投資家への情報として「男女間賃金格差」も開示を ――金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」が報告案を提示

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企業から投資家への、財務情報を補完する記述情報の開示の充実に向けた議論を行っている金融審議会の「ディスクロージャーワーキング・グループ」(座長:神田秀樹・学習院大学大学院法務研究科教授)はこのほど報告案をまとめた。企業がサステナビリティ(持続可能性)に関する情報を開示する際に、国際的には、人的資本や多様性に関する情報も開示項目となっているケースが多いことから、「人材育成方針」や「女性管理職比率」、「男性の育児休業取得率」、「男女間賃金格差」を開示項目とすべきだと提起した。

2021年6月から企業情報の開示の充実のあり方などを議論

企業から投資家への、財務情報だけでなく、それを補完する記述情報の開示が進みつつあるなか、政府として 2050年のカーボンニュートラルを目指すことが宣言されたことなどを背景に、投資家からの企業のサステナビリティに関する取り組みやコーポレートガバナンスへの注目が高まっている。こうしたなか、ワーキング・グループでは、金融担当大臣からの諮問(2021年6月)をうけ、国際的な動きを踏まえた資本市場の一層の整備に向けて、非財務情報である企業情報の開示の充実のあり方などについて検討してきた。5月23日に開いた第9回会合で報告案を提示した。

人的投資が価値創造の基盤であることを企業・投資家の共通認識にする

報告案の内容は、「サステナビリティに関する企業の取組みの開示」や「コーポレートガバナンスに関する開示」が主だが、「サステナビリティに関する企業の取組みの開示」について記述する章のなかで、「サステナビリティ全般に関する開示」や「気候変動対応に関する開示」などと並んで、「人的資本、多様性に関する開示」についても取り上げ、言及した。

内容をみると、まず、「人的資本、多様性に関する開示」をめぐる状況を説明。政府の「新しい資本主義実現会議」での議論のなかで、人件費を単にコストと捉えるのではなく、人的投資を資産と捉えた上で、人的投資が持続的な価値創造の基盤となることについて、企業と投資家で共通の認識をすることが目指されていると紹介。また、2021年6月のコーポレートガバナンス・コードの再改訂によって、経営戦略に関連する人的資本への投資や、多様性の確保に向けた方針と実施状況の開示が盛り込まれたことや、女性活躍推進法によって、一定以上の労働者を常時雇用する事業主に対して、女性の活躍に関する情報公表が義務付けられていること、また、女性の管理職比率や男女別の育児休業取得率が情報の公表項目の選択肢として位置付けられていることなども紹介した。

最新の状況として、厚生労働省において、女性活躍推進法に基づく男女間賃金格差そのものの開示を充実する制度の見直しについて、検討が行われることになっている点にも触れている。

米国ではすでに人的資本に関する開示が義務付け

国際的な議論の状況も紹介。米国では、米国証券取引委員会(SEC)が、2020年11月、非財務情報に関する規則を改正し、年次報告書で人的資本に関する開示の義務付けを行ったとし、これによって「企業は、事業を理解する上で重要な範囲で、人的資本についての説明や、企業が事業を運営する上で重視する人的資本の取組みや目標などの開示が求められている」と説明した。

有価証券報告書の「従業員の状況」の中の開示項目とする

そのうえで報告案は、わが国での「人的資本、多様性に関する開示」の対応の方向性を提起した。

「現時点において、人的資本や多様性に関する情報が ISSB による国際的な基準策定の対象となるかは未定であるが、多くの国際的なサステナビリティ開示のフレームワークで開示項目となっている。また、米国では前述の SEC 規則の改正が行われたこともあり、多様性に関する取組みを含めた人的資本の情報開示が進んでいる」(ISSB=国際サステナビリティ基準審議会)と述べたうえで、「我が国においても、投資家の投資判断に必要な情報を提供する観点から、人的資本や多様性に関する情報について以下の対応をすべきである」と主張。

具体的に、①中長期的な企業価値向上における人材戦略の重要性を踏まえた「人材育成方針」(多様性の確保を含む)や「社内環境整備方針」について、有価証券報告書のサステナビリティ情報の「記載欄」の「戦略」の枠の開示項目とする②それぞれの企業の事情に応じ、これらの「方針」と整合的で測定可能な指標(インプット、アウトカム等)の設定、その目標および進捗状況について、「記載欄」の「指標と目標」の枠の開示項目とする③女性管理職比率、男性の育児休業取得率、男女間賃金格差について、中長期的な企業価値判断に必要な項目として、有価証券報告書の「従業員の状況」の中の開示項目とする――の3点を提案した。

ただ、女性管理職比率や男性の育児休業取得率、男女間賃金格差についての指標については、企業の負担を考慮し、「他の法律の定義や枠組みに従ったものとすることに留意すべき」としている。

また、報告案は、女性活躍推進法、育児・介護休業法等などの法律の枠組みで、こうした項目の公表を行っていない企業(女性管理職比率や男女別の育児休業取得率を女性活躍推進法に基づく公表項目として選択していなかったり、従業員1,000人以下の企業で男性の育児休業取得率の任意公表を行っていない企業など)についても、有価証券報告書で開示することが望ましいとした。

(調査部)