「Pay for Job, Pay for Performance」のコンセプトのもと、管理職には職務等級制度、非管理職には役割等級制度を導入
 ――住友商事の新人事制度

企業ヒアリング

住友商事株式会社は、2021年4月に人事制度を刷新。新人事制度では「Pay for Job, Pay for Performance」のコンセプトのもと、管理職には職務等級制度を導入し、専門性やスキルを従来以上に明確化・重視することで最適配置や人材活性化を図っている。一方、非管理職には役割等級制度を導入し育成期間を短縮。個人の成長スピードに応じた活躍の場を用意し、プロ人材の育成につなげている。

ポリシーで掲げたビジョンの具現化や従来制度の壁の撤廃を目指す

同社は中期経営計画「SHIFT2023」でかかげる「高い収益性と環境変化への下方耐性の強いポートフォリオへのシフト」を目指す経営基盤の取り組みである「人材マネジメントの強化」の一環として、2020年9月、グローバルベースでの人材マネジメントに関するビジョンや大切にしたい考え方を示した「グローバル人材マネジメントポリシー」(以下、ポリシー)を制定した。

ポリシーのアウトラインは5項目で構成。はじめになぜこのポリシーを設定したかを示し、次に個別および組織について目指す姿やDiversity, Equity & Inclusion(DE&I)、人材マネジメントにおいて大切にする考え方や、人材の確保・育成などの各ステージにおける理念やスタンスを提示。最後にこのポリシーを全てのメンバーが責任を持って実行していくことを明記した(シート1)。

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画像:シート1 グローバル人材マネジメントポリシーで目指す姿

(同社提供)

ここで掲げたビジョンを具現化し、年次概念も含め従来制度の壁を撤廃すべく、2021年4月に人事制度の全面改定を行っている。

管理職層を対象に「職務等級制度」を導入

新人事制度のコンセプトは、「Pay for Job, Pay for Performance」。全管理職(単体で約3,000人)に対し職務等級制度を導入して、職務や成果を従来以上に報酬に連動させた。また、あわせて、評価制度も刷新し、人の適性や強みに応じてポテンシャルを最大限に引き出すことで「Top tierのプロフェッショナルの育成・輩出」を推進している。

複線型の制度により全世代で自律的にキャリアをつくる意識を

職務等級制度の職群は、エキスパート職群(E職群)とマネジメント職群(M職群)を位置付けた複線型としている。E職群は、高度な創造性や専門性の発揮を通じて、所管するプロジェクトや事業におけるビジョン・戦略を提言し実行する責任を負う職群。M職群は管掌する組織において、高い戦略思考とリーダーシップの発揮を通じて、組織員のエンゲージメントを高めるビジョン・戦略を策定し、組織としての価値創造を最大化するリソースマネジメントを行いながら、これを達成する責任を負う職群となる。(シート2)。

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画像:シート2 職務等級制度の導入

(同社提供)

職務は、アサインメントについて作成した職務プロファイル(いわゆるジョブディスクリプション)を基に職務設定を実施して、AP1~AP5(AP:「Advanced プロフェッショナル(管理職層)」の総称)のいずれかに格付ける。等級のレベル感のイメージは、AP5は通常のマネージャークラス、2や1は部長クラスとなっている。

目的は、若手からシニアまで全世代の活性化。「意欲や向上心、溢れる個々人のパワーを全て解放し、透明性や納得性の高い人材マネジメントを通じてグループの持続的成長に結びつけていくことを目指す」(同社人事担当)ことから、個々にまず自律的にキャリアをつくる意識を持ってもらうこととした。マネジメント層になった後は年次による柔軟な調整ではなく、自分の活躍できるフィールドでモチベーション高く仕事を行い、それぞれが持つプロフェッショナリズムを徹底的に高めていけるようにしていきたいと考えている。

人事異動で降グレードになった場合も報酬ダウンを緩和できる設計に

AP1~5の各等級については、それぞれ最短滞留年数や人数・年齢制限などは一切設けていない。E職群とM職群の処遇水準は同一で、職群は人に紐付いているものではなく、各人がそれぞれキャリアを選んでいく。

人事異動は、人事と各組織間で連携し、事業戦略と個人の適性・志向も踏まえ機動的に行っている。上述のとおり、AP3~5は重複型のレンジ給を採用していることから、異動・ローテーションの柔軟性を維持すべく、基本給をブロードバンド型にし、上位等級と下位等級に重複部分を設けることで、異動による降グレードの場合でも報酬ダウンを緩和できる設計にした。定められた職務・役割がなくなった場合は、事業戦略と、個人の適性・志向も踏まえ異動を行うことになる。

職務プロファイルではポジションごとに測定したアサインメントを記載

職務プロファイルには、各ポジションの職務およびアサインメントの内容について提示。全AP職ポジションの測定は、コーポレート人事だけでできるものではなく、各事業部門の人事や海外拠点の人事担当など「オール人事」のなかで各現場の組織長などの協力も得て策定している。

項目には、担当しているビジネスの範囲や決裁権限、職務内容などが示されている。同じ部長でも外部環境や事業ステージによって求められる職務の大きさ・難易度・ポイントなどは異なってくるため、ポジションごとのアサインメント測定をしており、出向先や海外勤務者についても同様の方法で測定。「知識・経験」「達成責任」「問題解決」の3つの大枠で、計8つの測定軸で全ての職務を点数化し、その合計点でグレードを決める。仮に職務プロファイルに新しくアサインメントに追加や変更があった場合には、その都度、職務測定をし直している。

非管理職層には「役割等級制度」を導入

非管理職層は一定の成長部分があることを考え、役割等級制度を採用。単純なアサインメントではなく、大括りした役割の形でP1とP2を設定している。P1は、「部内組織(チームあるいはチームに相当する組織)の戦術の実行の範囲において、部内組織長の関与の下、複雑な業務を自律的に遂行する」ことと「また、部、あるいは部に相当する同一組織内の下位等級(P2)への指導・動機づけを行うことが求められる役割」。P2は、「部内組織(チームあるいはチームに相当する組織)の戦術の実行の範囲において、部内組織長、あるいは上位者からの指示の下で業務を遂行することが求められる役割」になる。

2つの等級に格付けし、管理職への早期登用も可能に

同社では大卒で入社すると、まずP2に格付けされる(シート3)。大卒者の場合、大半が4年でP1に上がっていく仕組みだが、管理職(AP)予備軍と位置付けされるP1では最低滞留年数などの基準を設けないため、入社から最短5年で管理職(AP5)に抜擢されることが可能。従来の制度は入社から9~10年でほぼ一律的に管理職になっていたが、新制度は担う職務での処遇に移行し、個人の成長スピードに応じた活躍の場を用意することで、プロ人材の育成につなげていく。

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画像:シート3 非管理職の役割等級制度

(同社提供)

昇グレードは在留年数や職務行動評価、社内テストが条件に

P2→P1、P1→管理職への昇グレード要件は以下のとおりで、これを満たした者の中から選抜して昇グレードを実施する。

  • 昇グレードテスト合格(会計やマーケティング等、商社パーソンに必須となるビジネススキルを問うもの)
  • 評価要件(直近の職務遂行度評価で一定評価以上)

自律的なキャリア形成に向けて360度評価や絶対評価を導入

同社は自律的なキャリア形成に向けて、評価制度や人材開発の仕組みも刷新。従来の評価制度は相対評価だったが、新制度では「360度評価」と「絶対評価」を導入している。

絶対評価への変更は、「これまで以上に様々な強みや適性をもつ個々人と真摯に向き合い、他者との比較ではなくその人に求める期待水準との比較によって評価することで納得性の高い評価と個々人の成長に繋げること」が狙い。

360度評価はAP層を対象に導入しているもので、上司だけでなく業務上の接点がある各階層のメンバーからも評価コメントを集め、そのコメントも参考に上司が最終評価していくことで、評価の納得性・客観性を担保する。部下一人ひとりと真摯に向き合うにあたり、周囲からの情報を補強することで上司の評価の精度も上がり、本人も気付きとなることが多い。上司の見えない部分も補完したなかで評価の客観性・納得性を高め、それをもとに部下一人ひとりとコミュニケーションしていく。

「職務遂行度評価」と「目標達成度評価」で構成する評価制度

評価制度は「職務遂行度評価」と「目標達成度評価」で構成。職務遂行度評価は、その人のアサインメントの総合的な遂行度を測るもので、職務プロファイルに定めている各アサインメントについて、「何をしなければならないのか」「その役割をどれだけ全うすることができたのか」などの取り組みを明確にして評価をし、基本給の昇降給、昇グレードの要素にする。評価は職務プロファイルが「遂行できているか否か」で判断し、前述の360度評価は、上司が職務遂行度評価を行うにあたって、その参考情報にするものとなる。

一方、目標達成度評価は単年度の個人目標の達成度をみるもので、賞与の個人評価部分に反映しており、上位等級になるほど評価における幅が大きくなる。目標管理(MBO)制度を用いていて、期初に本人の職務プロファイルをもとにした個々人の目標で何を行うかを決め、単年度の達成状況を評価していく。だいたい4~5個の目標を設定し、合計で100%にすることにしている。

評価段階はともに、上から5段階で、年1回評価し、途中で話をする機会を設ける。また、以前は4月に目標設定、9~10月に期中レビュー、翌年3月に評価する制度だったが、新制度では期中レビューをなくし、代わりに決まった期間・回数にとらわれず随時、上司・部下間でコミュニケーションを取ることにして、職務進行度合いがどうなっているかチェックするようにしている。

評価の報酬制度への反映

管理職、非管理職ともに、5段階の職務遂行度評価の結果に基づき、毎年昇降給を行う。また、年間賞与は「基本部分+個人評価部分+業績連動部分」で構成しており、個人評価と会社業績も加味されており、新制度では個人評価部分の「幅」を拡大している。

新制度導入時は全社員および労働組合への説明を実施

新制度導入時には、海外勤務者も含めた全社員および労働組合への説明を丁寧に行った。制度自体の全体説明を2020年の冬から2021年の春にかけて行い、その後、職務プロファイルのガイドライン配布や全社員対象の評価者・被評価者研修開催など、オンタイムでのWEB研修、あるいはe-learningなどを組み合わせながら社員への説明を徹底した。

また、制度導入後に社内サーベイを通じて定期的に従業員の声を拾っており、制度の趣旨や運用の徹底が不十分な項目については、さらなる打ち手を実施している。

キャリア採用や人材育成にも尽力

同社のキャリア採用・人材開発については、基本的な考え方として世界中の同社グループ約7万9,512人(注:2024年2月時点)の多様な人材を、「新たな価値を持続的に創造し、世界、社会、人々の暮らしを豊かにしていくうえで最重要の経営資源と捉えている」なかで、「人的資本の継続的な拡充・価値の最大化に向けて、採用手法の多様化や人材開発施策を積極的に実行」している。

キャリア採用は、各組織のニーズに基づき実施。その一方で、より機動的かつ柔軟に優秀な人材を獲得するため、採用手法を多様化させる必要があると考えている。近年は専門性を重視したキャリア採用を拡充して各現場の所要に応じた人材の獲得に努めており、2022年度からは選考時にポジションを特定しない、オープン型のキャリア採用も新たに実施している。ますます流動化が加速する人材市場の状況も踏まえ、タイムリーかつ機動的に人材確保すべく、中期的に通年採用の比率を増やしていき、獲得する人材も多様化させていく考えだ。

人材育成については、育成方針をOJTとOff-JTを両輪として、それぞれを有機的にリンクさせた人材開発施策を積極的に実行している。OJTでは、視野や業務の幅を拡げるために一定期間他部署を経験する育成的ローテーションや海外研修生制度等多様な施策を実施。Off-JTでは年間延べ1,700講座を超える(注:2022年3月末時点)社内研修を開催しており、経営者育成を目的とした長期・選抜プログラムやキャリア開発研修、DE&I 研修などを継続的に実施し、社員の自律的な成長を支援している。

グローバルでの適所適材を推進

同社では、新人事制度の導入により、「グローバル人材マネジメントポリシー」を具現化し、人材マネジメント改革を推進するための基盤整備は着実に進んだと考えている。今後の課題としては、着実な実績作りを通して新制度の運用の実効性を高めていくこと、すなわち年次概念など従来制度の壁を撤廃し「Pay for Job, Pay for Performance」を徹底し、「DE&I」をさらに推し進め、グローバルでの適所適材をより推進していくことをあげている。

(ヒアリング実施日:2022年9月7日 *メールでの回答日)

※掲載内容は取材時点(2022年9月)のもの。ただし、記事掲載に伴い追記した内容は注意書きとしている。

企業プロフィール ※2024年2月1日現在

企業名:
住友商事株式会社
設立年月日:
1919年12月24日
代表者:
代表取締役 社長執行役員CEO 兵頭 誠之
従業員数:
5,196人 *海外支店・事務所が雇用する従業員135人を含む
事業所数:
国内20拠点/海外108拠点
業種:
卸売業
主な事業内容:
全世界に展開するグローバルネットワークとさまざまな産業分野における顧客・パートナーとの信頼関係をベースに、多様な商品・サービスの販売、輸出入および三国間取引、さらには国内外における事業投資など、総合力を生かした多角的な事業を展開。