講演録:第4回労働政策フォーラム
仕事と家庭生活の調和
—次世代育成支援対策推進法の成立をうけて—
(2004年6月29日)

開催日:平成 16 年 6 月 29 日

※無断転載を禁止します(文責:事務局)

配布資料

コメント

厚生労働省 雇用均等・児童家庭局 職業家庭両立課長 宮野 甚一

介護1

次世代育成支援対策推進法の事業主行動計画を担当しております宮野と申します。武石さんの基調報告のなかで、次世代育成支援対策推進法が成立するまでの背景、法律の概要、または両立支援対策に取り組むメリットや意義などについてご説明いただきました。また、芹川さんと荻野さんからは、多くの企業のお手本となるような企業における取り組みについてお話いただきました。私から特に加えるようなことはあまりないのですが、最後に荻野さんから幾つかの論点をご紹介いただきましたので、後半の議論にも関連するかと思いますが、それに触れながらコメントさせていただきたいと思います。

介護2

次世代育成支援対策推進法では、すべての企業に対して、行動計画の策定と届け出が義務または努力義務となっております。法律のなかで、このように全ての企業に計画策定をお願いするという枠組みは、これまでありませんでした。例えば、障害者雇用促進法という法律では障害者の雇用率を定めておりますが、雇用率が非常に低い企業には雇い入れ計画を策定させる規定があります。また、雇用対策法では、一時に大量の離職者を出した企業に再就職の援助計画を策定させる枠組みがあります。このように、企業に計画策定を義務づけることは、どちらかというとペナルティーのような色彩があったわけですが、それに対して、今回の次世代育成支援対策推進法は、基本的にすべての企業に計画づくりとその取り組みをお願いしております。

武石さんからもご紹介があったように、少子化の流れが変わらなければ、わが国の社会や経済全体に対して非常に大きな影響を与えることになるでしょう。したがって少子化対策は国全体として取り組んでいかなければならない問題であり、企業にも取り組みをお願いするものであるということをご理解いただきたいと思います。もちろん、少子化問題の背景には、職場にかかわる問題だけでなく、そもそも結婚しないというところから始まり、個々人の意識や経済的な問題など、さまざまな要因があるかと思います。

そうしたなかで、荻野さんのコメントにもありましたが、企業が次世代育成の主役なのかという点に関して言えば、第一の主役として取り組むべきは私ども国・地方公共団体だと考えております。国としても保育サービスの充実をはじめとして、取り組まなければならない課題はたくさんあります。一方、育児は女性の役割だという意識が、国民全体、社会全体でも未だ根強く残っている部分もあり、それが女性の強い負担感に繋がっているのだろうと思います。

男性の家事時間の国際比較のデータにより各国の男性の家事時間と出生率を縦軸と横軸でグラフをつくりますと、きれいな正の相関関係ができます。わが国は出生率も非常に低く、男性の家事時間も先進主要国では最低の水準です。もちろん、職場の問題もあるのかもしれませんが、まだまだ意識の問題も相当あるでしょう。そうしたものを解消しないと少子化の流れは変わらないと考えております。

ただ、少子化の一つの大きな要因として、仕事と家庭の両立の負担感が強いということは事実だと思います。次世代育成支援対策の枠組みのなかで、国・地方公共団体のみならず、企業の皆さんにも取り組みをお願いしている、こうした背景をご理解いただきたいと思います。

育児休業の取得率については、少子化対策プラスワンのなかで「男性 10%、女性 80%」という目標値を設定し、いろいろな形でご議論いただいております。基本的にこの 10%、 80%という水準については、希望する人が取得すれば、このぐらいの水準になるのではないかということで設定しております。

育児休業については、例えばキャリア継続のため産休明けからすぐにでも職場復帰を希望する人もいるでしょうし、祖父母と同居しているので必要ないという人もいるかと思います。一方、希望しているけれど職場の雰囲気等でなかなか取得が難しいという人も相当数いることも事実だと思います。そうした状況が仕事と家庭の両立の負担感につながり、仕事を継続したいけれど出産を契機に辞める人もいます。そのあたりをもう少し改善しないといけないのではないかと思っております。

もちろん、企業の実情に応じてさまざまな取り組みが考えられると思います。また、芹川さんや荻野さんからご紹介いただいたように、両立支援への取り組みは、単にコスト負担になるだけでなく、企業にとってもメリットを与えるものだろうと思います。そうした点にも目を向けていただき、企業の方々にも両立支援への取り組みをお願いしたいと思います。

パネルディスカッション

パネルディスカッション2

【今田】 後半のパネルディスカッションに入りますが、休憩中にフロアの皆様からたくさんご意見が寄せられており、後半の議論で皆様のご意見を反映させていきたいと思っております。

我々に提示された論点はそれぞれ非常に難しい問題ですが、いくつか絞りながら議論を詰めていきたいと思います。

まず、両立支援や今回の次世代育成支援対策法により企業に課せられる施策については、確かにコストもかかるけれどメリットもあるというご主張があったかと思います。

パネルディスカッション1

芹川さんの企業では、従業員の継続が企業経営にとって決定的に重要な意味を持ち、したがって両立支援策は不可欠であるということでした。両立支援策を上手に活用すれば、企業にとって十分な経済的利益をもたらすものであると言われています。一方、荻野さんのお話では、両立支援さらには次世代育成という国家的な大きな試みがなされようとしているときに、企業はどのように関わっていくべきなのかという問題が提起されました。 1.29というショッキングな出生率の背後で着実に少子化は進展しており、国を挙げての関心事と、両立支援・次世代育成というものに企業がどのように社会的責任を負うのか、国の施策に対する企業の対応をどう位置づけていくのか。両軸にまたがる状況だろうと思いますので、この点に関してもう少し突っ込んだ議論をしたいと思います。

【荻野】 若干誤解を与えてしまったかもしれませんが、私どもの会社では両立支援への取り組みは、社会的責任とか社会貢献を主に意識しているものではありません。基本的には労働条件の向上ですので、ひとりひとりの働きやすさを高めることによって企業全体の生産性を高めていきたいということですし、それに加え、多様性を活力に結びつけていきたいということです。こうしたことを社会的責任だからとか、社会貢献としてやるということでは意味がないと思います。企業の活力や利益のためにやるということでなければならないと考えています。

それでは、多様性が本当に活力になるのか、利益に結びつくのか。私も含めてほとんどの人事担当者は、家庭生活を顧みず24時間戦います、というような人ばかりの職場では絶対うまくいかないと、たぶん心の中では思っています。子供を育てた経験があるとか、家庭に限らず、仕事以外の生活が充実している人がいたほうが職場としては良い仕事を生み出すと思っています。ですから、多様な人がいる職場をつくるための一つの手段としても、仕事と家庭生活の調和に対する支援は有効だと思います。

【芹川】 採用時点で男女半々入ってきますが、ともすると女性の割合が多い年度があります。その中で、家事、出産、育児という段階で退職率が高くなってきます。それでは企業として何かすれば、その人たちが仕事を継続できるのか。実は一人の SEをつくるのに2年くらいかかります。2年間に 700万くらいのお金が出ていくわけです。もちろん、すべて投資だけで回収していないというわけではありませんが、お金が出る割合が結構高い。したがって、企業の側に何らかの支援があれば、仕事を継続しますという女性が多い時代に、何もしないというのは企業には大きなデメリットになる。当社には 30歳や 35歳の既婚女性も働いておりますので、自分のライフサイクルの中で仕事もやりたいという人が当社を受験するようになり、そしてこの 2~3年、入社試験の受験者のレベルも上がったように思います。その結果、全体的にも向上していくだろうと考えています。

男性の退職率についてご質問があったそうですが、わが社では、女性だからという仕事の割り振りは一切しておりません。入社してきたら、一人の技術者として能力に応じた仕事分担と昇進を与えるのが私どものやり方です。そうした仕事のやり方は男性にとってもやりやすく、それが男性の退職率の低下にも繋がったのではないかと考えています。仕事一辺倒でなくて、趣味があり、アフターファイブがあり、家庭生活があるというように価値観は変わってきていると思います。仕事と自分の生活を調和させようとする人にとって、企業も少しはこたえてあげる必要があるのではないでしょうか。

ただ、株式会社にとって大切な事は、どうやって利益を生み出すかということですから、そのための人事施策として考えていけば良いのではないでしょうか。

【今田】 武石さんも、両立支援策は人事労務施策の一環として位置づけるべきだと言っておられます。人事労務管理とは、従業員が気持ちよく働き、その結果として生産性が上がり、企業の利益も上がることが最終的な目標であると。両立支援をしていくことは経済的効率性や合理性に見合った施策だというご主張でした。非常によく理解できるのですが、効率性や合理性やコストに絡めて、もう少し議論を展開していただけませんか。

【武石】 さきほどの荻野さんと芹川さんの話にもありましたように、企業にとってどういう人事管理が利益を生むのかということと、この次世代育成支援というのが決して対立するものではなく、同じレールの上を同じ方向に向かって走っているようなものではないかと私は思っています。ただ、業種の特性などというものが考慮されていないのではないかというご指摘もあります。確かにそのような業種も数多くあり、つまり利益を生む人事管理と両立支援、次世代育成支援が同じ方向を向いて、放っておいても利益を生む。一方で、別にそうした施策を講じなくても従業員が辞めたら、すぐに翌日から新しい人がきて、それで会社が回るという企業もあると思います。ですから、両者が同じ方向を向いているということが、すべての企業に当てはまるということではないと思います。

これから、少子・高齢化ということで人口が減ります。 2006年に人口がピークとなり 2007年から減少しますが、急激な割合で減少すると予測されています。国際競争のなかで、どのような人材が付加価値を生んでいくのかを考えながら、日本全体として付加価値の高い経営に向かっていかなくてはならない、抽象論としてそのようなことが言えるかと思います。ですから、次世代育成支援は、利益を生む人材を企業の中でどのように活用していくのか、そこから出発すれば無理なく位置づけられるのではないかと思います。

それから、コストとメリットという観点から考えると、芹川さんのお話で具体的に 700万円という数字が出てきましたが、実はいくら儲かったかという点は大変重要だと思います。ブリティッシュ・テレコミュニケーションズというイギリスの通信会社は 10万人の従業員を抱えておりますが、ワーク・ライフ・バランスの制度を導入し、その経済効果を検証したそうです。その結果、出産後、女性が職場に復帰することで、採用・教育コストが 6億円も削減され、また、欠勤率もイギリスの全国平均の半分以下に下がったそうです。欠勤率が下がった要因として、ストレスの減少が考えられると思います。ストレスの原因はいろいろあるでしょうが、仕事と生活のバランスの欠如も大きな原因の一つに挙げられるでしょう。ここに何らかの手当てを施すと、ストレスが減り、欠勤も減って利益が出るだろうということで、数字としてどのくらい利益が出たのかという話を、ぜひ、いろいろな企業で検証していただきたいと思います。宮野課長がいらっしゃいますが、この次世代育成支援を進めるときに、そのような企業のベストプラクティスといいますか、これだけやって幾ら儲かりました、という宣伝をされると良いのではないでしょうか。

【今田】 政府としては、企業がどのぐらい儲かるかは関知しない問題だろうと思いますが、企業にとっての経済合理性を全く無視した施策というものは、なかなか推進しにくいという面があると思います。宮野課長、いかがでしょうか。

【宮野】 次世代育成支援対策推進法は、企業が儲かるために制定されたのではなく、あくまでも少子化という非常に厳しい状況がこのまま続けば日本の社会全体に多大な影響を与えるだろうということで、国・自治体のみならず、企業にも取り組みをお願いしたいということです。ただ、実際は、今まで皆さんからお話がありましたように、両立支援が企業にとってコストだけでなくメリットもあるということも事実ですが、すべての企業の方がそうしたメリットを認識されていらっしゃるというわけでもないと思います。ですから、どのような取り組みをすればどのようなメリットがあるかということについて我々も勉強を始めているところであり、それを生かして宣伝もできれば良いと考えております。

【今田】 これまで日本の少子化対策が諸外国に比べてうまくいかなかったという説明と、その原因についても非常にわかりやすく武石さんから説明いただきました。確かに日本は少子化が進んでいますが、日本より合計特殊出生率の低い国もあるわけです。日本の場合には 1.29と非常に低く、特に東京は 1.0に届かなかったわけですが、それ以上にショックであったのは、合計特殊出生率が下げ止まらないということです。だからこそ、国が責任を持って対応をしなくてはならず、それが企業への期待の基礎にもなっているわけで、宮野課長からご説明があったように、強制的な施策の合理性がそこで担保されたのだろうと思っております。そのように考えると、両立支援という問題は、子育て、少子化を全面的に意識して結論を導くのか、あるいはこれまでの施策がうまくいかなかったことへの反省に基づいて、生活あるいは企業の雇用管理という産業社会そのものの変化の中で、仕事と家庭生活との両立の必然性を唱えていくのか整理することが非常に難しいというか、論理を組み立てることが困難な問題だろうと思います。

武石さんは、女性、出産、少子化などという問題に矮小化せず、これからの産業社会の働き方のなかにワーク・ライフ・バランスの方向性を示していくことこそが将来的に少子化の歯止めに貢献すると言っておられます。ただ、少子化対策なのか、働き方の変革なのか、同時に取り組むことが非常に難しいと思いますので、もう少しこの点に関してコメントをいただきたいと思います。

【武石】 少子化対策=出生率を上げる対策と考えると、国の政策は非常に重要だと思います。ただ、企業で取り組むときに、マーケットが小さくなるとか、労働力が減るから困るということはあるでしょうが、当面、出生率を上げるために企業が何かしなくてはならないと言われても、やっぱり企業の方は納得されないのではないかと思うのです。

少子化対策というより、荻野さんもおっしゃるような多様な人材を生かす、あるいは芹川さんがおっしゃっているように有効に能力を発揮してもらうという視点からこの問題を考えていかないと、結局、余裕のある企業はできるけれど・・・という話になってしまいますから、やはり人材活用の仕組みの中に位置づけなくてはいけないと思います。

私は、両立支援は決して企業にとってコストばかりでないというスタンスでおります。企業のなかには、子育てをする人も、地域活動をする人も、いろいろな人が働き、無理なく仕事と生活のバランスが保てるような視点に立ち、そのなかに子育て問題も位置づけていったほうが人事管理もやりやすいでしょう。従業員がそうした制度を使うときにも、周囲の人が休暇をとったり、早く帰って残業しないという風土が出てくれば、結果として子育てをする人たちの環境が格段に向上するのではないかと思います。少子化対策を国が進めるのはよく理解できますが、企業の中でそれを受けとめるときには、やはり違う視点からのアプローチが必要になるのではないでしょうか。それは別に子育て支援だけではない、人事管理の有効な仕組みづくりということになると思います。

もう一つの問題は、これまで子育ての子というのは乳幼児で、幼い子供の支援策という部分がかなり大きかったと思います。子育てが何年かかるかは人によって違うと思いますが、いろいろな場面で子育てのニーズがあります。ですから、仕事と家庭生活のバランスは個人により取り方が違いますが、同じ人でもライフステージに応じて様々なニーズがあろうかと思われますので、柔軟に働ける環境がかなり長期に担保されることが働く側のニーズにあると思います。

本日お配りしている“Business Labor Trend”という雑誌の中に、企業の育児支援をテーマとした座談会が掲載されて、そのなかでNECの人事の方がお話されています。NECでは子供の学校行事に参加するための休暇制度を導入されていますが、その背景として、教育に対してもっと父親が関わっていくべきだという視点があるそうです。地域の学校の行事にビジネスマンが参加することは、自分の子供だけではなく広く意味での子育て支援にもなるでしょう。人事管理の中で、子育てを特別視すべきでなく、いろいろな生活の状況に応じた柔軟な働き方というのを準備していく必要があるのではないでしょうか。

【芹川】 企業としては、少子化対策という社会的な問題でなく、いわゆる従業員問題として人事政策の中で捉えていきたいと思っています。子育て、あるいは介護など、ライフスタイルの変化に伴う従業員の生活スタイルに対する考え方、職業生活への考え方というものが企業にとって大事であると考えます。

安定した雇用を考えるときに、子育ての時期に企業から離れる人もいれば、子育てが終わった後の介護という段階で企業から離れていく人もいます。ですから、企業としては、対人事政策の中で、それぞれのフェーズにおいてどのように対応していくかが肝要です。

【荻野】 国としては非常に重大な問題ですから、企業として一定の役割を果たすことはもちろん、少子化対策という意味でも必要だろうと思います。けれども、できればそれは企業の人事管理にとってもメリットがある形として取り組んでいきたいと考えていることは、今の芹川さんのお話と同様です。男性が育児参加をしていく、そういった意識の変革や働き方全般の見直しということを武石先生も言っておられましたが、仕事一筋のような人がいてもいいと思いますし、それは自由な選択だと思います。そのような人でも子供を育てられるような支援、例えば子どもを保育施設に預けて自分は仕事を一生懸命やるとか、そういうような選択も当然あっていいのだろうと思います。

いずれにしても、武石さんが言われたように、従業員の仕事と生活の両立という意識が高まっており、それに伴って当然、企業の人事管理も変わってきます。時間はかかるけれども、そのような方向へ進んでいくだろうと思っております。一方で、働く人の意識が本当に変わっているのか、むしろ、そこに問題があるのではないか、という小さな疑問があるわけでして、働く人の意識が変わっていないのに、企業がその意識を変えるというのはかなり難しいというのも一方の実感としてあります。

【今田】 企業の人事管理の合理性というところに軸を置いた場合、企業として必ずしも積極的に少子化対策に取り組めないという意見について、宮野課長はいかがお考えでしょうか。少子化がこれほど進んでいるのに十分な対応をしてこなかったわが国においては、ここで積極的に何らかの改善を図りたい、その期待を込めたのが今回の法律だと思いますが。

【宮野】 個別企業にとっては、直接、少子化対策に取り組めといわれることに対しては疑問を感じることは事実だと思います。ただ、少子化の要因は多岐にわたり、仕事と家庭の両立の負担感があるということも一つの大きな要因であることは事実ですから、企業にも取り組みをお願いしているということです。

ただ、その取り組み方に関しては、他の方からもお話があったように、それぞれの企業にとってのメリットという観点、あるいは少子化の問題を全く離れ、人事労務管理という観点から積極的なアプローチができるということではないかと思います。

これまでの少子化対策、エンゼルプランや新エンゼルプランなどが、あまり成果を残せなかったということについての原因が紹介されましたが、これまでの少子化対策というのは、基本的には共稼ぎの家庭を念頭に置いて、保育所をたくさんつくろう、育児休業制度を整備しようという対策が中心でした。

ところが、少子化の傾向は専業主婦家庭を含めて大きな問題になっており、一昨年に打ち出された少子化対策プラスワンにおいては、仕事と家庭の両立支援対策に今まで以上に取り組みますが、単に、現在、育児中の人だけではなく、企業全体として働き方を少し見直すことができないものだろうかという視点が盛り込まれました。あるいは、単純に保育サービスの充実だけではなく、地域における子育て支援も充実すべきではないかということで、新たな取り組みを始めているところです。

配布したリーフレットに簡単に項目を示して、マニュアルの中に具体的な指針を示していますが、行動計画策定指針の中で事業主の方にお願いしたい取り組みとしては、単に育児をしている労働者のための対策だけではなく、育児をしていない労働者を含めて働き方を見直し、多様な働き方ができる労働条件を整備する、そうした取り組みも含まれています。

また、働き方や雇用環境の整備だけではなくて、地域における子育て支援への協力というものもあわせて紹介しています。各企業がどのような取り組みができるのかということについては、千差万別だろうと思います。この次世代法は、あくまでそれぞれの企業の実情に応じて取り組みをお願いしたいと考えております。

【今田】 少子化対策でなく、企業の合理的な人事管理・労務管理という視点から両立支援策を位置づけていくということがポイントだろうと改めて考えます。それでは、各企業や事業所でどのように具体化するのか。この問題はそれぞれの事業所独自の問題であるにもかかわらず、一括して国がある方向性を示すということにかなり抵抗はあるでしょう。しかし、よく見ると、中身そのものは事業所の状況に基づいて様々なプログラムを出していただきたいということで、だからこそ非常に難しい点もあり、何を期待されているのかよくわからないという企業の方たちの意見も聞きますが、こうすればこの課題に関してはうまくいきますよというような、「目からウロコ」のような解決案をこの場で提示することは非常に難しいわけです。しかし、本日お越しいただいている先生方は、この問題に関する研究や情報を蓄積されてきているわけですから、今後の企業での効果的な運営や展開に当たってどの辺がポイントになるのか、お知恵を出していただきたいということでご発言をお願いします。

【武石】 結局、仕事と生活のバランスというのは個々人によりいろいろな状況が発生し得るわけです。特に規模の小さいところでは、従業員に何か問題が起こったときに、経営者が一生懸命耳を傾けて、最善の方策を考え対策を講じます。それが非常に良いということになれば、今度はいろいろな人が使える制度になっていくでしょう。そのように最初にニーズがあって制度が出来たという例が割と多いと思いますので、最初に、今後の 5年間で何かを計画して実行します、ということは確かに難しいことではあるかもしれません。

先ほど、荻野さんが従業員のニーズがどこにあるのかというような問題を提起されましたが、本当に働き方を見直したい人はどの程度いるのでしょうか。馬車馬のように夜遅くまで働いて賃金を沢山もらいたいという人もいるでしょうが、それがおかしいと思っている人も一定割合いると思います。男性の育児休業取得率 10%というのは、「是非とりたい」という人が10%いるからという目標ですが、結構、重い数字だと見ております。

年間生まれる子供の数は、大体 110万人ですが、そのうち自営業を除く 80万人から 90万人ぐらいの新生児の父親がいるとして、その一割の 8万人から 9万人が育児休業をとりたいと思っているのです。時間がなくてデータをご紹介しませんでしたが、レジュメの中で、男性で育児休業をとっているのは年間で 600人ぐらいです。そうすると、その 100倍以上の人が取りたいと思っていても取っていない。そういう従業員が何を求めているのかというところを考えていく、そこからの出発になるのではないでしょうか。

【芹川】 最初に方針がありきでなく、企業に置かれた課題に対して何か対策をとれば今よりは有効な成果が得られる、その結果が、仕事と家庭の両立と方向が一致したという感じです。ですから、もし本日参加されている企業の中で、課題があるとしたら、それを真に分析することから始めて先へ進むしかないと申し上げたいと思います。企業というのは利益がすべてではありませんが、5年後、10年後に自社がどう伸びていくか、働いている人に対し幸せな状況をつくれるかということをまず考えていくと思います。ですから、問題解決の一つの方針として受け止めれば、より実践的な取り組みができるのではないかと私は考えます。

【荻野】 多様性の活力を生かすという意味で、企業としては、両立支援やファミリー・フレンドリー政策などに一生懸命取り組みたいと思っております。それはこの先、働く人のニーズが変わり、あるいは人口構造の変化により、そうした施策を先取りしていくことが将来の競争力にも繋がると考えるからです。

ただ、これは企業の個別事情によるという話が武石さんからも出ましたが、まさにそのとおりでして、極端なことを言えば、こうした取り組みは人材に対する投資の一種とも考えられるわけで、ある程度のコストをかけてそれ以上のリターンをとる、基本的にはそういうことです。ですから、現在は経営が厳しくて投資する余力はないという企業は、他のことを優先して取り組み、しかる後にこのようなことにも目を向けていくということになるだろうと思います。そういう意味で、取り組みのあり方は、時と場合により、または企業により異なるであろうと考えています。

次世代育成支援に企業がどれほどの役割を果たし得るかということについて若干疑問もあるわけでして、行動計画策定のパンフレットを見ても、よほどよく読まないと、「こんなことをやらなくてはいけないのか」と受けとめるのがむしろ普通であるかと思います。これらのことを考え合わせると、すべての企業にこのような行動計画の策定を義務づけて、301名以上については届け出を義務づけるというやり方が本当に良かったかどうか、改めて疑義を呈しておきたいと思います。パンフレットをよくよく読めばわかるように、企業はそれぞれの実情と必要性に応じて計画を作成し、その旨を提出するということになろうかと思います。

先ほど武石先生からもご紹介いただきましたが、男性の約 10%が育児休業の取得を希望しているにもかかわらず、実際の取得率はおそらく 1%未満ということでして、「ぜひ取りたい」のになぜ取らないかという問題があると思います。確かに職場の雰囲気が取りにくいものだという理由は分りますが、ぜひ取りたいというのは、どの程度強く「是非とも取得したい」と思っているかという点です。休む以上は職場に何らかの影響があることは避けがたいわけで、その避けがたい影響があるものを無いと言っても始まらないので、取る人が「影響はあるけれども私は取ります。」と言って取るしかない部分はどこまで行っても残ると思います。「ぜひ取りたい」の 10%というのは、そのくらいのハードルがあっても「ぜひとりたい」と思う人ばかりではない可能性があるわけで、それでも数値目標で10%取らせなさいという話になってくると、企業としては厳しいのではないかと思います。

また、仕事と家庭の両立といった場合、仕事のなかには社内のキャリアや評価といったものも含まれるでしょう。家庭に重きを置けば、その分キャリアが失われるかもしれない、というバランスの問題です。「ぜひ取りたい」けれど、キャリアに影響するのは嫌だ、という人がこの 10%に含まれているようだと、やはり数値目標で 10%というのは企業としては厳しい。もちろん働く人のほうが何かと立場が弱い、かつ、現在のような経済・雇用情勢が悪い中では、なかなか大変だろうと思いますが、従業員本人、特に男性の考え方の画一的な部分に大きな問題があるのではないかというのが率直な感想です。

【今田】 企業活動に直接的に影響を及ぼすような制度的な関わりを期待される度に、企業は面倒だと感じながら対応してきた面が多々あったかと思います。これからの企業は、社会的に課される役割に対して受け身の姿勢で対応することからそろそろ脱却しなくてはいけないのではないでしょうか。社会的に課される役割を企業の戦略のなかにどのように取り込んで、今後の発展に繋げていくかという姿勢が必要だと思います。特に、このたびの両立支援の枠組みは、政府から企業への面倒な課題ばかりというような感もありますが、この際、そのような課題を逆手にとって積極的に関わっていくことが必要ではないでしょうか。

【宮野】 この少子化の問題は、とにかく企業のみに取り組みをお願いする、過度の期待をするというつもりはありません。国・地方自治体がやらなければならないことはそれ以上にたくさんありますし、個人の意識の問題というのも極めて大きいと思います。ただ、やはりこうした状況の中で企業にも一定の取り組みをぜひお願いしたいということを改めて、申し上げさせていただきます。

それから、育児休業の目標値について、荻野さんと状況の認識が若干違うのかなと思うところは、育児休業を取りたいといって却下するような社長さんや上司はいないのではないか、というお話がありました。おそらく本日こうしたフォーラムに参加されているような企業の皆さんのところでは、そんなことはないだろうと思いますが、残念ながら厚生労働省の出先機関に寄せられている相談の中には、育児休業をとる以前の話として、出産、妊娠を告げたら辞めろと言われたというような相談が多く寄せられているという現実もあります。男性についても女性についても、育児休業をもう少し取りたいという方が潜在的にいるのではないかと思います。

非常に多くの方が育児休業をとる以前に、出産を機に会社を辞めているわけですが、仕事を続けたかったという人が相当数いるのだろうと思っています。そういう人たちが産休・育休を取った後に職場に復帰し、仕事を継続した方が企業にとってもメリットになるということが先ほどから議論されておりました。ですから、企業の方々へも取り組みをお願いしたいと、繰り返し申し上げさせていただきたいと思います。

フロアとの質疑応答

【質問者 1 】 先ほど企業側のご説明の中で、仕事優先意識という問題点がありましたが、私どもは、男性が長時間残業をして家庭との両立ができないという状況で、労働生産性が長時間労働によって果たして上がっているのだろうかを今、証明しようとしております。もし向上していないという証明ができれば、成果主義の導入で業務実績を評価する流れが進むでしょうから、このような長時間労働は減るのではないかと考えております。かつ、男性の意識がもう少し家庭に向くのではないかという仮説を持っております。長時間残業と労働生産性の関連性が解決できれば男性の意識が家庭に戻るということについて、どのようにお考えかを人事の方にお尋ねしたいと思います。

【荻野】 たいへん興味深い研究であると思います。個別の働く方にとって問題になってくるのは、自分がどのように評価されるかということだと思います。その人にとっては自身の評価がすべてですから、何がどのように評価されたか感じ方によって変わってくると思います。要するに、一般的には長時間労働が成果や生産性に結びつかないとわかったとしても、その人が、自分については長時間労働すれば成果が多く上がって、高く評価されるだろうと思えば、現実の評価がどう行われているかに拘わらず、その人は長時間労働をするでしょう。そういう意味で、統計的な傾向を研究されることは非常に有益だと思いますが、必ずしもそれがひとりひとりの働き方に直結するかどうかは、また別の問題ではないかという感じがいたします。

【質問者 2 】 私も今年から子育てしていまして、妻も働いております。例えば厚生労働省や役所でも長時間労働が横行し、子供を生んでも共働きだと家庭崩壊だし、片働きだと一人分で子供を養い家計を支えるのは苦しいなどという話を聞きますが、この点について宮野さんからライヴな意見が聞ければ非常に勉強になるのですが。

【宮野】 まず、隗かいより始めよといいますが、一言で申し上げれば、全く隗より始めていないという状況です。国家公務員の育児休業の取得率は、平成 14 年、一般職の女性で 90 %です。ですから女性に関して言えば、民間が 64 %ですのでかなり高い数字になっています。一方、男性については 0.5 %です。民間が 0.3 %ですから、男性については国家公務員の職場も民間企業の職場もほとんど変わらないという状況です。

私もここに来て、仕事と家庭の両立の推進等々言っておりますけれども、現実に自分の職場がどうなのかといえば、仕事と家庭の両立は非常に困難であると思っております。

【質問者 3 】 荻野さんにお伺いします。先ほどの両立支援策の中で、考課・昇格に関する考え方の明示というお話がありました。例えば時短を何年とった社員は給与が何割とか、そういう形で決めるわけにはいかないと思いますが、どのような形で明示されているのか例を挙げて教えていただければと思います。

【荻野】 明示と申しましても、実はこの資料に記載されたものが基本的にすべてです。例えば、勤務時間を短縮した分は時間割りで賃金が減るとか、育児休業中は無給だけど育児休業給付が出る等の決まりは別にありますが、考課・昇格に関する限りこれがほぼすべてです。ですから、ここに書いてあるとおり、能力発揮の機会や業務の成果が減ればその分評価は低いものになります。ただし、通常勤務に復帰した場合は、またその時点の実力あるいは努力成果、いろいろな評価内容がありますが、そうしたものによって評価をしてまいります。

休職によって相対的に能力の向上に支障があった場合は、当然、復帰後その影響が出る可能性もあり、そのような場合には、それに応じた評価になります。昇格等に関しても同様です。また、復帰後の評価については従業員からの要望があればフィードバックしております。

【今田】 本日のテーマである仕事と家庭生活との両立という問題は、これまでも様々なところで扱われてきたテーマですが、特に企業サイドでこの問題にどのように取り組むかということは非常に難解といいますか、それぞれの企業に置かれた状況によって取り組み方に違いがあるわけです。したがって一律的な方向を示しにくい問題でもあります。ただ、少子化の進展があまりにも深刻なため、従来の少子化対策の総仕上げとも言うべき次世代育成支援対策推進法が、ある意味、両立支援の追い風になっていくものと思われます。

本日のフォーラムでは、すっきりした結論にまとめることはできませんでしたが、講師・パネリストの方々から有益な情報と議論を展開していただき、少しでも皆様がこの法律を積極的に受け止めていただき、行動に移す際のお役に立てれば幸いです。長時間にわたりご清聴、ありがとうございました。