【質問者1】 企業別労働組合の問題ですけれども、都留先生は内部労働市場論の立場から企業別労働組合でなければならず、それにかわる組織形態の労働組合はないということをおっしゃったわけですね。ところが、内部労働市場というのは崩れているのではないでしょうか。経済がグローバル化して、今まさに労働力も流動化していますし、雇用形態も多様化しています。内部労働市場論は、企業別労働組合存立の条件としては非常に弱くなっているのではないかと思います。
「企業別労働組合は従業員を代表しているのか」ということが議論になりました。パートが非常に多くなっている。正社員は減ってきている。これからますます正社員は減っていくだろう。そうなってくると、正社員だけを対象としている企業別労働組合は、その企業の従業員を代表できなくなって、少数になっていく。そうなってくると、その企業の少数である企業別労働組合が従業員を代表することにはならなくなる。ではどうするのか。企業別労働組合を前提とする限りは、企業別労働組合が組織化して、組織を広げていく。そして、正社員だけでない労働組合にしていくということが1つの方法としてあるのではないかと思います。
「そんなことを言っても、パートにはパートの要求があるだろう」、「雇用形態の違いによって要求が多様化しているのではないか」、「それを1つの組合で代表することができるか」ということが議論になっています。しかし、今の正規労働者だけの企業別労働組合の中でも、要求が多様化してはいないでしょうか。正社員の労働組合ですら要求が多様化しているわけです。しかも、最近ではなくて昔からそうです。ですから、それを理由として「企業別労働組合は代表していない」、「多様化の要求に適応できない」ということにはならないのではないかと思います。
やはり「そこで働いている労働者の労働条件の維持・改善を図るためには、どういう組織形態がいいのか」ということを、まず考えるべきではないでしょうか。企業別労働組合で代表できないからといって、直ちに従業員代表制というのには疑問があります。やはり、労働三権がちゃんと保障されていなければ、そういうバックがなければ労使対等にならないのではないか。そして、労使対等でなければ、労働者の労働条件の維持・改善は図れないのではないか。労使対等という限りは、やはり労働三権が保障している労働組合以外にはないのではないでしょうか。
それから、今の労働者が一番関心を持っているのは賃金制度の問題だという話がありました。そのために企業別労働組合でなければならないということだったと思うのですが、いま労働者が一番関心を持っているのは、果たして賃金制度の問題でしょうか。例えば、「成果主義賃金にしろ」とか、「年功賃金を残せ」とか、そういうところに一番関心があるのでしょうか。私はやはり賃金水準の向上だと思います。やはり賃金水準のアップが、労働者が一番関心を持っていることではないでしょうか。
【質問者2】 まず都留先生の「労働組合に経済効果があるのか」ということに関係しますが、いわゆる雇用形態の多様化という話で論点が進んできているような感じがします。私の率直な意見として、都留先生が発表された内容は、中小零細企業を参考にしていないのではないかという疑問があります。なぜかというと、私どもの労働組合は主に中小企業を対象に組織化をやっていますが、中小企業では有給休暇がないとか、退職金制度がないというのが一般的にあります。こうしたことは即、労使紛争になりやすいのですが、これが安定した場合には有給休暇が取れる、退職金制度が徐々に整備される、賃上げがされるということで、経済効果は間違いなくある。
それと、なぜ組合員の組合離れが生じたかについてですが、私は少し見方が違います。例えば、組合役員の勇退時に大きな合理化が起こっているということが、一般法則としてあります。経営側と労働者側のせめぎ合いの中で、企業内組合が合理化に表向きでは反対と言っても、実際は相当利益誘導の問題とか、実際は合理化をのんでいる経過とかいろいろある。それがリアルに語られないで、単に意識改革の問題だといっても、実際にはそうではない。むしろ経営は並々ならぬ意図を持って、いわゆる労働組合幹部の交代時に合理化をやっている。そういうところが少し抜けているのではないでしょうか。
【都留】 企業別組合のベースが内部労働市場にあるとすると、その内部労働市場は崩壊しているのではないかということについてですけれども、今までの雇用保障の対象となっていた男性に関しては、2000年の賃金センサスまでは長期勤続化の傾向がますます進んでいるということがあります。したがって、その層に関して内部労働市場的な慣行はまだ崩壊していない。ただし、それがカバーする範囲は着実に減少しています。つまり、これは雇用形態の多様化と裏腹の現象であり、そういう多様化が進んでいるということです。
私は企業別組合の定義をかなり狭く、つまり現行の労組法上の組合として定義しています。そういうものである限りは、少なくとも「企業の中での利害の共通性」というものがないと、企業別組合は成立し得ないと考えています。欧米の労働組合に比べて、企業別組合は多様な労働者を組織化しています。その最たるものはホワイトカラーとブルーカラーを同じ組合員としているということです。ただし、これが可能なのは、ホワイトカラーにもブルーカラーにも同じ人事制度が適用され、少なくとも、これまではその2つの層に関して同じ雇用慣行が維持されていたからです。さらに言うと、パートタイム労働者の組合員化が進むのは、そのパートタイム労働者が基本的には正社員と同じ仕事をしているからです。そして、長期勤続化が進んでいるから、企業別組合に入れることができるわけです。
これは私の狭い定義による企業別組合に関する見通しです。逆に企業別組合をもっと広く定義すればいいという考え方もあり得ると思います。それは先ほど井元さんがおっしゃったように、これは一種の試行実験的なお話だと思いますが、「とにかく入れてしまえばいい」、「労働組合の質が変わっても、それはまた別の組合であろう」という考え方もあり得ます。これの最も極端な例は、私が分析の中で従業員組織と呼んでいる社員会ですね。これにはパートタイム労働者も入ります。さらに重要なことは、管理職も入ります。経営の利益代表者も入るわけですね。それは、役員でない限りは従業員という資格で同じだからです。これは1つの可能な選択肢ですが、そのためには労組法を改正しなければいけません。経費援助も社員会の場合はあります。これは労組法で禁止されています。ですから、企業別組合の定義をどう変えていくのかによって、この回答は変わってくるのではないかなと思います。
また、組合離れの原因が企業との癒着関係にあるというようなことですが、私の分析の中では必ずしも明示的に取り上げておりません。そういった事例研究を十分やっておりませんので、今日いただいたコメントに従って今後考えてみたいと思います。
ただ、私の分析対象で、「中小零細企業が対象になっていないのではいか」、「だから経済効果がないのではないか」という点に関しては、大いに反論があります。私のこの調査は、企業に調査票を送って、その平均賃金の額を書いてもらうというやり方ではありません。住民基本台帳に基づいて、18歳から59歳までの個人を家庭に訪問して、具体的な賃金額を聞くというやり方でやりましたから、超零細企業の従業員も入っています。
【水町】 従業員会への使用者の経費援助が労組法上規定されている支配介入となって不当労働行為になるかという話ですけれども、労組法上労働組合と認定されたものに対して資金援助をすると、それが支配介入になって、労働委員会に対して不当労働行為だというふうに申し立てることができます。他方で、労組法上労働組合ではない従業員会に資金援助しても、労組法7条の不当労働行為の問題は基本的には出てきません。ただし、労組法自体が労働組合をターゲットとしていて、もう何十年も全く変わっていないということ自体、労組法の機能不全があって、それが今の実態に合っていないとすれば、労組法自体をどう改めていくかということは、今後の重要な政策課題だと思います。
【二宮】 社員会、従業員会が組合の代わりになれるのかというのは、先ほど言ったとおり全くナンセンスな話です。保障も何もないわけですからね。対等な原則も。それらが組合にかわって団体交渉するというのは、全く不可能、無理なことだと思います。
【井元】 私も全く同感でして、従業員代表制におきましても、あるいは社員会におきましても、これは質的に労働組合とは違うというふうに思っています。
【質問者3】 労働組合とは、結局、弱い従業員が集まってできたものです。弱いからものが言えないので、みんなで集まって気持ちを伝えようということで、運動してきたわけです。
私がおかしいなと思うのは、日本国憲法で団結権から団体交渉権まで保障されていて、むしろ組合をつくりなさいというような法律があるにもかかわらず、「労働組合をつくることはいけないことだ」というような風潮があり、経営側が労働組合をつくろうとした人たちやグループを妨害したり、完全な法律違反にもかわらず不当労働行為が行われ、争議や紛争になってしまい、なかなか解決しなかったりするという実態があることです。だから、法律と憲法と労組法がある中でも、なかなか組合ができていかない。「組合にかかわったら大変なことになるな」ということで、だんだん「労働組合をつくったり入ったりすることはいいことではないのではないか」というのが、自然にできてきているような気がしてなりません。こういうことをマスコミの方も何で取り上げないのかなと思います。今日お見えの大学の教授の方々からも「労働組合をつくったらいいんじゃないの」「労働組合頑張れ」ということを、いろいろなところで言っていただきたいなと思います。もし、「労働組合なんて要らない」というふうにお考えでしたら、どこかでそれをはっきりとおっしゃるべきだと思います。
あと、労働組合は多様化している内容を、いろんなものに取り組んでいますし、年功序列賃金を頑に守っている組合なんてないはずです。そういう意味ではいろいろなことをやっているわけですので、「対応できないから組合はもう無用だ」というように話がいくのはどうか。労働組合がどういうものかもう少し理解していただきたいと思います。
【質問者4】 私は何らかの形で従業員代表制の法制化が、もう必要な時期に来ていると思います。そのときに問題なのは、組合がない職場でそういうことを議論するのは大変結構なことだと思いますが、例えば既に組合がある、とりわけその組合が少数組合だった場合、その競合関係をどう整理するのか。この辺はどういうふうに考えたらよろしいのか、それをうかがいたいと思います。
【質問者5】 労働組合としてやってはいけないこととして、「政治活動や社会活動を主な目的にしていること」ということがあります。しかし、「社会が悪いのは政治が悪いからだ、大企業が悪いからだ」ということでやってきて、「だから、おまえのところもそうだ」と言って要求してくるようなことがさんざんありました。こういうことに対して、私も私なりの所見があるものですから、労働委員会に行きまして、「こういうことを言ったら不当労働行為だと言われたので取り上げてほしい」と言いましたら、労働委員会は、「組合から言ってくることは取り上げるけれども、経営者から言ってきたことは取り上げない」ということでした。これはおかしいですね。両方の話を聞いて初めてわかるものなので、そういうことをやらないというのが法律で決まっているのかどうかお聞きしたい。
もう1つは、組合との折衝を何年もやってきまして、やはり組合のリーダーに魅力というのがもうひとつ欲しい。上のほうから言われて、ただ、戦術をぶつけてくるのではなく、ほんとうに経営のパートナーとしての組合というのがどうしても欲しいわけです。やはり経営をしてみて、「働く人との接点をいかに持つか」ということは非常に大事なので、そういうことを考えます。しかし、「それは組合の総会でどのような決議で、どんな人が集まって、どんなふうにやったんですか」と聞くと、すべて不当労働行為ということで片づけられてしまう。もう少し魅力のあるリーダーを育てるために、ゼンセン同盟とか大きな組織ではどういうことをやられているのか、それを聞きたい。
【都留】 「阪神タイガース頑張れ」といっても、「なぜ弱いのか」という戦力・経営分析をしないと、だめだと思います。私は大学で労使関係論も教えますし、人事制度の経済分析も教えますが、労使関係のときは学生が来ない。これが今の悩みです。
私は、もっと小中学校の段階から労使関係に関する教育を、教科書の中に取り入れてほしいと思います。幸か不幸か大学入試センター試験では、毎年労使関係に関する問題が、現代社会分野で1問か2問出ますが、そういった教育が重要ではないかと思います。
【水町】 労働組合というものは、労働者が弱いからできた。歴史的にはそうであり、今でも弱い労働者がいることは確かですが、2点だけ認識しておいてほしいことがあります。1つは、労働者自体が非常に多様化しているということです。その中で、ではだれがほんとうに弱い存在なのか、ほんとうに弱い人に目が向いているのかということを考えて、組合運動を行ってほしいと思います。
もう1点、「弱いから、武器としてストライキ権を保障することが大切だ」ということですが、では、なぜ日本の労働組合、特に多数組合はストライキ権を武器として持っているのに、その武器を使わないのか。なぜそうなのかということを深く考えていく中で、今の労使関係のあり方とか、今後の労使関係のあり方が少しは見えてくるのではないかと思います。
従業員代表の中での少数組合の位置づけについてですが、従業員代表の中で民主的に、公正に代表を選ぶということは非常に重要になってきますので、多数組合、少数組合とか、正社員、非正社員、そういう区別なく民主的に多様な利益を吸い上げて代表が選ばれるというシステムをつくることが必要です。
そういう意味で、従業員代表のシステム化の中でもそうですし、判例法理で合理性をどうするかという中でも、多様な利益を多様な利益として吸い上げて反映させるというシステムが、実は一番の根幹になります。
使用者側の不当労働行為はあるけれども、労働者側の不当労働行為はないという点ですが、日本ではそうなっています。ただし、アメリカでは、使用者側の不当労働行為と同時に、労働者側の不当労働行為というのも定められていて、労使間で両当事者がフェアに交渉しなさいというふうになっていますので、今後もし労組法改正の中で不当労働行為制度のあり方を再考するということになれば、選択肢としてはそういう方法もあり得ると思います。
【二宮】 今のストライキ権のことについては、多少違うかなと思います。ストライキ権には事前対処方式や事後対処方式というのがありますが、スト権集約は相当数多くの組合がやっています。それを実行しているか、実行していないかは別にして、ストライキを背景にギリギリのところで交渉をしている組合が数多くあるということを認識しておいていただきたいと思います。
あと地労委の件ですが、労働組合の申請のみではなく、経営側があっせん申請をしても、地労委はノーとは言えません。受け付けます。
それから、リーダーの魅力の問題ですが、労働組合というのは、会社の中の不平・不満を集めて、これだけの不平・不満がありますということで経営側に持っていくわけです。それを集め切れないリーダーというのは魅力がないと思いますね。一部の不平・不満だけ集める人も魅力がない。全体の不平・不満を集めて、経営側との交渉に持っていく。そして、団体交渉によって決めるわけです。そういうことがきちんとできるリーダーを育てないといけない。それは組合の先輩の役割であり、それぞれの所属している産別の役割だと思います。
【井元】 私も人事担当として失格でございまして、魅力ある人をそう簡単につくり出せるような方法を持っておりません。もし持っていれば、私どもの企業はもっと成長しています。ただ、原点を大切にしていくというのは必要だろうと思います。私どもで言えばお客様です。おそらく労働組合で言えば、常に困ったことを相談しにいけるといったこと、それから、労働条件の向上だと思います。常に原点を維持していくことは、どんな団体でも大切だろうと思います。それを持ち続けられる人というのが、魅力ある人なのかなというふうに思います。
【江上】 本日は、労働組合の組織率がなぜ下がったかというところから話が始まりまして、企業別労組論、最後にはリーダー論まで出ました。多岐にわたる議論を展開いたしました。こうした問題を考える上で、本日のフォーラムが少しでもみなさんのお役に立つことができたなら幸いであります。ありがとうございました。
新卒採用を中心とした日本の雇用関係の始まりというのが、恐らくそういったことの第1点でもあろうかと思っております。一企業の中ではなかなか解決できない問題が多く、悩ましいところはありますが、当面は地道な努力をしていくしかないのかなというような観点で見ております。 |