概要:第1回旧・JIL労働政策フォーラム
構造改革と労働政策
(2001年9月4日) 

日時:
平成13年9月4日(火)午後1時~3時半
場所:
日本労働研究機構 JILホール
講師:
  • 島田 晴雄 (慶応義塾大学教授・労働経済)
  • 菅野 和夫 (東京大学教授・労働法)
  • 伊藤 庄平 (前労働事務次官)
  • (コーデイネーター)花見 忠 (日本労働研究機構会長)

日本労働研究機構(JIL/The Japan Institute of Labour)では、多面的な労働政策に関する論議を行うための場として「労働政策フォーラム」を開催することとし、本日その第1回フォーラムを京王プラザホテルにおいて開催しました。

フォーラムの結果は、日本労働研究機構ホームページ(http://www.jil.go.jp)に概要を掲出するとともに、おってブックレット等に取りまとめる予定です。

Ⅰ 論点

  • 1 雇用・労働市場の機能を高めるために何が必要か?
    • イ 経済構造改革を進める上で、雇用に関するセーフティーネットとして、何が必要か?また、人材派遣、職業紹介などの規制緩和をさらに進めるべきか?
    • ロ 経済構造改革を進める中で、解雇に関するルールをどのように見直すべきか?解雇ルールが法制化されていないことが問題か。現在の判例法理による解雇ルールは、構造改革を進める上で、阻害要因になっているのか。
  • 2 労働保護法の再検討はどこまで必要か?
    • イ 経済構造改革が進む中で、サービス業などの雇用の増加が予想され、働き方も多様化していくと考えられるが、現在の労働契約法制(契約期間の限定など)、労働時間法制(裁量労働制など)の再検討は必要か?
    • ロ さらに進んで、グローバル化、IT化の進展によるワークサイトのバーチャル化の結果、指揮命令の希薄化、抽象化現象に対応し、従属労働概念を再検討し、雇用労働に限定した労働法制を基本から見直して、請負、インディペンデント・コントラクターなどを包含する労働保護法の再築を考えるべきか?
  • 3 労使関係の個別化の進展の結果、労使関係制度の根本的見直しが必要か。
    • イ 個別紛争処理制度が10月から実施されるが、司法改革の流れの中で、今後どのような対応が必要か?
    • ロ 労働組合の組織力の低下、組織対象の偏りに対する抜本的対策はあるのか?労働組合に代わって労働者のヴォイスを代表する新しい組織を志向するか、又は労働組合の抜本的変革を志向するのか?そのために考えられる手だては?

Ⅱ 発言要旨

構造改革と雇用セーフティネット

  • 雇用対策を中心とする労働問題に対する対応如何が、今後の構造改革の成否を左右する最重要課題となっている。完全失業率が5%台となるなど厳しい状況となっているが、そうしたことから今後の構造改革そのものをできなくするようなことになってはならない。そのためにも、機動的な対策の実施に真剣に取り組んでいくことが重要である。
  • 構造改革には、(1)不良債権処理といった「後始末型」の改革、(2)特殊法人改革、地方制度改革などこれまで手をつけることを先送りしてきた骨格的制度の改革、それに(3)雇用創出を中心とする「明るい構造改革」の三つがある。(1)及び(2)が否応なくもつ負の効果を(3)により補ってあまりあるものにすることが必要であるし、また、可能である。
  • 「明るい構造改革」における雇用創出の要点は、先進国で必然であるサービス産業での雇用創出の動きを、政策的により早めるところにある。そのためには、従来の行政や政策のやり方を見直し、民間の活力を生かせるように思い切って政策を転換する必要がある。たとえば、高齢者向けの「ケアハウス」などについていえば、補助金があることによって却って使い勝手のよい施設の設置ができなくなっているといえる。市町村等が、空いている土地を提供し、様々な規制を適正なものにすれば、補助金がなくとも十分設置が可能となり、民間の参入により相当の雇用拡大が見込まれる。
  • あまり周知されていないが、現行の雇用政策による雇用セーフティネットはよく整備されており、当面の失業増には十分対応できるものと考えられる。むしろ問題は、これらの施策が十分に知られていないことである。ただし、デフレがデフレを呼ぶといった事態になれば、それは別の議論になろう。

解雇ルールの見直し

  • 構造変化に伴う労働移動を円滑化するために、解雇法制が議論されているが、現在の判例に基づく整理解雇ルールでは個々のケースの場合に解雇の適否に関する予測可能性が小さいので、ルールの設定が必要であるという議論があることは理解できる。
  • しかし一方、現行でも下級審などでは、事業の再構築のための積極的な解雇を含めて柔軟に対応されてきており、また、何をどう規定するか、果たして柔軟な運用ができるのかといった問題もあり、当面の対応策としての効果には疑問がある。
  • 直近のものを含めて、我が国の雇用調整の多くは、長期的雇用の枠内で、解雇ではない方法で対処されてきている。むしろ、この問題は、基本的に労使が中長期的にじっくり話し合っていくべき問題であると考える。
  • 企業の雇用を守るというモラルが基本にあって雇用安定が図られてきたのであって、整理解雇法理が果たした機能はそれほど大きなものではなかったのではないか。むしろ、できる限り雇用を守るモラルがなし崩しになってしまうという事態が生じることを恐れる。

構造改革の中での労働法制のあり方

  • 雇用の多様化、使用従属関係では捉えきれない構造の下で働く層の増大などの下で、労働法制のあり方を見直すべき時期にきていると考える。ただ、雇用情勢が厳しい現在の情勢の下で見直すことは、いかにも時期が悪いとする意見があった反面、そうしたことで長年先送りにしてきたことに問題があったとする意見もあった。
  • 今後の労働法制のあり方としては、これまでのような画一的な規制中心ではなく、個人の事情に配慮できる、契約を基礎とした体系に再構築することが適当である。そのため、契約法制の整備が必要である。
  • これまで正規・長期雇用を前提にして労働法制を考えてきたが、雇用の多様化等の下、それが思考の桎梏になっているのではないか。

労使関係の個別化の進展と労働関係制度、労働組合のあり方

  • 今般労使の個別紛争の解決を促進するための法律ができ、地方労働局がワンストップの相談体制を整備したが、個別紛争は本来企業内で労使の話し合いで自主的に解決されるべきものであり、あくまでそれを補完するものである。紛争の迅速な解決のために多様なルートがあっていい。
  • 今後の構造改革などにより様々な課題が労働関係に投げかけられることになるが、そのためにも、労使が真摯に話し合う場は今後とも重要である。労組が組織されていない企業については、労使協議制が整備されることが期待される。一方、我が国の法制度上、労組の結成は非常に容易であるにもかかわらず結成されていない現状で、果たして代表制はうまく行くのか疑問であるとの意見もあった。
  • 今後、契約を中心とした労働法制を構築するとすれば、紛争処理システムの整備は不可欠である。労働者の意見を集約する機能(Voice機能)は、重要であり、労組の取り組みに期待したい。
  • 司法改革は積極的に進めるべきで、契約中心の世の中で司法が紛争解決の中心になるべきである。
  • 労働組合は、個人をバックアップする役割を充実させ、組合員であることのメリットを工夫するなどして、パートや派遣、在宅ワークなどの非正規労動者を積極的に組織しなければ存在価値がなく、その取り組みに期待したい。
  • 雇用の多様化の下、労組のあり方の見直しは先進国共通の課題となっており、我が国の労組も積極的な対応を期待する。