大学生の就職状況改善に死角はないか

研究員 堀 有喜衣

大学生の就職状況が好転していると報じられている。厚生労働省・文部科学省が毎年とりまとめている「平成17年度大学等卒業者就職内定状況調査(平成 17 年 12 月1日現在)」によると、大学生の就職内定率は前年同期を 3.1ポイント上回っているという。また企業の求人需要はバブル期なみの活況だとさえ報道されている。就職状況が好転した要因は、景気がよくなってきたことに加えて、団塊世代の退職という 2007 年問題が控えているためであるとされている。しかし、大学生の就職状況の改善に死角はないのだろうか?

大学が感じている大卒就職の課題

労働政策研究・研修機構では、2005 年夏に「大学就職部/キャリアセンター調査」、2005 年秋から冬にかけて「大学生のキャリア展望と就職活動に関する実態調査」を実施した(いずれも17年度末に調査シリーズとして発表予定)。研究を進める中で明らかになってきた、大学が感じている大卒就職の課題をいくつか紹介したい。

第一に、進学のための活動も就職のための活動もしない、あるいは活動を途中でやめてしまう学生、また卒業後に公務員や教員試験・資格試験を受験したり、留学するということで、卒業後に進路活動を継続する学生の存在がある。彼らは景気が改善しても、一定層残り続けると見られている。

何も活動しなければ進学も就職もできないわけだが、無活動・活動停止学生は、大学就職部(課)/キャリアセンターを訪れることもなくそのまま卒業する。また卒業後に進路決定のための活動を続ける学生の場合、彼らの希望がすぐにかなえられれば何の問題もないが、その保証はない。いずれにしても、新規学卒者に対する企業の採用意欲が高く、いまだに時間制限が厳しい日本社会においては、スムーズな移行をしなかった若者の前途は険しいのが現状である。

卒業生のキャリアを支援する大学も

第二に、早期離職率の高さや、企業の雇用慣行の変化を考えると、就職できたからといって安心はできないという認識がある。現在文系では7割、理系では6割の大学がキャリア形成支援のための講義を実施しており、在学中から長期的なキャリアについて考える機会を提供するようになっている。また卒業生に対して支援を行う大学も増加している。景気が良くなると就職先の条件はよくなることが多いとは言っても、将来の不透明感を払拭できない時代となっている。

第三に、景気のような短期的な変動要因とは別に、産業構造の転換と大学進学率の上昇という長期的な要因により、大学生の就職先がかつてのホワイトカラー職種から相当に多様化しはじめている現実がある。大学進学率が50 %を超え、かつて大卒者が就く職種ではなかった分野にも大卒者が進出しはじめるだろう。大学の存在意義に関わる事態でもある。

不況下ではともかく就職することが優先とされ、あまり注意が払われなかった問題群が、景気が良くなったことであらためて課題として浮上しはじめている。景気が回復しつつある今こそ、大卒就職に関する長期的かつ様々な課題に取り組むチャンスではないだろうか。

( 2006 年 2月 10日掲載)