概要:第2回旧・JIL労働政策フォーラム
ITの雇用に及ぼす影響
(2001年9月7日) 

日 時:平成13年9月7日(金)午後2時~5時
場 所:日本労働研究機構 JILホール
講 師:森谷正規 放送大学教授
    ヒュー・ウイッタカー ケンブリッジ大学教授
    八幡成美 日本労働研究機構 統括研究員
    酒光一章 厚生労働省 政策統括官労働政策担当参事官室調査官
    (コーデイネーター)亀山直幸 日本労働研究機構常任参与


【情報通信技術は社会経済をどう変化させるのか】

●日本の社会は今、IT革命からIT不況へと急激に変化しているが、騒ぎすぎの感がある。ITの本質をつかむ必要がある。

●「情報技術」とITとの違いは、①ITは情報のデバイスが進展・高性能・安価なもの、②パソコンに見られるように、多くの機能を持つ、③使う人、国、産業等により状況がかなり異なる。

●産業・家庭・社会のIT化は、①情報・製品によりかなり異なる、②中間業者は必要なくなるのではと考えられたが、やはり必要とされている。③家庭の情報化はなかなか進まない、④社会の情報化(交通:道路、教育:マルチメヂィア教育、医療:遠隔診療、ネットカルテ、文化:デジタル・アーカイブ、行政:市民サービス・企業サービス)ははなかなか進まないが、進めねばならない。

●ITはツールであり、どう使うかは経済状況、サービス経済化、グローバル化、空洞化の進展等に関わってくる。社会の情報化、教育の情報化をセットで考える必要がある。
 

【情報通信技術が雇用・労働に及ぼす影響】

●日本の情報通信技術産業の雇用者数は340万人から360万人(構成比7%強)。1990年代を通じ200万人の雇用増。

●定型的業務が減り、創造的業務の比重が高まる。中高年でも時間をかければ必要なIT技術を身に付けられる。

●情報通信技術革新による中間管理職の中抜きは起こっておらず、むしろその重要性は増している。ただし、純粋な管理職の数は減少しており、プレイング・マネージャー、プロジェクト・マネージャーが必要とされるようになっている。

●デジタル・デバイドについてはアメリカでは、学歴間の格差が拡大。ILO報告でも性差・発展途上国と先進国との格差が拡大しているとの報告がある。情報通信技術への適応力の差と対応している。

●技術者の能力は中高年になっても維持又は向上する。必要な能力開発を行う事が大切。

●多くの企業は従業員の雇用を重視している。柔軟な内部労働市場の確保が重要。

●求人の上限年齢を見てみると、40歳台を越えると厳しい状況にある。

●パソコンが専用機となり簡易化されることにより、労働者はITの急速な進歩についていくことが可能となる。

●小中学校の教師がパソコンの基礎的能力を身に付けていない。厚生労働行政の施策の枠を越えるかもしれないが、こうした教師に再訓練をしないと、問題は解決しない。

●ITは雇用を生むと一般的には言われているが、地理的に見るとそうではない。例えば、イギリスでは、北部においては雇用喪失が、東南部(ロンドン等)では、雇用創出が生じており、地域格差の拡大が見られる。日本について考ると、経済政策及び雇用政策の遅れが目立つ。

●アメリカでは、中間管理職は、トップ経営者から嫌われ、解雇される傾向があるが、日本ではIT、積極的にITを使い違った展開を期待する層と、このような現象を楽観的に捉える層がある。

●デジタル・デバイドについては、賃金格差の拡大は、若年者層について、心配すべきである。OECD諸国では、若い人が就職しにくくなっている。これは、労働市場の流動化にも関係があり、ある意味で、日本のフリーター問題に共通するのも問題である。学校における教育も真剣に考える必要がある。
 

【情報通信技術の進展に対応した政策や企業の対応】

●特に不足しているのは、ネットワーク分野やインターネット分野の人材、コンサルテーションやプロジェクトマネージメントのできる人材。仕事の仕組みを考え出す能力を備えた人材が不足している。

●単に知識があるだけでなく、真に仕事ができるエンジニアの養成が目的。

●職業能力評価制度の整備すなわち実際の職業能力をはかる制度が必要とされている。

●デジタル・デバイドと人材育成については、それを後押しする雇用政策が必要となっている。そのためには、セーフティネットとして、ICT社会への不適応者を最小限にするために、小中学、高校での普及及び教師の再教育が必要である。もう一つは高度な分野にシフトするために、在職者向けの外部研修が必要である。

●ICTが効果をあげているのは、サプライ・チェーン・マネージメント(SMC)の分野で、続いてカスタマー・サービスの領域であるが、ここでは、コールセンターのように立地地域を選ばないため、労働需要の分散化の可能性が高い。

●仕事の変化にあわせ人事労務管理も単なる成果主義ではなく、中長期的なキャリアが見えるようにすることが重要。

●これからの課題として、①継続的社会訓練を社会的に整備すること、②ICT化への企業や個人の適応能力を高めること、新規開業の支援と、開業間もない企業の生存率を高める支援を行うこと、③デジタルデバイドを未然に防ぐための能力開発の機会の提供ときめ細かい指導体制を構築することが重要である。

●高度な技術を持つ人を増やすのは大変であり、自己投資をして高いスキルを身に付けた人には高い給料にする必要がある。