概要:第4回旧・JIL労働政策フォーラム
日本のワークシェアリングのあり方を探る
(2001年12月21日) 

1 趣 旨
 現在、日本では、経済情勢の悪化が懸念され、雇用失業情勢も、完全失業率5%を超えるなど厳しさがいっそう増しています。全般的な需要不足と構造変化のなかで、ワークシェアリングへの取り組みは、中長期的な視点のみならず、当面の課題としても大きく注目されています。そして、本年10月には、日経連と連合により「『雇用に関する社会合意』推進宣言」が発表され、雇用の維持・創出を実現するため、多様な働き方やワークシェアリングに向けた合意形成に取り組むこととなりました。
 第4回JIL労働政策フォーラムでは、国際比較の視点から、欧州諸国でのワークシェアリングの実態や取り組みを整理することで、日本でのワークシェアリングのあり方を探ります。さらに、日経連と連合の合意形成に向けての努力を踏まえ、雇用の維持・創出や働き方の多様化、仕事と家庭生活の調和などについて、日本での問題の所在を検討し、今後の建設的な政策論議のための素材を提示します。  

2 日 時  平成13年12月12日(水)午前10時30分~12時30分

3 場 所  日本労働研究機構 JILホール

4 出席者   村上 忠行(日本労働組合総連合会 副事務局長)
       矢野 弘典(日本経営者団体連盟 常務理事)
       樋口 美雄(慶応義塾大学教授)

       基調報告     小野  旭(日本労働研究機構 研究所長)
       コーディネータ  齋藤 邦彦(日本労働研究機構 理事長)  

【基調報告】

● 主要諸外国におけるワークシェアリングの動向、最近の研究動向や各界の議論などを展望しながら、ワークシェアリングに関するいくつかの論点を整理させていただくこととする。

● 過去においてもワークシェアリング論議が2回あった。1回目は石油危機後の昭和50年台の前半、2回目がいわゆる円高不況といわれた昭和60年台の初頭。すなわち、失業率が急上昇するなど雇用情勢が厳しくなり、短期的にその改善が見込まれないような時期、雇用調整のみならず、希望退職の募集といったハードな形での雇用調整が現実的な課題となるような時期に提起される問題であるといえる。

● 今回の議論の盛り上がりとこれまでとの違いは一つには、雇用失業情勢が悪化する様相自体の違いであり、バブルの崩壊以来経済情勢の低迷が長期にわたって続く中で完全失業率は、平成9年から10年にかけて急上昇し、その後3年足らずの間は4%台後半で推移してきたが、最近5%の壁を突破し、再び新たな急上昇の局面に入ったとみられる動きを示している。今後本格的に着手されるであろう構造改革を考えるならば、当面雇用失業情勢はさらに厳しさを増すものと言わざるを得ない。二つは、経済がデフレ的傾向を強める中、失業情勢がさらに悪化し、物価下落が企業業績を悪くし、そのため企業が雇用を減らし、それが雇用者所得の減少とマクロ的な消費支出の減少をもたらし、その結果さらに物価下落と企業収益の低下を誘い、といったデフレがスパイラル化する危険が高まっている。三つは、高齢者、女性、そして一部の若者というように、労働時間面において多様な働き方が求められる層が増大している。四つめは、以上のような動向もあって、関係者の間に、ワークシェアリングの導入に向けて積極的な取り組みが見られることであり、日経連と連合との間で導入に向けた検討が開始され、政府首脳におかれてもこの問題に深い関心を寄せているとのことである。

● 欧州主要諸外国におけるワークシェアリングの取り組み
参考資料「労働政策リポート」NO1(PDF:167KB)を参照)
 典型的な事例として、フランス、ドイツ、そしてオランダにおける事例を紹介。

(フランス)
 法廷労働時間の短縮により雇用の維持・創出を図っている。
 1998年の第1次オブリ法・・・週39時間制から週35時間制へ移行。
 週35時間という場合に、各週ごとに算定するのではなく年間を通じた平均として算定できるなど、労働時間弾力化のための措置も採られている。
 時短に伴い賃金をどうするかは、労使協定に任されている。

(ドイツ)
 産業別の労使間の協約により、労働時間の短縮を通じた人員削減の回避と雇用確保が図られてきた。特に、IGM(イー・ゲー・メタル、金属産業労組)の活動が有名。
 また、ドイツでは、労働時間口座といって一定期間における労働時間の変動を預金と同様の手法で均す制度など、労働時間の弾力化が広範に採用されていることも大きな特徴になっている。

(オランダ)
 「オランダ・モデル」として最近特に注目を集めている。「オランダ病」とも呼ばれた低迷を脱するため、1982年における政労使、3者間での「ワッセナー合意」に端を発した政策協調を通じて、パートタイム経済を形成してきた。
 1980年代には、①労働組合は賃金の抑制に協力する、②企業は時短と雇用確保を実施する、③政府は財政支出を抑制し減税を実施する、といった協調に基づき進められてきたが、90年代に入って、93年の労働法の改正によりフルタイマーとパートタイマーとの間での賃金、休暇、社会保険制度等の面での均等処遇が規定され、本格的なパートタイム労働の促進が図られてきた。その結果、夫婦共稼ぎで世帯所得が従来の1.5人分となる、いわゆる1.5モデルといわれるような雇用環境を実現した。こうしたことから、完全失業率が80年代半ばの10%を上回る水準から最近の数%へと低下するなど、良好なパフォーマンスを示している。

● ワークシェアリングの目的の整理
 ワークシェアリングの目的は、次のように類型化できる。

① 緊急避難型・雇用維持型
雇用を減らさざるを得ない場合に、(所定)労働時間の減少を行うことにより雇用を維持しようとするもの。

② 雇用創出型
雇用・労働時間・賃金の組み合わせを構造的に変化させることにより、雇用の労働投入に占めるウェイトを高め、雇用の創出を図るもの。

③ 多様な就業への対応型
 従来の枠組みでは就業することが困難であったり、その持てる能力を十分発揮できないような層の労働力供給が大量に存在する場合に、やはり雇用・労働時間・賃金の組み合わせを構造的に変化させることにより、そうした層の雇用機会を創出していくもの。

④ 高年齢者対応型
 ③の類型とも関連するが、今後60歳台の高齢者の雇用を考えるとき、段階的な就業・引退過程を促進することが重要であり、その際にも新しい雇用・労働時間・賃金の組み合わせを構築していく必要がある。

● 類型別にみたワーク・シェアリングに関する論点

(緊急避難型の場合の論点)
①労働側が、雇用維持と引き替えに時間の減少に伴う賃金総額の減少に応じるかどうか。特に元々賃金の低い層が減額に堪えられるかどうか。
②労働投入1単位当たりの労働コストの増加に企業が耐えられるかどうか。

(雇用創出型の場合の論点)
①想定される労働コストの相当な増加をいかにして賄うか、
②減少する労働時間が、所定労働時間を超えた超過勤務時間の場合は、違った論点があり得る。

(多様就業対応型の論点)
①正規就業者と短時間就業者について、労働時間を基準として均等な待遇を行うこと
②社会保険制度を、短時間就業者に対して全面的に適用すること
③女性や高齢者の就業を促進する社会的環境を整備する。

【パネルディスカッション】

<組合側の視点>

●雇用の流動化が言われているが、新たな産業が生まれていない。これにどう対応するか。

●日本の資源は人材しかないが、この人材を大切にしない社会になろうとしている。すなわち、企業はコスト削減のために、パートや派遣等のチープ・レーバーを急速に増やしており、これが、社会の格差の拡大を招いている。特に若年層にチープ・レーバー化が進んでいる。

●政府には雇用創出に①新しい産業をどう作るか、②緊急的雇用創出の観点から取り組んでいただきたい。 また、失業者のセーフティネットの一層の強化にも取り組んでいただきたい。

●組合側は賃上げに柔軟に対応し、経営者側は経営の合理化に対応するということで歩みよりが見られるが、その1つの様相がワークシェアリングである。ワークシェアリングは、将来的には積極的に実施する必要があるが、新しい形のワークシェアリングのシステム作りも考えていかねばならない。

●ワークシェアリングの方法・形態については、法定労働時間の短縮、サービス残業の減少、有給休暇取得の促進が考えられるが、労働時間短縮については、政労使合意による方法により均等待遇の促進等の労働協約の制定をしていくことになると考えられる。日経連との話合いの中で、どの方法をとるかを決めていくことになるだろう。

●ワークシェアリングの導入の課題としては、時間給概念等、賃金制度についても視野に入れて賃金の扱いを検討する必要がある。均等待遇原則をどのようにして作っていくのか。日本は企業内の賃金格差は少ないが、大企業と中小企業の格差、男女の格差は大きい。
 社会保障制度や税制を含め、社会合意をした場合に、それをどう具体化するかが難しい。そのための手法を政府も労使とともに検討してほしい。

●現下の雇用情勢を見ると、痛みの分かち合いが必要であり、そのためにも労使合意を急がねばならない。

 

<経営者側の視点>

●連合との「雇用に関する者気合意」推進宣言を本年10月18日に労使合意。政労使による「雇用に関する社会合意」の推進を期待する。

●ワークシェアリングの背景には①失業の急速な増大、②厳しい経済状況、③働き方の多様化等がある。

●ワークシェアリングの視点としては、①当面の失業抑制と中長期の雇用創出、②ウエイジ・シェアリングとの融合、③生産性と国際競争力、④多様な働き方:ダイバーシティー・ワーク・ルール、⑤エンプロイアビリティー、⑥複線型・成果主義の人事労務管理システム、⑦労働市場の流動性の7つの点がある。
 特に③については、政府も含めて、労使が共通の土俵の上に足を乗せて議論をする必要がある。④については、異なる発想・価値観というものを積極的に容認していく姿勢が大切であり、これからの世の中は一律ではないだろう。また⑦については、国の役割が大切で、規制の取り払いを期待する。

●新しい経済社会の構図については奥田日経連会長の①人間の顔をした市場経済、②多様な選択肢がある経済社会を作ろうという言葉が的確に言い得ていると思う。


<ワークシェアリング実現のために>

●現在の失業率を見ると、男女の失業率の格差が大きくなってきているが、これは、従来、雇用が安定していると思われていた大企業の男性正規雇用の減少、女性の非正規雇用の増加という構造変化が日本の企業で生じていることが理由として挙げられる。一方、一週間で20時間以上残業している者は増加しており、長時間就業者の増加という側面もある。

●ワークシェアリングの類型化としては、①週あたり労働時間の短縮(1日の労働時間の短縮と労働日数の短縮があるが後者の方が多い)、②1人分の仕事を2人で分かちあうジョブ・シェアリング(アメリカのいくつかの企業で見られる)、③高齢者など時短による部分引退(グラジュアル・リタイアメント)、④オランダ型のパートタイマーへの仕事の割り振りが挙げられる。
また、緊急避難的なものと恒常的な改革として行われるものとの2とおりがある。

●具体的実施策としては、職種ごとに職務設計を見直し、ワークシェアリングができるような職種をみつけないと実施が難しい。これは、評価制度を作る上でも大切である。  検討策としては、①残業時間の削減、②労働日数の削減(所定内労働時間の短縮)、③パートタイマーの拡大による雇用機会の増加、④時代の要請にマッチした働き方・暮らしの構造改革の実現が挙げられる。

①②に関し、給与については労働者が給与の削減で譲歩する側面もあり、政府が減税・社会保険料の軽減で補填する等の対応が望まれる。③については、賃金は労働サービスに対する対価であることを再認識し、職務を明確化し、時間差差別禁止の徹底を図る必要がある。また、社会保険をパートタイマーに拡大することも必要である。さらに、生活給のあり方を見直す必要もある。

●オランダでは、ワークシェアリングの導入により、失業率が低下し、男性高齢者の労働力率が増加した。この背景には、少子高齢化対策としての働きやすい環境整備やモラル・ハザードを回避する税額控除方式・負の所得税方式などの税制改革や社会保険をパートタイマーに拡大がある。

 

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