概要:第3回旧・JIL労働政策フォーラム
労働関係紛争処理を考える
(2001年10月17日) 

日 時:平成13年10月1日(月)午後2時~5時

場 所:日本労働研究機構JILホール

講師等:
  菅野 和夫(東京大学教授)
  高木  剛(連合副会長)
  岡崎 淳一(厚生労働省政策統括官付労政担当参事官)
  中山 滋夫(弁護士 経営法曹会議)
  鵜飼 良昭(弁護士 日本労働弁護団)
コーディネーター:
  花見  忠(日本労働研究機構会長)

【基調報告】
個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律の概要

●複線型の個別紛争処理システムの一つとして、都道府県労働局における紛争処理システムが構築された。

●対象となる紛争
  労働条件その他労働関係に関する事項についての個々の労働者と事業主の間の紛争が対象となる。
  
●紛争の自主的解決
  個別労働関係紛争が生じた時は、紛争の当事者は、自主的な解決を図るように努めねばならない。

●都道府県労働局長による情報提供、相談等
  都道府県労働局長は、労働者又は事業主に対し、情報提供、相談等の援助を行う。
  全国250ケ所に総合労働相談コーナーを設置。

●都道府県労働局長による助言及び指導
  都道府県労働局長は、当事者に対し、必要な助言又は指導をすることができる。

●紛争調整委員会によるあっせん
・都道府県労働局に、3~12人の学識経験者で組織される紛争調整委員会を置く。
・あっせんの申請は、紛争の当事者の双方又は一方が、申請書を都道府県労働局の長に提出することにより行う。都道府県労働局長は、委員会にあっせんを委任し、委員会の会長は3人の委員を指名する。
・あっせん委員は、紛争当事者の双方から、あっせん案の提示を求められた場合には、あっせん案を作成、紛争当事者の双方に提示する。

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司法制度改革と労働関係事件への対応をめぐる問題点

●労働事件裁判件数は際だって少なく、裁判も長期化し、労働裁判手続が不備、労働法体系が未整備等、労働関係紛争処理には多くの問題がある。

●司法制度改革審議会「最終意見書」にも、労働関係事件への総合的な対応の強化に関する事項が書き込まれている。

●「労働調停」の具体化、ADR(裁判外紛争処理制度)の充実、労使代表参画型の労働裁判制度の構築、労働関係事件裁判の充実・迅速化に資すべき訴訟手続きの整備等、労働関係紛争処理に関する今後の課題は多い。

労働関係事件処理をめぐる問題点

●労政事務所・労働委員会による処理制度との共存の考え方による「地方労働局案」の制度化、国による個別労働関係紛争の全国的相談・あっせんサービスの整備等を内容とする「個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律」が施行された。

●地方労働局紛争処理制度については、1.ワンストップ・サービスとしての情報提供・相談の実現、2.効率的あっせんの実現、3.他の紛争処理制度との連携等の課題を抱える。

●司法制度改革審議会意見書にもあるように、今後設置される司法制度改革推進本部において、労働関係事件に関して本格的検討を行うこととなった。主な内容としては、労働調停制度の内容、労働委員会命令のあり方、雇用労使関係に専門的知識経験を有する者の関与する裁判制度導入の是非、労働関係固有の訴訟手続整備の要否などである。

●労働委員会制度については、司法制度改革との関係で、1.労働委員会命令の司法審査のあり方、2.労働関係事件の審理期間の短期化等、3.裁判所の専門化、4.地方労働局紛争処理制度の本格化、5.労働委員会の専門性の再構築の必要性等の再検討すべき課題がある。

●労使紛争処理制度は、1.集団的労使紛争中心の体制から個別労使紛争中心の体制へ、2.労働委員会中心の体制から、行政システム・裁判システムの分担・連携の体制へ、3.今後は、裁判システム、行政システムの中の労働委員会システムの改革の段階へ、と戦後労働法における全体的改革の時期を迎えている。

<パネルディスカッション>

●個別労使紛争は権利義務関係を伴うもので、訴訟外の調整機関と裁判所の関係ぬきには考えられない。利用者が訴訟ルートもあることを知って利用することが有用性の担保となる。情報提供を通じて適切な解決機関に誘導する役割を総合労働相談コーナーが担うのかもしれない。

●個別労使紛争の処理は、過去の判例を踏まえた裁判基準を反映して行われ、解決されるようにするべきである。

●1.法律知識、判例を理解した専門家、2.労働の現場を知り事件処理に関わったことがある専門家、3.事実認定について一定の経験を積んでいる専門家の確保が大切である。

●紛争解決システムの扇の要は強制的解決としての裁判制度であり、労働裁判そのものに改革が必要である。

●労働裁判は迅速な解決が望まれる。例えば、雇用保険の仮給付期間中(少なくとも1年以内)に解決されるべきである。労働裁判の仮処分がこの役割を負ってきたと考えられるが、一連の東京地裁での敗訴もあって、仮処分数は減っている。迅速な処理のためには、労使の実状を知っている人が職業裁判官と一緒になって事実認定を行い、判断を下すのが望ましい。

●労使の調停員が参加する労働調停制度については、調停不能となった時に裁判にすぐに移行できるシステム作りが必要である。

●労使にはかなり事実認定力のある方たちがおり、法律の素養があることが即事実認定力があるとも言えないので、労働事件裁判に参審制を取りいれた方がよい。

●労働参審制には関心があるが、日本の制度をより良くするためにはどうす ればよいか。ドイツでは、1.当事者からの独立、出身団体からも独立、2.事実関係の把握の役割を担っているが、日本でも労使関係を将来に向けよくするために、日本ではどう導入するかを考えなくてなならない。

●労働組合中心の労使協議について再検討すべき時期にきている。ドイツでは、労使協議制は法制度で規定されており、かつては労働組合が従業員代表を事実上出していたが、現在では中間管理職を従業員代表に加えたり、非正規社員も代表の一員になりうるという制度に変わってきている。こうした点も参考に、日本でも自主的な労使関係の再構築が必要となっている。