皿事業と3つあるわけです。高齢者の共同事業が最初にできた創業支援メニューです。その後、地域の受け皿と雇用保険の受給者の創業支援という助成金が、ほぼ相前後してでき上がってきました。

 ただ、地域の受け皿事業は不良債権処理という状況で行うことですので、時限的な措置として、平成16年度までの事業というぐあいになっております。したがいまして、平成16年度までに一定の計画をつくっていただくことが前提となる事業です。いずれせよ、新しい雇用の場をつくることによって雇用を生み出していく。こういう新しい政策メニューができ上がってきているということでございます。これが一つの大きな起業促進に向けた雇用対策の面での特徴点ではないかと思っています。

 

「全国一律」から「地域の独自性重視」へ

 それから、もう一つの点ですが、山岸さんもおっしゃっていましたけれども、地域における雇用創出の重要性ということです。我々、国としては全国一律的な雇用対策というのをこれまで行ってきているわけです。全国一律の施策であるという重要性、これは変わりはありませんし、今後もやっていかなければならないと思っています。ある程度、全国的に統一のとれた対応も、国としての役割だと思っております。

 ただ、地域の雇用の状況を見ますと、失業率なり、有効求人倍率も地域によって非常にアンバランスがあります。さまざまです。地域の産業構造なり、就業構造なりも違っていて、雇用に対するニーズも非常にばらつきがあるのではないかと思います。したがって、これから我々が雇用対策を進めていくに当たっては、やはり、地域の観点といいますか、地域の状況、独自性を配慮していく必要があるのではないかなと思っているところです。

 そこで、平成13年から経産省と私どもが協力して、地域産業雇用対策プログラムというものをつくり、地域の独自性に応じた雇用対策をやっていこうということで進めてきております。これは基本的には地域レベルで行政機関なり経済団体が連携して、きめ細かな対応を行うというものです。具体的には、例えば、地域で商工会議所などの協力を得て求人情報を開拓する、あるいは求人情報の提携を行うという事業であります。いずれにしても、地域のニーズに即した形でやっていこうという動きがこれまでもあります。

 そういう中で、今回、不良債権処理を発端として、雇用対策をどう充実していくかという点を内部でいろいろ検討してきました。その結果、新しいメニューとして、雇用の創出を図る、創業支援をやっていこうじゃないかというわけで、メニューをつくりました。その際、全国一律に雇用対策を進めていくというのは、必ずしも十分とは言えないのではないか、やはり地域の状況なり独自性にも十分配慮した形で進めていく必要があるという考えから、地域貢献事業に対する創業支援、起業支援という形で新しい政策メニューをつくったわけです。そういうことで、地域密着型の創業支援をやっていこうということを考えました。

 地域の状況を重視するという点については、現在、ハローワークで職業紹介をやっております。これは全国一律でやっているわけですけれども、地方公共団体、都道府県なり市町村の方々からも、職業紹介をぜひやりたいという希望を出される地方公共団体がございます。地方公共団体は、現在のところ、職業紹介業務をできないことになっているわけですが、ご要望も配慮しまして、現在、職業安定法の一部改正法案というのを改正して、衆議院のほうでご審議いただいております。

 その内容の一つとして、地方自治体も地域住民の福祉とか、あるいは産業政策情報の必要性、そういう観点から、附帯的に行う場合には、厚生労働大臣に届け出て職業紹介を行うという規制緩和、新しい業務を行えるようにしようという法案を国会に提出しています。これが通れば、地方公共団体においても、ハローワークと同じような形、地域限定ですけれども、職業紹介もできるということで、地域に応じたいろいろな職業のあっせんとか雇用の改善が進むのではないかと期待しているわけです。これは今回の助成金からずれますけれども、私どもとしては、全国一律の雇用対策から、地域の状況とか独自性を重視した雇用対策へ展開していこうと考えています。

 

地域雇用受皿事業特別奨励金とは

 そういう意味で、今回、地域雇用受皿事業特別奨励金ですが、これは予算規模で、平成16年度までですけれども、一般会計で1 ,000億円ほどの予算規模で実施していこうと思っています。この助成金には、これまでの雇用対策から踏み出した、あるいは前進といいますか、いろいろな思いが込められた助成金であるということをまず申し上げておきたいと思います。

 具体的に地域雇用受皿事業特別奨励金とはどういうものか。創業といいますか、起業といいますか、事業を起こしてもらわなくては始まらないものですから、事業を起こすということは、先ほど来いろいろお話がございましたけれども、一朝一夕にすぐ行えるわけではありません。そういう意味で、相当程度の準備期間が必要だろうということを踏まえまして、今回のフォーラムで取り上げていただき、皆様方に周知徹底を図り、活用していただこうと考えました。私どもとしましては、この5月を雇用再生創出キャンペーン月間に指定しまして、いろいろな周知活動を行っています。皆さん、自分で起業するという方もおられるかもしれませんが、ぜひとも、この活用をお願い申し上げたいと思っている次第です。

 

地域に密着した起業を支援

 この奨励金ですが、地域に密着した仕事の起業を対象としています。国の奨励金ですから、不正なことが起きたら困るとか、効果的に使われなくては困るとか、そういうことで一定の縛りがかかっています。

 この縛りをかけると使い勝手が悪いということで、ご批判もいただくこともあります。かといって、この縛りを緩めると、たちまち不正受給という問題が起きてくる。実際、中小企業関係の助成金がありますが、暴力団などに目をつけられ、全国各地でこの助成金の不正受給がございました。警察とも協力して、四、五十件ぐらい、刑事事件として摘発しているところです。そういう意味で、我々としては、使い勝手を考えなくてはいけないのと同時に、不正も防止しなくてはいけない。そこら辺の狭間もすくいながら、いろいろな要件を埋めていく。すると、利用される方々から見ると、「何でこんな要件がついているのか」「使い勝手が悪いじゃないか」と思われる点があるかもしれません。これにはそういう配慮があるためです。

 この助成金の支給条件は、法人を設立してから1年以内に労働者を雇う、非自発的失業者を雇うことです。3人以上雇わなくてはいけません。5人以上雇うと、最高限度額500万円、かかった費用の3分の1で500万円。3人、4人の場合は300万円が上限になります。

 「地域貢献事業」とはどういう事業かというと、経済財政諮問会議の「サービス部門における雇用拡大を戦略とする経済の活性化に関する専門調査会緊急報告」(2001年5月17日)の中で、生活の向上と経済活性化にとって有用な成長可能性の高い分野や、政策支援の必要な分野として、9つの分野があげられました。今回、その分野にプラスアルファしています。それが「地方公共団体からの受注事業」です。これはなぜかといいますと、地方公共団体は住民サービスを行うのが使命ですから、地域住民に密着した事業をやっています。それをアウトソーシングするのであれば、地域のいろいろな方々のニーズに沿った事業を行えるのではないか。地方公共団体からの受注事業であれば、どういう事業分野でもオーケーしようということを1項加えたわけです。

 「個人向け・家庭向けサービス」にはどういうことがあるかというと、家事援助サービスとか、社会人向け教育とか、いろいろあるわけです。子育てサービスもあります。高齢者向け、介護のサービスなども含まれます。

 いずれにしても、こういう地域貢献分野での事業をやっていただきたい。そして法人を設立してから1年以内に雇わなくてはいけないということです。

 

奨励金の支給内容

 それから、事業の申請方法や支給額についてですが、「対象創業経費」というのがございまして、大きく3つに分けられています。まず、法人設立に関する事業計画作成費ですが、経営コンサルタントに相談するといったことが必要になりますので、そのための経費を見るということです。また、従業員に対して教育訓練を行うための費用があります。それから、「設備・運営」ということで、事業所の工事費とか、事務所の賃借料です。賃借料は6カ月分まで面倒を見ます。この設備・運営経費の中に、人件費は入っていません。これは除いて算定します。こうした対象創業経費を6カ月以内に支払って、そのうち3分の1、500万円を限度に見るようにいたしました。

 創業経費だけですと、どうしても経済産業省の話になってしまうものですから、厚生労働省的な政策効果を出すという意味で、雇い入れた労働者に対する人件費の助成も行っております。労働者を1人雇ったら、1人あたり30万円を支給します。計画認定をして3カ月後に創業し、雇い入れた場合にお金を出す。1人30万円、100人を限度としています。

 ただ、ここで問題なのが、通常の失業者の場合は1人30万円ですが、「雇用調整方針対象者」の場合は60万円になるということです。「雇用調整方針対象者」とはどういう人かというと、不良債権処理に伴って企業が倒産する場合、そういう倒産した企業は、雇用調整方針というものをハローワークに提出することになっています。そのハローワークに提出された雇用調整方針に名前が載っている方、これはきちんと個人名で記載することになっていますが、その方を雇い入れた場合には60万円ということになっています。このように雇い入れる失業者によって額が若干違いますけれども、ご留意願いたいと思います。

 こういう30万円の人なり60万円の人がどこにいるかというのは、起業をする人はなかなかわからないはずです。起業しようと思っている人の周りにいればもちろんいいのですが、そうはなかなかいかないと思います。そういう場合、ハローワークに求人の申し込みをしていただければ、ハローワークではこういう対象者を把握していますので、あっせんすることになります。その際、当然、この人を雇えば30万円だ、60万円だということもお知らせします。この点、お問い合わせ願えればと思っております。

 ただ、求人の申し込みはハローワークですが、助成金の支給申請は「産業雇用安定センター」というのが都道府県にありますので、そこに申請をしていただきます。求人の申し込みはハローワークで、助成金の支給は産業雇用安定センターでというわけで、手続が統一されておりません。ご不便をおかけしますけれども、ご注意いただければと思います。

 こういう助成金を、皆様方、いろいろなところへご周知なり、ご活用いただいて、雇用機会の創出につながればと思っております。よろしくお願いいたします。

 



討論2

【小野】 他のパネリストの方々から、ただいまご紹介がありました施策に対するコメントも含めまして、地域における起業の促進のための方策について、それぞれお考えがあれば聞かせていただきたいと思います。また、前半の論点1の議論で述べ足りないというところがございましたら、この機会に補足していただいても結構です。それでは、竹内さんから順々にお話をいただければ思います。

 

【竹内】 まず先に全般的なことからお話ししたいと思います。私どもで支援開業調査というのをやっております。99年の調査では、外部の機関から何らかの支援を受けているか、支援を受けて開業したり、あるいは開業後に支援を受けたりしているかどうかを質問しました。その質問の結果から、先ほど申し上げました月商の予想の達成度合いとの関連を比較してみたのですが、何らかの外部機関を利用している企業は、利用していない企業よりも月商の予想の達成度は高いという検定結果が出ました。

 ただ、サンプル数が少ないということもあり、外部機関の種類別に見ていきますと、優位な検定結果が出たのは、例えば税理士さんであるとか、民間の経営コンサルタント、民間の営利組織だけでした。99年当時ですから、今と比べれば、公的な支援にしてもそれほど充実していたわけではありません。このときの結果をもってして、「今も同じだ」とは言いかねるわけです。現実問題として、例えばインキュベーターか、あるいはそこに入居している企業の方にヒアリングをした結果から言いますと、公的な支援に関しては、結構お金を使っているわりには、あまり創業、あるいは創業後の経営に対して十分な効果を上げていないのではないかと思われます。

 今、非常にインキュベーターがはやっていまして、毎月二、三件は全国のどこかから出てきている状況です。昨年、個人的にインキュベーターの調査をしてみました。入居率と家賃との関係とか、いろいろと調べてみたんですけれども、結局、満杯になっているインキュベーターと、がらがらのインキュベーターがございます。ひどいところだと3割ぐらいしか埋まっていないところもあります。いっぱいになる条件は何かというと、家賃が安いことです。それから交通の便がいい。近くにコンビニがある、飲み屋がある。ビジネス環境だけではなく、生活環境も整っているということが、インキュベーター成功の条件の1つですね。

 一方で、最近は「ソフト面での経営支援もやります」というところがあります。岐阜の方もおっしゃっていましたが、ソフト面の経営支援もやっていく。それでうまくいっているところもあるし、それほどうまくいってないところもある。入居率とソフト面の支援との関係に関しては、あまり強い相関というのが見出せませんでした。インキュベーターそのものは結構歴史あるものですが、今ほどたくさんできるようになったのは、ほんの数年のことですので、まだインキュベーションのノウハウがたまっていないということが原因ではないかなと思います。

ドイツはインキュベーターの先進国として知られていますけれども、どこのインキュベーターに行きましても、「私たちは入居企業に対してあらゆるサポートをします」とか、「自分たちがサポートし切れない分は、専門家とネットワークがあるので、彼らを利用してアドバイスをしています」というふうに言います。実際の入居率を見ますと、平均すると70%ぐらい、地方によっては50%ぐらいです。入居したドイツの企業の方に、何でそのインキュベーターを選んだかと聞いたら、やはり家賃とか、交通のアクセス、それから生活の利便性といった形で選ばれる。地方で山を切り開いてつくっていたのが、最近では、都市部の例えば小学校を使うといった形が少しずつ増えてきています。インキュベーションを行う場合は、立地をまず優先的に考えていただきたい。ソフト面の支援もすごく大事ですが、それ以上に「入りやすいかどうか」が大事だという点が一つあります。

 特に公的なインキュベーターに入った場合、一定の審査を受けて入っているということですので、それなりに金融機関に対しても信用がつくという現象が実際にあるそうです。ただ、公的な支援の中で、場所や施設の提供はいいのですが、ソフト面の支援に関して、一体どこまでサポートすればいいのかというのは、若干疑問が残るところです。

 例えば、販路開拓のまで支援されるというのは、それはそれで構わないのですが、同じマーケットを対象にする違う企業から依頼があった場合、どちらを優先するのか。競合する問題が出てきてしまうので、あまり深く立ち入るとまずい場合も出てくる可能性があります。かといって全然やらないと、育つものも育たない。その辺の見きわめをどうするのかということが、課題として残るのかと思います。

 アンケートで「どんな公的支援を望みますか」と聞きますと、圧倒的に多いのは、「もっと金を貸してくれ」という意見です。その次が税制上の優遇措置で、この2つに集中します。これらを除きますと、中高年層の方を中心に、「コンサルティングをしてほしい」という意見が、このところ目立ちます。開業経験のある方は知っていると思いますけれども、開業してみて初めてわかることがたくさんあるんですね。開業前、どんなに入念に計画を立てても、開業後には思わぬことが幾らでも出てくる。一番端的な例として、例えば、開業に必要な資金の見積もりが、当初の予定を大幅に上回ってしまうなんていうのはよくあることです。それから、開業前に約束していた取引先が思ったほど買ってくれないということも当然あります。要するに、計画というのは大体うまくいかないと考えたほうがいいわけです。そのとき相談できる相手がいると非常に便利です。何も大きなシンクタンクのコンサルタントを呼ぶ必要はなくて、ほんとうにちょっとしたアドバイス的なことでも構わないと思います。

 それを実践していますのが、大阪市の「あきない・えーど」ですね。大阪市産業創造館にあります「あきない・えーど」。僕が最初に行ったときには、まだ船場のほうの汚いビルに入っていましたけれども、今は産業創造館という立派なところに入るようになりました。所長がかわって、ちょっとこれからどうなるか、関心のあるところですけれども、ここなは非常に市がバックアップしていまして、民間のコンサルタントを非常に低料金で利用することができます。いわゆる一般的な経営コンサルタントもいますし、例えばITに関しての専門のコンサルタントとか、そういうのが月1回数千円でできます。もっと深く関わってほしいと思えば、個別に契約することもできる。コンサルタントに対するアクセスを、自治体が間に入ることによって改善してあげるというようなことをやっているわけです。

 それと似たような形ですけれども、あるインキュベーターの中に入っているNPOですが、僕が行った当時はまだ、NPOの目的として起業支援が認められていなかったので、まちづくりという名目で、実際には創業支援をやっていました。そこも非常にうまくいっていました。対象とする業種が主にIT関連とか、デザインとか、あまり資金の必要がない業種ということもあったんでしょうけれども、1年か、早いものは半年ぐらいでインキュベーターを卒業して自立していくというようなことを言っていました。やはりそれはNPOという民間の方々、民間の事業者の方々が組織している団体ですけれども、経験豊富な方々がアドバイスをしてくれますので、そういうことが可能になるんだろうと思います。そういう意味で、いわゆるハコモノは自治体が提供して、運営は民間なりNPOがやるという、いわゆるPFIですか、そういう方式で運営されていくと、地域の状況に応じた、ふさわしい支援というのができるのではないかと思っております。

 よく自治体等で創業支援セミナーを開くんですけれども、そのときに気をつけてほしいなと思うことがあります。一般にセミナーというのは成功することだけを考えてセミナーをやるんですけれども、中小企業はあれだけ開業して、10年もあれば半分以下に減ります。それぐらい寿命が短いのが現実ですので、やはり、失敗するということも考えなくてはいけない。

 先ほど申し上げましたように、事業計画というのはあくまで指針であって、それがうまくいかなかったときに、どう対応するのかということも、そのセミナーで教えていかないといけない。セミナーで教え切れない部分は、事後のコンサルティングという形で追いかけていくことが必要だろうと思います。専門家のコンサルタントも必要ですし、例えばベテラン経営者で息子に経営権を譲ってしまった元社長さんといった地域に埋もれている企業経験者の方々のネットワークをつくり、彼らをアドバイザリースタッフにする方法も考えられます。実際、DDCというカナダ開発銀行では、そのようなネットワークをつくって、自分の融資先に対して、簡単なアドバイス程度のコンサルテーションを行っています。それによって小さな問題は解決ができるということですね。

 次の課題としましては、これはもう地域だけの問題ではないんですけれども、やはり、女性の開業者をいかに増やしていくのかということが課題になっていくと思います。男性に関しては、開業すべき人は大体したと言えるだろうと思いますので、これからは女性がどれだけ開業するか、何しろ人口の半分以上を占めているわけですから、彼女たちがどれぐらい開業するかによって、日本経済の活力が変わってくると思います。

 ただ、そのためには、必要なこととして、企画ですとか管理、営業といった、なかなか学校では学べないようなスキルを学ぶチャンスを、職場なり何なりで与えてほしいということです。いまだにガラスの天井というのは存在していますし、女性をいまだに補助的な位置づけ、例えば企画部門に配置はするけれども、実際の主役は男性というような雇用の仕方をしている会社が少なくありません。そういうところを改めていただいて、女性でも経営に必要なスキルを身につける機会ですとか、あるいは事業機会を発見する機会を与えるような経営の仕方をしてほしいと思います。不幸にしてそういう機会がなかった人に対しては、やはり、トレーニングをしていくということが必要かなと思います。

 また、これも先ほど藤沢さんもおっしゃっていましたけれども、地方の中小企業は売り先にすごく困るわけですよね。一般消費者向けの商売をしている場合はしようがないですけれども、ソフトウェアであるとか、建設業もそうですが、事業者向けの場合には、公的な機関が購入してあげることが必要だと思います。ただ、現在の入札資格制度、例えば国の入札資格制度に大体自治体も準じていると思いますけれども、あの資格制度を見ますと、大企業が非常に有利な資格制度になっております。それを改善しまして、自治体独自で中小企業でも入札の対象になるような資格制度に変えていくことが必要かと思います。そうすれば、たとえ1 ,000万円とか2,000万円のプロジェクトでも、中小企業、特に創業したばかりの企業にとっては大きな金額ですので、非常に経営の助けになるということです。

 最後になりますが、行政の政策として、気のせいかもしれませんけれども、法人ばかりに目が向きすぎているかなと思います。実際には中小企業の半分ぐらいは自営業です。先進国の中で自営業が減少しているのは日本だけだといわれています。ほかの国ではどこも自営業が増えている。日本だけなぜ減っているかというのは、ちょっとわからないところがありますが、事実として、そういうデータがあります。別に法人だけが中小企業、ベンチャーではありません。個人にも目を向けた政策を打っていかないといけないのではないかと思います。

 

【藤沢】 「全国一律から地方独自へ」という今回の新しい法案ですが、これはほんとうにすばらしいことだと思います。今、テレビ2本とラジオ1本、全部、中小企業関係のものばかりですが、その関係で毎週、少なくとも3社の社長にお会いするということをしています。その中で、「たくさん補助金制度ありますよね。使っていらっしゃいますか」と聞くと、大体みんな「使ってない」とおっしゃるんです。面倒くさいと。それをもらうために随分書類をつくらなくてはいけない。書類をつくった上に面接されて、事業をやったこともない人に偉そうなこと言われて頭にくるとおっしゃる方がすごく多くて、意外に使っていらっしゃらない。私も使ったかというと、やはり使っていない。

 当時、通産省の勉強会にも参加させていただいたんですけれども、結局、補助金を取りにくる企業というのは、ほんとうに大変ではない企業が多いのではないかという議論が出てくるわけです。それは段ボール1箱分の書類をつくれる余裕がある人がいる企業ではないかと。やはり、起業したばかりのところというのは、事業を立ち上げるだけで精いっぱいです。書類つくる時間はない。今度、友人が始めたビジネスは何かというと、書類をつくってあげるビジネスです。いいのだろうか、こんなことで。私はやはり、ほんとうに事業をやりたい人に事業をやらせてあげていただきたい。敷居を低くしていただきたい。

 そんな中で、最近地方でおもしろい動きがあります。この間、新潟の燕三条に行ってきましたが、補助金を差し上げるのに、絵をかきなさいという話がありました。何でもいい。書類では決めない。「こんなことやりたい」というのをかきなさいと。イメージだけでもいい、漫画でもいい。総合的にコンサルティングをするのであれば、そういったところが絵で描かれた状態で、「この企業をどうサポートしたらビジネスとして立ち上がるんだろうか」というのを一緒に考え、補助金の額を決める。こうして補助金を出す出さないを決める工夫もしていたらどうか。補助金の出し方も一律というのは、改善したらどうかと感じているところです。

 そして次に申し上げたいのが、ベンチャー、創業、起業と申し上げているんですけれども、真っさらなところから起業するのではなくて、私は、第二創業を見落としてはいけないと思うんです。既に事業をやっている会社、中小企業は、大体、お父様方は30年たって、そろそろ引退ですけれども、ある程度の余力があるわけです。そこに新しい次の代が入ってきて、それは息子さんでも娘さんでも外部の人でもいいですけれども、新しく事業を生まれ変わらせる。そういう第二創業というものを、もっと育成しても、促進してもいいのではないかと思うんです。やはりゼロからのスタートよりも、既にビジネスのネットワークがありますから、場所もある、人もいる、工場もある。これだけ財産があるにもかかわらず、そこにもっと資金だとか、いろんな付加価値、サポートをしていかないのはもったいない。既にやっていらっしゃるとは思うんですけれども、もうちょっとその部分、仕組みがつくれないかというのを感じているところです。

 それから、先ほどから出ている販路拡大あたりのソフト面の支援ですけれども、やはり中高年齢者というのはすごく強いと思うんです。竹内さんもおっしゃっていた「あきない・えーど」、私も行ってきました。大手企業出身者の方々が、何と時給500円ぐらいで働いている。それも部長さん以上の方です。「退職したときに部長以上」という方しかコーディネーターとしては働けなかったとおっしゃっていましたが、それはなぜかというと、ネットワークがあるからということでした。そこで、とても印象に残ったことがありました。その方は「こういったコーディネータービジネスができる人間には人間性が必要です」とおっしゃるわけです。大企業で、「はい、コピー」、「はい、切符買ってきて」、「はい、車来たら呼んでね」というような方は無理だと。自分の足で歩いていって、御用聞きをして、「何を困っているの」、「何が大変なの」と聞いてあげるような、ある意味おせっかいかもしれないですけれども、そういうボランタリーな心を持っている必要がある。助け合いたいという心を持っていない人、それから、インターフェースですね、人を傷つけない話の仕方、そういった基本的な人間同士のコミュニケーションがとれない人はコーディネーターとして働けないとおっしゃるんです。ですから、こういうコーディネーターの方々を増やしていく、中高年齢者を新しい雇用の対象者として考えるのであれば、スキルのほかに、こういった人間性の部分、意識改革の部分の教育支援が非常に重要ではないかと思います。

 これは同時に自治体の方にも必要なのではないでしょうか。「補助金つくりました。欲しい人いらっしゃい」ではなくて、「どんな補助金が欲しいのですか」と聞きに行く。これは新潟の燕三条もそうでしたし、山形県の長井市もそうでした。自治体の方がその地域の中小企業を何百件、何千件全部足を使って回られているんです。そうやって来られると、企業側も、「自治体、本気だな」と思うわけですよ。ですから、自治体もそう、中高年齢者もそう。やはり足で歩いてニーズを聞いてくるという努力です。

 自分で会社を起こした人たちは、もともと夢があって、これをやりたいと思っているから、足で稼ぐ、足を使う努力をいとわない人たちです。そういう人たちのところに、やはり足を使う努力をいとわずやって来る人というのは、何か通じるものがあるんです。そういうことをぜひ考えていただきたいと思いました。

 女性の起業に対しては、随分チャンスも増えてきていると思うんですけれども、特に女性に関しては、経済的な自立ができるような教育が必要だと思います。どういうことかというと、やはり、キャリアというものを考える。一生どうやって食べていくかということを考える。ものすごく基本的なことですけれども、下手をすると、だんなさんに経済的に頼ってしまおうと思ってしまうところってすごくあるんですけれども、実は、これだけ離婚率が高まっている今、だんなさんに頼って一生生きていけるとは限らないわけです。では、だんなさんがいても、いなくても、いかにして経済的に自立できるかという状態を考えることは、すごく大事だと思うんです。それはどういうことかというと、キャリアプランだと申し上げました。キャリアプランというのは、もう少し言葉を変えていくと、「自分自身をいかに経営していくか」ということなんです。自分自身は何をメーンビジネスにして、何を売りにするか。そして、その自分のビジネスをどの企業が買いたいと思ってくれるか。どの企業に買わせたいかと思うことです。ですから私は実は女性に対して、経営的な知識を学んでもらうためには、経済的な知識というのを学んでいただくというか、学ぶ機会をつくっていく必要があるのではないかと思っています。

 あと、自営業が減っているという竹内さんのお話がありましたが、これに関しても一言。「ビジネス塾」などのテレビをやっていて感じているところは、やはり日本というのは、お金を借りるときに、企業とプライベートが分離できないということです。銀行でお金を借りようと思うと、自宅を担保に入れろと言われます。私はベンチャーキャピタルに出資してもらおうと思ったら、生命保険をかけろと言われました。会社がつぶれたら殺されるのかなという、恐怖さえ感じるわけです。やはり、事業とプライベートをきちんと分離できるような仕組みをつくっていただかないと、恐ろしくて、もし中小企業をやっている親がいるならば怖くて、子どもは起業したいと思わない、継ぎたいとも思わない。その辺の公と私の分離というのも課題なのではないかと感じました。

 

【山岸】 今の話をちょっと受けながら、いろいろ思い出したところから話したいと思います。たしか国民金融公庫が女性・高齢者の創業支援のために融資を開始したのが、7年ぐらい前でしょうか。実は、私のシンクタンクでそれを受けて、1カ月で仕上げたものがその案で、それが珍しく成功したと、担当の課長補佐は今でも会うたびによく言ってくれます。それが三百何十億に達した時点のことですけれども、「借りに来るのは女ばかりで、男はだれもいない、1割しかいないよ」というようなことを言っていました。そのとき思ったのは、この社会の男性は、リスクを負って仕事をやっていくこと、もちろん、株式会社でも当然リスクを負っているんですが、ほんとうの意味でリスクを負って仕事をやっていくことにまずなれていない。あと、革命的に、経営マインドを持って、「やるぞ」というところまで行くのには、単にサラリーマンの延長では絶対無理だと思うんです。私の経験から、そのように思いました。

 それから、たしか、一、二年前に見て、愕然としたんですが、自営業者とサラリーマンの収入の差についてです。記憶に間違いなければですが、私が大学を出た35年ぐらい前に、自営業者はサラリーマンの収入を下回っているんです。つまり、「中小企業者にならないほうがいいよ」と数字は言っているわけです。「サラリーマン天国がいいよ」、「文句言いながらやっていたほうがいいんだよ」というような数字なんです。「絶対もうからないよ」というのが、三十何年か前の中小企業庁の統計がそう言っているのを見て、「こんなにもうからないのか」と思いました。周り見ても、中小企業主でもうかっているという感じはしない。これではやる人いないなと、改めて今も思っているので、そういうところも大きな課題なのかと思います。

 もう一つ大事なことですが、だめになったとき、要するに倒産したり何かしたときの安全装置が全く日本にはない。私も2人ばかり倒産の手続を手伝って、個人破産を手伝ったり、夜逃げを手伝ったり、いろんなことをやっているんです。

 ここ三、四年、随分勉強になったんですが、かなり前もって知識を持っていれば、そんな悲惨なことにはならなくてもよかったんです。中小企業をやるときには、株式会社というか資本主義の論理が通らない。家族、つまり、自分の全財産を入れて初めて成り立っていく。日本は銀行が本来の意味の銀行屋ではないので、担保で全部やるので、土地、家を全部入れることでやっともっていく。金を借りるのも個人の保証ですから、それなしには絶対銀行は貸しませんし、今でもそうです。ですから、そういう中でいくときに、安全装置をどうきかせるかということを、前もって相当教えていかないと、さきほど申し上げましたように、多分、起業しても相当数が失敗する。失敗のほうが多いのではないかと思います。安全装置がないために、もっと悲惨な目に遭うというのが現状だろうと思います。

 ちなみに、倒産する前には、その手続をするために、200万円か300万円か納める金がなくてはいけません。1 ,000万円ぐらい持ってないとスタートできない。1,000万円もあれば倒産しないよと思うぐらい矛盾しているんですけど、実は、こうしながらやっていく。「なるほど、こうやるのか」というのを、私も横で見ていたんですが、そういう安全装置について、もっと徹底的に教育していく。経営マインドを持つということと、そういう徹底した安全装置についての知識、これを支援していく措置がないといけません。私も今57になりましたけれども、自殺やホームレスで一番多いのが、ちょうど56、57歳といいます。「ちょうど当たったな」と変なところで感心して悲しかったんですけれども、多分、そういう思いをみんなしているのではないかと思います。

 もう少し、NPOの側が仕事をやっていくときの大きな悩みですが、これはいいことではないのですが、行政との連携というか、パートナーシップとかっこよく言いますけれども、そこから得る資金というのが7割とか8割を占めております。「我々は下請けではない」と言いつつ、対等でということになるわけですが、圧倒的に力の差がある中では、絵に描いたもちになりやすい。やはり「社会的な投資をNPOにするんだ」ということを、特に行政にいらっしゃる方はよく考えていただきたい。ほんとうの意味の対等なパートナーシップ、パートナーシップというのは、私の持論で言いますと、「非同一性、違いを認め合う」、「対等であることを認め合う」、「時限性、時間的な距離があって、そこで決まる」という3つの原則があり、情報公開しながらやっていくのがパートナーシップです。ここの開発がなかなか進んでいなくて、行政も理解しない。NPOでも後ろから弾撃つやつもいて、「癒着するな」とかいろんなことがある。もっとそこを開発していきたい。

政策のことも、NPOの側によく意見を聞いて実施していくというところを、ぜひお願いしていきたいと思っております。NPOはちょっと無謀なところがあって、「先行き何とかなる」なんて考えてやる人は多分1割か2割しかいません。とにかく、やむにやまれずスタートを切る。スタートを切って地域でやる以上、倒れるわけにもいかないし、みっともないし、やっているうちに何とか食えるほうに転化していく。かなり逆の論法なんですけれども、そういうことをみんなが支援していくというんでしょうか。アメリカでは女性は、やはり差別がありますから、一番賃金が高いのは企業で働くこと、2番目がNPO、3番目が公務員と、そういうレベルまで来ているんです。例えば、ハーバード大学を出た人間の、ある時期の4分の1以上はNPOで働いているんですね。非常に優秀な人材がNPOに来ている。そういう域までレベルアップしていくというとき、社会全体が社会的な投資をしていくということをぜひ心がけていきたいものだと思っております。

 

【増田】 私からは、地域における起業の促進の施策について、2つのステージから考えてみたいと思います。

 まず、先ほども言いましたように、地域では、創業をやろうという意欲のある方はたくさんいらっしゃるんです。でも、なぜ開業まで行き着かないかということを、いろいろ考えてみますと、よくよくそういった方に聞いてみますと、創業の仕方がわからないとか、会社のつくり方がわからないとかといった、基礎知識を知らない方がほとんどであります。現在、そういった基礎知識を勉強してもらう機会として、起業家セミナーを各支援機関がいろいろやっています。この起業家支援のセミナーは、現在、中小企業庁から来る予算と、県から来る予算、それから厚生労働省関係から来る予算ということで、いろいろなところから縦割りで予算が来ております。内容を見ましても、同じようなときに同じようなことを開催しておりまして、なかなか体系立って企業家セミナーが行われていないというのが一つの原因です。

 今後、起業を促進するためには、そういった悩みを解消するために、起業家セミナーをうまく活用するのが一番ポイントだと思います。そこで、3つの段階で起業家セミナーをやったらどうかと思うんです。

第1番目としては、起業マインドを向上させるような内容でやる。2番目としましては、創業に向けて専門的な知識を習得していただく。いわゆる法律的なところとか、税務、会計といった知識を習得するためのセミナーをやる。3番目のステップとしては、創業に向けて、すぐ銀行に出せる事業計画の作成までできるような起業家セミナーをやる。そうすれば、創業しようという方にとって、自分の熟度に合わせてセミナーを受けることができます。我々のように支援する側でも、その熟度に合わせてサポートすることができますので、起業家セミナーに横ぐしを通すというのが、一つのポイントになると思います。

 2つ目の起業家に向けての論点は、起業した後のサポートをどうするかということです。雇用創出から起業を考える場合、起業の数を増やしたり、開業率を上げたりすることが必ずしも目的ではないと思うんです。起業した後、いかに雇用が創出されていくか。もっと言えば、その会社がいかに事業を継続していくかというのが非常に大事でございまして、これは先ほど論点1で藤沢さんもおっしゃっていたんですが、いかに経営を継続していくかということが、非常に大事になってくると思います。

 この部分をいかにサポートしていくかということが問題で、先ほど、創業のときの障害が、人材の確保と販路開拓だと言いました。人材の確保については、現在、いろんな場面で人材マッチングということでサポートはされています。しかし、実際、聞いてみますと、ベンチャー企業が求めている人材と、就職を希望してみえる方の人材のミスマッチングが起きているのが多い。具体的に聞いてみますと、ITベンチャーですと、ITベンチャーでは、ある程度、コンピューター言語ができる、そういった高度な方を求めているんですが、就職を希望される方は、簡単なシステム開発ができるぐらいの程度でしかない。そういうミスマッチングがあります。ですから、そういった方、就職を希望する方の能力をいかに上げるような施策を展開するかというのが、ポイントになるかと思います。

 それから、先ほどから竹内さんも藤沢さんもおっしゃっている販路開拓です。販路開拓の支援もやっていかなくてはいけないということで、先ほど論点1で、エンタープライズ岐阜は事業可能性調査事業で販路支援をやっていると聞きましたが、根本的にベンチャーの販路開拓で行政ができることは、ベンチャー企業がつくった製品を行政側が買ってやるということです。これがやはり大事だと思います。もちろん、サービスであれば、サービスをどんどん活用することが大事になってくると思います。ただ、行政がベンチャーの製品を買ってやることについては、非常にリスクが高い。まだ創業して1年とか2年の製品を買うわけですから、非常にリスクが高いんですが、やはり、本気でサポートしようと思ったら、行政もある程度リスクを持ってやらなくてはいけないと思います。

 ベンチャー企業の経営者は、急流の川を泳いでいるというふうによく言われます。我々行政のほうは、川岸のほうから、おぼれそうなベンチャー企業に対して浮き輪を投げてあげる。これは補助金みたいなものですが、それですと行政側は安全なところにいますから、リスクがないわけですね。リスクが伴わないとほんとうの支援はできません。やはり、我々としては、せめて片足ぐらいは川に突っ込んで手を差し伸べてあげる。そういった支援が必要になってくると思います。そういったことから考えると、思い切って行政側もベンチャー企業がつくった製品を買ってやる必要があるのではないかと思います。つまり、創業1年目というのは、ベンチャー企業にとっては信用もないですし、実績もないということで、そういったところを今後どうやってサポートしていくかが大きなポイントではないかと思います。

 せっかく先ほど三沢さんに、地域雇用受皿事業特別奨励金のお話をしていただきましたので、これは地方からのお願いというか、要望事項としてとらえていただければいいのですが、この奨励金の内容を見させていただきますと、従来と比べて、対象の創業経費が非常に使いやすくなったり、かなり使い勝手がいい補助金になったと思います。しかし、実際にもしこれを地域でやる場合、地域に貢献する事業ということで、1から10までありますが、岐阜県でこういった事業が成り立つかどうか。確かに岐阜市など都市部では、子育てサービスとか高齢者ケアサービスといった創業は成り立つんですが、郡部や町村のレベルになりますと、まだまだ3世代同居の家庭も多い。なかなか、子育てサービスの需要もありませんし、近所の目もありまして、介護サービスもなかなか受けにくいという実態があります。ですから、なかなか郡部では、こういった1から10に当てはまる事業がやりにくいということがございます。できましたら、もう少し地域に密着した、例えば農業関係とか地場産業で地域に貢献できるようなことがあれば、対象にしていただけると非常にありがたいと思います。

 農業関連のベンチャーで、非常に雇用創出が上がった事例を1つだけご紹介します。岐阜県に高根村という村があります。この村は、人口が800人ぐらいの村でございまして、県庁所在地の岐阜市からは最も時間距離が遠い、3時間ぐらいかかる村ですが、この村で今、全国に発信するベンチャー企業が生まれております。それはどういったベンチャー企業かといいますと、唐がらしからソースを開発したベンチャー企業です。唐がらしソースというのは一見ありそうなんですが、実は全国的になくて、製品特許を取っております。唐がらしを村で使わなくなったトンネルの中で、1年半ぐらい寝かせまして、じっくり熟成をさせて、そこに酢を混ぜて、唐がらしソースをつくったんですが、これが結構受けました。イタリア料理にも合いますし、和食とか中華にも合いまして、現在、全国展開しております。県としても県産品として認定しながら今やっているところですが、ここがなぜすごいかといいますと、人口がたった800人しかいないところで、雇用が8人生まれております。そうすると、人口比率でいきますと1%の雇用創出ということになりまして、比較はちょっとおかしいかもしれませんが、地方都市の10万人都市ですと1 ,000人の雇用が生まれたと同じような効果があったということになります。こういった農業関連のベンチャーも頑張っておりますので、ぜひ、地域雇用受皿事業特別奨励金の中に、そういった地域に根づいた、特有なベンチャーに対しては、ぜひ対象にしていただけるとありがたいと思います。

 

【小野】 助成対象の産業が、都市型の分野に限定されていて、農業などはどうなのか、あるいは、藤沢さんから、書類をつくるよりは絵をかかせたらどうかといったお話もありましたが、三沢さん、いかがでしょうか。

 

【三沢】 書類とかは大分簡略化しているつもりですけれども、一方で、不正受給などもありますので、なかなかそこのところは痛しかゆしのところがあるのではないかと思います。これをどう思うかというのは、実際やってみて、批判があればまた修正するということだと思います。

 増田さんから言われた農業についてですが、そういう話もあるんですけれども、これも実際やってみて、どうなるかを見ながらやるということではないかと思います。

 



質疑応答

【質問者1】 高齢者ケアでコムスンの話が出ましたけれども、例えば、事業として営利企業がやる場合と、NPOがやる場合で大きく違う点はどういうところでしょうか。

 それから資金面についてですが、NPOとして、非営利ということであるんですけれども、運転資金でありますとか、起業資金でありますとか、そういった資金面というのは、どういったサポートが必要だろうかというのをお伺いしたい。

 それと、雇用受皿事業特別奨励金ですが、NPO法人は対象になるんでしょうか。あと要望ですが、雇用受皿事業特別奨励金、非常にいい制度だと思うんですが、要件として「うち最低1人は、30歳以上の雇用調整方針対象者または再就職援助計画対象者であることが必要です」というのがあります。先ほど、縛りの話がありまして、これはよくわかるんですけれども、例えば、福岡県の場合、「雇用調整方針は四大金融グループの不良債権処理に伴って雇用が調整された方」というのが条件になっております。ところが、地方都市に行きますと、四大金融グループとつき合いをやっている企業というのはそれほどはございません。したがって、先週聞いたところによりますと、この雇用調整方針による対象者というのが、本県(福岡県)ではまだ1人もいらっしゃらないということでした。その辺を、地方の実情に応じた形で、より使いやすくしていただきたいなと思います。

 

【山岸】 高齢者ケアについて、営利会社とNPOの違いですが、私はアメリカから帰ってすぐ、東京板橋区に、障害者、高齢者向けの日本最初の福祉NPOを立ち上げ、5年目ぐらいに1億5 ,000万円の収入まで来るところまでやった経験があります。どこが違いなのかといつも考えていたんですが、例えば、NPOの場合には、地域のニーズを総合的にとらえようとする。もちろん行政もとらえようとしますが、1つは、縦割になるわけです。それは別に悪いことじゃないので、例えば、板橋区でも高齢者向けの施策というのが、例えば200ぐらいあったとします。生きがいから、おむつをあげるから、お金をあげるからあります。しかし、それをどう使っていいのかというのが、個々人ではわからない。例えば85歳で倒れて、それからどうしようかというとき、行政のどんな支援があるかというのは、だれも翻訳してくれない。総合的にだれもやってくれないところを、NPOは最初に、「地域にある公の支援に何があるか」ということの通訳者になる。例えば、85歳の人が倒れて困ったときに、あなたにはこの施策が使えるという。

行政の場合、ある意味では上から見るんでしょうけれども、NPOの場合には、個人に合わせて総合的にその人を支援する体制をとることを目指してやってきて、それがうまく当たったということだろうと思うんです。もちろん、行政もそういうことを目指していると思います。ただ、企業の場合、そこはやっぱり得手、不得手があって、横にそういう連携をつないでいくというのは、NPOの得意とするところだろうと思います。

 営利会社の場合は、先ほど申し上げたように、もうかるところだけやるわけです。もうかること以外やってはいけないわけ。企業は、原則として、営利が目的ですから、それ以外をやると商法違反になるわけですから、いろいろなところが漏れてくるわけです。自分が倒れると、食事も何もトータルに、病院にも連れていってほしい、トータルに何とかならないかと思うわけですけれども、そこを企業に多く任せると、ある意味では虫食い状態になりやすいということです。必ずなるというわけではありませんが。

 福祉のニーズというかマーケットというのは、どんどんどんどん広がって、いろんなニーズが見つかっていく。そしてNPOは必ずサービス料を取ると言いましたけれども、そうじゃない部分が必ず実は2割、3割あり、下手すると4割ぐらい出てきてしまうんです。どうしても出てくる。それを時間差のところで、やっと事業化に持っていく。とにかくトータルに地域の福祉を保っていこうとするのがNPOの大きな違いで、そこが伸びたほうが、私は地域としてもっと効率性、機能の面でもすぐれていると思っております。

 ついでにコストの面で言いますと、行政がやった場合とNPOがやった場合、大体4分の1から6分の1というコストの差が出てきます。当然、行政のほうが4倍、6倍かかるというのが出てきております。

 それから資金のことですが、NPOにとって一番注目しているのは、NPOを経営学としてとらえていくことです。マネジメント、経営としてどうやるかということが、今迫られている。この感覚のないNPOというのは、これからもたないだろうと思います。特にNPOの悩みは、9割はお金がないということです。お金の面だけで限れば、寄附や助成金、さまざま補助金、委託事業のとり方のようなペーパーを書く訓練をする。例えば財団では日本財団がNPO、ボランティアに10億円以上、毎年出しておりますけれども、そういう申請書の書き方とか、どうやってミッションを伝えていくかというようなことがあります。

あと融資の問題です。これは実は労働省が管轄している労働金庫のことですが、我々はNPOバンクを探すということで、これも旧労働省のとき、労働金庫協会にも話をして、研究会を設け、結論としては、あらゆるNPOに融資を開始するということになり、2002年度から全国各地でほぼスタートしました。今は信用金庫などでも若干始めています。

 4省共同協議会という4つの中央官庁の官僚の人たちとNPOが一緒になって、協議会をつくっていました。決まった予算に対して文句言うようなことではなかなかうまくいかないので、予算という源流から、お互い協議し合いながら、提案し合いながら要望する。下流に流れるところもお互いチェックする協議会みたいなものをつくっていく。

NPOの側では、今全国ネットで、NPORTというNPOの総合情報サイトを開いております。ここでは、政府の予算は今何が出ているかというのを、ほぼ全部見られるようになっています。ウェブ上で、特に使い物になるのと使い物にならないのを時々分ける。あるいは、どこで人材を募集しているか、就職情報も出しております。常時50人ぐらい募集しているのが出ている。そういうのを県のほうでも運営していく。NPOに補助金という形で投げるのは、あまり有効性でないと思うんです。やはり、委託事業できちんとやり、きちっと審査して、きちっとやっていくということが、これからの時代ではないかと思います。

 

【三沢】 受け皿事業は、法人であればいいものですから、NPOももちろん対象になります。公益法人も大丈夫です。

 それから、雇用調整方針対象者ということで、確かに、雇用調整方針対象者は主要行ですから、支店はあると思いますけれども、福岡には主要行はないですから、そういうことでなかなか出てこないと思います。もう一方で、再就職援助計画対象者もオーケーですから、これは事業活動縮小で30人以上縮小させる場合は必ず出さなくてはいけませんし、それ未満の場合でも任意に事業主が出せますので、そういう方もおられます。そこは十分、出てくるのではないかと思っています。

 

【質問者2】 長野県でコミュニティービジネスの支援を担当しています。企業がやる部分とNPOがやる部分、どちらにも属さない場合というのはどうしたらいいというようなお話がありました。私どもの役所の部署の話で恐縮ですが、例えば、NPOをやるというと、NPOの関連部署が窓口にありまして、それと別に、完全に起業をしたいという場合は、私ども商工部のほうで支援をする。行政の窓口としても入り口が2つになってしまっているんですけれども、今までのお話の中で、NPOを立ち上げるにしても、例えばコミュニティービジネスを立ち上げるにしても、地域の困り事を地域の資源を活用しながらやっていく入り口の要件に関しては、ほとんど同じじゃないかなと個人的には印象を持っています。そういう発想からいくと、まず入り口で相談する窓口というのは一本で、いろいろお話を聞く中で、「あなたの場合はNPOのほうがいいですよ」、あるいは、「あなたの場合は個人事業としてとりあえずやる、あるいは有限、株式の法人をつくったほうがいいんじゃないですか」というようなアドバイス体制ができていれば、行政としてもより柔軟に対応ができるんじゃないかなという印象を持ちました。実際に利用されるお立場として、藤沢さんと山岸さんに、その辺の現状と、今後の方向性として、私どもへの要望というのがあればお聞きしたい。あと、増田さんには、岐阜県はその辺はどうやっていらっしゃるのかというのをお聞きしたいです。

 

【藤沢】 企業であろうが、NPOであろうが、資本主義の原理というのは、もちろん企業側にあるんですけれども、今までどおりアメリカ型の資本主義がこのまま続くのかというのは、非常に疑問です。日本には非常にいい形の資本主義というのが今まで蓄積されてきたと思うんです。ですから、企業のあり方というのも、利益を必ず上げなくてはいけないという株主ばかりの企業が必ずしも今後も続くとは思いません。ビジネスというのはどのようにやっていくべきか、経営というのはどう取り組むべきかということをきちんとサポートしてくださる窓口が一本あり、その方法として、手段として、NPOを選ぶのか、利益を追求する企業を選ぶのか。「利益はあまり追求しません、地域に還元していく形のビジネスでいきます」というふうにするのか、そこでいろんな選択肢を提示してあげるということを、ぜひ考えるということが進んでいくといいなと思います。そして同時に必要なのは、やはり投資家の育成だと思います。そこで利益しか追求しない投資家しかいなければ、NPOと企業の間の中間的な企業というのはなかなか生まれてこない。昔からいた若だんな的な資本家というのは、やはりNPOと企業の間にあるのではないかと思います。

 

【山岸】 日本のNPOにとって問題なのは、行政とのパートナーシップです。ところが、一本の窓口がどこにもないんです。各省庁ともない。文部科学省も厚生労働省も経済産業省もそうです。やや先進的というか、NPOと言えば予算を取れると思った課長が3つ、4つ、5つぐらいのところで、ばばっと出るわけなんです。ところが、それをまとめるところが一つもない。全くないので、どこと交渉していいかわからない。そこが大きな悩みです。ぜひその窓口といいますか、NPOは特に総合性ということなので、そこがぜひ開発されたらいいと思っております。それにより効率のいいものを、情報公開しながらやっていくということだと思います。

 ボランティアとか寄附とか、行政のさまざまな支援をしながら、市場経済の中で生きていくところまで鍛え上げていくというのが、NPOのゴールだと思っています。ついでに言うと、NPOをやって、こんな楽しいことはないと私は思っております。

 

【増田】 今まで、うちのエンタープライズ岐阜でNPOを扱った事例はほとんどありませんが、NPOでもできるような案件というのは、確かに何件かありました。今回、山岸さんのお話を聞きまして、NPOも起業の一つの選択肢だということがわかりました。今後は、うちでもNPOをもう少し研究しまして、必ずしも株式会社とか法人化を進めるのではなく、NPOでやるという方法も一つの選択肢ということで、今後は指導をしていきたいと思います。

 

【藤沢】 5月の終わりに、ソーシャルベンチャーコンテストというのを渋谷でやります。これはNPOがやるんですけれども、ソーシャルベンチャーということで、社会的に意義を持った起業をやろうという若者のコンテストをやります。それがNPOになってもいいし、そのまま企業になってもいい。でも社会のためにやりたいという若者のコンテストをやるので、そういう動きも出ているということをひとつご報告しておきます。

 

【小野】 本日は、業を起こすということをめぐって、大変熱い議論が闘わされたと思います。多様な議論が出てきましたので、これを参考にしながら、行政サイドも含めて、適切な対応が行われることを望みたいと思います。本日は長時間にわたりまして、ご参加、どうも大変ありがとうございました。