有識者からのご意見5
1000号を祝して─新興国海外労働情報のさらなる充実を
松井 博志 日本経済団体連合会国際協力本部副本部長

※このページは、平成26年4月3日発行の「メールマガジン労働情報」1000号特別編集号を転載したものです。

2003年10月に創刊された「メールマガジン労働情報」が、今号で記念すべき1000号を迎えることに対して、心からお祝い申し上げます。前身の「JIL労働情報」が2000年4月に創刊されて以降、都合14年の長きにわたって、現在3万1000人を超える多数の読者によって支持されてきたのも、その裏で作成に携わってこられた編集部、研究者の方々の多大の努力があったからこその賜物といえます。そうした関係者各位に改めて謝意を表します。

ILO使用側理事として重宝

現在、国際労働機関(ILO)の使用者理事という役目柄から、海外の労働情報について広く目を配る必要があります。情報は、原文で入手するのが鉄則であることは承知しておりますが、多くの情報が氾濫する中、それを「取りこぼすこと」なく入手するのは現実に難しいのが実態です。国際機関や海外の研究所のメルマガも一応10通以上購読しておりますが、現実にどれだけ目を通しているか、恥ずかしくてとてもお伝えすることができません。そこでこうした問題の解決の一助とするため、このメルマガを海外労働情報の「索引的機能」として活用しております。なぜなら、ILO、OECD、EUなどの国際機関の動向や報告書にとどまらず、欧米諸国での経済・労働政策や労働運動の動向、労働法の改正などに加え、中国・韓国を中心に労働政策や労働法の改正、労働紛争などについても幅広くかつコンパクトに取り上げているメルマガは、ほかには存在しないからです。

他方、日本出身の使用者理事ということから、様々な場面で、日本のマクロ経済の現状や課題、日本の労働政策での経験等を踏まえた発言を求められる場面もあります。それへの対応には、当会の担当部署からの情報入手が基本となりますが、それに加え、このメルマガから、最新の動向と法令改正などについて原文の所在を容易に確認できることもあり大変重宝しております。

国内外の情報を問わず、このメルマガを購読しているうちに改めて気づかされるのは、取捨選択された情報の豊富さとその質の高さです。それは、そのバックにあるJILPTの研究者による真摯な調査研究の成果が凝縮され紹介されていることと、「メールマガジン労働情報」のさらに前身ともいえる紙媒体の「週刊労働ニュース」時代の伝統を引継ぎ、「足で稼いだ情報」が掲載されているからであると思います。

メルマガを通過点として、さらに質の高い詳しい情報に容易にアクセスできるということは、利用する側にとって大変便利なことこの上ありません。そして、そのことは他方、JILPTとしての研究成果の情報発信に大いに役立っていることも見逃せません。かつて、JILPTの研究成果が広く一般に知られることが少ないことについて、「より多くの人に利用される」調査研究報告書の作成の方法を工夫することを指摘した立場からすると、このメルマガはその一翼を担っていることは間違いありません。

欠かせない新興国の情報

最後に改善してほしい点について一言申し上げます。これは本来、JILPTの調査研究体制そのものに対する注文になってしまうかもしれません。国別の海外労働情報については現在、先進国と中国・韓国が主要対象国になっております。わが国企業がこれから益々進出する可能性が高まっていく地域は、ASEAN諸国とインドをはじめとする新興国です。より多くの読者をひきつけ、JILPTの有用性を高めるためにはこれらの地域の情報収集が欠かせません。これまでのように、JETROなどの関連情報にリンクすることを継続しつつ、JILPT独自、あるいは他の研究機関と連携し調査研究を進め、そのエッセンスをメルマガに掲載するようになれば、企業の海外労務担当者にとって、大変有難いものとなることは間違いありません。

今後、2000号、3000号と長期に継続されることと、そして、いつでも利用者にとって有用であり続けることを期待いたします。

平成26年4月3日掲載