緊急コラム
韓国の新型コロナ問題への対応─雇用・労働政策を中心に─

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労使関係部門 副統括研究員 呉 学殊

2020年5月1日(金曜)掲載

はじめに

韓国では、4月15日、国会議員総選挙が行われた。3月11日、WHOによるパンデミック(感染症の世界的大流行、COVID-19)宣言が出されてから、世界各国が国政選挙や選挙運動を延期するなどの措置をとる中で異例であった。韓国の中でも、延期の声がなかったわけではないが、実行されたのは、民主主義を守るべきであるという正当な主張だけではなく、感染症が広がらない形で総選挙を行うことができるという自信の表れでもあった。感染症対策のために、投票者間の距離の確保、検温、マスク着用・ビニール手袋着用の投票、高熱者の分離投票、感染者の投票時間の設定と移動の手配など、ありとあらゆる措置をとった。結果的に総選挙は無事に終わり恐れていた感染拡大もおこらなかった。それだけではなく、投票率も66.2%と2000年以降最高値を記録した。

新型コロナウイルス問題が世界的に広がる中、韓国は世界の関心を集めている。上記の総選挙についても多くの海外マスコミが取り上げたが、コロナ防疫についても同様である。韓国は、中国に次いで2番目に感染爆発が起きた国である。しかし、開放性、透明性、民主性という原則の下、感染爆発が起きた地域を封鎖せず、また、武漢などの一部の地域を除き、国家間の移動の制限を行わない形で、感染爆発を乗り切って被害の最小化を図ることができている。最も重要な対処は徹底的な検査であり、そのための診断キット(PCR検査キット)の大量生産およびドライブスルーやウォークスルーの考案やスピーディーな検査と検査の無料化を行うとともに、感染者に対しては、症状に応じた分離・治療である。それにより、感染爆発の時に1日900人以上の感染者が出たが、3月12日からは100人前後、さらに4月19日以降は10人前後に減り[注1]、世界的にもコロナ感染防疫に「成功した国」と言われている。

防疫には「成功した国」と言われるが、社会・経済的な影響は深刻であり、それへの対応が急がれている。ここでは、全世界的に感染が広がり、いつそれが終息するかわからない新型コロナウイルス問題に韓国がどのように対応したのかについて雇用・労働政策を中心に考察する。

1.韓国の新型コロナ問題とそれへの対応

韓国は、2020年4月25日現在まで、世界の27か国から先方の要請によりテレビ首脳会談を行い、また、3月26日にはG20特別首脳会議を主導的に行った。世界の121か国(90か国は政府レベル、残りは民間レベル)からコロナ診断キット支援を要請されている。韓国は、新型コロナ問題への対応で世界から注目を集めており、「成功モデル」ともいわれている。

韓国は、中国に次いで、感染が爆発的に広がった国[注2]である。そのきっかけは、大邱・慶北地域にある宗教団体(「新天地」)の集会で多数の人が感染しそれが地域社会に急に広がったことである。その地域を封鎖せず、宗教団体のメンバーや濃厚接触者等を徹底的に検査し、感染者を見つけ出した。病床が足りなくて、重傷者の1人が自宅で入院を待つ間に死亡することがあった。それをきっかけに、症状を4段階に分けて、まず、重傷者を入院させて、軽症者を「生活治療センター」に入室させた。それにより、死亡者の数を最小限にした。また、感染予防や迅速な検査のためにドライブスルーやウォークスルーも考案し実践した。そして感染拡大防止のためにIT技術を活用し感染者の動線を追跡し管理している。

韓国政府は、新型コロナ問題への対応原則として、開放性、透明性、民主性を掲げて、それを貫いている。そのため、4月2日現在、武漢などの一部の地域を除き、入国を拒否したり、特定地域を封鎖して移動を制限したりすることはない。4月19日、感染者数が8人まで減りそれ以降10人前後に安定化しており、韓国の対応は成功的であるといわれている。4月29日現在、累積感染者数は10761人、死亡者数は246人と致死率は2.26%である[注3]

韓国政府は、新型コロナウイルス感染防疫への対応のみならず、社会・経済対策をいち早く打ち出した。2月7日、小規模事業者や個人事業主への低利融資(最大1億ウォン、金利1.5%)、中小・中堅企業への融資・保証約230億ウォンの早期執行など企業への金融支援をはじめ積極的に企業の生き残りを図った。より本格的には大統領主催の「非常経済会議」がスタートしてからである。3月19日第1回の会議では、50兆ウォンの非常金融措置[注4]、24日第2回の会議では、100兆ウォンの企業救護緊急資金調達[注5]および4社会保険料の減免や納付延期と電気料金の納付猶予[注6]、そして30日第3回目の会議では所得水準の下位70%の世帯に1世帯当たり最大100万ウォンの緊急災難支援金の支給を決定した[注7]。4月8日の第4回の会議では、輸出促進、内需拡大そしてスタートアップとベンチャー企業の支援策を決めて、そのために約55兆ウォンを当て、そして22日第5回目の会議では「雇用危機克服のための雇用および企業安定対策」等を確定し、そのために85兆ウォンの財政を動員することにした。

2.雇用・労働政策

ここでは、主に、韓国のコロナ被害に対応する雇用・労働政策についてみてみたい。2020年3月現在、韓国の15歳以上の人口は4471万人、労働力人口は2779万人である。労働力人口は対前年同月比で0.8%が減少し、また、失業率は4.2%と対前年同月比で0.1%増加した。これだけをみるとコロナ問題の雇用・労働への影響は限定的であるといってよいだろう。しかし、非労働力人口の中で、「休んだ」を挙げた人は、36万6000人と対前年同月比で18.3%も増え、また、「一時休職者数」は160万7000人と史上最高値に達し、対前年同月比4.6倍増加した[注8]。特に影響が深刻なのは、臨時と日雇労働者である。前者は対前年同月比で42万人が減少し、後者は17万3000人が減少した[注9]

以上のような雇用問題に対する雇用労働省の政策は、対象者を基準に大きく3つに分けて展開されている。現在雇われている労働者(「現職労働者」という。)、失業者・求職者(無給休業者を含む)、脆弱階層である。

(1)現職労働者への支援

中小企業(従業員300人未満)が休業・休職[注10]を行った場合、労働者に支払う休業・休職手当[注11]の90%(1日当たり6万6000ウォン上限、6月30日まで期限付き支援(「雇用維持支援金」))を支給する。300人以上の大企業は休業手当の67%を支援する。同省は、すでに2月から3月までは、休業手当の支援率を中小企業の場合、67%から75%へ、大企業の場合、50%から67%に引き上げたことがあり[注12]、今回措置は、4月からの追加措置である[注13]

支援要件は次の3つを充たす「雇用維持措置計画」を提出しなければならない。①新型コロナ被害の事実があるか、または売上高・生産量等が15%以上減少、②労働者代表と休業・休職の協議を行ったこと、③総労働時間を20%以上短縮したか1か月以上休業した場合である。4月1日、支援金累積申請件数が3万6646件にのぼった[注14]

第5回目の非常経済会議では、無給休業支援要件の緩和および対象の拡大と雇用維持資金の融資制度の創設および無給休業迅速支援プログラムの新設[注15]を決めた。と同時に、雇用維持協約締結企業への人件費支援であるが、当該企業の労使が雇用維持協約を締結し賃金減少を行って、一定期間の雇用を維持する場合、賃金減少分の一定割合(50%)を6か月間まで支援するものである。この追加措置により、約52万人の労働者の雇用が維持されるものと期待している。

また、低賃金労働者への支援である。2018年最賃が16.4%引上げられた。それに伴い30人未満雇用の事業主の人件費負担を軽減し、低賃金労働者の雇用安定を図る目的に「仕事安定資金」[注16]が導入された。週40時間以上の労働者を雇う場合、5人未満の企業には当該労働者1人当たり月17万ウォン、5人以上~10人未満9万ウォン、10人以上9万ウォンが支援されていたが、今年2月から5月まで、10人未満には7万ウォン、10人以上は4万ウォンが増額されることにした。それを通じて、低賃金労働者の雇用安定を図る。約340万人が対象となるとみられる。増額予算は約5千億ウォンである。

そして2020年1月20日より、コロナ問題で保育園や学校などが休園・休校する場合、当該の子どもを面倒見るために、仕事を休む場合、1日5万ウォン(最大5日まで[注17]。一人親の場合、10日)を支援することにした[注18]。3月16日から30日までの申請者は3万7047人であった。

(2)失業者・求職者(無給休業者を含む)への支援

雇用保険に加入している労働者が失業する場合、失業手当(韓国語では「求職手当」または「失業給与」)が支給される。被保険期間により120~270日間の失業手当が離職前の平均賃金60%で支給される。2020年3月、新規の失業手当申請者数は、約15万6000人と、対前年同月比で24.8%増加した[注19]。今回のコロナ対策では、雇用保険に加入していない労働者が主な対象となった。

2020年4月から実施している「コロナ19地域雇用対応等特別支援事業」は、新型コロナの被害に各地域によって強弱があり、また、財政自立度や労働者数の違いがあることを踏まえて、自治体が当該地域の雇用状況等を考慮し行う支援事業に対して、同省がサポートする形で行う事業である。予算は、中央政府が2000億ウォン、地方費346億ウォン、計2346億ウォンにのぼる。失業者・求職者への支援内容は次の通りである。無給休業者[注20]への生計費支援として、「地域雇用対応特別支援制度」を設けて、一人当たり月50万ウォン(上限2か月)を給付する。11.8万人を対象に934億ウォンの予算を割り当てており、自治体を通じて支援する。自治体によっては、支援期間を1か月に短縮する代わりに、対象者を広げる場合もある(例えば、釜山市や仁川市)。1つの自治体(安山市)の事例をみてみると、2月23日から4月14日までにコロナ感染拡散防止のために、働けなかった特雇(後述)・フリーランスへの支援[注21]である。中位所得の100%以下で5日以上働くことができなかった客観的な資料の提出が求められる。最大の支援額は1日2万5千ウォン、月50万ウォンである。

また、中位所得の75%以下の無給休業者・特雇等に「緊急福祉支援」として、世帯当たり月平均65万ウォン(最大6か月まで)[注22]を給付する。

(3)脆弱階層への支援

第1に、「求職促進手当」の支給である。低所得層(中位所得の60%以下)の者が「就業成功パッケージ」[注23]に参加すると、安定的な求職活動を応援するために求職促進手当[注24]として毎月50万ウォン(上限3か月)を支給する。受給者は、月2回以上の求職活動が含まれる「求職活動計画書」を作成しそれを誠実に履行しなければならない。同手当は、元々他の職業への転職を前提に求職活動を行う制度であったが、今回、現在従事している分野における専門性の向上、安定的収入の確保のための諸般の活動も対象としたので、対象者が広がる。

第2に、特雇・フリーランスへの支援である。特雇(「特殊形態雇用従事者」であるが、個人的に販売、配達、運送などの業務を行う者として、主に保険外務員、学習誌教師、配達運転手、ゴルフ場のキャディーがいる。いわゆる個人事業主である。)とフリーランス[注25]の生計費支援として、月50万ウォン(上限)を2か月間「生活安定資金」として支給する。自治体を通じて支援するが、1073億ウォンの予算が割り当てられた。対象者は、自治体によって異なりうるが、おおむね中位所得の以下が優先的に支援される。5日以上仕事ができないか25%以上の所得が減少した者に支給される。上記の「コロナ19地域雇用対応等特別支援事業」の1つであり、約14.2万人が支援対象となる。なお、第5回目の非常経済会議では、前記の対象者とならなかった代理運転手、学習誌訪問講師、教育・研修機関の講師、演劇・映画従事者等の所得が一定水準以下に減った場合、毎月50万ウォンを最大3か月間支払うことにした。この追加措置の対象者は約93万人にのぼると見込まれている。

第3に、建設日雇労働者に対し、緊急生計費として無利子で最大200万ウォンを融資する。それには建設共済基金を活用する。8万7000人が利用されると見込まれる。

第4に、小商工人(小規模事業者)に対し、経営回復と廃業支援にそれぞれ300万ウォンと200万ウォンを支給する。前者のために、経営回復のための改装や店の再開への支援として300万ウォンまで18.9万箇所を支援する。後者のためには事業の廃業コンサルティングや店舗撤去費として最大200万ウォンを1.9万個所に支援する予定である。

第5に、若者への支援である。青年求職活動支援金の要件を緩和し、月50万ウォン(6か月)を支給する。対象者は5万人である。

第6に、高齢者への支援である。新型コロナの影響により、従来、行っていた高齢者公共事業を中断しているが、対象となる高齢者の雇用活動費として、27万ウォンを先払いする。対象者は54.3万人である。

(4)雇用創出策

これは、第5回目の非常経済会議の際に、決定されたものとして主な内容は次のとおりであるが、いずれも最長雇用期間は6か月である。第1に、公共部門の雇用創出であるが、①「非対面・デジタル雇用」の場として、公共、空間、作物、道路などのデータ構築や多数利用施設の防疫、環境保護、行政支援などの分野で週15~40時間勤務を行うものである。若者を中心に約10万人の雇用創出が見込まれる。②「脆弱階層公共雇用の場」として、防疫、山林災害予防、環境保護などの屋外勤務を行う週30時間未満の短時間雇用であり、失業者、休・廃業自営業者の約30万人を雇用することにした。

第2に、民間部門の雇用創出として次の3つの制度が創設された。①企業が記録物の電子化、オンラインコンテンツの企画・管理、脆弱階層へのIT教育等のために若者を採用し、週15~40時間勤務させる場合、当該労働者1人当たり最大月180万ウォンを支援する「若者デジタル雇用の場」制度である。②コロナの影響を受けて、労働者を採用する余力のない企業が若者に週15~40時間仕事の経験を与える場合、若者1人当たりに最大月80万ウォンを支援する「若者仕事経験支援」制度である。最後に、③中小・中堅企業が特別雇用支援業種やコロナ影響期間中の離職者を採用し、週15~40時間勤務させる場合、労働者1人当たり月最大100万ウォンを支援する「中小・中堅企業採用補助金」制度である。制度ごとに5万人の若者の雇用の場が確保されると期待されている。

以上のようなコロナ対策に対して、労使はどのように評価しているのか。政府の第5回非常経済会議結果を受けて、最大ナショナル・センターである民主労総は、雇用安定を前提に企業への支援を行うことに対しては評価しながら、非正規労働者への対策が明示されていないこと、脆弱階層の支援対象が狭いことなどの問題点を指摘した。もう一つのナショナル・センターである韓国労総は、プラットフォーム労働者や特雇労働者団体と記者会見を開き、同労働者に対する支援対象の拡大および支援要件の緩和、そしてこれらの労働者の問題を解決するための社会的対話機構の設置を要求した。使用者団体は特段の評価を出していない。政府は、危機克服には労使政の協力が重要であると考え、近日中、政労使会議を開くことを予定している。

終わりに──大胆で迅速な対応の必要性

韓国は、いまのところ、新型コロナウイルス感染を安定的に管理できているといわれる。早いうちに爆発的感染拡大を経験し、それを成功的に乗り越えた国として、世界的に「成功モデル」と注目されている。いまや、公開性、透明性、民主性に基づく新型コロナへの対応が韓国の国際的位相を高めており、危機をチャンスに生かしている[注26]といえよう。

新型コロナの影響の最小化に向けた措置もかなり大胆で迅速に取られている。企業の倒産を防いで労働者の雇用を守り、脆弱階層の生活を守ることに主眼が置かれている。雇用・労働対策において「大胆で迅速な対応」の内容について要約してみると次のとおりである。第1に、休業手当の9割支援は前例がなく、また、企業の休業手当支給に向けた融資制度の創設や有給休業経由なしの無給休業容認である。第2に、自治体とのコラボレーション政策である。無給休業者の生活費支援制度や個人事業主とフリーランスへの生活支援策である「生活安定資金」は、支援対象者の状況をよりよく把握している自治体に支援の対象や内容を柔軟に決めるようにし、中央政府は財政的にサポートした。第3に、危機顕在対象者優先支援である。コロナ影響を最も早くまた深刻な影響を受けたフリーランスを優先的に支援対象とし、また、その支援対象者を広げた。第4に、自営業者か労働者かまたは雇用形態や雇用保険加入・非加入の区分にこだわらず、コロナ影響により生活が危機にさらされた人々を一括して雇用・労働政策の対象とした。以上の大胆で迅速な対応は、従来の政策とは一段異なるものであり、また、単発的なものではなく連続的である。

韓国は、コロナ感染対策で成功モデルと言われるほど、相対的に早期にコロナ問題を解決しているので、上記の対策で雇用の安定や脆弱階層の生活安定がある程度確保されるのではないかと期待される。しかし、韓国は貿易依存度が高く[注27]韓国の企業経営や雇用状況は世界各国の感染状況やそれへの対応に大きく左右される可能性が高い。新型コロナウイルス感染とその影響がいつ終わるか見通せない中、現段階で韓国が世界の成功モデルと目されるが、今後もそれにふさわしいさらなる感染症対策および雇用・労働政策が講じられることを期待する。このコロナ問題は、コロナの前と後に世界が分かれるほど一国だけで解決出来ない甚大であり、克服にむけては国際連帯と協力が必要である。相対的に早期に問題解決を図っている韓国の役割が求められる[注28]

(注)本稿の主内容や意見は、執筆者個人の責任で発表するものであり、機構としての見解を示すものではありません。