報告 NECの賃金処遇制度と雇用制度:第22回労働政策フォーラム
業績回復期における人事戦略のあり方
— 企業と労働者の視点から —
(2007年1月29日)

開催日:平成 19 年 1 月 29 日

※無断転載を禁止します(文責:事務局)

梅本 洋一郎(日本電気労働組合 中央書記長)

NEC 労組の立場として、NEC の処遇制度の実態と課題についてお話します。

NECの賃金処遇制度は、プラクティスファイルに基づく人事処遇制度と総称しており、2000 年秋に導入しました。顕在能力を評価するというお話が阿部先生からございましたが、具体的に社内で高い業績を上げている社員の行動様式、あるいは持っているスキルをプラクティスファイルと称して明確化します。これに基づき、従業員個々人について、どういった行動ができているのか、あるいは、保有するスキルはどうかを確認します。これにより、社員の意識や行動を変えていくことを目的としています。当然、制度全体を極力オープンにして納得性を高めていこうといった取り組みも行っています。

処遇制度については、査定期間におけるコンピテンシーに基づく本人の行動内容や、スキルの習得などがどれだけ達成できたのかについて上司と本人で確認する"能力・キャリアレビュー"を年に1回行います。これと併せて、半期毎に業務上の目標管理としての業績レビューを行い、これをもとに人事考課を行って、昇格・昇給を決めていくことになります。

このプラクティスファイルは、高い業績を上げる者の行動様式であり、そういった行動ができているのかが個々人の評価の尺度にもなりますし、他方、目指すべきスキル・行動が育成の尺度にもなります。プラクティスファイルは全社員に公開されていますので、自分自身がさらに上の等級に昇格したければ、こういった要件が必要だという本人にとっての尺度にもなりますし、上司にとっては育成の尺度にもなることになります。このように、育成と評価・処遇の両方の尺度として使えることがプラクティスファイルの理念です。

一時金につきましては、業績連動方式で水準を決定しています。全体の水準決定については、労使で論議したこの方式に従って行うわけですが、実際に原資を個人に配分をする際には、一時金の構成要素(基本分と成績分)のうち、成績分の金額は個々人によって異なってきます。業績レビュー、すなわち、半期毎に上司と部下の間で業務上の目標を立て、その難易度と実際の達成度を改めて半年後にレビューし、水準を決めていくことになります。まとめて言いますと、プラクティスファイルに基づいて行動とスキルの評価を行い、これが能力・キャリアレビューの中で確認されます。それから、組織目標に関連した個人目標が業績レビューの中で確認されます。能力・キャリアレビューと業績レビューを総合的に評価して人事考課が決まり、それが昇給・昇格につながっていくということです。一方、業績レビューの方はそのまま一時金の方にも反映をしていくという形です。

ですから、NECとしては成果主義の処遇制度を入れている形になります。

それから、雇用制度については、定年は 60歳となっています。昨年の春には雇用延長制度を導入しました。基本的には全ての希望者に対して、厚生年金の定額部分の支給年齢に合わせて雇用年齢を延長していく仕組みとなっています。

また、60 歳前にNECグループを出て、新たな自分の道を進みたい、可能性を探りたいといった希望を持つ方に対しては、セカンドキャリア支援制度を設けて、休暇、あるいはプラスアルファの支援金の支給を行っています。

その意味では、長期雇用を意図した仕組みを持っているということで、NECの場合はNEW J型に当たると考えています。

次に、会社が実施した意識調査の中で、「自分の評価に納得しているか」という設問に対する回答では、5割から6割が納得しているという結果が出ています。必ずしも高くはないのかもしれませんが、ここ数年、この数字は上昇傾向にあります。組合としても、会社に各種レビュー面接の完全実施を求めており、現在では 90%を超える面接率になってきています。その意味では納得性は高くなってきていると思います。

一方、組合として「賃金・一時金への差のつけ方に関して、成果をどれぐらい反映させるべきか」といった点について意識調査を行ったところ、今ある制度程度で良いという意見が過半数でした。現行制度で言えば、昇給については成績によって、概ね標準者1に対して、好成績者は 2~3となっています。一時金については、支給額の約 4割 ~ 5割が成績分ということになっていますが、この成績分は標準の者を中心としたときに基本的には 0から 2倍の範囲で配分されるという仕組みを取っています。これ以上の格差拡大は望まれていないと考えています。

また、処遇制度の中で、実際、何が処遇に反映されているのか、何が重視されるべきかについても意識調査を行いました。実際に何が重視されているかは、複数回答ですが、一番多かったのは成果主義ですので、どういった成果を達成できたのかということです。ただ、何を重視すべきかでは、やはり一番多かったのは成果でしたが、プロセスなり貢献、仕事を進めていく上でどういった行動をとってきたのか、どういう進め方をしたのかといったところをもっと評価して欲しいという意見もかなりありました。

NEC の処遇制度はプラクティスということを軸にしていますので、日頃の行動なり仕事の進め方は、きちんと処遇制度の尺度の中に入っていますが、これがあまり実感として感じられていないことが分かりました。会社としてはこうした日常の行動を評価をしようとしているけれども、それが実際の職場の中ではなかなか理解されていないのだと思われます。実際、一時金については、どういった成果を上げたかによって、成績分に 0から 2倍の範囲で相当大きな差がついていますが、こうしたところは分かりやすい一方、日常的な行動については、昇給の中で総合的に評価されるため、なかなか実感できないのではないでしょうか。このあたりがこういった結果につながっているのではないかと思います。

きちんと評価されているということを実感できるような、そういった取り組みが必要ではないかと思います。なかなか見えにくい行動なりプロセス、あるいは貢献といったものを評価するのは非常に難しく、これをどのように理解してもらえるかというところが大事だと思います。

雇用制度については、基本的には長期雇用ということで、従業員も会社側も認識のギャップはあまりないのではと思っていますので、グループとしての経営の健全化、業績の向上のための経営チェック機能を充実させ、さらに安心感につなげていくことが重要です。また、個々人のキャリアに対応するだけの仕組みは設けていますので、現行制度の更なる周知改善等に努めていきたいと思っています。