議事録:第12回 旧JIL労働政策フォーラム
いかにして再就職を効果的に進めるか
―求職者カウンセリングとネット求人システムを中心として―
(2003年2月20日) 


目次


講師プロフィール

(所属はフォーラム開催当時)

諏訪 康雄 (すわ・やすお)

法政大学社会学部教授。主な著書論文に『雇用と法』(放送大学教育振興会、1999年)、「労働法はなぜ職業訓練・能力開発に関心を示さなかったのか?」(『「雇用をめぐる法と経済」研究報告書』日本労働研究機構、2001年)等。労働法専攻。

林  和義 (はやし・かずよし)

日本ドレーク・ビーム・モリン(DBM)(株)ライフキャリア研究所主任研究員。外資系航空会社キャセイパシフィック日本支社にて人事部長などを経て、1998年日本DBM(株)に入社。チーフコンサルタントなどを経て現職。

越智 通勝 (おち・みちかつ)

エン・ジャパン代表取締役社長。1983年人材戦略コンサルティング企業「日本ブレーンセンター」設立。94年に転職サイト[en]の運営を開始。99年エン・ジャパン設立、翌年ナスダックジャパンに上場。
 

今井 正雄 (いまい・まさお)

王子公共職業安定所所長。1971年池袋公共職業安定所に入職。都庁の職業安定監察官、東京労働局職業安定課長補佐などを経て、現職。
 

伊藤 実 (いとう・みのる)

日本労働研究機構副統括研究員。主な共著書に『転職の経済学』(東洋経済新報社、2001)等。ETV2001(NHK)のコメンテーター等。人的資源管理論・経営学専攻。
 

問題提起(伊藤実・日本労働研究機構副統括研究員)

求人と求職の間にある越えがたい3つの溝

 まず問題提起としてお話します。JILでは数年前に大規模な失業の調査を行いました。1997年末に山一証券が経営危機に陥り、日銀も融資しないことになって翌年倒産したわけですが、統計を見ますと、そのころから日本の失業率は跳ね上がっています。失業者の数は今、350万人前後で一向に減る気配はなく、うかうかしていると400万人を超えるのかという危機的状況にあると言ってもいいかと思います。失業情勢は改善しない状況なわけですが、私どもでいろいろ分析してみましたところ、常識的なことではありますが、求人と求職の間には、どうも大括りにして3つぐらいの「越えがたい溝」のようなものがあると思いました。
 まず、調査でたいへん驚きましたのは、求人に厳しい年齢制限が設けられているということです。つまり、求人件数の8割か9割には必ず年齢制限が入っていて、年齢制限がないのはタクシー運転手とかビルメンテナンス関係の仕事などごく少数の職種だけでした。大方の職種には平均で40歳ぐらいという上限年齢が設けられていますから、中高年の再就職が厳しい背景の1つとして、「年齢制限ではじかれてしまう」という現実があります。このことに関しては法律が改正され、努力義務という形ではありますが、「求人で年齢制限を設けてはいけません」ということになりました。一歩とは言えないまでも、半歩ぐらいの前進だと思います。
 それからもう1つ、さらに越えがたい溝として、求人側で要求している職業能力と求職者の職業能力が、だいぶずれているということがあります。とりわけ最近は技術革新の進歩が速い。とくに技術職に関してはデジタルの世界が広がっていますから、従来のアナログ技術で育った人は手も足も出せず、経験が全然役に立たないという現実があるわけです。
企業もだんだん余裕をなくしてきたせいか、自社内でゆっくり人材を育てることにあまり力を割かなくなってきています。こうした中で、市場に出てきた求人には、念仏のごとく「即戦力」ということが要求される。これがまたミスマッチにつながり、求人と求職がうまくマッチングしないことを後押ししている現実があります。
 あと1つは、賃金のミスマッチです。日本の働く人たちの世界で起きている地殻変動的な変化です。学校を出て最初の会社に入れば、定年までずっと勤め続けられるというモデルが一部壊れ始めてきました。倒産、廃業、ないしは希望退職等に応じた人が労働市場に出たとします。退職前に年収1,000万円以上もらっていた人が求人情報を見ると500?600万円ぐらいしかない。それでもう立ちすくんでしまうという現実もあります。
 こうした要因が絡みまして、「失業の大半はミスマッチによるもの」という厚生労働省の推計結果もあるわけです。

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ITはマッチングに有効か

 そこで求人と求職のマッチングで何が始まったのかと言いますと、ITという飛び道具を使わない手はないということで、民間の職業紹介会社が先行し、公共職業安定所も続いてITのシステムを入れました。しかし、これはこれで問題があります。きょうもエン・ジャパンという、業界では最先端の取り組みをされている企業の社長がいらしていますので、お話を聞けばおわかりになるかと思います。それは、残念ながら「ハイテクに乗っかれる人ばかりではない」ということです。
 以前の公共職業安定所は紙媒体だけだったわけですが、これは窓口の方に聞いた話ですが、朝早く来て新しい求人ファイルを紙袋に入れてそのまま持ち去ってしまう人もいたそうです。紙媒体では極めて限られた量だけしか検索できず、取りこぼしのほうが大半であり、ほんとうの求人の状況がわかりにくい。それを一網打尽に検索できるシステムが入ってきたわけですから、大変有効であるはずです。「はず」と言いましたのは、システムを「使いこなせれば」という条件があるからです。
 そういう問題は改善されてきたのですが、もう1つ大変な問題が起きました。例えば長期勤続者がいきなり失業して、労働市場に放り出されると、自分のポジショニング、つまり「市場で一体私を幾らで買ってくれるのか」という賃金設定1つにしても、ほとんど見当がつかない状況があらわれました。このような場合、従来は公共職業安定所で職業相談が行われてきたわけですが、これは失業者が100万人ぐらいの時代にやっていた話で、現在のように350万人にも膨れ上がりますと、相談を行う時間が物理的にほとんどありません。このため、相談業務が欠落してしまうわけです
 法政大学の諏訪先生から後ほど欧米の事情を話していただけると思いますが、欧米社会ではハイテクばかりで推し進めず、「ハイタッチ」と言いますか、カウンセリングなどの相談を一生懸命行っています。私も昨年フランスへ調査に行きましたが、今はやりのNPOによる職業相談やカウンセリングがあり、官公庁や自治体の援助を受けていました。効果は大変高いという話でしたが、そういう「ハイタッチ」という面もあるわけです。
 通常のJIL労働政策フォーラムは研究者や学者を中心にたいへん難しい話をするのですが、きょうは趣向を変えまして、非常に実践的な話にする予定です。うっかりすると商売敵といいますか、市場で競争するかもしれない性格の組織、会社の方にも出席していただきました。職業相談やカウンセリングで有名な日本ドレーク・ビーム・モリンの林さん、ハイテクを使って求人情報を提供しているエン・ジャパンの越智社長にも来ていただいています。
 それから、公共職業安定所が一番民間と違うのは、「来る人は拒めない」という点です。高い能力を持つ者だけに求人情報を提供しているのであれば、就職率はすぐ上がります。高い能力を持っていない人、あるいは障害を持っている方とか、外国人の方などからの相談を受けているのがハローワークです。ハローワーク王子の今井所長からもお話をうかがいます。問題提起はこの辺にしまして、早速、法政大学の諏訪先生から、いまどういう状況になっているのかという基調報告をお願いしたいと思います。

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基調報告(諏訪康雄・法政大学社会学部教授)

「普通の先進国」になろうとしている日本

 きょうは、できるだけ具体的にお話をしてみたいと思います。
 日本の神話がどんどん薄皮をはぐようにはがれていき、普通の先進国、成熟国になりつつあることは、ご存じのとおりであります。ジャパン・アズ・ナンバーワンと言われ、学校のクラスでいえば、下のほうの成績から、あれよ、あれよという間にクラスの1番、2番になって元気よく闊歩していた時代は随分遠くになってしまった気がします。最近は、いろいろな国際競争力の調査などでも、20番とか30番という成績になってきました。その意味では、日本もごく普通の先進国の1つになりつつあると痛感するわけです。失業問題でもそんな気がします。
 図1「石油ショック以前と最近の失業率の比較」をごらんください。ややデータが古いですが、左側には、1960年から73年、ちょうど第一次オイルショックが起きるまでの十数年間における失業率の平均値が出ています。このとき日本の失業率は1.3%ですばらしかったわけですが、実はもっと上の国があります。ドイツや規制緩和で最近有名になったニュージーランドなどでは、
 日本よりも失業率が低い立派なパフォーマンスを誇っていました。イタリアや米国を例外としますと、どの国も失業率は2~3%ぐらいのところにありました。まさに第一次オイルショック以前は、完全雇用の時代がほとんどの先進国に存在したわけです。
 ところが一次、二次のオイルショックを経て、先進諸国の失業率は日本を除いてじわじわと上がっていき、その結果、90年代前半の平均値で見ますと、スペインの19.8%を筆頭として、フィンランドが12.8%、イタリアが11.3%というように、主要国では軒並み10%ぐらいまで高まってしまいました。しかもその数字が今もって落ちていない国も多いわけです。フィンランドなどはその後かなり頑張りましたし、デンマークだとかオランダなどでは、ワークシェアリングモデルですとか、新たな労働政策モデルを施行しまして、失業率が随分改善しました。または、全く別のやり方ですが、サッチャー政権の非常に強い政策によって英国でも失業率が落ちました。これらの国々では3%から5%ぐらいのところまで落ちてきたわけです。フィンランドはもうちょっと高いですけれども。
 一方、我々が絶えずベンチマーキングのターゲットにしてきたドイツやフランスといった国の失業率は10%ぐらいありますので、長らくお手本となってきた先進国はたいへん失業率の高い社会になってしまいました。日本だけは90年代に長期不況に入ったにもかかわらず、失業率は3%台ぐらいでしばらくとどまっていたものですから、「日本は違う」と思っていた人もいるわけです。しかし、そんなことはなかった。失業率は97年以降どんどん上がり、5%台、場合によっては6%もというところですので、どうやら先進国の中ではややいいけれども、飛び離れていいわけではないという社会の仲間に入ってきてしまいました。

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サービス経済化の影響

 その原因は何か。1つのポイントは「サービス経済化」という変化だろうと思います。製造業の時代の大組織から、中小の組織へ移る。スモール・イズ・ビューティフルという議論が出たのが、ちょうどこの失業率が高まる時代です。現実に小・零細の企業が、産業のいろいろな局面で前面に出てくるという変化が起きました。どこの国でも、小・零細企業に勤める方々の雇用の安定性は低く、勤続年数も短めですから、企業規模の縮小傾向により失業に遭う危険性が高まっているのではないかと言われました。また、ヨーロッパの場合には、「産業構造の変革に遅れた」とか、「労働市場が硬直的である」などと言われております。
 最近ヨーロッパのセミナーに呼ばれますと、彼らはうれしそうに言います。「日本がかつてヨーロッパに失業を輸出して我々はひどい目に遭った。今は中国が輸出していて、日本がひどい目に遭っている」と。または、「昔は我々に対し遅れた産業なんてどんどん廃棄すればいいと言っていたが、いま日本はそうしているか。ヨーロッパの労働市場はあまりにも硬直的だと言っていたが、日本は流動的になったか」などと嫌味を言われてしまいます。

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ヨーロッパが経験から学んだこと

(1)地域に政策の軸足を移す

 ヨーロッパの先進国は20年ぐらいにわたって高い失業率に苦しみながら、その結果、何を学んできたのか。さまざまな雇用政策を行い、多くは失敗しましたが、そのうちうまくいったと言われているものが2つほどあります。それは何かと言うと、1つは、雇用政策をマクロの国全体からどんどん地域レベル、ローカルのレベルに下げていく。そして、地域の産業政策と雇用政策等を連携させながら、地域独自の内発的な工夫を行うことが、雇用政策には非常によいということです。成功した例としてフィンランドがあるわけですが、まさしくこうした地域に雇用政策の軸足をおろしていくことができるかどうか。このことが、日本も問われていると思います。
 日本の失業率は5%台ですが、沖縄や大阪に行けば8%、7%です。また、石川や静岡に行きますと3%台というように、地域差が非常に大きくなってきた中で、全国一律の政策をつくって、画一的対応で、ほんとうにうまくいくのかどうか。そうしたマクロの政策のレベルが問われています。

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(2)キャリアカウンセリングの早期実施

 それから、ヨーロッパの経験でもう1つうまくいったのが、きょうのテーマである「キャリアカウンセリング」です。ヨーロッパの場合には失業が非常に長期化しまして、1年を超える失業者が大変多いことが、大問題になっています。このことを1980年代に研究した本やシンポジウムの記録などを読んでみますと、失業者たちに一番有効な手段は、「できるだけ早い段階でカウンセリングをやる」ということでした。
 失業して最初の2カ月が、うまく早期に再就職できるかできないかの山である。したがって、1年以上を超えた長期失業者に対して、その段階でカウンセリングをしてもなかなかうまくいかない。まして、2年、3年経ったらどうか。すぐ再就職できる人たちの数は総体的に限られている。「長期失業している人たちに」というのは、ちょうど「病気がこじれて、最後の段階になって初めてお医者さんにかかりましょう」という一昔前の発想である。そうではなくて、失業に遭ったら、それがちょうど風邪で熱を出した、肺炎になりかかる前という段階で、できるだけ早い時期に対応をとるのが望ましい。
 それからカウンセリングは、「だれでも一緒」という標準タイプであるわけにはとてもいかない。コストはかかっても、相手に合わせたイージーオーダー型のやり方で行う必要がある。さらに望ましいのは、オーダーメイド型、個人対応型である。そこのコストのところで最初にケチると、かえって長期失業につながっていって、結果的にとても高いコストがかかることになる。だから、最初のところでプロのカウンセラーからの支援があるのが望ましい。これが政策的にもうまくいく。このようなことがいろいろと報告されています。
ただし、どの国の経験でも言われていることが1つあります。雇用政策で一番いいのは何か。それは実は中途半端な雇用政策などしないで、むしろ実効的な産業政策に力を注ぐことです。雇用政策で雇用が生まれることはありません。結局は産業政策をどうしていくかであって、雇用政策というのは、それに比べますと、やはり側面からの支援、あるいは、こじれてしまった病気への対応、集中カウンセリング、その他の課題があるということのようであります。
 そこで2つお話をしたいと思いますが、1つが「職業キャリアを安定させる努力の問題」であり、もう1つが「ネット利用の問題」です。

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「職業キャリア」を安定させる努力の問題

最初に、「職業キャリアを安定させる努力が求められる時代になった」ということを簡単に申し上げます。世の中の変化が大変遅かった19世紀までの時代には、じいさんも鍛冶屋だった、父さんも鍛冶屋だった、おれも鍛冶屋でいく、息子もきっと鍛冶屋になるだろうというように、「家業」という職業の概念が成立していました。職業そのものがいわば家業であり、我が家の財産といったような時代は、しかし、産業革命が進展する中で大きく崩れていきます。
20世紀、それにかわって登場してきたのは、「大きいことはいいことだ」というような、大きな組織をつくり、その中でリスクを分散化させ、雇用を安定させていくという、雇用安定志向の時代でした。いわば、雇用は財産であり、より安定した雇用の場を目指して、人々が競争するようになります。
日本の場合、なぜ受験戦争という形であんなに厳しい進学競争を生んだかというと、もちろん18歳人口が多かったこともありますが、それ以上に大きいのは、「よりよい雇用にありつくためには、18歳の競争に勝ち抜かなければいけない」、「高校卒で就職する場合、あるいは大学に入る場合でも、結局は18歳のあたりに大きな競争のピークがあり、ここを乗り越えると雇用は安定する。乗り越えられないとその後も大変になる」という事情があったからで、このような時代が長く続いてきたわけです。
ところが、20世紀終わりに失業率がどこの国でも高まっていく中で、次のような点が明らかになってきました。大きな組織という時代がどうやら去っていった。スモール・イズ・ビューティフルという形で、新たな雇用の場が生まれてくる。あるいは、みずから起業していくといったように、従来と違った職業キャリアを目指すパターンが先進国を中心に目立ってきました。
 職業が昔のように固定的で安定していない。雇用も安定しないという形で、人々はものすごく不安に陥ったわけでありまして、この不安が消費を抑制したり、いたずらに預金をしたりして、かえって産業政策の足を引っ張ってしまうような結果も生んできました。このときに大事なのは2点ありまして、老後の安定ということでは、年金の将来を保障していく、つまり持続可能な年金政策をはっきりと示すことでしょう。もう1つは、ある組織で仮に雇用が不安定になっても、その人の職業キャリアとしては安定していく、うまく次につながっていくという社会になれるかどうかということです。「自分は何かの専門を核として、ある業界においては非常に強い」、あるいは「ある職種においては非常に強い」ということがありますと、これをいわば身に備わった財産として、人生を送っていくことができます。もしこの設計がこれからの世の中で広がっていきますと、受験戦争も大きく姿を変えるはずです。
今は、「ある組織に入るためには、ある大学へ」などといった当初ブランドが必要であり、「ほんとうはそんな学問を全然したくはないけれども、偏差値からするとそこには入れるので、行っておこうか」というわけで、あまり学校時代も勉強しませんし、会社に入るときも大学で何を勉強したかがさして問われません。職業キャリアを財産化しようと思えば、「自分自身は一体何に適性があるのだろうか」、「一体何が好きなのだろうか」、「何をやることが自分にとって意義があると思われるだろうか」というまさに20世紀のアメリカで育ったようなキャリアカウンセリングの初歩の質問を子供たちが自分自身に行い、そういう中でいろいろな分野に進んでいくことが必要となります。
 こうなってきますと、我々はいよいよ本格的な人材多様化の時代を迎え、個人が職業キャリアを設計していくことが不可避な社会になります。失業のリスクが織り込まれた社会では、職業キャリアの設計を個々人が主体的かつ適切にやっていかないといけない。そういう場合、単に「自分は何が好きか」、「何が得意か」、「何に意義を感じるか」というだけでは、実はいけません。世の中はどうなっているのか、時代の変化の中でどういったスキルやナレッジ、コンピテンシーが求められるのかというエンプロイアビリティに目を向けなくてはいけなくなる。しかも、20歳ごろから65歳、70歳ぐらいまでの半世紀にわたって職業人生を送ることになりますと、世の中は途中で何度も屈折して変化していきます。誰もが何度もキャリアトランジッションを経験するようになっていきますから、生涯学習ではありませんが、生涯にわたって絶えずキャリアを見直していく時代がやってくるのではないかと思われます。
 

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キャリア意識の4類型

 参考図をごらんください。横軸に自分のキャリアの過去から将来へ向かっての流れ、つまり過去に拘泥するか、あるいは「将来は何でもいい」というオープンな態度であるかどうかということを入れます。縦軸は、「自分自身がどういうキャリアを送っていくか」という予期をどれぐらい事前にしているか、あるいは、そのようなことをせずに、組織任せ、あなた任せで日々を送っているかどうかということです。
 
(1)過去にこだわりつつ、将来を予期
そうしますと4つのマトリックスができ、一番左の上に「過去に拘泥しつつ、将来のことも予期する」というAパターンが生まれてきます。Aパターンの人は、常日ごろから自分のキャリアの連続のために工夫をします。低いレベルからより高いレベルに、狭い範囲からより広い範囲へというふうに、
自分のキャリアの幅を広げて発展させようとします。こういう工夫を常日ごろからしておきますと、いざ失職というとき、失業のリスクも以前から見込んできていますから、それほどうろたえない。そして、日ごろの工夫や努力次第では、または業界や職種、雇用の状況次第では、早期の再就職へとつながっていく。これは中高年にほぼ当てはまる一つの理想形だろうと思われます。中高年の場合には、全く違う職種に転換したりすると、たいへん苦しいということが多くの統計データに出ております。できるだけ従来の職種の延長線上、あるいは従来の経験、技能が何らかの形で生かせる仕事に就くのが望ましいと言われています。
 
(2)過去にこだわらず、将来を予期
 B型は何かというと、これは若年者に当てはまると言っていいかと思いますが、過去の蓄積はあまりないので、キャリアの連続にはそれほどこだわらない。自分は5年間職業経験を積んだけれども、この後40年もあるので、過去よりもこれからの時代の変化を見ていこうとします。こうして常日ごろからキャリア転換のための工夫や努力をする。こういうところが「業界の資格を取ろうという人たち」として一番ターゲットになるところです。日ごろから工夫や努力をしつつ、かつ、将来に目を向けた転職先を探していきますと、かつての日本の成功物語のように、ちっぽけな町工場であった松下電器産業、あるいはソニー、ホンダが伸びていくといったようなことも可能になっていくわけです。
 
(3)過去にも将来にもこだわらず
 C型は、将来にはこだわらないけれども、キャリアの過去にもこだわらない。将来に関してオープンだけれども、現在、「将来どうなりそうか」ということをあまり考えずに仕事をしている人たちです。つまり、常日ごろはキャリア意識が低く、組織任せで、与えられた仕事に従事している人たちです。主として若い人たちに多いと思うのですが、中高年にも結構いなくはありません。失職時にはやはり、青天の霹靂で大慌てに慌てます。ところが、過去にはあまりこだわりませんし、業界、職種にもあまりこだわらないとなりますと、それなりに再就職の可能性が増えていきます。
 
(4)将来を予期せず、過去に拘泥
一番困った存在がD型です。常日ごろはあなた任せ、組織任せでずっときて、将来のことはほとんど考えていない。こういう人たちに、ある日突然リストラがやってきますと、青天の霹靂で大慌てになります。前職へこだわればこだわるほど、再就職が難しくなる。しかも、前職、前の業界というのは、自分のいた企業がリストラをしていたように、しばしば業界全体としてもどんどん雇用の領域が狭まっているので、もとの業界で転職できる可能性はすごく少ないのです。
 

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キャリアインテグレーションの重要性

 では一体どうしていったらいいのか。こういうときには、キャリアインテグレーション(経歴の統合)という考え方が非常に重要だろうと思っています。キャリアインテグレーションとは何かというと、自分自身の持っている過去のキャリアの資産を棚卸しして、それをよその分野でも使えるかどうか考え、新しい知識なり技能などをつけ加えたりして、うまく過去の資産を生かしながら、新しいキャリアの構築の途を探っていくことです。
 キャリアにインテグレーションがなく30も40もの仕事を点々と転職していく。これは本格的な再就職には辛い事態です。そこまでいかなくても、転職が3回を過ぎると非常に警戒されるのは、実は、そういう人たちはキャリアに単に連続性がないのではなくて、インテグレート(統合)されていないからです。あれもやってみた、これもやってみた、知識で言えば、クイズには強い雑学ではあるけれども、何一つまとまった理論、あるいは、深みのある議論、水準を超えるブレークスルーをすることができない。それに対して、キャリアのインテグレーションがうまくできていると、成功する可能性が高く、全く違った分野に行っても、かえって生きるわけです。
 例えば、理科系の人たちはご存じでしょうが、「銅鉄実験」というのがあります。日本の学者をばかにして言うわけですが、外国人の研究者が銅の実験で成功したら、「では鉄だとどうなるだろうか」というふうにやってみて、よく似たような結果が出たというので論文を1つ書く。だれかがそうすると、別の人が次はアルミニウムで、その次はチタンというように、無限にやれます。独創性を欠くと批判した例えです。しかし、これは実務の世界で言えば、ばかにならない話なのです。他の業界で非常にうまくいったビジネスモデルだとか、業態というものに対する知識というのは、別の分野にいくと意外と役に立つことがあるわけです。こうして、過去にあまり拘泥しないようにしてインテグレーションを図っていくと、キャリアの転換が可能になります。
 こうしたインテグレーションにアドバイスをしていく重要な役割が、キャリアカウンセラーにはあります。キャリアカウンセラーでよく知られていることは、図2と図3にあるようなポイントを見ることです。
 図2は野村総合研究所が1997年に行った調査です。ホワイトカラー職種であっても、年齢や職種によって求められるものが違うことを示しております。若手の例だけを見ても、どういう能力が重要なのか、どういった知識が必要なのかは、仕事によって大変違います。営業の人たちにとっては、折衝、交渉能力、コミュニケーション能力、ヒューマンスキルが非常に重要であるのに対して、研究職にそういうことはあまり重要ではない。むしろ重要なのは専門知識です。このように職種差があります。
 図3は、企業が人を採用するとき、どこを見るかということです。ここでも年齢による違いが見えてきます。新卒の事務職の場合、「熱意・意欲」から始まって、「常識・教養」、「協調性・バランス感覚」などに着目します。専門的知識などはさほど要求されません。では、中途採用の管理職の場合はどうかというと、全く違ってきます。まず「職務経験」であり、次に「行動力・実行力」、「専門的知識」がほぼ並び、その後に、「熱意、意欲」が来るといった具合になります。中高年でありながら「私は協調性があります」、「熱意があります」というのを一生懸命売りにする人がいるわけですが、若い新卒ならともかく、中高年になるとそれだけでは採用してもらえません。こうしたことをうまく説明していく、あるいは、コミュニケーションをとりながらアドバイスしていくのがキャリアカウンセラー、キャリアコンサルタントの重要な仕事だろうと思っています。

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ネット利用の必然性・可能性・限界

 次に、ネット利用の必然性、可能性、限界について簡単に申し上げたいと思います。インターネットを使って求人求職をするのが非常に有効であることは、1980年代からアメリカなどを中心に言われてきまして、その後、さまざまな民間、公共のサイトが開かれ、マッチングに寄与してきました。その後、スウェーデンやシンガポールなどネットワーク利用に熱心な国を中心に、今や先進国における仕事関連のネットの展開には目覚ましいものがあります。
日本の場合は、「しごと情報ネット」という、全体を見渡すポータルサイトもでき上がり、そこには何十万件という求人情報が載り、今後さらに広がると予測されています。今では1カ月に延べ数百万の人たちがそこから情報を得るようになってきています。ネットは、いながらにして、24時間どこからでも情報が得られるので、情報提供においてすばらしい仕掛けです。民間の場合は、さらに付随サービスとして、能力マップなどを描いてみせる、適性判断をする、あるいは、その後の能力開発との結びつきをすることに関して、簡易迅速で低廉なサービスも提供するようになってきています。
 求人求職のマッチングでも、ネットの利用は重視されています。例えばスウェーデンに調査に行って聞いたことですが、日本でいえばハローワークの仕事などをネットに移していっている。つまり、個々人がキャリア意識を持ち、アドバイスなどを得ながら、自分でそこに求職情報を載せたり、求人情報を見て直接アプライして決めたりする。そういうことが行われると、安定所等の窓口では、ほんとうに濃厚なサービスが必要な人たちに、あるいは、実際に窓口まで出かけていってチェックをしなくてはいけないような人たちに対して、力を注ぐことができるようになります。「3時間待って3分しか医療行為が行われない」のと同じように、今のままですと、ハローワークの窓口でも「2時間、3時間待って、ようやく数分の対応」といったことになる。こうした時間不足や要員不足などの問題が解決されていきます。
 スウェーデンに調査に行ったとき、そのころまだ日本ではハローワークの求人情報に企業名を公開していなかったものですから、それに対して「非常識だ。税金を使っているのに、何てばかなことをやっているのだ」と怒られて帰ってきました。ネット上で可能なものは、できるだけネット上に移していく。そうすることによって、ほんとうに大事な部分に相対サービスのエネルギーを割いていくべきである。実際、サービスの提供を相対でやらなくてはいけない人や事項に絞っていくべきだろうと私も考えております。
 ただし、情報社会の怖さもあります。スウェーデンでは、企業が公共のネットに直接、求人情報を書きますので、当然そこにはおかしなものもあり得ます。そこで今まで窓口で、紙の上で審査していたような人たちが、今度はネット上で審査をしてチェックをかけているという話も聞きました。
 以上のように、ヨーロッパ、アメリカなどの経験を見てみますと、3つのことが考えられます。第1番目に、雇用が仮に不安定化していっても、職業キャリアという形で安定化していけば、我々は目標を持って事前に用意し、むしろこのほうが長期にわたって生き生きとした仕事を展開できる可能性も広がる。
 それから、そのためには1人でただ自分勝手に考えてもだめでありまして、プロが側面から支援する必要がある。今、コーチングということがしきりに言われていますが、こうした側面支援が重要な時代がやってきたと思います。
 3番目に、側面支援は、相対でやることがあくまでも基本でしょうが、他方、ネットカウンセリングもそれなりの効果を上げています。必ずしも相対だけではなくて、インターネットなどの利点を使っていく。つまり、バーチャルの世界とアナログの世界が長所をうまく発揮し、短所を補い合うことで、よりよい再就職支援が可能になるのではないかと考えています。

【伊藤】 どうもありがとうございました。きょうのフォーラムの大体の問題点、位置づけを理解しやすいお話だったかと思います。私はどうも「D型」の人間に近いきらいがありますので、「もうカウンセラーにおすがりするしかない」という局面もあるのではないかと思いました。次に、そういうカウンセリングの専門家である日本ドレーク・ビーム・モリン(DBM)の林先生から、多分非常に深刻な話にもなるかと思いますが、よろしくお願いいたします。
 

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報告
(林和義・日本ドレーク・ビーム・モリン株式会社ライフキャリア研究所主任研究員)


 それでは、再就職カウンセリング、「いかにして再就職を効果的に進めるか」というお話を、「深刻な話になるだろう」とおっしゃいましたけれども、決してそうではありませんので、どんなふうに我々が進めているかご説明申し上げたいと思います。
 最初に、再就職支援会社(アウトプレースメント)について簡単に触れます。それから、カウンセリングの流れ、どのようにマッチングをしていくかということに触れ、時間があれば実例についてもお話ししたいと思います。

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再就職支援会社とは

 再就職支援会社(アウトプレースメント)はアメリカで1960年代に発生した人材ビジネスの1つです。人材紹介会社と違う点は、余剰人員を抱えた企業の社員の方が再就職できるまで伴走者のような形でカウンセリングをして、再就職が決まるまでお世話する仕事をするということです。実際には、社員の方とアポイントをとり、順次面接をして、カウンセリングをしたり、必要なアドバイスや心のケアなどを行ったりして、就職が決まるまでの間、同じ気持ちで励まし合いながら再就職の支援を進めていきます。費用はこの場合、全部企業が負担します。個人負担で受け付けることはありません。

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カウンセリングの流れ

 就職が決まるまでどんな過程を経ているかを具体的に説明します。まず企業のほうから、「この方をお願いします」というリストをいただいて、コンサルタントがアサイン(配置)されます。その前に、DBMならDBMのサービスについて、皆さんご説明を受けていらっしゃいます。まず、私たちがこれから一緒に伴走者として進んでいくに当たっていろいろなお話をして、「これから一緒に頑張っていきましょう」という、心の通い合いと言いますか、共同関係と呼んでおりますけれども、そういう準備の段階があります。これがカウンセリングのスタートです。
 その次に、いらっしゃったクライアントの方の情報を収集、整理して、「どういう方向に進めばいいのか」という目標設定を行います。目標設定の後、今度はそれに必要なコミュニケーションのドキュメント、「キャリアポートフォリオ」と呼んでいますけれども、再就職に必要ないろいろな書類を作成いたします。
 それから、再就職にもう1つ欠かせないのが面接訓練ですね。この面接訓練もやります。面接訓練が終わると一応準備ができるわけですけれども、今度は「労働市場で自分に合った案件をいかにして見つけていくか」という、その戦略を2人で打ち合わせて立案をいたします。行動計画などをつくり、その職探しに入るわけです。
 その間いろいろな心の動揺もありますし、難しい場面もありますので、その都度サポートをしていきます。戦略やキャリアポートフォリオの変更が必要な場合もありますので、密接な連絡をとりながら進めてまいります。それで、めでたく再就職が決まった場合、いらっしゃった方がまた同じような場面に直面したときに経験が生きるように、最後にもう一度全行程を振り返ります。「こういうところがよかったですね」とか、「このときは苦労したけれども、こうしたらまだいけましたね」、「ここであなたは頑張りましたね」というようにその場面場面を振り返って、きちんと整理しておく。森の中をさまよいながら、いろいろと計画を立てて、森の外へ出た。このとき「自分はどのようにして森から出てきたか」という地図を残しておくのです。

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「自分は何をやったらいいのか分からない」

 ミスマッチについて諏訪先生からいろいろなお話がありました。私たちがいつも聞く言葉ですけれども、「自分のやりたい仕事がない」、「自分には出来ると思う仕事でも相手にしてもらえない」、あるいは「自分のやりたい仕事に手が届かない」といった技能面、スキル面でのミスマッチがあります。しかし、「何をやったらいいのかわからない」という方が、実は多いのです。いらっしゃる方の40%、場合によっては半分ぐらいがそうです。「全くわからない」という方もいらっしゃいますし、「今までやってきた仕事でいいという感じだが、何をやったらいいのかわからない」、「林さん、私は何をやったらいいでしょうかね」という質問が飛んでまいります。

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「自己分析」と「環境分析」

 それで、まず私たちは、いらっしゃったクライアントの方と作業を進めていくに当たって、「自己分析」を行います。まず自分自身の現状をよく認識していただく。それから「環境分析」ですね。「労働市場が今どうなっているのか」といったこともよく知っておかないと、ただ自分の希望だけ決まっても、「その仕事はない」ということになれば、お話にならないわけです。
 「自己分析」のほうでは、現在の興味や能力、価値観、自分の性格などをアセスメントのツール、いわゆる適性検査などを使って分析する場面もあります。ここで、それよりももっと大切なのは、キャリア分析ですね。今までいろいろな仕事を経験してきた。しかし、自分は一体何をやってきたのか。このあたりがしっかり分析できていないと、目標設定が非常に難しくなります。それで、「今まで自分はいいポジションにいたけれども、振り返ってみると、あまりたいしたことをやっていなかったな」という方もいらっしゃいますし、「自信をなくしていたけれども、振り返ってみたら、自分も随分いろいろやってきたじゃないか」というような方もいらっしゃいます。そのあたりの自己一致といいますか、自分のイメージと現実とを一致させるのがこのキャリア分析での作業です。
 「環境分析」のほうでは、例えば、介護を必要とする両親がいるとか、まだ学校に行っている子供さんがいる、あるいは独身で気楽に好きなようにできるとか、いろいろな方がいらっしゃると思いますが、そういうものを明確化させる。同時に、自分のネットワークを分析する。欧米では非常にネットワークが活用されていますが、日本はまだ十分に活用されていない感じがします。ネットワークを簡単な言葉で言うと、いわゆる縁故と言いますか、知り合い、学校関係などがありますが、そこでどういうネットワークを持っているのかを分析します。
 それから先ほども述べましたように、労働市場がどうなっているのか分析する。自分が進みたい業界は今不況で、仕事がない場合もあるわけです。そういうところからいろいろ相談し、話し合い、キャリアの目標設定、「こういう方向で進みましょう」ということを決めていく。決めるに当たっては、1つだけではなく3つぐらい、第1希望から第3志望くらいまで決めていきます。

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転職マトリックス

 この図(図4)は職種と業種をマトリックス化したものです。目標として設定した転職先は、このマトリックスのどこに当たるのか。横軸が職種、縦軸が業種です。左下の「同職種、同業種」から、「類似職種、類似業種」などがあり、だんだん「異職種・異業種」のほうへ行くほど難しくなる。しかしこの「異職種・異業種」、「全く違う業界で、全く違う仕事をしたい」という方もおられます。例えば、クレジット会社にいらした方が、「養蜂業をやりたい」という場合もありました。こういう珍しいケースもあるわけです。カードの会社にいらした方が突然、「網をかぶって、蜂とつき合いたい」という。これは非常に特殊な例だと思うのですが、そういうこともあるわけです。つまり、いろいろなパターンによって対応やカウンセリングのやり方も変えていかないといけない。図表の右上のほうにいくほど、カウンセリングや戦略をしっかりしないと、なかなか実現しないのです。

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マッチングへの努力

 就職するためには、まずコミュニケーションのツール、「求人側とどうコミュニケートするか」ということが大きな問題になってきます。ですから、しっかりした職務経歴書をつくる。「自分がマッチしている」ということを訴えられるように、面接訓練を施してあげる。
 それから、「自分はちょっと技術が足りないので、しばらく勉強したい」と考える方、あるいは、就職しながら勉強する方もいらっしゃいます。そういう方には、学校、教育訓練をサジェストしています。「これから自分は生涯何を目指していくのか」ということを中長期的に考えながら自己研鑽を図っていくことの指導も、コンサルタントとしては非常に大切な部分です。

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効果的な職務経歴書の作成

 効果的な職務経歴書の作成についてですが、皆さん、職務経歴書をごらんになったことはありますでしょうか。自分がどういう経歴を歩み、どんな仕事をしてきて、どういう業績を残してきたのかを2ページぐらいにまとめたのが職務経歴書です。そのまとめ方ですが、先ほどのマトリックスで左下の部分(同業種・同職種)に近い方については、時系列で時の流れに従って、学校を卒業したときから今日至るまで順番に書いていく。あるいは、その逆で、最近の経験が生かせるものについては、新しいものから古いものにさかのぼって書いていく。
 次に「異業種、同職種」へという方ですが、異業種の同職種に移ってから、自己研鑽をして、「異業種、異職種」に移るのも1つの方法です。異業種から同職種に移られる場合、ただ、「何年何月、コンピューター会社でプログラムを組んでいた」ということではなく、人事総務、経理・財務、営業・営業管理という職能で項目をくくっていく。例えば、人事総務と営業管理をやった場合でしたら、「何年何月人事にいて、営業管理にいき、人事に戻って営業に行きました」ということではなく、人事総務に関する経験は全部まとめてしまう。営業は営業でまとめる。そして営業関係なら営業関係のほうを詳しく書く。人事総務ならそちらのほうを詳しく書く。そういうまとめ方をする方法がございます。これを職能別の職能経歴書と呼んでおります。
 最後に、いきなり異業種、異職種に移りたい場合ですね。これには非常な困難が伴います。若い方でしたら可能かもしれませんが、年配の方は非常に難しいです。しかし、全く不可能とは言えません。私たちはその方の実績を見ながら、3つのスキルを見ていきます。

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スキルの3分類

 まず、実務のスキル(テクニカルスキル)というのは、若い方に求められるスキルですね。それから、ヒューマンスキル。これは人を扱う能力、あるいは、組織を扱う能力で、すべての年代に通用することだと思いますが、シニアになればなるほどこれが必要になってくる。最後に、コンセプチュアルスキルというのがあります。これはマネジメント、あるいは専門の世界に近いものですね。ハーバード大学のカッツ先生が考えた方法ですけれども、こういう3つのスキルを使ってそれぞれの経歴を分析していく。
 テクニカルスキルでは、ただ単に「コンピューターのプログラムをやっていました」ということではなく、日常業務の処理能力など各職場で必要な技術力、能力を書きます。ヒューマンスキルは、コミュニケーション力、部下指導育成力、リーダーシップ、影響、調整力といったものを中心にまとめていきます。コンセプチュアルスキルは非常に年配の方にとって重要な項目になると思いますが、変革・革新力、企画力という項目で職務経歴書をつくっていきます。これらは、どんな業界でも共通する項目になるわけですね。例えば、食品業界でも、コンピューター業界でも企画力は必要です。
 それから、例えばコンピューター会社から食品会社に移られる方でしたら、「いかにコンピューター会社で自分は企画力を発揮してきたか」ということを詳細に書いて、読んでいただく。そうすると、求人側のほうも、ただ(使える)ソフトウエアの名前を書いているだけよりも、「ああ、こういうことをやってらっしゃったんだな」という理解が深まるわけです。このようにして、少しでもマッチングができればという方向で進めております。

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効果的な面接訓練

 面接訓練も非常に重要です。書類は通っても、面接で落ちては何にもなりません。そこで、私どもでは、まず集合訓練(ロールプレー)をやっています。これは面接になれていただくことと、コミュニケーションの力をつけるために行います。どのように話をするか、どういうポイントに気をつけて話をするか。例えば、「何でおやめになったんですか」と聞かれた場合はどういうふうに答えるかとか、「いや、私はリストラでやめました」と言うのか、それともほかの言い方があるのか、いろんな言い方があると思いますが、そういう指導をしています。
 もう1つ大事なのは、応募企業に合わせた訓練をすることです。実際どこかの会社の面接に行く場合、そこの企業のことをデータベースやインターネットで非常に詳しく調べます。そして、クライアントの方と一緒に内容を検討して、「こういう質問が出たらこういうことを言いましょうね」、あるいは、「こういう質問は、こちらからしましょうね」というようなことを考える。できるだけ募集要綱に合った回答が出せるような面接ができるように指導しております。こうすると、受けに行かれる方は非常に安心します。
 受けにいく企業をよく調べてあるということは、相手に対しても非常に好印象を与えます。特に私たちが気をつけているのは、ただ単に「業界に興味がある」と言うのではなく、「そこの会社に興味がある」と言うことです。ただ「業界に興味がある」と言いますと、「いや、うちと同じ仕事をしている会社はたくさんありますよ。うちじゃなくてもいいんじゃないですか」なんて言われて、逆に悪い効果になってしまうこともあるわけです。ですから、そこの企業をよく調べる。社長がどういう人で、どんなミッションを持った方なのか。そういうところまで調べて、面接訓練を行います。

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短期、中長期目標の実現

 目標の設定にあたっては、自分の長期的なライフキャリアから考え、すぐに実現が難しい場合は、とりあえず現在できるところ、それに近いところに目標を設定します。目標を設定して、それを実現し、仕事をしながら次のステップに進む準備を進めていく。これは自己研鑚、訓練、研修ということですね。そして、徐々に自分の考えているライフキャリアを実現していくことを支援しています。

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求職活動の支援

 面接訓練などを全部やって、いよいよ求職活動に入るわけですが、個人の世界で活動する場合、非常に範囲が狭くなります。ハローワークにいらっしゃったり、インターネットで検索したりということになると思いますが、私たちはできるだけ広く案件を検索することを勧めまして、それを援助しています。
 案件には、顕在案件と潜在案件があります。(潜在案件を探すのには)暗闇の中を歩くようなところも若干ありますが、例えば、自分の望む業種、職種を持つような企業に手紙を出して当たってみる。「私にはこういう才能があります」、「こういう経験、能力を持っています」、ということを、なるべく社長に手紙を出して訴え、面接を勝ち取っていく。
 あと、パーソナルネットワークですが、これも上手に利用しないと、ただ知り合いに片っ端から、「おい、仕事を探してくれよ」なんて言ったのでは、みんな、「じゃ、人事部に渡しとくわ」というだけで終わってしまいます。そこでパーソナルネットワークに、どういうふうにアプローチしたらいいかということも指導しております。
 いろいろなメディアや公的機関、民間機関、人材紹介会社、それから先ほどのお話に出ましたコンピューターを使ったネットワークシステムなどは、全部利用しています。そういうものを使って求職活動を進めていくわけですけれども、その期間、ただ「勝手にやりなさい」ではなくて、定期的にクライアントの方とお会いして、「今どういう活動をしているか」、「どういう進みぐあいか」、「進捗状況はどうか」ということをよく確かめて、適切なアドバイスをしていきます。
 面接をしても、必ずしも成功する方ばかりではありません。落ち込んで帰ってきて、「もうどこへ行ってもだめです。私の仕事はないですね」という方もいらっしゃいます。そういう方も励まして、「こういう戦略でいけば必ずある。止まない雨はないんだよ」と励まして、戦略をもう一度練り直すような形でサポートしていきます。できるだけ適切な情報を提供するためには、コンサルタント自身も常に研鑚していないといけません。以上のようなプロセスを経て、私たちは再就職の支援をしております。

【伊藤】 こういう一連の支援を受けた方と、暗中模索と言いますか、無手勝流でドンキホーテみたいな立場に置かれた人とでえらい差がつくというのは、今のお話をお聞きしても一目瞭然かと思います。今のお話のサービスは、会社が費用を負担するもので、極めて対象の限られた方たちが受けられるものです。そこまでいかなくても、今の世の中、大量の求人情報を正確、かつ迅速に収集するのに、現代の飛び道具であるインターネットを使わない手はないと思います。きょうは、そういうシステムを運用されているエン・ジャパンの越智社長がおみえになっています。それはどんなものなのかということを含めてご説明願いたいと思います。

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報告(越智通勝・エン・ジャパン代表取締役社長)
会社概要


 エン・ジャパンは、インターネット100%活用の転職サイトの会社です。求職者からはお金をいただきません。求人企業から求人広告料をいただいております。新宿アイランドタワーに本社を構えています。
 私どもは1995年、人事コンサル、求人広告代理店をやっていた日本ブレーンセンターという会社の一事業部からスタートし、「en」というサイトを立ち上げました。「日本から発信するインターネットだから、東洋的にいこう」というわけで、ご縁の「えん」からきています。たまたま「エンプロイメント・ネット」の頭文字もそうでした。そして、業界で先駆けて、インターネットで求人情報を配信しました。
 新卒採用では、99年の卒業生からインターネットなんですね。今年の3月でもう5年になるわけです。急速にインターネットの利用者が増えています。私どもの実感としましても、インターネットがここまで広がるとは思いませんでした。まず、求人広告には高い検索性、効率性が求められ、それがインターネットに合っていた。それから経済性があり、一方的ではなく、お互いにコミュニケーションをとれるといったメリットもある。
ブロードバンドの時代ですから、動画も配信しております。また、51万人の会員の中には、ご自身の履歴書をオープンにして、求人企業側からスカウトしていただいていいという方もおられます。
 人材紹介会社、人材派遣会社の集合サイトも持っています。私どもにとって、実は人材紹介会社も派遣会社もお客様なのです。人材紹介業でも人材派遣業でも、ネットが主流になりつつあります。私どものメーンのサイトは「社会人の就職情報」ですが、「人材紹介会社のための転職コンサルタント」、そして「派遣会社のための派遣のお仕事情報」があります。

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職縁を大切に

 それでは、「社会人の就職情報」の画面を少しお見せしたいと思います。機会があれば、我々民間のやっていることと、ハローワークの求人情報を比較していただければ非常に参考になると思います。
 ネット求人広告業界にはいろいろな形態があります。お客様、求人企業側に求人情報を書いていただくサイトも多くあります。我々は昔ながらのやり方で、営業とコピーライターが二人三脚で実際に企業を訪問し、1職種ごとに何時間も取材します。動画まで配信していて、ちょっとやり過ぎと言いますか、求人広告業界のオタク族だと思ってください。もう凝りに凝っているサイトで、これが一般ではありません。
 例えばこのレストランですが、実際に取材をして、私たちで写真撮影など全部しています。写真にはキャプションを入れています。仕事内容は詳細、豊富に書きます。仕事そのもののやりがいとか厳しさも標準装備する。そして、資格と給与、選考プロセス、各社のオリジナルな内容があります。この会社について、できるだけ客観的に第三者としての取材者の印象、どう思ったのかを書いています。ここをクリックすると、15秒間の動画が出てまいります。
私どもは生き残るために、ハローワークではおやりいただけないことを心がけて行おうとしています。ハローワークと一緒であれば、存在価値が出てまいりません。
 「転職をあおり立てるサイト」はやめておこうと考えています。私どもは、仕事場を人間的な成長、修行の場とする日本の労働観みたいなものを非常に大事にしております。仕事の場で出会う縁が職縁であり、これを大切にしてほしい。求職者には「仕事を大切に、転職は慎重に」、企業側には「人財を大切に、採用は慎重に」と言っています。ですから、「より詳しく、じっくりと会社を研究してから転職してくださいよ」というのが私どものサイトなんです。
 ネット求人広告業界、一般の求人広告業界の数字は今はっきり出ていません。ただ、業界筋の話からしますと、ピークで大体7,000億ぐらいあったんじゃないか。私どもが今持っている転職サイトで大体4,000億ぐらい。そして、パート、アルバイトで2,000億。新卒は1,000億ございました。ただ、インターネット化によって、大分市場が小さくなっています。これはやっぱり経済性ですね。従来これだけの情報量を紙媒体でやりますと、1週間で、関東地区だけで百数十万から60万、80万にもなります。インターネットだと1カ月で全国、全世界に発信して45万円なんです。これが求人企業側のネット利用が加速している1つの要因になっています。
 行く行くはどうなるのか。ブロードバンドが発達すれば、ますますこういった動画が見られるということにおいては、加速化します。ただし、テレビができてラジオはなくなったかといったら違います。ラジオもあり、テレビもあり、新聞も雑誌もある。求人においても、インターネットだけではなく、メディアミックスで新聞も求人情報誌も残ると思います。そして、ネットの利用で非常に便利になっていくことは事実です。

【伊藤】 最新の飛び道具の威力の一端を垣間見た思いがします。それでは次に、あらゆる人を拒めず、どこからも通常の料金を取れないという、もちろん税金で動いているわけですが、公共職業安定所のシステムがどうなっているのかということについて、東京の王子公共職業安定所の今井所長にお話をお願いしたいと思います。

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報告(今井正雄・王子公共職業安定所所長)

求職者を受け付ける場合の3つの要素

 今、林さん、越智さんから、各専門筋のお話がございましたが、私どもも実は、それらのことを相当意識しています。需要が増えていますので、それに合わせた取り組みをしていかなくてはならず、悪戦苦闘しているのも事実です。ただ、少し違うのは、伊藤さんからもお話しいただきましたように、私どもが求職者を受け付ける場合に3つの要素があるということです。
 まず、「産業の高度化の中で、労働力を移していかなければいけない」という国の政策の補助業務みたいなことをやっております。私どもは実戦部隊ですので、論理性よりも実行力というところで、いろいろな組み立てを考えています。もう1つが、その中で乗り切れない、または、リストラではみ出してしまい、失業状態に陥る方をどうするかということ。3番目が、経済動向に全く無縁ではありませんが、比較的個別に対応しなければならない障害者や中高年、そして今、中国からかなり入っていますが、外国人の方への対応です。就学で入ってきて、あまり日本語ができない外国人で、ハローワークの窓口はかなり混んでおります。そういう方を含めまして、個別に対応するという状況がございます。

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事業主都合による中高年離職者が増加

 最近の職業紹介、ハローワークの状況についてですが、昨年(2002年)12月末の時点で、東京で仕事を求めている方は24万2,954人です。1人が何回もハローワークにおみえになるので、これだけの数字ではありません。それに対して求人は約18万5,000でした。2002年になりまして、特徴的なことは、在職者である求職者数が前年の50?60%増となり、一層の不 安感の中で、安定所へ情報の提供を求めてきていたことです。
 それから、「事業主都合」による離職者が、「自己都合」に比べまして、かなりの率で増えてきています。私どもの調査ですと、ほとんどが45歳以上の方で、これは非常に懸念しているところです。また、職種別の求職者の動きでも前年度対比で見ますと、専門職を含めてかなり増えてきています。
 ハローワークに新規求職の申し込みをいただいた中高年の方は昨年12月だけで、45歳以上で1万6,000人、55歳以上で約9,000人にもなりました。ハローワークに現在求職を申し込んでいて、まだ就職が決まっていない「有効求職者」になりますと、45歳以上で約10万人になります。また、紹介や就職の状況は若年層等に比べてかなり低い数字となっています。
 このような状況の中で、ハローワークは職業紹介の仕組みを組み立て直さなければならないときに来ております。2人の方にお話しいただきましたようなウェブサイト、それから、カウンセリングということを、どの時点でとうやって織り込んでいこうか常に検討しています。ただ、あまりにも数字が大き過ぎますので、四苦八苦しているところです。

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最近の求職者の傾向

 ハローワークにおみえになる最近の求職者は、やはり技術水準を含めまして、ミスマッチで悩んでいます。そして、中高年層がなかなか労働市場に理解を示していただけない。俗に言う、「離職時の賃金から七五三」という、いわゆる(再就職後の賃金が)下がってくる部分について、早めにアタックしていただけるような体制をとらなければ、ますます危険な状態になろうかと思っています。
 求人情報の提供だけでは、なかなか就職ができなくなっております。そこで、職員のカウンセリングが必要になってきています。また、能力の再開発ということで、能力開発のための職業訓練の受講を希望する者がとても増えております。そして、男性高齢者のパート化がかなり進んでおります。50歳を過ぎますと職種も限られ、なかなか常用で採用されない状況が続いています。

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求人状況とハローワークからの要請

 求人の状況は、雇用吸収力のとても大きかった製造業から、サービス産業の方向へどんどんシフトしています。そして、企業による人材育成期間が非常に短くなっている中で、即戦力が求められ、ますます中高年層の就職が難しくなっている。また、固定費の抑制や景気の先行き懸念ということで、ハローワークが持っている求人が、パートや契約社員へとシフトしている。求人数そのものは増えておりますが、内容的には、常用求人は横ばい、パートが増加傾向という状況です。
 ハローワークとしましては、当然、能力によって就職していただくことを前提にしております。そこで、事業所に対しては、求人の年齢制限緩和を要請するとともに、ノーマライゼーションということで、障害者雇用率を達成するための要請を含んで活動しています。

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首都圏のニーズに応えた専門ハローワークの設置

 東京のハローワークには、実は2つの要素がございます。1つは、「首都圏のニーズにどう応えていくか」というハローワークづくり。もう1つは、「地域社会にどうやって応えていくか」ということです。
 首都圏のハローワークには、とにかくたくさんの方がおいでです。ハローワークの職業紹介システムを組み立て直すことは、同じハローワークの中だけではできません。(求職者が)10万人も20万人も来たのでは、とても対応しきれません。そこで、求職者の目的に合った組織づくりが現在進んでおります。
 まず、「東京就職サポートセンター」を有楽町の交通会館の中につくりました。そこには情報検索とカウンセリングを組み入れた窓口を設けていて、月に140~150名の方が「カウンセリングを受けながら就職に」という形で進んでおります。大学生等のためセンターとして「六本木ジョブパーク」というのをつくっております。ハローワークは何でもやりますが、やはり目的に沿った情報の出し方、カウンセリングの組み立て方を考えますと、施設や体制を整え直さないと実行ある対応ができないと考えております。
 また、人材銀行は管理職経験のある方、または技術職の方などの求職情報を事業主の方に提供し、希望にあった求職者のリクエストを受けるなどしておりまして、大体、月に200名弱が就職しております。
 若年者のフリーターという形にも少し困っております。いま一番日本の失業率を押し上げているのは、実は24歳以下の方です。このまま放っておきますと、日本の産業基盤に影響が及ぶのではないかと考えられますので、若者が集まる渋谷に「しぶやヤングワークプラザ」をつくりました。若者専用の求人を集め、ここにもカウンセリングを入れております。
 外国人の方につきましては、就学生の方が多く、中国からおみえの方が6割です。1時間、2時間の相談でもなかなか終わらない。したがいまして、2003年4月からハローワーク新宿の外国人雇用サービスセンターに集約しました。
 「東京キャリア交流プラザ」というのは、中高年層を主体にしたもので、さきほど林先生が説明されたようなサービスを行っています。ただし、個別でありません。30人クラスで2週間、職務経歴の書き方、再就職支援セミナー、経験交流会等を行っております。就職達成率は50%ということですので、行政としては成功例の1つだと思っております。
 最近では、東京に就職を求める近県の方が、非常に多くございます。そうしたことから、ハローワークをできるだけターミナルに近づけようということで、新宿エルタワー、池袋のサンシャイン、それから立川といった拠点駅に設けております。また、在職者の方がたくさんおみえですので、夜7時まで、あるいは土曜日開庁という形でニーズに応えるようにしています。
 これからは不良債権処理による失業者の発生も見込まれますので、カウンセリングを中心に行う「就職支援アドバイザー」を3つの施設に60名配置する予定です。1人の方が1年間に100名お預かりしまして、70人の就職を確保する。また、3カ月間お預かりして、その人個人の求人開拓までセットにした事業をやろうということです。
 以上のように、いわゆる飛び道具であるインターネット等と合わせ、立体的な取り組みを行っているところです。

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地域の中のハローワーク

 地域社会の中でハローワークがやっていかなくてはならないこともあります。例えば、私の管轄する東京都北区はかなり高齢化が進んでいます。そのような地域に合わせた、いわゆる行政目的を達成する事業も考えられておりますが、今日はマッチングシステムの話ですので、ハローワークで行っているマッチングの話を少しさせていただきます。
 まず、「求人自己検索機」の導入についてです。ご来庁いただいた方には、とにかくたくさんの情報をお見せしなければいけないということで、12月の時点で約18万の求人を、何時でも誰でも見ていただけるようにしています。そして、約18万の求人を各地域でも見られるように、現在、葛飾区青砥のプラザや足立区役所内など、10カ所のブランチを設置しています。また、隣接県への情報提供も行っており、大体毎月3,000ぐらいの方が都外のハローワークを利用して、東京に就職していただいております。
 パソコンを使った対応としましては、「求職者情報管理システム」などがあります。求職者の情報をパソコンに入力して経過が追えるようにします。こうして、いわゆるペーパーレスを図っていく。
 「求職者リクエストシステム」というのは、求職者の属性、資格、免許等を入力しまして、おみえになった事業主に見ていただき、求職者像をつかんでいただく。それと同時に求職者の要望やプロフィールもご案内し、それに合わせて求人をいただく。
 「Eメールマッチングシステム」いうのもあります。求職申し込みいただいたときにアドレスを伺い、そのアドレスに対して、個々の条件に合った求人情報をメールで送ります。これは先ほどのお話にあったような立派なものでなく、相手のパソコン環境がわからないことから、テキスト形式で送ってマッチングする程度のものですが、結構頻繁に送っています。
 それから、「CD–ROM求人受理システム」です。ほんとうはホームページの中で求人をいただければよろしいのですが、やはり先ほどの先生方のお話にもありましたように、情報の中に不安要素が残ります。したがいまして、私どもではCD–ROMを会社に持っていき、その会社の内容を確認したうえで、CD–ROMをお渡ししてメールで求人をいただくようにしております。
 事業所システムというのは、紹介相談窓口での10分、20分の相談の中でも会社の概要を少しでもわかってもらえるように、(ハローワーク内に)LANシステムを引いて、紹介のときに、「会社はこんなところですよ」、「この間、職員が行ったらこんなことを言っていましたよ」といったことをお伝えできるようにしたものです。短時間で、できるだけの情報を提供しなければいけないので、そういう仕組みをつくっています。
 もっと大きくは、しごと情報ネットがあります。先ほどのエン・ジャパンの方のお話のように、やはり情報量が多過ぎて重く、四苦八苦しております。現在は大体、1日のアクセスが20万となっています。今後はこれらの情報をできるだけ閲覧可能な状態にし、ハローワークとしてはカウンセリングの機能を高めていく中で、紹介機能を充実していきたいと考えております。

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ハローワーク王子の取り組み

 最後にハローワーク王子の取り組みをお話しします。北区は東京23区で2番目に高齢化している区です。高齢化率は22%で、人口がどんどん減少しております。15年で10万人減少している。雇用保険事業所は5,000事業所で、求人はほとんどがパートです。団地居住者の多くは都心への就職を希望しており、こういったニーズの中で業務を行っております。
 当所は、非常に交通のアクセスが悪く、王子駅からバスに乗って行かなくてはいけません。 有効求職者は6,000人で、1日400人程度が仕事を求めてやってきます。紹介窓口の職員は8名です。割り算しますと、1人が1日50人紹介しなくてはいけない状況です。求人の新規の申し込みのときは、もちろん訪問いたしますけれども、できるだけCD–ROMを使って求人をいただくようにお願いしています。それと同時に、商工会議所や法人会などからも連絡をいただいて、1カ月で大体1,300ほどの求人をいただいております。
 求職者への対応としましては、求人自己検索機を活用しまして、自由閲覧とアドバイスの中で斡旋を繰り返します。そういう作業のほかに、これはハローワーク王子の独自の対応になりますが、カウンセリングの重要性を私どもも特に感じておりますが、先程、伊藤さんがおっしゃいましたように求職者を選べないという立場にありますものですから、セミナーなどのメニューをたくさん用意し参加勧奨を行い、手を挙げてもらう方式をとっています。その手を挙げてくれた人たちを年齢や希望条件等別にファイリングして、カウンセリングのグループにしていく。
 Eメールのある方にはEメールを使って情報提供を行います。同じような職種、年齢の方を同じファイルの中に集めて、BCCを使って一遍に情報を流すというグループ型のシステムがあります。キャリアシートの作成にまでいった人については、その人向けのオーダーメイド型の求人を1回に20件送る。そして、3件の希望をとりまして、紹介していこうというシステムがございます。そのシステムに追いつかないときは、管轄を越えて求人開拓を行う。北区で求人開拓しても、実は3分の2が区外に就職希望をしています。ほとんどマッチングが薄いという管内事情がございますから、外に行って求人開拓をしています。この場合は、産業雇用安定センターや関連機関にも協力していただいております。

【伊藤】 どうもありがとうございました。職業安定所にあまり足を踏み入れたことがないという方にとっては、「職業安定所っていろんなことやっているんだな」ということがおわかりになったかと思います。このように、いろいろな努力をしていても、まだ失業者が350万人前後いて、まだ増えようという傾向にあり、なかなか思うような政策効果が出ないという現状があります。

討  論

学校にキャリアカウンセラーを

【伊藤】 今までのお話の中で、ネットという1つの飛び道具と、カウンセリングという1つの手段があるということが、よくおわかりになったかと思います。きょうの趣旨は、「再就職を効果的にいかに進めるか」というところにあります。再就職支援の方策をより効果的に、そして相乗効果を発揮させるためにはどういうことをやるといいのか。それから、カウンセリングやネット求人システムのどこをさらに深めると、それぞれの持っている効果がより発揮できるのか。諏訪先生から、この2点についてのご意見を含めて、少しお話しいただければと思います。

【諏訪】 カウンセリングというのは、基本的にやはり個別、相対でありまして、お互いのコミュニケーションの中からよりよい解決策を見つけていく作業です。しかもその場合には、単なる言葉を使ってのコミュニケーションはほんのわずかであって、むしろ体全体、その人の持っている雰囲気が発する全体的な情報をとらえながら進めるところに、まさにアナログ的なよさがあるわけです。そのよさは、やはりネットでは無理です。ネットでのカウンセリングは存在しますけれども、なかなか難しい。文字だけでやらなければいけませんので、やがてパソコンでの動画情報その他を使ってもっとお互いにやりとりしながら、テレビ電話的に行われれば、随分よくなるだろうとは思います。しかし現状では、ネットを通じてのカウンセリングには、かなり限界があるだろうと思っています。
 ただし、非常によく相談を受けるような内容を集めて、その情報をFAQという形でネット上に載せていくことは、情報提供、収集と伝達のコストを下げる意味でも大変有効だろうと思っております。さまざまな能力マップですとか、適性などを調べたりするときも、インターネット上で相当程度のことができると思っております。こうしたアナログのよさと、ネット上のデジタルのよさをどう組み合わせていくかが、とても重要な時代になってきたのだろうと考えます。
数百万人という失業者が出ていて、潜在的失業者がそれに近いぐらいいる。あるいは、転職希望者も非常にたくさんいるという時代の中で、すべての人に対して個別のカウンセリングを行おうと思ったら、そのコストたるや膨大なものになってしまいます。大体それだけの専門職が日本の場合まだおりません。その意味で、我々は相対とネットの両方をうまく組み合わせながら、カウンセリングを重視していくべきではないかと思っています。
 きょうはカウンセリングが再就職との関係で話されていますが、実はアメリカやヨーロッパなどでは、キャリアカウンセラーという人の半分ぐらいは学校にいるのです。スクールカウンセラーです。学校時代、小学、中学ぐらいのころからカウンセリングを行い、キャリア意識、「自分はどういうふうに生きていくんだ」ということを絶えず考えさせていくことが大事です。これは学校の進路指導の先生には、やはりなかなか難しい仕事です。
 本日の課題ではありませんが、学校にキャリアカウンセラーをどのように配属していくか。毎日置く必要はありませんから、1人が5校なら5校担当して、月曜から金曜を代わりばんこに回ればいいわけです。アメリカみたいになりますと、地域によってはキャリアカウンセラーがショッピングセンターの中に自分のオフィスを構えていて、ちょうど地域の不動産屋さんのように自営しています。そういう人たちは、自営だけではなかなか食べていけませんので、嘱託的に学校のカウンセラーをやったりしています。こういう仕組みなども、日本で入れていく工夫がこれから大事だろうと思います。
 失業のことを病気になぞらえて考えますと、病気が非常に進んでしまった長期失業者は、コストでも何でも、もう大変です。したがいまして、できるだけ病気になったら早期に対応する。そういう早期対応型のカウンセリングの相談システムをどうやってつくるかです。
 しかし、もっと大事なのは、病気にならないことなんですね。「生活習慣病と同じような問題が長期失業者にはたくさんある」ということが欧米の研究に出ておりまして、日本でもほとんどそれは重なっているだろうと思います。
 自分のことをよくわかっておらず、「あなた任せ」でずっとやってきた。ある時点での動向の延長線上に世の中が進むと勝手に思っていて、そういうものがないと、「悪いのは世の中であって、私は被害者だ」というようなことばかり言う。確かに被害者の側面はあると思いますが、世の中が客観的に変化していく中で、大の大人がこんなことばかり言っていたら、再就職はできないわけです。こうした人たちに対して、少しでも時代に目を開かせていくためには、実は予防的なキャリアカウンセリングを学校時代、就職した後、折節に行っていくような体制の組み立てが大事だろうと思っております。

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早く再就職できるタイプとは

【伊藤】 林先生からは先ほどカウンセリングの一連の流れをご説明していただきましたが、実際おやりになられて、「こういうタイプの方は、非常に再就職がうまくいく」とか、「カウンセリングの効果が極めて早期に出る」といったことはありませんか。それから、カウンセリングから見たネットの求人情報の活用方法と言いますか、「どういうふうにすればカウンセラーにとって使いやすいのか」というような点についてご意見をお聞かせ願いたいと思います。

【林】 どういう方が比較的再就職しやすいかという観点から見てみますと、最初の「自己分析」のところで申し上げましたが、やはりよく自己一致している方、自分が例えばこういう能力を持っていて、これだけぐらいの市場価値があるということをよく理解していらっしゃる方ですね。こういう方は比較的決定率が高いです。早く決まります。ところが、これがずれていて、「自分は非常に高い価値がある」と思っていても、実際はそういう価値が備わっていない、もっと研修、研鑚を積まないといけないというような方は、もちろんカウンセリングを通じて自己理解を進めていくわけですけれども、やはり時間がかかります。いろいろ心の中で葛藤があり、抵抗もあり、場合によってはカウンセリングに来られなくなったりすることもあります。その辺は非常に気をつけてカウンセリングをやらないといけません。己の尊厳を傷つけないようにカウンセリングをしていかないと、結局は両者が傷つくことになるという事態になります。
 その方のよいところ、長所をしっかりと浮き彫りにしてあげる。もちろん弱いところもありますから、そこは認めるようにカウンセリングをしていって、もし必要であれば早い段階で補充、補足していくことが必要だろうと思います。早く自分に気がついていただく。これが一番のキーになると思います。
 それから、フットワークの軽い方、「何でもやってみよう」、「どんなチャンスにもチャレンジしてみよう」という方も、非常に早く決まります。
 あと、友達の多い人、あるいは「この方のところへ行けば情報があるだろう」ということを知っているとか、今までの会社で一緒だった方や学校の先輩などいろいろなチャンネルを持っている人ですね。持っていても行かない人もいるわけです。友達に失業しているのを知られるのが嫌だから行かない。そういう方ではなくて、どこへでも出かけていき、きちっと自分を話ができる人です。
 ハローワークでも同じことですが、ハローワークの案件を見て、「ない、ない」と言って帰ってくる人が結構たくさんいます。しかし、実際にカウンセラーが一緒について見に行きますと、あるんですね。よく見てらっしゃらない。ほんとうに働こうという気持ちがない場合もやはりあります。ですから、最初にカウンセラーはそういうところをよく見極めて、難しい人については、早く自己理解を進めていただく。それから、公共機関などの利用の仕方を丁寧に教えてあげる。「ハローワークはみんななれているからわかっているだろう」ということで放置しておくと、「結局カウンセリングに行ったけれども、何もしてくれなかった」というような事態になるわけです。ですから、ハローワークであろうが、いろいろな公共機関、人材銀行などもありますが、カウンセリングに来られた方については、そういうものの利用の仕方を教えます。そして、企業に面接を受けに行くときは、ちゃんとその情報を提供してあげる。つまり、そういうものを受け入れられる方ですね。そういう積極的な方が早く決まるということになります。
 ネットと再就職支援との関係ですが、私は将来的に、この両者は相互乗り入れすると思います。再就職支援会社はネットをもっと利用するようになる。別に再就職支援会社がネット業者を始めるという意味ではありません。例えば、自分のサーバーといろいろな情報ネットワークとをリンクして、それをクライアントが使えるようにする。場合によると、最近、NOVAではテレビ電話で英会話の指導をしていますけれども、そういうカウンセリングも行うようになるのではないか。その効果は対面式に比べると若干弱まるかもしれませんが、忙しかったり、遠方であったり、家庭の事情で出て来られなかったりするような方にとっては、それも1つの選択肢として有効に働くのではないかと思います。
 インターネット上での日本語の情報は英語の情報に比べるとまだ少ないですけれども、これからどんどん増えてくるでしょう。就職情報についても、いろいろな情報が書き加えられてくると思います。そういうものを有効に活用して、例えば自宅から求職活動をする。そして必要に応じて、会議電話で相談に乗ってあげることも可能だと思います。
 それから、これは再就職支援会社に与えられた課題ですが、カウンセラーを養成していかなければなりません。カウンセラーを養成すれば、自分たちのノウハウが出ていくことにもなりますが、そういうけちくさいことは言わずに、自分たちのノウハウ、今まで蓄積したものをこれからカウンセラーを目指す人たちに提供していく。そういうことも再就職支援会社としては非常に重要な仕事だと思います。カウンセラーが増えることによって、多くの求職者が救われることになるわけです。そういう方たちは、多分再就職支援会社で働く方もいらっしゃるでしょう。先ほど王子のハローワークの方がおっしゃいましたけれども、公共機関でもどんどんカウンセラーを採用して求職者を支援する状況が生まれてきています。そういうカウンセラーの養成に対して、積極的に貢献していきたいと考えております。

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どんな人がカウンセラーに向いているのか

【伊藤】 カウンセラーに向き、不向きはありませんか。

【林】 弊社は産業カウンセラーの資格を持った人を優先的に採用しております。それでは、どういう方が向いているのか。人の気持ちがよく理解できる。人の話をよく聞ける。人の話をよく聞かないで、ただ「これはそうしなさい、あそこに行きなさい」というのではなく、「ほんとうにその人がやりたいのは何か」、「その人が現在どういう立場に置かれているのか」といった辺をよく理解できる人ですね。そして、それを確認しながら、一歩一歩進めていける人です。早く就職を決めてやろうとか、そういう手先のことではなくて、心から支援できる人が向いていると思います。

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企業を取材して求人情報を提供

【伊藤】 今度は越智社長にお聞きしようと思いますが、いろいろな求人が実際に出ていますけれども、充足しないことが非常に多いわけですよね。職業安定所の統計を見ましても、未充足求人というのが大半です。求人サイトを運用している目から見て、充足する求人情報の質と言いますか、どういう情報の質にすると、求人が充足するのでしょうか。

【越智】 私どもで提供している情報には、ほんとうに小さな、極端な話、社長一人でまだ社員がいないという会社から、何十万人規模の会社まであります。特に小さな会社ですと、データだけではなかなか人は来ないですよね。
 我々としましては、できるだけ正直に情報を出していく。仮にマンションの一室に事務所を構えておられても、そういう情報を出していきます。それによって、人が集めやすくなることもございます。
 実際、未経験者は集めやすいですが、ITの技術者は非常に集めにくいわけですね。それについても、ミスマッチが少ないように、できるだけ具体的に「この会社にはどういう上司がいて、具体的にどんな仕事をやらせてもらえるのか」という中身を教えようと努力しています。そのほうが決まりやすいということも言えるかと思います。

【伊藤】 実際に取材した情報を提供していることの効果はいかがですか。

【越智】 我々が実際にその企業に出向き、見て、取材して、その情報を掲載する場合、例えば反社会的な会社はそこに載りにくいというのはありますよね。我々が人間の目で見て、「ここの会社は自分だったら絶対入りたくない」というところはお断りするわけです。生身の人間がリアルにおじゃまして、取材を何時間もする。写真まで撮る。そういう意味では、「おかしな」と言っては語弊がありますけども、そういう会社は入りにくく、情報の信頼性みたいなのを確保できるのは事実ですね。

【伊藤】 お話を聞いていて、ある案件を思い出しました。私の知り合いに大手製薬会社をスピンアウトしてベンチャービジネスを起こした人がいます。その立ち上げのとき少し関わったんですけれども、マンションの一室で立ち上げ求人を出しましたら、だれも応募してこない。そこで、外国帰りで就職できていない女性をターゲットに募集しましたら、「こんな年収で、この人が来るのか」という英語ペラペラで専門知識があり、コンピューターを自在に英語で操れるような人たちが来ました。結局その会社は立ち上げ当時、従業員5人全員が女性でした。この間上場しまして、創業者は大もうけしたみたいですけれども。
 日本の求職者というのは、学校時代からどういう基準で会社を選んでいるのか。将来、相当伸びそうかどうかというのはいろいろ見るとわかりますが、「マンションの一室で、怪しげなおじさんがやっている会社」と見られることもあります。こういう点について、学校で常に学生の目にさらされている諏訪先生はいかがですか。

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キャリアの蓄積は段階を踏んで

【諏訪】 先ほど転職をめぐる七五三という話が出ましたが、就職をめぐる七五三があります。ご存じのとおり、中卒だと7割、高卒だと5割、大卒だと3割が早期に退職すると言われている。私も職業キャリア論という授業を大学で持っております関係で、そういう人たちが結構相談に来るんですが、やはり一番大きな問題は、自分がよくわかっていないということです。自分の人生で何をしたいのかがわかっていない。その結果、大学に入るときと同じように、会社を選ぶときもブランドなんですね。今、「職業を選ぶとき」と言わなかったように、会社を選ぶだけでありまして、職業は何だかよくわからない。「悪くはされないだろう」と思っていくと、悪くされちゃうわけです。企画をやりたいというのに全然思ってもみなかったものをやらされ、「話が違う」というふうにやめていく。自分自身、どんな生き方をして、そのためにどんな職業の核を持っていくのか。そういう部分をもっともっと学校教育の次元でつくっていく必要があります。
 また、20代の適職選択の中で、何度も何度も転職する人がいますけれども、カウンセラーの人たちがうまく気づかせてあげないと、あっと言う間に30歳を越えてしまい、いろいろ難しい問題が出てきてしまいます。
 30歳を超えたフリーターの問題にも同じようなところがあると思います。私のゼミナールにいた学生の1人が30歳過ぎてフリーターだったんですが、その後、無事正社員として就職していきました。IT産業界にいて、フリーターで契約社員をやっていてもそう悪くはなかったということでしたが、「正社員になって何が違う」と聞きましたら、「いやあ、ここが違う」と言われました。それは何か。それは30過ぎて正社員だと、さまざまな仕事のプロジェクトを管理しないといけなくなるわけです。フリーター時代は管理したことがない。決められた仕事をやっていればよかった。この訓練が全然ないから大変だと言っていました。
 やはりキャリアの蓄積には、それぞれの年齢ごとに、あるいは、ある職種の段階ごとに、踏んでいかないといけない部分があります。そういうものに早く気づかせておくのが望ましいような気がいたしました。

【伊藤】 もう1つだけ越智社長にお伺いしたいのですが、実際にベンチャービジネスの社長が登場するという求人情報はありますか。

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サラリーマンに夢を

【越智】 ええ。小さな会社ですと、トップクラスが出てきて将来のビジョンを語ったり、「現状は少人数でも将来はこうしたい」ということを訴えかけたりしないと、なかなか人は来てもらえませんよね。ですから、ほとんど小企業については、トップなり幹部にご登場いただいております。
 あと、学生の職業意識に関連してですが、3年以内に3割やめる原因の1つに、学生がサラリーマンをプロだと思っていないということがあると思います。サラリーマンをだめな職業だと思っている。そこで、「サラリーマンはいかにすばらしいか」ということをもっと訴えかけていかないといけません。例えば「プロジェクトX」のようにです。いまプロは何かと学生に聞いたら、サッカー選手のことを言うんですよ。そういう学生に対しては、「サラリーマンもお金をもらっているのに、どうしてプロじゃないの」と言っています。「サラリーマンになって、それを本業にしてお金をもらう限りはプロなんだ。プロのサッカー選手と何も変わらない」ということを教えていかないと、後で間違うことになります。
 アメリカで転職が多いのは、ご存じのように職業観がはっきりしているからです。職業で転職していきます。それと、20歳代でエリート、非エリートがはっきり分かれます。結局、非エリートたちが転職します。ずっと1社に勤めることは、アメリカでもあるわけです。転職を繰り返すジョブホッパーは、アメリカでもよしとされていない。そういうことは、日本ではよく知られていないと思います。我々のビジネスとしてはアゲインストですが、いかに転職を繰り返させないようにするか。そのためには、やはり最初の就職観、労働観、そして、「サラリーマンはすばらしい」という意識を植えつけなくてはいけません。世の中の評論家の人たちにも反省していただきたいです。「サラリーマンは社畜」などとんでもない。サラリーマンに夢を与えるようなことをもっとしかける必要があるのではないでしょうか。

【伊藤】 同感です。あらゆる求職者が来る公共職業安定所はいかがお考えですか。

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生保の苦情処理係を非常勤職員として採用

【今井】 時代背景をやはりちゃんとつかんで、それこそサラリーマンを一生懸命やらないといけないと思います。伊藤さんが言うように、ハローワークには外国人や障害者を含めてたくさんおみえになります。ですから、1つのシステムの中で考えようとすると、飽和状態になる。そして、何もできないということが繰り返されてきました。
 今、我々が考えているのは、やはり必要なところに必要な分類をしていくということです。単に引き受けるだけでしたら、危ないという気がしております。したがいまして、中高年の方、外国人の方といった対象ごとに、そういう専門性のある施設や機関をまずつくり、情報提供システムやカウンセリングを置く。そういう機関にお預けして、やっていくべきだろうと思っています。実際の話、もうやりきれない状態となっています。
 ハローワークはその地域の中で、障害者雇用率の問題とか、人権問題とかいろいろやっていますので、事業主の方とのコンタクトとかネットワークを大切にしていこうと思っています。また、求職者に対しましては言いたいことを言えるような環境、お話に来やすいような環境をつくらなくてはいけないと思っています。
 ただ、私のハローワークでも紹介職員は8人しかいません。そこに毎日400人ぐらい来るものですから、まずその人が何を必要としているのかという状況を判断し、早めに就職をしたいのか、それとも、相談に乗ってほしいのか、専門機関に斡旋してほしいのかということをきっちり押さえていかないといけません。ハローワークでは雇用保険を支給していますが、言い方は悪いですけれども、満額をもらうまでびくとも動かないという人も現実にはいるわけです。この辺をよく理解して、「その人に対して、どういうアクションを、どの時期に起こすか」をプログラムしていく時間を確保しようと思っています。
 職員8名だけでは、全てを行うことはできません。そこで、15日勤務の非常勤職員を採用いたしまして、簡易な紹介の部分をお願いするようにしています。非常勤の方の中には、前歴が生命保険の苦情処理などをやっていた方もおります。職員はできるだけ後ろに下げまして、コーディネートする仕事にシフトしていく。その中の飛び道具としてメールがあったり、インターネットがあったりしています。大分類としては専門機関にできるだけお預けして、短期間に就職していただくのがよろしいかと思います。

【伊藤】 生命保険の苦情処理だった方は、先ほどの分類で言うと、「異業種、異職種への転換」になるでしょうか。

【今井】 職業紹介というのは国の専管事業の部分がありますので、本来どうなのか、制度上の問題もあろうかと思いますが、カウンセリングの部分としては問題ないと解釈しています。したがって、マニュアル等をつくり手続の方法等も考慮しまして、そういう人を採用し、研修していくと、かなりはまってきますね。上手と思います。そして、職員はできるだけ情報の中でのマッチングにシフトしていく。現在の窓口では、情報の提供はかなりできていると思いますが、マッチングの部分がちょっと量の中で埋没している部分があるので、そこで必要な面を少し拡げていこうかなと、小さな運動ですけれども、やっていこうと思っています。

【伊藤】 なるほど。苦情処理係にはまっていると。

【今井】 要するに、職業紹介の入り口というのは、人の意見をよく聞くことなんですよ。ポンポン、ポンポン自分の意見だけ言うよりも、まずは、ぐっと受けとめるんですね。そうすると、ぐっと近づいてきます。そこで、こちらに顔を向けてもらう。ここができないと、なかなか職業紹介の職員として育たないと思っています。生保の苦情処理係だった方々には、そういう習慣が身についていたということだと思います。

【伊藤】 林先生いかがですか。

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大切なのは人の話をよく聞くこと

【林】 そうですね。やはり人の話をよく聞いて、その人の気持ちをまず受けとめる。人というのは、やはり自分で立ち上がって進んでいかないと、ほんとうの意味で満足した再就職はできないわけです。こちらがあてがって、「これとこれがありますけれども、どうですか」、「ここに行きなさい」ということではなくて、「自分はこれがやりたい。そのためにはこういう努力をして、それを勝ち得たい」という気持ちを持っていただくことが一番大切だろうと思います。ですから、今井所長がおっしゃったように、そういうことができる職員の方、あるいは、臨時職員の方がいらっしゃれば、それは非常に効果が大きいのではないかと思います。

【伊藤】 先ほどのお話でもう1つ、「自分は何をやりたいんだかわからない」というように職業意識が明確になっていない約4割の方というのは、林さんのケースですと、どうやってカウンセリングをされるのでしょうか。

【林】 正直言って非常に難しいです。まだ初対面のときにお目にかかってお話ししていて、いろいろ分析をしてからもちろん決めるわけですけれども、その最初の段階で、「何をやろうと思っていらっしゃいますか」という質問を投げかけますと、「いや、実は私は何をやったらいいのかわからない」。これは若い人でも結構あります。ちょっと例を挙げますと、長野県のお仕事でカウンセリングに行ったことがあるのですが、31歳ぐらいの方で、もちろん大学を出て、どこかで働いていらっしゃったんですけれども、「私は何をやったらいいかわからない」、「何を見ても興味がわかない」とおっしゃる。それでも働きたいというんですね。しかし、よくお話を聞きますと、その人の心の中には、やはり何かやりたいことが、強いか弱いかは別にしてあったわけです。それをどう引き出すかというのがカウンセラーの技量だと思うんですね。
ですから、まずよく聞いてあげる。その人が話してらっしゃるときの表情とか言葉のトーンといったものの中に、そういうものを見つけていき、引き出してあげる。それは本人も気がついていないかもしれない。弱い感じで残っていて、それがある日突然強くなることもあります。
例えば、先ほどあげた養蜂業の方です。昔、小学生時代に昆虫が好きで、病気になられたときに健康食のことを随分と研究されていた。ずっとクレジット会社にいらっしゃったものですから、私たちが最初に会ったとき、「この方はクレジットカード会社の方で、年齢もかなり上がってきているから、似たようなところにいらっしゃるのが無難だろう」と考えていました。ところが、とんでもない。よくお話ししているとそういう面に興味があり、クレジットカード会社にはあまり興味がなくなってきた、できれば行きたくないということでした。そういう感じの方もいらっしゃるわけですね。その方とは一緒に蜂の研究から、養蜂のあの網をかぶってどうやるということも含めまして、インターネットなどでもいろいろなところを調べました。養蜂業者の方ともお話をしまして、蜂のことにはだいぶ詳しくなりましたけれども、そういう場面もあるわけです。そういうものを引き出してあげることが非常に大切だと思います。

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質 疑 応 答

【伊藤】 では、これからフロアーの方から質問を受けることにします。

【質問者1】 例えば、いろいろなツールは持っているけれども、頭の上にはまだちょんまげが載っているといった状態があるのではないかと思います。具体的に言えば、求職求人双方、いろいろなことを書いても、共通の言語がない。先ほど越智さんは、「サラリーマンはプロ」とおっしゃいましたけれども、日本のサラリーマンはそうなっていない。「ベテランにすぎない」というのが非常に多いのではないかと思います。私も何度か中途採用者を採用しましたが、毎回裏切られる。その道のプロだと思ったのが、某有名企業の経理のベテランにすぎなかった。はっきり言って、期待外れということの連続でした。求人求職、あるいは、カウンセリングについて社会が共通に持っているべき言葉についてどう考えるかお伺いしたいと思います。

【越智】 そのテーマは、恥ずかしながら、まだこれからですよね。それはコンピテンシーであるとか、いろんな評価の仕組みの言葉、それは仕事そのもの、あるいは、全体の能力の問題、いろいろありますが、まだ私どもの会社でもできていませんし、1社でやるものでもない。それは全体で考えていくべき問題だと思います。いわゆるエンプロイヤビリティですよね。例えば、大手企業のベテランではあったけれども、同じ経理でも他の業界では通用しない。これから考えなくてはいけない問題です。

【質問者1】 それを考えるのはどこでしょうか。どうも日本の場合、行政、すなわちお上で考えてほしいという雰囲気が会社にあるように感じるのですが。

【越智】 例えばイギリスにしても、アメリカにしても、官がそういうものにタッチするのは、絶対にだめですよね。もう少し、皆さん業界の方からも大いに考えていただき、共通の社会としての財産ができ上がればすばらしいと思います。

【林】 私も非常に難しい問題だと思います。おっしゃるとおり、そういう現象はあると思います。私どもの経験でも、就職が決まったけれども、お勤めになって戻ってきてしまう方がありました。そういう方を見ていますと、まず企業風土が違うために受け入れられない、なじめないというのがあります。それから、能力的に問題があり、例えば財務のベテランと称して就職されても、実際はほかのところで通用しないような能力であったということも散見されます。それに対して、これからどういう施策を講じていくべきか。非常に難しいと思うのですが、やはり各職務の資格と言いますか、1つの全国的な基準みたいなものをしっかりと確立し、そういうレベルで判断していくことが今後必要になるのではないかと思います。ただA社の経理のベテランというのではなく、「日本国における経理、財務のこういう道のこういうベテランである」ということが必要ではないかと思っております。

【今井】 例えば英語のTOEICのような外部労働市場としての評価基準を設けることは、やはり必要ではないかと思っています。しばらく前ですが、職務経歴というのは、実は逆に捨てられた時代がありました。なぜかと言うと、自分を雇ってほしいがために、うそを書くというんですね。それで履歴書の時代に移っていった。要するに、大学の名前を書く。そういう社会が今日まで続いてきた。それで、再び職務経歴のほうに戻ってきたという経緯があるようです。やはり外部労働市場としての価値や評価というのがない。我々としても、今後、構築していくべきことだと思っております。

【諏訪】 ものすごく重要な課題だろうと思います。だれがつくるのかといったら、だれか1人がつくるんじゃなくて、いろんな人がいろんな形でつくるしかない。
 3つのことが必要だと思っています。第1番目は、イギリスでもそうですが、全国的な基準を官だけではなく、民の業界などと協力しながら、あるいは、場合によっては、学校教育の担当者もかかわりながらつくっていく。NVQ(National Vocational Qualification)といった全国標準をつくっていく。つくりますと、今度はそれを社会人教育だとか、職業学校などの訓練過程の中に反映していく必要があります。そこで育ってきた人たちを雇っていくわけですから、会社内におけるそれぞれの資格づけ、あるいは、職種などの組み立て方も変わっていく。こういう仕掛けを日本の場合はどこにつくったらいいかというのが、1点目だろうと思います。
 2点目は、しかし、そんなものをいくら机の上でつくっても、いい外部市場がなくては絶対無理です。外部市場がないところで、業界標準なんてできるわけがありません。若いころ、ある社内教育機関に頼まれて行ったことがあるんですが、試験問題をつくったら、赤字が入って返ってきました。何に赤字が入っていたかといいますと、括弧のつけ方が間違っているというんです。世間は「○○○」とつけますが、そこでは■○○○■とつけていました。そのほか、言葉遣いなどにしてもそうですが、こういう社内事項のプロになると、ある会社の内部労働市場のプロにはなるかもしれないけども、それはよそでは使えない。というわけで、結局、外部労働市場がうまく育つということが非常に重要だと思います。
 3点目は日本における過度のOJT依存には問題があると思っています。もっぱらOJT依存、そして内部労働市場志向で、狭い範囲のやり方だけに標準を合わせていますと、汎用性を持つスキルはどうしても身につかない。それだけではなく、実はスキルや知識のあちこちに穴ぼこがあいていることが多いです。多くの大学が最近、業界で実務をやってきた「これは」と思われる方に非常勤をお願いしたり、あるいは、専任でとったりしたときに、しばしば後で「どうしてあんな人事をやった」というふうに責められるといいます。それは何でかというと、結局、OJTで育った方というのは狭いんです。ものすごく狭い。ある部分はめちゃくちゃよく知っているんですが、「えっ」と思うような業界標準のことを何にも知らない。ちょっと隣町の話になると何も知らないんです。そこから「OJTにはこういう側面があるんだな」ということに気が付きました。それだけに、日本でももっと社会人教育のためのシステム、生涯学習のためにOFF–JTをして、穴ぼこを埋め、同時に外部労働市場を整備する。さらにはその中で標準がいろいろな形で育っていくようにすれば、そこで初めてプロが育っていくようになる。これらの条件が欠けていると、いくら旗を振ろうが何をしようが専門職化は失敗します。今までのさまざまな試みがみんな失敗したのは、ある意味で当たり前だと思っています。

【伊藤】 私はビジネスキャリア制度で3年間汗をかかされたのですが、せっかくつくったのにほとんど普及していないのです。いろいろな要因がありますが、1つの象徴的なことが記憶に残っています。ビジネスキャリアの人事労務教育訓練のところを人事担当の取締役が受けたら落っこちてしまった。どうして落ちたのかといいますと、初級から上級に組み立てていくとき、極めて基本的と称する知識量が多過ぎるんですね。例えば労働基準法や労働組合法から始まって、労働安全衛生だとほとんどの方が落ちてしまう。そうなると人事改革プランを企画できる人でも、初級で落っこちてしまうわけです。「何で現役の人事取締役が初級で落っこちちゃうんだ」という話になりまして、落ちた方のキャリアをよく聞いてみますと、「ずっと営業畑にいて、最近人事に来たばかり」という人がいるわけです。「普段、どうされているんですか」と聞くと、「人事の若いやつにやらせている、それを束ねるのがおれの仕事だ」と。こうなるわけです。ですから、標準をつくる際には、そういう非常に難しい問題が出るんですね。細やかな実務の知識はどこまで要るのか。
 フリーターをやっていて管理的な仕事の経験が全くないという場合は、手も足も出ないと思います。だからといって、管理能力のすぐれた人でも大方は、基本的な知識をあまねく知っているわけではありません。そこら辺をどうするのかという問題を解決できなかったビジネスキャリア制度はうまくいかなかった。なかなか広がらないというのは、どうもその部分をやり過ぎたからではないかと個人的には思っています。
 これは5分や10分で結論の出る問題ではありません。日本の企業社会が抱えた慢性疾患みたいなもので、随分前からいろいろ言われていますが、なかなか前に進めない問題です。

【質問者2】 共通言語については、昨年9月の高齢者協会のミレニアムプロジェクト最終レポートから、かなりのヒントが得られると思います。
 それから、林さんにうかがいたいのですが、先ほど諏訪先生がおっしゃったように、やはり産業政策がはっきりしないと雇用が確保できません。そこで製造業からサービス業へという日本の今の流れがあります。どこの従業者が増えているかというと、対事業所サービスのところが、5年間で7倍ぐらい増えています。そうすると、異業種間で人がうまく動ける体制が必要になる。当面はやはりそこをねらうしかない。その場合に、林さんのところでは、企業秘密に属さない限りで結構ですが、どんなことを考えているのかというあたりをうかがいたいと思います。

【林】 現業の方で、非常に高齢の方の就職は、我々にとっても非常に難しい仕事です。案件が出ているものについても、なかなかマッチングができません。要求度が非常に高いものが多い。しかし、例えば、ずっとパネルの組み立てばかりをやってきた方ですと、55歳を超えてそういう仕事があるかというと、もちろんなかなかないわけです。そうすると、どうしてもほかの仕事に移っていかないといけない。その場合に、どういう方法があるのか。そうなるとアセスメントの世界ですね。この方はどういう特徴、価値観を持ってらっしゃるのか。そういうアセスメントから得られるその人の価値観だとか、もちろんその方の経験の中から、異業種に共通するようなものを見出していく。それしか方法はないと思います。
 本人がそういう転換にあまりこだわりを持たないで、フレキシビルな考え方を持っていることが非常に重要だと思います。ですから、そういう方向に持っていくような、そういうことを理解していただくようなカウンセリングも必要だと思います。そういう形で、「今、こういう方法で、こういうふうにやれば全部うまくいきますよ」というような妙案はございません。やはり1つ1つやっていく。案件がない場合は、やはり我々がみずから探していくことも必要だと思います。その方が、もっと気楽な仕事がしたいというのであれば、その気楽な仕事を探してあげる。仕事が全くないということはありませんので、収入などにさえこだわらなければ、必ず仕事はあると我々は信じております。そういう方向でご支援申し上げております。

【質問者3】 越智社長の会社のサイトを先ほど見せていただいて、非常におもしろかったのは、実際の企業を訪問、取材されて、それを15秒なりの動画で流していることです。その取材のポイントとか、どんな人が行って、どんな質問をされているのかということに興味を持ちました。文字や数字にあらわれない社風とか、社内の人間関係、風土とかというのをわからないと、入ってから、「こんなはずじゃなかった」ということになりがちです。通常のネット上の情報では、数字や言葉しか出ていません。今のような取り組みによって、そういった社風とか、通常の言葉にならないようなところまでも出されているのかなと思いました。
 それと、「自己理解が必要だ」というお話がありました。また、「職務経歴書を作成しなくてはいけない」、あるいは、「スキルには3種類があって」というようなお話がありました。では、どうやって自分の職務経歴やスキルを認識すべきなのか。建前だけではなく、売るためのものではない、自分の正直なスキルとか、職務経歴の見極め方、自己をほんとうに理解する方法にはどんなものがあるのか。
 先ほど諏訪先生から、キャリアインテグレーション、キャリア資産という話がありました。普通の金融資産や不動産だったら、どこそこの銀行に金利何%で預けているとか、借金があるとかというのがわかるわけですけれども、自分がインテグレートしなくてはいけないスキルとか、職務経歴とかというのは、どうやって把握するのだろうか。そこには数字にならない、言葉にならない、でも、言葉にしなくてはいけないという部分があるのではないか。そして、年齢がたつにしたがって、そういうものの必要性は多くなってくるのではないかと思います。
例えば、若いときバリバリ頑張っていた人が、年とるとだんだん元気がなくなる。そういう人が昔を振り返り、「そういえば、私にもああいうことはできた」とか、「こういうことも今の若い人たちの中に生かせばできるんじゃないか」と思い出すこともあると思います。年齢がたつにしたがい忘れてしまう悲しい部分もありますが、昔を思い出せば再活性化できるところがあると思います。そこら辺の自分のスキルとか知識の再生、職務経歴の理解の仕方、これらは自己理解の仕方だと思いますが、そこら辺のコツとか、個人としてどう考えたらいいのかといったことをお聞きしたいのです。

【林】 まず自己理解についてですが、自己理解とは必ずしも自分が非常によくできる人間だと思い込む、あるいは、どこへ行っても通用するようなすばらしい職務経歴書をつくるということでは、もちろんありません。「自分がほんとうに持っているもの」と「自分が今思っている自分」が一致することが自己理解です。
 そこで、「リーダーシップがある」というのであれば、実際にそれが事実として、今までの経歴の中でどのように結びついているのかを書き出していただきます。例えば、何年に大学を卒業し、会社に入ってどういう部門にいて、そこでどういう仕事をしてきたのか。担当した仕事を細かく具体的に、「こういう帳簿をつくっていた」、「こういうプロジェクトに加わっていた」というようにすべて書き出し、それらをスキルと結びつけていく。これに具体性がない場合、「実際にはそういう仕事をちっともしていなかった」というケースがあります。本人が「リーダーシップがある」とおっしゃっても、職務分析、職務の棚卸しをしてみますと、「グループには入っていたけれども、あまりリーダーシップをとっていなかった」というケースがあります。ですから、その辺の食い違いを見つけて、具体的にやってこられた事実とそのスキルを結びつけていく。そういう形でまずスキルの棚卸しをやっています。これが先ほどのカッツ教授のスキル分析です。その用語に結びつけてやっていきます。
 例えば、「リーダーシップがある」と職務経歴書に書いた場合、それで具体的に何をやってきたのか、リーダーシップと言える行動でどんなことをやってきたのか記入します。単に「私はリーダーシップがある」と書くのではなく、「こういう職場で、何名のプロジェクトチームを率いて、こういう目標で、こういう結果を出してきた」というようにです。具体的な事実にしっかり基づかないと、ほんとうの意味でのスキル分析にはなりません。
 「私は快活明朗です」と暗い表情でおっしゃる方もいます。おっしゃることと実際とが違う場合もよくあるということですね。そこを一致させていく。一致させないと、本人も就職したら苦しい。それで結局は辞めることになるわけです。先ほどのお話にも出ましたが、「自分は財務の能力がある」と書いていても、実際行ってみたらできないので、辞めて帰ってこないといけないという事態も発生するわけです。そこでやはり自己理解というのが非常に重要になります。

【質問者4】 冒頭、伊藤さんから、即戦力について「念仏のごとく」というお話がありました。まさにそのとおりだろうと思います。私どもの営業所でも、ガリバー型の企業から「即戦力が欲しい」と言われるので、「あなたのところで5年先に欲しい戦力の内容を具体的に言ってくれ。そうすれば、能力開発なり訓練なりしましょう」と申し上げたところ、言っていただけません。さらに突っ込んで尋ねますと、「中国語ができて、フランス語ができて、ドイツ語ができて、ITが全部使える」といったように冗談みたいなことを言われる。経営団体の方とお会いしたときも、必ず即戦力と言われるわけですが、「即戦力の内容について具体的に申し上げていただきたい」と言うと、お答えがございません。2度目にお会いしたときに同じことを申し上げましたら、「格別の技術、こういう技術が欲しいということを言っているわけではない。有体に言えば、やる気があって発想が柔軟な人のことを言っている」というわけです。
これは結局、経営者が今、将来像について非常に自信を失っているということではないか。もう1つは、人を採らないで済むための言い訳に即戦力という言葉を使っているのではないか。ですから、そういう経営側に対して、だれかが「もう少しまじめに考えてくれ」と言わなければいけないのではないでしょうか。
 林さんには、例えば年収1,000万円の方を500万円で再就職させるキーポイントを教えていただきたいと思います。それから、そういうことをするとマクロ経済と労働市場にどういう影響を与えるのか。今はそういうことをしなければいけないときのような気もしますが、あまり続けますと、マクロ経済と労働市場にかなりの影響を与えるだろうと思います。その点については、諏訪先生に教えていただきたいと思います。エン・ジャパンの方には、障害者サイトと高齢者サイトというのは現にあるのか、もしくは、これから登場させようとお考えなのかという点をお尋ねします。

【伊藤】 商工会議所等の事業主や経営者が集まった席で、私は機会あるたびに、「即戦力の中身を具体的かつ明確に示せ」と言っています。「どういう仕事をどこまで1年目にやってほしいのか明確に書け」と言うのですが、そうすると、「そこまでは書けない」と言われます。ですから、求人側がいいかげんなイメージで、即戦力という言葉を出すことが非常に多いと思います。

【越智】 身障者や中高年の専門サイトはあります。ただ、はっきり言ってビジネスにはなりません。むしろこれはNPO、NGO、いろいろな公的機関にぜひともおやりいただきたい。我々もボランティアの一環として、やらないといけないとは思いますが、むしろ民間が入りにくいところもあります。ちなみに、私ども「en」の社会人の就職情報で、「年齢が高い人でいい」という企業も、少数派ですがあります。そのときはどっと応募者がございます。まさしく、50?60歳以上の方々が今、仕事をお探しになっていることを実感させられます。我々も何らかの形で貢献しなくてはいけないとは思いますが、むしろ人材紹介業の皆さん方、あるいは、ハローワークの方にタッチしていただきたい問題だと思います。

【林】 1,000万円の給料の方を500万円のところにどう就職させるのか。これは非常に難しい問題です。そこで、例えば、1,000万円をもらって60歳まで勤めるのがいいのか、賃金が下がっても65歳ぐらいまで、あるいは元気な限り勤め続けられる会社に勤めるのがいいのか。そういうひとつの生涯賃金という考え方で説得すると納得されます。60歳になると非常に就職が難しくなる。50歳代後半で給料が下がっても、65歳ぐらいまで元気であれば働きたい。今、非常に高齢者社会ですから、長く勤めたいという方が多いです。男性の方に、「何歳までお勤めになりたいですか」と聞きますと、大体7割以上が「65歳ぐらいまで働きたい」と答えます。そういう生涯賃金的な考え方でお話しするのが一番いいと私どもは思っております。
それから、必ずしも下がる方ばかりではありません。再就職の場合、お辞めになる時点で、その年齢にふさわしい仕事をなさっていれば、そう給料が下がることはないと思います。ただ、若い人たちと一緒に同じような仕事をしながら年齢が上がってしまったという場合、同じ仕事に進みたいと希望しても、企業は「若い人を雇えばいい」となりますので、非常に難しくなります。

【諏訪】 マクロ経済的には特に何もないと思いますが、ミクロで見たら問題はたくさんあります。例えば内部労働市場で賃金がだんだんと上がっていき、外部の価格との差が大きくなった結果、(再就職する場合、)賃金がどんと下がってしまうようなタイプの人がいる。一方、外部市場でも同じように、場合によってはそれ以上になる場合も、外資系などに移っていくときにはある。それが何を意味しているのか。日本型の内部労働市場の報酬体系と外部労働市場型との間に大きなずれがある部分を、一体どうしていったらいいかということです。そのことがインプリケーションとしては重要だろうと思います。
 もう1つは、今のように何でもかんでも家族単位でものを考えていくのか、それとも、個人単位にしていくのかで、すごく違ってくるということです。日本では、親が子供の教育費を払うのを当然のように思っています。したがって、リストラに遭うと子供が大学行けない、あるいは、子供の教育費で非常につらいという声が出たりします。しかしながら、もともとそういうものは個人単位で社会的に設計してあるもので、必ずしも親が払うわけではない。親が払っている結果、日本は世界で見て今や非常に低学歴の社会になってきているわけです。つまり、外国では修士卒、あるいは、ドクター卒が非常に増えてきている中で、日本の大学院進学率はものすごく低い。なぜかと言ったら、教育費は親が出すという発想でいる限り、「大学でまでは我慢するが、大学院に行くのは自分で何とかしてくれよ」となってしまうからです。
このほか、家庭におけるシングルインカムかダブルインカムか、あるいは、住宅政策をどうするかといった大きな問題が、周辺ではいろいろあると思います。しかし、1,000万円の人が500万円になったところで、マクロ経済に何かということはあまりないのではないか。ある意味でそれはごく普通の現象ではないかという気がいたしております。

【質問者5】 キャリアカウンセラーの重要性は非常に高いと思いますが、働く人のメンタルケアがものすごく大事なのではないかと思います。キャリアカウンセリングの中の一大要素と言えるのではないか。日本では今、自殺者が3万人を超え、そのうち生活苦による自殺者が1万人を超えているという現状の中で、この辺をいかにしてケアしていくかということに関してお聞きしたいと思います。

【林】 メンタルケアというのも非常にカウンセラーにとっては重要な仕事です。失業されて落ち込んで来られる方、あるいは、途中で問題が発生して落ち込まれる方、家族や自分の環境に問題があって悩んでらっしゃる方、いろんな方がいらっしゃいます。健常者が一時的に落ち込んでいる、あるいは一時的な悩みごとがあるという場合については、キャリアカウンセラーの範疇で、カウンセリングで回復させることができます。しかし、それ以外の病的な、例えば鬱病になってしまっている方などの場合、まずはカウンセラーとして、「そういう種類の病気になっているかどうか」を判断できる力を持ってないといけないと思います。それを知った上で、もしキャリアカウンセラーの範疇でないものについては、やはり専門医に任せるというのがカウンセラーとしてあるべき姿だと思います。
 カウンセラーの教育の中では、メンタルケアもかなり大きな部分を占めています。一時的に落ち込んでいる健常者をいろいろなカウンセリングのスキルで回復させていく。そういうことは、カウンセラーとしてできないといけない。ただ職業紹介だけやるのは、キャリアカウンセラーではありません。

【伊藤】 質問がまだあるとは思いますが、すでに予定していました時間をオーバーしていますので、この辺でフォーラムを終わりたいと思います。大変貴重な話をしていただいたパネラーの方、積極的に質問を出されたフロアーの方のご協力に感謝する次第です。

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