事例報告:第4回労働政策フォーラム
仕事と家庭生活の調和
—次世代育成支援対策推進法の成立をうけて—
(2004年6月29日)

開催日:平成 16 年6 月 29 日

※無断転載を禁止します(文責:事務局)

配布資料

事例報告 1 「企業における取組み」

株式会社イノス 芹川 哲朗

株式会社イノス ロゴ

会社概要

企業における取組み

私どもの株式会社イノスは、いわゆるソフトハウスでありまして、熊本と福岡を中心にビジネスをしております。 1985 年 6 月に設立して今年で 20 年目を迎えます。従業員は 100 名程度の小規模企業ですが、熊本にもこのような企業があるということが皆様のご記憶に残れば幸いです。

2004 年 6 月 1 日現在の社員構成は、男性 68 名、女性 39 名、全体で 107 名。平均勤続年数は男性が 8.8 年、女性が 5.3 年で、全体では 7.5 年になります。システム開発の会社ですので、システムエンジニアが 104 名おり、残りの三名が総務関係と、単一職種の会社です。その結果、人事労務政策は、ある意味でやりやすい部分があります。女性 39 名の中で結婚している者は 11 名と、だいたい三分の一が既婚者であります。

両立支援制度への取組みの理由

私どもが両立支援制度の取り組みを始めた最大の理由は、一つは情報処理サービス業界の特徴として、人を育てるのに時間がかかる、いわゆる教育投資が結構かかるということが挙げられます。それから、スキルが会社よりも個人に残り、ある意味で転職がしやすいので、いかに雇用の継続を高めるかということが非常に重要になってきます。

九州という地域は、男性の職場はそれなりにありますが、四年制大卒の女性の職場が少ないという現状があります。採用の募集には、多くの優秀な女性が試験を受けにきます。ところが採用すると、途中で結婚・出産という理由でどうしても退職してしまう人が出てきます。会社としては、せっかく確保した人材ですから、いかに継続雇用させるかということを考え、両立支援の取り組みを開始したわけです。

もう一つ、私どもの会社の特徴として、同じお客様からの仕事の継続率が 80 ~ 90 %と高く、顧客の固定化が図られております。したがって、結婚している女性でもずっと同じお客様を担当していくことにより、お客様から安心感を持っていただけます。それから、定着率が男女間でそれほどの開きがなくなってきたというのが私どもの取り組みの理由です。

制度導入の系譜と政策・法律

表( 「 制度導入の系譜と政策・法律 」 )をご覧いただきますと、当社の制度として 1992 年に育児休業及び育児に伴う短時間勤務を導入しております。その後、 97 年には介護休業及び介護に伴う短時間勤務を導入し、また 99 年からポジティブ・アクションの取り組みを開始しております。 2002 年には男女雇用機会均等推進企業の熊本労働局長賞を受賞いたしまいた。表の右側が政策・法律の年表で、だいたい国の政策の一~二年後に当社の企業内制度を導入しております。

育児休業及び短時間勤務制度

育児休業及び短時間勤務制度の 表 がありますが、育児に関しては満 6 歳に達するまで短時間勤務を取得できますが、今年度中には小学校 2年生までに制度の拡張を考えております。短時間勤務の労働時間については 1日平均 5時間になりますが、 2歳児と 4~ 5歳児の子育てでは働ける時間が変わってきますので、 1日 6時間勤務とか六時間半勤務とか、その人の状況に応じた勤務形態を選択できるようになっております。 介護休業に関しては、 3カ月を 1回として 4回、計 1年間取得できる制度になっています。ただし、介護に関しては育児と異なり、いつまで時間を要するのか判らない部分がありまして、実際の運用としては 1 年以上の介護を認めているケースもあります。

制度の特徴

当社ではパートは一切採用しておりません。従いまして、短時間勤務や休業制度はすべて正社員に対するものです。システムエンジニアという仕事は、チームのなかで各自の作業が分担されますので、その人が何時間勤務するかは個人のペースに合わせて体系をつくっております。ある意味で利便性が高い仕組みということになります。

それから、短時間勤務や休業制度は、基本的にある一定期間が経ったらフルタイムに復帰することを前提にしております。育児休業は子どもが満一歳になるまでの期間です。 2年、 3年という企業もあるかと思いますが、システムエンジニアの場合、現場を 3年間離れると逆に復帰できないのではないかと考えます。

したがって、育児休業に関しては満一歳まで、その後は育児をしながら短時間勤務を継続して、最終的に育児が終わればフルタイム勤務に戻ってもらう。短時間勤務制度はこのような位置づけをしております。

制度の利用実績

制度の利用実績( 資料 1 )については、育児休業が 1992 年から 2003 年までに 14 人、介護休業が四人、短時間勤務が合計 35 人になっております。育児中の従業員で通勤が困難な者がおりましたので、在宅勤務制度も 97 年から導入し、利用人数は延べ 9 人になっています。 92 年度に短時間勤務を選択した二人の従業員に関しては、当時の規定により子供が小学校に入学するまでとなっておりましたが、実はたまたまその従業員には子供が三人おり、一番下の子供がまだ四歳ぐらいなので、まだ短時間勤務を継続中ということになっています。

企業にとって一番厳しいと思われる点は、短時間勤務の期間が二、三年という短いものでなく、子供が二人いる場合には合わせて 10 年近く継続しますから、それに対してどのようなサポートをしていくのか個別の対応が求められるところです。延べ 35 人が短時間勤務制を利用していますが、この制度を利用した者で退職した者は一人もいません。育児休業を取得し短時間勤務を利用している者は全員、現在も仕事をしております。

退職者数

資料( 2 )は、 1998 年から 2003 年までの退職者数です。表の右側が比率になっており、男性が 2.7 %、女性が 4.4 %、全体の退職率は 3.3 %と、情報処理サービス業界では、かなり低い数字かと思います。この制度を導入した結果、女性はもちろん男性についても以前より退職率がかなり減っており、育児中の女性社員のだけの制度ではなく、総合的な人事・労務政策として有効な手段かと考えられます。

制度の運用に必要な要素

仕事と育児の両立制度は作ること自体はそれほど難しいことではないのですが、大切なのはやはり本人の意欲と能力です。技術系の会社ですから、ただ出社していればいいというものではありません。ほかのメンバーに技術的についていくためには、それなりの努力も必要になるので、本人の意欲というものが非常に大事になってきます。

それから周囲の理解も重要です。制度導入から十数年たっていますが、最初の 5,6年間は、職場によって利用率が高いところと低いところがありました。なぜかというと、上司や同僚の理解に差があったからです。会社の制度として存在しても、所属している部署によっては取得しづらいと感じている人が潜在的にいたということです。ですので、制度を利用しやすいものにするために、会社のトップが強い指導力を持って所属長の理解を促すことが必要でした。周囲の理解があって初めて制度を利用しようかと考えるのです。例えば、ある日、突然、子供が体調を崩したといって社員が休むとします。そして 3日休んだ後、出社した時に、周りがどのような言葉をかけるかによって、「もう辞めよう」と思う人もれば、「頑張ろう」と思う人もいる。ですから、周囲の理解というものが継続するかどうかに関して非常に大切なポイントになります。

さらに、取引先の理解というものも挙げられます。システム開発をやっておりますと、お客様の作業場所に赴いて仕事をすることがありますが、妊娠中の女性社員の場合は、作業場所を禁煙にするとか、 6 時間勤務を認めていただくなど、そうした理解のある顧客企業がいらっしゃってその女性社員は仕事を続けられる部分もありますので、取引先の理解も大事です。

最後に、個人的な感想を申し上げさせていただきますと、優秀な人材をいかにして採用するかというのが中小企業にとってより切実な問題であります。短時間勤務で 5 時間の仕事をしてさっと帰る、そういう人たちをきちっと評価することは、私どもが考えている成果重視型の評価制度と基本的に同じ方向にあると思っております。そのことが、当社が両立支援に積極的に取り組んでいる一番の理由です。

【今田】 育児休業や短時間勤務、在宅勤務などの制度の利用者のうち男性社員はどのぐらい含まれているんでしょうか。

【芹川】 残念ながら男性はゼロです。ただ私どもでは、社員の 2 割ぐらいは社内結婚で結婚後も継続して勤務しております。ですから、子供が病気になった場合、母親の仕事が忙しいときには父親を休ませており、そのようにして両立を図っているつもりです。

事例報告 2 「次世代育成支援対策推進法の成立をうけて」

トヨタ自動車 (株) 荻野 勝彦

自動車

トヨタ自動車におけるダイバーシティ・プロジェクト、それから日本経団連の提言、そのあと幾つか議論していただくための問題提起なども含めてお話しさせていただこうと思っておりますが、すべて私の個人的な見解でして、会社や団体の公式見解ではありませんので、予めお断りしておきたいと思います。

1.トヨタ自動車のダイバーシティ・プロジェクト

基本的な考え方

当社のダイバーシティ・プロジェクトというのは、必ずしも仕事と生活の両立にリンクするものではありません。私どもでは、多様性の尊重を経営理念や中期経営計画の中で謳っております。そこで、一番身近な多様性である「女性」や「女性の働き方」に着目した会社のマネジメントの変革により、組織を強くし競争力の源泉を保とうということで始まったものです。

仕事と育児の両立支援

まず、女性従業員 200人からヒアリングを実施し、取り組むべき柱を三つ設定いたしました。

(1)仕事と育児の両立支援

第一の柱である仕事と育児の両立支援では、主な取り組みが 3つあります。

まず、育児休職期間の延長で、子どもが 2歳になるまで取得可能にいたしました。資料(「育児休業取得者の推移」)をごらんいただきますと、1999年に 82人であった育休取得者が 2003年には 174人に増加しております。平均取得期間も 12カ月を超えており、また、男性も 9名が取得しております。

2点目が事業所内託児施設の設置です。2003年に定員 25人で託児所を開設しました。先行された他社の事例などを拝見して、それほど多くの人が利用しているわけではないという状況を把握しておりましたので、若干、小規模でスタートしたのですが、幸いにして事前の説明会に定員の 3倍ほどの人が参加し、開設と同時にほぼ満員になるような状況でした。2004年の 4月には、定員70人で2号店をオープンし、合わせて 100人はお預かりできる体制を整えたところです。託児対象者は小学校就学まで、7時 30分から最長22時30分までの延長保育により相当の残業にも対応します。少し風邪を引いて熱がある程度であれば、体調不良児ということで預からせていただいていますし、現場が交代制勤務をしている関係で事務所でも祝日出勤がありますので祝日の保育にも対応しております。施設には、天気の良い日は外で遊べるように結構広い芝の庭があり、ピジョン(株)の専門的なノウハウを導入して、中もなるべくオープンスペースな設計になっております。

3点目の両立支援策として勤務時間の柔軟化が挙げられます。これは職種によって若干制度の設計が異なっておりますが、基本的には4時間までの短縮勤務が可能であり、子どもが 2歳から 3歳時まで利用できます。制度を導入してから今年の 4月までに 54人が利用しております。それから、フレックスタイム制のコアタイムの除外を 34人(うち男性2人)が利用しています。部分的在宅勤務とは、8時間の就業時間のうち何時間かは家に持ち帰って仕事をしてもよいという制度ですが、この利用者が 2人(うち男性1人)います。満足とは参りませんが、まずまずの利用状況ではないかと評価しているところです。

従業員からは、育児休業あるいは勤務時間短縮が考課・昇格にどのように影響するのか心配である、だから取得できないという意見や、休むことによって職場に迷惑をかけるのではないかと心配する意見もありましたので、会社の考え方を明確に説明し、またできる限りの範囲での要員補充をしております。このように、会社側の考課や昇格に対する考え方の明示、休職・勤務短縮期間中の要員補充というサポートも相まって、育児休業の取得が伸びていると思われます。また、年 5日間の看護休暇制度も、この時に併せて導入したところです。

(2)女性専門職のキャリア形成支援

取り組みの柱の二つ目は、女性のキャリア形成支援ということです。本日の話とは直接は関係ないかもしれませんが、育児をしながら仕事を続けてどのようにキャリアを築いていくのか心配したり、あるいは何らかの情報が不足したりする場合、キャリア形成に関する支援にも取り組んでおります。

(3)風土・意識改革

三つ目の柱である風土・意識改革についてはキャンペーンを全社的に展開しています。リーフレットあるいはこの趣旨を織り込んだビデオを配って見てもらうといったように、PRに努めています。あわせて、管理職にしっかり承知してもらうことが大事なので、管理者教育にも注力しています。

先ほど申し上げた考課・昇格に関する考え方の明示に関しては、休職や勤務時間短縮により能力発揮の機会が減り、成果が落ちてしまう場合は、評価も低くなることを伝えます。ただし、復帰後、またその時点での実力に応じて評価を行います。休職したからといって、いつまでも評価に響くということはなく、長い目で見れば、例えば 30年の勤続期間のうち半年ぐらいの休職はそれほど重要な損失にはならないという見方が大体の傾向かと思っております。もちろんひとりひとりの受け止め方が違うと思いますので、常に従業員に対して会社側の考え方を明示していくことが肝要だと考えます。

2.子育て環境整備に向けて

日本経団連提言の概要

次に、日本経団連が 2003年 7月に公表した「子育て環境整備に向けて」という意見書がございます。この意見書の取りまとめに当たり、私も部会に参加し若干の関与をしておりますので、一部ご説明させていただきたいと思います。

まず、子育て環境整備は社会全体、個々の企業にとって必要な取り組みであるという基本認識を述べております。先ほど来お話がありましたように、企業にとっては、新たな価値の創造、企業競争力の向上を支える人材を確保することにつながるということで、これは大変メリットがあり重要であるという考え方であります。企業の取り組むべきことは両立支援であり、それは意識改革、制度面の整備という 2つの側面からアプローチするということで、私どものダイバーシティ・プロジェクトもだいたい同じような考え方に立っているわけです。

次に、社会全体として何をやっていくかということについては、保育サービスの充実への取り組みが必要不可欠であるということを意見書では述べております。育児休業の導入については既に義務化され、法定以上の制度を導入している企業が 2割近くあリます。一方で、芹川さんのお話にもありましたように、休業によりキャリアが中断される、あるいは技能が陳腐化する、そうした観点から早期に就労したいという人への支援は果たして十分でしょうか。待機児童ゼロ作戦を進める傍らで、待機児童は増えている。実際にはおそらくそれ以上の潜在的需要があるのではないかと言われており、保育の取り組みが必要なのではないかということです。

3.いくつかの論点

人事担当者としての心情

いくつかの論点ということで、主に産業界、経済界の立場から申し上げたいと思います。

「心情」という言葉を使いましたけれども、要するに仕事と生活の調和ということに対して、私たち人事担当者はどのような気持ちを持って取り組んでいるのかということを申し上げたいと思います。いま経済界の中でも「CSR」という言葉がしきりに使われて流行しております。両立支援や次世代育成支援を企業の社会的責任という見地から論ずべきだと主張する人事担当の方もおられるかと思いますし、「社会的責任」あるいはもう少し積極的な意味で「社会貢献」として両立支援は大切であると認識しておりますが、人事担当者としては、両立支援や社会貢献に取り組むことが、企業組織・従業員双方の活性化、利益をもたらすものであり、ひいては株主にも貢献するものである、という考え方を持ち続けたいと考えます。「わが社は社会貢献のためにあなたの育児を支援している」と言われるより、「あなたの育児を支援することが会社にとっても良いことであり、会社の業績にもつながる」というスタンスを示した方が、働く側にとっても意欲が高まるのではないでしょうか。

確かに企業の次世代育成支援に果たすべき役割は多々あろうかと思いますが、やはりこの問題における最大の役割は、付加価値を創造し、雇用を創造し、次世代育成支援の経済的基盤を提供することではないだろうかというのが私の率直な感想であります。したがって、「企業が次世代育成支援の主役なのか?」というのは、そうした意味における疑問だとお考えいただければと思います。

いくつかの疑問

具体的な疑問を幾つか呈させていただきますが、例えば、少子化対策プラスワンでは、育休取得率「男性 10%、女性 80%」という数値目標が掲げられておりますが、果たして 80%の女性に育休取得を求めることが良いのでしょうか。ある意味、80%というのは妥当な数字なのかもしれませんが、企業、産業あるいは職場によって事情が違うなかで、一律 80%という数字で本当に良いのか、若干疑問を感じます。

ご承知のとおり、経済界は、次世代育成支援法の成立の際にかなり反対をしておりました。ただし、次世代育成支援そのものに反対を唱えていたわけでは毛頭ありません。日本経団連の提言にもありますが、株式会社イノスのように、既に多くの企業で次世代育成支援というものを積極的に取り入れております。企業は自らの利益を上げるため、企業価値を高めるために次世代支援育成を導入するわけですから、行政の介入は最小限にとどめていただくのが企業活力を引きだす最善の道ではなかろうかと思う次第であり、それが産業界の反対した最大の理由だったわけです。

また、次世代企業育成の行動計画策定が義務付けられますが、行政の広報を拝見すると非常に多大な期待を寄せていただいているようですが、本当に企業がそこまでお役に立てるものだろうかという感じがします。少子化対策プラスワンでは、男性も含めた働き方の見直しが必要で、家庭よりも仕事を優先するという働き方の見直しが重要だと言われています。そのとおりだろうと思いますが、一方的に企業に責任が負わされ、企業が批判の矛先になっている感があります。確かにそのような実態が一部にあるのかもしれませんが、育休を取りたい、あるいは育児時間を取りたいといった時、却下するような人事部長や社長はほとんどいないと思います。実際、何の摩擦もなく申請が認められるということも場合によっては難しいこともあるかもしれませんが、しかし、摩擦があっても取るか取らないかという決断は、最終的にはキャリアとの兼ね合いといったことも含めてひとりひとりの心の中にあるものではないかということがもう一つの問題提起です。

最後に、次世代育成支援は企業にとっても必要な取り組みであり、ぜひ推進していくべきだということに大いに共感していることをもう一度申し上げて終わらせていただきたいと思います。