議事録:第4回旧・JIL労働政策フォーラム
日本のワークシェアリングのあり方を探る
(2001年12月21日) 

目次


講師プロフィール

小野 旭(おの あきら)

日本労働研究機構研究所長。東京国際大学経済学部教授。一橋大学名誉教授。2001年より現職。
主な編著に『変化する日本的雇用慣行』(日本労働研究機構、1997年)など。
労働経済学専攻。

村上 忠行(むらかみ ただゆき)

日本労働組合連合会(連合)副事務局長。連合総合政策局長、政策グループ長等歴任の後、2001年より現職。
 

矢野 弘典(やの ひろのり)

日本経営者団体連盟(日経連)常務理事。1963年株式会社東芝入社以降、東芝欧州総代表、東芝ヨーロッパ社等歴任。1999年日経連理事・国際部長を経て、2000年より現職。

樋口 義雄(ひぐち よしお)

慶應義塾大学商学部教授。労働政策審議会委員。主な著書に『雇用と失業の経済学』(日本経済新聞社、2001年)など。労働経済学専攻。

斎藤 邦彦(さいとう くにひこ)

日本労働研究機構理事長。旧労働省職業安定局長、労働事務次官等歴任。1996年より現職。主な著書に『21世紀の雇用政策』(労政研究所、1997年)など。


はじめに(齋藤邦彦・日本労働研究機構理事長)

 日本労働研究機構は雇用・労働問題でいろいろな調査・研究を行ってまいりました。そのなかには労働政策の企画立案に当たる場合に基礎となるようなものも多くあり、社会情勢の変化に即応しながら、その時々の問題を深く掘り下げて研究をしてきました。その成果、あるいはいろいろな労働問題の政策論点について広く関係者の方々で議論していく場を提供することも非常に大事だろうということで、今年9月からJIL労働政策フォーラムという形で開催することにいたしました。これで4回目となりまして、その時々のトピックを取り上げながら行ってきたつもりです。
  さて、今回は「日本のワークシェアリングのあり方を探る」ということです。ご承知のように、日本の経済情勢の反映もあるかと思いますが、最近、雇用失業情勢が非常に厳しさを増してきています。それから抜け出す1つの方策として、ワークシェアリング的な考え方を取り入れたらどうかということが取りざたされるようになってきました。 既に新聞紙上等で書かれていますのでご承知のことだろうとは思いますけれども、10月18日に日経連と連合が共同で「『雇用に関する社会合意』推進宣言」を出し、その中に、「日経連・連合は、多様な働き方やワークシェアリングに向けた合意形成に取り組み」という一文が入っております。労使の間でいろいろと検討、議論が進められていると聞いています。
  また、政府のほうも積極的にそれに参加していこうという動きがあるようです。今日はこういうことを踏まえ、この問題について論点を整理して、これからの議論になる素材や、あるいは議論の取っ掛かり的なところを提供できればよいと思っています。 今日のフォーラムは、最初に私どもの研究所長から、欧州における動向、あるいはワークシェアリングに関する論点を整理させていただきます。それから後は講師の方々、連合の村上さん、日経連の矢野さんの順にお話をいただいて、最後に慶應義塾大学の樋口先生から、コメントも含めてお考えをお聞ききするような順序で進めたいと思います。そして、ひとわたり終わりましたところで、皆様方から質問なり、論議なりをしていただきます。約2時間という短い時間ですけれども、よろしくお願いいたします。 それでは最初に所長からお願いします。

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基調報告(小野旭・日本労働研究機構研究所長)

ワークシェアリングに関する議論が活発化した背景

 本日はお忙しいところ多数のご参加をいただきまして、大変ありがとうございます。フォーラムの冒頭に当たりまして、諸外国におけるワークシェアリングの動向、それから最近の研究動向や各界の議論を展望しながら、ワークシェアリングに関する幾つかの論点を整理させていただきます。
 過去において、我が国でワークシェアリングが問題になったケースが2度ばかりありました。1つは石油危機後、もう1つは円高不況後です。そのいずれの場合も短期間で経済情勢がよくなりまして、ワークシェアリングについて深めて議論をすることはありませんでしたが、今回は少し違うように思われます。
 その違いを指摘しますと、1番目は雇用情勢が大変悪くなっている。10月の完全失業率が5.4%です。これは過去に例を見ない高い失業率であって、小泉内閣が今進めている構造改革をこのまま進めていくとしますと、失業情勢は今後さらに悪くなることも考えられます。
 2番目としまして、経済のデフレ的傾向が非常に強まっています。そして、失業率が高くなる。そうしますと、雇用者所得も減る。雇用者所得が減りますと、購買力が減って企業の売り上げが悪くなる。また物価も下がるというわけで、デフレスパイラルが懸念されます。これをぜひとも防がなければならない。仕事を分かち合いながら、雇用者数を維持する、失業の発生をくい止めるというワークシェアリングの議論が、こういう目的のために望まれます。
 もう1つ、3番目は高齢者や女性、あるいは一部の若者たちが労働時間の面において多様な働き方を求めています。ワークシェアリングを導入する可能性がここにあります。
 4番目としましては、皆様ご存じのとおり、そして今、齋藤理事長からも紹介がありましたけれども、関係者の間に、ワークシェアリング導入に向けての積極的な取り組みが見られることです。日経連と連合の間で導入に向けた検討が開始されていますし、また政府首脳も、この問題に深い関心を寄せています。これが現状であります。

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欧州のワークシェアリング

(1)フランス

 この基調報告では、まず、諸外国におけるワークシェアリングの取り組みについて簡単にお話しします。皆さんのお手元にJILの「労働政策レポート」が渡っていると思いますが、詳しくはそれを参考にしていただきたいわけであります。ここでは代表的な例としまして、フランス、ドイツ、それからオランダについて、最近の事例を簡単に取りまとめてご紹介します。
 まず、フランスですが、この国のワークシェアリングの手法は、法律によって全般的な労働時間を短縮し、雇用の維持・増加を図るものです。1998年に第1次のオブリ法というのができました。雇用連帯省というのがあって、オブリというのはそこの大臣の名前だそうでありますが、この第1次オブリ法によりまして、それまでの週39時間から週35時間へ移っていったわけです。規模の大きいところと小さいところで少し進め方を違えているようですが、とにかくこういう方向が出されている。その際、法施行前に時間短縮を行って、一定割合以上の雇用増や雇用維持を達成した使用者に対して、社会保険料の使用者負担が減額されるようにしました。 それから「週あたり35時間」という場合に、週単位で考えるのではなくて、むしろ年間の平均で考える。こういうふうにして、労働時間の弾力化を同時に考えていこうとしました。それから時間短縮に伴って賃金をどうするかという問題が当然出てくるわけでありますが、これは労使協定に任せる方向であります。
 それから雇用に対して時短がどのくらいの影響を及ぼしたかということについては、フランス政府の推計でありましょうが、2000年12月までに、50万人という数字が出ています。一応このような効果があったとフランス政府は評価をしているということです。

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(2)ドイツ

 ドイツについて言いますと、フランスと違いまして、産業別の労使間の協約によって時短を進めています。金属産業労働組合の活動がドイツでは大変有名であります。1993年のフォルクスワーゲンとの協約は「期間中、一切の人員整理をしない。週4日、28.8時間労働制にする一方、時短分の賃金減額を行う。それから年末のボーナス等を各月の給与に上乗せして、その範囲で月々の給与の減少を補う」という内容であります。
  ドイツの場合、労働時間口座という制度を設けまして、所定労働時間より長く働いたときには、その後で休日をとったり、所定労働時間よりも短く働いたときには勤労したりという形で、相殺できるような制度を設けています。時短によってどのぐらい雇用効果があったかについてですが、金属産業労組の推計によりますと、30万人ぐらいです。この点については必ずしも評価が定着していません。それからもう1つ、ドイツの場合、産業の競争力を弱めたという話もあります。

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(3)オランダ

 それから次にオランダのモデルでありますが、オランダにつきましては、ご存じのとおり「オランダ病」というのがありまして、それから脱却するために1982年に政労使の三者間で「ワッセナー合意」というものが結ばれました。これを契機に政策協調が行われまして、1980年代について見ますと、「労働組合は賃金の抑制に協力する」、「企業は時短と雇用確保を実施する」、「政府は財政支出を抑制して減税をする」というようなことが合意されています。
  90年代に入りますと、いわゆる均等処遇の問題が出てきまして、均等待遇が規定されています。
 こういうことによっていわゆる「1.5モデル」と言いますか、1つの家庭について言いますと、だんなさんでも奥さんでもいいのですが、1人がフルタイマーで働いて、もう1人がパートタイマーで0.5人分働くことで、この国に関しては、失業率がかなり下がったといわれています。

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導入目的による類型化

 ワークシェアリングはどういう目的で導入されるかについてですが、まずその定義が問題です。あまり厳密な議論をしても生産的ではありませんので、「需要より供給が多い場合に、時間、雇用、賃金の組み合わせをいろいろ変えて、一定の雇用機会をより多くの労働者で分かち合う方法」だと考えてよろしいと思います。ワークシェアリングの目的は、大きく分けますと3つ、細かいところまで言いますときりがないのですが、ここでは4つばかり指摘しておきます。
 1つは「緊急避難型」、「雇用維持型」のワークシェアリングです。労働サービスというのは労働時間と雇用者数を掛け合わせたものですが、不況期になりますと、それへの需要が減ります。時間の方を短縮して、みんなで雇用は維持していこうという政策が緊急避難型です。
 それから「雇用創出型」でありますが、同じように雇用・労働時間・賃金、この組み合わせを変化させることによりまして、むしろ積極的に雇用を増やしていこうというわけであります。この積極的なワークシェアリングの場合は、もちろん1企業の場合、あるいは1産業の場合も考えられますけれども、通常は経済全体を通じた取り組みと言ってよろしいのではないかと思います。先ほどフランスの法定労働時間の削減というお話をしましたけれども、こういう形で雇用を創出しようというわけであります。
 それからワークシェアリングには「多様な就業形態をつくり上げていく」役目もまた考えられます。雇用・労働時間・賃金の組み合わせを変えて、多様な雇用形態を実現させていこうというわけでありまして、オランダの例がこれに当たるといってよろしいでしょう。
 それからもう1つ、これは多様な就業形態の中に含めてもよろしいかもしれませんが、「高齢者に対する配慮」を含めたようなものでありまして、特に60歳代の高齢者の雇用について段階的に就業から引退過程を進めていくために、少しずつ時間短縮を取り入れていくということです。

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ワークシェアリングの問題点

   (1)前提となる視点

 ワークシェアリングの役割を大きくは3つ、細かく言いますと4つ指摘しました。最後になりますが、それぞれに対して、一体どういう問題があるのか、あるいは論点があるのかを簡単に指摘しておきます。
 ここで大切な点は企業にとって重要なのは賃金だけではないということです。賃金以外にもいろいろ労務費がかかるわけです。例えば訓練費とか募集費とか、あるいは法定福利費や法定外福利費等があります。こういうすべての労務費が問題になるということが第1点。
 それから労務費の中に、必ずしも労働時間に比例しない部分があります。さっき言った訓練費がそうですね。これは「労働者を1人雇うといくら」というふうになりまして、必ずしも時間と比例しない。したがいまして、時間短縮を行った場合に、仮に時間当たり賃金を維持しても、労働者1人1時間当たりの労務費が上昇することがあり得るわけです。こういうことを前提にしながら、以下のポイントを指摘したいと思います。

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(2)緊急避難型

 まず、緊急避難型であります。不況期ですから、さっき申しましたように労働者数と労働時間を掛け合わせた、つまり労働サービスの需要が減っていまして、そのときに雇用をできるだけ維持するように労働時間を下げて、労働者数を維持しようという考え方であります。
  緊急避難型というのは、短期の政策と考えてよろしいと思います。短期的には労働の需要曲線はかなり立っていますから、労働者1人1時間当たりの労務費が上がっても、それが雇用を減らす効果はあまり考えなくてもよいと思っています。 緊急避難型の場合はどういう論点があるかと申しますと、労働側が雇用維持と引き換えに時間短縮をして所得が下がる場合、もともと所得の低い層がどれぐらいそれに耐えることができるかという問題があります。特に所得の減少が長引きますと、今まで家庭の中で、例えば専業主婦をしていた人たちが、所得低下に耐えられなくなって、労働市場に出てくる効果も考えられますので、そういう点を考慮しなければならないでしょう。
 それから労働者1人1時間当たりの全体の労務費が上がると言いましたが、これはおそらく企業により、産業により異なってきます。この労働投入1単位当たりの労働コストの増加に企業が耐えられるかどうか。企業や産業によってはこれも緊急避難型のワークシェアリングについての問題となります。

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(3)雇用創出型

 それから2番目の雇用創出型の場合です。一時的に雇用が増えても、また少し経つと元へ戻ってしまうのでは意味がありません。そう考えますと、雇用創出型というのは少し中期的、あるいは長期的に考えたほうがよいかもしれません。先ほど来、申していますように、労働時間を短縮しますと、1人1時間当たりの労務費が上がるわけです。そうしますと、企業側の適応の仕方としてはコストがかかる労働サービスをできるだけ減らして、資本をより多く使う生産方法に切り替えていく。経済学では要素間代替と言います。そういうことが起こってくる。
 この要素間代替というのは言い替えてみますと、より新しい設備、あるいは機械へ移っていく、新しいデザインの機械・設備に移っていくプロセスを含むわけですから、当然、設備投資と結びついてくる。経済全体としてそういうことが起これば、有効需要を拡大する効果もある。したがって労働の需要曲線を上のほうにシフトアップする機能も果たすと考えられます。
 この雇用創出型の場合について考えますと、論点としてはまず第1に、1人1時間当たりの労務費が上がるわけでありますから、労働サービスへの需要が減るだろうということです。もう1つは今申しましたような要素間代替によって、新しい機械・設備を入れることが設備投資を伴うとしますと、その面から労働に対する需要が出てくる。一方は雇用を減らす力、他方は増やす力です。どちらが強いのかは今後経験的に調べていかなければならない問題であると思います。
 これが雇用創出型の第1の論点です。もう1つの論点は「労働サービスの時間を減らすときに、残業時間の部分で減らすかどうか」という問題でありまして、これはまた少し違った論点があり得ると考えています。

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(4)多様な就業

 それから第3番目の多様な就業型の対応であります。これにつきましては、オランダ型のワークシェアリングの例から整理しますと、フルタイマーと短時間就業者について、労働時間を基準にして均等な待遇を行うとか、社会保険制度について、短時間就業者に対する適用を拡大するとか、あるいは女性や高齢者の就業を促進するために、社会的な、あるいは経済的な、いろいろな環境を整備することが必要になってくると思われます。企業においては適正な評価システムと処遇制度をつくる必要が起こってきます。
 この場合、労働者にいろいろな働き方があるわけですが、「自分は正規労働者で働きたい」という人が正規労働者で働いていく。これは何も問題がないですね。それから「自分はパートで働きたい」、あるいは「派遣労働者で働きたい」という人がパートや派遣労働者で働いている限り、これは全く何も問題ないわけであります。ただ、「自分は正規労働者で働きたいのにパートの仕事しかない」、あるいは「派遣の労働しかない」では困ります。就業形態と言いますか、雇用形態の選択の自発性が維持できるような経済状態が必要でありまして、経済が成長していることが非常に大切であると思います。
 以上、早足で、ワークシェアリングに関する議論の要点を取りまとめました。この問題に関して一定の前進をされた労使の関係者の皆様に敬意を表しますとともに、雇用の安定、ひいては豊かな経済社会の創造という共通の願いを実現するために、関係者の皆様が積極的に取り組んでくださることを希望します。

【齋藤】
 ありがとうございました。それでは次に労使の方々からお話をうかがいたいと思います。今、所長から基調的な報告をさせていただきましたけれども、ワークシェアリングをめぐる論点としましては、①「どうして今ワークシェアリングを議論するのか」というテーマがあると思います。それから、②「日本でふさわしいようなワークシェアリングの方法や形態には一体どんなものがあるのだろうか」ということです。
 さらに言えば、③「そのような方法を導入するために解決しなければならない課題はどういうところにあるのか」、また、それに関連して④「労使や行政の役割はどんなところにあるのか」、⑤「どのような過程を経て、こういう形が導入されるのか」というような大ざっぱに分ければ5つぐらいの論点があると思います。これは私が勝手に整理しただけですから、これにとらわれる必要はないのですが、いずれにしても労使のお考えをうかがいたいと思います。
 それでは最初に連合の村上さんからお願いします。

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報告(村上忠行・日本労働組合総連合会副事務局長)

 なぜ今ワークシェアリングなのか

 1つはまず、「なぜ今ワークシェアリングなのか」ということであります。先ほど小野所長からお話がありましたように、雇用状況が大変厳しい。今後もより一層厳しそうだ、何とかしなければならない。これが一番大きな課題です。私どもとしましては、労働組合の社会的責任として、できることで何とか対応していかなければという思いがあります。
 さらには、よく雇用の流動化ということが言われていますが、これまで日本では新たな産業がちゃんと生まれてきてくれて、労働者が移動してきたわけです。ところが新たな産業が生まれない。そういう中で雇用の流動化が叫ばれて、いろんな問題が起きてきている。これにどう対応するのか。特に私どもから見れば誤ったリストラによって相当、失業が発生している。
日本には、資源は人材しかありません。この人材を大切にしない風潮が今、企業経営の中で横行しています。これでいいのだろうかという思いもしますし、そういう中で、社会にとって大きな問題を招きそうな問題が進展しつつあります。
それは何かと言いますと、企業のいわゆる「コスト削減」の中で、流動化と絡まって、いわゆる「チープレーバー化」が急速に進んできている。パートタイマーや派遣労働の増大によって、非典型雇用が急速に増えている。これを今のように、ルールも何もないような形で増やしていっていいのだろうかという思いがあります。
 さらに、この「チープレーバー化」というのは、将来、非常に大きな問題を残していくことになると思います。チープレーバー化がこれ以上進展しますと、社会の格差の拡大を招きます。今日でもアメリカ並みの格差社会となってしまった日本と言われていますが、これ以上の拡大を招くことになると考えられます。そのことは結果として社会の分裂を招きかねない。もう、そういう様相は少し出てきていると思っています。
 特に若年層に、このチープレーバー化の波が押し寄せてきています。少子高齢化の中で将来、社会保障を担ってもらわなければならない人たちの中に、社会保障を担うどころか、社会保障の外側にいる人たちがどんどん増えてきています。こういう状況を放っておくと社会保障も崩壊してしまう。何とかしなければならない。どう打開していくのかと我々なりに考えたときに、政労使による「雇用に関する社会合意」をつくっていく必要があると考えたわけであります。
 雇用の維持や創出、さらにはセーフティネットをきちんとしながら、雇用の安定をつくるためには、政労使がそれぞれの役割と責任を担うことが必要である、そうしなければならないという思いがあったわけです。

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政府の行うべきこと

 政府のやるべきことは何かと言いますと、私は「雇用の創出」をまず挙げたい。この雇用の創出には2つの側面があると思っています。新しい産業をどうつくっていくのかということが、国の将来にとって大変重要であると思いますが、これをぜひもう少し積極的にやってもらいたい。しかしこれは時間がかかります。現下の緊急的な雇用に対応するためには、緊急的に政府の施策によって雇用をつくってもらわなければいけない。日経連とは100万人雇用創出で合意に達しましたけれども、私どもとしては140万人雇用創出計画を既に出しています。これを政府の手で前倒しにやってもらうことにより、今の緊急的な雇用危機に対応していくという雇用創出を政府の責務として求めたい。
 それから不幸にして失業された方々に対するセーフティネットを強化しなければならない。第一次補正予算で5,500億円という予算が投入されましたけれども、話にならない。現下の雇用情勢、また失業の状況に対応するための施策としては、あまりにお寒い限りであると思っています。我々としては一層のセーフティネットの強化策を求めていくことを考えています。
 それからあと1つは、日本はいわゆる人材立国で、人材を育成していくことが、日本の将来にとって大変に重要であると思っています。失業された方々の教育、再訓練問題だけではなくて、学校教育を含めて再構築しなければ、日本の将来が危ういと考えています。

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労働組合と経営側の行うべきこと

 それでは「我々労働組合は何をやるべきなのか」ということですが、現下の情勢では、残念ながら、賃上げに柔軟に対応すること、さらにはワークシェアリングについて、一歩も二歩も踏み込むことだと思っています。
 経営側には雇用の維持を求めたい。さらにはワークシェアリングについて労使合意を図ってもらいたい。そういう役割分担と責任をお互いが遂行することによって、現下の情勢を打開していくことを考えたわけです。その中の1つの要素としてワークシェアリングがあるということです。

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政労使の協調

 日経連とは10月18日に合意しまして、その社会合意推進宣言の文書に、今申し上げたようなことが書かれてあります。
 それから日経連との間では、10月30日に「多様な働き方・ワークシェアリング問題研究会」をスタートさせました。これまで2回の会合を重ねています。第1回の会合のときに、来年(2002年)の3、4月までには遅くとも中間のまとめをすることで合意しましたし、また、これまでのいきさつを互いに乗り越える努力をしようということになりました。昨年も勉強会をやりましたけれども、労使の意見の隔たりが厚く、それ以上踏み込めなかった。これをどのように乗り越えるか、お互いに工夫しようということを合意したわけです。
 また11月9日の政労使雇用対策会議で、政労使として社会合意をつくっていこうということも合意しました。12月中には、ワークシェアリングに関する第1回目の政労使の協議がスタートする運びになっています。

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連合が考えるワークシェアリングの目的

 私たちはあくまでも、「雇用全体をどう安定させるか」ということが主目的であって、ワークシェアリングが主目的ではない。ワークシェアリングは1つのアイテムであると思っています。
 ただワークシェアリングにつきましては、先ほどの小野所長のお話にありましたように、将来的には、積極的にやっていかなければならない部分がある。と言いますのは、新しい働き方とか、新しい人生の送り方とか、さまざまな生き方が選択できる時代を我々としても望みたい。そのためにはいろんな働き方ができる、そういう新しい形のワークシェアリングも、将来的には考えていく必要があると思っています。それについてのシステムづくりも考えていかなければいけないと思います。
 ワークシェアリングの積極的な面を考えると、ワークシェアリングを一段階進めることで雇用不安が解消し、個人消費も拡大して、生産拡大、景気回復という形に何とかつながらないかと思っていることも申し上げておきます。

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ワークシェアリングの方法

 2つ目の問題は「ワークシェアリングの方法・形態をどう考えるか」です。これも小野所長のお話にありましたが、私どもの整理では、①法定労働時間を短縮する方法、②時間外労働やサービス残業の削減、または有給休暇の消化でやっていく方法、③労使合意による労働時間短縮をやっていく方法、④政労使合意による方法、といくつか手法はあろうかと思います。私どもとしましては長期的には、法定労働時間を縮めていくこともぜひ視野に入れながら考えていきたい。しかし、これが現下の雇用情勢の中で、また経済情勢の中で実現するかと言うと、大変実現が難しいことを認めざるを得ません。時間外労働、サービス残業をやめる、有給消化を進める。これは労使合意による労働時間短縮のときの基本で、我々としてはこだわらざるを得ない。サービス残業などが横行する中で、労働時間を短縮して、いわゆるワークシェアリングをすることは、手法としてはおかしいと思っています。
 それから政労使合意によるワークシェアリングの推進につきましては、我々としては均等待遇の法制化とか、労働契約法の制定等の課題がありますし、またワークシェアリングを採用した企業等に対する助成もあろうかと思います。先ほど言った方法をうまく組み合わせてやるしかないのかと考えていますが、今後、日経連との話し合いの中で、この組み合わせをどう考えていくか議論していきたいと思っています。

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導入の課題

 それから3つ目の導入の課題です。全部あげるとたくさんありますが、一番大きいのは労働時間短縮に伴う賃金の扱いだと思います。その場合にやらざるを得ないのは、「時間給概念をどう整理するか」ということですし、賃金制度の問題についても合わせて視野に入れざるを得ないと思っています。
 それから特に日本の場合は組織で仕事をしていますから、職務概念をどう整理していくのかということも、重要な問題になりますし、「均等待遇原則」をどうつくっていくのかということも忘れてはならない。
 日本は非常に賃金格差が少ないと言われていますけれども、それは企業内での賃金格差が少ないだけであり、大企業と零細企業との格差や男女間の格差は大きいわけであります。今の日本の賃金は端的に言えば企業規模の大中小か、男か女かで決まってきている。そういう社会でいいのだろうかということも併せて我々としては考えていかざるを得ない。
 時間管理についても先ほどの有給消化とか、残業時間、サービス残業の撲滅等々の関係でどうしていくのか。それから社会保障制度、税制、こういう問題についても見直しをしていかざるを得ないと思っています。社会合意をした場合にそれをどう具体化するのかが一番重要だろうと思います。日経連と私ども連合が合意をしたら、それが全部、社会にすっと広がるとは思っていません。「各個別企業の中でどう具体化していくか」というのが一番しんどい仕事だと考えています。しかし我々としてはこれを放棄しない。そのために合意し、手法・具体策を、政府を巻き込んだ中でつくっていくしかありません。
 政府の役割を明確化することも必要です。政府が乗り出してくれるのはありがたいのですが、この問題は労使である程度合意形成を図りながら、政府には半歩遅れぐらいでついてきてもらって、政府の役割として我々をサポートしてもらいたいと思っています。
 経済状況をどう認識するのかもポイントですが、「日本の将来の経済はどうなっていくのか」ということも実は大きな論点だと思います。これをどう見るかで相当状況が変わってくると思います。
それから緊急型のワークシェアリングにとどまってしまい、雇用諸施策との連動を考えなければ、我々としては将来的な展望が開かれないと思っています。それが3番目の問題です。
 ただ、いわゆる中小企業問題をどうするのかということが、具体的な展開のときには一番しんどい課題になるのではないかということを申し上げておきたいと思います。

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今後に向けた連合の姿勢

 今後の展望ですが、我々としては、現下の雇用情勢を考えると、労使合意を急がなければならないと思っています。我々としても相当覚悟を決めて労使合意づくりを進めていきたい。過日、連合の三役会議で「ワークシェアリングを進めるためには相当な覚悟が必要だ。その覚悟を持って我々も臨んでいこうではないか」ということになりました。いわゆる「痛みの分かち合い」に対する覚悟です。これは賃金問題についても場合によっては踏み込む、検討するということを、我々としては視野に入れた協議を進めていきたいということです。並行して、各個別企業での労使協議もやっていかざるを得ないと思っています。

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政府の役割

 先ほど申し上げたように、「政府の役割は何か」ということを政府もきちんと認識して、支援することをお願いしたい。
 またワークシェアリングを進めるためには、その前に法整備をお願いしなければいけない部分があるかもしれません。例えば時間外労働の問題で言えば、時間外賃金の割り増し率が低すぎることです。先進国として恥ずかしい割り増し賃金率をどうするか。
 それから労働監督行政が機能していない。今の労働基準法を守っている企業がどのくらいあるでしょうか。労働基準法がきちんと守られれば、労働者はこんな悲惨な目に遭わずに済んでいると思います。政府の責任として、「今ある労働基準法をどう守ってもらうか」ということを大切にした上で、「今後の労働基準法をどう考えていくのか」ということもポイントになると思っています。

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ワークシェアリングは雇用のため

 最後に申し上げますが、我々としてはこのワークシェアリングを本当に雇用の維持や創出につなげるということにこだわっていきたい。この展望をなくして、ワークシェアリングをやっても、それは単なるウェイジ・シェアリング(Wage Sharing)になってしまう。そうなってはならないということに、一番ウエイトを置いて考えているということを申し上げて最初の発言を終わります。

【齋藤】  
 どうもありがとうございました。それでは日経連の矢野さん、よろしくお願いします。

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報告(矢野弘典・日本経営者団体連盟常務理事)

日経連の認識

 日経連の矢野でございます。小野先生の基調講演を聞いていまして、ワークシェアリングに必要な論点を非常に幅広い角度から指摘してあり、今後の論議を進める上で大変参考になるご報告だったと思います。問題は「これからどうやるか」ということでして、それを私どもは連合と一緒に詰めていきたいと思っています。取り組みとしては、当面の失業増大を抑制するという足元の問題にまず焦点を置いて、同時に中長期的な取り組みを検討していくのが現実的だと考えています。来年の3?4月までには中間報告という形でまとめたいと考えています。
「なぜ今ワークシェアリングなんだ」ということでありますが、私は要因が少なくとも3つあると思っています。1つは失業の急速な増大で、しかも今の状態でとどまらないだろうという非常に深い心配です。
 2つ目は今後の経済がどうなっていくかにもよりますけれども、かつての高度成長期のようにどの企業もどの産業も潤っていくことにはならず、企業間、産業間格差がこれからますます拡大していくであろう。ある意味では構造的要因も作用して、大変難しい経済の状況になるというのが2点目の認識であります。
 3点目は多様な働き方と言いますか、働き方の多様化というのが非常な急速な勢いで進んでいる。これは働く側の意識でもあり、企業側のニーズでもあります。かつてのように長期雇用という、最も代表的な形が支配的であったときはもう過ぎて、有期の専門家や短時間労働、在宅勤務などといったものを含めて新しい形の雇用、新しい形の就業が急速に増え始めていると認識しています。
 私どもは、「長期雇用は今後も日本の企業、産業の発展のために必要だ」というふうに、「中核的には長期雇用を大事にすべき」という基本的な考えを持っています。同時に専門家をある期間、有期で採用するとか、あるいはパートも含めて雇用柔軟型の雇用も増えていくなど、「いろんな形の雇用がこれから広まっていくのだ」と考えています。それは一方的に企業の都合だけではなくて、働く側のニーズにも合ったことだと考えています。そうした短期的な問題と中長期的な大きな潮流の変化が、今日、ワークシェアリングという問題の一番のもとにある変化であると思っています。

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すでにある日本型ワークシェアリング

 さてそのワークシェアリングでありますけれども、全く新しい課題なのかと言えば決してそうではない。先ほどの基調報告の中にもありましたけれども、かつての不況時に、日本の企業は「極めて日本的なワークシェアリング」と言っていいと思いますけれども、①時間外規制(残業時間の制限)をしたり、あるいは、②「応援」という形で暇なところから忙しいところに人を移動させたり、③帰休ということで生産調整をしたりというような形で、何とか雇用を維持しながら、会社側としても成り立つような方法があったと思います。これは本当に日本的、日本の労使関係が生んだ貴重な知恵であると私は思っています。
 しかし、だんだんそうしたものも限界にきていまして、それがもう少し社会的な広がりを持ったワークシェアリングになっていかないと1企業、1産業ではもう耐えきれない状況になりつつあると思います。
 我々が実際に体験しているもう1つのワークシェアリングは何かと言うと、ここ2~3年で起こってきました60歳以上の再雇用です。これは理論ではなく実際でありまして、幾つかの産業でも年々進んでいるわけです。
 こういった我々が実際の体験として持っているものをベースにして今後の問題を考えていくことができると思います。幸いにしてワークシェアリングに対する機運が高まっていますので、こういう機にぜひ多くの方々の意見を入れて、何か新しい仕組みを考えていけないだろうかというのが、私どもの現状の問題認識です。

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雇用維持の歴史

 雇用維持ということはよく言われますけれども、雇用維持も歴史を振り返ってみますと大きな変遷をしてきていると思います。産業構造の変化に伴って、例えば石炭産業の移動は別にしますと、以前は、まずは何と言っても「塀の中の」雇用維持を考えたのです。工場の中の、塀の中の雇用維持であります。しかし、それがだんだん広がっていって、「塀の外」、同じ企業だけれども塀の外の雇用維持が出てきました。特にこれはオイルショックのころに現れました。関東の工場から九州の工場に、半年とか1年とか、人を応援という形で異動させるというようなことをやります。
 そしてその後だんだん、ある意味では並行しておりましたが、今度は企業グループとして雇用維持をすることが広まりました。親会社だけではやっていけない。子会社だけでもやっていけない。みんなで一緒にやろうというふうに変わってきた。それが出向とかいろいろな形で、皆さん体験なさっていることだと思います。
 そして現在はそういう状況が、ある意味では精一杯のところに来ていて、今度は社会として、もっと広い雇用維持のための方法を考えなければならないと思います。それが、労働市場の流動化とか、弾力化とか言われているところの、実際的な背景事情ではないかと思っています。

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雇用に関する社会合意推進宣言

 こうしたことを念頭に置きまして、連合とは、「雇用に関する社会合意推進宣言」によって本当の意味の危機感を共有できたと思っています。その細部の議論に入りますと、いろいろな考えの相違というのはあるのですけれども、小異を捨てて大同につくという考えに基づいて、10月の半ばにこの推進宣言ができたわけであります。
言うまでもなく、日経連がこう言ったからといって、傘下の企業がそのとおりやるという筋の話ではありません。連合も同じような状況だと思います。大事なことは、「そうだな、そういう考え方でやっていこう」という意識が、企業の労使、産業の労使の中に普及して、主体的にそういうことが行われることによって、初めて社会合意が成り立つということです。社会合意と言えるものがそこで生まれると思います。そういう意味で、この宣言にも推進という言葉をつけたわけであります。その大きな動きの中に政府も入ってくれれば、本当に大きな社会変革につながっていくのではないかと期待をしています。
 資料としてこの宣言をつけましたので、ご覧いただきたいと思います。ちょうどいい機会だと思いますので、少しだけ解説させていただきます。実は2年前に雇用安定宣言というのを出しています。それの続きということなのですが、今度は一歩も二歩も踏み込んだものになっている点が違うところです。
 そして「雇用の維持・創出に関する社会合意の推進」と書きましたが、その中に「当面の施策として」ということで、「経営側は雇用を維持・創出し、失業を抑制する」、「労働側は生産性の向上やコスト削減など経営基盤の強化に協力するとともに賃上げについては柔軟に対応する」、としています。当面の施策という点では、政府に対する要請が大きな2項目にあって、その(1)に「当面の施策として、一般財源を用いて、雇用のセーフティネットの一層の充実を実現する」こととあります。当面の施策としては経営側、労働側、政府側、この3つが大事なんだという認識がまず大きな柱です。
 次に当面の問題も含めてですが、ワークシェアリングなどの新しい仕組みを考えていこうというのが、2つ目の大きな柱になっています。最近、この社会合意推進は、どちらかと言うとワークシェアリングのほうが中心のように取り上げられていますけれども、大きく2つに分かれたものだと考えていただければいいと思います。これを政労使雇用対策会議の場で打ち出しまして、政府のほうから、「これを十分に正面から受け止める」という答弁がありました。このワークシェアリングについても、先ほどお話があったように、今週金曜日の第1回政労使ワークシェアリング検討会議につながっています。
 それで連合との研究会もスタートしたわけですけれども、実はワークシェアリングの問題は産業、あるいは企業によって随分事情が違います。ですから、広く意見を聞こうということで日経連の傘下のいろんな業種の方々に十数社集まっていただいて、小委員会を開いて、今、熱心にディスカッションを始めています。そうしたことを通じて本当に現場の実態、現場の変化、そういったものを大事にしながら、連合との研究会の場に意見として反映して、できるものなら多くの点で合意を得たいと考えています。

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ワークシェアリングの視点

 それからワークシェアリングの視点ですけれども、ワークシェアリングは簡単に言うと、労働時間を短くして雇用の維持・創出を図ることですが、それをどの舞台でやるかということです。1企業単位でやるのか、それをもっと広げて、社会全体の場でそういう仕組みを考えられるのかということがあると思います。
 それから先ほど冒頭に申し上げましたけれども、失業抑制のための施策、あるいは中高年の問題という足元の問題から取り組んでいって、中長期の問題に波及していきたいというのが第1点です。
 ウェイジシェアリングとの融合というのは非常に重要な要件でありまして、世界の例を見ても、これなくして成果は薄いのではないかと思います。コストの負担が一方に偏するのではよくないということです。
 それから生産性と国際競争力の問題は、政府も含め、もちろん第一義的には労使の共通の土俵だと思います。これなくしては制度そのものの持続性が保障されないと強く考えています。ですから、いつも生産性と国際競争力という土俵の上に足を載せて議論していくことが大事です。そうすることによって企業も個人も持続性のある制度の中で対応していくことができると思います。
それから多様な働き方というのは、今後、中長期的にワークシェアリングを考える場合、いわばコインの表と裏になるのだと思います。多様な働き方を積極的に容認するような社会風土が必要です。
 先ほど雇用の形態がいくつかの形に分かれるということを申し上げましたけれども、いわば異なる発想とか価値を認めることは、今後、社会を舞台にしてワークシェアリングを考えていく場合の必須の要件です。かつてのような典型的なタイプの雇用形態がすべてだということになりますと、社会的な合意に基づいて、社会を舞台にしたワークシェアリングが進むかどうかについては、かなり疑問を感じます。これは今後の論争の中心になっていく部分ではないかと思います。要するにこれからの世の中は一律、画一ではないということです。
 労働市場の流動性について個人の意識が変わってきつつあるということを申し上げましたが、同時に、もっと積極的にエンプロイアビリティ(employability)を身につけるような個人の生き方が大事で、それを支援する会社、あるいは行政のシステムも必要です。
 それから人事労務管理システムは複線型になってくる。典型的なものだけではない。いろんな雇用形態の従業員がいて、しかもいろんな働き方がある。今までと違う在宅勤務もどんどん増えてくるでしょう。そうした形の中で単線の人事管理システムではなしに、複線の人事管理システムを企業もつくらなければ対応できないと思います。
 労働市場の流動性という点では国の役割が非常に大事だろうと思います。成果主義によって、ある職種について、社会的横断性のある報酬の水準が生まれてくる可能性はもちろん十分ありますが、いろいろな規制を取っ払って、流動性を高めるという努力は国に特に期待したい点であります。
 新しい経済社会の構造とは、第1に人間の顔をした市場経済をつくること。もう1つは多様な選択肢のある経済社会をつくること。これは解説するとまた長くなりますので、その2つのテーマだけをご紹介しまして、私のご報告といたします。

【齋藤】
  どうもありがとうございました。それでは次に樋口先生よろしくお願いします。

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報告(樋口美雄・慶應義塾大学商学部教授)

残るはワークシェアリング

 小野先生、村上さん、矢野さんのお話には幾つかの対立点があるということでしょうが、やはりワークシェアリングを導入せざるをえない状況になってきたのかなという気がします。私どもが社会経済生産性本部で3年前にワークシェアリングについての研究会を始めたときには、だれも見向いてくれませんでした。「ワークシェアリングとは何か」ということで、ほとんど取り上げられなかったわけであります。特に労働時間短縮、あるいは給与の問題といったものがマクロ経済にどういうインパクトを与えるのかということについて研究してきました。それにつきましては、また別の機会に参照していただきたいと思います。今日は3人の方々のお話を受けまして、日本でワークシェアリングを実現するためには一体どのようなことをやっていくべきなのかということについて、私見を述べさせていただきたいと思います。
 先ほどから「痛みを分かち合う」という言葉が何度か出てきています。だれも痛みは感じたくない、受け入れたくないというのが本音だろうと思います。そこで、今までいろいろな対策を打ってきましたが、その対策の中ではどうも限界が出てきて、「残っているのはワークシェアリングじゃないか」というようなところです。これがうまくいくかどうかわからないけれども、ともかく何か対策を打たなければならないというところまで日本経済、日本の労働市場は追い詰められてきたのかなと思っています。
 ただ、それが痛みだけで終わってしまったのでは苦労も水の泡であります。「今日の痛みを明日以降のエネルギーにどう転換していくのか」といったことが重要な視点ではないかと思います。こういう視点から考えた場合にまず、現状をどう考えているのかということについて、私の考え方を少しご紹介したいと思います。皆様に配付されております資料に基づいて話をさせていただきます。

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現状をどう見るか
(1)男性失業率の上昇

 9月の失業率は5.3%、さらに10月には5.4%になり、「5.3%ショック」とか、「5.4%ショック」という言葉で示されていますが、その中身を見てみますと、従来とは大きく変わってきている、変化が見られると思います。  図表1は「男女別の完全失業率」です。従来日本の失業率は、国際的に見て男女間の差が非常に小さいという特徴がありました。ところが98年ぐらいから男女の失業率の差が大きくなりまして、男子の失業率が急速に上昇しました。女子も上がっていますが、それでも一応の落ち着きを見せていまして、10月の失業率ではついに1%の差がついたという変化が起こってきています。その背景に何があるのか。これは企業における雇用に大きな変化があるということです。
 図表2は、前の年の同じ月に比べて雇用者数がどう変化したのかを男女別に示しています。白い棒のほうが男性で、黒く塗りつぶされている棒が女性ですが、このところ急速に白い棒のほうがゼロを下回っています。例えば10月の数字を見ましても、対前年で60万人以上男性の雇用が減っています。
  それに対して、女性の雇用はほんのわずかの減少で済んでいる。これはおそらく産業構造の転換ということもあると思います。サービス産業化が進展することによって女性の雇用が増えるということもあると思いますが、日本経済全体でこういう男女の違いが現れてきており、男性を減らして、女性(の雇用)を増やそうという動きが見られます。

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(2)非正規従業員の増加

その背景を少し探ろうということで、図表4に正規従業員と非正規従業員の対前年変化人数が出ています。最近起こっていますのは、明らかに非正規労働者が増えて、正規労働者が減少していくというような動きです。ですから先ほどの女性就業、女性雇用の拡大というところでも、女性の正規職員が増えているわけではない。むしろ、パートタイマー、派遣、あるいは嘱託といった労働者が増えてきていると思います。
今起こっている失業率の上昇は、9月以降急速に景気が悪化することによって需要不足失業が増えているためであることも間違いありません。不況の影響が相当出ているということですが、こういった変化を見ますと、どうもそれだけではない。構造変化が日本経済で大きく起こってきています。対策を考える上でも、今までの景気対策のような一過性の対策としてこの問題を考えていくのか、それとももう少し長期的にいろいろな構造改革を進めていくという視点から考えていくのか。どちらかと言いますと、景気対策と同時に構造改革についても、このワークシェアリングをきっかけに進めていく必要があると思います。

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(3)長時間就業者の増加

 図表3は、男性を年齢別に見て1週間に60時間以上働いている人たちの割合が、どう推移してきているのかについて書かれたものであります。過剰雇用であれば労働時間は短縮されることが予想されます。確かに賃金台帳に基づいた毎月勤労統計におきましては、このところ残業時間が大幅に減少してきています。この図は労働力調査からとったものでありまして、労働者本人が答えているものです。労働者本人が答えた労働時間で見ますと、98年以降、週当たり60時間以上の就業者の比率は大幅に上昇してきています。ということは、今は週40時間制ですから、1週間に20時間の残業をしている。週5日制としまして1日平均4時間以上残業しているのが実態としてあります。30代を見ますと、そういう労働者が4人に1人ぐらいまで増加してきている。過剰雇用が叫ばれている中で、長時間労働者が増えるといった非常にアンバランスなことが社会的に起こってきていると思われます。
 単純に考えれば、「その人たちの労働時間を短縮して雇用機会をつくればいいじゃないか」という発想になるわけです。「問題はそう簡単には解決しない」ということもあるとは思いますが、発想の原点はそこに置いたらどうでしょうか。

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ワークシェアリングの類型化
(1)4つのタイプ

 次にワークシェアリングの類型化についてですが、先ほど小野先生が類型化の説明をされましたので、簡単に私なりの類型化を考えてみたいと思います。まず「週当たり労働時間の短縮」ということで、所定内の労働時間の問題も含めて考えています。それによって雇用をつくり出すということであります。このタイプとしては大きく2つあり、1つは1日の労働時間を短縮するタイプと、もう1つは週当たりの労働日数を削減するタイプです。多くの国でワークシェアリングを進める際、実質的にどちらの方法がとられているのかを見てみますと、労働日数の削減による対応をとる企業が多い。通勤時間といったものを考えますと、1週の労働日数を減らすことによる対応があるだろうということです。
 2番目が1人分の仕事を例えば午前と午後、あるいは曜日によって分ける「ジョブ・シェアリング」というものでありまして、先ほど出てこなかったアメリカで幾つかの企業がこれを実施しているということです。企業だけではなく、例えば学校の先生が月曜日の午前と午後で違ってくるという形もあります。
 3番目は高齢者などの時短による部分引退です。これは先週、JILで開かれた高齢者の雇用問題についての国際会議でも話に出ました「フレキシブル・リタイアメント」、あるいは「パーシャル・リタイアメント」と言われているもので、フルタイマーから突然辞める、引退するのではなく、例えば労働時間を削減しながら引退していくという方法です。「グラデュアル・リタイアメント」とも言われています。
 4番目が雇用形態の多様化で、オランダ型と言われているものがこれであります。フルタイマーからパートへ仕事を割り振っていくということが考えられます。

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(2)「緊急避難」か「働き方の構造改革」か

 もう1つの分類の仕方として、どれぐらいの期間を想定してワークシェアリングの問題を考えるのかということがあります。つまり、緊急避難的な景気対策として考え、景気が回復したら元の状態に戻すというスタイルで考えるのか、それとも、その後も恒常的に続けて働き方の構造改革につなげていくのかという考え方です。
 緊急避難的な対策としましては、先ほど矢野さんからもお話がありましたように、これまでも日本の企業では、いろんな形でこうした対策をとってきたかと思います。残業時間のカット、あるいは給与のカットというようなこともあったでしょうし、あるいは鉄鋼などでは一時帰休という形で、週の労働日数を減らすといった対応をとってきたわけであります。しかし、経済の構造が大きく変わってきているということを前提に考えますと、例えば景気が戻ったことによって元の労働市場に戻れるのかと言うと、私は甚だ疑問に思うところであります。
 (経済の)構造を考えたときに、中国の追い上げといった問題もあります。あるいは先進国間の競争がインターネットの普及も通じて非常に激化している。政府の規制緩和によって、企業間競争が激しくなってきているということもあります。さらにはサービス経済化、少子高齢化が進展してきている現状を考えますと、景気が回復したからといってもこういう構造要因は何ら変わっていかないわけですから、元の状態に戻るのは、多少の景気の回復では無理ではないかと思っています。「経済の構造が変わった以上は働き方の構造、あるいは働かせ方の構造といったものも変えていく必要があるだろう」という視点から、ワークシェアリングを捉えたほうがよいのではないかと考えているわけです。

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ワークシェアリングの具体的実施案
(1)職務設計の見直し

 ワークシェアリングを具体的に実施する場合、今までのお二人からお話がありましたように、幾つかの具体策が考えられます。これを私なりに整理しますと、どうも職種ごとに取り組みやワークシェアリング実施の難易度も違いますので、すべて一律にヨーイドンで始めましょうということには、なかなかならないかもしれません。
 ただ、共通に言えることは、「残業時間のところはやはり見直していく必要があるだろう」ということであります。「労働日数の削減」でありますとか、あるいは「所定内労働時間の短縮」といったところにつきましては、職種、あるいは業種によって取り組みがかなり違ってくる可能性があります。
現状の働き方を前提にしますと、ワークシェアリング、つまり労働時間の短縮で仕事をつくり出すことについて、積極的な施策として適用できる職種はそう多くないかもしれません。問題は「現状の働き方を前提とする」というところでありまして、特に職務設計についてはこれまでの高度成長期、あるいは右肩上がりの経済成長を前提としたような1人の人が長時間働く仕事の進め方を職務設計の基本とし、あるいは長時間働ける人だけを活用していこうとする企業方針が、日本ではこれまでとられてきたわけであります。こうした職務設計をもう1度見直して、「ワークシェアリングができるような職務設計とはいかなるものか」という視点から考え直していかないと、それを適用できる職種はそう多くないと思います。そのことはまた職務を明確にすることにつながっていきますし、その人の仕事に対して給与を払うのではなく、その人の生活に対して給与を払うような年功賃金をやめて業績給へといった流れが起こってくるわけであります。また、それを考えたときには、どうしても公平な評価制度の確立が求められるわけでありまして、これをつくる上でも多くの仕事で職務の明確化をどうしても進めざるを得ません。
 査定の問題を考えると、今までの働き方、働かせ方をそのまま維持しながら、業績給を導入することは非常に難しいと思います。制度的にはできても、実態として運用してみたら従来とそう大きく変わらないということがあり得まして、このところが今後の働き方を考える上でポイントになってくると思っております。

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(2)時間給の概念に着目

 もう1つの大きな問題は先ほどから出てきている給与の問題であります。日本の場合いろんなところで正社員の給与については属人給的な側面、あるいは生活給的な側面がありまして、こういったものによって給与を支払ってきたということがあると思います。しかし、労働サービスに対する賃金はその対価であるというような基本的な視点に戻って、時間給の概念に着目していく必要があると思います。そうした場合に労働時間が短縮されれば、月給、給与総額も削減する必要性が出てくることについては、労使ともに認識していると思います。ワークシェアリングを実施する上では、「時間あたりの生産性と時間あたりの賃金」といった概念を強く持つ必要があります。

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(3)雇用形態の多様化
イ 生活給のあり方を考え直す

 その一方、パートタイマーの拡大など雇用形態の多様化によって雇用機会を拡大する方法をとったときの問題点ですが、日本の正社員の場合は賃金に属人給、あるいは生活給という側面があり、他方、パートタイマーについては時間給ということで、ある意味では大きな違い、格差が両者の間に発生していると思います。正社員の場合は生活を背負っている。それに対してパートタイマーの場合はある意味でアシスト的、補助的、家庭において役割があるということで、給与体系もそれに基づいてつくられてきたわけであります。そうであるがゆえに、逆に生活給の高い人たちが仕事を失っていくという問題が今起こってきているのではないか。であるとすれば、生活給のあり方についても考え直す必要があります。その点で少し参考になると思いまして図表5を載せました。
図表5-1はパートタイムの労働者の比率ですが、これが上昇しています。既に40歳から44歳のところでは、女性の42.4%がパートタイマー就業になっています。このパートタイムというのは労働時間が短いということでありまして、俗称のパートタイムではないものですが、それでももう既に42.4%にまでなっています。
 一方図表5-2は、一般労働者とパートタイム労働者の賃金をほかの国と比較したらどうなのかというものです。よく言われているオランダの女子を見ますと、93.1ですから、格差は6.9%程度と非常に小さいという特性があります。これは95年でありまして、オランダではその後96年に法律が改正されまして、労働時間の差による差別を禁止する制度が導入されました。労働時間に違いがあるとしても、同じ仕事をやっている者に対しては、(時間あたりで)同じ賃金を払わなければいけないというような法律です。さらに本人の希望によりまして、たしか3年以上だったと思いますが、勤務したものについては、労働時間についての選択権を労働者個人にゆだねるという制度が導入されたわけですが、それ以前でも既に格差はこれだけ小さかったということです。
 それに対して日本はどうかと言いますと、下のほうに3つ出ているのが日本です。日本に着目していただきたいということで下に並べたわけでなく、格差の小さいところから順番に並べていったら日本が一番格差の大きいところでしたということでここに載っているわけであります。

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ロ 賃金格差拡大への懸念

 もう1つ懸念されますのは、図表5-3にあるように、その格差がさらに最近拡大してきているということであります。76年には時間給換算で70.1ですから、30%程度の格差だったのが、2000年になりますと、44.2%に拡大している。わが国では格差が大きいだけではなく、さらに拡大しているのです。この問題を解決しない限り、雇用形態の多様化によって雇用機会は拡大しても、結果としてやはり賃金の低い労働者が増えてくることになるかと思います。
 1つはパートの雇用条件を改善すると同時に、その一方で従来の正社員の給与についても見直しをすることによって、格差問題に着手していかなければならないだろうと思っています。

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(4)時代の要請にマッチした働き方の実現

 時代の要請、経済構造の大きな変化、そういう中で今までのような働き方で経済がもつのかどうか。いろいろなところで産業構造の改革、金融構造の改革、規制緩和といった制度改革がなされていますが、基本は働き方、暮らしであります。制度が変わったけれども生活や暮らしが従来と同じでは、実態は何も変わらないということでありまして、実態を変える上では、この働き方に変更を求めていくことが必要になってくると思います。
 参考になる1つの事例にオランダの事例があります。オランダではワークシェアリングの導入によって失業率が下がったとよく言われます。確かに  図表6を見ていただきますと、かつて「ワッセナーの合意」がなされた1982年当時は、失業率は12%と非常に高いものでした。その後の景気の影響もあって失業率が下がり、2000年は3%まで下がってきています。
 その一方、日本では5.4%と逆転しています。この点が注目されますが、もう1つ注目しなければいけない点があります。  図表7はオランダにおける女性及び高齢者の労働力率、簡単に言えば働いている人たちの比率がありますが、それが急速に女性のほうも、また高齢者のほうも上がってきています。労働時間が短縮され、片方で雇用機会が増えてくると、長時間労働がネックであるがゆえに働けなかった人たちの働けるチャンスも増えてきているのです。
 日本の将来を考えたとき、少子高齢化によって年金の支給開始年齢を60歳から65歳に引き上げることが決定しています。そして60歳代前半の雇用をどうするのか考えたときに、今の20代、30代と全く同じような働き方を60歳を越えた人にも求めていこうとしても、それはなかなか難しい。そこでは従来の年功制が崩れ、さらには業績給で労働の密度が高まってくる可能性があるということを考えますと、こういったなかで働きやすい環境をどうつくっていくのかということが、長期的に見ても大切になるのではないでしょうか。
 よくオランダの事例では「ワークシェアリングによって、従来は社会保障に頼っていた人たちが自立して仕事を始める流れになってきた」という受け止め方がなされていますが、同時にいろいろな制度の変更が行われてきました。1つは税制で、これが大きく変えられました。従来の所得控除方式から税額控除方式を重視することによってモラル・ハザードを阻止する考え方が起こってきて、制度改革がなされています。さらに社会保険につきましてもパート労働者の適用拡大を行ってきたということがあります。
 またイギリスでは最近、負の所得税ということで従来の社会保険制度を見直し、社会保険に頼らない働き方、自立できることを社会保障制度としてサポートしていこうという改革が進められてきているかと思います。

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(5)トップダウン方式で具体化を

 今後の日本を考えた上で、働き方の変化と同時に、制度変更といったものも、ぜひ行っていかなければならないと思います。これまでは事業所間の転勤、あるいはその枠が広がって出向、転籍が増え、さらには系列外出向といったものも最近は多く見られるようになってきています。矢野さんの言葉で言えば、塀の中の異動、あるいは塀を越えた事業所間の異動といったものの場合には、個々の企業単位でこれを意思決定することができる。個々の労使単位で意思決定できるというようなことがあったと思います。個々の労使でありますから、ボトムアップという方式で、それを結果として日経連がどう受け止めるか、連合が受け止めるかというような流れであったわけであります。しかし、今回のワークシェアリングについては、むしろどちらが先行しているかと言うと、日経連、連合というトップの変化が先行しています。従来のボトムアップ方式ではなく、トップダウン方式が今回模索されておりまして、これがうまくいくのかどうかということにつきましても、大きな課題になってくるのかなと思います。
 ただ、今までは企業の中で解決できましたからボトムアップで済んだわけでありますが、今回もたらされているものは企業の中だけでは解決できません。制度の変更も含めまして、大きな経済の構造変化に伴う「働き方の構造改革」ということになれば、法律の面もあるでしょう、あるいは制度の面もあるでしょうということで、最終的には個々の企業の労使が決めるにしても、これを実現する上で障害になる問題を解決するためには、トップダウン方式がどうしても必要になると思っています。これを個々の企業、個々の労使にどう広げていくのかといったことが大きな課題になると思います。

【齋藤】
 ありがとうございました。ひとわたり講師の方のお話をお聞きしたわけですけれども、これからはフロアにおられる方のご意見をうかがいながら議論を進めていきたいと思います。


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質疑応答・討論

【質問者】
 ワークシェアリングを導入したとき、働く側にとっては賃金の低下が予想されますけれども、それにどこまで持ちこたえられるのかという問題が出てきてしまったと思います。私もその点が気になっていまして、例えば正社員とパートタイマーということを考えますと、樋口先生もおっしゃったように、正社員の場合は生活給的な側面が強いのに対し、パートタイマーの場合はこれまでどちらかと言うと生活費の補助的な働き方、あるいは収入等を考えながら働いていると思います。今後ワークシェアリングが進むとしまして、正規社員だった方もパートタイマーになり、その過程としてパートタイマーの時間当たりの賃金が正規社員に近づくような社会になって、生活もそこで考えるとなると、「賃金の低下にどこまで耐えられるのか」というような問題が出ると思っています。それは「ワークシェアリングをどこまで進めるのか」という問題になってくると思います。
 それから、きょう出ていなかった論点として1つ、副業という問題をどう考えるのかという点があります。例えばどこかの会社に勤めていて、週5日働いていたのが4日で済むようになったという場合、仕事をしなくなった1日に別の仕事をできるのかどうか。地域的に、産業的に、あるいはその人の能力的に違いはあると思いますけれども、今ほとんどの企業では、副業は認められていないと思います。将来ワークシェアリングが進むようになり、個人によって、地域によって、そういう問題が変化するのかどうか。

【樋口】
 確かにそういった問題は出てくるだろうと思います。ただ、今の生活費を賄う上で労働時間短縮によって給与が下がり、これにどこまで耐えられるかという問題設定のときに大きな前提になっているのは、「夫だけが働いて必要となる生活費をすべて稼ぐ」ということではないかと思います。今まで税制もそうでしたし、企業における給与の設定の仕方も、大体男が外で働いて稼得責任を負い、妻は家にいて家庭責任を負うということを前提になされてきたんだろうと思います。しかし、働き方、あるいは暮らしに変化を求める必要があるのではないかということで、やはり男女がともに働き、ともに家庭責任を背負っていくというような暮らしの改革が起こってこないと、オランダのようにうまくいくようなことはないと思っています。
 夫だけ責任を負うということが、非常にリスクの高い生活パターンになってきているわけです。先ほども言いましたように男の雇用機会は減って女のほうは増えている。これはサービス経済化の影響があるかもしれませんし、個々の企業の中でもパートタイマーの活用も含めてそういったことが起こっているわけです。ところが暮らしのほうは依然として「男は外で女は家で」というようなことがあり、そういったアンバランスがどうも雇用不安を深刻化させているのではないでしょうか。今後を考えると好むと好まざるとにかかわらず、「ともに働き」ということが求められる時代になってくるというのが私の考えです。
 もう1点、兼業規定の問題でありますが、これは確かに兼業の場合、かなりの企業でこれ(兼業の禁止)を社員に求めるということがあります。ただこれはあくまでも、これまでは企業が、その企業に勤めていれば、生活費の面倒をみて、雇用も保障するというような前提のもとに規定されてきたのだと思います。その人が他の企業で働かなくてもすむだけの給与を会社が保障するという暗黙の前提があったから兼業が禁止されてきた。これは法律の問題ではなく、個々の企業における内規になっており、就業規則の規定になっているわけですから、そこのところは変えていく必要があるだろうと思います。
 今回のテロ事件で航空業界がだいぶ打撃を受けまして、アメリカの航空業界は多くのところでレイオフ制度によって一時解雇が行われ、これに伴いほかの産業も含めて失業率が急速に上がっています。それに対してドイツのルフトハンザ航空はワークシェアリングを実施して、今まで週休2日であったものを週休3日に変え、その分の給与もカットするということをやりました。これによって雇用は保障します。ただし、「給与が下がるじゃないか、生活はどうするんだ」という今の問題が出ているわけです。そこで「ファーストフードの店で添乗員の人たちが働くのは全然構わないよ」と自分で稼ぐことに対して、兼業規定を設けないという対応をとっています。兼業の問題は規定を和らげていかなければなりません。
 ただし問題があるのは、同業の別会社に勤めるということが出てきたときの規制が日本には無いか弱いということです。普通、社員の義務として企業秘密を守るということはあるわけですが、そういった法整備は必要だと思います。こうした法整備を行いながら兼業の問題は(禁止の規定を)緩めていく必要はあるのではないでしょうか。

【質問者】
 やはり樋口先生のご指摘のように、日本では属人的給なり、生活給なりがあまりにも浸透していて、レベル的にもものすごいわけです。製造業のラインについているような労働者の方でも年功賃金で、例えば40代、50代ならば700万円とか800万円もらえる。それをワークシェアリングして、例えば時給1,000円といったパートの賃金を考えた場合、大企業の製造業などでは相当時間短縮も進んでいますので、それを時間で割り返せばものすごい時給になるはずです。そうすると、あまりにもアンバランス過ぎて、今まで年功賃金の恩恵に非常に浴してきた中高年の人たちから、究極的に言うと、はぎとるという話になってくる。そして、こういったプランが示されただけで、住宅ローンはどうするのか、子供のライフケアはどうなるのかということで、非常に社会の不安定度が増して、それこそ経済が萎縮し、改革どころではなくなるのではないかという懸念があるわけです。そうしますと社会保障というか、要するに改革はやるけれども最低限の子供の教育だといったことについては手当をしますよということを先行させていかないと、日本ではパニックになるだけでうまくいかないという気がしますが、いかがでしょうか。

【村上】
 賃金の問題はある程度、「痛みの分かち合い」ということで考えなければいけないだろうと思っていますが、物事は短期的、緊急的なものと、長期的なものとに仕分けしなければいけない部分があると思います。緊急避難的には、仕事の分かち合い、痛みの分かち合いをするときに、所定内労働時間がそれによって下がる場合には賃金問題について我々としては検討したい。
ただ、ドイツなどの例にあるようにそれが直ちに比例して賃金が下がるのかどうか考えると、下げられる職場もあるかもしれない。しかし、中小企業などの場合はそれでなくても賃金は低いわけです。そこを同じように扱ってしまっては生活できないことになってしまうわけで、そういう意味では社会不安になる。そこは職場の実態などをいろいろな形で仕分けしながらやっていかなければならないと思います。ドイツでも例えばフォルクスワーゲンの場合は全部下がったわけではありませんよね。そのあたりのことをどう考えるかについては、今後、日経連と賃金問題を議論するときに大きな論点になってくるだろうと思います。
 私どもとしましては長期的には、均等待遇、同じ仕事ならば同じ賃金ということを求めたいと思っていますし、非正規、非定型という扱いはなくしていかなければならない。そうしないと良い意味での多様な働き方の社会構築にはならないと思っております。
それから先ほどの質問で訂正をお願いしたいと思うのは、「生産ラインで働いている労働者はそんなに低いスキル(技能)じゃない」ということです。きちっとしたスキルが要るのです。昔は確かに単純なラインがありましたが、今の工場での生産ラインは相当なスキルがなければなかなか勤まらない。例えば自動車の生産ラインを考えても、相当な技能、年功が要る。良いものをつくるためには、良い技能労働者を確保しなければいけない。人を粗末に扱った会社からは、良い人はいなくなります。そうなればその会社は衰退するに決まっている。私が冒頭に申し上げました「誤ったリストラ」、つまり人を減らせば経営者が立派というのはおかしい。良い人材をどう確保していくのか。そのためには経営者がきちんと経営革新をそれなりに行う。それを行わないで人を切るような経営者というのは、おそらく経営者としては失格だということを申し上げたい。
 それから賃金は年功によって高くなっているかもしれません。しかし、それは日本独特の賃金システムでありまして、ヨーロッパなどでは、もう20代後半からぱっと賃金が高くなる。生涯でどう賃金をもらうかというところが日本とヨーロッパでは違うわけです。若いときは生産性に見合うほどの賃金もらっていない。しかし中高年になってくると、ちょっと生産性より高いものになるというのが学者の一般的な解説です。しかしそれはトータルでどうか。生涯で見るとどうか。企業経営としては後で払うほうが得なわけです。
 松下電器の例が有名ですが、退職金の先払いというのがはやっています。実は昭和30年代に1回はやったものです。第二次世界大戦後、いわゆる引揚者をいっぱい抱え、退職金も大変になるというわけで、昭和30年代に関西を中心にはやりました。しかしこれは高度成長の中で消えていきました。私どもとしましては、退職金は賃金の一部、後払いだろうと思っていますから、これを先に払ってもらうのは痛くもかゆくもない。賃金として正しい姿だと考えます。そういういろいろな違いを冷静に考えていかないと、「今の中高年の賃金が高いじゃないか」と言われても、我々労働者側は「それでは過去もらっていない分をどうしてくれるのですか」と言わざるを得ない。樋口先生のお話にあったように経済構造が変わってきている中で、賃金のあり方も変化し、業績給が拡大するのではないかということですが、「では経営者の成果給というのは本当にうまくいっているのか」と聞きたい部分もあります。
 特に今「日本の生産性が低い」とか、「賃金がおかしい」と金融界が言っています。この間、あるところで「生産性が一番低くて高い給料をもらっている業界は金融じゃないですか」と言ったら、「いやそのとおり」なんて言っておりましたけれども、そこのところを冷静に分析しておかないと、学者の人たちが理論の上で言っていることだけが正しいと思われたのでは、我々としてはたまったものではないということを申し上げておきます。

【矢野】
 年功賃金の問題は本格的に考え直す必要があると思います。既にそれを享受している人たちからすぐにでも引きはがすようなお話が先ほどありましたが、そういうものではないと思います。時間をかけてやらなければならない。今の仕組みは、昨日今日できたものではないからです。
しかし、「こういう方向で変えるんだ」ということで労使が合意すれば、あるいは経営者が決心してやることによって変わっていくことはできるだろうと思います。社会的な賃金、あるいは横断性というのは、成果主義や職務に基づく賃金ができないと生まれてこないわけです。それをやらないと、確かにパートと正規の間にこんなに差があるのは事実でしょうけれども、それを埋める議論はどこからも生まれてこない。ですから企業もそのように人事労務管理の仕組みを変えなくてはいけないと思います。
 同じパートと言いましてもいろんなパートがいます。本当に軽度な作業を行うパートもいますし、あるいはサービス業などでは、窓口や客先対応など非常に高度な仕事を行っている人もいるわけです。一概にパートというものをまとめて比較してそれで済むということではないと思います。これは論点でありまして、どうしたらいいのかなと私も迷っていることでありますが、将来の問題として短時間勤務の正規従業員がいてもいいのではないか。これはアイデアとして論議していきたい。
 短期的に週5日勤務を4日とか3日にするというのは、あり得るでしょう。短期的措置としては賃金のカットも含めて有効な方策だと思いますが、長期的に見てもそういうことが可能かどうかは大事な論点だと思っています。
 日経連はアメリカのいろんな経済団体とつき合っています。日経連や経団連のように大きな団体はアメリカにはないのですが、私どもがパートナーにしているところがあって、そこで話を聞いたことがあります。IBMが昔大変な人減らしをやったのですが、その後、辞めた人の再就職のフォローをした。大変熱心にそういうことをやったんだそうです。そのときにホワイトカラーではIT技術者やソフト技術者が多かったと思いますが、ほかの会社に再就職するときに給料の上がった人が8割いたというのです。ところが工場のブルーカラーの場合はみんな給与が下がった。その原因はアメリカにはシニオリティ・ルールという、何かあると勤務年限の短い人からやめていってもらうシステムがあるので、給与がどんどん、いわば年功賃金が上がって世間相場より高くなっていた。相当差ができていた。だから再就職が非常に大変だったと言うのです。
 これは日本の場合ホワイトカラーにも言えるのではないでしょうか。年功賃金のために、日本には職種別の(賃金の)世間相場というのがあるかどうかは甚だ疑問ではありますが、実際に再就職しようと思ったらあまりにもその差の大きさに驚く。そこで高いほうが普通であって低いほうが異常であると考えるのは果たして本当に正しいのかどうか。高過ぎるという部分も必ずあるはずだと思います。そのように制度そのものを見直していく必要があると私は思っております。
 それから先ほどの最初の方のご質問で兼業の問題についてですが、資料を見ますと、関西経営者協会のワークシェアリング検討委員会の中にも、それから兵庫経営者協会と連合兵庫の取りまとめの中にもその問題点が指摘されていまして、これも検討課題の1つになると思っております。

【樋口】
 学者の空言と言われるかもしれませんが、今のご質問に対して私も短期と長期とに分けて考えていく必要があると思います。例えば来年からワークシェアリングで時間を短縮することになり、どうしても急変的な所得の低下が起こった場合に、例えばオランダでは何をやったかということで考えれば、減税や社会保障負担の削減、軽減といったものによって、給与は下がっても実質可処分所得はそのまま下がらないというようなことがなされました。フランスでは、週35時間制に移行するに伴って、給与の削減はあまり多くの企業でなされていません。雇用主負担がどうしても増えてしまうので、その部分については雇用主の社会保障負担を軽減するというようなことで対応する。まさに政労使が痛みの分かち合いについて合意し考えていく。日本ではどうするのかということを、政府をまじえ連合と日経連で今後考えていくことだろうと思いますが、そういった対策もあり得るのかなと思っています。
 もう1つは生計費をどう考えるのか議論をするときに、例えば日本では大体親が大学の授業料を払うことも前提に生計費が計算されているわけです。こんな国はありません。年功賃金と生計費、どちらが卵でどちらがニワトリかわかりませんが、今後を考える上では、授業料や結婚費用までをも父親だけが働いて出すということではなく、例えばむしろ奨学金制度といったものを充実する。そういうことは多くの国でやっているわけです。親が負担するという前提でそういった議論をしていいのかどうかということは、中長期的には考えていく必要があると思います。
 もう1つはなぜ企業では諸手当あるいは属人給といったものが多くなってきたのかという背景も含めて、考えておかなければいけないと思います。これは直接的に影響があったのかどうかわかりませんが、例えば残業の25%割り増しを計算するとき、「基本給、基本時間給のところに諸手当を入れない」というような規定があるために、手当、特に配偶者手当といったものを積んでいけば、それなりに全体のコストとしては削減できるというようなことがあります。退職金についても同じです。組合としても「もらえるものはもらったほうがいい」というようなことがあったのではないかと思います。その点の制度も含めて検討していく必要があるのではないかと思います。基本は基本給だろうと思いますので。

【小野】
 矢野さんから、「短時間勤務の正規従業員」というのがいてもいいのではないかというお話がありました。オランダでは、時間の短い正規従業員がいるということです。正規の従業員の中にはフルタイムで働いている人と非常に短い時間で働いている人がおりまして、どちらも正規従業員だということです。日本のパートのような人は、「フレキシブルワーカー」というちょっと違った名前をつけているようです。
 議論の中では日本の賃金が高いか低いかが問題になったと思いますが、高賃金とか、低賃金というのは一体どうやって比較するのか。為替レートで換算するとか、購買力平価というものもあるでしょうが、一国の生産性に応じて賃金の高い、低いが生じますので、生産性との比較で考えなければいけません。そのように見ていくと、私の情報はちょっと古いのですが、1990年の半ばぐらいまでで比べてみますと、日本の生産性に対する賃金の比率、つまり分配率ですが、アメリカ、イギリスに比べてそう低いとは言えません。これは1つの事実です。
 それから、どこまで低賃金に耐えられるかという話ですが、これはワークシェアリングをやるとき大変重要な問題です。小泉内閣は不良債権処理が2?3年で、あとははっきりしないのですが、何か成長がうまくいくというようなことを我々に伝えているようにも見えます。本当にそのようにいけば大変これは結構であります。2?3年ぐらいなら多少賃金が下がっても我慢できる世代が多いのではないかと思いますが、これが長引くと大変困ります。
イギリスとニュージーランドのケースについてですが、2つの国はともに構造改革をやりましたけれども、構造改革をやってから失業が増えるわけであります。失業がピークになるのに何年かかったかというと、イギリスの場合が7年、ニュージーランドの場合が9年で、あとは下がり始めます。そうなってほしくはありませんが、もしそうなりますと、少し長い期間にわたって低い賃金に甘んじなければならないという問題が出てきます。
 それから、最後に樋口さんもおっしゃいましたが、こういうワークシェアリングを考えるときに、どういうタイムスパンで考えるかということです。要するに短期の政策として考えるか、中長期で考えるかということは大変重要です。私も先ほど申しましたし、ほかのパネリストの方も指摘なさいましたが、今はとにかくデフレスパイラルを止めないと困ります。そういう観点から言うと、これは私の個人的な意見ですが、早急にワークシェアリングを実現の方向に持っていっていただきたい。
そのためには、年功賃金の改革の問題、職務編成をどうするか。これはそう簡単に今すぐ解決のつく問題ではございません。中長期の問題であります。短期的な問題としまして、早急にワークシェアリングを考えていただかないと、デフレスパイラルがどんどん厳しくなり、取り返しのつかないことになってしまうことを恐れます。
 それから村上さんが報告の中でおっしゃった「ワークシェアリングをやって果たして雇用が増えるのかどうか」ということは、大問題であります。オランダはうまくいっているのですが、オランダの成長率は90年代を見てみますと、G7の中でもかなり高い部類です。90年代のG7諸国の平均的な成長率は2%で、オランダは2.6%です。果たしてワークシェアリングが原因でそうなったのかどうかというのは今のところはっきりしません。現在はまだそこのところがうまく解明されていないわけであります。
 ドイツについて見ますと、何年か前にハーバード大学から出ているペーパーの中に「ワークシェアリングをやったけれども、あまり雇用が増えていない」という報告がありました。1984年から94年ぐらいまでの10年ぐらいの期間にわたって、そういう計量的分析の結果が出ています。本当に日本でも同じようなことが言えるのかどうかについて、モデルまできちんと調べて吟味しなければなりません。少し悠長な話で今日お集まりになった方々には大変申し訳ないのですが。経済学的にはそういう点が問題になってくると思います。

【齋藤】
 まだ、いろいろご質問されたい点があろうかと思いますが、そろそろ予定した時間がまいりましたので、この辺で終わりにさせていただきたいと思います。一言だけ今までに出ていなかった論点について申し上げれば、樋口先生がいろいろな図でご指摘になりましたように、就業構造の多様化と言いますか、働き方の多様化が現実にはいろいろな形で進行していると思います。ところが従来の制度、仕組みは法律等の制度から始まって、企業内の就業規則というような仕組みも含めて、ルールが従来型のままであり、就業構造の多様化と面と向かって直接に対応するようになっていないところが1つの大きな問題ではないかと思います。特に法律制度の遅れ、労働法はもちろんですが、社会保険の関係でも就業構造が変わってきているにもかかわらず、それに対応して直接に向かった形での検討が行われていない。そういうところが1つ問題ではないかと私は思っています。
 これからいろいろと労使の間でお話し合いが続けられるだろうと思いますし、このような話し合いが行われることによって、現下の雇用情勢にとって少しでも、少なくとも当面の対応策として役立つような結果が出ることを心から期待したいと思います。今日は長時間にわたりまして、ありがとうございました。

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