週刊労働ニュース関連記事:第12回旧・JIL労働政策フォーラム
いかにして再就職を効果的に進めるか
―求職者カウンセリングとネット求人システムを中心として―
(2003年2月20日) 


失業者の再就職をいかに促進させるかが労働政策の重要な課題となる中、求人が充足されないという求人・求職のミスマッチ問題が注目されている。求人内容と求職者の希望条件との間に、職業能力、賃金などの労働条件、年齢などに関し、大きなギャップが存在することが原因と言われている。

これまで日本では、再就職者の労働市場における人材価値に関してアドバイスする制度がほとんどなかったが、欧米諸国の経験によれば、失業初期のカウンセリングは、失業者の再就職を促進する効果が大きい。また、インターネットを利用した求人検索は、情報量及び効率の点で求人誌や新聞、求人ファイルなどの文字・紙媒体をはるかに上回る。

今回のフォーラムでは、ミスマッチ問題を解消するために、カウンセリングとインターネット求人検索システムをいかに活用していくかについて、検討する。

日時:平成15年2月20日(木) 14:00-17:00

場所:日本労働研究機構JILホール


講師プロフィール

諏訪 康雄

法政大学社会学部教授

林 和義

日本ドレーク・ビーム・モリン株式会社ライフキャリア研究所主任研究員

越智 通勝

エン・ジャパン代表取締役社長

今井 正雄

王子公共職業安定所所長

伊藤 実

日本労働研究機構副統括研究員


2001年9月に350万人を超えてから、ほぼ高止まりの状態にある失業者数。その原因の一つには、求人企業と求職者の間のニーズのミスマッチがあり、再就職のネックともなっている。日本労働研究機構(JIL)は20日、第12回労働政策フォーラムを開き、再就職促進策について討論した。フォーラムでは、インターネット求人検索システム、キャリア・カウンセリングなど、再就職に有効とされるハイテク・ハイタッチな手法の実際や、それらを取り入れ、着実に変わりつつある、ハローワークの現状も報告された。


欧米の経験に学べ

日本の完全失業率は01年7月、調査開始以来初めて5%の大台を突破。その後も増えつづけ、昨年12月時点では5・5%と、過去最悪だった10月と並んだ。

こうした現状をふまえ、諏訪康雄・法政大学社会学部教授は、「中国から失業を輸入していると揶揄されるほど、ごく普通の先進国の一つになろうとしている」と指摘。オイルショック前(60~73年)と後(90~95年)を比べて、フランス(2・0%→10・7%)、ドイツ(0・8%→7・1%)など多くの先進国の失業率がほぼ高止まりしているように、「かつて羨望の的だった日本も、もはや例外ではなくなってきた」と強調した。

そのうえで、「結局のところ雇用創出は産業政策に尽きる」ものの、「失業リスクを社会に織り込む視点から、欧米の雇用政策に学ぶことは有益だ」と主張。「欧州では80年代から、失業の長期化こそ問題であり、早期に再就職できるか否かは、失業直後の2カ月にかかっていると言われている」とし、早期再就職に有効な欧米の経験に基づく手法として、「仕事関連ネット」や「キャリア・カウンセリング」をあげた。

諏訪氏はまた、「欧州の経験によれば、(1)たとえ雇用が不安定化しても、職業キャリアの一貫性が保障されていれば、目標を据えて常に準備し長期にわたり生き生きと働ける(2)職業キャリアの一貫性の確保には、側面支援が必要(3)側面支援は、相対を基礎としつつ、ネット利用との組み合わせが有効だ」と強調した。

ネットで職探し

求人・求職情報の提供サイトを運営するエン・ジャパン社長の越智通勝氏は、とくに99年以降、求人・求職にネットが活用されるようになった理由には、ネットの「低コスト性」だけでなく、求人企業は求職者を直接スカウトし、求職者はそれを受けられるという、「2方向性」があると指摘した。

そのうえで、膨大な数にのぼる仕事関連サイトから、自社のサイトを差別化するにあたっては、「手間を惜しまず、求人情報の質の確保に努め、求人企業が求める人材にまず、閲覧してもらう機会を増やすことが重要だ」と主張。求人企業を訪問し、仕事のやりがい・厳しさから、その企業の印象までを詳細に取材して、文章だけでなく、臨場感あふれる動画を盛り込んで情報提供していると、業務の力点を紹介した。

重要な自己理解

一方、余剰人員を離職、転職、出向させたい企業を対象に、再就職支援サービス(アウトプレースメント)を提供する日本ドレーク・ビーム・モリンの林和義氏(ライフキャリア研究所主任研究員)は、キャリア・カウンセリングを通じて再就職をいかに効果的に進めるかのノウハウを説明した。

林氏は、「初回の面談(協同関係の構築)→情報収集(自己理解・環境分析)→目標設定→職務経歴書の書き方・面接訓練→戦略の実践→目標達成」という、キャリア・カウンセリングの一連の流れのなかで、もっとも問題になるのは「情報収集から目標設定に至るステップだ」と指摘。

「再就職にあたり、自分が何をやりたいのかわからない人は驚くほど多い。これまで何をやってきたかのキャリアの棚卸しを通じて、粘り強く潜在的な希望を引き出していくことが重要だ」と述べた。

また、やりたいことが明確な場合でも、「私はリーダーシップがある」という希望理由に、本人の姿が真に一致しているかの見極めも重要だと指摘。「主張を裏づける具体的な職業キャリアは何か」をシビアに問い、思い込みから離脱させることが、結果として再就職のマッチングを高め、早期離職を防ぐことにもつながると述べた。

変わるハローワーク

東京都の職業紹介は、昨年12月の1カ月間で、24万2954人。実際には、同じ人が月に何回も来所するため、ハローワークはどこも入りきれないほど盛況だという。

王子公共職業安定所の今井正雄・所長は、ハローワークに来所する求職者の最近の特徴として、(1)中高年の賃金などの就業条件や労働市場に対する理解不足と、失業の長期化(2)高齢男性のパート化の増加(3)在職者の増加(4)職種、技術、技能水準などのミスマッチ(5)職業訓練希望者の増加--などを指摘。求人については、(1)製造業からの求人の減少とサービス業の増加(2)企業による人材育成期間の縮減と求人の即戦力化(3)パート、契約社員の求人の増加--などをあげた。

そのうえで、「ハローワークは職業紹介の仕組みを、再構築しなければならない状況に直面している」とし、1日20万件以上のアクセスがある、「しごと情報ネット」や、「ハローワークインターネットサービス」の整備のほか、(1)再就職セミナーだけを行うなど専門ハローワークの設置(2)在職者に対する夜間・土曜の開庁(3)パソコンを活用した独自のシステムづくりなどを進めていることを紹介した。

パソコンを活用した独自のシステムづくりについては、(1)求職者の自己PRなどを求人事業主に見てもらい、求人の確保につなげる「求職者リクエストシステム」(2)求職者が希望する求人情報などをメールで配信する「Eメールマッチングシステム」(3)ハローワークに来所しなくてもメールで求人が申し込める「CD–ROM求人受理システム」などをあげた。

今井氏はまた、こうしたマッチング業務に職員を集中させるため、簡単な窓口相談には、生命保険会社の苦情処理係の経験者などを充てていることも紹介した。

より効果的な手法へ

フロアから出された、再就職に効果的な手法の今後の展望に関する質問について、林氏は、「ネット求人検索システムと、キャリア・カウンセリングは、将来的に相互乗り入れすると思う」などと述べた。

一方、諏訪氏は、「そもそもの視点として、学生の頃から、職業生活設計を支援する『スクール・カウンセラー』の配置が必要だ」と主張。ショッピングセンターなどにキャリア・カウンセラーのブースがあるほど、キャリア・カウンセリングが日常サービスとして定着している米国では、社会人向けカウンセリングの副業として、スクール・カウンセラーに従事する人も多いことなどを紹介した。

また、職業能力などを汎用的に表す共通言語の整備の方向性を問われると、諏訪氏は、英国で86年に導入されたNVQ(National Vocational Qualification)制度をあげ、尺度づくりは必要だと述べるとともに、「つくった尺度が効果的に使える、いい外部市場がなくてはならないし、労働者の過度のOJT(企業内教育)依存体質も、改める必要があるだろう」などと主張した。

(週刊労働ニュース 2003/02/24)