7割の事業所で正社員に対するOFF-JTを実施、能力開発・人材育成に問題を感じる事業所も75%超に
 ――厚生労働省の2021年度「能力開発基本調査」

国内トピックス

厚生労働省は6月24日、2021年度「能力開発基本調査」の結果を公表した。それによると、企業が2020年度にOFF-JTに支出した費用の労働者1人当たりの平均額は1万2,000円で、前年に比べ3,000円減少した。約7割の事業所で正社員に対するOFF-JTを実施する一方、能力開発や人材育成に対して問題点を指摘する事業所はほぼ4分の3の割合にのぼった。

調査は、能力開発や人材育成の実態を明らかにすることを目的に、2001年度から毎年実施。「企業調査」「事業所調査」「個人調査」で構成される。「企業調査」と「事業所調査」は、常用労働者30人以上を雇用している企業(7,322社)と事業所(7,064事業所)を対象に実施。「個人調査」は、調査対象事業所に属する正社員と正社員以外(計1万9,728人)を対象に実施した。調査期間は企業調査と事業所調査が昨年10月1~31日の期間。個人調査は昨年11月15~12月16日の間に実施した。有効回答率は、「企業調査」が51.7%、「事業所調査」が52.6%、「個人調査」が39.8%となっている。

<企業調査>
半数の企業が教育訓練費用を支出

2021年度に、教育訓練費用(OFF-JT費用や自己啓発支援費用)を支出した企業の割合は50.5%となり、前年(50.0%)から0.5ポイント増加。支出の内訳をみると、OFF-JTと自己啓発支援の両方に費用を支出した企業は19.7%、OFF-JTのみは25.9%、自己啓発支援のみは4.9%となっている。一方、OFF-JTと自己啓発支援のどちらにも支出していない企業は49.0%となった。

企業のOFF-JTに支出した費用の、労働者1人当たりの平均額(2020年度に費用を支出した企業の平均額。以下同じ)は1万2,000円で、前年(1万5,000円)に比べ3,000円減少。一方、自己啓発支援に支出した費用の労働者1人当たりの平均額は3,000 円で、前年(3,000円)と比べて横ばいとなっている。

正社員への過去3年間のOFF-JT支出は15%の企業で増加

正社員に対する、過去3年間のOFF-JTに支出した費用の実績状況をみると、「実績なし」(46.0%)が半数近くにのぼり、「増加した」(15.2%)と「減少した」(15.8%)はともに15%台となっている。今後3年間の支出見込みでは、「増加させる予定」(35.7%)と「実施しない予定」(35.3%)が拮抗している。

正社員に対する、過去3年間の自己啓発支援に支出した費用の実績状況をみると、「実績なし」(68.1%)が約7割となり、「増加した」(8.4%)と「減少した」(7.9%)はともに1割弱にとどまった。今後3年間の支出見込みでは、「実施しない予定」(53.9%)が半数を超え、「増加させる予定」(27.8%)が3割弱となった。

正社員以外について、OFF-JTおよび自己啓発支援を、今後3年間に「増加させる予定」の企業割合は、前者が17.6%、後者は13.5%で、いずれも正社員と比べると低水準にとどまっている。

約8割で教育訓練のための休暇や短時間勤務制度が導入されず

教育訓練休暇制度および教育訓練短時間勤務制度の導入状況についてみると、教育訓練休暇制度を「導入している」企業は9.7%で、前年(8.9%)から微増。教育訓練短時間勤務制度を「導入している」企業も7.5%で、前年(6.8%)に比べ微増となっている。

一方、「導入していないし、導入する予定はない」企業は、教育訓練休暇制度(79.5%)、教育訓練短時間勤務制度(80.7%)のどちらも8割前後。導入予定がない理由(複数回答)では、「代替要因の確保が困難であるため」(46.0%)が最も高く、次いで「制度自体を知らなかったため」(38.2%)、「労働者からの制度導入の要望がないため」(32.6%)、「制度導入のメリットを感じないため」(31.1%)などが高くなっている。

<事業所調査>
「複合サービス事業」では4分の3で正社員以外へのOFF-JTを実施

正社員に対してOFF-JTを実施した事業所 は69.1%。産業別にみると、「電気・ガス・熱供給・水道業」(94.9%)、「複合サービス事業」(90.2%)、「金融業、保険業」(87.0%)などで実施率が高い一方、「生活関連サービス業、娯楽業」(56.1%)、「教育、学習支援業」(53.8%)などは5割台で、実施率が低くなっている。

 企業規模別(以下「規模別」)にみると、規模が大きくなるほど実施率は高く、「30~49人」(51.0%)は約5割となっているのに対し、「1,000人以上」 (87.2%)は約9割にのぼっている。

正社員以外に対してOFF-JT を実施した事業所は29.8%。産業別にみると、「複合サービス事業」(76.9%)では4分の3の企業で実施している。「金融業、保険業」(50.5%)、「医療、福祉」(50.1%)なども実施率が高い一方、「建設業」(20.9%)、「情報通信業」(15.7%)では実施率が低くなっている。

規模別にみると、正社員同様、規模が大きくなるほど実施率は高くなる傾向にあるが、「1,000人以上」(47.8%)でも半数程度にとどまっている。

正社員へのOJTは6割の事業所で実施

計画的なOJTを正社員に対して実施した事業所は59.1%となっており、前年(56.9%)から増加。正社員以外に対して実施した事業所も25.2%で、前年(22.3%)から増加している。

産業別にみると、正社員については「複合サービス事業」(94.3%)、「電気・ガス・熱供給・水道業」(86.9%)で実施率が高い一方、最も低い「教育、学習支援業」(38.9%)では4割を下回っている。正社員以外では「複合サービス事業」(71.5%)が最も実施率が高く、そのほかは5割を下回っている。

能力開発・人材育成の問題点は指導者不足がトップ

能力開発や人材育成に関して何らかの「問題がある」と回答する事業所は 76.4%(前年75.0%)。

「問題がある」と回答した事業所における問題点の内訳(複数回答)をみると、「指導する人材が不足している」(60.5%)が最も高く、「人材育成を行う時間がない」(48.2%)、「人材を育成しても辞めてしまう」(44.0%)なども高くなっている

<個人調査>
正社員以外のOFF-JT受講率は正社員の半分以下

2020年度にOFF-JTを受講した者の割合は、労働者全体で30.2%(前年29.9%)。雇用形態別でみると、正社員では38.2%、正社員以外は15.8%となり、正社員以外の受講率は正社員を大きく下回っている。

性別では「男性」(36.3%)に比べ、女性(23.4%)の受講率が低い。また、最終学歴別でみると、「大学(文系)」(39.3%)、「大学(理系)」(33.9%)、「大学院(文系)」(34.2%)、「大学院(理系)」(61.4%)など、大学卒業以上の最終学歴を持つ者の受講率は高い一方、「専修学校・短大・高専」(24.0%)、「中学・高等学校・中等教育学校」(23.5%)は受講率が低くなっている。

正社員以外のOFF-JT延べ受講時間は7割が10時間未満

OFF-JTを受講した者の延べ受講時間は、労働者全体でみると、「5時間未満」が24.4%、「5時間以上10時間未満」が25.7%となっており、10時間未満が2分の1を占めている。

正社員と正社員以外を比べると、「5時間未満」では正社員(19.0%)が約2割に対し、正社員以外(48.0%)では約5割にのぼる。正社員以外では10時間未満が7割近くを占めるなど、受講時間が短い傾向が高い。

自己啓発の延べ時間数は20時間未満が半数に

2020年度に自己啓発を行った者の割合は、労働者全体で36.0%(前年32.2%)。雇用形態別では、正社員が44.6%となっているのに対し、正社員以外は 20.4%と実施率が低い。

OFF-JTと同様に、性別では「男性」(42.7%)に比べ、女性(28.1%)の実施率が低く、最終学歴別でも、「大学院(理系)」(71.5%)など大学卒業以上の最終学歴を持つ者の実施率に比べ、「専修学校・短大・高専」(29.9%)、「中学・高等学校・中等教育学校」(23.9%)の実施率は低くなっている。

自己啓発を行った者の延べ実施時間は、労働者全体でみると、「5時間未満」(13.3%)、「5時間以上10時間未満」(16.6%)、「10時間以上20時間未満」(18.3%)と、20時間未満がほぼ2分の1を占める。雇用形態別では、特に「5時間未満」の割合で、正社員(10.6%)に対し、正社員以外(24.1%)が高くなった。

(調査部)