合理的配慮の提供に関する相談が増加
 ――障がい者の差別禁止・合理的配慮の提供義務に係る相談等の2021年度実績

国内トピックス

厚生労働省は6月24日、2021年度の「雇用の分野における障害者の差別禁止・合理的配慮の提供義務に係る相談等実績」を公表した。それによると、2021年度にハローワークに寄せられた障がい者に対する差別および合理的配慮の提供に関する相談は244件(2020年度は246件)で、前年度から横ばいだった。内訳をみると、障がい者に対する差別に関する相談は55件で前年度から20%減少したが、合理的配慮の提供に関する相談は189件で7%増加した。

合理的配慮の相談件数は過去5年で最多

障害者雇用促進法は全ての事業主に対して、雇用の分野での障がい者に対する差別を禁止し、かつ合理的配慮の提供を義務づけている。今回の公表によると、2021年度にハローワークに寄せられた障がい者に対する差別および合理的配慮の提供に関する相談件数は244件だった。

相談件数の推移をみると、2017年度が181件(障がい者に対する差別が64件、合理的配慮の提供が117件)、2018年度が248件(同62件、186件)、2019年度が254件(同75件、179件)、2020年度が246件(同69件、177件)、2021年度が244件(同55件、189件)となっている。相談件数全体では、2018年以降はおおむね横ばいで推移しているものの、合理的配慮の提供に関する相談は過去5年で最も多くなっている。

9割以上が障がい者本人からの相談

相談の件数を相談者別にみると、「障がい者」が227件(93.0%)で最も多く、次いで、「その他(家族等)」が9件(3.7%)、「事業主」が8件(3.3%)となっており、相談の9割以上が障がい者本人から寄せられている。障がい者本人からの相談件数と、その全体に占める割合の推移をみると、2017年度が163件(90.0%)、2018年度が226件(91.1%)、2019年度が243件(95.7%)、2020年度が232件(94.3%)、2021年度が227件(93.0%)となっており、一貫して9割を超えている。

合理的配慮の相談内容は4割が上司・同僚の理解について

相談の内容を詳しくみていくと、障がい者差別に関する相談は「配置」(20.6%)が最も多く、次いで「募集・採用時」(16.2%)、「賃金」(11.8%)、「雇用形態の変更」(10.3%)などの順となっている。

一方、合理的配慮の提供に関する相談内容では、「上司・同僚の障がい理解に関するもの」が38.0%で特に多くなっており、それ以外では「相談体制の整備、コミュニケーションに関するもの」が18.6%、「業務指示・作業手順に関するもの」が14.8%、「作業負担や移動負担に関するもの」が14.4%などとなっている。

自主的な解決が難しい場合は調停も

ハローワークは、障がい者に対する差別や合理的配慮の提供に関する法令違反等の事案に対しては、助言、指導または勧告を行い、是正を図っている。2021年度にハローワークが行った助言件数は9件で、内訳は、障がい者に対する差別が3件、合理的配慮の提供が6件。指導の件数は0件で、2019年度以降は0件が続いている。

事業主と障がい者の間での話し合いが円滑に進まず、紛争に発展した場合、関係当事者の申し立てに基づき、①都道府県労働局長による紛争解決の援助②障害者雇用調停会議による調停――のいずれかを実施することで紛争の早期解決が図られている。

労働局長による紛争解決の援助については、2021年度の援助申立受理件数は2件(障がい者に対する差別が1件、合理的配慮の提供が1件)。障害者雇用調停会議による調停については、2021年度の調停申請受理件数は10件(障がい者に対する差別が4件、合理的配慮の提供が6件)だった。調停を実施した結果、10件のうち3件は当事者双方が調停案を受諾している。

ハローワークの対応事例も紹介

公表資料では、ハローワークが実際に対応した事例の内容も紹介している。たとえば、障がいを開示したうえで季節等により体調を崩しやすいことを伝えていたにもかかわらず、体調不良で休暇を取ると退職勧奨を受けた事例があった。これについてハローワークが事業所に聞き取りした結果、「相談内容は事実であり、合理的配慮が欠けていたことや障がいに対する理解が不足していたことが確認された」ことから、ハローワークは事業所に対して、障がい者雇用を行う際に合理的配慮の提供を行うように助言した。

別のケースでは、障がいを開示せずに在職していたが、同僚からの暴言等に耐えられず障がいを開示したところ、賃金を下げられたというものがあった。これについてハローワークが事業所へ聞き取りした結果、「経済的虐待の事実等法違反を確認した」ことから、ハローワークは障がい者虐待の防止及び障がい者差別の禁止について助言した。

厚労省では、法制度のさらなる周知に努めるとともに、ハローワークなどに寄せられる相談への適切な対応と紛争解決のための業務の的確な実施に取り組んでいく、としている。

障がい者の就職件数は2年ぶりに増加

なお、同日に厚生労働省が公表した「ハローワークを通じた障がい者の職業紹介状況」によると、2021年度の障がい者の就職件数は9万6,180件で、2020年度(8万9,840件)から7.1%増加した。増加は2年ぶり。

障がい種別にみると、身体障がい者が2万829件(前年度比4.0%増)、知的障がい者が1万9,957件(同0.8%増)、精神障がい者が4万5,885件(同13.0%増)、その他の障がい者が9,509件(同1.3%増)となっており、いずれも増加している。

ハローワークに届出のあった解雇者数は1,656人で、2020年度(2,191人)や2019年度(2,074人)を下回り、落ち着きをみせている。

(調査部)