事例報告 「職場のパワーハラスメント」事例

皆様方におかれましては、日ごろから労働行政へのご理解、ご協力をいただいておりますことに感謝申し上げます。ご存じのとおり労働政策総合推進法が改正されまして、いわゆるパワハラ防止について、雇用管理上の措置が企業に義務づけられました。具体的な内容につきましては、近日中に発出される指針、ガイドラインで明確になります。発出され次第、東京労働局のホームページにアップをし、今後は説明会等を開催して周知に努めてまいります。

それでは、私からは昨年度に東京労働局で扱いました個別労働紛争解決制度のあっせん、助言指導の事例3件を説明いたします。あっせんとは、労使双方の主張の要点を確かめて、中立的立場であるあっせん委員が両者に対して具体的なあっせん案を提示します。もう一つ、助言指導というのはあっせん委員ではなくて、都道府県の労働局長、東京でいえば東京労働局長がその労使の紛争の問題点を指摘して、解決の方向性を示す。そして、自主的な解決を促進するといった制度です。パワハラについては、今までは法的根拠はなかったわけですから純粋に民事の問題としてこの個別労働紛争解決制度で対応しておりました。

法的根拠を持ったことにより、国(労働局)はどのようなことができるのか

いわゆる均等三法、男女雇用機会均等法、育介法やパート有期法にあるスキームを、パワハラも法制化されたことによって、使えることになりました。報告徴収は、法律違反があった場合に、国が会社に行くなり呼び出すなりして、会社に必要な指導ができるようになった。紛争解決援助制度は、企業内での自主的解決を原則とするものの、当事者間での解決が困難な場合には、行政による紛争解決援助制度の利用が可能になったものです(図表1~2)。

図表1 行政指導(報告徴収の概要)

行政指導(報告徴収の概要)(詳細は配布資料3ページ参照)

参照:配布資料3ページ(PDF:752KB)

図表2 紛争解決援助制度の概要

紛争解決援助制度の概要(詳細は配布資料4ページ参照)

参照:配布資料4ページ(PDF:752KB)

では、事例の紹介をさせていただきます。

事例1 あっせん事案(化粧品販売業)

このケースは1年契約で営業事務に従事する労働者が、働き始めて4カ月ほどで上司である営業担当者からパワハラを受けたという事案です。

(パワハラの内容)

1.情報の共有がなされないまま業務指示が出され、背景や理由の説明を求めたところ、とにかくやってくれと大声で指示をされた。

上司がこの申請人に業務上の指示をすると、労働者が何でですか、なぜそれが今必要なんですかというようなことを聞いてくるタイプの労働者だったようです。上司もこの事案では最初のうちは労働者に対して指示の内容を説明していました。ただ、指示するたびにそういうことを言われるのでだんだん面倒くさくなり大声で指示するようになってしまったということです。

2.話しかけても無視する。

これは説明を求められるので面倒くさくなり、何か言われたり、聞かれたりしても答えなくなったということです。

(会社の対応)

この会社にはパワハラに関する規定というのが設けられておらず、初めてだったとのことで、どのように対応すべきかがわからなかった。ですから、自分のところにいる顧問税理士からハラスメントに明るい社労士を紹介してもらい、その社労士と人事担当者で対応を検討したということです。相談者の強い希望で匿名により調査を行いましたが、パワハラとまでは断定できず、しかしそのおそれがあるとして、取り組み方針を検討することとしたということです。当然加害者である上司から話を聞いていますが、匿名の調査ですから、なかなかうまく聞けなかったということでした。この上司が労働者に対してどのような表現をしたかというのは、特定できないまま進めて、コミュニケーション不足があったことだけがわかったということです。

(相談者の対応)

会社と今後についての話し合いも進めていたが、相談者は、精神的な不調を来していたこともあり、会社の取り組みが自身の思うように進まない中、退職勧奨されたとして退職しました。ここに退職勧奨の事実には争いありということで、会社は全面的に否認しています。初めてのケースでしたので、社長がこの労働者と今後のことについて直接話し合いを行っています。ですから企業としてはそれなりにルールがない中で考えて、社長みずから話し合いに応じたということですが、退職勧奨は全くしていない、要は勝手に退職したということというのが社長の言い分です。

(あっせん申請の内容)

パワハラに対して会社が十分な対応をしないまま、退職勧奨を行ったことにより就業不能になったことから、経済的、精神的な保障として残余期間の賃金補償を1年求めました。問題が起こったのは4カ月後ぐらいで、5カ月分の賃金をもらっていたので、残りの7カ月分を請求したということです。

(あっせんの結果)

会社は相談を受けて可能な限り取り組みを進めたこと、また、退職勧奨を行った事実もないので申請内容としては失当だと主張しています。そうはいっても早期の解決をしたいと会社側も思っていたので、会社が約2カ月分の賃金補償を行いたいと提案して、労働者もそれに合意しましたので、2カ月分を払って退職ということになりました。

これは紛争が発生した時点でパワハラの規定がなかったのでこういった事案になってしまいましたが、もちろんこの時点では法律上、パワハラ防止について何かしなきゃいけないというものがなかったわけですから、これはこの個紛制度を使ってやるしかなかったわけで、一応は合意に至ったという事例です。

事例2 あっせん事案(カラオケ運営会社)

カラオケ運営会社に入社して2カ月ほどで店長の異動があり、異動してきた店長によりパワハラを受けるようになった事案です。

(パワハラの内容)

1.所属長からの高圧的対応。具体的には口調が高圧的だった。

このカラオケ店では労働者に対して、飲み放題のコースを1人5件とれというノルマがあったとのことでした。会社は否定しています。今回は労働者が資料としてメールのやりとりを持ってきました。実際5件というのはこの労働者にとっては厳しかったようです。とれなかったことを報告すると、何で5件ぐらいとれないんだ、何件ならとれるんだというやりとりで、2、3件なら頑張りたいですと言ったら、2、3件とれないんだったら謝罪文を送信しろ、そういったメールのやりとりがあったとのことです。

2.体調不良によるやむを得ない欠勤であったにもかかわらず、今後出勤シフトの変更は認めないと対応された。

ある日この労働者が風邪を引いて出勤できなくなったと親から連絡してもらったそうです。親を介してのやりとりも一部あったので、不明確なところはありますが、出勤シフトの変更は認めないと言われ、もう明日からは絶対休めないと労働者は思って、精神的にだんだん追い詰められていったということです。会社側の言い分としてはその翌日のシフトが厳しいので、可能なら出勤してほしいと言った程度ですとのこと。このカラオケ店は結構大きい企業で店舗があちこちにあります。もし労働者が出られないとしても、最悪の場合はほかのスタッフに頼めばいいし、ほかの店舗から近くの店舗に応援を呼ぶことも十分可能なので、その労働者が言っているように絶対認めないと言うはずがないというのが会社の主張でした。

3.業務終了後、深夜時間帯に所属長、店長から業務に関する注意が行われた。

これについては会社側の調査の結果、確かにメールのやりとりの時間帯を調べたら、店長はそういうことをやっていました。ですから、これについては認めて店長に必要な指導をし、深夜及び休日については業務上のメールをしないようにというような指示をしております。

4.重労働を申請人のみに行わせる。

これについても会社は全面的に否認しております。言い分としては重労働で多くの例を挙げていますが、その1つにビールケースの運搬がありました。会社側としてはビールケースの運搬というのは一人でやってもらっているからということでしたが、自分だけやらされていると感じたのではないか、別にほかの人もやっています、ということでしょう。

そのほかには清掃作業があり、カラオケ店ですとお酒飲みながら使っているところが多いので、トイレは結構汚れますので毎時間掃除をしております。何もそれは今回の労働者に限ってではなくて、シフトに入った人はみんな順番でやっている。これについては何時に清掃しましたと書く欄があり、それを会社側は持って労働局に提出しておりました。これだけの労働者がやっていますので本人だけではありませんというような反論をしております。

(会社の対応)

会社にはハラスメントの通報窓口が設けられており入社時の研修の時にも案内されていました。これが先ほどの会社とは大分違うところとなります。この会社は規模もでかいですし、さらに過去にパワハラの案件が結構あります。パワハラだけではなくてセクハラもです。アルバイトで若い女性が多いということもあり発生していた過去があったので規定はしっかりしております。それから、研修も定期的に実施していました。その下、全社員を対象にコンプライアンス研修を実施しており、研修の中でハラスメントの事例や対応方法を研修しているとのことでした。アルバイトが多く、出入りが激しいため、四半期ごとに1回やっているとのことです。事例も変え、内容も見直ししているそうです。

今回は申請人からハラスメント相談窓口への相談はなく、あっせん申請により初めてハラスメントに関する申請人の主張を確認したとのことです。あっせんを東京労働局に申し出たわけです。当然労働局は会社側に通知を出すので、それで本人の主張内容を把握したことになります。相談窓口があり、それに対するお知らせもして、研修もしているのになぜ相談者は相談窓口を使用しなかったのか。これについて申請人に聞いたところ、あんなの使ったって意味がない、要は店長というのはある程度年もとっていて、この会社に長年貢献しているわけです。その人と入ったばかりの自分を同等に扱ってくれるはずがない、そんなところに相談したって無駄です、要は信用していなかったということです。中立性が保たれないため、相談しなかったということでした。

申請人が主張するパワハラについて調査を行ったところ、会社としてはパワハラと認められるような事実は確認されなかったと結論づけています。労働局で扱う事案はこのパターンがかなり多いです。会社はちゃんと調査しました、だけど、その結果としてパワハラとは断定できませんでした、適正な指導でした、指示でしたということになるんでしょう。そういうケースが圧倒的に多いです。

(あっせん申請の内容)

パワハラにより退職せざるを得ない状況に追い込まれたことから、経済的・精神的な補償として3カ月分の賃金補償を求めるという内容になっています。

(あっせんの結果)

会社はハラスメントの相談窓口の設置や全社員に研修を実施するといったハラスメント対策を講じており、申請人の主張するハラスメントを調査した結果、それを確認できなかった。要するに会社に落ち度はないと言っております。会社に落ち度はないと思いつつも、国が間に入ったこともあり有給未消化分を解決金として払う用意はあるとのこと。この会社は入ったらすぐに10日与えているようで、この付与分10万円弱を払う用意があると話をしていました。これに申請人は納得せず、合意には至っておりません。

事例3 助言・指導事案(IT関連会社)

ITの関連会社に入社して7年ほどのプログラマーですが、社長から直接指示を受けているような体制で、社長が何かというと大声でどなって指示をするということです。

(パワハラの内容)

社長からどなり声で指示される。

社長は否認しています。担当役員に大声を出すこともあるけれども、申請人に直接大声を出すことなんか一度もないと言っています。これは指示の内容としては人格否定の表現とかは一切なく、ほんとうに業務上の指示ということです。ただ、声がでかいということです。こういう人はいると思うんです。育てようとして怒鳴るのと、感情的になって怒鳴ることの違いは、相手もわかるんです。今回は労働者が、相手が感情的になっているだけだと思ったんだと思います。

(助言の内容)

一般に職場におけるハラスメントにより体調不良となれば、労働契約法5条の安全配慮義務の考え方によって、会社としては民事的な責任を問われることがあるので、ちゃんとした配慮を検討してはどうかと助言しています。要は社長直接の組織とはいえ、担当の役員がいるので指揮命令系統を社長直接ではなくて、担当役員を通して指揮命令するようにすることという助言をしています。もう一つ、職場の変更により申出人が求めている労働環境の改善を図ることを検討してはどうかと助言しました。

(助言の結果)

労働局長の助言を踏まえてそのようにするということで、労使で話し合った結果、労働者の意向もあり配置がえになったという事案です。

プロフィール

戸谷 和彦(とたに・かずひこ)

東京労働局 雇用環境・均等部指導課長

1986年労働基準監督官として任官。長野労働局松本労働基準監督署を皮切りに各地方労働局及び労働基準監督署勤務を経て、2014年に長野労働局上田労働基準監督署長、2016年に東京労働局労働基準部監督課統括特別司法監督官に就任。2018年より現職。現在は主に働き方改革による労働環境の整備、雇用形態に関わらない公正な待遇(同一労働同一賃金)の確保、総合的ハラスメント対策の一体的な実施、個別労働関係紛争の解決の援助等の業務に携わっている。

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