週刊労働ニュース関連記事:第11回旧・JIL労働政策フォーラム
欧州は若年失業・無業とどう戦ってきたか
~わが国の若者政策へのインプリケーション~
(2003年1月22日) 


 欧州各国で若者の失業率が急激に高まりはじめたのは、1970年代半ばごろであった。若者はなぜ失業しやすいのか。80年代、90年代を通して欧州諸国では若者を対象にした労働市場政策、青年政策が展開され、以来、その評価、吟味が進められてきている。 一方、90年代以降、日本の若者の失業率は急激に高まり、学卒無業者も増加している。今、ヨーロッパから日本は何が学べるか。このフォーラムでは、欧州委員会、およびイギリス、スウェーデンの両国の政策担当者、研究者を招き、日本の政策担当者を交えて、現実的視野から若者の失業・無業増加の背景にある問題とこれに対する有効な対応策について議論する。
 
 
 日時: 平成15年1月22日(水) 14:00~17:00
 場所: 日本労働研究機構JILホール



講師プロフィール

F.Siebern-Thomas

 Employment Strategy and ESF Policy Development and Coordination, Unit A1, Employment Analysis, EU
 

Hans-Ake Antonsson

 National Board for Youth Affairs, Sweden
 

D.Hugh Whittaker

 同志社大学マネージメントスクール教授

中村 正子

 厚生労働省職業安定局業務指導課課長補佐
 

小杉 礼子

 日本労働研究機構主任研究員
 

 日本労働研究機構(JIL)は22日、「欧州の若年者の失業・無業者対策の経験と日本への示唆」をテーマに、第11回旧・JIL労働政策フォーラムを開催した。フォーラムでは、EU、スウェーデン、イギリスの若年失業対策への取り組みを報告。各パネリストからは、就職を社会での自立プロセスととらえることの重要性や、教育や訓練の機会を与えることの必要についての発言が相次いだ。パネリストは、F・ジーベルン・トーマス(欧州委員会雇用社会問題局エコノミスト)、ハンス・オケイ・アントンソン(スウェーデン国家青年問題委員会開発部長)、D・ヒュー・ウィッタカー(同志社大学教授)、中村正子(厚生労働省職業安定局業務指導課課長補佐)。コーディネータは小杉礼子(日本労働研究機構主任研究員)。



 

雇用戦略で各国協調/EU

 欧州委員会で雇用分析を行っているトーマス氏は、EUで実践されている若年者雇用対策を報告した。欧州諸国の若年者の失業率は70年代以降高水準で推移。EU加盟国では、1996年から2000年にかけて1200万の新しい仕事が創出され、労働市場に800万人が参入した。しかし、EU(27カ国)での若年失業者は約450万人に及び、2001年以降も増加傾向にある。今まで雇用創出の中核だったサービス部門や情報産業などでの雇用の伸び率の鈍化も影響しているという。
 近年では若年者のパートタイム労働の割合も高い。パートを選ぶ理由として、学校などで教育・訓練を受けることをあげる比率が高いのが特徴だ。
 90年代半ば、EUで失業に関する条項が採択され、加盟諸国に提示する指針の法的な根拠が与えられた。1997年のルクセンブルクサミットでは、「欧州雇用戦略」を決定し、毎年、加盟諸国の雇用政策をモニタリングしている。EU各国による雇用戦略の協調で、代表的なものが「雇用指針」だ。それによれば、加盟国は、国ごとに行動計画を欧州委員会に提出。欧州委員会がそれを評価し、共同雇用レポートを提示する(これに勧告が伴うこともある)。
 とくに若年者の雇用で加盟各国は、失業後6カ月以内に、少なくとも長期失業者の2割には積極的な措置(就業の機会や教育、訓練、研修など)を与えねばならないとしている。
 トーマス氏は、EUの雇用政策について報告しながらも、加盟諸国で労働市場や制度に差があることも指摘。単一の解決はないという。例えば、ドイツでは歴史的にマイスター制という特別な仕組みがあり、雇用されるかどうかは、若年者の自発的な就労意識に頼っている。そのため、使用者に若年者を雇用し訓練する必要があることを説得するのがドイツの特徴だ。具体的には、訓練をしない企業には税金を課している。トーマス氏は、多様性を考慮した政策の重要性を強調した。


国家的な目標を明確化/スウェーデン

 アントンソン氏は、スウェーデンの若年対策の取り組みについて報告した。同国は歴史的に若年者雇用に対して積極的な政策を打ち出しており、80年代半ばには、青年大臣も新設。90年代半ばには、教育省の国家青年問題委員会という国家機関も設置した。
 政策は各省庁の垣根を越えて運営しており、地方自治体とも連携を深めている。若年者問題は、教育や労働市場政策だけでなく、文化・余暇政策、社会政策、住宅政策など横断的な取り組みが必要だからだ。
 スウェーデンの青年政策は、若年者の「家族からの自立」の促進が基本にある。
 アントンソン氏は、90年代の若年者の傾向として、成人への移行期の長期化や、教育資格のニーズの高まりに加え、学校から職場への移行期の延長などをあげた。スウェーデンの失業率は91?92年には15%にまで上昇し、出産年齢の高齢化や出生率も低下傾向にある。
 これを踏まえ、国家青年問題委員会は、3つの主要目標と32の個別目標の実施を掲げ、フォローアップ体制も完備、4年ごとの詳細分析も実施している。3つの主要目標とは、(1)自立的生活(若者が自立した生活を送れるような好環境の整備)(2)若年者が真に重要な役割を果たし、参加する機会を得られるようすること(3)若年者を資源として活用されるようにすること~~の3つ。
 このような主要目標に、32の個別目標が立てられている。例えば、自立的生活目標では、2001~2年までに、後期中等教育課程を卒業する生徒数の増加をめざすことや、各年齢層の少なくとも50%が25歳に達するまでに高等教育を受け始めるようにすることなども定めている。また、15~18歳までの若年者のうち、夏季に少なくとも3週間、職業実習の機会を与えられる人の割合を高めることも目標だ。


生活保護から職場へ/英国

 ウィッタカー氏は、英国で80年代に20%まで上昇した若年失業率を、10%台まで引き下げた、サッチャー政権の各政策と、ブレア政権のニューディール政策について報告した。
 英国では、サッチャー政権下、1979年から82年までの3年間で、製造分野の雇用者数の4分の1が喪失、失業者率は上昇した。当時、イギリスの若年者(25歳未満)の失業率は10%から20%超まで高まった。
 その時、英国で起こった現象は進学率の上昇だ。多くの中流階級の若年者は、高等教育に進んだ。79年の英国の18歳人口の高等教育進学率は、日本の約半分の20%未満だったが、90年代初頭までには倍増している。ウィッタカー氏は、第3次教育ブームの存在を指摘。これにより、従来は高卒者が就いていた職種に大卒が就く移転効果も見られたという。
 また、サッチャー政権は、競争力強化のため、「技能と訓練」を主体とする対策にも取り組んだ。それまで英国で100年あまり、政府の管理とは無関係に成立していた多数の職業資格制度を合理化し、86年には国家職業資格制度(NVQ)を創設している。「職場学習」を基本とするNVQは、職業技能の「階段」に若年者が参入できるよう、後押しをするのがねらいだ。ウィッタカー氏は、理論的には、この時に、生涯学習の統一制度が構築されたと指摘した。
 そして、1998年、ブレア政権下で、若年失業者向けのニューディール政策が実施された。この政策は、6カ月以上失業している25万人の若年者を「生活保護から職場へ」復帰させるのがねらいだ。
 個人アドバイザーとの相談期間として設けられた最高6カ月の準備期間が終了した時点で、若年失業者に4つの選択肢を提示する仕組み。選択肢は、(1)使用者のもとで補助金を受けて働く(2)フルタイムの教育または訓練を受ける(3)ボランティア・非政府組織で働く(4)環境タスクフォースで働く??の4つ。これらの選択肢にあるように働かなければ、失業給付を受けられないのが特徴だ。
 これらの選択肢のどれも選べない人もいる。英国では「NEET」(就労も就学もせず、訓練を受けていない人)と呼ばれ、都市によって、15?25%を占めるという。NEETには、家庭問題や住居問題、正規の学校教育を受けていないなど、就職するためのハンデを持っている人が多い。そこで、13歳?19歳の若年者層を対象に、個人アドバイザー制度を創設している。
 ウィッタカー氏は、英国の政策の日本への示唆として、現在の若年者失業の増加が、成熟社会の結果であり、「甘やかされた怠惰な若者の問題ではない」と強調。政策立案では、若年者の多様なニーズに耳を傾け、「若者がどうあるべきか」ではなく、「若者自身がどのように考えているか」を理解する必要があると語った。


次世代育成の視点で/日本

 中村氏は、日本の高卒者の求人数の低下を指摘した。高校生の就職状況は、1992年の求人数をピーク(168万人)に、昨年3月で24万人まで激減している。学校を経由しない人や就職も進学もしない無業者も増加傾向だ。
 また、学卒無業者や早期離職者の増加により、フリーターの数は年々増加している(2000年、推計193万人)。フリーターは、長期化するほど、正社員化が困難になる特徴がある。
 厚生労働省では、高校・中卒者に対しては、文部科学省や学校と連携して求人開拓、職業紹介を実施する。省庁間の垣根を越えた取り組みで、学校段階で、就職への動機付けを行うのが狙いだ。フリーター対策では、ヤングワークプラザで個別に就職を支援する。若年者のトライアル雇用(3カ月の試行期間に奨励金を支給)による常用雇用の推進や、職業意識啓発のため、インターンシップなどによる就業体験も強化中だ。
 中村氏は、失業とフリーターに対する予防に力点を置くべきだと語った。学校段階での職業意識形成が鍵だ。さらに、就職後の定着率の向上にも注視すべきという。若年者の早期離職傾向が、企業の採用コストを高めているからだ。そして、若年問題は、単に若年者個人の問題ではなく、次世代を担う人材の育成という社会問題としてとらえ直すべきだと述べた。



(週刊労働ニュース 2003/01/27)